説明

エポキシ樹脂接着組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤

【課題】短波長吸収性を抑制でき光透過性に優れ、耐紫外線性、耐候性、耐熱性、塗布性、および貯蔵安定性に優れ、光半導体チップをマウントする半導体装置のアッセンブリーや各種部品類の接着に使用しうるエポキシ樹脂接着組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤の提供。
【解決手段】脂環式エポキシ化合物(A)、エポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれかを構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物(B)、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物(C)、2価の有機錫化合物(d1)と4価の有機錫化合物(d2)との混合物からなる有機錫化合物(D)、および1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(E)を必須成分として、それぞれ特定量含有する光透過性に優れたエポキシ樹脂接着組成物などによって提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤に関し、さらに詳しくは、短波長吸収性を抑制でき光透過性に優れ、耐紫外線性、耐候性、耐熱性、塗布性、および貯蔵安定性に優れ、光半導体チップをマウントする半導体装置のアッセンブリーや各種部品類の接着に使用しうるエポキシ樹脂接着組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)やレーザーダイオードなどをはじめとする光半導体は、GaP系やGaAlAs系、GaInAlAs系、GaInAlP系などの化合物からなり、その構造上、半導体の上面と下面から電気を流す必要がある。
【0003】
これらのLEDなどをリードフレームや基板に接合する際には、導電性接着剤と呼ばれるエポキシ樹脂組成物が電気を流す接着剤として使用され、LED等の下面とリードフレームや基板等とを接着することで、光の反射、電気的および熱的導通を得ている。また、LEDなどの上面には、ファインワイヤーと呼ばれる金などを材料とした細い導線を使用して、LEDとリードフレームや基板と接合し、電気的導通を得ている。
【0004】
これら従来のLEDは、赤外から緑色程度までの波長を放出することが出来るが、緑色より低い波長を多く放出することが難しいとされていた。
ところが、近年の技術革新によって、GaN系の半導体化合物が緑色より短い波長を多く放出することが見出された。これらのGaN系の半導体化合物は、およそ550nm以下の波長を放出することができ、緑色や青色、また紫外線等の波長を放出できる。
【0005】
GaN系の半導体化合物は、上記のGaP系LEDなどとは構造が異なり、下面から導通を得るものと導通を必要としないものがあるため、リードフレームや基板に接合する際には、上記の導電性接着剤や導電性を持たないエポキシ樹脂組成物を使用して接着している。
【0006】
しかしながら、従来のエポキシ樹脂組成物では、主にビスフェノールA型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂など、汎用のエポキシ樹脂を使用しているため、長時間使用していると変色してしまう問題が生じている。変色の原因は、汎用のエポキシ樹脂では500〜450nm以下の波長を吸収してしまい、その吸収エネルギーがエポキシ樹脂の構造を変化させてしまうためと考えられている。さらに波長エネルギーを吸収してしまうために、LEDなどから発光した光が減衰してしまい、明るく出来ないという問題もある。
【0007】
さらに、GaN系の半導体化合物が発した波長を、外部に多く取り出すためには、導電性接着剤やエポキシ樹脂組成物で、波長をより多く反射する、もしくはエポキシ樹脂組成物で波長を透過させ、接着している基板部分で多く反射させる必要がある。
【0008】
一方、これらの問題を解決するために、脂環式エポキシ樹脂や水素添加型エポキシ樹脂を使用することもあるが、一般的にはメチルヘキサヒドロ無水フタル酸やナジック酸無水物などの酸無水物系硬化剤を使用することになる。
【0009】
この場合、透明な硬化物がえられ、透過性が良いものが得られるが、一液型の配合ではポットライフが短くなり、作業性の点で問題があった。また、ジシアンジアミドやフェノール系硬化剤などを使用することにより、一液型の配合も可能となるが、硬化物は着色してしまい、500〜450nm以下の波長を吸収し、発光した光の反射率が低下するという点で問題があった。
【0010】
また、赤色から青色までの全ての色を発色するLEDが実用化され、これが信号機や情報表示板などとして屋外で盛んに使用されるものと予想される。そのため、エポキシ樹脂組成物には耐候性の向上も強く望まれている。
【0011】
このようなことから、水素添加型エポキシ樹脂、カチオン重合開始剤、芳香族オニウム塩、フェノール系酸化防止剤、リン化合物からなるエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これを用いれば、樹脂の着色および熱履歴による着色の問題が回避され、耐候性、靭性に優れた硬化物が得られると考えられる。
【0012】
しかし、カチオン重合開始剤には、硫黄化合物、リン化合物、ハロゲン化物、アンモニウムイオンのような電子材料としては好ましくない元素が含有されている。芳香族オニウム塩は、樹脂への溶解性が十分に高くなく反応性が均一でないこと、金属イオンが樹脂硬化物中に残存すること等が問題となりうる。また、フェノール系酸化防止剤は、耐候性の向上に効果はあるが、時間と共に黄色く変色してしまう問題がある。さらに、リン化合物は、ある条件の下でイオン化し、半導体と化合物を形成して不具合を発生する可能性がある。
【0013】
このような問題点を解決するために、脂環式エポキシを含むエポキシ基含有化合物とシラノール基および、または珪素原子に直接結合した加水分解基を含有する化合物、及び有機錫系化合物を含有してなるエポキシ樹脂組成物が提案されている。(特許文献2参照。)
【0014】
このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、透明性にも優れるので塗料用に適しているが、脂環式エポキシ化合物を用いることで、耐候性にも優れ、なおかつ貯蔵安定性にも優れたものになると考えられる。ところが、120〜150℃程度の硬化物では接着力が得られない点、また接着力を得るためには200℃以上に加熱せねばならないことから、有機基板を使用する電子部品には使用できないことが指摘されていた。
【0015】
また、紫外線にさらされても黄変しない樹脂組成物として、エポキシ環を少なくとも2つ有するシルセスキオキサンからなる光半導体封止用樹脂組成物が提案されている。(特許文献3)
【0016】
この樹脂組成物の硬化物は、シルセスキオキサン樹脂を含むので、透明性に優れており、耐候性にも優れているものになると考えられる。しかしながら、シルセスキオキサン樹脂のみでは、光半導体用接着剤に必要な接着力が得られない点が指摘されている。その点を鑑みて、エポキシ樹脂を混合しても良いことが明記されているが、エポキシ樹脂の種類は特に限定されておらず、そこに使用される硬化剤も特に限定されていない。芳香族6員環構造を含むようなエポキシ樹脂を使用すると変色する問題が指摘されている。さらに硬化剤としてアミン化合物を含有させた実施例では、耐候性の低下が明らかになっており、酸無水物系やカチオン重合剤を用いた場合は上述の問題点があり、フェノール系硬化剤の場合は着色してしまう点が問題となる。
【0017】
そのため、本出願人は、先に脂環式エポキシ樹脂、シラン化合物、特定の有機錫化合物および二酸化珪素などの無機フィラーを必須成分とするエポキシ樹脂組成物を提案した(特許文献4参照)。これにより、2価と4価の有機錫化合物を組み合せて用い、特定量配合することで、従来のものよりも短波長吸収性を抑制でき、光の透過性、耐紫外線性、耐候性に優れた接着剤を得ることができた。
【0018】
近年のGaN系光半導体の高出力化に伴い、半導体から生ずる紫外線をはじめとする短波長の光線量が増え、そのような状況に長時間放置すると樹脂成分が変色して、光透過性が低下することがあるが、特許文献4のエポキシ樹脂組成物では、耐候性が不十分であった。
【0019】
エポキシ樹脂接着組成物としては、その製造工程で、接着剤の樹脂成分の硬化反応が極力進行せず、一定の粘度を長く保ちつつ、安定した塗布性を保つために室温貯蔵安定性が必要とされ、また、使用しないときに保冷したまま保存しており、数ヶ月以上特性を変化することのない保冷貯蔵安定性も必要とされる。当業界では、より優れた耐変色性を有し、光透過性の低下を抑制でき、接着性、耐紫外線性、耐熱性、塗布性および貯蔵安定性にも優れるエポキシ樹脂接着組成物の出現が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2001−342240(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−3452(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−263869(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2007−131678(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、短波長吸収性を抑制でき光透過性に優れ、接着性、耐紫外線性、耐候性、耐熱性、塗布性および貯蔵安定性に優れ、光半導体チップをマウントする半導体装置のアッセンブリーや各種部品類の接着に使用しうる、光半導体から発した波長の透過性に優れたエポキシ樹脂接着組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、脂環式エポキシ化合物と、特定のシルセスキオキサン化合物と、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物と、2価の有機錫化合物、4価の有機錫化合物および無機フィラーを必須成分として特定量配合すると、得られたエポキシ樹脂組成物は、100〜150℃のような高温に放置しても変色せず、−20℃以下のような低温で長期間保存しても性能がさほど低下しないことを見出すとともに、これを光半導体用接着剤として用いれば、短波長吸収性を抑制でき光透過性に優れ、波長の透過性、耐紫外線性、耐候性、耐熱性及び貯蔵安定性、接着性にも優れることから、最近の技術開発の進展がめざましいGaN系のLEDに好ましく適用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、脂環式エポキシ化合物(A)、エポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれかを構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物(B)、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物(C)、有機錫化合物(D)、および1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(E)を必須成分として含有する光透過性に優れたエポキシ樹脂接着組成物であって、有機錫化合物(D)は、2価の有機錫化合物(d1)と4価の有機錫化合物(d2)との混合物であり、かつ、前記各成分の含有量は、組成物全量基準で、(A)と(B)の合計が30〜95重量%、(C)が0.1〜15重量%、(d1)が0.01〜5重量%、(d2)が0.01〜5重量%、及び(E)が0.1〜50重量%であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
【0024】
また、本発明の第2の発明によれば、シルセスキオキサン化合物(B)は、脂環式エポキシ化合物(A)との混合比(B)/{(A)+(B)}が0.1〜0.8であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、シラン化合物(C)は、窒素元素を含まないシラン化合物であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1又は3の発明において、シラン化合物(C)は、炭素数1〜3の加水分解性基を2個又は3個含有するアルコキシシラン化合物であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、2価の有機錫化合物(c1)と4価の有機錫化合物(c2)との混合量は、重量比率で(c2)/(c1)=1〜20であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(D)は、バンドギャップエネルギーが2.8eV以上であり、なおかつ屈折率が1.2〜1.8であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物が提供される。
【0025】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係り、エポキシ樹脂接着組成物を用いてなる光半導体用接着剤が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のエポキシ樹脂接着組成物は、貯蔵安定性がよく、これを用いることで、短波長吸収性が抑制され光透過性に優れ、塗布性、接着性、耐紫外線性、耐候性、耐熱性にも優れた硬化物が得られる。また、これを用いた光半導体用接着剤は、特に550nm以下の低波長を発するGaN系光半導体の光特性と信頼性を大幅に向上できることから、この発明の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のエポキシ樹脂接着組成物及びそれを用いた光半導体用接着剤について詳細に説明する。
【0028】
1.エポキシ樹脂接着組成物
本発明のエポキシ樹脂接着組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)とエポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれかを構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物(B)、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物(C)、特定の有機錫化合物(D)、および1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(E)をそれぞれ特定の割合で含んだエポキシ樹脂組成物である。また、この他に粘度調整が必要であれば、溶剤、希釈剤、粘度調整剤などの成分(F)を添加することができる。
【0029】
(A)脂環式エポキシ化合物
脂環式エポキシ化合物は、シクロヘキサンなどの脂環部分とエポキシ部分とを有する熱硬化性樹脂である。以下、脂環式エポキシ化合物を脂環式エポキシ樹脂という場合がある。
【0030】
この脂環式エポキシ化合物としては、シクロヘキセン環の二重結合を過酢酸で酸化してエポキシ化した、脂肪族環状エポキシ樹脂などが使用できる。例えば、3,4エポキシシクロヘキシル−3’,4’−シクロヘキサンカルボキシレート、ポリ(エポキシ化シクロヘキセンオキサイド)などが挙げられる。ここで記載していない脂環式エポキシ樹脂でも使用できる。これらの脂環式エポキシ化合物は、単独で用いても、混合して使用しても差し支えない。このような脂環式エポキシ樹脂は構造中に芳香族6員環部分に二重結合を持たないため、耐候性に優れ、かつ強靭な接着力を有する。
【0031】
(B)シルセスキオキサン化合物
シルセスキオキサン化合物は、化合物の骨格部分が一般式(R−SiO3/2(Rは水素原子やアルキル基、フェニル基など珪素と結合できる有機物)からなり、三官能珪素化合物の加水分解や重縮合などにより得られる化合物で、ランダム構造、ラダー構造、閉塞かご型構造や一部開裂した部分解裂かご型構造、さらに最近ではかご型構造の一部になるがダブルデッカー型構造などが知られている。
【0032】
本発明で用いるシルセスキオキキサン化合物としては、これらのどのような構造でも良いが、その末端部分に2個以上のエポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれか含有するものでなければならない。また、これらの末端に付属したエポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基と結合している珪素元素に関しては、R−SiOの構造のみならず、RR−SiO、RR−SiO(Rは水素原子やアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシ基など珪素と結合できる有機物、R、Rは珪素と結合しているエポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシ基)などの構造を有しても良い。固体でも液体でも良いが、接着剤としての使用方法から液状の方が望ましい。しかしながら固体状であっても、溶解性の液体を用いることにより使用可能である。
【0033】
エポキシ基を構造の末端に2個以上含有する化合物は、本発明で使用するシルセスキオキサン化合物の代表例であって、本組成物の一部を触媒として脂環式エポキシ樹脂と反応することができる。よって硬化後には脂環式エポキシ樹脂と共に硬化物の主成分となる。具体的には、チッソ社製の商品名:PSQ055、東亜合成社製の商品名:Q5が挙げられる。
【0034】
また、アルコール性水酸基を構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物は、本発明で使用するシルセスキオキサン化合物の他の代表例であって、シラノール結合を有するために、本組成物の一部を触媒として脂環式エポキシ樹脂の硬化促進に寄与し、さらにシルセスキオキサン化合物も縮合反応により硬化する。具体的には、小西化学工業社製の商品名:PPSQ−Eが挙げられる。
【0035】
さらに、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれかを構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物は、加水分解後にシラノール結合を有するために、本発明の組成物の一部を触媒として脂環式エポキシ樹脂の硬化促進に寄与し、さらにシルセスキオキサン化合物も縮合反応により硬化する。
【0036】
本発明において、脂環式エポキシ化合物(A)とシルセスキオキサン化合物(B)は、合計含有量(A)+(B)が30〜95重量%であることが必要である。(A)+(B)の含有量が、30重量%未満では相対的にその他の成分が多くなり所望の効果が得られない。例えば、シラン化合物が多くなると接着強度の低下を引き起こし、有機錫化合物が多くなると保存性の低下を引き起こし、無機フィラーが多くなると高粘度となり、塗布性が悪くなる。また、合計含有量が95重量%を超えると、他の成分が相対的に少なくなり、十分な硬化反応が得られなくなる。脂環式エポキシ化合物(A)とシルセスキオキサン化合物(B)の好ましい合計含有量は45〜90重量%の範囲である。
【0037】
また、シルセスキオキサン化合物(B)は、脂環式エポキシ化合物(A)との混合比(B)/{(A)+(B)}が0.1〜0.8であることが望ましい。0.1未満であるとシルセスキオキサン化合物が有する耐候性を得にくくなり、0.8より多くなると、脂環式エポキシ樹脂の持つ接着性が得られにくくなる。更に好ましい混合比は、0.3〜0.8の範囲である。
【0038】
(C)珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物
本発明で使用するシラン化合物は、珪素原子に加水分解性基が直接結合し、加水分解によってシラノール基を生じることができる化合物を言う。またここでシラノール基とは珪素原子に直接結合した水酸基を意味する。
【0039】
このようなシラン化合物としては、ビニル基を含有したビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エポキシ基を含有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシ基を含有する3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランや、アルコキシシラン化合物としてテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシランや、クロロシランとしてメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどが挙げられ、ここに記載していない物質でも加水分解によってシラノール基を生じることができれば使用できる。
このうち、炭素数1〜3の加水分解性基を2個又は3個含有するアルコキシシラン化合物が特に好ましい。炭素数4以上の加水分解性基を含有するアルコキシシラン化合物、あるいは、これらの低縮合物では、大きなカップリング効果が期待できない。また、これらのシラン化合物は、2種以上を混合して使用しても差し支えない。
【0040】
本発明で、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物は、脂環式エポキシ樹脂を硬化させるための触媒の一部として作用するため、シラン化合物の含有量を0.1〜15重量%とする。この組成の範囲であれば、エポキシ樹脂の量に応じ、硬化触媒として有効に機能する。一方、0.1重量%未満であると、触媒としては作用せず、脂環式エポキシ樹脂が硬化できない。15重量%を超えると、過剰なシラン化合物が硬化物中に存在し、接着力の低下を招く。シラン化合物の好ましい含有量は、0.5〜10重量%である。
また、本発明においては、上記シラン化合物として窒素元素を含まないシラン化合物を使用すると、より紫外線による変色性および熱による変色性が抑制される。その理由は、必ずしも明確ではないが、紫外線や熱によるエネルギーが窒素元素周辺の分子結合を破壊し、着色性を生じるものと考えられる。
【0041】
(D)有機錫化合物
本発明において有機錫化合物は、2価の有機錫化合物と4価の有機錫化合物の混合物であり、脂環式エポキシ樹脂を硬化させるための触媒として作用する。
【0042】
(d1)2価の有機錫化合物
本発明において2価の有機錫化合物としては、特に制限されず、市販されている有機化合物であれば使用できる。具体的な例としては、スズジアセテート、スズジブチレート、スズジオクテート、スズジラウレート、スズジステアレート、スズジナフテネートなどが挙げられる。これらは2種類以上を混合しても差し支えない。
【0043】
2価の有機錫化合物は、前記シラン化合物と同様に、脂環式エポキシ樹脂を硬化させるための触媒の一部として作用する。このため2価の有機錫化合物の含有量を0.01〜5重量%とする。この範囲であれば、2価の有機錫化合物のどれでも触媒として作用できる。一方、0.01重量%未満であると含有量が少なすぎるために、触媒としての作用は発揮されず、5重量%以上であると含有量が多すぎるために、反応性が上昇し、貯蔵性に問題が生じてしまう。好ましい含有量は、0.03%〜3重量%、より好ましい含有量は、0.05%〜1重量%である。
【0044】
(d2)4価の有機錫化合物
本発明で使用する4価の有機錫化合物としては、市販されている有機化合物であれば使用できる。具体的な例としてはスズテトラアセテート、スズテトラオクテート、スズテトララウレート、ブチルスズトリアセテート、ブチルスズトリブチレート、ブチルスズトリオクテート、ブチルスズトリラウレート、オクチルスズトリアセテート、オクチルスズトリブチレート、オクチルスズトリオクテート、オクチルスズトリラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジブチレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジブチレート、ジオクチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、フェニルスズトリブチレート、フェニルスズトリラウレート、ブチルスズトリメトキシ、ブチルスズトリブトキシ、オクチルスズトリメトキシ、フェニルスズトリメトキシ、ジブチルスズジメトキシ、ジオクチルスズジメトキシ、ジオクチルスズジバーサテート、ジブチルスズビストリエトキシシリケート、ジブチルスズビスアセチルアセトネート、ジブチルスズビス(o−フェニルフェノキサイド)、ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイドなどが挙げられる。これらは2種類以上を混合しても差し支えない。
【0045】
4価の有機錫化合物も脂環式エポキシ樹脂を硬化させるための触媒の一部として作用するため、4価の有機錫化合物の含有量を0.01%〜5重量%とする。この範囲であれば、4価の有機錫化合物のどれでも触媒として作用できる。一方、0.01重量%未満であると含有量が少なすぎるために、触媒としての作用は発揮されず、5重量%を超えると、反応性が上昇し、貯蔵性に問題が生じてしまう。好ましい含有量は、0.1〜4重量%、より好ましい含有量は、0.5%〜3重量%である。
【0046】
本発明では2価の有機錫化合物と4価の有機錫化合物を必須成分とし、必ず混合することとしている。2価の有機錫化合物や4価の有機錫化合物を単独で用いても接着性のある硬化物は得られるが、2価の有機錫化合物の場合、室温での貯蔵安定性が劣り、使用中に増粘してしまう点が問題となり、4価の有機錫化合物の場合、ものによっては2価の有機錫化合物同様に室温での貯蔵安定が劣り、ものによっては貯蔵安定性に優れるが、十分な接着性を有するためには硬化温度が200℃以上の高温が必要となり、有機材料の基板等で構成される電子部品には使用できなくなる。
【0047】
しかしながら、2価の有機錫化合物と4価の有機錫化合物とを特定の割合で組み合せて本エポキシ樹脂組成物を調製した場合、上記の問題点が解決され、貯蔵安定性にも優れ、120〜150℃の低温で硬化し高強度な接着性も得られる硬化物が得られる。
【0048】
2価の有機錫化合物(d1)と4価の有機錫化合物(d2)の比率は、本発明では特に限定されないが、(d2)/(d1)の重量比率が1〜20、特に1〜10の範囲が望ましい。これは2価の有機錫化合物(d1)が多くなりすぎて、(d2)/(d1)の重量比率が20を越えると2価の有機錫化合物の欠点である貯蔵安定性が徐々に劣る場合がある。一方、4価の有機錫化合物(d2)が多くなりすぎて、この重量比率が1未満になると4価の有機錫化合物の欠点である反応性が徐々に劣る場合がある。
【0049】
これらの現象は、研究の結果から、反応性の劣る4価の有機錫化合物が、2価の有機錫化合物と適宜の組成で混合され、かつ加熱されることにより、反応性に富む2価の有機錫化合物へ変化しやすくなるものと推測している。
【0050】
(E)無機フィラー
本発明で使用する無機フィラーは、1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機粒子である。これらの無機フィラーは、エポキシ樹脂硬化物の強度を向上し、粘性を調整するのに寄与し、さらにLEDなどから発光した光や波長を極力吸収しない特徴を有している。
【0051】
1次粒子平均粒径が0.4μmを超えると、0.4〜0.8μmの波長をもつ光をさえぎることになり、光透過性が劣る。1次粒子平均粒径が0.25μm以下となると、より光の透過性は向上する。
また望ましくはバンドギャップエネルギーが2.8eV以上であり、屈折率が1.2〜1.8の無機粒子を用いるのがより望ましい。無機粒子のバンドギャップエネルギーが2.8eV以上であると、発光した波長の光は無機粒子によって吸収されない。一般に無機化合物における波長の吸収は、主に半導体化合物の励起吸収に起因し、このエネルギーに相当するものが無機化合物のバンドギャップエネルギーである。このバンドギャップエネルギーが2.8eV未満であると、その粒子のもつ波長吸収域が440nm以上となり、発光したLED等で光の反射率の低下を招く。
また一般にエポキシ樹脂の屈折率は1.50〜1.60付近を示し、シルセスキオキサン化合物の屈折率は1.35〜1.55付近を示す。そのためエポキシ樹脂やシルセスキオキサン化合物の屈折率に近い、屈折率が1.2〜1.8の無機粒子を使用すると光透過性が得られるようになる。無機粒子の屈折率は、これらの樹脂と同等な1.35〜1.60がより好ましい。
【0052】
また、無機粒子の色は特に限定されないが、光の波長吸収を防ぐためには白色系の粉末か、その接着するLED等が発光する波長と同色をした粉末が望ましい。
このような無機粒子としては、フッ化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素等が挙げられる。これらの粒子(粉末)は、単独で用いることができるが、2種以上を混合して使用しても差し支えない。
無機粒子の添加量は、0.1〜50重量%とする。これは0.1重量%未満の場合、無機フィラーが本組成物に与えるチクソ調整剤としての機能が得られず、一方、50重量%より多いと、チクソ性が高くなりすぎ、なおかつ粘度も高くなりすぎるために塗布しづらくなり作業性に劣るためである。好ましい含有量は3〜40重量%、さらには5〜30重量%の範囲である。
前記の特許文献2では、有機錫化合物(特に4価の化合物)を1種のみ用いており、無機フィラーの使用は任意であるとしている。そのため、本発明が必要とする120〜150℃での低温硬化性能が不十分であり、接着剤としての特性を期待することができない。
【0053】
(F)その他
本発明では、必要に応じて、粘性調整のために脂環式以外のエポキシ化合物やその他の樹脂成分、溶剤、希釈剤、粘度調整剤などを特性に影響のない範囲で添加しても構わない。
【0054】
これらの添加物は、硬化反応時にエポキシ樹脂と添加物もしくは添加物自身が反応して硬化物中に取り込まれるものと取り込まれないものに分けられるが、取り込まれるものに関しては、その構造中にベンゼン環を有しないものが望ましい。ベンゼン環を有するものの場合、過剰に添加しすぎるとベンゼン環がLEDの発光により生じた波長を吸収してしまい、反射率の低下等を招くので含有量には注意が必要である。
【0055】
一方、硬化物中に取り込まれないものの場合は、硬化時に全て揮発するものであれば、どのような構造を有していても差し支えない。
エポキシ樹脂と反応しない溶剤としては、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシジペンタンイソブチレート、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−イソブチレート、イソブチルブチレート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、或いは2−ヒドロオキシプロパン酸エチル等が挙げられる。
【0056】
また、硬化物中に取り込まれ得る添加物としては、構造中の片末端にエポキシ基を含有するフェニルグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエーテル、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランや構造中に2個以上のエポキシを含有しているネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンディオールジグリシジルエーテル、脂環式以外のエポキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、水添型ビスフェノールA型エポキシ樹脂などの公知のエポキシ樹脂、またはアミノ基を含有する3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる
脂環式エポキシ化合物(A)とシルセスキオキサン化合物(B)は、他の成分を配合する前に、混合してもよいし、全ての成分を同時に混合することもできる。
【0057】
2.光半導体用接着剤
上記のエポキシ樹脂組成物は、光半導体チップをマウントする半導体装置のアッセンブリーや各種部品類を接着するのに好適である。
【0058】
本発明の光半導体用接着剤は、例えばLED、フォトトランジスタ、フォトダイオード、フォトカプラー、CCD(電荷結合素子)、EPROM(イレーザブルプログラマブルリードオンリーメモリー)、フォトセンサーなどの受光素子や発光素子等の光半導体に対して、従来のエポキシ樹脂組成物にない優れた接着性、熱間強度、反射率、変色性を有する。特に、GaN系のLEDを接着する際に用いると大きな効果を期待できる。
【0059】
これらの特性の評価方法(条件)は、下記の実施例にて説明するが、接着性が45N以上、熱間強度が5N以上、透過率が90%以上、変色性(ΔE)が4未満という優れたものである。
【0060】
この接着剤を使用する方法は、特に限定されず、組成によっても異なるが、例えば、基板の上にこのエポキシ樹脂組成物を滴下し、光半導体チップを載せてから、50〜250℃のオーブン中に20〜300分間放置するか、150〜300℃のホットプレート上で10〜300秒放置し硬化させればよい。オーブン中での硬化の場合、50℃未満或いは20分間未満では接着剤の硬化が不十分となり、250℃以上で300分間を超えると樹脂成分が分解する恐れが生じる。また、同様にホットプレート上での硬化の場合、150℃以下では硬化反応が十分進行せず、硬化不十分となり、300℃以上で300秒を超えると樹脂成分が分解する恐れが生じる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に示すが、本発明は、これらによって何ら限定されるものではない。なお、用いた原材料は次のとおりである。
【0062】
脂環式エポキシ樹脂(a):3,4エポキシシクロヘキシル−3’,4’−シクロヘキサンカルボキシレート
エポキシ樹脂(b):ビスフェノールA型エポキシ樹脂
シルセスキオキサン化合物(a):エポキシ基含有ダブルデッカー型シルセスキオキサン(チッソ社製、商品名:PSQ055)
シルセスキオキサン化合物(b):エトセル基含有ラダー構造型シルセスキオキサン(小西化学工業社製、商品名:PPSQ−E)
シラン化合物(a):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
シラン化合物(b):3−アミノプロピルトリメトキシシラン。
2価の有機錫化合物(d1):スズジオクテート
4価の有機錫化合物(d2):ブチルスズトリアセテート
有機アルミニウム化合物:アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)
酸無水物硬化剤:新日本理化株式会社製、MH−700。
硬化触媒:第4級ホスホニウムブロマイド
無機粒子(a):市販の二酸化ケイ素粉末で、バンドギャップエネルギーが2.8eV以上、屈折率が1.46であり、平均粒径0.2μmの白色粉末
無機粒子(b):市販の酸化銅粉末で、バンドギャップエネルギーが2.8eV未満であり、平均粒径0.6μmの赤褐色の粉末
添加物(a):エポキシ樹脂組成物の粘度調整のための、硬化反応時に構造中に取り込まれず揮発してしまうブチルカルビトール
【0063】
また、評価項目、評価方法は次のとおりである。
接着強度:ステンレス基板の上にエポキシ樹脂組成物を滴下し、1.5mm角のシリコンチップを載せ、120℃のオーブン中に60分間放置し、次に200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、上記ステンレス基板に対し水平方向から上記シリコンチップに力を加え、該シリコンチップが剥がれた時の力を接着強度として測定した。接着強度は45N以上であれば合格とした。
熱間強度:ステンレス基板の上にエポキシ樹脂組成物を滴下し、1.5mm角のシリコンチップを載せ、120℃のオーブン中に60分間放置し、次に200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、250℃に加熱してあるホットプレート上に上記ステンレス基板を20秒間放置し、その後加熱したまま、該ステンレス基板に対し水平方向から上記シリコンチップに力を加え、該シリコンチップが剥がれた時の力を熱間強度として測定した。熱間強度は5N以上であれば合格とした。
透過率:エポキシ樹脂組成物を120℃のオーブン中に60分間放置し、次に200℃のオーブン中に60分間放置して硬化した後、15×30×0.5mmの帯状に形成し、透過率測定サンプルを作製した。このサンプルを日立製作所製分光光度計U−4001にセットして、460nmの光透過率を測定した。透過率は90%以上であれば合格とした。
耐熱変色性:ガラス基板上にエポキシ樹脂組成物を20×20×0.1mmとなるように印刷し、120℃のオーブン中に60分間放置し、次に200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、色差計にてL、a、bの各値を測定した。次に、試料を150℃のオーブン中に500時間放置した後、再び色差計でL、a、bの各値を測定した。これらの値から、ΔE=√{(L−L+(a−a+(b−b}の式でΔEを計算し、ΔEの値が4未満の場合は変色が少ないとして「○」、4以上の場合は変色が多いとして「×」とした。
耐紫外変色性:ガラス基板上にエポキシ樹脂組成物を20×20×0.1mmとなるように印刷し、120℃のオーブン中に60分間放置し、次に200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、色差計にてL、a、bの各値を測定した。次に、試料に365nm中心の紫外線ランプを1時間当てた後、再び色差計でL、a、bの各値を測定した。これらの値から、ΔE=√{(L−L+(a−a+(b−b}の式でΔEを計算し、ΔEの値が4未満の場合は変色が少ないとして「○」、4以上の場合は変色が多いとして「×」とした。
塗布性:シリンジ中に充填したエポキシ樹脂組成物を、シリンジの吐出口に取り付けた内径0.2mmのニードルから1000点連続で吐出した。その際、円錐状もしくは半球状になっているものは「○」、糸を引いて隣の点とくっついたり、隣の点に線状で伸びてしまったり、また円錐状の角が高くなって2mm以上になるものが3点以上あった場合は「×」とした。
貯蔵安定性:エポキシ樹脂組成物を軟膏瓶に入れ密閉し、30℃に5日間放置して室温貯蔵安定性を評価した。放置前後の粘度を粘度計で測定し、放置後の粘度が放置前の粘度に比べ1.2倍以内であれば「○」、1.2倍を超えた場合には「×」とした。また、−20℃の冷蔵庫に3ヶ月間放置して保冷貯蔵安定性を評価した。放置後の粘度上昇を上記の方法で測定し、放置前と比べて粘度上昇が1.2倍以内であれば「○」、粘度上昇が1.2倍を超えた場合には「×」とした。
総合評価:得られた試料について、接着強度、熱間強度、反射率、耐熱変色性、耐紫外変色性、塗布性、貯蔵安定性について調べた結果、接着強度は45N以上、熱間強度は5N以上、透過率は90%以上、耐熱変色性、耐紫外変色性は4未満、塗布性、貯蔵安定性は「○」となったものについて、全てが合格したもののみ総合評価を「○」とし、どれか一つでも満たさない特性があった場合は、「×」とした。
【0064】
(実施例1〜7)
表1の重量割合に従って各原料を配合し、3本ロール型混練機で混練することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の試料を作製した。
実施例1〜3はエポキシ樹脂(a)、シルセスキオキサン化合物(a)、シラン化合物、2価の有機錫化合物、4価の有機錫化合物、平均粒径0.2μmの二酸化ケイ素、からなるもので、エポキシ樹脂とシルセスキオキサン化合物の混合比を変えたものである。
実施例4はシルセスキオキサン化合物の種類を変えたもの、実施例5は2価と4価の有機スズ化合物の比率を本発明の範囲内で多くしたもの、実施例6は本発明の範囲内で無機粉末を増やし、溶剤成分を加えたもの、実施例7はシラン化合物の種類を変えたものである。
得られた結果を表1に併記した。なお、表1中の組成表は本発明の必須成分に関しては重量%で表し、必須成分でない添加物(a)に関しては、エポキシ樹脂組成物を100重量部とした場合の重量部で表している。また組成表中の「B/(A+B)」は、エポキシ樹脂(a)とシルセスキオキサン化合物の比率を示し、「d2/d1」は2価の有機スズ化合物と4価の有機スズ化合物の比率を表す。
【0065】
【表1】

【0066】
(比較例1〜7)
実施例1〜7と同様にして各原料を配合し、3本ロール型混練機で混練することにより、比較用のエポキシ樹脂組成物の試料を作製した。得られた評価結果は、表2に併記した。
比較例1は、実施例1の有機錫化合物を有機アルミニウム化合物に変えたものである。
比較例2は、シルセスキオキサン化合物を含まないもの、比較例3は公知の脂環式エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤および硬化触媒を用いた硬化系を使用し、そこに平均粒径0.2μmの二酸化ケイ素を混合したものである。
比較例4は、実施例2の二酸化ケイ素粉末を本発明の範囲外である、バンドギャップエネルギーが2.8eV未満で、平均粒径が0.6μmである酸化銅粉末を使用したものである。
比較例5は、実施例2のエポキシ樹脂成分を本発明の範囲から外れた脂環式でないビスフェノールA型エポキシ樹脂に置換えたものである。
比較例6は、実施例1に対して有機錫化合物として2価の有機錫化合物のみを使用した場合のものである。
比較例7は、実施例1に対して有機錫化合物として4価の有機錫化合物のみを使用した場合のものである。
【0067】
【表2】

【0068】
「評価と考察」
表1から明らかなように、実施例1〜9は接着剤としての接着力が優れ、低波長の透過率、熱や紫外線に対する劣化、変色性だけでなく、塗布性、貯蔵安定性にも優れた硬化物が得られている。
一方、比較例1は、有機アルミニウム化合物を用いた場合であるが、接着強度、熱間強度、透過率、塗布性は優れているものの、耐熱および耐紫外変色性、貯蔵安定性に劣り、総合評価は「×」となった。
比較例2は、シルセスキオキサン化合物を含まない場合であるが、比較例1同様、接着強度、熱間強度、透過性、耐紫外変色性、塗布性、貯蔵安定性は優れているものの、耐熱変色性に劣り、総合評価は「×」となった。
比較例3では、公知の硬化剤成分として酸無水物および硬化触媒を使用したが、接着強度、熱間強度、透過率、耐熱および耐紫外変色性、塗布性においては問題ないが、貯蔵安定性に劣り、総合評価としては「×」であった。
比較例4は、無機粉末フィラーのバンドギャップエネルギーが2.8eV未満で、平均粒径が0.6μmである酸化銅を使用したものである。この例では硬化物の色も黒くなり透過率が得られなくなってしまった。また、耐熱および耐紫外変色性は「○」であるが、これは、もともと黒いため樹脂成分が変色しても、それほど目立たなかったためと考えられる。
比較例5は、実施例2のエポキシ樹脂成分を本発明の範囲から外れた脂環式でないビスフェノールA型エポキシ樹脂に置換えたものであるが、接着強度低く、耐熱変色性、耐紫外変色性も劣り、総合評価として「×」であった。接着強度が弱い理由としては、脂環式エポキシ樹脂を使用したときにくらべ、硬化物は得られているものの、硬化反応が十分に進行していないためであると思われる。
比較例6は、有機錫化合物として、2価の有機錫化合物のみを使用したものであるが、接着強度、透過率、変色性等は十分であったものの、粘度が初期値の1.5倍となり貯蔵安定性に劣るために総合評価は「×」であった。
比較例7は、有機錫化合物として、4価の有機錫化合物のみを使用したものであるが、硬化温度が本試験条件では十分でなかったため、硬化不足と推測され、そのために接着強度、熱間強度が所望の数値を得られず、総合評価は「×」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ化合物(A)、エポキシ基、アルコール性水酸基、加水分解性を有するアルコキシシラン基のいずれかを構造の末端に2個以上含有するシルセスキオキサン化合物(B)、珪素原子に直接結合した加水分解性基を含有するシラン化合物(C)、有機錫化合物(D)、および1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(E)を必須成分として含有する光透過性に優れたエポキシ樹脂接着組成物であって、
有機錫化合物(D)は、2価の有機錫化合物(d1)と4価の有機錫化合物(d2)との混合物であり、かつ、前記各成分の含有量は、組成物全量基準で、脂環式エポキシ化合物(A)とシルセスキオキサン化合物(B)の合計が30〜95重量%、シラン化合物(C)が0.1〜15重量%、2価の有機錫化合物(d1)が0.01〜5重量%、4価の有機錫化合物(d2)が0.01〜5重量%、及び無機フィラー(E)が0.1〜50重量%であることを特徴とするエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項2】
シルセスキオキサン化合物(B)は、脂環式エポキシ化合物(A)との混合比(B)/{(A)+(B)}が0.1〜0.8であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項3】
シラン化合物(C)は、窒素元素を含まないシラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項4】
シラン化合物(C)は、炭素数1〜3の加水分解性基を2個又は3個含有するアルコキシシラン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項5】
2価の有機錫化合物(d1)と4価の有機錫化合物(d2)との混合量は、重量比率で(d2)/(d1)=1〜20であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項6】
1次粒子平均粒径が0.4μm以下の無機フィラー(E)は、バンドギャップエネルギーが2.8eV以上であり、なおかつ屈折率が1.2〜1.8であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂接着組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂接着組成物を用いてなる光半導体用接着剤。

【公開番号】特開2011−111550(P2011−111550A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270108(P2009−270108)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】