説明

アンカーボルト及びこのアンカーボルトを用いた移動式型枠工法

【課題】移動式型枠工法において、コンクリートが若材齢の状態(圧縮強度の小さい状態)であっても、型枠を確実に支持することができるアンカーボルトを提供する。
【解決手段】アンカーボルト1は、アンカー筋2とプレート3とからなり、該アンカー筋2の一端は型枠10に固定され、該アンカー筋2の他端側に前記プレート3が取り付けられていることを特徴とする。アンカーボルト1は、アンカーボルト1に作用する引抜力に対して、プレート3に作用する引抜せん断力によって抵抗する構造となっている。そのため、このアンカーボルト1は、コンクリートCが若材齢の状態(圧縮強度の小さい状態)であっても十分な引抜抵抗力を得ることができ、型枠10を確実に支持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム施工における型枠用のアンカーボルト及びこのアンカーボルトを用いた移動式型枠工法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム施工における堤体の構築は、その堤体の大きさゆえにコンクリートの打設作業に多大な時間と労力がかかる。従って、効率よく、かつ、迅速に作業を進めると共に、施工期間を短縮することが要求される。
【0003】
一般に、ダム施工における堤体の構築方法として、移動式型枠工法が採用されている。移動式型枠工法とは、大型の型枠又はステンレス型枠等を、ユニット化して組み立てた型枠を移動させて、コンクリート構造物を構築する工法である。移動式型枠工法は、例えば、上下方向に移動させながらコンクリートを打設する「スライド型枠工法」、コンクリートが硬化した後、1パネルずつ移動する「ジャンピング型枠工法」、道路の中央分離帯など同じ形状の連続した構造物を横方向に移動させながら作成する「スリップ型枠工法」、同じ形状の断面が連続する構造物に使用されており、支保工と型枠が一体となった「トラベリング型枠工法」、ダム工事において型枠の移動を合理化した「自昇式ダム型枠工法」等がある。
【0004】
移動式型枠工法は、次工程のコンクリート打設により型枠に作用する荷重を、既存のコンクリートに埋設されたアンカーボルトと型枠を結合させて支持する構造が多く採用されている。即ち、既存のコンクリートに埋設されたアンカーボルトは、型枠に作用する荷重に対し、このアンカーボルトの外周面に作用する引抜せん断力で抵抗し、型枠を支持する構造となっている。
【0005】
ここで、従来より、移動式型枠工法におけるアンカーボルトとして、アンカーボルトの周面積を増やすために、先端が半円形フック状に成形されたもの(以下、従来型アンカーボルトともいう)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。従来型アンカーボルトを用いた場合における脱型の時期は、参考値として、コンクリートの圧縮強度が3.5N/mm2以上であることが示されている(コンクリート示方書)。即ち、コンクリートの圧縮強度が3.5N/mm2以上であれば、コンクリートに埋設されたアンカーボルトにコンクリートが十分に付着し、アンカーボルトに作用する引抜力に対して抵抗することができるため、型枠を支持することができ、施工を推進することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−212721号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、堤体の構築期間を短縮することが、施工期間の大幅な短縮につながることを鑑みると、コンクリートの圧縮強度を3.5N/mm2となるまで養生するということは、施工期間の短縮の足かせとなっていた。
しかし、従来型アンカーボルトでは、コンクリートの圧縮強度が3.5N/mm2となる前に次工程を行うと、アンカーボルトにコンクリートが十分に付着していないため、型枠を確実に支持することができない。即ち、従来の半円形フック状のアンカーボルトの引抜抵抗力は、このアンカーボルト周面のコンクリートとの付着強度に対応するものであるので、アンカーボルトに作用する引抜力に耐えうるだけの引抜抵抗力を有するには十分な養生期間を必要とする構造であった。
【0008】
なお、早強ポルトランドセメントを用いて、コンクリートの強度発現までの時間を短縮する手法も考えられる。しかし、早強ポルトランドセメントをダムの堤体のようなマスコンクリートに採用すると、養生初期段階で多大な発熱をすることからひび割れの原因になるため採用することは困難であった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、コンクリートが若材齢の状態(圧縮強度の小さい状態)であっても、型枠を支持するために必要な引抜抵抗力を得ることができるアンカーボルトを提供することを課題とし、さらに、このアンカーボルトを用いた移動式型枠工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、移動式型枠工法において用いられる型枠固定用のアンカーボルトであって、プレートとアンカー筋とからなり、該アンカー筋の一端は型枠を固定する固定部であり、前記アンカー筋の他端側に、前記プレートが取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項1に係る発明は、型枠からアンカーボルトに作用する引抜力に対して、プレートから型枠に向って広がるせん断抵抗面に発生する引抜せん断力によって抵抗する構造となっているので、アンカーボルトの周面に引抜せん断力が発生する従来型アンカーボルトと比較して、引抜せん断力が発生する抵抗面の面積が大幅に増大している。これにより、請求項1に係るアンカーボルトは、コンクリートの圧縮強度が小さい状態であっても十分な引抜抵抗力を得ることができ、型枠を確実に支持することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアンカーボルトであって、前記アンカー筋は屈曲していることを特徴とする
【0013】
仮に、アンカー筋が直線状であると、引抜力に対してそれと同じ方向の反力しか作用しない。しかし、アンカー筋が屈曲したアンカーボルトを引き抜こうとすると、引き抜き方向と異なる方向にも抵抗力が発生するので、抵抗力が効率的に増すことになる。
【0014】
請求項3に係る発明は、下側からコンクリートを所定高さずつ順次打設していく移動式型枠工法において、既設コンクリートに埋設された請求項1又は請求項2に記載のアンカーボルトに型枠下部を固定する第一工程と、前記型枠上部に請求項1又は請求項2に記載のアンカーボルトを新たに設置する第二工程と、前記型枠によって包囲された部分にコンクリートを打設する第三工程と、前記コンクリートを一定時間養生する第四工程と、前記型枠を脱型する第五工程と、前記型枠を上方へ移動する第六工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
かかる方法によれば、請求項1又は請求項2に記載のアンカーボルトを用いることで、型枠に作用する荷重に対して必要な引抜抵抗力を、早期に得ることができる。従って、打設したコンクリートの圧縮強度が、3.5N/mm2となるのを待たずして、型枠の脱型及び移動をし、新たにコンクリートを打設することができるため、施工期間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アンカーボルトにプレートを設けることにより、アンカーボルトに作用する引抜力に対して、大きな引抜せん断力が作用する。このため、コンクリートが若材齢の状態(圧縮強度の小さい状態)であっても、型枠を支持するために必要な引抜抵抗力を得ることができる。また、このアンカーボルトを用いた型枠工法によれば、早期に型枠の脱型及び移動ができ、新たなコンクリート打設が可能となる。従って、施工期間の短縮、ひいては施工コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、既設コンクリートに埋設された本実施形態に係るアンカーボルトに型枠を設置した場合の側面図を示した図である。
図1に示すように、アンカーボルト1は、アンカー筋2と、プレート3とを備えており、アンカー筋2の一端は、型枠10を固定する固定部rであり、他端にプレート3が取り付けられている。
【0019】
アンカー筋2は、図1に示すように、型枠10に垂直となる線Xより下方に開く角度(以下、φとする)が例えば、略25゜に屈曲されている。このようにアンカー筋2を屈曲させることで、アンカー筋2が直線状のアンカーボルトよりも、引抜抵抗力の大きい構造とすることができる。即ち、アンカー筋2が、X方向に抵抗する力に加えて、アンカー筋2の周辺のコンクリートCを型枠10の上方向(屈曲した部分の軸方向)に押し上げようとする力が働くため、抵抗力が増すことになる。
なお、この角度は25°に限定するものではなく、0<φ<45°の範囲であればよく、より好ましくは、15°〜25°がよい。
【0020】
本実施形態に係るアンカー筋2は、長さ40cm、直径19mmのものを用いているが、これに限定されるものではなく、型枠の大きさ、コンクリートの打設量、配合及び養生期間により、適宜設定される。
【0021】
プレート3の形状は、本実施例においては、正方形となっている。なお、プレート3の形状は、これに限定されるものではなく、角形であっても、円形であってもよい。
また、アンカー筋2に対するプレート3の取り付け角度は、本実施形態においては、垂直となっているが、これに限定されるものではない。
【0022】
なお、プレート3の面積の算出方法は後記する。
【0023】
アンカー筋2及びプレート3の素材は、アンカーボルト1に作用する引抜力に耐える必要があるため、剛性の大きいものが好ましい。本実施形態では、鋼を用いている。
【0024】
次に、型枠の構造について説明する。
図2は、本実施形態における型枠を表した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図を表した図である。
【0025】
図2に示すように、型枠10は、2本のリップ溝型鋼11a及び11bからなる複数の縦端材11、11と、この縦端材11に直角に横架され、縦端材11に溶接される4本の横端材12とで骨組みが構成されている。縦端材11は、2本のリップ溝型鋼11a、11bがお互いのウェブが対向するように配設され、後記するインサート筒4の直径より若干大きい間隙が設けられている。
縦端材11のコンクリート打設側には、コンクリートCを直受けする鋼せき板13が取り付けられている。鋼せき板13は、縦端材11の正面側(打設側の逆側)から、返し付きピン14により係合され、ピン頭をナット締めされて、縦端材11に固定されている。
【0026】
縦端材11の縦の長さは例えば、約4mで、鋼せき板の大きさは縦約1.7m、横約1.5mである。
【0027】
なお、図2の(a)及び(b)に示すように、鋼せき板13の上部には、インサート筒4を貫通させる孔Tが設けられている。また、縦端材11には、リップ溝型鋼11a及び11bに上下方向に延びる間隙が形成されているため、インサート筒4及び後記するジャッキボルト18の取付位置は上下に適宜調節することができる。インサート筒4が挿通される位置をそれぞれ、上部取付位置、中部取付位置、ジャッキボルト18が設置される位置を下部取付位置とする。
【0028】
次に、図1及び図2を用いて、型枠10とアンカーボルト1の結合構造について説明する。
図1に示すように、縦端材11と鋼せき板13を挿通するインサート筒4の先端には軸方向に延びる孔jが設けられている。孔jの直径は、アンカー筋2の一端に位置する型枠10との固定部rの直径よりも若干大きくなっており、この孔jにアンカー筋2の固定部rが嵌合される。そして、インサート筒4の基端側には、平板座金6を嵌められており、その外側から、ヘッドナット7で締めることで、型枠10とアンカーボルト1が結合される。
【0029】
なお、インサート筒4とアンカーボルト1の固定部rとの結合は嵌合する方式を用いている。これは、この結合部分に多少の遊びを持たせることで、型枠10の角度の微調整が容易に行われるためである。
【0030】
なお、アンカーボルト1とインサート筒4の結合方法は、嵌合式に限定されるものではなく、インサート筒4にネジ孔を、固定部rにネジ山をそれぞれ形成し、螺合させる構造であってもよい。
【0031】
コンクリートに埋設されたアンカーボルト1(以下、シーボルトSともいう)の固定部rの周辺には、アンカーホール5が形成されている。アンカーホール5は、コンクリートCが硬化した後、インサート筒4を抜脱することにより、アンカーボルト1の固定部rを包み込むように、既設コンクリートCに設けられる孔である。これにより、アンカーボルト1の固定部rがコンクリートCの仕上がり面よりも突出することはないため、スムーズに型枠10の移動をすることができる。また、型枠10を脱型した後のアンカーホール5に充填材を充填することで、仕上がり面の美観を向上させることができる。
【0032】
<施工方法>
次に、アンカーボルト1を用いた移動式型枠工法について説明する。この移動式型枠工法は、下側からコンクリートを所定高さずつ順次打設していく工法であり、既設コンクリートに埋設されたアンカーボルト1に型枠下部を固定する第一工程と、前記型枠上部にアンカーボルト1を新たに設置する第二工程と、前記型枠によって包囲された部分にコンクリートを打設する第三工程と、前記コンクリートを一定時間養生する第四工程と、前記型枠を脱型する第五工程と、前記型枠を上方へ移動する第六工程と、を含むことを特徴とする。
【0033】
<第1工程>
まず、図3の(a)に示すように、型枠10をクレーンPで吊り上げた状態で、中部取付位置とアンカーホール5の位置を整合した後、インサート筒4を縦端材11に挿通し、シーボルトSにインサート筒4を嵌合する。さらに、インサート筒4の基端に平板座金6及びヘッドナット7を螺設することで、シーボルトSに型枠10が固定される。
【0034】
さらに、下部取付位置に、ジャッキボルト18を設置する。ジャッキボルト18は、型枠10の下部と既設コンクリートCの間隙を調節することにより、型枠10の角度の微調整をするものである。
なお、図3の(a)において、図の理解しやすさを考慮して、クレーンPは縮尺を無視して小さく書いている。
【0035】
<第2工程>
次に、図3の(b)に示すように、型枠10の上部にアンカーボルト1(以下、ダミーボルトDともいう)を固定する。上部取付位置にインサート筒4を挿通し、インサート筒4の基端側に平板座金6を嵌め、ヘッドナット7により型枠10とインサート筒4を固定する。そして、インサート筒4の先端の内部に設けられた孔jに、ダミーボルトDの固定部rを嵌合することにより、ダミーボルトDを型枠10に固定する。
【0036】
<第3工程>
次に、図3の(c)に示すように、型枠10により包囲された部分にフレッシュコンクリートfを打設する。ここで、型枠10の対面側及び図3の紙面の表裏方向には、既設のコンクリートC(図示せず)又は型枠10(図示せず)が設置されており、コンクリート打設空間が囲われているものとする。
型枠10の打設方法は限定されるものではなく、公知技術を用いればよい。例えば、本実施形態においては、ディストリビュータを用いてコンクリートfを打設する。
【0037】
<第4工程>
次に、図3の(d)に示すように、打設されたコンクリートの頂面を整地した後、必要な強度が出るまで、一定期間養生する。養生期間は、必要圧縮強度を設定し、積算温度と圧縮強度の比例関係から導き出せる。また、供試体を作成して、引抜試験を現場で行った上で養生期間を定めてもよい。
【0038】
<第5工程>
次に、図3の(e)に示すように、設定期間を経過したら、型枠10を脱型する。まず、クレーンPにより、クレーンPのフックと型枠10の上端に設けられたフック19を係合し、型枠10が現状の高さを維持できるように保持する。そして、ダミーボルトD及びシーボルトSに螺設されているヘッドナット7及び平板座金6を取り外し、インサート筒4を抜脱する。
【0039】
<第6工程>
次に、クレーンPを用いて、型枠10の中部取付位置とダミーボルトDによって形成されたアンカーホール5´が整合する位置(次工程における図3(a)の位置)まで型枠10を上昇させる。そして、第1工程に戻り、上述した工程を繰り返し行うことでダムの堤体が構築される。
【0040】
<プレートの表面積の計算方法>
次に、アンカーボルトのプレートの必要な表面積の計算方法について説明する。図4は、本実施形態に係る荷重モデルを表した図であり、図4(a)は、型枠10に作用する荷重モデルを示した図であり、図4の(b)は、プレート付きアンカーボルトのせん断抵抗面を表したモデル図である。
なお、図4の(b)に示すように、プレートの表面積の計算方法の説明においては、直線状のアンカー筋31及び一辺の長さがaの正方形プレート32を用いる(以下、アンカーボルトをプレート付きアンカーボルト30ともいう)。
【0041】
図4の(a)に示すように、Pは型枠10に作用する荷重、Tはプレート付きアンカーボルト30に作用する引抜力を表す。即ち、本実施形態に係る移動式型枠工法は、型枠10に作用する荷重Pに対し、既に打設済みの堤体側に埋設されたプレート付きアンカーボルト30で抵抗する構造となっている。従って、プレート付きアンカーボルト30に作用する荷重Tは、T=P・x/yで示される。ここで、Tは、プレート付きアンカーボルト30に作用する荷重(N)、Pは、型枠10に作用するコンクリート荷重(N)、xは、打設済みリフト長(図4のハッチング部分(cm))、yは、打設済みリフト長+新たに打設するリフト長(図4の破線部分(cm))を示す。
【0042】
図4(b)は、プレート付きアンカーボルト30を型枠10に垂直に設置し、荷重Tが作用した場合における、引抜せん断抵抗面を表したモデル図である。aは、プレート32の一辺の長さ、bはアンカー筋31の長さを示す。
プレート付きアンカーボルト30は、荷重Tに対して、プレート32から型枠10に向けて45°に広がる錐台形状の周面に作用する引抜せん断力tの合力で抵抗するものである。引抜せん断力tの合力は、せん断抵抗面の面積(錐台形状の側面積)とコンクリートのせん断力(コンクリートの配合及び経過時間により定まる)との積で定まる。従って、荷重Tは、T=τ・Mで示される。ここで、Tはアンカーボルトに作用する荷重(N)、τはコンクリートのせん断応力(N/cm2)、Mはせん断抵抗面の面積(cm2)を示す。
【0043】
さらに、せん断抵抗面の面積Mは、M=4×{(a+b)×b/sin45°}で示される。ここで、aは、プレートの一辺長、bは、アンカー筋の長さを示す。アンカー筋の長さbは、型枠に応じて任意に設定され(約40〜50cm)、Mは、M=T/τにより既値であることから、プレートの一辺長aが求まる。
従って、プレートの面積Aは、A=a2より求められる。
【0044】
なお、アンカー筋31に角度が付いている場合、角度に応じてプレート32の面積を算出する。
【0045】
〔引抜試験〕
<試験概要>
次に、若材齢(圧縮強度が低い状態)であっても、本実施形態に係るアンカーボルトによれば、十分な必要強度が得られることを証明するための引抜試験について説明する。
本実施形態に係るプレート付きアンカーボルトと、アンカー筋の先端が半円形フック状となっている従来型アンカーボルトについて引抜試験を行った。その結果を以下に示す。
【0046】
図5に示すように、アンカーボルトの試験体は、プレート付きアンカーボルト40と先端が半円形状フック状のアンカーボルト(従来型アンカーボルト(図示せず))を用いる。アンカー筋41は、長さ約40cm、直径19mm、引張降伏強度が345N/mm2のものを用い、両者とも下方に略20°に屈曲されている。プレート42は一辺10cmの正方形である。プレート42はアンカー筋41に対して垂直に取り付けられている。試験体の素材は鋼である。
【0047】
これら2種類のアンカーボルトを固定した型枠に、コンクリート打設し、供試体を作成する。そして、24時間、48時間経過した各試験体(4ケース)について、引抜試験を実施する。アンカーボルトは各3本ずつ用意する。試験ケースを表1にまとめる。
【0048】
【表1】

【0049】
<試験方法>
図5は、引抜試験方法を示した図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【0050】
アンカーボルト引抜試験は、図5に示すように、プレート付きアンカーボルト40をセンターホールジャッキ43で引き抜く方法により行う。
試験装置は、2本のH鋼44を土台とし、これを跨ぐように正方形のプレート45が設置されている。正方形のプレート45の中央には、センターホールジャッキ43の先端部を貫通させる孔が設けられており、センターホールジャッキ43の先端部とコンクリートに埋設されたプレート付きアンカーボルト40の端部とが結合されている。センターホールジャッキ43は、油圧式ジャッキとなっており、操作レバー47により油圧を調節することで、プレート付きアンカーボルト40に所望の引抜荷重をかけることができる。また、センターホールジャッキ43にはロードセル46が備えられており、データロガー48から荷重の数値を読み取ることができる。
なお、荷重は、表2に示すように、5段階に分けて載荷するものとする。
【0051】
【表2】

【0052】
<予備試験>
まず、予備試験として、コンクリート供試体を用いて、圧縮強度試験を行い、積算温度と圧縮強度の関係を導出した。この結果を図6に示す。積算温度とは、コンクリート温度と時間(日数)の積算値である。積算温度ΣTは、ΣT=Σ(10+CT)Δtで示される。
ここで、Tは積算温度(℃)、CTはコンクリート温度(℃)、Δtは時間又は日を示す。係数10は、コンクリート温度が−10℃のときは水和反応が進まないことをあらわしている。
【0053】
そして、図6に示すように、コンクリートの強度発現は、コンクリートの積算温度に依存するため、圧縮強度を積算温度の関数として表すことができる。圧縮強度Yは、Y=0.0024X−0.4685で示される。ここで、Yは圧縮強度(N/mm2)、Xは積算温度を示す。
これにより、経過時間と圧縮強度の関係が明確となる。
【0054】
<試験結果>
次に、引張試験を行い、引抜荷重と各アンカーボルトの変位との関係を調べた。
図7は、試験結果データの一例を示す。太線M1は、各荷重段階における、プレート付きアンカーボルト40の移動変位を示すものである。白ぬき丸は、各荷重段階における、プレート付きアンカーボルトの移動変位をプロットしたものである。
一方、細線M2は、最大荷重約23.5kNを載荷した後、荷重を解放し、残留変形がなくなるまで存置した状態を示したものである。黒丸点は、残留変形が終了した時点でのプレート付きアンカーボルト40の移動変位を示す。
【0055】
ここで、コンクリートにある限度以上の力を加えると、力を除いても変形が後に残る。この変形を残留変形という。この単位長当りの変形を残留歪みといい、本試験においては、残留変形終了時における変位(黒丸時)と第一段階における変位(白丸時)との差によって示される。
なお、この値が小さいほど、コンクリートの変形量は少ないことから、アンカーボルトに作用する引抜抵抗力が大きいことを意味する。
【0056】
図8は、図7のグラフをはじめとするこの試験によって得られた複数の試験データに基づいて、各供試体の残留歪みと圧縮強度の相関関係を表した図である。図8の太線L1で表されているのはプレート付アンカーボルト40であり、細線L2で表されているのは従来型アンカーボルトである。図8に示すように、従来型アンカーボルトは、残留歪みがゼロとなるのが約3.5N/mm2であるのに対し、プレート付きアンカーボルトは約2.5N/mm2である。従って、プレート付きアンカーボルト40によれば、コンクリートの圧縮強度が3.5N/mm2となるのを待たずして、必要強度を得ることができる。
【0057】
なお、以上のことは、計算式からも裏づけできる。
例えば、直線状のアンカーボルト(図示せず)に作用する荷重の計算式は、T=τ・L・aで示される。ここで、Tは、アンカーボルトに作用する荷重、τは、コンクリートのせん断応力(N/cm2)、Lは、アンカー筋の長さ、aは、アンカーボルトの円周を示す。
一方、プレート付きアンカーボルトの場合、上述したように、T=τ・Mで示される。
ここで、両者の荷重T及びアンカー筋の長さ及び直径を同一とすると、プレートが取り付けられているため、L・aの値よりも、Mの値の方が大きくなるので、プレート付きアンカーボルトの方がτの値は小さくて済む。ここで、コンクリートのせん断応力τは、コンクリートの積算時間(養生期間)に比例するのであるから、養生期間が従来よりも短期間でよいことが導かれる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係るプレート付きアンカーボルト40によれば、アンカー筋の先端を半円形フック状とした従来型アンカーボルトに比べて、短時間で必要強度を得ることができる。
より具体的には、例えば、従来のアンカーボルトを用いた場合のコンクリートの必要圧縮強度を3.5N/mm2と設定し、本実施形態に係るプレート付きアンカーボルト40を用いた場合のコンクリートの必要圧縮強度を2.5N/mm2と設定した場合を比較する。
ここで、図6によると、前者の積算温度は1654℃必要なのに対し、後者の積算温度は1237℃で足りる。即ち、従来の設定養生期間の約75%が経過すれば、必要強度が得られることが証明された。従って、本実施形態に係るプレート付きアンカーボルト40によれば、養生期間を短く設定でき、かつ、必要強度を得ることができる。
よって、本実施形態に係るプレート付きアンカーボルト40によれば、養生期間の短縮、ひいては、施工期間の短縮につながるため、施工費用を削減することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0060】
例えば、アンカー筋2は上向きに屈曲させてもよいし、左右方向(図1における紙面の表裏方向)に屈曲させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】コンクリートに埋設された本実施形態に係るアンカーボルトと型枠が結合した場合の側面図である。
【図2】本実施形態に係る型枠を示す図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図3】本実施形態に係る型枠工法の各工程図を表した図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る荷重モデルを表した図であり、図4(a)は、型枠10に作用する荷重モデルを表した図であり、図4の(b)は、プレート付きアンカーボルトのせん断抵抗面を表したモデル図である。
【図5】引抜試験の試験方法を表した図である。
【図6】引抜試験の予備試験における積算温度と圧縮強度を表したグラフである。
【図7】引抜試験の試験データの一例を表したグラフである。
【図8】引抜試験の残留歪みと圧縮強度の相関関係を表した図である。
【符号の説明】
【0062】
1 アンカーボルト
2 アンカー筋
3 プレート
4 インサート筒
5 アンカーホール
6 平板座金
7 ヘッドナット
10 型枠
11 縦端材
12 横端材
13 鋼せき板
14 返し付きピン
18 ジャッキボルト
D ダミーボルト
r 固定部
S シーボルト
P クレーン
T 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動式型枠工法において用いられる型枠固定用のアンカーボルトであって、
プレートとアンカー筋とからなり、
該アンカー筋の一端は型枠を固定する固定部であり、
前記アンカー筋の他端側に、前記プレートが取り付けられていることを特徴とするアンカーボルト。
【請求項2】
前記アンカー筋は屈曲していることを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト。
【請求項3】
下側からコンクリートを所定高さずつ順次打設していく移動式型枠工法において、
既設コンクリートに埋設された請求項1又は請求項2に記載のアンカーボルトに型枠下部を固定する第一工程と、
前記型枠上部に請求項1又は請求項2に記載のアンカーボルトを新たに設置する第二工程と、
前記型枠によって包囲された部分にコンクリートを打設する第三工程と、
前記コンクリートを一定時間養生する第四工程と、
前記型枠を脱型する第五工程と、
前記型枠を上方へ移動する第六工程と、
を含むことを特徴とする移動式型枠工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−150778(P2008−150778A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336571(P2006−336571)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(501391962)国土交通省東北地方整備局長 (6)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】