説明

イオン伝導性材料の製造方法および二次電池の製造方法

【課題】イオン伝導性を高める。
【解決手段】本発明のイオン伝導性材料の製造方法は、光重合性のケイ素化合物と環状硫黄を混合した混合物に、光照射処理を行ってケイ素化合物をラジカル化するとともに第1の加熱処理を行って環状硫黄をラジカル化し、ラジカル化したケイ素化合物をラジカル化した硫黄と結合させて硫黄変性ケイ素化合物を形成する工程と、硫黄変性ケイ素化合物に不活性雰囲気で第2の加熱処理を行って非晶質のケイ素および硫化ケイ素を含んだ化合物を形成する工程と、この化合物を含んだ溶液を基板上に塗布した後に、この溶液に酸素ガス含有雰囲気で第3の加熱処理を行って、この化合物に含まれる非晶質のケイ素を酸化させる酸化工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性材料の製造方法および二次電池の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池に代表される二次電池は、携帯性を有するデバイスをはじめとする各種電気機器の電力源として、発電装置の電力バッファ等として利用されている。従来の二次電池としては、電解液を用いたものが知られている。近年、電解液に代えて固体電解質を用いた二次電池の研究が盛んに行われており、イオン伝導性が高い固体電解質が求められている。以下、イオン導電率とイオンの移動経路長(ここでは、固体電解質の厚み)との積をイオン導電性という。このような固体電解質の1つとして、二硫化ケイ素および二酸化ケイ素を主成分とするものが提案されている。
【0003】
一般に、イオン伝導性材料はガラス材料やセラミックス材料である。固体電解質は、形成材料の粒状化合物をプレスすることにより形成される。また、イオン伝導性材料の種類によっては、CVD法やスパッタ法などの気相法により形成材料を成膜することや、ゾルゲル法等の液相法により形成材料を成膜することにより、固体電解質を形成することもある。二硫化ケイ素を含む固体電解質は、ゾルゲル法により硫化物を成膜することが難しいので、通常はプレスや気相法により形成される(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1では、硫化物系固体電解質材料をプレス成形して硫化物系固体電解質層を形成している。
特許文献2では、三硫化二硼素およびリン酸リチウムを乳鉢で混合した後にペレット化し、カーボンコートを施した石英ガラス管中に入れて真空封入し、次いで4時間かけて800℃に昇温して2時間の溶融反応を行なって硫化物系ガラスを得ている。
特許文献3では、基材上にリチウム、リン及び硫黄を含む無機固体電解質からなる薄膜を気相成長法や化学気相蒸着法を用いて形成している。
特許文献4では、硫化リチウム、五硫化二燐等の原料を、溶融反応した後に急冷するか、原料をメカニカルミリング法により処理して得られる硫化物ガラスを加熱処理して、リチウムイオン伝導性物質粒子を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−193803号公報
【特許文献2】特開2008−21416号公報
【特許文献3】特開2008−103287号公報
【特許文献4】特開2009−176541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4の技術にあっては、次に説明する理由により、固体電解質のイオンの導抵抗を減らすことが難しい。粒状の固体電解質をプレスにより形成すると、粒子間の接触面積に上限があるので、イオン伝導性が低い膜になりやすい。また、固体電解質と電極活物質との間の隙間を減らすことが難しく、接触抵抗が高くなることにより実質的にイオン伝導性が低下してしまう。
【0007】
粒子間や固体電解質と電極活物質との間の接触面積を増すために粒子を溶融することも考えられるが、電極活物質や集電材の材質として、粒子を溶融させる温度に耐えうるものを選択する必要が生じ、材料選択の自由度が低くなる。また、イオン伝導性を高める観点で固体電解質を薄型にしようとしても、粒径の制約により固体電解質の厚みの下限値が定まってしまう。気相法により固体電解質を形成する場合には、固体電解質を低コストで効率よく形成することが難しくなる。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、イオン伝導性が低いイオン伝導性材料を低コストで得られるイオン伝導性材料の製造方法を提供することを目的の1つとする。イオン伝導性が高い固体電解質を含んだ二次電池の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のイオン伝導性材料の製造方法は、光重合性のケイ素化合物と環状硫黄を混合した混合物に、光照射処理を行って前記ケイ素化合物をラジカル化するとともに第1の加熱処理を行って前記環状硫黄をラジカル化し、ラジカル化した前記ケイ素化合物をラジカル化した硫黄と結合させて硫黄変性ケイ素化合物を形成する工程と、前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液を基板上に塗布した後に、不活性雰囲気で第2の加熱処理を行って非晶質のケイ素および硫化ケイ素を含んだ化合物を形成する工程と、前記化合物に酸素ガス含有雰囲気で第3の加熱処理を行って、該化合物に含まれる前記非晶質のケイ素を酸化させる酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、環状硫黄は例えば160℃程度の温度で開環してラジカル化するので、低温プロセスで硫黄変性ケイ素化合物を形成することができる。硫黄変性ケイ素化合物に不活性雰囲気で第2の加熱処理を行うと、硫黄変性ケイ素化合物に含まれるケイ素原子および硫黄原子以外の原子、例えば水素が硫黄変性ケイ素化合物から脱離して、非晶質のケイ素および硫化ケイ素を含んだ化合物が得られる。この化合物に酸素ガス含有雰囲気で第3の加熱処理を行うと、非晶質のケイ素が酸化して、二硫化ケイ素と二酸化ケイ素とを含んだイオン伝導性材料が得られる。得られたイオン伝導性材料は、内部に粒子間の界面をほとんど含まない実質的に一体のものになるので、イオン伝導性が高くなる。
【0011】
本発明の二次電池の製造方法は、正負の電極間に固体電解質が設けられた二次電池の製造方法であって、上記の本発明のイオン伝導性材料の製造方法により、前記正負の電極のうちの一方の電極を前記基板として該基板に前記イオン伝導材料からなる前記固体電解質を形成することを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、上述のようにして、イオン伝導性が高い固体電解質が得られる。また、硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液を一方の電極に塗布するので、二硫化ケイ素および二酸化ケイ素を含んだ粒子をプレスすること等により固体電解質を形成する手法と異なり、塗布膜の厚みが粒径などの制約を受けなくなるので、塗布膜を薄膜化することができる。したがって、塗布膜から得られる固体電解質を薄型化することができ、固体電解質のイオン伝導性を高めることができる。また、正負の電極のうちの一方の電極に上記の溶液を基板上に塗布し、この塗布膜から固体電解質が得られるので、一方の電極側と固体電解質との間に空隙を生じにくくなる。したがって、一方の電極側と固体電解質との接触面積を確保することができ、一方の電極側と固体電解質との間の接触抵抗を減らすことができるので、実質的にイオン伝導性を高めることができる。
【0013】
以上のように、固体電解質のイオン伝導性を高めることができるので、充電時間を短縮することや外部へ大電流を出力することが可能な二次電池を製造することができる。また、上記の溶液を塗布して固体電解質を形成するので、固体電解質を大面積化することが容易になり、二次電池を効率よく製造することができる。二硫化ケイ素の合成を従来よりも低温プロセスで行うことができ、しかも高真空での処理を行う必要性も低いので、二次電池を低エネルギー消費で得られるようになり、環境負荷を減らすことができる。
【0014】
本発明の二次電池の製造方法は、代表的な態様として以下のような態様をとりえる。
【0015】
前記ケイ素化合物が水素原子を含み、前記第2の加熱処理では前記化合物に水素原子が残留させ、該化合物に残留した水素原子を前記第3の加熱処理で除去するとよい。
このようにすれば、第3の加熱処理で水素原子が除去されてケイ素原子の未結合手が生じ、ここに酸素原子が結合するので、イオン伝導性材料に含まれる二酸化ケイ素が二硫化ケイ素に対して不足することが回避される。
【0016】
前記光重合性のケイ素化合物は、一般式SinXaYbZc(ここで、nは3以上の整数を表し、Xは水素原子、Yはハロゲン原子、Zはアルキル基を表し、a、b,cの各々は0または正の整数を表し、a+b+c=mとしたときにmはnまたは2n−2または2nまたは2n+2の整数である)で表されるケイ素化合物であるとよい。
【0017】
前記固体電解質が一価または二価の陽イオンを伝導させるものであり、前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液は、前記陽イオンの金属塩を含有するとよい。
例えば、リチウムイオンを用いた二次電池では金属塩としてリチウム塩を含有した上記の溶液を調製するとよい。また、ナトリウムイオンを用いた二次電池では金属塩としてナトリウム塩を含有した上記の溶液を調製するとよい。このようにすれば、固体電解質が、固体電解質に伝導させる陽イオンの金属塩を含有して形成され、この陽イオンに対するイオン伝導性を高めることができる。
【0018】
前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液の溶媒は、炭化水素化合物または一般式SinXaYbZc(ここで、nは3以上の整数を表し、Xは水素原子、Yはハロゲン原子、Zはアルキル基を表し、a、b,cの各々は0または正の整数を表し、a+b+c=mとしたときにmはnまたは2n−2または2nまたは2n+2の整数である)で表されるケイ素化合物から選択される1種以上であるとよい。
このようにすれば、硫黄変成ケイ素化合物の溶解度を確保することができ、また硫黄変成ケイ素化合物と溶媒とが反応することが回避される。
【0019】
前記第3の加熱処理を行った後に、前記イオン導電材料に含まれる硫黄原子を活性化する工程を有するとよい。
このようにすれば、未結合の硫黄原子を減らすことができ、固体電解質のイオン伝導性を高めることができる。
【0020】
前記混合物の前記環状硫黄と前記ケイ素化合物の混合比は、該混合物に含まれる硫黄原子の数がケイ素原子の数に対して1/2倍以上3倍以下となる混合比であるとよい。
このようにすれば、酸素原子と硫黄原子とが結合すること等により、ケイ素原子の数に対して硫黄原子の数が不足することが回避される。したがって、固体電解質に含まれる二硫化ケイ素の比率が二酸化ケイ素の比率に対して不足することが回避され、固体電解質のイオン伝導性を確保することができる。
【0021】
前記固体電解質の厚みを1nm以上10μm未満にするとよい。
上述のように、一方の電極に上記の溶液を塗布するので、固体電解質の厚みを減らすことができる。固体電解質の厚みが減るにつれてイオン伝導性が高くなるので、固体電解質の厚みを上記の範囲内にすることにより、イオン伝導性を格段に高めることができる。
【0022】
前記第1の加熱処理の処理温度は、160℃以上かつ前記ケイ素化合物の沸点と前記環状硫黄の沸点のうちで低い方の沸点よりも低いとよい。
このようにすれば、第1の加熱処理の過程におけるケイ素化合物の揮発や環状硫黄の揮発を抑制することができ、揮発による材料のロスを減らすことができる。
【0023】
前記硫黄変性ケイ素化合物は、常温常圧で液体または固体であるとよい。
このようにすれば、硫黄変性ケイ素化合物の揮発による材料のロスを減らすことが容易になる。また、硫黄変性ケイ素化合物を含有する溶液を、良好な作業性で調製することができる。
【0024】
前記硫黄変性ケイ素化合物の分解温度が、該硫黄変性ケイ素化合物の沸点よりも低いとよい。
このようにすれば、第2の加熱処理の過程における硫黄変性ケイ素化合物の揮発を抑制することができ、揮発による材料のロスを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】硫黄変成ケイ素化合物の生成プロセスを示す図である。
【図2】(a)〜(g)は、二次電池の製造方法を概略して示す断面工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のイオン伝導性材料の製造方法に関して第1、第2実施形態を説明した後に、本発明の二次電池の製造方法に関して第3実施形態を説明する。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。
【0027】
[第1実施形態]
本発明のイオン伝導性材料の製造方法において用いられる光重合性のケイ素化合物は、紫外線照射によりラジカル化して、重合反応を起こすSi含有の化合物である。このケイ素化合物は、例えば一般式SinXaYbZc(ここで、nは3以上の整数を表し、Xは水素原子、Yはハロゲン原子、Zはアルキル基を表し、a、b,cの各々は0または正の整数を表し、a+b+c=mとしたときにmはnまたは2n−2または2nまたは2n+2の整数である)で表されるケイ素化合物(典型的には環状ポリシラン)である。
【0028】
特に、上記一般式SinXaYbZcのケイ素化合物として、nが5以上20以下であるものが好ましく、nが5又は6であるものがより好ましい。nが5より小さい場合、ケイ素化合物自体が環構造による歪みにより不安定となるため取り扱いが難しくなる。ケイ素化合物が常温常圧で固体であってこのケイ素化合物を溶媒に溶解する場合に、nが20より大きいケイ素化合物であると、ケイ素化合物の凝集力に起因して溶解性が低下し、実際に使用可能な溶媒の選択性が狭くなる。
【0029】
上記一般式のケイ素化合物の具体例としては、1個の環系を有するものとしてシクロペンタシラン、シリルシクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シリルシクロヘキサシラン、シクロヘプタシランが、2個の環系を有するものとして1、1’−ビスシクロブタシラン、1、1’−ビスシクロペンタシラン、1、1’−ビスシクロヘキサシラン、1、1’−ビスシクロヘプタシラン、1、1’−シクロブタシリルシクロペンタシラン、1、1’−シクロブタシリルシクロヘキサシラン、1、1’−シクロブタシリルシクロヘプタシラン、1、1’−シクロペンタシリルシクロヘキサシラン、1、1’−シクロペンタシリルシクロヘプタシラン、1、1’−シクロヘキサシリルシクロヘプタシラン、スピロ[2、2]ペンタシラン、スピロ[3、3]ヘプタタシラン、スピロ[4、4]ノナシラン、スピロ[4、5]デカシラン、スピロ[4、6]ウンデカシラン、スピロ[5、5]ウンデカシラン、スピロ[5、6]ドデカシラン、スピロ[6、6]トリデカシランが挙げられる。
【0030】
また、多環系のものとして下記の化合物1〜化合物5の水素化ケイ素化合物を挙げることができる。
【0031】
【化1】

【0032】
上記の水素化ケイ素化合物の他に、これらの骨格の水素原子を部分的にSiH基やハロゲン原子、アルキル基に置換したケイ素化合物を挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用することもできる。これらの内、溶媒への溶解性の点で1、1’−ビスシクロペンタシラン、1、1’−ビスシクロヘキサシラン、スピロ[4、4]ノナシラン、スピロ[4、5]デカシラン、スピロ[5、5]ウンデカシラン、スピロ[5、6]ドデカシランおよびこれらの骨格にSiH基を有するケイ素化合物が特に好ましい。
【0033】
本実施形態では、光重合性のケイ素化合物としてシクロペンタシラン(以下、CPSという)を用いる。イオン伝導性材料を製造するには、まず、CPSと環状硫黄とを混合した混合物を用意する。環状硫黄としては、200℃以下の加熱処理によりラジカル化するもの(ラジカル重合するものを含む)、ここではS硫黄を用いる。CPSと環状硫黄の混合比としては、混合物に含まれる硫黄原子の数がケイ素原子の数に対して1/2倍以上3倍以下となる混合比にする。これにより、環状硫黄の揮発等により硫黄原子の数がケイ素原子の数に対して不足することが回避される。
【0034】
上記の混合物を用意する工程、後述する光照射処理および第1の加熱処理を行う工程、基板に溶液を塗布する工程、および基板に塗布した溶液を乾燥させる工程を不活性雰囲気で行う。不活性雰囲気は、例えば酸素ガス濃度が1ppm未満、かつ水蒸気濃度が1ppm未満の窒素雰囲気である。
【0035】
上記の容器としては、後に第1、第2の加熱処理や光照射処理を行うことを考慮して、耐熱性、耐光性、および耐薬品性を有するもの、例えば石英ガラス製やステンレス製の容器を選択する。
【0036】
ケイ素化合物が常温常圧で固体である場合等には、必要に応じてケイ素化合物を溶媒に溶解して溶液を調製し、この溶液を環状硫黄と混合して混合物を用意するとよい。このような溶媒としては、ケイ素化合物および環状硫黄を溶解し、ケイ素化合物および環状硫黄と反応しないものであれば特に限定されない。溶媒の具体例として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ジシクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、インデン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、スクワランなどの炭化水素系溶媒の他、ジプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサンなどのエーテル系溶、さらにプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、クロロホルムなどの極性溶媒を挙げることができる。
【0037】
上記の溶媒のうちで、ケイ素化合物の溶解性を高める観点や溶液の安定性を高める観点では、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒を用いるとよい。特に炭化水素系溶媒は、ケイ素化合物の溶解性を高める観点で有利である。ケイ素化合物を効率的にラジカル化させる観点で、光照射処理で照射する光の吸収率がケイ素化合物よりも低い溶媒を選択するとよい。上記の溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、溶液に、n−ペンタシラン、n−ヘキサシラン、n−ヘプタシランなどのケイ素化合物が含まれていていてもよい。
【0038】
次いで、ケイ素化合物と環状硫黄の混合物に、光照射処理を行ってケイ素化合物をラジカル化するとともに第1の加熱処理を行って環状硫黄をラジカル化し、ラジカル化したケイ素化合物をラジカル化した硫黄と結合させる。
【0039】
第1の加熱処理では、環状硫黄を効率的にラジカル化する観点で、処理温度を160℃以上200℃以下に設定する。処理温度を、第1の加熱処理を行う圧力条件下でのケイ素化合物の沸点と環状硫黄の沸点のうちで低い方の沸点よりも低い温度に設定すると、ケイ素化合物の揮発や環状硫黄の揮発による材料のロスを減らすことができ、材料コストを下げることができる。
【0040】
光照射処理では、ケイ素化合物を効率的にラジカル化する観点で、波長が180nm以上400nm以下の紫外線を混合物に照射する。
【0041】
ここでは、容器内の混合物(溶液)をマグネティックスターラー等で攪拌しつつ、容器の温度を160℃程度に保持するとともに、波長が400nmの紫外線を10mW/cmのパワーで60分間照射する。図1に示すように、ラジカル化したケイ素化合物がラジカル化した硫黄と結合して硫黄変成ケイ素化合物が得られる。硫黄変性ケイ素化合物が常温常圧で液体または固体であれば、硫黄変性ケイ素化合物の揮発による材料のロスを減らすことが容易になる。また、硫黄変性ケイ素化合物を含有する溶液を調製する場合に、作業性を確保することができる。
【0042】
得られた硫化変成ケイ素化合物は、例えば下記の式(1)〜式(5)に示す構造を有している。式(1)〜(5)中のA〜Eは、それぞれ1以上の整数を表す。
式(1)に示す構造では、ケイ素化合物の末端が硫黄で終端されている。
式(2)に示す構造では、ケイ素化合物の末端が他のケイ素化合物の末端と硫黄で架橋されている。
式(3)に示す構造では、ケイ素化合物の側鎖が他のケイ素化合物の側鎖と硫黄で架橋されている。
式(4)に示す構造では、ケイ素化合物の側鎖が他のケイ素化合物の末端と硫黄で架橋されている。
式(5)に示す構造では、ケイ素化合物の側鎖が硫黄で修飾されている。
【0043】
【化2】

【0044】
次いで、得られた硫黄変成ケイ素化合物を溶媒に溶解させ、硫黄変成ケイ素化合物を含有した溶液を調製する。溶液の調製に先立ち、硫黄変成ケイ素化合物から低分子量成分や未反応反応を昇華精製等により分離して、硫黄変成ケイ素化合物の純度を高めてもよい。
【0045】
溶媒としては、上述したケイ素化合物を溶解させるもの例えば炭化水素化合物と、上記の一般式SinXaYbZcで表されるケイ素化合物とから選択される1種または2種以上の混合物を用いることができる。ここでは、トルエンを溶媒として硫黄変成ケイ素化合物を溶解させ、硫黄変成ケイ素化合物の濃度が10wt%の溶液を調製する。
【0046】
次いで、硫黄変成ケイ素化合物を含有する溶液を不活性雰囲気で基板に塗布した後に、上記の不活性雰囲気で第2の加熱処理を行って、溶媒を揮発させるとともに非晶質のケイ素および硫化ケイ素を含んだ化合物を形成する。
【0047】
溶液を塗布する方法については、公知の塗布法、例えばスピンコート法、カーテンコート法、ディップコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、マイクロコンタクトプリンティング、ナノインプリンティング等を用いることができる。
【0048】
第2の加熱処理では、処理温度を硫黄変性ケイ素化合物の分解温度以上に設定する。硫黄変性ケイ素化合物の分解温度が、第2の加熱処理を行う圧力条件下での硫黄変性ケイ素化合物の沸点よりも低くなるようにすれば、第2の加熱処理の過程で硫黄変性ケイ素化合物の揮発による材料のロスを減らすことができ、材料コストを下げることができる。
【0049】
硫黄変性ケイ素化合物の沸点については、例えば、分解温度未満の減圧雰囲気で飽和蒸気圧曲線を求めること等により評価可能である。第2の加熱処理の過程での硫化変性ケイ素化合物の揮発を減らすには、例えば、硫黄変性ケイ素化合物を製造するときに平均重合度を高めることや、硫黄変性ケイ素化合物の製造過程または製造後に添加剤を加えること、第2の加熱処理を行う圧力条件を上記の飽和蒸気圧曲線に基づいて設定すること等が有効である。
【0050】
本実施形態では、上記の不活性雰囲気、250℃以上300℃以下の処理温度で、硫黄変性ケイ素化合物を含有した塗布膜を20分間加熱して第2の加熱処理を行う。すると、硫黄変性ケイ素化合物の分解と分解物の再結合が生じる。硫黄変性ケイ素化合物に含まれるケイ素原子および硫黄原子以外の原子(ここでは主として水素原子)が除去されつつ反応が進行し、非晶質のケイ素と硫化ケイ素を含んだ化合物が得られる。この化合物に水素原子が残留するように、第2の加熱処理の処理温度や処理時間を設定する。
【0051】
次いで、上記の化合物に酸素ガスを含有する雰囲気で第3の加熱処理を行って、この化合物に含まれる非晶質のケイ素を酸化させる。第3の加熱処理の処理温度は、硫黄変成ケイ素化合物の反応温度以上であればよく、その上限については限定されないが、プロセスの低温化の観点では300℃以下にすることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、大気雰囲気で、250℃以上300℃以下の処理温度で上記の化合物を60分間加熱して第3の加熱処理を行う。これにより、アモルファスガラスの二酸化ケイ素および二硫化ケイ素が混在した膜(イオン伝導性材料)が得られる。得られたイオン伝導性材料において、Si原子1つに結合している酸素、硫黄、ケイ素、水素の総数は、典型的には4〜2であり、総数が4でない場合に未結合手を有していることもある。また、Si原子1つに結合している原子の数は、典型的には、酸素が4〜0の整数個、硫黄が4〜0の整数個、ケイ素が4〜0の整数個、水素が2〜0の整数個である。
【0053】
以上のような本実施形態のイオン伝導性材料の製造方法にあっては、環状硫黄および光重合性のケイ素化合物を出発材料として、硫黄変性ケイ素化合物(ポリマー)を形成している。環状硫黄が160℃程度の温度でラジカル化するとともに、ケイ素化合物は光照射によりラジカル化するので、硫黄変性ケイ素化合物を低温プロセスで形成することができる。硫黄変性ケイ素化合物を溶解させて溶液を調製し、この溶液に第2の加熱処理を行って硫化ケイ素を合成し、第3の加熱処理を行ってイオン伝導性材料を製造するので、得られたイオン伝導性材料は、内部に粒子間の界面をほとんど含まない実質的に一体のものになる。したがって、界面でのイオン伝導性が低下することが回避され、イオン伝導性が高いイオン伝導性材料になる。
【0054】
ところで、二硫化ケイ素を製造するためには、通常の製造方法では、1000℃程度の加熱処理や高真空での処理が必要である。
一方、本実施形態では、第2、第3の加熱処理の処理温度が300℃以下程度であり、高真空での処理を行わなくとも二硫化ケイ素を含んだイオン伝導性材料が得られるので、低エネルギー消費でイオン伝導性材料が得られるようになり、環境負荷を減らすことができる。また、低コストの製造装置によりイオン伝導性材料を製造することができ、低コストのイオン伝導性材料にすることができる。高真空や高温での処理を行う必要性が低いので、圧力管理や温度管理に要する時間や手間を省くことができ、イオン伝導性材料を短時間で効率よく製造することができる。環状硫黄および環状ポリシランは、一般的に低沸点材料であり高純度なものを入手することが容易であるので、高純度のイオン伝導性材料を得ることが容易である。S硫黄は、天然に豊富に存在するので、材料コストの面でも有利である。
【0055】
[第2実施形態]
次に、イオン伝導性材料の製造方法に関して第2実施形態を説明する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、伝導させるイオンの金属塩を含んだイオン伝導性材料を製造する点である。ここでは、伝導させるイオンがリチウムイオンである例について説明するが、伝導させるイオンが例えばナトリウムイオンであってもよい。
【0056】
第2実施形態では、まず第1実施形態と同様にして硫黄変成ケイ素化合物を形成する。そして、リチウム塩と硫黄変成ケイ素化合物とを含有する溶液を調製する。
【0057】
リチウム塩の組成については、特に限定されない。リチウム塩の具体例としては、ヘキサメチルジシラザンリチウム、LiAsF、LiPF、LiPF、LiClO、CFSOLi、(CFSOLi)NLi、LiS、L1N、LiTi(PO、Li−β-Al、LiS、LiI、LiOH、LiO、LiTaO、Lithium tetra−kis(3,5−bis(trifluoromethyl)phenyl)borate)等が挙げられる。また、硫黄変成ケイ素化合物と混合するときのリチウム塩の状態については、有機溶媒に溶解もしくは分散可能になっていれば特に限定されず、例えば溶解液、表面修飾したものの分散液、コロイド溶液、分散溶液、粒子等の状態であってもよい。
【0058】
上記の溶液の調製に用いる溶媒としては、硫黄変性ケイ素化合物およびリチウム塩を溶解(分散)することができ、硫黄変性ケイ素化合物およびリチウム塩と反応しないものであれば、その組成について特に限定されない。この溶媒としては、上述したケイ素化合物を溶解させるもの例えば炭化水素化合物と、上記の一般式SinXaYbZcで表されるケイ素化合物とから選択される1種または2種以上の混合物等を用いることができる。この溶媒の具体例として、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ヘキサン、オクタンなどの鎖状炭化水素とその異性体、シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカヒドロナフタレンなどに代表される環状炭化水素、硫黄変性ケイ素化合物を生成するときにモノマーとして用いたシクロペンタシラン等のケイ素化合物などが挙げられる。
【0059】
本実施形態では、リチウム塩として硫化リチウムコロイド粒子を用い、分散媒としてトルエンを用いる。硫化リチウムコロイド粒子は、公知の方法により得られ、粒径が例えば10nm〜20nm程度のものである。例えば、硫化リチウムコロイド粒子の濃度が10wt%である分散溶液を調製する。また、第1実施形態で説明したように、硫黄変成ケイ素化合物を含有する溶液を調製し、分散溶液と混合する。混合溶液の混合比は、混合溶液に含まれる硫化変成ケイ素化合物の質量に対する硫化リチウムの質量が、例えば0.15質量%になるようにする。
【0060】
以下、第1実施形態と同様にして第2、第3の加熱処理を行う。具体的には、溶液を基板に塗布した後に、不活性雰囲気、250℃以上300℃以下の処理温度で、塗布膜を20分間加熱して第2の加熱処理を行うことにより、非晶質のケイ素と硫化ケイ素を含んだ化合物を形成する。そして、大気雰囲気で、250℃以上300℃以下の処理温度で上記の化合物を60分間加熱して第3の加熱処理を行う。これにより、硫化リチウム、アモルファスガラスの二酸化ケイ素および二硫化ケイ素が混在した膜(イオン伝導性材料)が得られる。得られたイオン伝導性材料は、リチウム塩を含んでいるので、第1実施形態のものよりもリチウムイオンのイオン伝導性が高くなる。
【0061】
[第2実施形態]
次に、図2(a)〜(g)を参照しつつ、本発明の二次電池の製造方法に関して第3実施形態を説明する。図2(a)〜(g)は、二次電池の製造方法を概略して示す断面工程図である。
【0062】
二次電池を製造するには、図2(a)に示すように、まず基板100上に第1の電極101を形成する。基板100については、第1〜第3の加熱処理に耐えうる耐熱性、および二次電池の製造に用いる溶液などの各種形成材料に対する耐薬品性を有するものであれば、特に限定はしない。第1の電極101は、外部との電力の授受を行う正負の電極の片方であり、その材質、形状、形成方法は特に限定しない。
【0063】
第1の電極101の電極材料としては、例えばAu、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Co、Al、Ti、W、Ta、Cr、Mn、Fe、Zn、Mo、Ir等の金属材料、ITOやIZO等の透明導電材料、上記の金属材料や透明導電材料から選択される2以上からなる合金や複合材料、ポリアセチレン、ポリアニリン、PEDOT等の導電性樹脂材料、これら材料から選択される材料の混合物等が挙げられる。第1の電極101は、上記の形成材料から選択される材料の単層膜や積層膜により構成される。
【0064】
本実施形態では、基板100上にアルミニウムをスパッタ法により成膜し、この膜を第1の電極101とする。ここでは、第1の電極101側が正極である例を説明するが、第1の電極101が負極であってもよい。
【0065】
次いで、図2(b)、図2(c)に示すように、第1の電極101の上に正極活物質102を形成する。正極活物質の形成方法、形成材料については、特に限定しない。正極活物質の形成材料の具体例としては、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、LiFePO等が挙げられる。また、正極活物質に電解質材料やバインダーを混合してもよい。正極活物質の電気伝導度を補うために、導電補助材を加えてもよい。
電解質材料の具体例としては、SiO、P、ナシコンリチウム置換型、Li0.35La0.55TiO、LiWNBO等が挙げられる。
バインダーの具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキサイド、これらの化合物に必要に応じてリチウム塩を混合したもの等が挙げられる。
導電補助材の具体例としては、グラファイト、カーボンブラック、ポリアセチレン等が挙げられる。
正極活物質の形成方法については、正極活物質の材質に応じて、スパッタ法、ゾルゲル法、塗布法、ホットプレス法、プレス形成法等から適宜選択される。
【0066】
本実施形態では、マンガン酸リチウム(正極活物質の形成材料)とポリフッ化ビニリデ(バインダー)との混合物をn−メチルピロリドンに溶解した溶液を、第1の電極101上に塗布して、塗布膜102aを形成する。そして、塗布膜102aを150℃の処理温度で30分加熱して乾燥させ、正極活物質102を形成する。
【0067】
次いで、第2実施形態と同様にして、硫黄変成ケイ素化合物および金属塩を含んだ混合溶液を精製する。そして、図2(d)に示すように正極活物質102の上に混合溶液を塗布し、塗布膜103aを形成する。溶液を塗布する方法については、特に限定はなく、上述した公知の塗布法を適宜洗濯して用いることができる。本実施形態では、混合溶液を窒素雰囲気でスピンコート法により塗布して、塗布膜103aを形成する。
【0068】
次いで、第1実施形態と同様にして塗布膜103aに第2、第3の加熱処理を行うことにより、図2(e)に示すようにイオン伝導性材料からなる固体電解質103を形成する。ここでは、例えば厚みが50nm程度の固体電解質103を形成する。
【0069】
塗布膜103aの厚みを制御するには、例えばスピンコート法の場合には基板の回転速度を制御すればよい。回転速度を増すことにより、塗布膜103aを容易に薄厚化することができ、固体電解質103を容易に薄厚化することができる。固体電解質103の厚みを1nm以上10μm未満にすることにより、固体電解質103のイオン伝導性を格段に高めることができる。同じイオン伝導性で比較すると、固体電解質の厚みを減らすことにより、イオン伝導率が比較対象よりも低い材質で固体電解質を形成することができる。
【0070】
本実施形態では、第3の加熱処理を行った後に、固体電解質103に含まれる硫黄原子を活性化する。硫黄原子を活性化するには、低温ポリシリコン技術を適用することができる。例えば、25ナノ秒の間隔でエキシマレーザー(波長308nm)をパルス発振させ、エキシマレーザーで固体電解質103を走査する。すると、ケイ素原子と硫黄原子とが再配列して結合し、硫黄原子が活性化される。エキシマレーザーは、アモルファスシリコンに効率よく吸収されるために、その下地を過熱してダメージを与えるおそれが少ない。
【0071】
次いで、図2(f)に示すように固体電解質103の上に負極活物質104を形成する。負極活物質の形成方法、形成材料については、特に限定しない。負極活物質の形成材料の具体例としては、Li金属、LiTiO、Al、Si、Sn、In、カーボン等が挙げられる。また、負極活物質に、上述の電解質材料やバインダー、導電補助材を加えてもよい。負極活物質の形成方法としては、正極活物質と同様に、公知の形成方法用いることができる。本実施形態では、アルゴンガス雰囲気でリチウム金属を蒸着することにより、負極活物質104を形成する。
【0072】
次いで、図2(g)に示すように、負極活物質104の上に第2の電極105を形成する。第2の電極105は、第1の電極101と対になって正負の電極を構成する。第2の電極105の形成材料や形成方法については、第1の電極101と同様に公知の形成材料や形成方法を用いることができる。
【0073】
このようにして、二次電池を製造することができる。また、二次電池の単位構造を繰返し積層してもよい。例えば、第2の電極105の上に負極活物質を形成した後に負極活物質の上に固体電解質を形成し、次いで固体電解質の上に正極活物質を形成した後に第1の電極を形成する。以下、適宜選択される回数だけ単位構造の積層を繰り返すことにより、所望の容量や電圧の二次電池を製造することができる。
【0074】
以上のような第3実施形態の二次電池の製造方法にあっては、第1実施形態で説明した理由により、イオン導電性が高い固体電解質を備えた二次電池を製造することができる。また、塗布膜103aを薄膜化することが容易であるので、固体電解質103を薄型化することが容易になり、固体電解質103のイオン導電性を高めることができる。また、塗布膜103aから固体電解質103が得られるので、固体電解質103に対して第1の電極側に配置されている正極活物質102と、固体電解質103との間に空隙を生じにくくなる。したがって、正極活物質102と固体電解質103との接触面積を確保することができ、正極活物質102と固体電解質103の接触抵抗を減らすことができるので、正極活物質102と固体電解質との間の実質的なイオン導電性を高めることができる。
【0075】
以上のように、固体電解質103のイオン伝導性を高めることができるので、充電時間を短縮することや外部へ大電流を出力することが可能な二次電池を製造することができる。また、溶液を塗布して固体電解質103を形成するので、固体電解質103を大面積化することが容易になり、二次電池を効率よく製造することができる。二硫化ケイ素の合成を従来よりも低温プロセスで行うことができ、しかも高真空での処理を行う必要性も低いので、低エネルギー消費で二次電池の製造が得られるようになり、環境負荷を減らすことができる。
【0076】
本発明により製造された二次電池は、無機系の固体電解質103によりイオンの伝導を行うので、有機系の電解液を用いた二次電池よりも化学的に安定になり、完全管理上のコストを低減することができるとともに信頼性を高めることができる。また、化学的に安定であるので、高エネルギー素材を使ったエネルギーデバイス等に高信頼性で適用することができる。本発明は、例えばリチウムイオン二次電池やNAS(ナトリウム硫黄)電池、燃料電池などに適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
100・・・基板、101・・・第1の電極(正極)、102・・・正極活物質、
102a・・・塗布膜、103・・・固体電解質、103a・・・塗布膜、
104・・・負極活物質、105・・・第2の電極(負極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性のケイ素化合物と環状硫黄を混合した混合物に、光照射処理を行って前記ケイ素化合物をラジカル化するとともに第1の加熱処理を行って前記環状硫黄をラジカル化し、ラジカル化した前記ケイ素化合物をラジカル化した硫黄と結合させて硫黄変性ケイ素化合物を形成する工程と、
前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液を基板上に塗布した後に、不活性雰囲気で第2の加熱処理を行って非晶質のケイ素および硫化ケイ素を含んだ化合物を形成する工程と、 前記化合物に酸素ガス含有雰囲気で第3の加熱処理を行って、該化合物に含まれる前記非晶質のケイ素を酸化させる酸化工程と、
を有することを特徴とするイオン伝導性材料の製造方法。
【請求項2】
正負の電極間に固体電解質が設けられた二次電池の製造方法であって、
請求項1に記載のイオン伝導性材料の製造方法により、前記正負の電極のうちの一方の電極を前記基板として該基板に前記イオン伝導材料からなる前記固体電解質を形成することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ素化合物が水素原子を含み、
前記第2の加熱処理では前記化合物に水素原子が残留させ、該化合物に残留した水素原子を前記第3の加熱処理で除去することを特徴とする請求項2に記載の二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記光重合性のケイ素化合物は、一般式SinXaYbZc(ここで、nは3以上の整数を表し、Xは水素原子、Yはハロゲン原子、Zはアルキル基を表し、a、b,cの各々は0または正の整数を表し、a+b+c=mとしたときにmはnまたは2n−2または2nまたは2n+2の整数である)で表されるケイ素化合物であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質が一価または二価の陽イオンを伝導させるものであり、前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液は、前記陽イオンの金属塩を含有することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記硫黄変性ケイ素化合物を含んだ溶液の溶媒は、炭化水素化合物または一般式SinXaYbZc(ここで、nは3以上の整数を表し、Xは水素原子、Yはハロゲン原子、Zはアルキル基を表し、a、b,cの各々は0または正の整数を表し、a+b+c=mとしたときにmはnまたは2n−2または2nまたは2n+2の整数である)で表されるケイ素化合物から選択される1種以上であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記第3の加熱処理を行った後に、前記イオン導電材料に含まれる硫黄原子を活性化する工程を有することを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記混合物の前記環状硫黄と前記ケイ素化合物の混合比は、該混合物に含まれる硫黄原子の数がケイ素原子の数に対して1/2倍以上3倍以下となる混合比であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質の厚みを1nm以上10μm未満にすることを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記第1の加熱処理の処理温度は、160℃以上かつ前記ケイ素化合物の沸点と前記環状硫黄の沸点のうちで低い方の沸点よりも低いことを特徴とする請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記硫黄変性ケイ素化合物は、常温常圧で液体または固体であることを特徴とする請求項2から請求項10のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記硫黄変性ケイ素化合物の分解温度が、該硫黄変性ケイ素化合物の沸点よりも低いことを特徴とする請求項2から請求項11のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−165344(P2011−165344A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23470(P2010−23470)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】