説明

インプリント装置、それを用いた物品の製造方法

【課題】型と基板上の樹脂との重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供する。
【解決手段】インプリント方法は、基板を保持面上に保持する保持工程と、パターンが形成されている前記基板上の基板側パターン領域の形状を変形させる変形工程と、変形させた基板側パターン領域上の樹脂と、型とを接触させる接触工程と、樹脂を硬化させる硬化工程と、接触している樹脂と型とを離す離型工程とを備える。変形工程において、基板側パターン領域に対応した基板の裏面と保持面との間に働く最大静止摩擦力よりも大きな変形力を基板の表面に沿う方向に作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、それを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショットに紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
ここで、インプリント処理が施される基板は、一連のデバイス製造工程において、例えばスパッタリングなどの成膜工程での加熱処理を経ることで、基板全体が拡大または縮小し、平面内で直交する2軸方向でパターンの形状(サイズ)が変化する場合がある。したがって、インプリント装置では、型と基板上の樹脂とを押し付けるに際し、基板上に形成されている基板側パターンの形状と型に形成されているパターン部の形状とを合わせる必要がある。このような形状補正(倍率補正)は、従来の露光装置であれば、基板の倍率に合わせて投影光学系の縮小倍率を変更したり、基板ステージの走査速度を変更したりすることで露光処理時の各ショットサイズを変化させて対応可能である。しかしながら、インプリント装置では、投影光学系がなく、また型と基板上の樹脂とが直接接触するため、このような補正を実施することが難しい。そこで、インプリント装置では、型の側面から外力を与えたり、型を加熱して膨張させたりすることで、型を物理的に変形させる形状補正機構(倍率補正機構)を採用している。
【0004】
例えば、このインプリント装置を32nmハーフピッチ程度の半導体デバイスの製造工程に適用する場合を考える。このとき、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)によれば、重ね合わせ精度は、6.4nmとなる。したがって、これに対応するためには、形状補正も数nm以下の精度で実施する必要がある。その一方で、インプリント装置に用いられる型(パターン部)も、以下のような原因で歪曲が発生する可能性がある。例えば、型は、製作時にはパターン面が上向きであるのに対し、使用時(押し付け時)にはパターン面が下向きとなる。したがって、使用時には重力の影響などによりパターン部が変形する可能性がある。また、パターン部は、一般に電子ビームなどを用いる描画装置により形成されるが、この形成の際にも、描画装置の光学系の歪曲収差などに起因して歪曲が生じる可能性がある。さらに、パターン部が歪曲なしで製作できたとしても、基板側パターンに歪曲が生じていれば、重ね合わせ精度に影響が出る。そこで、このような型の歪曲(変形)を抑制し、重ね合わせ精度を改善するためのものとして、特許文献1は、保持温度制御手段により型や基板の温度を制御し、型または基板に所望の熱変形を発生させて形状を補正するパターン形成装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−259985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインプリント装置では、基板は、ウエハチャックなどの基板保持部に底面を拘束されつつ保持されている。したがって、特許文献1に示す温度制御で基板に熱変形を発生させても、パターン部の形状に対して基板側パターンの形状を十分に変化させることが難しい。そこで、型の形状補正に加え、この型の形状に対して基板(基板側パターンを含む)の形状補正も容易に実施することで、型と基板上の樹脂との重ね合わせ精度を向上させることができるような装置が望まれる。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、例えば、型と基板上の樹脂との重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、型に形成されたパターンを基板上の樹脂に転写するインプリント方法であって、基板を保持面上に保持する保持工程と、基板上に形成されている基板側パターンの形状を変形させる変形工程と、変形させた基板側パターン上の樹脂と、型とを接触させる接触工程と、樹脂を硬化させる硬化工程と、接触している樹脂と型とを離す離型工程と、を備え、変形工程において、基板側パターンの裏面と保持面との間に働く最大静止摩擦力よりも大きな変形力を基板の表面に沿う方向に作用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、型と基板上の樹脂との重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るウエハステージの構成を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係る動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図5】第3実施形態に係るウエハステージの構成を示す図である。
【図6】第4実施形態に係る動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図7】第4実施形態に係る光の照射量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
まず、本発明の第1実施形態に係るインプリント装置について説明する。図1は、本実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを転写する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の図においては、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、まず、光照射部2と、モールド保持機構3と、ウエハステージ4と、塗布部5と、制御部6とを備える。
【0012】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド7に対して紫外線8を照射する。この光照射部2は、光源9と、この光源9から照射された紫外線8をインプリントに適切な光に調整するための光学素子10とから構成される。なお、本実施形態では光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、光照射部2に換えて、熱硬化性樹脂を硬化させるための熱源部を設置することとなる。さらに、光照射部2は、光源9とは別に、ウエハ11を加熱するため光を照射する加熱機構(基板変形機構)としての加熱用光源50を含む。この加熱用光源50が照射する光は、赤外線
などの光硬化性を有する樹脂が感光しない波長領域の光である。また、加熱機構は、所定の照射量分布の光を形成する調整器を含む。本実施形態では、加熱用光源50と調整器が一体であるものとして説明する。調整器は、加熱用光源50と別体として設けてもよく、例えば、加熱用光源50からの光が照射される領域に配置された複数の液晶素子を含む液晶デバイスや、光が照射される領域に配置された複数のミラーを含むミラーデバイスを用いてもよい。ミラーデバイスは、デジタルミラーデバイスもしくはマイクロミラーデバイスと称される場合もある。液晶デバイスは、複数の液晶素子に印加する電圧を個別に調整することで所定の照射量分布を形成可能であり、ミラーデバイスは、複数のミラーの面方向を個別に調整することで所定の照射量分布を形成可能である。
【0013】
モールド7は、外周形状が矩形であり、ウエハ11に対する面に3次元状に凹凸パターン(例えば、回路パターンなど)が形成されたパターン部7aを含む。また、モールド7の材質は、石英など紫外線8を透過させることが可能な材料である。さらに、モールド7は、紫外線8が照射される面に、モールド7の変形を容易とするためのキャビティ(凹部)7bを有する形状としてもよい。このキャビティ7bは、円形の平面形状を有し、厚み(深さ)は、モールド7の大きさや材質により適宜設定される。また、後述するモールド保持機構3内の開口領域17に、この開口領域17の一部とキャビティ7bとで囲まれる空間12を密閉空間とする光透過部材13を設置し、不図示の圧力調整装置により空間12内の圧力を制御する構成もあり得る。例えば、モールド7とウエハ11上の樹脂14との押し付けに際し、圧力調整装置により空間12内の圧力をその外部よりも高く設定することで、パターン部7aは、ウエハ11に向かい凸形に撓み、樹脂14に対してパターン部7aの中心部から接触する。これにより、パターン部7aと樹脂14との間に気体(空気)が閉じ込められるのを抑え、パターン部7aの凹凸部に樹脂14を隅々まで充填させることができる。
【0014】
モールド保持機構3は、まず、真空吸着力や静電吸着力によりモールド7を引き付けて保持するモールドチャック15と、このモールドチャック15を保持し、モールド7(モールドチャック15)を移動させるモールド駆動機構16とを有する。モールドチャック15およびモールド駆動機構16は、光照射部2の光源9から照射された紫外線8がウエハ11に向けて照射されるように、中心部(内側)に開口領域17を有する。さらに、モールド保持機構3は、モールドチャック15におけるモールド7の保持側に、モールド7の側面に外力または変位を与えることによりモールド7(パターン部7a)の形状を補正する倍率補正機構(型変形機構)18を有する。この倍率補正機構18は、モールド7の形状を変形させることで、予めパターンが形成されている基板上の領域(基板側パターン領域)53の形状に対して、モールド7に形成されているパターン部7aの形状を合わせる。なお、倍率補正機構18は、基板側パターン領域53の形状に対してパターン部7aの形状を一致させることが困難であれば、双方の形状を近づける(形状差を低減する)ようにしてもよい。基板側パターン領域53は1つだけ図示されているが、ウエハ11上には複数の基板側パターン領域が形成されている。
【0015】
モールド駆動機構16は、モールド7とウエハ11上の樹脂14との接触、または引き離しを選択的に行うようにモールド7をZ軸方向に移動させる。このモールド駆動機構16に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータまたはエアシリンダがある。また、モールド7の高精度な位置決めに対応するために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向、またはθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や、モールド7の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。なお、インプリント装置1における接触および引き離し動作は、上述のようにモールド7をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ4をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0016】
ウエハ11は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板であり、この被処理面には、モールド7に形成されたパターン部7aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下「樹脂」という)14が塗布される。
【0017】
ウエハステージ4は、ウエハ11を保持し、モールド7とウエハ11上の樹脂14とを接触させる前もしくは接触中に、モールド7と樹脂14との位置合わせを実施する。このウエハステージ4は、ウエハ11を保持する保持面が形成されたウエハチャック(基板保持部)19と、このウエハチャック19を機械的手段により保持し、XY平面内で移動可能とするステージ駆動機構20とを有する。図2は、本実施形態のウエハチャック19と、その周辺部の構成を示す概略断面図である。このウエハチャック19は、ウエハ11の裏面を吸着保持するための複数の吸着部51を備える。この吸着部51としては、例えば、図2に示すように3つの吸着部51a〜51bとし得る。これらの吸着部51a〜51cは、それぞれ上記とは別の圧力調整装置52に接続されており、基板側パターン領域53を含む領域に対応したウエハ11の裏面とウエハチャック19の表面との間の摩擦力を調整する摩擦力調整機構として機能する。この圧力調整装置52は、ウエハ11と吸着部51との間の圧力を減圧するよう調整し、吸着力を発生させることでウエハ11をチャック面上に保持しつつ、さらに各吸着部51a〜51cにてそれぞれ独立して圧力値(吸着力)を変更可能とする。なお、吸着部51の分割数は、3つに限定するものではなく、任意の数でよい。また、ウエハチャック19は、その表面上にモールド7をアライメントする際に利用する基準マーク21を有する。
【0018】
ステージ駆動機構20は、アクチュエータとして、例えばリニアモータを採用し得る。ステージ駆動機構20も、X軸およびY軸の各方向に対して、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動系や、ウエハ11のθ方向の位置調整機能、またはウエハ11の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。
【0019】
塗布部5は、ウエハ11上に樹脂(未硬化樹脂)14を塗布する。ここで、この樹脂14は、紫外線8を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。また、塗布部5の吐出ノズルから吐出される樹脂14の量も、ウエハ11上に形成される樹脂14の所望の厚さや、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。
【0020】
制御部6は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部6は、例えば、コンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部6は、少なくとも光照射部2、ウエハステージ4、および圧力調整装置52の動作を制御する。なお、制御部6は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0021】
また、インプリント装置1は、例えばウエハアライメントとして、ウエハ11上に形成されたアライメントマークと、モールド7に形成されたアライメントマークとのX軸およびY軸の各方向への位置ずれを計測するアライメント計測系22を備える。また、インプリント装置1は、ウエハステージ4を載置するベース定盤24と、モールド保持機構3を固定するブリッジ定盤25と、ベース定盤24から延設され、ブリッジ定盤25を支持するための支柱26とを備える。さらに、インプリント装置1は、共に不図示であるが、モールド7を装置外部からモールド保持機構3へ搬送するモールド搬送機構と、ウエハ11を装置外部からウエハステージ4へ搬送する基板搬送機構とを備える。
【0022】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部6は、基板搬送機構によりウエハステージ4上のウエハチャック19にウエハ11を載置させ、ウエハチャック19の保持面上にウエハ11を保持させ(保持工程)、ウエハステージ4を塗布部5の塗布位置へ移動させる。その後、塗布部5は、塗布工程として基板側パターン領域(ショット領域)53に樹脂14を塗布する。次に、制御部6は、ウエハ11上の基板側パターン領域53がモールド7に形成されたパターン部7aの直下に位置するように、ウエハステージ4を移動させる。次に、制御部6は、モールド駆動機構16を駆動させ、基板側パターン領域上の樹脂14にモールド7を押し付けて(押型工程)、両者を接触させる(接触工程)。この接触により、樹脂14は、パターン部7aの凹凸部に充填される。この状態で、光照射部2は、硬化工程としてモールド7の背面(上面)から紫外線8を照射し、モールド7を透過した紫外線8により樹脂14を硬化させる。そして、樹脂14が硬化した後、制御部6は、モールド駆動機構16を再駆動させ、モールド7を樹脂14から引き離す(離型工程)。これにより、ウエハ11上の基板側パターン領域53の表面には、パターン部7aの凹凸部に倣った3次元形状の樹脂14のパターン(層)が成形される。このような一連のインプリント動作をウエハステージ4の駆動により基板側パターン領域53を変更しつつ複数回実施することで、1枚のウエハ11上に複数の樹脂14のパターンを成形することができる。
【0023】
ここで、ウエハ11上にて、ある所定のショットに対してパターンを成形する際のウエハチャック19による吸着制御について説明する。図3は、上記押型工程から硬化工程までに特化したインプリント装置1の動作シーケンスを示すフローチャートである。また、このときの処理対象となるショットは、図2に示すようにウエハ11の中心部に位置し、この位置は、ウエハチャック19に設置された吸着部51bが対応するものとする。この場合、まず、制御部6は、パターン部7aおよびウエハ11の形状補正を実施する前に、圧力調整装置52により、吸着部51a、51cの吸着力を維持しつつ、吸着部51bの吸着力だけを低下させる(ステップS100)。例えば、このときの吸着部51bの吸着圧は、大気圧でもよいし、または、吸着部51a、51cの吸着力よりも低ければ、大気圧以下でもよい。また、予め、加熱用光源50からの光の照射量の調整範囲が設定されている場合も想定される。この場合、ウエハ11の裏面と吸着部51bとの間に働く最大静止摩擦力Fよりも基板側パターン領域53に作用するウエハ11の表面に沿う方向の熱変形力Wが大きくなるように吸着部51bの吸着圧を設定すればよい。照射量に応じて決まる基板側パターン領域53の温度上昇をΔT、熱膨張率をα、弾性率をEとすると、熱応力σ≒α・E・ΔTで表すことができ、この熱応力σと断面積Sに応じた熱変形力Wが作用する。最大静止摩擦係数をμ、吸着圧に応じた垂直方向の力をNとすると、最大静止摩擦力F=μ・Nで表すことができる。つまり、F<Wの関係を満たすようにすればよい。なお、吸着部51bで保持されるウエハ11上の領域は、少なくとも予めパターンが形成されているウエハ上の基板側パターン領域53を含む領域であればよい。次に、制御部6は、アライメント計測系22により、モールド7およびウエハ11のX軸およびY軸の各方向のそれぞれの位置を検出させる(第1アライメント計測:ステップS101)。続いて、制御部6は、パターン部7aと基板側パターン領域53との形状の差に関する情報を取得する(取得工程)。ただし、ウエハ11に形成された基板側パターン領域53の形状のみを補正したい場合には、基板側パターン領域53の形状に関する情報のみを取得してもよい。そして、制御部6は、ステップS101における計測結果に基づいて、パターン部7aと基板側パターン領域53との位置ずれに対する補正量を算出する。次に、制御部6は、光照射部2の加熱用光源50から光を照射させることでウエハ11を加熱する(変形工程:ステップS102)。また、制御部6は、倍率補正機構18を動作させて変位を入力することで(型変形工程:ステップS103)、パターン部7aおよび基板側パターン領域53の形状を補正させる。上述のように基板側パターン領域53に対応したウエハ11の裏面と保持面との間に働く最大静止摩擦力を低下させているため、ウエハ11の表面に沿う方向において、ウエハに対して最大静止摩擦力Fよりも大きな熱変形力を作用させることができる。また、照射量分布をもつ光を基板側パターン領域53に照射することによって、基板側パターン領域53に温度分布を付与し、様々な成分の形状補正が可能となる。例えば、算出した補正量のうち、低次の成分(例えば台形形状の成分)をウエハ加熱により補正し、高次の成分を変位入力により補正することで、好適にパターン部7aと基板側パターン領域53の形状を合わせることができる。この補正により、パターン部7aの形状と基板側パターン領域53の形状とを合わせた後、制御部6は、圧力調整装置52により吸着部51bの吸着圧を再度減圧させ、吸着部51bの吸着力を吸着部51a、51cの吸着力と同等にまで戻す(ステップS104)。次に、制御部6は、アライメント計測系22により、モールド7およびウエハ11のX軸、Y軸の各方向のそれぞれの位置を再度計測させる(第2アライメント計測:ステップS105)。ここで、制御部6は、位置ずれがあると判断した場合には、モールド駆動機構16またはステージ駆動機構20を駆動させて、モールド7およびウエハ11の位置調整を実施する(ステップS106)。そして、制御部6は、次工程である硬化工程に移行する。
【0024】
なお、ステップS100での吸着部51bの吸着力を低下させる工程の開始は、ステップS101での第1アライメント計測の前に限らず、この第1アライメント計測の後としてもよい。吸着部51bの吸着力を低下させる工程は、基板を加熱する変形工程よりも前に、もしくは変形工程の間に行われることが好ましい。また、ステップS102では、ウエハ11上の基板側パターン領域53の形状補正を、加熱用光源50からの光の照射による加熱により実施しているが、本発明は、これに限定するものではない。例えば、加熱用光源50に換わる基板変形機構として、別途設置される外力付加機構により、ウエハ11に対して平面方向の外力または変位を直接入力することで、基板側パターン領域53の形状補正を実施する構成としてもよい。さらに、ステップS103でのモールド7に対する変位入力は、実施することなく、例えば、ステップS102でのウエハ11の加熱による形状補正のみを実施することで、基板側パターン領域53の形状をパターン部7aの形状に一致させてもよい。なお、ステップS102とステップS103とは、その順序が逆でもよく、または同時でもよい。また、吸着部51bの吸着力を元に戻す工程は、変形工程よりも後で、かつ、離型工程よりも前に行われることが好ましい。
【0025】
このように、インプリント装置1では、例えば押型工程から硬化工程までの一時の間にて、吸着部51bの吸着力を低下させることで、吸着部51bと、基板側パターン領域53を少なくとも含むウエハ11の裏面との間の摩擦力を低減させる。すなわち、光照射部2の加熱用光源50により基板側パターン領域53を熱変形させている間は、その部分では熱変形させていない間よりもウエハチャック19との摩擦力が低減されているため、基板側パターン領域53を効率的に熱変形させることができる。言い換えると、照射量を不要に大きくすることなく熱変形させることができるため、周辺の部材の不要な温度上昇を抑え、モールド7とウエハ11上の樹脂14との重ね合わせ精度への影響を抑えることができる。さらに、このとき、他の吸着部51a、51cの吸着力は、維持されたままであるため、ウエハ11は、この熱変形を受けてもウエハチャック19上にて強固に吸着され、ウエハ11全体のずれが抑えられる。なお、熱変形させている間に常時摩擦力を低減させる必要はなく、熱変形させている間の少なくとも一部の期間に摩擦力を低減させてもよい。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、モールド7とウエハ11上の樹脂14との重ね合わせ精度の改善に有利なインプリント装置1を提供することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインプリント装置について説明する。本実施形態のインプリント装置では、装置構成を第1実施形態と同一とし、押型工程から硬化工程までの動作シーケンスを変更する。図4Aおよび4Bは、本実施形態に係る押型工程から硬化工程までに特化したインプリント装置の動作シーケンスを示すフローチャートである。まず、図4Aに示す例では、制御部6は、押型工程後に、図3に示す第1実施形態に係る動作シーケンスにおけるステップS103のモールド7に対する変位入力を、ステップS105の第2アライメント計測の後に実施させる(ステップS205)。ここで、ステップS201でのアライメント計測を第1アライメント計測とすると、図3のステップS105に対応する工程が、図4Aにおける第2アライメント計測(ステップS204)である。この場合、制御部6は、ステップS205の後、第2アライメント計測と同様の第3アライメント計測を再度実施させる(ステップS206)。なお、この第3アライメント計測は、第2アライメント計測の値を用いることで省略してもよい。その他の工程については、第1実施形態の場合と同一である。
【0028】
一方、図4Bに示す例では、制御部6は、押型工程後に、図3に示す動作シーケンスにおけるステップS103のモールド7に対する変位入力を、ステップS100の吸着部51bの吸着力を低下させる工程の前に実施させる(ステップS301)。この場合、制御部6は、このステップS301の前に、図3のステップS101に対応する工程である第1アライメント計測を実施させる(ステップS300)。また、制御部6は、ステップS301の後、図3のステップS100に対応する吸着部51bの吸着力を低下させる工程を開始する(ステップS302)。そして、制御部6は、図3のステップS102に対応するウエハ11上の基板側パターン領域53の形状補正であるステップS304の後、吸着部51bの吸着力を再度上昇させる(ステップS305)。その他の工程については、第1実施形態の場合と同一である。本実施形態によれば、図4Aおよび4Bの各図に示すように、倍率補正機構18によるモールド7に対する変位入力を、摩擦力を低減している間には実施しない。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏すると共に、変位入力時のモールド7の変形に伴うウエハ11の不要な位置ずれや変形をさらに抑えることができる。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るインプリント装置について説明する。本実施形態のインプリント装置では、第1実施形態に係るウエハチャック19の吸着部51の構成を変更する。図5は、本実施形態に係るウエハチャック19に設置された吸着部51(51a)の一部を拡大した概略断面図である。この吸着部51は、その吸着領域内に、複数の吸着ピン60を有し、この吸着ピン60の先端面、すなわちウエハ11の裏面との接触面には、ウエハ11との摩擦係数が低い低摩擦材料を用いた低摩擦部材61が設置されている。この低摩擦材料としては、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が採用可能である。このように、ウエハチャック19とウエハ11との接触面の摩擦係数を低減させることで、光照射部2の加熱用光源50により、ウエハ11(パターン53)を効率的に熱変形させることができる。
【0030】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るインプリント装置について説明する。第1実施形態のインプリント装置では、基板側パターン領域53に対応したウエハ11の裏面とウエハチャック19の保持面との間に働く摩擦力を調整する例を説明した。しかし、本実施形態では、摩擦力を調整せずに、基板側パターン領域53に作用する熱変形力を調整する例を説明する。第1実施形態のインプリント装置とは、制御部6の機能が異なり、それ以外の構成は同様であるため、同様の構成については説明を省略して制御部6の機能を中心に説明する。
【0031】
図6は、本実施形態に係る押型工程から硬化工程までに特化したインプリント装置の動作シーケンスを示すフローチャートである。まず、制御部6は、押型工程後に、ウエハチャック19の吸着部51の吸着圧の値を読み込む(ステップS400)。次に、制御部6は、図3のステップS101に対応する工程である第1アライメント計測を実施させる(ステップS401)。制御部6は、ステップS400で得た吸着部51の吸着圧の値から、ウエハに照射する光の照射量を算出する(ステップS402)。次に、算出された照射量の光をウエハ11に照射することで基板側パターン領域53の形状を補正する(ステップS403)。その後、図3のステップS103に対応するモールド7への変位入力であるステップS404と、ステップS105に対応する第2アライメント計測であるステップS405を実施する。位置ずれがある場合は、モールド7およびウエハ11の位置調整を実施して(ステップS406)、最後に硬化工程を行う。
【0032】
図7を用いて、ステップS402で算出される照射量について説明をする。加熱機構は、少なくとも基板側パターン領域53を含むウエハ11の照射領域に対して、一様な照射量aと、分布を持った照射量bと、を足し合わせた光を照射する。ここで、照射量aは、ウエハ11の照射領域の平面方向の熱変形の力の方が、ウエハ11の照射領域の裏面と、吸着部51との間の最大静止摩擦力よりも、高くなるような照射領域に対して一様な照射量である。そして、照射量bは、制御部6が算出した基板側パターン領域53の補正量、もしくは補正量から照射量aによるウエハ11の変形量を差し引いた値、に応じた、照射領域に対して分布を持った照射量である。
【0033】
照射量aは、吸着部51の吸着圧(吸着力)に応じて決定することが好ましい。照射量に応じて決まる基板側パターン領域53の温度上昇をΔT、熱膨張率をα、弾性率をEとすると、熱応力σ≒α・E・ΔTで表すことができ、この熱応力σと断面積Sに応じた熱変形力Wが作用する。最大静止摩擦係数をμ、吸着圧に応じた垂直方向の力をNとすると、最大静止摩擦力f=μ・Nで表すことができる。つまり、f<Wの関係を満たすようにすればよい。照射量bは、予め用意した、補正量に対応づけられた照射量のデータまたは補正量と照射量とを関連づけた関係式に基づいて決定することが好ましい。
【0034】
本実施形態では、摩擦力を低減させる為の吸着部51の圧力調整を実施していない。しかし、熱変形の力が最大静止摩擦力を超えるように照射量aを有する光でウエハ11を加熱している為、第1実施形態と同様に基板側パターン領域53の形状補正を効率的に行うことができる。本実施形態は、第1実施形態における圧力調整と組み合わせることも可能である。
【0035】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【符号の説明】
【0036】
1 インプリント装置
7 モールド
7a パターン部
11 ウエハ
14 樹脂
19 ウエハチャック
50 加熱用光源
51 吸着部
52 圧力調整装置
53 基板側パターン領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型に形成されたパターンを基板上の樹脂に転写するインプリント方法であって、
前記基板を保持面上に保持する保持工程と、
パターンが形成されている前記基板上の基板側パターン領域の形状を変形させる変形工程と、
変形させた前記基板側パターン領域上の樹脂と、前記型とを接触させる接触工程と、
前記樹脂を硬化させる硬化工程と、
前記接触している前記樹脂と前記型とを離す離型工程と、を備え、
前記変形工程において、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面と前記保持面との間に働く最大静止摩擦力よりも大きな変形力を前記基板の表面に沿う方向に作用させることを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
前記変形工程よりも前に、もしくは前記変形工程の間に、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面と前記保持面の間に働く摩擦力を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項3】
前記変形工程よりも後で、かつ、前記離型工程よりも前に、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面と前記保持面の間に働く摩擦力を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項4】
前記保持工程は、前記基板を吸着して保持する工程を含み、
前記変形工程よりも前に、もしくは前記変形工程の間に、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面における吸着力を小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント方法。
【請求項5】
前記保持工程は、前記基板を吸着して保持する工程を含み、
前記変形工程よりも後で、かつ、前記離型工程よりも前に、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面における吸着力を大きくすることを特徴とする請求項1または3記載のインプリント方法。
【請求項6】
前記変形工程において、前記基板側パターン領域を加熱することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項7】
前記基板上に形成された複数のマークの位置を検出して、前記基板側パターン領域の形状に関する情報を取得する取得工程を備え、
前記変形工程において、前記取得工程にて取得した情報に基づき、前記型に形成されたパターンの形状との差が小さくなるように、前記基板側パターン領域の形状を変形させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項8】
パターンが形成されている前記型のパターン部の形状を変形させる型変形工程を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項9】
前記基板上に形成された複数のマークの位置と、前記型に形成された複数のマークの位置とを検出して、前記基板側パターン領域と前記型に形成されたパターンの形状の差に関する情報を取得する取得工程を備え、
前記変形工程および前記型変形工程において、前記取得工程にて取得した情報に基づき、前記形状の差が小さくなるように前記基板側パターン領域および型に形成されたパターンの形状を変形させることを特徴とする請求項8に記載のインプリント方法。
【請求項10】
型に形成されたパターンを基板上の樹脂に転写するインプリント装置であって、
前記基板を保持する保持面が形成された基板保持部と、
パターンが形成されている前記基板上の基板側パターン領域の形状を変形させる変形機構と、
前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面と前記保持面との間に働く摩擦力を調整する摩擦力調整機構と、
前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面と前記保持部との間に働く最大静止摩擦力よりも前記基板側パターン領域に働く前記基板の表面に沿う方向の変形力が大きくなるように、前記変形機構または前記摩擦力調整機構を制御する制御部と、を備えることを特徴とするインプリント装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記変形機構が前記基板側パターン領域の形状を変形させる前もしくは変形させている間に前記摩擦力を小さくするように、前記摩擦力調整機構を制御することを特徴とする請求項10に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記基板保持部は、前記基板を吸着して保持し、前記基板側パターン領域に対応した前記基板の裏面における吸着力を調整することによって、摩擦力を調整することを特徴とする請求項10または11に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記変形機構は、前記基板側パターン領域を加熱する加熱機構を含むことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項14】
前記基板保持部は、吸着力を独立に変更可能な複数の吸着部を含むことを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−102137(P2013−102137A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220209(P2012−220209)
【出願日】平成24年10月2日(2012.10.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】