説明

アンカーの施工方法及び切削工具

【課題】アンカー部材の引張り強度の高い、アンカー部材の施工方法及びこれに使用する切削工具を提供する。
【解決手段】既設コンクリート5にコアビット7によりアンカー部材挿入用の前処理孔6を穿設し、当該前処理孔6内に、中心軸1の外周箇所にその一端縁を軸支した横断面円弧状のウイング2を有し、当該ウイング2が回転の遠心力により外方に開く切削工具を挿入し、前記切削工具の中心軸を回転させると、前記ウイング2が遠心力により中心軸1から外方に開いて前記ウイング2の円弧状外側面に上下方向に間隔をあけて設けた複数の小片ビット3により、前処理孔7の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝9aを有するアンカー部材の挿入孔9を形成し、当該挿入孔9に固化剤10を充填し、且つ当該挿入孔9にアンカー部材11を挿入して、前記固化剤10を固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設コンクリートの表面に、後施工としてアンカーボルトやアンカー筋等のアンカー部材を強固に設置するための施工方法及びこれに使用する切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既設コンクリートの表面に、後施工としてアンカー部材を設置する工法としては、母材としてのコンクリートの表面に振動ドリルやハンマードリル等を使って、アンカー部材の直径より大きい、所定深さの孔をあけ、この孔内を水等で洗浄、清掃し、当該孔内にアンカー部材を差し込み、その状態を保持したままで、固着剤の注入孔が設けられた密閉蓋に前記アンカー部材を貫通させて、当該孔の開口部に被せ、前記注入孔から固着剤を圧入し、当該固着剤の固化するまで放置してアンカー部材を対象物に取り付けていた。また、固着剤としては、エポキシ樹脂、モルタル等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、前記アンカー部材の既設コンクリート表面への設置において、当該アンカー部材の既設のコンクリートへの接合強度が上がらず、満足できない状況であった。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように、前処理孔の内壁面と略同径の外周面に、螺旋軌道上に沿って複数個の超硬チップを突設した切削ビットを前処理孔外から回転させながら前処理孔内に挿入して内壁面に前記超硬チップによる螺旋状凹溝を設けた挿入孔を形成し、次に前記挿入孔内に接着剤を充填すると共にアンカー部材を押し込んで、接着剤の固化により前記アンカー部材を挿入孔内に付着固定されるアンカーの施工方法が開発されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3404301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように、アンカー部材の挿入孔の内壁面に螺旋状凹溝を設けたものはある程度アンカー部材の既設のコンクリートへの接合強度は上がるが、これでもアンカー部材の前記接合強度は満足できないものである。
【0007】
そこで、この発明は、前記従来技術を考慮し、さらにアンカー部材の既設のコンクリートへの接合強度の高い、アンカー部材の施工方法及びこれに使用する切削工具を提供することも目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、アンカー部材の施工方法において、既設のコンクリートにコアビットによりアンカー部材挿入用の前処理孔を穿設し、当該前処理孔内に、中心軸の外周箇所にその一端縁を軸支した横断面弧状又は折曲形状のウイングを有し、当該ウイングが回転の遠心力により外方に開く切削工具を挿入し、前記切削工具の中心軸を駆動手段により回転させると、前記ウイングが遠心力により中心軸から外方に開いて前記ウイングの外側面に上下方向に間隔をあけて複数設けた小片ビットにより、前処理孔の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を形成し、当該挿入孔に固化剤を充填し、且つ当該挿入孔にアンカー部材を挿入して、前記固化剤を固化させ、アンカー部材を前記挿入孔内に固定させるアンカーの施工方法とした。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記前処理孔の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を形成した後、切削工具の中心軸が回転している状態で当該切削工具を挿入孔から引き上げることにより、当該挿入孔の内壁面に複数段の環状凹溝を形成するとともに、各環状凹溝の上壁が凹溝奥部に向かって下がるように傾斜したものが形成されるアンカーの施工方法とした。
【0010】
請求項3の発明は、中心軸の外周箇所にその一端縁を軸支された横断面弧状又は折曲形状のウイングを有し、当該ウイングの外側面に、上下方向に間隔をあけて小片ビットを突設し、前記中心軸の回転により遠心力により当該ウイングが開く構成であり、当該工具を前処理孔に挿入して前記ウイングが開いた際、前記小片ビットが前処理孔の内壁面と接触して内壁面を削ることができる切削工具とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、アンカー部材の挿入孔の内壁面に複数段の環状凹溝を設けため、充填材が挿入孔の内壁に強固に固着し、この充填材に埋設したアンカー部材の既設コンクリートへの接合強度が極めて高くなった。また、この様なアンカー部材の挿入孔の内壁面に複数段の環状凹溝を設けるのに当たり、遠心力により外方に拡がるウイングの外側面に小片ビットを設けた切削工具を用いることにより、極めて容易に設けることができる。
【0012】
また、特に請求項2の発明によれば、よりアンカー部材の接合強度が高いものとなる。
【0013】
また、請求項3の発明によれば、この切削工具を使用することにより、容易に、内壁面に複数段の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明は、アンカー部材の施工方法において、既設のコンクリートにコアビットによりアンカー部材挿入用の前処理孔を穿設し、当該前処理孔内に、中心軸の外周箇所にその一端縁を軸支した横断面弧状又は折曲形状のウイングを有し、当該ウイングが回転の遠心力により外方に開く切削工具を挿入し、前記切削工具の中心軸を駆動手段により回転させると、前記ウイングが遠心力により中心軸から外方に開いて前記ウイングの外側面に上下方向に間隔をあけて設けた小片ビットにより、前処理孔の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を形成し、当該挿入孔に固化剤を充填し、且つ当該挿入孔にアンカー部材を挿入して、前記固化剤を固化させ、アンカー部材を前記挿入孔内に固定させるアンカーの施工方法とした。
【0015】
これにより、既設コンクリートへの接合強度の極めて高いアンカー部材が形成される。
【実施例1】
【0016】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明のアンカー部材の施工方法の概要を示す説明図、図2はこの発明のアンカー部材の施工方法に使用する切削工具Aの側面図、図3は同切削工具Aのウイングを開いた状態の側面図、図4(a)は、前処理孔に入れた状態の同切削工具Aの平面図、(b)は前処理孔に入れた同切削工具Aを回転させた状態の平面図である。
【0017】
まず、この発明のアンカー部材の施工方法に使用する切削工具Aは、中心軸1の外周箇所にその一端縁を軸支された横断面円孤状のウイング2を有し、当該ウイング2の円弧状外側面2aの外側に上下方向に間隔をあけて複数の小片ビット3を突設している。そして、使用前は、図2に示すように、各ウイング2はすぼまって、略円柱体を成している。また、前記中心軸1を穿孔機等の回転駆動手段(図示省略)に接続して、当該回転駆動手段により、前記中心軸1を回転させると、遠心力により、図4の(b)図に示すように、当該各ウイング2が開き、前記小片ビット3が前処理孔7の内壁面に接触する構成となっている。
【0018】
この切削工具Aを用いてアンカー部材Aを埋設施工する。この施工方法を図1に基づいて説明する。
【0019】
まず、図1の(a)図に示すように、既設コンクリート5に、コアビット6によりアンカー部材挿入用の前処理孔7を穿設する。これには前記コアビット6の上端に穿孔機8を接続し、穿孔機8を駆動源として行う。そして、当該前処理孔7を、図1の(b)図に示すように、水等で洗浄する。次に、図1の(c)図に示すように、当該前処理孔7内に、前記切削工具Aを挿入し、その先端を前処理孔7の底部に当てる。そして、前記穿孔機8等の回転駆動手段(図示省略)を切削工具Aの上端に接続して、中心軸1を回転させる。
【0020】
これにより、図1の(d)図に示すように、各ウイング2が回転の遠心力により外方に開き、前記ウイング2の円弧状外側面に上下方向に間隔をあけて複数設けた小片ビット3が、前処理孔7の内壁面の相応する箇所を削る。そこで、図1の(e)図に示すように、内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝9aが設けられたアンカー部材の挿入孔9が形成される。この際、必要に応じて、前記穿孔機8を引き上げることにより、切削工具Aを前処理孔7内の上方に移設し、再度中心軸1を回転させて、前処理孔7の内壁面にさらに環状凹溝9aを形成し、多数段の環状凹溝9aを有する挿入孔9を形成することができる。
【0021】
その後、当該挿入孔9を水等で洗浄した後、挿入孔9内に固化剤10を充填し、且つ当該挿入孔9にアンカー部材11を挿入して、前記固化剤10を固化させ、図1の(f)図に示すように、アンカー部材11を前記挿入孔9内に固定させる。これにより、固化剤10が挿入孔9に充填され、さらに挿入孔9の内壁面に上下方向に間隔をあけて設けられた環状凹溝9a内にまで充填され、固化剤10が挿入孔9と一体となって、固化剤10内のアンカー部材11が強固に固定される。
【0022】
また、上記実施例1のアンカー施工方法において、挿入孔9の内壁面に上下方向に間隔をあけて環状凹溝9aを穿った後、切削工具Aの駆動回転を止めないで、又は駆動回転を止めて惰性で、切削工具Aの中心軸が回転している状態にして当該切削工具Aを引き上げると、図5に示すように、各環状凹溝9aの上壁が凹溝奥部に向かって下がるように斜めに削られた環状凹溝9bが形成される。この様な環状凹溝9bを有する挿入孔9に、上述のように固化剤10及びアンカー部材11を充填すると、各環状凹溝9bの傾斜した上壁により、前記実施例1以上にアンカー部材11の前記接合強度が高くなる。
【0023】
なお、上記実施例1では切削工具Aのウイング2は凹断面が円孤状であるが、これに限らず、図6の(a)図に示すように、中心軸1を囲むように横断面山形状の折曲げ形状のウイング2´にすることもできる。この場合も図6の(b)図に示すように、切削工具Aを前記前処理孔7に挿入し、切削工具Aの中心軸1を回転させると、ウイング2´が開き、前処理孔7の内壁面を当該ウイング2´の小片ビット3が削ることができる。従って、この発明の切削工具Aのウイングには前記横断面円孤形状、山形折曲げ形状等、種々の横断面孤状又は折曲げ形状のウイングが含まれる。
【0024】
また上記実施例1では、ウイング2の外側面に小片ビット3を直接設けているが、これに限らず、図7の(a)図に示すように、ウイング2の外側面上に突出した小基台12を設け、当該小基台12上に小片ビット3を設ければ、前処理孔7の内壁面に接触する箇所を意図的に変更することができる。小基台12をウイング軸に接近した位置に付設することにより、図7の(b)図に示すように、てこの原理により、小片ビット3が前処理孔7の内壁面に作用する力を増大させ、より早く環状凹溝9aを形成することができる。
【0025】
なお、前記切削工具Aの各ウイング2の数、及び小片ビット3の大きさや数は適宜設定することができ、小片ビットが大きければ、挿入孔9の内壁面の各環状凹溝9a又は9bの断面積は大きくなり、アンカー部材の接合強度は高くなる。また、各ウイング2の外側面に設けた小片ビット3の位置は、前処理孔7の孔径とウイングビットの径により位置が異なり、要するに、当該ウイングビトを前処理孔7に挿入して中心軸の回転により開いたウイング2の前処理孔7の内壁面に接触する箇所に設けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施例1のアンカー部材の施工方法の概要を示す説明図ある。
【図2】この発明の実施例1のアンカー部材の施工方法に使用する切削工具の側面図である。
【図3】この発明の実施例1のアンカー部材の施工方法に使用する切削工具のウイングを開いた状態の側面図である。
【図4】(a)図はこの発明の実施例1の切削工具Aを前処理孔に入れた状態の平面図であり、(b)図は同切削工具Aを回転させた状態の平面図である。
【図5】この発明の実施例1の挿入孔の他の例を示す一部省略拡大断面図である。
【図6】(a)図はこの発明の実施例1の他の切削工具Aを前処理孔に入れた状態の平面図であり、(b)図は同切削工具Aを回転させた状態の平面図である。
【図7】(a)図はこの発明の実施例1のさらに他の切削工具Aを前処理孔に入れた状態の平面図であり、(b)図は同切削工具Aを回転させた状態の平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 中心軸 2 ウイング
2´ ウイング 3 小片ビット
5 既設コンクリート 6 コアビット
7 前処理孔 8 穿孔機
9 挿入孔 9a 環状凹溝
9b 環状凹溝 10 固化剤
11 アンカー部材 12 小基台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカー部材の施工方法において、
既設コンクリートにコアビットによりアンカー部材挿入用の前処理孔を穿設し、
当該前処理孔内に、中心軸の外周箇所にその一端縁を軸支した横断面弧状又は折曲形状のウイングを有し、当該ウイングが回転の遠心力により外方に開く切削工具を挿入し、
前記切削工具の中心軸を駆動手段により回転させると、前記ウイングが遠心力により中心軸から外方に開いて前記ウイングの外側面に上下方向に間隔をあけて設けた複数の小片ビットにより、前処理孔の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を形成し、
当該挿入孔に固化剤を充填し、且つ当該挿入孔にアンカー部材を挿入して、前記固化剤を固化させ、
アンカー部材を前記挿入孔内に固定させることを特徴とする、アンカーの施工方法。
【請求項2】
前記前処理孔の内壁面に間隔をあけて複数の環状凹溝を有するアンカー部材の挿入孔を形成した後、切削工具の中心軸が回転している状態で当該切削工具を挿入孔から引き上げることにより、
当該挿入孔の内壁面に複数段の環状凹溝を形成するとともに、各環状凹溝の上壁が凹溝奥部に向かって下がるように傾斜したものが形成されることを特徴とする。請求項1に記載のアンカーの施工方法。
【請求項3】
中心軸の外周箇所にその一端縁を軸支された横断面弧状又は折曲形状のウイングを有し、当該ウイングの外側面に上下方向に間隔をあけて複数の小片ビットを突設し、
前記中心軸の回転により遠心力により当該ウイングが開く構成であり、当該切削工具を前処理孔に挿入して前記ウイングが開いた際、前記小片ビットが前処理孔の内壁面と接触して内壁面を削ることができる構成としたことを特徴とする、切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−225000(P2012−225000A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91464(P2011−91464)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(511096097)株式会社エー・ワン (1)
【Fターム(参考)】