説明

ウォッシャブルで快適性・保温性を有する羽毛ライクな詰め綿体

【課題】優れた嵩高性を有するだけでなく、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ長期圧縮後の嵩高回復特性が高く、更に抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有し、かつ家庭洗濯が可能であって、掛け布団などの寝装寝具等として好適な詰め綿体を提供する。
【解決手段】単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する細短繊維A10〜50重量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する多葉細短繊維B10〜50重量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexのけん縮を有する中空太短繊維C40〜80重量%とが混合されてなる中綿を、33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸からなるカバーファクターが1800〜2200である高密度織物を側地に用いてキルティング加工を施してなるウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛を用いた詰め綿体のような優れた快適性と保温特性を有するとともに、家庭洗濯が可能な詰め綿体に関する。
【0002】
更に詳しくは、家庭洗濯が可能であり、風合いに富み保温性に優れ、体に沿いやすく嵩高性に優れ、長期圧縮後の嵩高回復性等に優れた特性を有する詰め綿体に関する。
【0003】
本発明にかかる詰め綿体は、家庭洗濯が可能で、かつ羽毛の詰め綿体のような優れた快適性と保温特性を有する、掛け布団や寝袋、座布団、敷き布団、肌掛け布団、こたつ布団等として好適に用いられる詰め綿体に関するものである。
【背景技術】
【0004】
従来、掛け布団や枕等の寝装寝具等の詰め綿体に用いられる中綿素材の一つとして羽毛がある。
【0005】
羽毛を中綿として使用して詰め綿体にした羽毛布団は、風合いに富み、軽量で保温性に優れ、体に沿いやすく嵩高性に優れ、そして、圧縮後の回復率が高いことが知られている。この羽毛布団に用いられる羽毛には、一般的に水鳥の羽毛が使用される。
【0006】
しかし、天然の羽毛を得ようとした場合、その供給量には限度がある上、自然条件や疫病の影響によって供給量が変動するという問題がある。さらには、自然保護の観点から、野生の鳥を捕獲することには限界があり、また、水鳥を人工飼育して羽毛を得ようとしても、多くの水鳥を飼育しなければならず、多量の飼料を必要とすることや水鳥の排泄物による環境の汚染などというような問題がある。また、羽毛を詰め綿として使用できるようにするためには、採毛、選別、消毒、脱脂および布団詰めなどの多くの工程を経る必要があり、取り扱い性や作業性の点などでも問題があった。
【0007】
また、詰め綿体用の中綿の素材としては、木綿も用いられるが、木綿は重く、嵩高性に優れておらず、身体に沿いにくくかつ圧縮後の回復率も低く、一般には詰め綿の素材として不向きと言わざるを得ない。
【0008】
また、詰め綿体用の中綿の素材としてポリエステル繊維の原綿(短繊維)も用いられている。しかし、ポリエステル原綿は、安価で軽量かつ嵩高性に優れているが、一般に、詰め綿体として集合物でみると、体に沿いにくく、そして圧縮後の回復率が低いという問題がある。
【0009】
こうしたことから、羽毛使いの詰め綿の代替をねらい、合成繊維の原綿に羽毛の特長を付与するという試みも従来からなされている。
【0010】
例えば、ポリエステル繊維の異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿を入れた布団が提案されている(特許文献1参照)。また、単繊維繊度の異なる1種または2種以上の合成繊維からなる詰め綿が提案されている(特許文献2、3参照)。さらに、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなりポリシロキサンを含む油剤が付与された繊維からなる詰め綿が提案されている(特許文献4参照)。
【0011】
しかし、特許文献1で提案されている異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿は、異形断面繊維を混ぜることにより嵩高性を出すことできるが、羽毛のような優れた保温性と圧縮回復性を得ることはできない。これは繊維の異形断面化により嵩高化することできても、繊維表面特性を考慮していないか、または、単繊維繊度の細い繊維を用いていないためである。
【0012】
また、特許文献2に提案のものでは、単繊維繊度の細い繊維の層(繊維ウェッブ)と単繊維繊度の太い繊維の層(繊維ウェッブ)を積層しているだけであるので、羽毛のような優れた圧縮回復性を得ることはできない。また、異なる繊度の繊維を用いているだけでは嵩高性を高める効果はほとんど得られない。
【0013】
また、特許文献3で提案のものは、単繊維繊度の太い繊維を2種類用いることにより嵩高性の高い詰め綿を得ているが、太い繊維ばかりを使用しているため、羽毛のような優れた保温性と圧縮性を得ることはできなかった。
【0014】
また、特許文献4で提案されている、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなり、かつポリキシロサンを含む油剤が付与されている詰め綿は、風合いに富み、良好な嵩高性を有することができるが、圧縮されたときに繊維どうしが絡みすぎ、フェルト状となるため、圧縮回復率と保温性を十分に高めることができなかった。
【0015】
以上のような従来技術では、細繊度と太繊度の短繊維を絡ませたり、異形断面繊維、中空繊維、自己けん縮性異形断面繊維を用いることにより、嵩高性を高めてはいるものの、保温性および圧縮回復性ではなお不十分であり、羽毛の詰め綿体の代替となるような優れた特性を備えるものではなかった。
【0016】
さらに、一般にこうした従来技術のものでは、家庭洗濯ができてかつ羽毛ふとんを超えるものはできなかった。
【0017】
そして、家庭洗濯ができること、いわゆるウォッシャブルであることは、家庭でいつでも手入れ・保管ができるという理由により優れたことであるが、羽毛布団は、この家庭洗濯ができないという基本的な欠点があった。
【0018】
結局、優れた保温性と圧縮回復特性を有していて羽毛の代替となり得て、かつ、家庭洗濯もできる(ウォッシャブルである)という詰め綿体については、羽毛では実現できていないものであり、その実現に強い要請はあるものの、羽毛分野ではできず、そして、合成繊維業界でも羽毛ライクかつ家庭洗濯が可能という詰め綿体商品はいまだ実現されていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭56−76915号公報
【特許文献2】特開昭56−143183号公報
【特許文献3】特開平11−346891号公報
【特許文献4】特開2006−115987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上述した従来技術における問題点を解決し、優れた嵩高性を有するだけでなく、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ、長期圧縮後の嵩高回復特性が高く、更に抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有し、かつ家庭洗濯が可能であること、いわゆるウォッシャブルであって、掛け布団などの寝装寝具や、座布団、こたつ布団などとして好適に用いられる詰め綿体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した目的を達成する本発明のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体は、以下の(1)の構成を有する。
(1)単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する細短繊維A10〜50重量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する多葉細短繊維B10〜50重量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexのけん縮を有する中空太短繊維C40〜80重量%とが混合されてなる中綿を、33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸からなるカバーファクターが1800〜2200である高密度織物を側地に用いてキルティング加工を施してなることを特徴とするウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【0022】
また、かかる本発明のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体において、好ましくは、以下の(2)〜(9)のいずれかの構成を有するものである。
(2)前記細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cが、シリコーンコーテイングが施されたポリエステル短繊維であることを特徴とする上記(1)記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(3)前記中空太短繊維Cが、その中空率が20〜50%のポリエステル短繊維であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(4)前記高密度織物が、格子柄の大きさが経緯とも1.6〜3.0mmであるリップストップ組織の織物であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(5)前記高密度織物を構成する前記合成繊維マルチフィラメントが、単繊維繊度0.8〜3.3dtexのポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメントであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(6)クロー値(clo値)が5.0〜9.0であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(7)前記高密度織物を構成する前記合成繊維マルチフィラメント糸が、ポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメント糸であり、かつ、ΔMR値2.0%〜6.0%であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(8)前記高密度織物の通気量が3〜12cc/cm2 であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
(9)家庭洗濯ができることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた嵩高性を有し、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れた長期圧縮後の嵩高回復性が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有し、掛け布団等の寝装寝具、座布団などに好適に用いられる、羽毛詰め綿体と代替可能でかつウォッシャブルな詰め綿体が得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体は、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する細短繊維A10〜50重量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する多葉細短繊維B10〜50重量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexのけん縮を有する中空太短繊維C40〜80重量%とが混合されてなる中綿を、33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸からなるカバーファクターが1800〜2200である高密度織物を側地に用いてキルティング加工を施してなることを特徴とする。
【0025】
本発明の詰め綿体は、その嵩高性を高めるため、また、使用によるヘタリを防止するために、単繊維繊度の太い綿(中空太短繊維C)を混綿し、全体の剛性を高めることが重要である。
【0026】
詰め綿体の保温性は、構成する繊維によって形成される微細な断熱性に優れる空気層により保持されるものであるため、保温性を向上させるためにはその微細空気層の数をより多く形成することが有効である。また、使用によるヘタリが起こると微細空気層が減少し、保温性の低下を招くため、嵩高性と同様に、単繊維繊度の太い繊維の混綿が重要なものである。
【0027】
詰め綿体の圧縮性と回復性を高めるため、そして、風合いや柔らかさに富むようにするためには、単繊維繊度の細い繊維を混綿し、微細空気層を形成すること、また、繊維表面にポリシロキサンを含む油剤を付与することにより平滑性を高め、繊維間の摩擦を軽減して移動しやすくさせることが重要であり、さらには圧縮時に繊維どうしが絡むことによるフェルト化を防ぐことが重要である。
【0028】
本発明の詰め綿体用混合原綿である中空太短繊維Cは、単繊維繊度が太いため剛性が高く、嵩高性の実現に寄与し、使用によるヘタリ、また、ヘタリに伴う保温性の低下を防止する。
【0029】
さらに、単繊維繊度の細い繊維である細短繊維Aを混綿することにより微細空気層が形成され、羽毛に近似する回復性、柔らかさおよび風合いが追加される。
【0030】
さらには、多葉細短繊維Bを混綿することにより、その多葉形状により詰め綿内の微細空気層が増え、保温性と圧縮性を向上させ、さらには圧縮された際の繊維どうしが絡みすぎることによるフェルト化を防ぎ、長期圧縮後の嵩高回復性に富む、羽毛に近似した特徴が得られる。
【0031】
本発明において用いられる細短繊維Aの単繊維繊度は0.5〜3.0dtexであり、好ましくは、0.5〜2.0dtexであり、より好ましくは0.5〜1.4dtexである。また、細短繊維Aの質量比は10〜50質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0032】
また、多葉細短繊維Bの単繊維繊度は0.5〜3.0dtexであり、好ましくは0.5〜2.0dtexであり、より好ましくは1.0〜2.0dtexである。また、多葉細短繊維Bの質量比は10〜50質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0033】
また、中空太短繊維Cの単繊維繊度は5.0〜20.0dtexであり、好ましくは5.0〜10.0dtexであり、より好ましくは5.0〜8.0dtexである。また、中空太短繊維Cの質量比は40〜80質量%であり、好ましくは60〜80質量%である。
【0034】
単繊維繊度は、JIS L 1015(1999年)に準じて測定したものである。
【0035】
本発明の混綿詰め綿が、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cの3種の短繊維からなる場合、それらの全質量は通常合わせて100質量%である。ただし、本発明の混綿詰め綿において、他の繊維が混入されることを遮ることはない。他の繊維が混入される場合は、該細短繊維Aと該多葉細短繊維Bと該中空太短繊維Cの3種の合計に対する質量比率で本発明では特定しているものである。
【0036】
本発明で用いられる細短繊維Aは、上記の単繊維繊度0.5〜3.0dtexを有するもので、その断面は丸断面でも異形断面でもよいが、好ましくは丸断面である。また、多葉細短繊維Bも、上記の単繊維繊度0.5〜3.0dtexを有するもので、その断面は何葉でもよいが、好ましくは2〜10葉程度、より好ましくは3〜6葉である。さらに中空太短繊維Cは、上記の単繊維繊度5.0〜20.0dtexを有するもので、その断面は丸断面でも異形断面でもよい。
【0037】
また、細短繊維Aの長さは、好ましくは10〜60mmであり、より好ましくは30〜50mmであり、多葉細短繊維Bの長さは、好ましくは10〜60mmであり、より好ましくは30〜50mmであり、中空太短繊維Cの長さは、より好ましくは30〜90mmであり、より好ましくは50〜80mmである。
【0038】
本発明の詰め綿用原綿である細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cには、繊維間の滑り性を高めるために、ポリシロキサンが繊維の質量比で好ましくは0.1〜3質量%で付着されている。その付着量は、より好ましくは0.3〜1質量%であり、これにより、繊維間の滑り性が高く、詰め綿を圧縮した後の回復率が高くなる。
【0039】
ポリシロキサンとしては、例えば、アミノ変性シリコーンなどを使用することができる。
【0040】
繊維にポリシロキサンを付着させるためには、ポリシロキサンを含む油剤を付与すればよい。この油剤には、ポリシロキサンの他に、リン酸系化合物、脂肪族化合物およびハロゲン系化合物を含むことが好ましく、さらには、酸化防止剤、防燃剤および静電防止剤を含んでいることが好ましい。
【0041】
このポリシロキサンを含む油剤は、本発明で用いられる短繊維を製造する工程において、トウをカットする直前において付与されることが好ましいが、トウをカットした後の短繊維(原綿)に油剤を付与し、乾燥させてもよい。その油剤付与の際には、ポリシロキサンの濃度を好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜8質量%である油剤水溶液にして繊維に付与し、その後、任意の温度で乾燥すればよい。
【0042】
本発明の混綿詰め綿において、ポリシロキサンが付着された短繊維の繊維間摩擦係数μSは、0.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以下である。これは繊維間の滑り性が高くなるため、詰め綿体を圧縮したときに繊維が移動しやすくなり、ひいては圧縮されやすくなるからである。繊維間摩擦係数μSは、JIS L 1015(1999年)に準じて測定したものである。
【0043】
本発明の詰め綿体において、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cとの混合割合を前記した特定の割合の範囲内とすることが重要であり、これによって詰め綿にした際の柔らかさ、風合いおよび保温性が向上し、嵩高性が維持される。
【0044】
本発明の詰め綿体の保温性と回復性を高めるために、多葉細短繊維Bはその異形度が1.0〜4.0であることが好ましい。多葉細短繊維Bの異形度が1.0未満であると、混綿詰め綿における微細空気層の形成に寄与する効果が低く、異形度が4.0よりも大きいと詰め綿製造時や圧縮された際に葉が折れてしまう可能性がある。より好ましい異形度は、2.0〜3.0である。
【0045】
なお、異形度は、繊維横断面から内接円の直径と外接円の直径を測定し、次式で求めることができる。
異形度=外接円の直径/内接円の直径
【0046】
本発明において、多葉とは、繊維横断面において繊維中心より外側に向かって複数の凸状部を有する形状のものを総称するものである。凸状部の形状は、丸味を帯びていてもよく、多角など角張っていてもよい。また、凸状部の数は何個でもよいが、好ましくは、2〜10個程度であり、より好ましくは3〜6個である。
【0047】
詰め綿体の嵩高性を高めるために、中空太短繊維Cは中空率が20〜50%であるこ とが好ましい。特に、中空太短繊維Cが中綿のシート形状に影響し、かつ、その中空率 が布団の快適性、保温性に最も影響を及ぼす。中空率が大きいほど空気を大量に包み込み、快適な優れた保温性が得られる。しかし、中空率が50%よりも大きいと混綿機およびカード機で繊維表面が傷つき、工程通過性が悪くなる。中空率が20%未満であると、空気を包み込む量が小さすぎ、快適性がなくなるので好ましくない。これらの効果 の点から中空率はさらに好ましくは30〜50%である。この中空率は、繊維横断面拡大写真によって中空部分を含めた繊維断面の全面積に対する中空部分面積の割合を算出し%で表示するものである。
【0048】
本発明において、中空とは、繊維横断面において、繊維外形内部に空洞部を有することをいう。空洞部は、繊維中心に位置していてもよいし、中心からずれて位置する偏心でもよいが、最も好ましくは繊維中心に位置することである。さらに、空洞部の断面形状は、丸形や多角形等のいずれの形状でもよいが、中では丸形が好ましい。
【0049】
さらに、本発明で用いられる中空太短繊維Cは、紡糸時の片方(片側)の急冷による非対称構造の中空繊維とすることにより、あるいは、少なくとも2種のポリマからなるサイドバイサイド構造の中空繊維とすることにより、繊維に自己けん縮性を与えた中空繊維を用いることもできる。このようにすると、けん縮性がより高められ、より繊維間どうしの反発が強くなり、嵩高性をより高くすることができる。
【0050】
本発明の詰め綿体を構成する細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、いずれもポリエステル繊維の短繊維であることが好ましい。
【0051】
用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびそれらの共重合体等が挙げられる。特に好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートである。
【0052】
また、ポリエステル以外のポリマとしては、脂肪族ポリアミド、ポリオレフィンおよびポリフェニレンサルファイド等を用いることができ、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)およびこれらの共重合体、ポリプロピレンおよびポリエチレン等が挙げられる。
【0053】
また、廃棄処分時の環境負担軽減のためには、生分解性のポリマからなる繊維を用いることもできる。生分解性のポリマとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネートまたはこれらの共重合体などが挙げられる。これら以外の生分解性共重合体としては、例えば、ポリエステルアミド系共重合体や芳香族系ポリエステルを生分解性を有するように改質された共重合体でもよい。
【0054】
また、細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、所望の単繊維繊度や所望の断面形状となるような条件を採用すれば、ポリエステル等の熱可塑性短繊維の通常の製糸方法によって製造することができる。
【0055】
細短繊維Aおよび多葉細短繊維Bの製造の場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、孔径0.2〜0.4mmの吐出孔を550〜1300孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸速度で溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の温度の空気を40〜100m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度900〜1500m/分で、いったん缶に納めることにより未延伸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率で、温度80〜95℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて好ましくは7〜20山/25mmの機械けん縮を付与し、アミノ変性シリコーン等のポリシロキサンが濃度1〜10質量%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、80〜165℃の温度で15〜30分間乾燥し、長さ10〜60mmに切断して、単繊維繊度が0.5〜2.0dtexの短繊維を製造することができる。
【0056】
上述した機械けん縮とは、二次元のジグザグ(山谷)状であるけん縮である。
【0057】
また、中空太短繊維Cの場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、中空繊維用吐出孔(例えば、複数のスリットを円周上に並べた吐出孔)を90〜200孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸温度で中空部が形成されるように溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の温度の空気を100〜180m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1000〜1700m/分で、いったん缶に納めることにより未延伸トウを得る。
【0058】
次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率で、温度80〜100℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて好ましくは5〜10山/25mmの構造差けん縮または/および機械けん縮を付与し、アミノ変性シリコーン等のポリシロキサンが濃度1〜10質量%で含まれた油剤水溶液をシャワーで付与し、80〜165℃の温度で5〜30分間乾燥し、長さ30〜90mmに切断して、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維を製造することができる。
【0059】
本発明でいう構造差けん縮とは、三次元のスパイラル状(バネ状)であるけん縮をいうものである。
【0060】
また、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cとを混合する方法としては、例えば、それぞれの短繊維を積層して開繊機を通過させた後に、風送および/またはカード機で混ぜる方法を採用することができる。また、短繊維とする前のトウどうしを重ねて同時にカットすることにより混合させた後、開繊機を通過させ、風送および/またはカード機で混合する方法を採用してもよい。
【0061】
また、混綿詰め綿を構成する繊維、すなわち、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cのうち、少なくとも1種の繊維に、銀、カルシウムまたは銅を含む油剤成分を、好ましくは質量比0.1〜1.0質量%の範囲で付与することにより、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭および防臭性能を有する混綿詰め綿とすることができる。
【0062】
ここで用いられる油剤成分に含まれる銀、カルシウムまたは銅としては、例えば、リン酸カルシウム・ハイドロオキサイトからなる直径1〜50μm粒子に、銀または銅の酸化化合物や、塩化化合物、窒素化合物、アミノ化合物および配位化合物を、または他の金属配位化合物を含む粒子を固着させたものが挙げられ、これらをリン酸系水溶剤に分散させて繊維に対し、繊維表面に付着させればよい。
【0063】
この場合、例えば、銀、カルシウムまたは銅を含む油剤成分を、ポリシロキサンを含む油剤に混ぜて繊維に動じに付与することができる。また、それぞれ油剤を独立して前後に個別に付与することもできる。具体的に、ポリシロキサンを含む油剤を付与後に、銀等を含む油剤を付与してもよく、または銀等を含む油剤を付与後にポリシロキサンを含む油剤を付与してもよい。
【0064】
本発明の詰め綿体は、優れた嵩高性を有し、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ、長期圧縮後の回復性が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有する詰め綿体であって、ウォッシャブルという大きな特徴を有する。かかる本発明の詰め綿体は、掛け布団、枕等の寝装寝具や座布団、クッション、シュラフなどに好適に用いられるものである。
【0065】
また、本発明では、上述した詰め綿用原綿(中綿)を、33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸からなる高密度織物で包み、さらにキルティングして詰め綿体とするものである。すなわち、該高密度織物を側地に使用するものであり、特にカバーファクターが1800〜2200である高密度織物を使用することが重要である。なお、高密度織物とは、単位インチ当たりに多くの糸を打ち込む織物であり、糸と糸との隙間を小さくすることで空気の通気量が小さくなる織物をいい、通常は、カバーファクターで表されるものである。
【0066】
さらにキルティング加工して詰め綿体を得る。キルティング加工は、表地と裏地の間に薄い中綿を入れ、重ねた状態で刺し縫いし、模様を浮き出させるように縫製する加工方法をいう。本発明では、キルティング加工は、人間の身体に沿った流線形状かつ中綿が偏りしない形状であることが好ましい。
【0067】
高密度織物の素材としては、例えば、吸放湿性、保温性がある細繊度ポリアミド6(東レ株式会社製「キュープラテ」(商品名)。ナイロンポリマーにポリビニルピロリドン等の吸放湿ポリマを練り込み紡糸したもので、かつTiO2 を1.6質量%含有する)を使用する。練り込み紡糸することでポリエステルの場合は、ポリエーテルエステル化合物を30重量%練り込みすることにより吸放湿性能が得られる。
【0068】
この吸放湿差を表す指標がΔMR値であって、ΔMR値が大きいほど吸放湿性が優れている。
【0069】
33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸を使用する理由は、細繊度の繊維は軽量化に寄与し、かつ、風合いもソフトになるからである。56dtexよりも大きいものは風合いが著しく硬くなり、人間の寝沿いにマッチしなくなり保温性が保てない。また、33dtex未満だと引き裂き強力が小さくなり、目ズレが発生し、使用に不向きである。また、単糸繊度が0.8dtex以下であるとスナッグ、ピリングが発生し、3.3dtex以上では風合いが硬くなる。
【0070】
なお、カバーファクター値とは、単位面積間の糸断面の占める割合の程度を表す係数であって、以下の式で表されるものである。
カバーファクター値=√経糸の繊度(デシテックス)×織物の経糸密度(本/2.54cm)+√緯糸の繊度(デシテックス)織物の緯糸密度(本/2.54cm)
【0071】
該カバーファクター値が1800未満であると軽く薄いものとなるが、織物に隙間が発生し、目ズレを起こし通気度、保温性を満足することが難しくなり、一方、2200を超えると、通気度、保温性は満足するものとなるが、織物が重くなり、風合いも硬くなり、洗濯後シワが発生するので好ましくない。カバーファクター値の、より好ましい範囲は1900〜2100である。
【0072】
細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、シリコーンコーテイングを施したポリエステル短繊維であることが好ましく、風合いや耐久性などの点で羽毛に近い特性を有するものが得られる。
【0073】
前記中空太短繊維Cは、その中空率が20〜50%のポリエステル短繊維であることが好ましい。特に、中空太短繊維Cが中綿のシート形状に影響し、かつ、その中空率が布団の快適性、保温性に最も影響を及ぼす。中空率が大きいほど空気を大量に包み込み、快適な優れた保温性が得られる。しかし、中空率が50%よりも大きいと混綿機およびカード気で繊維表面が傷付き、工程通過性が悪くなる。中空率が20%未満であると、空気を包み込む量が小さすぎ、快適な保温性がなくなるので好ましくない。これらの効果の点から中空率は好ましくは30〜50%である。
【0074】
本発明において、高密度織物は、コンパクトな薄地織物で実現されるのが最も好ましく、軽さや引き裂き強さを高レベルで満足させるために、織物の組織は、組織点が最も多い平組織もしくは平組織とナナコ組織を組み合わせたリップストップ組織とするのが好ましい。
【0075】
中でも、引き裂き強力が大きい織物とするためにリップストップ組織とするのが好ましい。好ましくは、格子柄の大きさが1.6〜3.0mmのリップストップ組織であるのがよい。リップストップ幅が1.6mm未満の場合は、織機上の停台回数が多くなり、安定した布帛の製造がむずかしくなる。リップストップ幅(格子柄の大きさ・幅)が1.6mm未満では、製織上の停台回数が多くなり、安定した布帛の製造ができないので好ましくなく、逆に、リップストップ幅が3.0mmより大きい場合には引き裂き強力が小さくなり、使用に耐え難くなるので好ましくない。リップストップ幅(格子柄の大きさ・幅)のより好ましい範囲は1.6〜2.0mmである。
【0076】
高密度織物を構成する合成繊維マルチフィラメント糸は33〜56dtexの糸を用いることが重要であり、さらに、その単繊維繊度が0.8〜3.3dtexのポリアミドまたはポリエステルのマルチフィラメント糸であることが好ましい。33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸を使用することは、織物の軽量化に寄与しかつ風合いもソフトなものになる効果がある。56dtexよりも大きいと風合いが著しく硬くなり、人間の寝沿いにマッチしなくなり保温性が保てなくなり、また、33dtex未満であると、引き裂き強力が小さくなり、目ズレが発生し実用には向かない。また、単繊維繊度が0.8dtex未満であると、スナッグ、ピリングが発生し、3.3dtexよりも大きいと風合いが硬くなるので好ましくない。
【0077】
本発明の詰め綿体は、クロー値(clo値)が5.0〜9.0であることが好ましい。クロー値(clo値)は保温性を表わすパラメータであり、クロー値が5.0未満であると、一般に睡眠中には寒く、逆に、9.0よりも大きなものとなると睡眠中に暑くなりすぎて、好ましくない。すなわち、この詰め綿体のクロー値が5.0〜9.0であることは秋冬用掛け布団向けに適している。これは中綿の繊維形態および重量が大きく影響し、全体としていかに空気を溜め込むかという点が重要である。そのために秋冬向け掛け布団の中綿の重量は通常0.9〜1.5kgが好ましい。
【0078】
また、中綿の繊維形態は先の記載した中空太短繊維C50重量%、多葉細短繊維B25重量%、および細短繊維A25重量%の組み合わせが最も好ましく、この重量比率値を中心にして、それぞれに±5%程度の範囲内で組み合わせることが好ましいものである。最も好ましいクロー値(clo値)の範囲は6.5〜8.5である。
【0079】
高密度織物を構成するマルチフィラメント糸は、ポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメント糸であり、かつ、ΔMR値が2.0%〜6.0%であることが好ましい。
【0080】
このΔMR値が2.0〜6.0%であるということは、良好な吸放湿性(吸湿特性および放湿特性の2特性)を有することを意味する。このΔMR値が快適性(蒸れにくく、さらっとした爽やかさに富むという特性)と関連するものであり、2.0〜6.0%の範囲内であることが優れた快適性を実現するもものである。
【0081】
このΔMR値が2.0〜6.0%であるポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメント糸を得るには、例えば、ポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメント糸に吸湿ポリマ等を分散して練り込むことにより、ΔMR値が上記した範囲内にあって、吸放湿性を向上させた繊維を製造することができる。一例を示すと、所定のΔMR値を得る方法としては、ポリアミドまたはポリエステルに、ポリビニルピロリドンあるいはポリエーテルエステル系化合物を練り込む等が挙げられる。
【0082】
本発明において、高密度織物はその通気量が3〜12cc/cm2 であるものを用いるのが好ましい。高密度織物は一般に洗濯がしにくい(水を吸い込まない)ものであるが、通気量が3〜12cc/cm2 であると洗濯がしやすいことと洗濯後の乾燥が早く、しかも収納しやすいという優れた詰め綿となる。具体的には、通気量が3cc/cm2 未満であると家庭洗濯時に水が詰め綿体の中に入らず、詰め綿体が洗濯機の中で浮いてしまい洗濯がほぼできない。逆に、通気量が12cc/cm2 より大きいと洗濯時に目ズレが発生し、織物の隙間から詰め綿が飛び出してくるので側地の用をなさなくなる。通気量は、好ましくは6〜9cc/cm2 であり、該通気量の大小は、織物密度や織組織、さらに併せて、使用する織糸の仕様等を変更することにより調整できる。
【0083】
本発明の詰め綿体は、一般的な家庭で持っている遠心脱水装置付き家庭用電気洗濯機で洗濯ができるということが、本発明の大きな効果であり、一般の家庭洗濯機で洗濯を行っても、詰め綿体の嵩高性、ソフト感、圧縮に対する反発性や回復は変わらず、かつ、中綿の偏りが発生しない形のキルティングが施されていることにより、洗濯前後での詰め綿体の品位、性能は変わらず、家庭洗濯が容易にできるということである。
【0084】
詰め綿体に施すキルティング加工としては、前述したように、人間の身体に沿った流線形状かつ中綿が偏りしない形で行うことが重要であり、具体的には、人間の体形状に合ったパターン(柄模様)であることが好ましいものである。
【実施例】
【0085】
本発明の混綿詰め綿および用いられる詰め綿用混合原綿(中綿)、その側地用織物、本発明の製品たる詰め綿について、次の実施例を用いて詳細に説明する。
【0086】
なお、混綿詰め綿特性および布団特性の測定は、次の方法によった。
<嵩高特性の測定>
(a)初期嵩高の測定
作製した混綿詰め綿体用の中綿あるいは羽毛を、20cm×20cmのサイズの側地に15gを投入し、試験用サンプルを作製した後、全体に均一に荷重0.094g/cm2 をかけ、初期嵩高(高さ)(mm)を測定した。この測定は、中綿としての嵩高さを評価するものであり、詰め綿体製品としての嵩高さを評価するものではない。
(b)圧縮嵩高の測定
上記(a)の初期嵩高を測定した後、荷重0.094g/cm2 を外し、全体に均一に10.0g/cm2 の荷重をかけた後、圧縮嵩高(高さ)(mm)を測定した。
(c)回復嵩高の測定
上記(b)の圧縮嵩高を測定した後、荷重10.0g/cm2 を外し、全体に均一に0.094g/cm2 の荷重をかけた後、回復嵩高(高さ)(mm)を測定した。
(d)長期圧縮後の回復嵩高の測定
初期嵩高を測定した後、荷重0.094g/cm2 を外し、全体に均一に10.0g/cm2 の荷重をかけた後、1日間放置し、その後荷重10.0g/cm2 を外し、6時間放置した後サンプルをはたき、全体に均一に荷重0.094g/cm2 をかけ、長期圧縮後の回復嵩高(高さ)(mm)を測定した。
(e)クロー値(clo値)の測定
JIS L 1096(1999年)に準じて、作製した混綿詰め綿体および羽毛を詰めた布団のクロー値(clo値)を測定した。
(f)通気量の測定
JIS L 1096 8.27.1に規定されている通気量(フラジール形法A法)に準拠する。
(g)カバーファクターの測定
CF(カバーファクター)=T×√DT+W×√DWで計算した。Tは織物の経密度(本/2.54cm)、Wは織物の緯密度(本/2.54cm)、DTおよびDWは、織物を構成する経糸および緯糸の太さ(デシテックス)を表す。
(h)繊度(dtex)
100m長のポリアミドおよびポリエステルマルチフィラメントのかせを3つ作成し、各々の重量(g)を測定し、平均値を求めて100倍した。
(i)異形度
異形度=外接円の直径/内接円の直径で表す。
(j)中空率の測定
繊維横断拡大写真によって、中空部分を含めた繊維断面の全面積に対する中空部分面積の割合を算出し、%で表示した。
(k)ΔMR値の測定
恒温室で30℃×90%RHで24時間放置後の平衡吸湿率−恒温室20℃×65%RHで24時間放置後の平衡吸湿率で表す。
(l)目付けの測定
JIS L 1096に規定されている単位面積当りの質量に準拠する。
(m)引裂切断強力
JIS L 1096に規定されている引き裂き強さ(ベンジュラム法)に準拠する。経糸を切断する方向と緯糸を切断する方向の両方向を測定する。
(n)家庭洗濯の可否の判定
JIS Lー0217 103法(JIS C 9606に規定する遠心式脱水装置付き家庭用電気洗濯機)に順じて、製品に対して、損傷なく洗われたか否かで判定した。その結果は損傷なく洗われたものは家庭洗濯が可能と判断し、家庭洗濯機で洗えないものは不可とした。
【0087】
実施例1
ポリエチレンテレフタレートからなる細短繊維が長さ38mm、けん縮数が18山/25mmで、単繊維繊度が1.3dtexでポリシロキサン(シリコーン系)付着量が0.5質量%の丸断面の細短繊維Aを準備した。
【0088】
次にポリエチレンテレフタレートからなる異形度2.65のY断面で、長さ38mm、けん縮数が18山/25mmで、単繊維繊度が1.8dtexで、ポリシロキサン付着量が0.75質量%の多葉(三葉(Y型断面))細短繊維Bを準備した。
【0089】
また、ポリエチレンテレフタレートからなる中空率35%の中空丸断面で、長さ64mm、けん縮数が7山/25mmで、単繊維繊度が7.6dtexで、ポリシロキサン付着量が0.3質量%の中空太短繊維Cを準備した。
【0090】
上記の細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cとを、質量比25対25対50(25質量%/25質量%/50質量%)の割合で積層して、開繊機を通過させた後にカード機を通して3種混綿詰め綿を製造した。
【0091】
得られた3種混綿詰め綿を、TiO2 (酸化チタン)を1.6重量%含有し、ΔMR値4.0%を有するポリアミド6の44dtex、34フィラメントを経糸および緯糸に用いて経糸密度180本/2.54cm、緯糸密度118本/2.54cmに設定し、ミミリップストップ組織で製織を行って、下記のようにして側地を仕上げた。
【0092】
側地の詳細は、得られた生機を常法に従って精練、中間セット、染色、仕上げセットを行い、経糸密度183本/2.54cm、緯糸密度124本/2.54cm、カバーファクター2036、リップストップ幅1.6mm×1.7mmとして製織し仕上げられた側地である。
【0093】
この側地を表面と裏面に重ね合わせて袋状に縫製した中に、上記で得られた3種混綿詰め綿を入れ、キルティング加工を行い、1.0kgの重さの布団を作製した後、嵩高特性、clo値、ΔMR値、通気量の測定および家庭洗濯の可能性につき可否の調査を行った。なお、キルティング加工は、表側地と裏側地の間に上記で得られた3種混綿詰め綿体シートを入れた状態で、流線形のパターン模様で最縫いしたものである。
【0094】
その各種の評価をした結果は表1、表2に示すとおりである。
【0095】
得られた本発明に係る布団は羽毛と同じように、嵩高性、保温性、風合いに優れ、かつ軽量、吸放湿性、通気性、家庭洗濯ができ、長期圧縮後の厚み回復性能が羽毛より優れたものであることがわかる。
【0096】
実施例2
ポリエステル56dtex、74フィラメントで、TiO2 (酸化チタン)2.0質量%、ΔMR値2.0%を満足するようにポリエーテルエステル系化合物を含有した加工糸を経糸密度149本/2.54cm、緯糸密度138本/2.54cmに設定し、ミミリップストップ組織で製織した。
【0097】
得られた生機を常法に従い精練、中間セット、染色、仕上げセットを行い、経糸密度160本/2.54cm、緯糸密度130本/2.54cm、カバーファクター2173、リップストップ幅2.0mm×2.0mmの側地用布帛を得た。
【0098】
実施例1で用いたものと同様の3種混綿詰め綿をこの側地布帛に入れ、キルティング加工を行い、1.0kgの重さの布団を作製した後、嵩高特性、clo値、ΔMR値、通気量の測定および家庭洗濯の可能性につき可否の判定を行った。
【0099】
その結果は表1、表2に示すとおりである。
【0100】
得られた布団は羽毛と同じように、嵩高性、保温性、風合い(ソフト)に優れ、かつ軽量、吸放湿性、通気性にも優れ、家庭洗濯ができ、長期圧縮後の厚み回復性能が羽毛より優れたものであることがわかる。
【0101】
実施例3
実施例1で得られた3種混綿詰め綿を、TiO2 (酸化チタン)1.6重量%を含有し、ΔMR値2.0%を有するポリアミド6の44dtex、34マルチフィラメント糸で用いて実施例1と同様に作製された側地に入れた。
【0102】
その結果は表1、表2に示すとおりであり、全体的には良好であるものの、実施例1、実施例2よりも、保温性、吸放湿性の点で多少劣るものであった。
【0103】
比較例1
実施例1の細短繊維Aと中空太短繊維Cを質量比30対70(25質量%/50質量%)の割合で積層し、開繊機を通過させた後にカード機を通して2種混綿詰め綿を製造した。
【0104】
得られた2種混綿詰め綿を実施例1の側地布帛に入れて布団を作製した。
【0105】
その結果は表1、表2に示すとおりである。得られた布団は、初期嵩高と回復性は優れているが、保温性、吸放湿性、風合いが硬く劣っていた。
【0106】
比較例2
実施例1の多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cを質量比30対70(30質量%/70質量%)の割合で積層し、開繊機を通過させた後にカード機を通して2種混綿詰め綿を製造した。
【0107】
得られた2種混綿詰め綿を実施例1の側地布帛に入れた布団を作製した。
【0108】
その結果は表1、表2に示すとおりである。得られた布団は、初期嵩高に優れていたが、回復性、保温性、風合いが硬く劣っていた。
比較例3
ダウン90質量%とフェザー10質量%の羽毛を中綿として準備した。
【0109】
側地として、経糸ポリエステル加工糸84dtex、36フィラメント、緯糸ポリエステル85/綿紡績糸45/1Sを用いて、経糸密度142本/2.54cm、緯糸密度79本/2.54cm、平組織で製職し、さらに、得られた生機を、常法に従って精練、中間セット、染色、仕上げセット,片面カレンダーを行い、経糸密度158本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cm、カバーファクター2404の側地布帛とした。
【0110】
これに前述の中綿を入れて布団を作製した。
【0111】
その結果は表1、表2に示すとおりであり、家庭洗濯ができないものであった。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する細短繊維A10〜50重量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexのけん縮を有する多葉細短繊維B10〜50重量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexのけん縮を有する中空太短繊維C40〜80重量%とが混合されてなる中綿を、33〜56dtexの合成繊維マルチフィラメント糸からなるカバーファクターが1800〜2200である高密度織物を側地に用いてキルティング加工を施してなることを特徴とするウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項2】
前記細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cが、シリコーンコーテイングが施されたポリエステル短繊維であることを特徴とする請求項1記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項3】
前記中空太短繊維Cが、その中空率が20〜50%のポリエステル短繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項4】
前記高密度織物が、格子柄の大きさが経緯とも1.6〜3.0mmであるリップストップ組織の織物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項5】
前記高密度織物を構成する前記合成繊維マルチフィラメントが、単繊維繊度0.8〜3.3dtexのポリアミドまたはポリエステルのマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項6】
クロー値(clo値)が5.0〜9.0であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項7】
前記高密度織物を構成する前記合成繊維マルチフィラメント糸が、ポリアミドまたはポリエステルマルチフィラメント糸であり、かつ、ΔMR値2.0%〜6.0%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。
【請求項8】
前記高密度織物の通気量が3〜12cc/cm2 であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の詰め綿体。
【請求項9】
家庭洗濯ができることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のウォッシャブルで快適性・保温性を有する詰め綿体。

【公開番号】特開2013−27470(P2013−27470A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164246(P2011−164246)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(500282427)東レインターナショナル株式会社 (27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】