アンカー工法および重機移動方法
【課題】安全性が高く、簡易な構成であって、その重量が大きくなっても容易に削孔用機械を移動させることのできるアンカー工法および重機移動方法を提供すること。
【解決手段】削孔作業をおこなう場合には、ワイヤ31〜ワイヤ33が短くされ、また、ワイヤ38が長くされていて、削孔用機械26は斜面に対してほぼ垂直状態を保っており、その下端が斜面に接している。そして、この状態から、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを長くし、また、ワイヤ38の長さを短くして、削孔用機械26を斜面から浮き上がらせる。そして、削孔用機械26を斜面から浮いた状態を保ちつつ、ワイヤ6を巻き上げる。これにより、ワイヤ6が水平方向に変位し、削孔用機械26が、ワイヤ31〜ワイヤ33を介してワイヤ6の変位に追随して斜面から浮いた状態で変位する。これにより、削孔用機械26を安全に移動させることができる。
【解決手段】削孔作業をおこなう場合には、ワイヤ31〜ワイヤ33が短くされ、また、ワイヤ38が長くされていて、削孔用機械26は斜面に対してほぼ垂直状態を保っており、その下端が斜面に接している。そして、この状態から、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを長くし、また、ワイヤ38の長さを短くして、削孔用機械26を斜面から浮き上がらせる。そして、削孔用機械26を斜面から浮いた状態を保ちつつ、ワイヤ6を巻き上げる。これにより、ワイヤ6が水平方向に変位し、削孔用機械26が、ワイヤ31〜ワイヤ33を介してワイヤ6の変位に追随して斜面から浮いた状態で変位する。これにより、削孔用機械26を安全に移動させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー工法および重機移動方法に関し、特に、アンカー工法としてはアンカー孔を削孔するための削孔用機械を容易に移動させることができるアンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の土木工事において、アンカー工法と称せられる工法が用いられている。アンカー工法が用いられる土木工事の一例としては、たとえば、斜面(法面)の安定工事が挙げられる。
安定工事においては、まず、斜面に対してアンカー孔を削孔する。その後、当該削孔したアンカー孔にアンカー材を挿入し、その間隙にセメントミルクやモルタル等を流し込む。そして、そのアンカー材に係合するように斜面上に法枠と称せられるコンクリート枠を設置し、当該法枠とアンカー材とを一体化する。これにより、斜面に対して法枠が固定され、当該法枠によっても斜面が押さえられ、アンカー材のみの場合に比べより一層表層崩壊が防止される。(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−294703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
すなわち、上記特許文献1に記載のアンカー工法を含めて、従来のアンカー工法では、アンカー孔を削孔するために削孔用機械を用いており、所定位置にアンカー孔を削孔するために、順次削孔用機械を移動させる必要がある。しかし、上記安定工事では、足場が不安定であり、また、削孔用機械を斜めにして使用するため、バランスを失いやすく、危険が伴う。たとえば、削孔用機械のバランスを失ったときには、削孔用機械が斜面から跳ね上がってしまう場合がある。
【0005】
また、一般的に、アンカー工法において高い効果を望む場合には、アンカー孔を、深さをより深く、径をより大きく削孔する必要がある。従って、斜面に法枠を強固に固定するためには、アンカー孔を、深さはより深く、径はより大きく削孔する必要がでてくる。
しかし、削孔用機械は、深く削孔できるものほど、そして、径を大きく削孔できるものほど、すなわち、性能の高いものほどその重量が大きくなる。よって、高い効果を望む場合には、重量の大きな削孔用機械を用いなければならず、さらに上述した危険性が増してしまう。
また、通常、削孔用機械の重量がせいぜい100kg程度までであれば、人力を主として移動させることも可能であるが、それ以上の重量のものになると、人力を主として移動させることが困難となる。
【0006】
そこで、上述した理由から、斜面の安定工事で性能の高い削孔用機械を用いる場合には、斜面に仮設の足場(以下、仮設足場という。)を設置して削孔用機械を移動させる必要がでてくる。
しかしながら、仮設足場を設置するにあたっては、仮設足場の設置工事が必要となり、場合によっては、その道路の整備等、本体工事以外の工費の方が高くなってしまうという新たな問題点が生じてしまう。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、性能の高い、すなわち重量の大きな削孔用機械であっても簡素な構成で安全にかつ容易に削孔用機械を移動させることのできるアンカー工法および重機移動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のアンカー工法は、斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を斜面から浮かせる浮揚工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1にかかる発明は、紐体を使用することにより人が触れることなく削孔用機械を移動させる。よって、削孔用機械を安全に移動させることができる。また、人力を主とせずに削孔用機械を移動させることができるので、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることが可能となる。
【0010】
なお、第一紐体および第二紐体は、たとえば、ワイヤを挙げることができる。また、第一紐体は、その両端をそれぞれ滑車にかけて変位させてもよく、この場合には、第一紐体をウインチにより巻き上げるようにしてもよい。
また、少なくとも第一紐体は水平方向に移動可能であればよく、必ずしも柔軟性を持つ必要はない。すなわち、本願でいう第一紐体は、たとえば、鋼の丸棒や鉄パイプのような巨視的にみると紐状に見える棒のような部材を含むものとする。
【0011】
また、請求項2に記載のアンカー工法は、請求項1に記載のアンカー工法において、前記第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記削孔用機械の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記削孔用機械を移動させるための移動用紐体であり、前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項2にかかる発明は、第一紐体が2本であるので、たとえ一本の紐体が切れるようなことがあっても、もう一本の紐体により削孔用機械を支えることができる。よって、削孔用機械を移動する際の安全性を高めることができる。
また、たとえば、削孔用機械の重量が大きくて第一紐体が一本の場合には、第一紐体を径の大きな強固な紐体とせねばならず巻取負荷が重畳的に大きくなってしまい、ウインチ自体を大がかりなものとせざるを得ない。従って、ウインチを設置等する作業も必要となり、移動作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、耐荷重用紐体を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、移動用紐体を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、移動用紐体を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0013】
また、請求項3に記載のアンカー工法は、斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、前記斜面上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整すると共に、接地している前記削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に変位させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項3にかかる発明は、簡素な構成で削孔用機械を移動させることが可能となる。
なお、削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に移動させる方法としては、たとえば、バールやハンマー等を用いて随時削孔用機械の下端部に対して横方向への力を与えることにより移動させる方法が挙げられる。
【0015】
また、請求項4に記載のアンカー工法は、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置近傍に略水平方向に第三紐体を張り、当該第三紐体と前記削孔用機械下部とを所定の遊びを持たせた状態で繋ぐ第四紐体を設けたことを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項4にかかる発明は、削孔用機械が浮揚しているときであっても第三紐体と第四紐体とにより動きが規制され安全性が増す。ゆえに、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、削孔用機械が削孔位置から離れる瞬間に跳ね上がったとしても動きが規制されるので、周囲にいる人がむやみに危険にさらされずにすむ。
【0017】
なお、第三紐体および第四紐体は、たとえば、ワイヤを挙げることができる。また、第四紐体は、長さを調整可能なものであってもよい。たとえば、第四紐体には、ウインチが備えられており、当該ウインチにより第四紐体の紐部分を巻き上げたり戻したりすることで長さを調整できるものであってもよい。このようにすれば、第二紐体および第四紐体の長さを種々に調整することで、削孔用機械を種々に傾斜させて、斜面から浮かせることができる。
また、第三紐体は略水平方向に延伸していればよく、たとえば、第一紐体と同様に鉄パイプ等であってもよいものとする。
【0018】
また、請求項5に記載のアンカー工法は、請求項4に記載のアンカー工法であって、前記第四紐体が、前記第三紐体に対して水平変位が自在であるように取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項5にかかる発明は、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。
なお、第四紐体の第三紐体への取り付けは、たとえば、第四紐体の端に環状体を取り付け、当該環状体に第三紐体を挿通する方法が挙げられる。
【0020】
また、請求項6に記載のアンカー工法は、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置近傍に略水平方向に延伸する横移動用レール体を敷設し、前記浮揚工程では、前記削孔用機械を斜面から浮かせてから当該削孔用機械下部を前記横移動用レール体に当接させ、前記横移動工程では、前記削孔用機械を前記横移動用レール体に沿わせながら立った状態で移動させることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項6にかかる発明は、削孔用機械を横移動用レール体に沿わせながら移動させるので、削孔用機械を移動させる際のバランスが安定する。よって、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。
また、各紐体および横移動用レール体を用いて削孔用機械を移動させるので、人力を主とせずに削孔用機械を移動させることができ、仮設足場を設置する必要がない。
【0022】
また、請求項7に記載のアンカー工法は、請求項6に記載のアンカー工法において、前記横移動用レール体に、逆進できないような段差が複数設けられていることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項7に記載の発明は、削孔用機械を円滑に移動させることができる。
【0024】
また、請求項8に記載のアンカー工法は、請求項6または7に記載のアンカー工法において、前記横移動用レール体が、凹条であることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項8にかかる発明は、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。
【0026】
また、請求項9に記載のアンカー工法は、請求項1または2に記載のアンカー工法において、前記第二紐体が、3本であって、それぞれ前記第一紐体に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴する。
【0027】
すなわち、請求項9にかかる発明は、削孔用機械の水平移動時に障害物等があっても随時第二紐体を第一紐体に取り付けたり取り外したりすることができるので、削孔用機械を少なくとも二本の第二紐体で保持しつつその水平移動を確保することができる。
【0028】
また、請求項10に記載のアンカー工法は、請求項1〜9のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置に沿って前記斜面の傾斜方向に延伸する縦移動用レール体を敷設し、前記第二紐体の長さを調整することにより前記削孔用機械を当該縦移動用レール体に沿わせながら前記斜面の上下方向に移動させる縦移動工程をさらに含むことを特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項10に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向にも容易に移動させることができる。これにより、原理的に対象斜面総てを本工法により網羅可能となる。
【0030】
また、請求項11に記載のアンカー工法は、請求項10に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、前記削孔用機械の下部が跳ね上がるのを防止する段差が複数設けられていることを特徴とする。
【0031】
すなわち、請求項11に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向に安全に移動させることができる。
【0032】
また、請求項12に記載のアンカー工法は、請求項10または11に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、その長手方向に沿って溝が形成されており、前記縦移動工程は、前記削孔用機械に設けられた補助車輪により前記溝に沿って削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする。
【0033】
すなわち、請求項12に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。
【0034】
また、請求項13に記載のアンカー工法は、請求項12に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、前記溝を境界として二分割可能であり、前記縦移動工程は、前記削孔用機械を所定位置まで移動させた後に、前記縦移動用レール体を分割することにより、当該削孔用機械を前記斜面に接地するものであることを特徴とする。
【0035】
すなわち、請求項13に記載の発明は、削孔用機械を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。
【0036】
また、請求項14に記載の重機移動方法は、斜面に沿って略水平方向に重機を移動させる重機移動方法であって、前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記重機を移動させる横移動工程と、を含み、前記第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記重機を移動させるための移動用紐体であり、前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記重機を移動させるものであることを特徴とする。
【0037】
すなわち、請求項14にかかる発明は、紐体を使用することにより人が触れることなく重機を移動させる。よって、重機を安全かつ容易に移動させることができる。
また、第一紐体が2本であるので、たとえ一本の紐体が切れるようなことがあっても、もう一本の紐体により重機を支えることができる。よって、重機を移動させる際の安全性を高めることができる。
また、たとえば、重機の重量が大きくて第一紐体が一本の場合には、第一紐体を径の大きな強固な紐体とせねばならず重量が大きくなる。よって、巻き取りのためのウインチとして機械式のものを用いねばならず重量が重畳的に大きくなってしまい、さらに、ウインチを設置等する作業が必要となり、作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、耐荷重用紐体を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、移動用紐体を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、移動用紐体を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな重機を移動させることが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明(請求項1に記載の発明)によれば、削孔用機械を安全に移動させることができる。また、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることができる。また、本発明(請求項2に記載の発明)によれば、削孔用機械を移動する際の安全性を高めることができる。また、本発明(請求項3に記載の発明)によれば、簡素な構成で削孔用機械を移動させることが可能となる。本発明(請求項4に記載の発明)によれば、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、本発明(請求項5に記載の発明)によれば、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。また、本発明(請求項6に記載の発明)によれば、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、本発明(請求項7に記載の発明)によれば、削孔用機械を円滑に移動させることができる。また、本発明(請求項8に記載の発明)によれば、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。また、本発明(請求項9に記載の発明)によれば、削孔用機械を少なくとも二本の第二紐体で保持しつつその水平移動を確保することができる。また、本発明(請求項10に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向にも容易に移動させることができる。また、本発明(請求項11に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向に安全に移動させることができる。また、本発明(請求項12に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。また、本発明(請求項13に記載の発明)によれば、削孔用機械を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。本発明(請求項14に記載の発明)によれば、重機を安全かつ容易に移動させることができる。
【0039】
すなわち、本発明によれば、性能の高い、すなわち重量の大きな削孔用機械であっても簡素な構成で安全にかつ容易に削孔用機械を移動させることができるアンカー工法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施の形態1にかかるアンカー工法を用いて安定工事がおこなわれた状態の斜面を示した斜視図であり、図2は、図1に示した斜面の断面図である。
図示したように、斜面Sに対して、安定工事により法枠1が設置されている。
斜面Sは、たとえば、切り土によって人工的に生じた斜面である。
【0041】
法枠1は、斜面を覆うようにして設けられることにより斜面の崩落ないし表層崩壊を防止するための部材であって、格子状に形成された長手のコンクリート枠である。法枠1は、斜面S上に格子状に配置された型枠にコンクリートを打設することにより形成され、水平方向に延伸して斜面S上に設けられている。また、法枠1の各格子の中央部分には、挿通孔2が形成されている。各挿通孔2は、所定間隔を隔てて略水平な直線上に配列されており、かつ、その配列状態は、法枠1上において、図1に示した例では、上下2段に形成されている。
斜面Sには、法枠1の各挿通孔2と重なる部分にアンカー孔3が形成されており、斜面Sに法枠1が設置された状態において、各挿通孔2と各アンカー孔3とが連通した状態となっている。図示した例では、各アンカー孔3は、10m程度の深さであり、径は約90mmである。
【0042】
各アンカー孔3および各挿通孔2には、アンカー材5が挿入されており、その間隙にはモルタル4が充填されている。また、各挿通孔2内には締結具70が設けられており、斜面Sから突出したアンカー材5の上端に取り付けられている。そして、締結具70がアンカー材5を介して法枠1を締め付けることにより、法枠1が斜面Sに対して強固に固定されている。これにより、法枠1により斜面Sが押さえつけられるので、斜面Sの表層崩壊が防止され、斜面Sの安定化を図ることができる。
【0043】
このように、法枠1を設置するにあたっては、斜面Sに複数のアンカー孔3を削孔する必要があり、後述する専用の削孔用機械を用いる。この実施形態においては、削孔用機械を用いて安全かつ円滑に作業をおこなうために、以下のように、ワイヤを用いた工法が採用される。ここでは、まず、主ワイヤの引き取りないし繰り出しについて説明し、次に、削孔用機械の移動方法について説明する。
【0044】
図3は、実施の形態1にかかるアンカー工法がおこなわれる際の斜面Sを示した斜視図である。
まず、法枠1を設置する予定の斜面Sの上空に第一紐体としてのワイヤ6を略水平方向に張る。また、斜面Sの上空であってワイヤ6の下方に第三紐体としてのワイヤ7を略水平方向に張る。このとき、ワイヤ7を、アンカー孔3の削孔位置近傍となるように斜面Sの近くに張る。
【0045】
図4は、ワイヤ6の一端側を簡略的に示した図である。
ワイヤ6の一端(図3における右側の端部)は、定滑車8を介してウインチ架台9に取り付けられている。定滑車8は、取付台10と、取付台10に設けられたローラ体11とを備えている。取付台10は、斜面S上に存在する樹木等の固定物12に取り付けられている。ローラ体11は、取付台10に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の一端側がかけられている。そして、ローラ体11は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。ウインチ架台9は、図示しないウインチを内蔵しており、当該ウインチによりワイヤ6を巻き上げることができるようになっている。このようにして、本実施の形態では、ウインチによりワイヤ6を右方向に移動させることができる。
【0046】
図5は、ワイヤ6の他端側を簡略的に示した図である。
ワイヤ6の他端(図3における左側の端部)は、複合滑車13に取り付けられている。複合滑車13は、定滑車体14と動滑車体15とを備えている。定滑車体14は、取付台16と、取付台16に設けられたローラ体17,18,19と、取付金具20とを備えている。取付台16は、斜面S上に存在する樹木等の固定物21に取り付けられている。ローラ体17〜ローラ体19は、取付台16に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の他端側が順々にかけられている。そして、ローラ体17〜ローラ体19は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。
【0047】
取付金具20は、かぎ状の金具であって、ワイヤ6の他端が取り付けられている。動滑車体15は、上下動可能な基台22と、基台22に取り付けられたローラ体23,24,25と、基台22に取り付けられたおもりWとを備えている。ローラ体23〜ローラ体25は、基台22に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の他端側が順々にかけられている。そして、ローラ体23〜ローラ体25は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。ワイヤ6の他端側は、ローラ体17→23→18→24→19→25に順々にかけられていて、その端部が取付金具20に取り付けられている。
【0048】
このようにワイヤ6には、おもりWにより重量がかけられるため、引張状態が保持される。また、動滑車体15を用いているので、本実施の形態の場合は、ワイヤ6が右に1移動するとおもりWは1/6しか移動しない。すなわち、おもりWと動滑車体15によりワイヤ6の引張状態を維持したまま安定的な繰り出しが可能となる。
【0049】
一方、ワイヤ7に関しては移動させないので、たとえば、両端を樹木等の固定物に固定させておくだけで十分である。
【0050】
図6は、削孔用機械を保持している状態を示した斜視図である。
斜面S上空に保持されたワイヤ6およびワイヤ7には、削孔用機械26が取り付けられる。
削孔用機械26は、たとえば、ロータリーパーカッションと称せられる削孔専用の機械であり、その重量はおよそ350kgである。削孔用機械26は、架台部27と本体部28とを備えている。
本体部28は、下方に突出するドリルロッド80を備えており、図示しない駆動部を駆動させることによりドリルロッド80を回転させることができるようになっている。ドリルロッド80は、その先端に削孔用ドリル81を装着することができるようになっている。
架台部27は、長手の部材であって本体部28をその長さ方向に変位可能に保持している。また、架台部27の上部には、取付部29が設けられており、下部には、当接部30が設けられている。
【0051】
取付部29には、後述のワイヤ31,32,33がそれぞれ取り付けられている。
当接部30は、架台部27の下方に向かって突出する部材であって、その下方部がゴムパット82で形成されている。
なお、削孔用機械26は、ゴムパット82から取付部29までの長さが約2.5mである。
【0052】
削孔用機械26を用いて削孔作業をおこなう場合には、架台部27の当接部30(ゴムパット82)を斜面Sの所定位置に当接させて、削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直に保持し、本体部28のドリルロッド80に削孔用ドリル81を装着する。そして、ドリルロッド80を回転させながら、本体部28を架台部27の長さ方向の下方側(斜面側)に変位させることで削孔用ドリル81によって削孔することができる。
【0053】
ワイヤ31〜ワイヤ33は、それぞれ、一端が所定間隔を保ってワイヤ6上に着脱自在に取り付けられていて、他端が削孔用機械26の取付部29に取り付けられている。また、ワイヤ31〜ワイヤ33には、それぞれ、ウインチ34〜ウインチ36が備えられている。そして、ウインチ34〜ウインチ36により、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整し、削孔時には削孔用機械26の姿勢を保持する。なお、ワイヤ31およびウインチ34、ワイヤ32およびウインチ35、ならびにワイヤ33およびウインチ36は、それぞれ第二紐体として機能する。
【0054】
なお、図面においては、便宜上、ワイヤ6上のワイヤ31の取付部分からワイヤ33の取付部分までの長さ、および、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを、削孔用機械26の長さよりも短く描いたが、実際は、ワイヤ6上のワイヤ31の取付部分からワイヤ33の取付部分までの長さは、約20m〜30mであり、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さは、約20m〜30mである。
【0055】
ワイヤ7には、環状体37が取り付けられている。
環状体37は、たとえば、環状の金具であり、その環部分をワイヤ7が挿通するようにしてワイヤ7に取り付けられている。これにより、環状体37はワイヤ7に対して水平変位が自在となっている。また、環状体37には、ワイヤ38が取り付けられている。ワイヤ38は、一端が環状体37に取り付けられていて、他端が架台部27の下部に取り付けられている。また、ワイヤ38にはウインチ40が備えられていて、ワイヤ38の長さを自在に調整し、特に削孔用機械26を地面から浮かせる際に使用する。
【0056】
図6に示した状態では、ウインチ34〜ウインチ36によりワイヤ31〜ワイヤ33が短くされていて、削孔用機械26は、斜面Sに対してほぼ垂直に起き上がった状態となっている。この状態で本体部28を動作させることにより斜面Sにアンカー孔3を削孔する。そして、削孔後は、アンカー孔3にアンカー材5およびモルタル4を挿入する(図2参照)。
【0057】
次の削孔予定位置に移動させる場合には、ウインチ34〜ウインチ36によりワイヤ31〜ワイヤ33を長くし、さらに、ウインチ40によりワイヤ38の長さを短くする。これにより架台部27の下部がワイヤ7側に引き寄せられ、削孔用機械26が斜面Sと反対方向に傾き浮き上がる。
【0058】
図7は、削孔用機械26を移動させる方法を模式的に示した図である。図では削孔用機械26を正面側からみた状態を示している。また、図8(a)〜図8(d)は、それぞれ、図7(a)〜図7(d)の削孔用機械26を側面側からみた状態を示した図である。
図7(a)および図8(a)に示したように、削孔作業をおこなう際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を短くする一方、ワイヤ38を長くし、下端(当接部30)が斜面Sに接するようにして削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直状態を保つようにする。移動の際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを長くする一方、ワイヤ38の長さを短くし、削孔用機械26を斜面Sから浮き上がらせる(図7(b)および図8(b)参照)。
【0059】
続いて、削孔用機械26を斜面Sから浮かせた状態を保ちつつ、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げる。これにより、ワイヤ6が引張方向の一端側(図では右方向)に変位し、削孔用機械26がワイヤ6の変位に追随して斜面Sから浮いた状態で変位する(図7(c)および図8(c)参照)。
そして、次のアンカー孔3を削孔すべき位置まで削孔用機械26を移動させて、ワイヤ6の巻上げを停止する。また、削孔用機械26の当接部30の位置合わせもおこなう。
最後に、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くしてワイヤ38の長さを長くし、削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直となるように姿勢を改めたのち、斜面Sに設置させる(図7(d)および図8(d)参照)。そして、削孔用機械26により次のアンカー孔3の削孔作業を開始する。
その後は、上記動作が順次繰り返される。これにより、斜面Sに対して略水平方向に順次アンカー孔3が削孔される。総ての削孔が終わった後、アンカー材5を挿入してモルタル4を充填し、斜面Sにコンクリートを打設して法枠1を設ける(図1参照)。
【0060】
図9は、削孔用機械26に障害物(木)が迫った際の回避方法を示した図であり、削孔用機械26を正面側からみた状態を模式的に示している。なお、図では木も模式的に示している。
アンカー工法では、樹木等の障害物44を残したまま削孔をおこなう必要が生じる場合がある。このとき、ワイヤ31〜ワイヤ33を順次取り外し→移動→取り付け→移動を繰り返すことにより、障害物44を回避しながら削孔用機械26を移動できる。
【0061】
具体的に説明する。障害物44がワイヤ31に迫った場合に、ワイヤ31をワイヤ6から取り外す。そして、障害物44がワイヤ31から離れた際にワイヤ31を再度ワイヤ6に取り付ける。さらに、同様に、障害物44がワイヤ32に迫った際には、ワイヤ32をワイヤ6から取り外し、その後、ワイヤ32を再度ワイヤ6に取り付ける。また、障害物44がワイヤ33に迫った際には、ワイヤ33をワイヤ6から取り外し、その後、ワイヤ33を再度ワイヤ6に取り付ける(図9(b)→図9(c)→図9(d)参照)。
【0062】
このように、障害物44が迫った際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を随時ワイヤ6から取り外し、その後、再度ワイヤ6に取り付けることで、削孔用機械26やワイヤ31〜ワイヤ33が障害物44と接触するのを回避することができる。そして、ワイヤ6に取り付けられているワイヤは、ワイヤ31〜ワイヤ33の三本であるため、障害物44との接触を回避しながら、常にワイヤ31〜ワイヤ33のうちの二本がワイヤ6に取り付けられた状態を維持することができる。
【0063】
以上のように、この実施形態では、各ワイヤを使用することによって、人が削孔用機械26に触れることなく削孔用機械26を浮かせて移動させることができる。よって、削孔用機械26を安全に移動させることができる。しかも、人力を主とせずに削孔用機械26を移動させることができるので、重量の大きな削孔用機械26であっても容易に移動させることができる。ゆえに、別途仮設足場を設置する必要がない。
また、ワイヤ7と削孔用機械26の下部とが、環状体37およびワイヤ38を介して繋がれているので、削孔用機械26が浮揚しているときであっても動きが規制され安全性が増す。ゆえに、削孔用機械26を一層安全に移動させることができる。また、削孔用機械26が削孔位置から離れる瞬間に跳ね上がったとしても動きが規制されるので、周囲にいる人がむやみに危険にさらされずにすむ。
【0064】
また、ワイヤ6を変位させるのみで、それに追随して削孔用機械26が移動する。よって、削孔用機械26を滑らかに移動させることができる。
【0065】
また、ワイヤ31〜ワイヤ33はワイヤ6に対して着脱自在であり、かつ、三本であるので、そのうちの一本をワイヤ6から取り外したとしても、残りの二本がワイヤ6に取り付けられた状態であり、削孔用機械26のバランスが依然として安定する。よって、削孔用機械26を保持しつつその水平移動を確保することができる。
【0066】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2にかかるアンカー工法に用いられる横移動用レール体を示した斜視図である。なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることにより説明を省略する。
図示したように、この実施形態においては、斜面S上には、略水平方向に延伸する横移動用レール体50が敷設される。
横移動用レール体50は、長手の部材であって、その長手方向に沿って一定間隔ごとに段差51が形成されている。また、その幅方向の一方側(下側)には、横移動用レール体50の長手方向に沿って立ち上がるレール板52が形成されている。
【0067】
削孔用機械26を移動させる際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くして削孔用機械26を斜面Sから浮かせた後、さらに、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整して(図6参照)、削孔用機械26の下部を横移動用レール体50に当接させる。そして、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げることにより、削孔用機械26を横移動用レール体50のレール板52に沿わせながら、立った状態でワイヤ6の変位に追随して移動させる。
このとき、削孔用機械26の下部が削孔用機械26の移動方向に対して逆進した場合であっても、その下部が段差51に係合し、その逆進が防止される。
【0068】
このように、削孔用機械26を横移動用レール体50に沿わせながら移動させるので、削孔用機械26を移動させる際のバランスが安定する。よって、削孔用機械26を一層安全に移動させることができる。
また、ワイヤ31〜ワイヤ33および横移動用レール体50を用いて削孔用機械26を移動させるので、人力を主とせずに削孔用機械26を移動させることができ、仮設足場を設置する必要がない。
また、横移動用レール体50には複数の段差51が形成されているので、削孔用機械26を円滑に移動させることができる。
【0069】
なお、図11に示したように、斜面S上に横移動用レール体50に替え横移動用レール体60を敷設してもよい。なお、図11では、横移動用レール体60の一部が切断された状態を示した。
図示したように、横移動用レール体60は、凹条の長手の部材であって、その上面に凹条部61が形成されている。
【0070】
削孔用機械26を移動させる際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くして削孔用機械26を斜面Sから浮かせた後、さらに、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整して(図6参照)、削孔用機械26の下部を横移動用レール体60の凹条部61に当接させる。そして、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げることにより、削孔用機械26を横移動用レール体60の凹条部61に沿わせながら、立った状態でワイヤ6の変位に追随して移動させる。
【0071】
このように、横移動用レール体60が凹条であるので、削孔用機械26を滑らかに移動させることができる。なお、横移動用レール体50に横移動用レール体60と同様に凹条が形成されていてもよい。
【0072】
実施の形態3.
実施の形態1においては、削孔用機械26の水平方向の移動について説明したが、本実施形態では、削孔用機械26の縦方向の移動について説明する。
図12は、実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる削孔用機械26を示した斜視図である。なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
図では、水平方向の削孔が終わった後、削孔用機械26を縦方向に移動させる直前の様子を示した。なお、図における破線は、斜面Sに予め引かれる法枠設置予定場所としての線である。
【0073】
図示したように、この実施形態においては、削孔用機械26に縦移動用ガイドローラ71が取り付けられる。
縦移動用ガイドローラ71は、削孔用機械26に着脱自在に取り付けられる長手の部材であって、その先端に補助車輪72を備えている。
【0074】
図13は、実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる縦移動用レール体90を示した斜視図であり、図14は、縦移動用レール体90を用いて削孔用機械26を斜面Sの下方向に移動させる様子を模式的に示した図である。
縦移動用レール体90は、斜面Sの傾斜方向に延伸するように敷設される長手の部材であって、その長さは、法枠間隔にあわせた2m程度のものであり、長手方向に沿って一定間隔ごとに段差91が形成されている。また、縦移動用レール体90には、その長手方向に沿って溝92が形成されており、溝92により右レール体93と左レール体94とに二分割されている。
【0075】
右レール体93の先端には右把持棒95が設けられている。左レール体94の先端には左把持棒96が設けられている。そして、通常は、図示しないフックなどで、右レール体93と左レール体94とが一定間隔を保つようにして一体的に保持されている。
また、縦移動用レール体90の先端部分には、設置用孔97が形成されている。
【0076】
縦移動に際しては、まず、削孔用機械26に縦移動用ガイドローラ71を取り付け、斜面Sの傾斜方向に沿って縦移動用レール体90を敷設する。このとき、次のアンカー孔3の削孔位置近傍に設置用孔97が位置するように縦移動用レール体90を敷設する。
削孔用機械26を斜面Sの下方向に移動させる際には、ワイヤ31およびワイヤ33の長さを長くすることにより、補助車輪72を溝92に沿わせながら、斜面Sの下方向に移動させる。このとき、段差91により削孔用機械26の下部の跳ね上がりが防止される。
【0077】
削孔用機械26を縦移動用レール体90の先端部分まで移動させると、当接部30のゴムパット82が設置用孔97に入り込んで斜面Sに接触し、削孔用機械26が設置される。そして、縦移動用レール体90に取り付けられているフックを外し、右把持棒95および左把持棒96を把持して右レール体93と左レール体94とを分割し(図13参照)、縦移動用レール体90を斜面Sから撤去する。このようにして、削孔用機械26が斜面Sの下方向に移動されて設置される。
【0078】
その後は、たとえば、上記実施形態と同様にして削孔用機械26を水平方向に移動させる。そして、上記動作と同様にして縦移動用レール体90を上方に向けて敷設し、ワイヤ31およびワイヤ33の長さを短くすることにより、補助車輪72を溝92に沿わせながら、斜面Sの上方向に移動させる。
このようにすることで、削孔用機械26を上下方向に容易に移動させることができる。なお、削孔用機械26を上方に移動させる場合には、削孔用機械26を上方に移動させる専用のレール体を用いてもよく、その際には、段差を設けていないレール体を用いてもよい。
【0079】
このように、縦移動用レール体90を用いるので、削孔用機械26を斜面Sの上下方向にも容易に移動させることができる。これにより、原理的に対象斜面総てを本工法により網羅可能となる。
また、縦移動用レール体90には段差91が設けられているので、削孔用機械26の跳ね上がりが防止され、削孔用機械26を斜面Sの上下方向に安全に移動させることができる。
また、削孔用機械26を補助車輪72を溝92に沿わせながら移動させるので、削孔用機械26を斜面Sの上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。
また、縦移動用レール体90は、右レール体93と左レール体94とに分割することができるので、削孔用機械26を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。
【0080】
また、縦移動用ガイドローラ71は、削孔用機械26上において、削孔用機械26の重心よりも上方となる位置に取り付けられるのが、移動の安定上好ましい。
また、縦移動用レール体90は、その長さが斜面Sの傾斜方向において並列する各アンカー孔3の間隔と同程度の長さであることが好ましい。
また、縦移動用レール体90は、右レール体93の上端および左レール体94の上端にそれぞれヒンジが設けられており、右レール体93および左レール体94をそれぞれヒンジを中心として回転させることにより分割されるものであってもよい。
また、削孔用機械26を縦方向に移動させる際に、ワイヤ31とワイヤ33との間隔を広げて、削孔用機械26を安定させる工程が含まれてもよい。
【0081】
実施の形態4.
図15は、実施の形態4にかかるアンカー工法における削孔用機械26の移動方法を模式的に示した図である。
なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
【0082】
本実施形態では、ワイヤ31およびワイヤ32の一端をそれぞれ斜面S上の木等の固定物に直接取り付ける。そして、ワイヤ31およびワイヤ32の他端をそれぞれ削孔用機械26の上部に取り付ける。このようにした後、ワイヤ31およびワイヤ32の長さを調節することにより削孔用機械26を水平方向に移動させる。すなわち、本実施形態では、ワイヤを斜面上空に略水平方向に張る工程を省くことができる。
【0083】
具体的には、まず、削孔用機械26を移動させる方向側にある固定物にワイヤ31の一端を取り付け、その他端を削孔用機械26に取り付ける。また、削孔用機械26近傍の固定物にワイヤ32の一端を取り付け、その他端を削孔用機械26に取り付ける(図15(a)参照)。そして、ワイヤ32の長さを長くすると共にワイヤ31の長さを短くして、削孔用機械26の上部を移動方向に傾ける(図15(b)参照)。
【0084】
削孔用機械26を傾けた後は、たとえば、バールやハンマー等を用いて削孔用機械26の下部に対して水平方向への力を加えることにより削孔用機械26の下部を水平方向に移動させ、削孔用機械26を垂直な状態で保持する(図15(b)参照)。その後は、上記した動作を繰り返しおこなう。このようにして削孔用機械26をワイヤ31およびワイヤ32の長さを調節するのみで移動させる。
【0085】
以上のように、本実施形態では、ワイヤ31およびワイヤ32の長さを調整するのみで削孔用機械26を移動させるので、簡素な構成を実現することが可能となる。
なお、削孔用機械26に取り付けるワイヤの数は、2本に限らず3本以上であってもよい。
【0086】
実施の形態5.
図16は、実施の形態5にかかるアンカー工法における削孔用機械26の移動方法を模式的に示した図である。
なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
【0087】
本実施形態では、ワイヤ6としてワイヤ61およびワイヤ62の2本のワイヤを略水平方向に張っている。
具体的には、ワイヤ61を略水平方向に固定して張り、ワイヤ62を略水平方向にウインチによる巻取移動可能に張っている。
ワイヤ61は、削孔用機械26の重量負荷を主として担うためのものであり、径の大きな強固なワイヤである。図示はされないが、ワイヤ61は、削孔用機械26の横移動に関してそれ自体は移動しないものであって、作業の初期に現場の木等の固定物に固定的に一回取り付けられるものである。
ワイヤ62は、削孔用機械26の重量負荷を担うとともに削孔用機械26を移動させるためのものであり、相対的に径の小さなワイヤである。図示はされないが、その端部は手動のウインチに取り付けられていて、手動でワイヤ62を巻取可能となっている。
このように、本実施形態では、ワイヤ61およびワイヤ62の2本の紐体が略水平方向に張られる。よって、削孔用機械26が2本の紐体により支えられることになるので、たとえ、1本の紐体が切れてももう1本のワイヤにより削孔用機械26が支えられる。また、削孔用機械26が重いものであれば、その重量はワイヤ61が担うので、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることができる。すなわち、2本のワイヤを用いることにより安全性をより高め(相互補償をおこない)、かつ、簡素な構成ないし能力の高くないウインチを用いて人力では移動できないような重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0088】
また、ワイヤ61およびワイヤ62には3つの取付具63が取り付けられている。
図17は、取付具63の構成を示した断面図である。
取付具63は、略直方体形状であって、第一挿通孔631および第二挿通孔632を有している。
第一挿通孔631は径を大きくしており、その内方にワイヤ61が挿通されている。このため、ワイヤ61に対して第一挿通孔631が移動可能な状態となっている。
第二挿通孔632にはワイヤ62が挿通されており、第二挿通孔632とワイヤ62とが固定された状態となっている。
また、各取付具63には、それぞれ別個にワイヤ31〜ワイヤ33が取り付けられている。
【0089】
図18は、取付具63を横側から(矢印A側から)みた状態の断面図である。
取付具63には、切断面633が形成されており、この切断面633部分で2分割可能であって、図示しないボルトによって締め付けたり緩めたりすることが可能となっている。これにより、削孔用機械26を移動している際に障害物等が迫った場合には、取付具63を切断面633で2分割し、取付具63とワイヤ61およびワイヤ62を離して接触を回避できるようになっている。その後は、ボルトを締め付けることでワイヤ62を強固に咬持し取付具63を介して削孔用機械26を移動させることができる。
【0090】
このような構成により、ワイヤ62を水平方向に移動させると、取付具63がワイヤ61上を滑るようにして変位し、ワイヤ31〜ワイヤ33を介して削孔用機械26が水平方向に変位する。なお第一挿通孔631内には、適宜滑りをよくするベアリングや滑車などが設けられているものとする。
【0091】
このように、2本のワイヤ61およびワイヤ62を用いるので削孔用機械26を移動する際の安全性を高めることができる。
たとえば、削孔用機械26の重量が大きくてワイヤが一本の場合には、ワイヤを径の大きな強固な紐体とせねばならず重量が大きくなる。よって、巻き取りのためのウインチとして機械式のものを用いねばならず重量が重畳的に大きくなってしまい、さらに、ウインチを設置等する作業が必要となり、作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、ワイヤ61を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、ワイヤ62を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、ワイヤ62を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0092】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、上記実施形態においては、削孔用機械26を移動させる際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を長くするとして説明したが、ワイヤ31〜ワイヤ33を短くして削孔用機械26を吊り上げるようにして斜面Sから浮かせてもよい。
また、ワイヤ6は水平方向に変位するように斜面Sの上空に保持されていればよく、上述の構成によるものに限らない。
また、上述の説明では、斜面Sにアンカー孔3を削孔した後、斜面S上に法枠1を設けるとしたが、斜面Sに法枠1を設置した後に斜面Sに対してアンカー孔3を削孔してもよい。
この方法によれば、従来人力により移動が可能であったせいぜい100kg程度の削孔用機械を超え、たとえば400kg程度の削孔用機械も足場を設けずに移動可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
なお、上述した方法は、削孔用機械のみならず、広く重機一般に利用することが可能である。すなわち、斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、第一紐体を水平方向に移動させることにより重機を移動させる横移動工程と、を含み、第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、重機を移動させるための移動用紐体であり、耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、横移動工程は、移動用紐体を移動させることにより取付具を介して重機を移動させるものである重機移動方法とすることもできる。すなわち、たとえば400kg以上の重機も足場を設けずに移動可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施の形態1にかかるアンカー工法を用いて安定工事がおこなわれた状態の斜面を示した斜視図である。
【図2】図1に示した斜面の断面図である。
【図3】実施の形態1にかかるアンカー工法がおこなわれている状態の斜面Sを示した斜視図である。
【図4】ワイヤの一端側を簡略的に示した図である。
【図5】ワイヤの他端側を簡略的に示した図である。
【図6】削孔用機械を保持している状態を示した斜視図である。
【図7】削孔用機械を移動させる方法を示した図である。
【図8】図7の削孔用機械を側面側からみた状態を示した図である。
【図9】削孔用機械に障害物が迫った際の回避方法を示した図である。
【図10】実施の形態2にかかるアンカー工法に用いられるレール体を示した斜視図である。
【図11】レール体の変形例を示した斜視図である。
【図12】実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる削孔用機械を示した斜視図である
【図13】実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる縦移動用レール体を示した斜視図である。
【図14】削孔用機械を斜面の下方向に移動させる様子を模式的に示した図である。
【図15】実施の形態4にかかるアンカー工法における削孔用機械の移動方法を模式的に示した図である。
【図16】実施の形態5にかかるアンカー工法における削孔用機械の移動方法を模式的に示した図である。
【図17】取付具の構成を示した断面図である。
【図18】取付具を他の方向からみた状態の断面図である。
【符号の説明】
【0095】
3 アンカー孔
6,7,31〜33,38,61,62 ワイヤ
26 削孔用機械
34〜36,40 ウインチ
37 環状体
63 取付具
50,60 横移動用レール体
51,91 段差
72 補助車輪
90 縦移動用レール体
92 溝
S 斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー工法および重機移動方法に関し、特に、アンカー工法としてはアンカー孔を削孔するための削孔用機械を容易に移動させることができるアンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の土木工事において、アンカー工法と称せられる工法が用いられている。アンカー工法が用いられる土木工事の一例としては、たとえば、斜面(法面)の安定工事が挙げられる。
安定工事においては、まず、斜面に対してアンカー孔を削孔する。その後、当該削孔したアンカー孔にアンカー材を挿入し、その間隙にセメントミルクやモルタル等を流し込む。そして、そのアンカー材に係合するように斜面上に法枠と称せられるコンクリート枠を設置し、当該法枠とアンカー材とを一体化する。これにより、斜面に対して法枠が固定され、当該法枠によっても斜面が押さえられ、アンカー材のみの場合に比べより一層表層崩壊が防止される。(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−294703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
すなわち、上記特許文献1に記載のアンカー工法を含めて、従来のアンカー工法では、アンカー孔を削孔するために削孔用機械を用いており、所定位置にアンカー孔を削孔するために、順次削孔用機械を移動させる必要がある。しかし、上記安定工事では、足場が不安定であり、また、削孔用機械を斜めにして使用するため、バランスを失いやすく、危険が伴う。たとえば、削孔用機械のバランスを失ったときには、削孔用機械が斜面から跳ね上がってしまう場合がある。
【0005】
また、一般的に、アンカー工法において高い効果を望む場合には、アンカー孔を、深さをより深く、径をより大きく削孔する必要がある。従って、斜面に法枠を強固に固定するためには、アンカー孔を、深さはより深く、径はより大きく削孔する必要がでてくる。
しかし、削孔用機械は、深く削孔できるものほど、そして、径を大きく削孔できるものほど、すなわち、性能の高いものほどその重量が大きくなる。よって、高い効果を望む場合には、重量の大きな削孔用機械を用いなければならず、さらに上述した危険性が増してしまう。
また、通常、削孔用機械の重量がせいぜい100kg程度までであれば、人力を主として移動させることも可能であるが、それ以上の重量のものになると、人力を主として移動させることが困難となる。
【0006】
そこで、上述した理由から、斜面の安定工事で性能の高い削孔用機械を用いる場合には、斜面に仮設の足場(以下、仮設足場という。)を設置して削孔用機械を移動させる必要がでてくる。
しかしながら、仮設足場を設置するにあたっては、仮設足場の設置工事が必要となり、場合によっては、その道路の整備等、本体工事以外の工費の方が高くなってしまうという新たな問題点が生じてしまう。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、性能の高い、すなわち重量の大きな削孔用機械であっても簡素な構成で安全にかつ容易に削孔用機械を移動させることのできるアンカー工法および重機移動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のアンカー工法は、斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を斜面から浮かせる浮揚工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1にかかる発明は、紐体を使用することにより人が触れることなく削孔用機械を移動させる。よって、削孔用機械を安全に移動させることができる。また、人力を主とせずに削孔用機械を移動させることができるので、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることが可能となる。
【0010】
なお、第一紐体および第二紐体は、たとえば、ワイヤを挙げることができる。また、第一紐体は、その両端をそれぞれ滑車にかけて変位させてもよく、この場合には、第一紐体をウインチにより巻き上げるようにしてもよい。
また、少なくとも第一紐体は水平方向に移動可能であればよく、必ずしも柔軟性を持つ必要はない。すなわち、本願でいう第一紐体は、たとえば、鋼の丸棒や鉄パイプのような巨視的にみると紐状に見える棒のような部材を含むものとする。
【0011】
また、請求項2に記載のアンカー工法は、請求項1に記載のアンカー工法において、前記第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記削孔用機械の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記削孔用機械を移動させるための移動用紐体であり、前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項2にかかる発明は、第一紐体が2本であるので、たとえ一本の紐体が切れるようなことがあっても、もう一本の紐体により削孔用機械を支えることができる。よって、削孔用機械を移動する際の安全性を高めることができる。
また、たとえば、削孔用機械の重量が大きくて第一紐体が一本の場合には、第一紐体を径の大きな強固な紐体とせねばならず巻取負荷が重畳的に大きくなってしまい、ウインチ自体を大がかりなものとせざるを得ない。従って、ウインチを設置等する作業も必要となり、移動作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、耐荷重用紐体を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、移動用紐体を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、移動用紐体を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0013】
また、請求項3に記載のアンカー工法は、斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、前記斜面上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整すると共に、接地している前記削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に変位させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項3にかかる発明は、簡素な構成で削孔用機械を移動させることが可能となる。
なお、削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に移動させる方法としては、たとえば、バールやハンマー等を用いて随時削孔用機械の下端部に対して横方向への力を与えることにより移動させる方法が挙げられる。
【0015】
また、請求項4に記載のアンカー工法は、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置近傍に略水平方向に第三紐体を張り、当該第三紐体と前記削孔用機械下部とを所定の遊びを持たせた状態で繋ぐ第四紐体を設けたことを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項4にかかる発明は、削孔用機械が浮揚しているときであっても第三紐体と第四紐体とにより動きが規制され安全性が増す。ゆえに、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、削孔用機械が削孔位置から離れる瞬間に跳ね上がったとしても動きが規制されるので、周囲にいる人がむやみに危険にさらされずにすむ。
【0017】
なお、第三紐体および第四紐体は、たとえば、ワイヤを挙げることができる。また、第四紐体は、長さを調整可能なものであってもよい。たとえば、第四紐体には、ウインチが備えられており、当該ウインチにより第四紐体の紐部分を巻き上げたり戻したりすることで長さを調整できるものであってもよい。このようにすれば、第二紐体および第四紐体の長さを種々に調整することで、削孔用機械を種々に傾斜させて、斜面から浮かせることができる。
また、第三紐体は略水平方向に延伸していればよく、たとえば、第一紐体と同様に鉄パイプ等であってもよいものとする。
【0018】
また、請求項5に記載のアンカー工法は、請求項4に記載のアンカー工法であって、前記第四紐体が、前記第三紐体に対して水平変位が自在であるように取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項5にかかる発明は、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。
なお、第四紐体の第三紐体への取り付けは、たとえば、第四紐体の端に環状体を取り付け、当該環状体に第三紐体を挿通する方法が挙げられる。
【0020】
また、請求項6に記載のアンカー工法は、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置近傍に略水平方向に延伸する横移動用レール体を敷設し、前記浮揚工程では、前記削孔用機械を斜面から浮かせてから当該削孔用機械下部を前記横移動用レール体に当接させ、前記横移動工程では、前記削孔用機械を前記横移動用レール体に沿わせながら立った状態で移動させることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項6にかかる発明は、削孔用機械を横移動用レール体に沿わせながら移動させるので、削孔用機械を移動させる際のバランスが安定する。よって、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。
また、各紐体および横移動用レール体を用いて削孔用機械を移動させるので、人力を主とせずに削孔用機械を移動させることができ、仮設足場を設置する必要がない。
【0022】
また、請求項7に記載のアンカー工法は、請求項6に記載のアンカー工法において、前記横移動用レール体に、逆進できないような段差が複数設けられていることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項7に記載の発明は、削孔用機械を円滑に移動させることができる。
【0024】
また、請求項8に記載のアンカー工法は、請求項6または7に記載のアンカー工法において、前記横移動用レール体が、凹条であることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項8にかかる発明は、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。
【0026】
また、請求項9に記載のアンカー工法は、請求項1または2に記載のアンカー工法において、前記第二紐体が、3本であって、それぞれ前記第一紐体に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴する。
【0027】
すなわち、請求項9にかかる発明は、削孔用機械の水平移動時に障害物等があっても随時第二紐体を第一紐体に取り付けたり取り外したりすることができるので、削孔用機械を少なくとも二本の第二紐体で保持しつつその水平移動を確保することができる。
【0028】
また、請求項10に記載のアンカー工法は、請求項1〜9のいずれか一つに記載のアンカー工法において、削孔位置に沿って前記斜面の傾斜方向に延伸する縦移動用レール体を敷設し、前記第二紐体の長さを調整することにより前記削孔用機械を当該縦移動用レール体に沿わせながら前記斜面の上下方向に移動させる縦移動工程をさらに含むことを特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項10に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向にも容易に移動させることができる。これにより、原理的に対象斜面総てを本工法により網羅可能となる。
【0030】
また、請求項11に記載のアンカー工法は、請求項10に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、前記削孔用機械の下部が跳ね上がるのを防止する段差が複数設けられていることを特徴とする。
【0031】
すなわち、請求項11に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向に安全に移動させることができる。
【0032】
また、請求項12に記載のアンカー工法は、請求項10または11に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、その長手方向に沿って溝が形成されており、前記縦移動工程は、前記削孔用機械に設けられた補助車輪により前記溝に沿って削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする。
【0033】
すなわち、請求項12に記載の発明は、削孔用機械を斜面の上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。
【0034】
また、請求項13に記載のアンカー工法は、請求項12に記載のアンカー工法において、前記縦移動用レール体は、前記溝を境界として二分割可能であり、前記縦移動工程は、前記削孔用機械を所定位置まで移動させた後に、前記縦移動用レール体を分割することにより、当該削孔用機械を前記斜面に接地するものであることを特徴とする。
【0035】
すなわち、請求項13に記載の発明は、削孔用機械を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。
【0036】
また、請求項14に記載の重機移動方法は、斜面に沿って略水平方向に重機を移動させる重機移動方法であって、前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記重機を移動させる横移動工程と、を含み、前記第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記重機を移動させるための移動用紐体であり、前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記重機を移動させるものであることを特徴とする。
【0037】
すなわち、請求項14にかかる発明は、紐体を使用することにより人が触れることなく重機を移動させる。よって、重機を安全かつ容易に移動させることができる。
また、第一紐体が2本であるので、たとえ一本の紐体が切れるようなことがあっても、もう一本の紐体により重機を支えることができる。よって、重機を移動させる際の安全性を高めることができる。
また、たとえば、重機の重量が大きくて第一紐体が一本の場合には、第一紐体を径の大きな強固な紐体とせねばならず重量が大きくなる。よって、巻き取りのためのウインチとして機械式のものを用いねばならず重量が重畳的に大きくなってしまい、さらに、ウインチを設置等する作業が必要となり、作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、耐荷重用紐体を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、移動用紐体を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、移動用紐体を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな重機を移動させることが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明(請求項1に記載の発明)によれば、削孔用機械を安全に移動させることができる。また、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることができる。また、本発明(請求項2に記載の発明)によれば、削孔用機械を移動する際の安全性を高めることができる。また、本発明(請求項3に記載の発明)によれば、簡素な構成で削孔用機械を移動させることが可能となる。本発明(請求項4に記載の発明)によれば、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、本発明(請求項5に記載の発明)によれば、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。また、本発明(請求項6に記載の発明)によれば、削孔用機械を一層安全に移動させることができる。また、本発明(請求項7に記載の発明)によれば、削孔用機械を円滑に移動させることができる。また、本発明(請求項8に記載の発明)によれば、削孔用機械を滑らかに移動させることができる。また、本発明(請求項9に記載の発明)によれば、削孔用機械を少なくとも二本の第二紐体で保持しつつその水平移動を確保することができる。また、本発明(請求項10に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向にも容易に移動させることができる。また、本発明(請求項11に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向に安全に移動させることができる。また、本発明(請求項12に記載の発明)によれば、削孔用機械を斜面の上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。また、本発明(請求項13に記載の発明)によれば、削孔用機械を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。本発明(請求項14に記載の発明)によれば、重機を安全かつ容易に移動させることができる。
【0039】
すなわち、本発明によれば、性能の高い、すなわち重量の大きな削孔用機械であっても簡素な構成で安全にかつ容易に削孔用機械を移動させることができるアンカー工法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施の形態1にかかるアンカー工法を用いて安定工事がおこなわれた状態の斜面を示した斜視図であり、図2は、図1に示した斜面の断面図である。
図示したように、斜面Sに対して、安定工事により法枠1が設置されている。
斜面Sは、たとえば、切り土によって人工的に生じた斜面である。
【0041】
法枠1は、斜面を覆うようにして設けられることにより斜面の崩落ないし表層崩壊を防止するための部材であって、格子状に形成された長手のコンクリート枠である。法枠1は、斜面S上に格子状に配置された型枠にコンクリートを打設することにより形成され、水平方向に延伸して斜面S上に設けられている。また、法枠1の各格子の中央部分には、挿通孔2が形成されている。各挿通孔2は、所定間隔を隔てて略水平な直線上に配列されており、かつ、その配列状態は、法枠1上において、図1に示した例では、上下2段に形成されている。
斜面Sには、法枠1の各挿通孔2と重なる部分にアンカー孔3が形成されており、斜面Sに法枠1が設置された状態において、各挿通孔2と各アンカー孔3とが連通した状態となっている。図示した例では、各アンカー孔3は、10m程度の深さであり、径は約90mmである。
【0042】
各アンカー孔3および各挿通孔2には、アンカー材5が挿入されており、その間隙にはモルタル4が充填されている。また、各挿通孔2内には締結具70が設けられており、斜面Sから突出したアンカー材5の上端に取り付けられている。そして、締結具70がアンカー材5を介して法枠1を締め付けることにより、法枠1が斜面Sに対して強固に固定されている。これにより、法枠1により斜面Sが押さえつけられるので、斜面Sの表層崩壊が防止され、斜面Sの安定化を図ることができる。
【0043】
このように、法枠1を設置するにあたっては、斜面Sに複数のアンカー孔3を削孔する必要があり、後述する専用の削孔用機械を用いる。この実施形態においては、削孔用機械を用いて安全かつ円滑に作業をおこなうために、以下のように、ワイヤを用いた工法が採用される。ここでは、まず、主ワイヤの引き取りないし繰り出しについて説明し、次に、削孔用機械の移動方法について説明する。
【0044】
図3は、実施の形態1にかかるアンカー工法がおこなわれる際の斜面Sを示した斜視図である。
まず、法枠1を設置する予定の斜面Sの上空に第一紐体としてのワイヤ6を略水平方向に張る。また、斜面Sの上空であってワイヤ6の下方に第三紐体としてのワイヤ7を略水平方向に張る。このとき、ワイヤ7を、アンカー孔3の削孔位置近傍となるように斜面Sの近くに張る。
【0045】
図4は、ワイヤ6の一端側を簡略的に示した図である。
ワイヤ6の一端(図3における右側の端部)は、定滑車8を介してウインチ架台9に取り付けられている。定滑車8は、取付台10と、取付台10に設けられたローラ体11とを備えている。取付台10は、斜面S上に存在する樹木等の固定物12に取り付けられている。ローラ体11は、取付台10に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の一端側がかけられている。そして、ローラ体11は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。ウインチ架台9は、図示しないウインチを内蔵しており、当該ウインチによりワイヤ6を巻き上げることができるようになっている。このようにして、本実施の形態では、ウインチによりワイヤ6を右方向に移動させることができる。
【0046】
図5は、ワイヤ6の他端側を簡略的に示した図である。
ワイヤ6の他端(図3における左側の端部)は、複合滑車13に取り付けられている。複合滑車13は、定滑車体14と動滑車体15とを備えている。定滑車体14は、取付台16と、取付台16に設けられたローラ体17,18,19と、取付金具20とを備えている。取付台16は、斜面S上に存在する樹木等の固定物21に取り付けられている。ローラ体17〜ローラ体19は、取付台16に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の他端側が順々にかけられている。そして、ローラ体17〜ローラ体19は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。
【0047】
取付金具20は、かぎ状の金具であって、ワイヤ6の他端が取り付けられている。動滑車体15は、上下動可能な基台22と、基台22に取り付けられたローラ体23,24,25と、基台22に取り付けられたおもりWとを備えている。ローラ体23〜ローラ体25は、基台22に対して回転可能に取り付けられており、ワイヤ6の他端側が順々にかけられている。そして、ローラ体23〜ローラ体25は、ワイヤ6の変位に伴って回転するようになっている。ワイヤ6の他端側は、ローラ体17→23→18→24→19→25に順々にかけられていて、その端部が取付金具20に取り付けられている。
【0048】
このようにワイヤ6には、おもりWにより重量がかけられるため、引張状態が保持される。また、動滑車体15を用いているので、本実施の形態の場合は、ワイヤ6が右に1移動するとおもりWは1/6しか移動しない。すなわち、おもりWと動滑車体15によりワイヤ6の引張状態を維持したまま安定的な繰り出しが可能となる。
【0049】
一方、ワイヤ7に関しては移動させないので、たとえば、両端を樹木等の固定物に固定させておくだけで十分である。
【0050】
図6は、削孔用機械を保持している状態を示した斜視図である。
斜面S上空に保持されたワイヤ6およびワイヤ7には、削孔用機械26が取り付けられる。
削孔用機械26は、たとえば、ロータリーパーカッションと称せられる削孔専用の機械であり、その重量はおよそ350kgである。削孔用機械26は、架台部27と本体部28とを備えている。
本体部28は、下方に突出するドリルロッド80を備えており、図示しない駆動部を駆動させることによりドリルロッド80を回転させることができるようになっている。ドリルロッド80は、その先端に削孔用ドリル81を装着することができるようになっている。
架台部27は、長手の部材であって本体部28をその長さ方向に変位可能に保持している。また、架台部27の上部には、取付部29が設けられており、下部には、当接部30が設けられている。
【0051】
取付部29には、後述のワイヤ31,32,33がそれぞれ取り付けられている。
当接部30は、架台部27の下方に向かって突出する部材であって、その下方部がゴムパット82で形成されている。
なお、削孔用機械26は、ゴムパット82から取付部29までの長さが約2.5mである。
【0052】
削孔用機械26を用いて削孔作業をおこなう場合には、架台部27の当接部30(ゴムパット82)を斜面Sの所定位置に当接させて、削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直に保持し、本体部28のドリルロッド80に削孔用ドリル81を装着する。そして、ドリルロッド80を回転させながら、本体部28を架台部27の長さ方向の下方側(斜面側)に変位させることで削孔用ドリル81によって削孔することができる。
【0053】
ワイヤ31〜ワイヤ33は、それぞれ、一端が所定間隔を保ってワイヤ6上に着脱自在に取り付けられていて、他端が削孔用機械26の取付部29に取り付けられている。また、ワイヤ31〜ワイヤ33には、それぞれ、ウインチ34〜ウインチ36が備えられている。そして、ウインチ34〜ウインチ36により、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整し、削孔時には削孔用機械26の姿勢を保持する。なお、ワイヤ31およびウインチ34、ワイヤ32およびウインチ35、ならびにワイヤ33およびウインチ36は、それぞれ第二紐体として機能する。
【0054】
なお、図面においては、便宜上、ワイヤ6上のワイヤ31の取付部分からワイヤ33の取付部分までの長さ、および、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを、削孔用機械26の長さよりも短く描いたが、実際は、ワイヤ6上のワイヤ31の取付部分からワイヤ33の取付部分までの長さは、約20m〜30mであり、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さは、約20m〜30mである。
【0055】
ワイヤ7には、環状体37が取り付けられている。
環状体37は、たとえば、環状の金具であり、その環部分をワイヤ7が挿通するようにしてワイヤ7に取り付けられている。これにより、環状体37はワイヤ7に対して水平変位が自在となっている。また、環状体37には、ワイヤ38が取り付けられている。ワイヤ38は、一端が環状体37に取り付けられていて、他端が架台部27の下部に取り付けられている。また、ワイヤ38にはウインチ40が備えられていて、ワイヤ38の長さを自在に調整し、特に削孔用機械26を地面から浮かせる際に使用する。
【0056】
図6に示した状態では、ウインチ34〜ウインチ36によりワイヤ31〜ワイヤ33が短くされていて、削孔用機械26は、斜面Sに対してほぼ垂直に起き上がった状態となっている。この状態で本体部28を動作させることにより斜面Sにアンカー孔3を削孔する。そして、削孔後は、アンカー孔3にアンカー材5およびモルタル4を挿入する(図2参照)。
【0057】
次の削孔予定位置に移動させる場合には、ウインチ34〜ウインチ36によりワイヤ31〜ワイヤ33を長くし、さらに、ウインチ40によりワイヤ38の長さを短くする。これにより架台部27の下部がワイヤ7側に引き寄せられ、削孔用機械26が斜面Sと反対方向に傾き浮き上がる。
【0058】
図7は、削孔用機械26を移動させる方法を模式的に示した図である。図では削孔用機械26を正面側からみた状態を示している。また、図8(a)〜図8(d)は、それぞれ、図7(a)〜図7(d)の削孔用機械26を側面側からみた状態を示した図である。
図7(a)および図8(a)に示したように、削孔作業をおこなう際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を短くする一方、ワイヤ38を長くし、下端(当接部30)が斜面Sに接するようにして削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直状態を保つようにする。移動の際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを長くする一方、ワイヤ38の長さを短くし、削孔用機械26を斜面Sから浮き上がらせる(図7(b)および図8(b)参照)。
【0059】
続いて、削孔用機械26を斜面Sから浮かせた状態を保ちつつ、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げる。これにより、ワイヤ6が引張方向の一端側(図では右方向)に変位し、削孔用機械26がワイヤ6の変位に追随して斜面Sから浮いた状態で変位する(図7(c)および図8(c)参照)。
そして、次のアンカー孔3を削孔すべき位置まで削孔用機械26を移動させて、ワイヤ6の巻上げを停止する。また、削孔用機械26の当接部30の位置合わせもおこなう。
最後に、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くしてワイヤ38の長さを長くし、削孔用機械26を斜面Sに対してほぼ垂直となるように姿勢を改めたのち、斜面Sに設置させる(図7(d)および図8(d)参照)。そして、削孔用機械26により次のアンカー孔3の削孔作業を開始する。
その後は、上記動作が順次繰り返される。これにより、斜面Sに対して略水平方向に順次アンカー孔3が削孔される。総ての削孔が終わった後、アンカー材5を挿入してモルタル4を充填し、斜面Sにコンクリートを打設して法枠1を設ける(図1参照)。
【0060】
図9は、削孔用機械26に障害物(木)が迫った際の回避方法を示した図であり、削孔用機械26を正面側からみた状態を模式的に示している。なお、図では木も模式的に示している。
アンカー工法では、樹木等の障害物44を残したまま削孔をおこなう必要が生じる場合がある。このとき、ワイヤ31〜ワイヤ33を順次取り外し→移動→取り付け→移動を繰り返すことにより、障害物44を回避しながら削孔用機械26を移動できる。
【0061】
具体的に説明する。障害物44がワイヤ31に迫った場合に、ワイヤ31をワイヤ6から取り外す。そして、障害物44がワイヤ31から離れた際にワイヤ31を再度ワイヤ6に取り付ける。さらに、同様に、障害物44がワイヤ32に迫った際には、ワイヤ32をワイヤ6から取り外し、その後、ワイヤ32を再度ワイヤ6に取り付ける。また、障害物44がワイヤ33に迫った際には、ワイヤ33をワイヤ6から取り外し、その後、ワイヤ33を再度ワイヤ6に取り付ける(図9(b)→図9(c)→図9(d)参照)。
【0062】
このように、障害物44が迫った際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を随時ワイヤ6から取り外し、その後、再度ワイヤ6に取り付けることで、削孔用機械26やワイヤ31〜ワイヤ33が障害物44と接触するのを回避することができる。そして、ワイヤ6に取り付けられているワイヤは、ワイヤ31〜ワイヤ33の三本であるため、障害物44との接触を回避しながら、常にワイヤ31〜ワイヤ33のうちの二本がワイヤ6に取り付けられた状態を維持することができる。
【0063】
以上のように、この実施形態では、各ワイヤを使用することによって、人が削孔用機械26に触れることなく削孔用機械26を浮かせて移動させることができる。よって、削孔用機械26を安全に移動させることができる。しかも、人力を主とせずに削孔用機械26を移動させることができるので、重量の大きな削孔用機械26であっても容易に移動させることができる。ゆえに、別途仮設足場を設置する必要がない。
また、ワイヤ7と削孔用機械26の下部とが、環状体37およびワイヤ38を介して繋がれているので、削孔用機械26が浮揚しているときであっても動きが規制され安全性が増す。ゆえに、削孔用機械26を一層安全に移動させることができる。また、削孔用機械26が削孔位置から離れる瞬間に跳ね上がったとしても動きが規制されるので、周囲にいる人がむやみに危険にさらされずにすむ。
【0064】
また、ワイヤ6を変位させるのみで、それに追随して削孔用機械26が移動する。よって、削孔用機械26を滑らかに移動させることができる。
【0065】
また、ワイヤ31〜ワイヤ33はワイヤ6に対して着脱自在であり、かつ、三本であるので、そのうちの一本をワイヤ6から取り外したとしても、残りの二本がワイヤ6に取り付けられた状態であり、削孔用機械26のバランスが依然として安定する。よって、削孔用機械26を保持しつつその水平移動を確保することができる。
【0066】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2にかかるアンカー工法に用いられる横移動用レール体を示した斜視図である。なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることにより説明を省略する。
図示したように、この実施形態においては、斜面S上には、略水平方向に延伸する横移動用レール体50が敷設される。
横移動用レール体50は、長手の部材であって、その長手方向に沿って一定間隔ごとに段差51が形成されている。また、その幅方向の一方側(下側)には、横移動用レール体50の長手方向に沿って立ち上がるレール板52が形成されている。
【0067】
削孔用機械26を移動させる際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くして削孔用機械26を斜面Sから浮かせた後、さらに、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整して(図6参照)、削孔用機械26の下部を横移動用レール体50に当接させる。そして、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げることにより、削孔用機械26を横移動用レール体50のレール板52に沿わせながら、立った状態でワイヤ6の変位に追随して移動させる。
このとき、削孔用機械26の下部が削孔用機械26の移動方向に対して逆進した場合であっても、その下部が段差51に係合し、その逆進が防止される。
【0068】
このように、削孔用機械26を横移動用レール体50に沿わせながら移動させるので、削孔用機械26を移動させる際のバランスが安定する。よって、削孔用機械26を一層安全に移動させることができる。
また、ワイヤ31〜ワイヤ33および横移動用レール体50を用いて削孔用機械26を移動させるので、人力を主とせずに削孔用機械26を移動させることができ、仮設足場を設置する必要がない。
また、横移動用レール体50には複数の段差51が形成されているので、削孔用機械26を円滑に移動させることができる。
【0069】
なお、図11に示したように、斜面S上に横移動用レール体50に替え横移動用レール体60を敷設してもよい。なお、図11では、横移動用レール体60の一部が切断された状態を示した。
図示したように、横移動用レール体60は、凹条の長手の部材であって、その上面に凹条部61が形成されている。
【0070】
削孔用機械26を移動させる際には、まず、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを短くして削孔用機械26を斜面Sから浮かせた後、さらに、ワイヤ31〜ワイヤ33の長さを調整して(図6参照)、削孔用機械26の下部を横移動用レール体60の凹条部61に当接させる。そして、ウインチ架台9によりワイヤ6を巻き上げることにより、削孔用機械26を横移動用レール体60の凹条部61に沿わせながら、立った状態でワイヤ6の変位に追随して移動させる。
【0071】
このように、横移動用レール体60が凹条であるので、削孔用機械26を滑らかに移動させることができる。なお、横移動用レール体50に横移動用レール体60と同様に凹条が形成されていてもよい。
【0072】
実施の形態3.
実施の形態1においては、削孔用機械26の水平方向の移動について説明したが、本実施形態では、削孔用機械26の縦方向の移動について説明する。
図12は、実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる削孔用機械26を示した斜視図である。なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
図では、水平方向の削孔が終わった後、削孔用機械26を縦方向に移動させる直前の様子を示した。なお、図における破線は、斜面Sに予め引かれる法枠設置予定場所としての線である。
【0073】
図示したように、この実施形態においては、削孔用機械26に縦移動用ガイドローラ71が取り付けられる。
縦移動用ガイドローラ71は、削孔用機械26に着脱自在に取り付けられる長手の部材であって、その先端に補助車輪72を備えている。
【0074】
図13は、実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる縦移動用レール体90を示した斜視図であり、図14は、縦移動用レール体90を用いて削孔用機械26を斜面Sの下方向に移動させる様子を模式的に示した図である。
縦移動用レール体90は、斜面Sの傾斜方向に延伸するように敷設される長手の部材であって、その長さは、法枠間隔にあわせた2m程度のものであり、長手方向に沿って一定間隔ごとに段差91が形成されている。また、縦移動用レール体90には、その長手方向に沿って溝92が形成されており、溝92により右レール体93と左レール体94とに二分割されている。
【0075】
右レール体93の先端には右把持棒95が設けられている。左レール体94の先端には左把持棒96が設けられている。そして、通常は、図示しないフックなどで、右レール体93と左レール体94とが一定間隔を保つようにして一体的に保持されている。
また、縦移動用レール体90の先端部分には、設置用孔97が形成されている。
【0076】
縦移動に際しては、まず、削孔用機械26に縦移動用ガイドローラ71を取り付け、斜面Sの傾斜方向に沿って縦移動用レール体90を敷設する。このとき、次のアンカー孔3の削孔位置近傍に設置用孔97が位置するように縦移動用レール体90を敷設する。
削孔用機械26を斜面Sの下方向に移動させる際には、ワイヤ31およびワイヤ33の長さを長くすることにより、補助車輪72を溝92に沿わせながら、斜面Sの下方向に移動させる。このとき、段差91により削孔用機械26の下部の跳ね上がりが防止される。
【0077】
削孔用機械26を縦移動用レール体90の先端部分まで移動させると、当接部30のゴムパット82が設置用孔97に入り込んで斜面Sに接触し、削孔用機械26が設置される。そして、縦移動用レール体90に取り付けられているフックを外し、右把持棒95および左把持棒96を把持して右レール体93と左レール体94とを分割し(図13参照)、縦移動用レール体90を斜面Sから撤去する。このようにして、削孔用機械26が斜面Sの下方向に移動されて設置される。
【0078】
その後は、たとえば、上記実施形態と同様にして削孔用機械26を水平方向に移動させる。そして、上記動作と同様にして縦移動用レール体90を上方に向けて敷設し、ワイヤ31およびワイヤ33の長さを短くすることにより、補助車輪72を溝92に沿わせながら、斜面Sの上方向に移動させる。
このようにすることで、削孔用機械26を上下方向に容易に移動させることができる。なお、削孔用機械26を上方に移動させる場合には、削孔用機械26を上方に移動させる専用のレール体を用いてもよく、その際には、段差を設けていないレール体を用いてもよい。
【0079】
このように、縦移動用レール体90を用いるので、削孔用機械26を斜面Sの上下方向にも容易に移動させることができる。これにより、原理的に対象斜面総てを本工法により網羅可能となる。
また、縦移動用レール体90には段差91が設けられているので、削孔用機械26の跳ね上がりが防止され、削孔用機械26を斜面Sの上下方向に安全に移動させることができる。
また、削孔用機械26を補助車輪72を溝92に沿わせながら移動させるので、削孔用機械26を斜面Sの上下方向に正確にかつ安定して移動させることができる。
また、縦移動用レール体90は、右レール体93と左レール体94とに分割することができるので、削孔用機械26を適切かつ簡便に削孔位置に設置することができる。
【0080】
また、縦移動用ガイドローラ71は、削孔用機械26上において、削孔用機械26の重心よりも上方となる位置に取り付けられるのが、移動の安定上好ましい。
また、縦移動用レール体90は、その長さが斜面Sの傾斜方向において並列する各アンカー孔3の間隔と同程度の長さであることが好ましい。
また、縦移動用レール体90は、右レール体93の上端および左レール体94の上端にそれぞれヒンジが設けられており、右レール体93および左レール体94をそれぞれヒンジを中心として回転させることにより分割されるものであってもよい。
また、削孔用機械26を縦方向に移動させる際に、ワイヤ31とワイヤ33との間隔を広げて、削孔用機械26を安定させる工程が含まれてもよい。
【0081】
実施の形態4.
図15は、実施の形態4にかかるアンカー工法における削孔用機械26の移動方法を模式的に示した図である。
なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
【0082】
本実施形態では、ワイヤ31およびワイヤ32の一端をそれぞれ斜面S上の木等の固定物に直接取り付ける。そして、ワイヤ31およびワイヤ32の他端をそれぞれ削孔用機械26の上部に取り付ける。このようにした後、ワイヤ31およびワイヤ32の長さを調節することにより削孔用機械26を水平方向に移動させる。すなわち、本実施形態では、ワイヤを斜面上空に略水平方向に張る工程を省くことができる。
【0083】
具体的には、まず、削孔用機械26を移動させる方向側にある固定物にワイヤ31の一端を取り付け、その他端を削孔用機械26に取り付ける。また、削孔用機械26近傍の固定物にワイヤ32の一端を取り付け、その他端を削孔用機械26に取り付ける(図15(a)参照)。そして、ワイヤ32の長さを長くすると共にワイヤ31の長さを短くして、削孔用機械26の上部を移動方向に傾ける(図15(b)参照)。
【0084】
削孔用機械26を傾けた後は、たとえば、バールやハンマー等を用いて削孔用機械26の下部に対して水平方向への力を加えることにより削孔用機械26の下部を水平方向に移動させ、削孔用機械26を垂直な状態で保持する(図15(b)参照)。その後は、上記した動作を繰り返しおこなう。このようにして削孔用機械26をワイヤ31およびワイヤ32の長さを調節するのみで移動させる。
【0085】
以上のように、本実施形態では、ワイヤ31およびワイヤ32の長さを調整するのみで削孔用機械26を移動させるので、簡素な構成を実現することが可能となる。
なお、削孔用機械26に取り付けるワイヤの数は、2本に限らず3本以上であってもよい。
【0086】
実施の形態5.
図16は、実施の形態5にかかるアンカー工法における削孔用機械26の移動方法を模式的に示した図である。
なお、本実施形態において実施の形態1と同様の構成については、上述と同一の参照符号を用いることによりその説明を省略する。
【0087】
本実施形態では、ワイヤ6としてワイヤ61およびワイヤ62の2本のワイヤを略水平方向に張っている。
具体的には、ワイヤ61を略水平方向に固定して張り、ワイヤ62を略水平方向にウインチによる巻取移動可能に張っている。
ワイヤ61は、削孔用機械26の重量負荷を主として担うためのものであり、径の大きな強固なワイヤである。図示はされないが、ワイヤ61は、削孔用機械26の横移動に関してそれ自体は移動しないものであって、作業の初期に現場の木等の固定物に固定的に一回取り付けられるものである。
ワイヤ62は、削孔用機械26の重量負荷を担うとともに削孔用機械26を移動させるためのものであり、相対的に径の小さなワイヤである。図示はされないが、その端部は手動のウインチに取り付けられていて、手動でワイヤ62を巻取可能となっている。
このように、本実施形態では、ワイヤ61およびワイヤ62の2本の紐体が略水平方向に張られる。よって、削孔用機械26が2本の紐体により支えられることになるので、たとえ、1本の紐体が切れてももう1本のワイヤにより削孔用機械26が支えられる。また、削孔用機械26が重いものであれば、その重量はワイヤ61が担うので、重量の大きな削孔用機械であっても容易に移動させることができる。すなわち、2本のワイヤを用いることにより安全性をより高め(相互補償をおこない)、かつ、簡素な構成ないし能力の高くないウインチを用いて人力では移動できないような重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0088】
また、ワイヤ61およびワイヤ62には3つの取付具63が取り付けられている。
図17は、取付具63の構成を示した断面図である。
取付具63は、略直方体形状であって、第一挿通孔631および第二挿通孔632を有している。
第一挿通孔631は径を大きくしており、その内方にワイヤ61が挿通されている。このため、ワイヤ61に対して第一挿通孔631が移動可能な状態となっている。
第二挿通孔632にはワイヤ62が挿通されており、第二挿通孔632とワイヤ62とが固定された状態となっている。
また、各取付具63には、それぞれ別個にワイヤ31〜ワイヤ33が取り付けられている。
【0089】
図18は、取付具63を横側から(矢印A側から)みた状態の断面図である。
取付具63には、切断面633が形成されており、この切断面633部分で2分割可能であって、図示しないボルトによって締め付けたり緩めたりすることが可能となっている。これにより、削孔用機械26を移動している際に障害物等が迫った場合には、取付具63を切断面633で2分割し、取付具63とワイヤ61およびワイヤ62を離して接触を回避できるようになっている。その後は、ボルトを締め付けることでワイヤ62を強固に咬持し取付具63を介して削孔用機械26を移動させることができる。
【0090】
このような構成により、ワイヤ62を水平方向に移動させると、取付具63がワイヤ61上を滑るようにして変位し、ワイヤ31〜ワイヤ33を介して削孔用機械26が水平方向に変位する。なお第一挿通孔631内には、適宜滑りをよくするベアリングや滑車などが設けられているものとする。
【0091】
このように、2本のワイヤ61およびワイヤ62を用いるので削孔用機械26を移動する際の安全性を高めることができる。
たとえば、削孔用機械26の重量が大きくてワイヤが一本の場合には、ワイヤを径の大きな強固な紐体とせねばならず重量が大きくなる。よって、巻き取りのためのウインチとして機械式のものを用いねばならず重量が重畳的に大きくなってしまい、さらに、ウインチを設置等する作業が必要となり、作業もおおがかりなものとなってしまう。一方、上記の方法であれば、ワイヤ61を径の大きな強固な紐体として現場の木等の固定物に一回取り付ければよく、また、ワイヤ62を相対的に径の小さな軽い紐体とすることができるので、ワイヤ62を巻き取るためのウインチも手動のものを用いることができる。ゆえに、作業は効率的なものとしつつ重量の大きな削孔用機械を移動させることが可能となる。
【0092】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、上記実施形態においては、削孔用機械26を移動させる際には、ワイヤ31〜ワイヤ33を長くするとして説明したが、ワイヤ31〜ワイヤ33を短くして削孔用機械26を吊り上げるようにして斜面Sから浮かせてもよい。
また、ワイヤ6は水平方向に変位するように斜面Sの上空に保持されていればよく、上述の構成によるものに限らない。
また、上述の説明では、斜面Sにアンカー孔3を削孔した後、斜面S上に法枠1を設けるとしたが、斜面Sに法枠1を設置した後に斜面Sに対してアンカー孔3を削孔してもよい。
この方法によれば、従来人力により移動が可能であったせいぜい100kg程度の削孔用機械を超え、たとえば400kg程度の削孔用機械も足場を設けずに移動可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
なお、上述した方法は、削孔用機械のみならず、広く重機一般に利用することが可能である。すなわち、斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、第一紐体を水平方向に移動させることにより重機を移動させる横移動工程と、を含み、第一紐体は、2本の紐体からなり、当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、重機を移動させるための移動用紐体であり、耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、横移動工程は、移動用紐体を移動させることにより取付具を介して重機を移動させるものである重機移動方法とすることもできる。すなわち、たとえば400kg以上の重機も足場を設けずに移動可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施の形態1にかかるアンカー工法を用いて安定工事がおこなわれた状態の斜面を示した斜視図である。
【図2】図1に示した斜面の断面図である。
【図3】実施の形態1にかかるアンカー工法がおこなわれている状態の斜面Sを示した斜視図である。
【図4】ワイヤの一端側を簡略的に示した図である。
【図5】ワイヤの他端側を簡略的に示した図である。
【図6】削孔用機械を保持している状態を示した斜視図である。
【図7】削孔用機械を移動させる方法を示した図である。
【図8】図7の削孔用機械を側面側からみた状態を示した図である。
【図9】削孔用機械に障害物が迫った際の回避方法を示した図である。
【図10】実施の形態2にかかるアンカー工法に用いられるレール体を示した斜視図である。
【図11】レール体の変形例を示した斜視図である。
【図12】実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる削孔用機械を示した斜視図である
【図13】実施の形態3にかかるアンカー工法に用いられる縦移動用レール体を示した斜視図である。
【図14】削孔用機械を斜面の下方向に移動させる様子を模式的に示した図である。
【図15】実施の形態4にかかるアンカー工法における削孔用機械の移動方法を模式的に示した図である。
【図16】実施の形態5にかかるアンカー工法における削孔用機械の移動方法を模式的に示した図である。
【図17】取付具の構成を示した断面図である。
【図18】取付具を他の方向からみた状態の断面図である。
【符号の説明】
【0095】
3 アンカー孔
6,7,31〜33,38,61,62 ワイヤ
26 削孔用機械
34〜36,40 ウインチ
37 環状体
63 取付具
50,60 横移動用レール体
51,91 段差
72 補助車輪
90 縦移動用レール体
92 溝
S 斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、
前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を斜面から浮かせる浮揚工程と、
前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、
を含むことを特徴とするアンカー工法。
【請求項2】
前記第一紐体は、2本の紐体からなり、
当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記削孔用機械の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、
当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記削孔用機械を移動させるための移動用紐体であり、
前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、
前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする請求項1に記載のアンカー工法。
【請求項3】
斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、
前記斜面上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整すると共に、接地している前記削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に変位させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、
を含むことを特徴とするアンカー工法。
【請求項4】
削孔位置近傍に略水平方向に第三紐体を張り、当該第三紐体と前記削孔用機械下部とを所定の遊びを持たせた状態で繋ぐ第四紐体を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法。
【請求項5】
前記第四紐体は、前記第三紐体に対して水平変位が自在であるように取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のアンカー工法。
【請求項6】
削孔位置近傍に略水平方向に延伸する横移動用レール体を敷設し、
前記浮揚工程では、前記削孔用機械を斜面から浮かせてから当該削孔用機械下部を前記横移動用レール体に当接させ、前記横移動工程では、前記削孔用機械を前記横移動用レール体に沿わせながら立った状態で移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法。
【請求項7】
前記横移動用レール体は、逆進できないように段差が複数設けられていることを特徴とする請求項6に記載のアンカー工法。
【請求項8】
前記横移動用レール体は、凹条であることを特徴とする請求項6または7に記載のアンカー工法。
【請求項9】
前記第二紐体は、3本であって、それぞれ前記第一紐体に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のアンカー工法。
【請求項10】
削孔位置に沿って前記斜面の傾斜方向に延伸する縦移動用レール体を敷設し、前記第二紐体の長さを調整することにより前記削孔用機械を当該縦移動用レール体に沿わせながら前記斜面の上下方向に移動させる縦移動工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のアンカー工法。
【請求項11】
前記縦移動用レール体は、前記削孔用機械の下部が跳ね上がるのを防止する段差が複数設けられていることを特徴とする請求項10に記載のアンカー工法。
【請求項12】
前記縦移動用レール体は、その長手方向に沿って溝が形成されており、
前記縦移動工程は、前記削孔用機械に設けられた補助車輪により前記溝に沿って削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする請求項10または11に記載のアンカー工法。
【請求項13】
前記縦移動用レール体は、前記溝を境界として二分割可能であり、
前記縦移動工程は、前記削孔用機械を所定位置まで移動させた後に、前記縦移動用レール体を分割することにより、当該削孔用機械を前記斜面に接地するものであることを特徴とする請求項12に記載のアンカー工法。
【請求項14】
斜面に沿って略水平方向に重機を移動させる重機移動方法であって、
前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、
前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記重機を移動させる横移動工程と、
を含み、
前記第一紐体は、2本の紐体からなり、
当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、
当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記重機を移動させるための移動用紐体であり、
前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、
前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記重機を移動させるものであることを特徴とする重機移動方法。
【請求項1】
斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、
前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記削孔用機械を斜面から浮かせる浮揚工程と、
前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、
を含むことを特徴とするアンカー工法。
【請求項2】
前記第一紐体は、2本の紐体からなり、
当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記削孔用機械の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、
当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記削孔用機械を移動させるための移動用紐体であり、
前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、
前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする請求項1に記載のアンカー工法。
【請求項3】
斜面に沿って略水平方向に削孔用機械を順次移動させては各削孔位置にてアンカー孔を削孔するアンカー工法であって、
前記斜面上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に前記削孔用機械に取り付けて当該削孔用機械を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整すると共に、接地している前記削孔用機械の下端部を断続的に略水平方向に変位させることにより前記削孔用機械を次の削孔位置まで移動させる横移動工程と、
を含むことを特徴とするアンカー工法。
【請求項4】
削孔位置近傍に略水平方向に第三紐体を張り、当該第三紐体と前記削孔用機械下部とを所定の遊びを持たせた状態で繋ぐ第四紐体を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法。
【請求項5】
前記第四紐体は、前記第三紐体に対して水平変位が自在であるように取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のアンカー工法。
【請求項6】
削孔位置近傍に略水平方向に延伸する横移動用レール体を敷設し、
前記浮揚工程では、前記削孔用機械を斜面から浮かせてから当該削孔用機械下部を前記横移動用レール体に当接させ、前記横移動工程では、前記削孔用機械を前記横移動用レール体に沿わせながら立った状態で移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンカー工法。
【請求項7】
前記横移動用レール体は、逆進できないように段差が複数設けられていることを特徴とする請求項6に記載のアンカー工法。
【請求項8】
前記横移動用レール体は、凹条であることを特徴とする請求項6または7に記載のアンカー工法。
【請求項9】
前記第二紐体は、3本であって、それぞれ前記第一紐体に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のアンカー工法。
【請求項10】
削孔位置に沿って前記斜面の傾斜方向に延伸する縦移動用レール体を敷設し、前記第二紐体の長さを調整することにより前記削孔用機械を当該縦移動用レール体に沿わせながら前記斜面の上下方向に移動させる縦移動工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のアンカー工法。
【請求項11】
前記縦移動用レール体は、前記削孔用機械の下部が跳ね上がるのを防止する段差が複数設けられていることを特徴とする請求項10に記載のアンカー工法。
【請求項12】
前記縦移動用レール体は、その長手方向に沿って溝が形成されており、
前記縦移動工程は、前記削孔用機械に設けられた補助車輪により前記溝に沿って削孔用機械を移動させるものであることを特徴とする請求項10または11に記載のアンカー工法。
【請求項13】
前記縦移動用レール体は、前記溝を境界として二分割可能であり、
前記縦移動工程は、前記削孔用機械を所定位置まで移動させた後に、前記縦移動用レール体を分割することにより、当該削孔用機械を前記斜面に接地するものであることを特徴とする請求項12に記載のアンカー工法。
【請求項14】
斜面に沿って略水平方向に重機を移動させる重機移動方法であって、
前記斜面上空に第一紐体を略水平方向に張り、当該第一紐体上の所定間隔離れた位置から少なくとも2本のそれぞれ長さの調整可能な第二紐体を、その他端を共に重機に取り付けて当該重機を保持する保持工程と、
前記第二紐体の長さを調整して前記第一紐体および前記第二紐体により前記重機を斜面から浮かせる浮揚工程と、
前記第一紐体を水平方向に移動させることにより前記重機を移動させる横移動工程と、
を含み、
前記第一紐体は、2本の紐体からなり、
当該一方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に固定して張られて、前記重機の重量負荷を担うための耐荷重用紐体であり、
当該他方の紐体は、前記斜面に沿って略水平方向に移動可能に張られて、前記重機を移動させるための移動用紐体であり、
前記耐荷重用紐体に対しては移動可能に取り付けられ、かつ、前記移動用紐体に対しては固定して取り付けられる取付具であって、前記第二紐体を取り付ける取付具を含み、
前記横移動工程は、前記移動用紐体を移動させることにより前記取付具を介して前記重機を移動させるものであることを特徴とする重機移動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−241974(P2006−241974A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−170951(P2006−170951)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(506113761)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170951(P2006−170951)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(506113761)
【Fターム(参考)】
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