説明

アルミニウムのろう付け方法および該ろう付け方法により製造されるアルミニウム熱交換器用偏平チューブ

【目的】チューブ材とインナーフィンとをろう付け接合して、アルミニウム熱交換器用偏平チューブをろう付けにより製造する際の接合性を向上させることを可能とするアルミニウムのろう付け方法を提供する。
【構成】アルミニウム合金の芯材の片面に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の厚さ5μm以上のクラッド層を有するアルミニウム2層クラッド材のクラッド層が内面となるように成形したチューブと、Si7.5〜12%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウムインナーフィン材を、前記Al−Si系合金のクラッド層とAl−Si系合金ろう材とが当接するよう組み付けて、ろう付け接合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムのろう付け方法、とくにフッ化物系のフラックスとAl−Si系合金ろう材を用いて、不活性ガス雰囲気中でろう付けする自動車熱交換器のチューブ材などのろう付け方法において、特定量のSiを含有するAl−Si系合金のクラッド層を有するアルミニウムクラッド材をろう付け部位に使用して、優れたろう付け性を得るアルミニウムのろう付け方法および該ろう付け方法により製造されるアルミニウム熱交換器の偏平チューブに関する。なお、アルミニウムにはアルミニウムおよびアルミニウム合金を包含する。
【背景技術】
【0002】
ラジエータ、ヒータ、コンデンサ、エバポレータなどのアルミニウム合金製自動車用熱交換器の製造においては、一般に、所定形状に成形したアルミニウムの板材や押出形材を所定の構造に組付けた後、フッ化物系のフラックスを使用し、不活性ガス雰囲気の加熱炉内でろう付け接合する方法が採用されている。
【0003】
近年、自動車用熱交換器においては、省エネルギー、省資源の観点から構成材料の薄肉化が進展しており、構成部材のチューブ材、フィン材なども薄肉となっている。図1に示すように、チューブ材1およびその内面側に接合されるインナーフィン2をアルミニウムの板材で構成する場合、従来、その製造は、例えば、内面側にろう材をクラッドしたチューブ材と裸材のインナーフィンをろう付け接合することにより行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この場合、チューブ材が薄肉であるため、クラッドされるろう材量が少なく、また、インナーフィンの成形時、フィン山の高さにバラツキが生じ、これに起因して、図1に示すようにチューブ材の内面とインナーフィンとの間にクリアランスd1 が生じて接合不良の原因となるという問題がある。接合不良は、熱交換性能も低下を招き、チューブ材が薄肉の場合には、チューブの耐圧強度が著しく低下することとなる。
【0005】
チューブ材とインナーフィンとの濡れ性を向上させるために、フラックスの塗布量を増加させることも行われているが、フラックスの塗布量を増加させると、図2に示すように、チューブ材1とインナーフィン2の組付け時に、フラックス3の塗布厚さd2 分だけインナーフィン2の山高さが低くなって、ろう付け時にチューブ材とインナーフィンとのクリアランスが増加して接合不良が生じる。
【0006】
内面側にろう材がクラッドされていないチューブ材と、両面にろう材を有するブレージングシートからなるインナーフィンとを組付け、ろう付け接合する方法もある(例えば、特許文献2参照)が、前記内面側にろう材をクラッドしたチューブ材と裸材のインナーフィンをろう付け接合する場合と同様の問題がある。
【0007】
内面側にろう材をクラッドしたチューブ材と、両面にろう材をクラッドしたブレージングシートからなるインナーフィンを組付けて、ろう付け接合性を改善することも試みられているが、この場合には、接合性は良好となるが、接合部でのろう材量が過剰となるため、ろう付け時、インナーフィンの溶融座屈を招き、図3に示すように、チューブ材1のろう材4とインナーフィン2のろう材5の合計厚さd3 分のクリアランスが生じて接合不良が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭59−50746号公報(請求項1、第2頁第4欄)
【特許文献2】特公昭62−2621号公報(第1頁、従来技術)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、チューブ材とインナーフィンとをろう付け接合して、アルミニウム熱交換器用偏平チューブを製造する場合における上記従来の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、特定量のSiを含有するAl−Si系合金のクラッド層を有するアルミニウムクラッド材をろう付け部位に使用して、ろう付け不良を無くし、接合性を向上させることを可能とするアルミニウムのろう付け方法および該ろう付け方法により製造されるアルミニウム熱交換器用偏平チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための請求項1によるアルミニウムのろう付け方法は、アルミニウム合金の芯材の片面に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の厚さ5μm以上のクラッド層を有するアルミニウム2層クラッド材のクラッド層が内面となるように成形したチューブと、Si7.5〜12%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウムインナーフィン材を、前記Al−Si系合金のクラッド層とAl−Si系合金ろう材とが当接するよう組み付けて、ろう付け接合することを特徴とする。
【0011】
請求項2によるアルミニウムのろう付け方法は、請求項1において、前記Al−Si系合金は、不純物としてのZnが0.5%未満であることを特徴とする。
【0012】
請求項3によるアルミニウムのろう付け方法は、請求項1または2において、前記Al−Si系合金のクラッド層中に分散しているSi粒子は、その最大粒径がクラッド層厚さの2/3以下になるよう微細化されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4によるアルミニウムのろう付け方法は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記Al−Si系合金のクラッド層中に分散しているSi粒子は、該Si粒子の粒径の正規分布の平均をμ、標準偏差をσとしたとき、(μ+3σ)の値がクラッド層厚さの1/3以下になるよう微細化されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5によるアルミニウム熱交換器用偏平チューブは、請求項1〜4のいずれかに記載のろう付け方法により製造されるチューブであって、アルミニウム合金の芯材の片面に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の厚さ5μm以上のクラッド層を有するアルミニウム2層クラッド材のクラッド層が内面となるように成形したチューブと、Si7.5〜12%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウムインナーフィン材を、前記Al−Si系合金のクラッド層とAl−Si系合金ろう材とが当接するよう組み付けられて、ろう付け接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チューブ材とインナーフィンとをろう付け接合して、アルミニウム熱交換器用偏平チューブをろう付けにより製造する際、前記の特定量のSiを含有するAl−Si系合金のクラッド層を有するアルミニウムクラッド材をろう付け部位に使用して、ろう付け不良を無くし、接合性を向上させることを可能とするアルミニウムのろう付け方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】チューブ材とインナーフィンを組み付けた場合の断面図である。
【図2】チューブ材とインナーフィンを組み付けた場合において、フラックス塗布量を多くしたときの一部拡大断面図である。
【図3】チューブ材とインナーフィンを組み付けた場合において、内面にろう材をクラッドしたチューブ材と両面にろう材層を有するブレージングシートインナーフィンを組み付けたときの一部拡大断面図である。
【図4】成形したブレージングフィンと2層クラッド板材の組み付けを示す略式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアルミニウムのろう付け方法において、ろう付け部位に使用するアルミニウムクラッド材は、アルミニウム材のろう付け面側に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるアルミニウム合金(Al−Si合金)のクラッド層を有することを特徴とするものであり、このアルミニウムクラッド材を使用することにより、ろう付け接合性が向上する理由は以下のとおりである。
【0018】
すなわち、本発明で使用するアルミニウムクラッド材のクラッド層を構成するアルミニウム合金は、ろう付け温度の600℃近傍においては、少量の液相が形成されるのみで、クラッド層内では部分的且つ不連続な溶融が生じる。溶融部はクラッド層内で三次元的な溜め池状態となり、表面の酸化皮膜が部分的に破壊され易くなる。
【0019】
一方、本発明で使用するアルミニウムクラッド材のクラッド層とろう付け接合されるアルミニウム材(相手材、以下同じ)のろう材面を構成するAl−7.5〜12%Si系合金ろう材は、ろう付け温度の600℃近傍では、その殆どまたは全部が液相となっており、その液相が上記クラッド層内の部分的な溶融部と接触すると、液相同士がつながり易くなり、さらに、つながった液相はその近傍の部分的な溶融部とつながり易くなって、周囲の酸化皮膜の破壊が促進し、その結果、濡れ性が向上するとともに、つながった液相は直ちに接合部へ移動して確実にフィレットを形成するため、接合性が向上する。
【0020】
また、Al−Si系合金ろう材は、ろう付け温度の600℃近傍での流動係数は0.45で程度であるのに対して、本発明のアルミニウムクラッド材のクラッド層は、ろう付け温度の600℃近傍では液相量が少ないため流動係数が低下し、流動係数が0.03〜0.2程度と大幅に小さくなる。従って、ろう付け時、ろうの流動が生じ難くなり、ろうの流失によりろう材厚さ分のクリアランスが形成されることがなくなるため、接合性が向上する。
【0021】
AlへのSiの固溶限は1.65%であり、1.65%未満のSi量では、ろう付け温度の600℃近傍まで昇温しても液相は生じないか、あるいは僅かの液相が生じるのみである。Si量が1.65%以上含有されると、Al−Si共晶反応により、577℃において液相が生じる。Si含有量が12.6%までの亜共晶組織においては、Si量の増加に伴って生じる液相量は増加し、また577℃以上で温度が高くなるほど液相量が増加する。
【0022】
Al−Si系合金ろう材は、Si7.5〜12%を含有するため、ろう付け温度の600℃近傍ではその殆どあるいは全量が液相となるが、本発明においては、当該ろう材面にろう付け接合されるクラッド層のSi量を2〜6%に限定することにより、600℃近傍での液相の生成を少なくしてクラッド層内に部分的且つ不連続な溶融部を形成し、前記のように酸化皮膜の破壊を促進し、フィレットの形成を確実にして接合性を高め、流動の低下により、ろうの流失によるろう材厚さ分のクリアランスの形成を防止して接合性が向上させる。
【0023】
本発明で使用するアルミニウムクラッド材においては、クラッド層を構成するアルミニウム合金に不純物として含有されるZnは0.5%未満に制限するのが好ましい。Zn含有量が0.5%以上では、Znが、ろう付け中に生じた液相とともに接合部へ移動し、このため、Znが接合部に濃縮し、その後の使用において接合部が優先的に腐食して、接合部の離脱が生じ、熱交換器の強度低下や熱交換性能の低下を生じ易くなる。
【0024】
クラッド層へのSrの添加は、ろう付け接合時のフィレット形成状態を良好にし、接合長さを増大させるよう機能するので、クラッド層を構成するアルミニウム合金中に0.005〜0.02%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0025】
クラッド層の厚さは5μm以上とするのが好ましい。5μm未満では、ろう付け時の昇温過程でSiが芯材方向へ拡散し、ろう付け温度において、クラッド層中のSiが前記固溶限の1.65%未満となり、液相が生じ難くなり、その結果、濡れ性の向上が達成できなくなる。
【0026】
本発明で使用するアルミニウムクラッド材においては、クラッド層を構成するAl−Si合金のマトリックス中にSi粒子が分散しているが、その最大粒径がクラッド層厚さの2/3以下になるよう微細化されているのが好ましく、また、Si粒子の粒径の正規分布の平均をμ、標準偏差をσとしたとき、(μ+3σ)の値がクラッド層厚さの1/3以下になるよう微細化されているのが好ましい。
【0027】
Si粒子が、上記の範囲に微細化されていることにより、ろう付け温度において生じる部分的溶融がクラッド層内で均一となり、相手材のろう材面を構成するAl−Si系ろう材の液相とつながり易くなって、より確実にフィレットが形成され接合性が向上する。
【0028】
相手材のろう材面を構成するAl−Si系合金ろう材とは、ブレージングシートのろう材、アルミニウム材に単体SiあるいはAl−Si系合金からなる粉末ろう材を単独またはフッ化物系フラックスと混合して塗布したもの、クラッド層とこれに接合されるアルミニウム材との接合部に置かれたAl−Si系合金の棒状、板状などのろう材を含む。また、相手材としては、Si2%を以上を含有するアルミニウム合金材であってもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を、相手材のろう材がブレージングシートである場合について、比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
表1に示す組成をそなえた3003合金の芯材の片面に、表1に示す組成を有するAl−Si系合金のクラッド層を有するアルミニウムクラッド板材を常法に従って製造した。各アルミニウムクラッド板材の厚さおよびクラッド層の厚さを表1に示す。アルミニウムクラッド板材について、最終圧延後に360℃で3時間の軟化処理を施した。
【0031】
得られたアルミニウムクラッド板材(2層クラッド板材)(クラッド材No.a〜f)について、それぞれ30箇所の任意断面を観察し、クラッド層中のSi粒子の最大粒子径を測定した。なお、粗大Si粒子の断面形状は殆どの場合矩形または多角形であるから、Si粒子の形状で最も長い寸法(注:例えば、矩形の場合には対向する頂点間の寸法)を粒子径と定義した。
【0032】
また、上記の断面観察により、クラッド層中のSi粒子の粒子径分布を測定した。この場合のSi粒子径の定義としては円相当径を採用した。測定されたSi粒子径分布に関して、粒子径を対数とする正規分布に近似し、分布の平均μ、標準偏差σを求め、(μ+3σ)を算出した。測定、算出結果を表1に示す。
【0033】
相手材として、表2に示す組成を有するA3003合金を芯材とし、両面に表2に示す組成を有するろう材をクラッドした厚さ0.07mmのブレージングシートフィン材(両面にクラッドしたろう材厚さはそれぞれ7μm)を常法に従って製造し、最終圧延後にフィン形状に成形した。
【0034】
2層クラッド板材を20mm×20mmの寸法に切断し、溶剤脱脂後のろう付け面に5g/m2 のフッ化物系フラックスを塗布した。成形したブレージングシートフィンを20mm×20mmの寸法に切断し、溶剤脱脂後、図4に示すように、ブレージングシートフィン6の両側(上下面)に、それぞれ2層クラッド板材7をクラッド層がブレージングシートフィンのろう材面と当接するよう組み付け、ステンレス鋼製の治具で軽く固定して、本発明のろう付け方法の試験材とした。
【0035】
試験材を窒素ガス雰囲気炉に装入して、平均昇温速度30℃/分で昇温し、600℃の温度に達したところで直ちに冷却して、ろう付けを完了させた。ろう付け加熱中の雰囲気を調整するために、炉内へ流す窒素ガス流量を調整し、雰囲気中の酸素濃度が高い場合と低い場合について試験を行った。
【0036】
ろう付け後の試験材について、フィン接合部の断面を観察し、フィレット形成状態、フィンとの接合長さ(注:0.40mmを越える場合は良好)、フィンの溶融座屈状態およびフィレットの切れ発生状況を調査した。また、フィン接合部について、JIS Z1271に準拠して4週間の塩水噴霧試験を行い、接合部の優先腐食の有無を観察した。調査、観察結果を表3〜4に示す。
【0037】
表3〜4にみられるように、本発明に従う試験材No.1、2、4、5、6はいずれも、ろう付け加熱雰囲気中の酸素濃度にかかわらず、接合長さは0.40mm以上で、接合部には十分なフィレットが形成され、フィンの溶融座屈やフィレット切れもなく、フィレットの優先腐食についても、試験材No.6に軽微な腐食が生じたのみで、試験材No.1、2、4、5には優先腐食は認められなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
比較例1
表5に示す組成をそなえた3003合金の芯材の片面に、表5に示す組成を有するAl−Si系合金のクラッド層を有するアルミニウムクラッド板材を常法に従って製造した。各アルミニウムクラッド板材の厚さおよびクラッド層の厚さを表1に示す。アルミニウムクラッド板材について、最終圧延後に360℃で3時間の軟化処理を施した。なお、比較材(No.k)としてA3003合金単板も使用した。
【0043】
得られたアルミニウムクラッド板材(2層クラッド板材)(クラッド材No.g〜j)について、それぞれ30箇所の任意断面を観察し、実施例1と同じ方法でクラッド層中のSi粒子の最大粒子径を測定した。また、上記の断面観察により、実施例1と同じ方法でクラッド層中のSi粒子の粒子径分布を測定し、測定されたSi粒子径分布に関して、粒子径を対数とする正規分布に近似し、分布の平均μ、標準偏差σを求め、(μ+3σ)を算出した。測定、算出結果を表5に示す。なお、表5において、本発明において、ろう付け部位に使用するアルミニウムクラッド材の条件を外れたものには下線を付した。
【0044】
相手材として、実施例1と同様、表2に示す組成を有するA3003合金を芯材とし、両面に表2に示す組成を有するろう材をクラッドした厚さ0.07mmのブレージングシートフィン材(両面にクラッドしたろう材厚さはそれぞれ7μm)を常法に従って製造し、最終圧延後にフィン形状に成形した。
【0045】
ついで、実施例1と同様に、2層クラッド板材を20mm×20mmの寸法に切断し、溶剤脱脂後のろう付け面に5g/m2 のフッ化物系フラックスを塗布し、また、ブレージングシートフィンを20mm×20mmの寸法に切断し、溶剤脱脂後、ブレージングシートフィンの両面(上下面)に、それぞれ2層クラッド板材を、クラッド層がブレージングシートフィンのろう材面と当接するよう組み付け、ステンレス鋼製の治具で軽く固定して試験材とした。A3003合金単板(No.k)もブレージングシートフィンの上下面に組付けて試験材とした。
【0046】
試験材を窒素ガス雰囲気炉に装入して、平均昇温速度30℃/分で昇温し、600℃の温度に達したところで直ちに冷却して、ろう付けを完了させた。ろう付け加熱中の雰囲気を調整するために、炉内へ流す窒素ガス流量を調整し、雰囲気中の酸素濃度が高い場合と低い場合について試験を行った。
【0047】
ろう付け後の試験材について、フィン接合部の断面を観察し、フィレット形成状態、フィンとの接合長さ(注:0.40mmを越える場合は良好)、フィンの溶融座屈状態およびフィレットの切れ発生状況を調査した。また、フィン接合部について、JIS Z1271に準拠して4週間の塩水噴霧試験を行い、接合部の優先腐食の有無を観察した。調査、観察結果を表6〜7に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
表6〜7に示すように、試験材No.7はクラッド層中のSi量が少ないため、炉中の酸素濃度が高い場合、ろう付け時において十分なフィレットが形成されず接合性が劣る。試験材No.8はクラッド層中のSi量が多いため、ろう付け時にクラッド層が溶融し、従来法の場合と同様、フィンの溶融座屈、フィレット切れが生じた。試験材No.9はクラッド層中のZn量が多いため、ろう付け接合性は良好であるが、フィレットの優先腐食が認められた。試験材No.10はクラッド層の厚さが小さいため、また、試験材No.11はA3003合金単板を使用したため、炉中の酸素濃度が高い場合、ろう付け時において十分なフィレットが形成されず、またはフィレットが形成されず、接合性が劣っている。
【符号の説明】
【0052】
1 チューブ材
2 インナーフィン
3 フラックス
4 ろう材
5 ろう材
6 ブレージングフィン
7 2層クラッド板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の芯材の片面に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の厚さ5μm以上のクラッド層を有するアルミニウム2層クラッド材のクラッド層が内面となるように成形したチューブと、Si7.5〜12%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウムインナーフィン材を、前記Al−Si系合金のクラッド層とAl−Si系合金ろう材とが当接するよう組み付けて、ろう付け接合することを特徴とするアルミニウムのろう付け方法。
【請求項2】
前記Al−Si系合金は、不純物としてのZnが0.5%未満であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウムのろう付け方法。
【請求項3】
前記Al−Si系合金のクラッド層中に分散しているSi粒子は、その最大粒径がクラッド層厚さの2/3以下になるよう微細化されていることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウムのろう付け方法。
【請求項4】
前記Al−Si系合金のクラッド層中に分散しているSi粒子は、該Si粒子の粒径の正規分布の平均をμ、標準偏差をσとしたとき、(μ+3σ)の値がクラッド層厚さの1/3以下になるよう微細化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムのろう付け方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のろう付け方法により製造されるチューブであって、アルミニウム合金の芯材の片面に、Si2〜6%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の厚さ5μm以上のクラッド層を有するアルミニウム2層クラッド材のクラッド層が内面となるように成形したチューブと、Si7.5〜12%を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウムインナーフィン材を、前記Al−Si系合金のクラッド層とAl−Si系合金ろう材とが当接するよう組み付けられて、ろう付け接合されていることを特徴とするアルミニウム熱交換器用偏平チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−61523(P2012−61523A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231607(P2011−231607)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【分割の表示】特願2009−140718(P2009−140718)の分割
【原出願日】平成14年11月7日(2002.11.7)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】