説明

エポキシ樹脂組成物、およびその硬化物

【課題】 本発明の課題は、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ靭性を向上させることである。
【解決手段】 共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂が、エポキシ樹脂に均一に相溶したエポキシ樹脂組成物、およびそのエポキシ樹脂組成物に硬化剤を添加して生成したエポキシ樹脂硬化物により、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、およびエポキシ樹脂硬化物に関する。特に、エポキシ樹脂に、本発明のポリビニルアセタール樹脂が均一に相溶したエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物に硬化剤を添加して得られる耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ靭性を向上したエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた接着性、強度、耐熱性、機械的性質、および電気的性質を有するため接着剤、塗料、土木建築材料、電気・電子絶縁材料、封止材料および複合材料のマトリックス樹脂などの分野で広く使用されている。
【0003】
エポキシ樹脂の強靱化には、古くからエラストマ−の添加が有効とされている(特許文献1)。例えば、エラストマ−であるカルボキシル基末端ブタジエンアクリロニトリルゴム(CTBN)をエポキシ樹脂に添加したエポキシ樹脂/CTBN系が知られている。このエポキシ樹脂/CTBN系では、硬化に伴いエポキシ樹脂がマトリックス、CTBNが球状ドメインである海島構造を形成する。この相構造は、破断時においてドメインであるエラストマ−への応力集中によるキャビテ−ションとその周辺のマトリックス樹脂の塑性変形によりドメイン付近で塑性変形領域を形成し、亀裂の進行を鈍化させるため、系の靭性が向上する。しかしながら、エラストマーを添加することによる弾性率やガラス転移温度の低下が問題となっており、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−49719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の問題を解決したエポキシ樹脂組成物(3)、およびエポキシ樹脂硬化物(5)を提供することである。さらに詳しくは、エポキシ樹脂(2)に均一に相溶したエポキシ樹脂組成物(3)、および耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ靭性が向上したエポキシ樹脂硬化物(5)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)がエポキシ樹脂(2)に均一に相溶し、均一相構造を形成することを見出した。さらに、該均一相構造を有するエポキシ樹脂組成物(3)の硬化物(5)が、耐熱性、靭性、接着性に優れていることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1] 共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)と、エポキシ樹脂(2)とを含む、エポキシ樹脂組成物(3)。
【0009】
[2] 前記ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)が、下記式で示される構成単位A、B、CおよびDを含み、RおよびRは独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基である、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物(3)
【0010】

【0011】
[3] 前記ポリビニルアセタール樹脂(1)の全構成単位に基づいて、構成単位Aの含有率が49.9〜80mol%であり、構成単位Bの含有率が0.1〜49.9mol%であり、構成単位Cの含有率が0.1〜49.9mol%であり、構成単位Dの含有率が0.1〜49.9mol%である、[2]に記載のエポキシ樹脂組成物(3)。
【0012】
[4] [1]〜[3]のいずれか1項に記載の、エポキシ樹脂組成物(3)に硬化剤(4)を添加して得られるエポキシ樹脂硬化物(5)。
【0013】
[5] [1]〜[3]のいずれか1項に記載の、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)とエポキシ樹脂(2)とを混合させ生成することを特徴とする、エポキシ樹脂組成物(3)の製造方法。
【0014】
[6] [5]に記載の方法で得られたエポキシ樹脂組成物(3)に、硬化剤(4)を添加してなる、エポキシ樹脂硬化物(5)の製造方法。
【0015】
[7] 接着剤、塗料、土木建築材料、電気・電子絶縁材料および封止材料から選ばれる用途への、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物(3)の使用。
【0016】
[8] 複合材料のマトリックス樹脂としての、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物(3)の使用。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、均一相構造を有したエポキシ樹脂組成物(3)、および耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ靭性に優れたエポキシ樹脂硬化物(5)が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の形態は、エポキシ樹脂組成物(3)である。
本発明のエポキシ樹脂組成物(3)は、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)とエポキシ樹脂(2)とを含むことを特徴としている。
【0019】
本発明におけるポリビニルアセタール樹脂(1)は、以下の構成単位A、構成単位B、構成単位C、構成単位Dを含むことを特徴とする。
【0020】


【0021】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)における構成単位A〜Dの総含有率は、全構成単位に対して80〜100%であることが好ましい。ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)に含まれ得るその他の構成単位の例には、下記式で示される分子間アセタ−ル単位や、ヘミアセタ−ル単位が含まれる。構成単位A以外のビニルアセタ−ル鎖単位(R=水素原子、炭素数1〜5のアルキル)の含有率は、5mol%未満であることが好ましい。
【0022】

【0023】

【0024】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)において構成単位A〜Dは、規則性をもって配列(ブロック共重合体、交互共重合体など)していても、ランダムに配列(ランダム共重合体)していてもよいが、好ましくはランダムに配列している。
【0025】
構成単位Aは、アセタ−ル部位を有する構成単位であって、例えば、連続するポリビニルアルコ−ル鎖単位とアルデヒド(R−CHO)との反応により形成され得る。構成単位AにおけるRは任意の基または原子であって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリ−ル基などであり得る。しかしながら、構成単位AにおけるRがバルキ−な基(例えば炭素数が多い炭化水素基)であると、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の軟化点が低下する傾向がある。軟化点の低いポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を含むエポキシ樹脂組成物(3)は、高温において粘度が大きく低下して樹脂が流れすぎてしまうことがある。また、Rがバルキ−な基であるポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、溶媒への溶解性は高いが、一方で耐薬品性に劣ることがある。そのため構成単位AにおけるRは、水素原子(H)または炭素数1〜5のアルキルであることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキルであることがより好ましい。
【0026】
同様に、構成単位DのRは、水素原子(H)または炭素数1〜5のアルキルであることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキルであることがより好ましい。
【0027】
構成単位Bは、ビニルアセテ−ト鎖を含む構成単位である。
【0028】
構成単位Cは、ビニルアルコ−ル鎖を含む構成単位である。
【0029】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)における各構成単位は、構成単位Aの含有率が49.9〜80mol%であり、構成単位Bの含有率が0.1〜49.9mol%であり、構成単位Cの含有率が0.1〜49.9mol%であり、かつ構成単位Dの含有率が0.1〜49.9mol%であることが好ましい。より好ましくは、構成単位Aの含有率が49.9〜80mol%であり、構成単位Bの含有率が1〜30mol%であり、構成単位Cの含有率が1〜30mol%であり、かつ構成単位Dの含有率が1〜30mol%である。
【0030】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の耐薬品性、可撓性、耐摩耗性、機械的強度を充分に得るために、構成単位Aの含有率を49.9mol%以上にすることが好ましい。また、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)における構成単位Aは、分子鎖中に連続して存在しているビニルアルコ−ル鎖分をアセタ−ル化することによって形成される。すなわち、分子鎖中に連続していないビニルアルコール鎖(例えば、2つのビニルアセタール鎖の間に、挟まれて存在する1つのビニルアルコール鎖)をアセタール化することは難しいのである。そのため、合成においては構成単位Aの含有率を80.0mol%以下とすることが好ましい。
【0031】
構成単位Bの含有率が0.1mol%以上であれば、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の溶媒への溶解性やエポキシ樹脂(2)への溶解性が良くなる。構成単位Bの含有率を49.9mol%までとすると、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の耐薬品性、可撓性、耐摩耗性、機械的強度が低下しにくいため好ましい。
【0032】
構成単位Cは、溶媒への溶解性やエポキシ樹脂(2)への溶解性を考慮して、含有率が49.9mol%までとすることが好ましい。また、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の製造において、ポリビニルアルコ−ル鎖をアセタ−ル化する際、構成単位Bと構成単位Cが平衡関係となるため、構成単位Cの含有率は0.1mol%以上が好ましい。
【0033】
構成単位Dの含有率は、良好な粘度、およびエポキシ樹脂(2)への溶解性を考慮すれば、49.9mol%以下とすることが好ましい。また、側鎖カルボキシル基とエポキシ樹脂(2)との架橋反応がスムーズに行なわれることによって、本願の特徴である耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ、強靭性に優れたエポキシ樹脂硬化物(5)が得られるため、構成単位Dの含有率が0.1mol%以上であることが好ましい。
【0034】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)における構成単位A〜Cのそれぞれの含有率は、JIS K 6729 に準じて測定することができる。
【0035】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)における構成単位Dの含有率は、以下に述べる方法で測定することができる。
1mol/l水酸化ナトリウム水溶液中で、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)を、2時間、80℃で加温する。この操作により、カルボキシル基にナトリウムが付加し、カルボン酸ナトリウムが付加されたポリマーが得られる。該ポリマーから過剰な水酸化ナトリウムを抽出した後、脱水乾燥を行なう。その後、炭化させて原子吸光分析を行い、ナトリウムの付加量を求めて定量する。
なお、構成単位B(ビニルアセテート鎖)分析時に、構成単位Dは、ビニルアセテート鎖として定量されるため、JIS K6729に準じて測定された構成単位Bより構成単位Dを差し引き、構成単位Bを補正する。
【0036】
低重量平均分子量のポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、エポキシ樹脂(2)への溶解性は高いものの、エポキシ樹脂組成物(3)の成形加工性の向上や曲げ強度、引張強度の向上など本発明の特徴を十分に発揮しないことがある。一方、高重量平均分子量のポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、エポキシ樹脂組成物(3)の粘度を過剰に増大させ、作業性を低下させることがある。
これらを踏まえれば、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の重量平均分子量は、5000〜300000であることが好ましく、10000〜150000であることがより好ましい。
【0037】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)の重量平均分子量は、GPC法により測定することができる。具体的な測定条件は以下の通りである。
検出器:830−RI (日本分光社製)
オ−ブン: 西尾社製 NFL−700M
分離カラム:Shodex KF−805L×2本
ポンプ: PU−980(日本分光社製)
温度:30℃
キャリア:テトラヒドロフラン
標準試料:ポリスチレン
【0038】
ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)のオストワルド粘度は、1〜100mPa・sであることが好ましい。なお、粘度は重量平均分子量と比例関係にあり、粘度が1mPa・s未満であるポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、エポキシ樹脂(2)への溶解性は高いものの、重量平均分子量が低いため、靭性の向上など本発明の特徴を十分に発揮しないことがある。一方、粘度が100mPa・sをこえるポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、エポキシ樹脂組成物(3)の粘度を過剰に増大させ、作業性を低下させることがある。
オストワルド粘度は、ポリビニルアセタ−ル樹脂5gをジクロロエタン100mlに溶解し、20℃で、Ostwald−Cannon Fenske Viscometerを用いて測定することができる。
【0039】
本願のポリビニルアセタール樹脂(1)は、酢酸ビニルとコモノマーを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化して得られる。
なお、本願では、酢酸ビニルモノマーが必須であるため、これ以外のモノマーをコモノマーと言う。また、酢酸ビニルモノマー以外のコモノマーは、一種類または、複数のコモノマーを組み合わせてもよい。
【0040】
使用されるコモノマーについては、共重合後に、そのまま、または高分子反応によりポリビニルアセタール樹脂(1)の側鎖にカルボキシル基を供するモノマーであれば、特に制限はない。
【0041】
例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸と酢酸ビニルを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化することで、側鎖にカルボキシル基を持つポリビニルアセタール樹脂(1)を得ることができる。
【0042】
また、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル、またはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステルと、酢酸ビニルとを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化することで、側鎖にカルボキシル基を持つポリビニルアセタール樹脂(1)を得ることができる。
なお、アクリル酸アルキルエステル、およびメタクリル酸アルキルエステルは、鹸化反応時にエステルの加水分解により側鎖にカルボキシル基を供する。
【0043】
同様に、アクリルアミド、メタクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アルキルアミドと酢酸ビニルとを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化することで、側鎖にカルボキシル基を持つポリビニルアセタール樹脂(1)を得ることができる。
なお、(メタ)アクリル酸アルキルアミド化合物は、鹸化、およびアセタール化反応時に、側鎖にカルボキシル基を供する。
【0044】
このほか、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸と酢酸ビニルを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化することで、側鎖にカルボキシル基を持つポリビニルアセタール樹脂(1)を得ることもできる。
【0045】
さらに、無水マレイン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物と、酢酸ビニルとを共重合させ、次いで鹸化、およびアセタール化することで側鎖にカルボキシル基を持つポリビニルアセタール樹脂(1)を得ることができる。
なお、共重合後にエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物は、開環することにより側鎖にカルボキシル基を供する。
【0046】
本願のポリビニルアセタ−ル樹脂(1)は、任意の方法で製造することができるが、その一般的な製造方法の例には、沈殿法と溶解法がある。
【0047】
沈殿法は、以下のようにして行なうものである。
酢酸ビニルモノマ−とコモノマーをラジカル重合開始剤で重合させ、ポリビニルアセテ−ト得る。次いで、これを鹸化してポリビニルアルコ−ル樹脂を得る。得られたポリビニルアルコ−ル樹脂の水溶液に、酸触媒を添加し、さらにアルデヒド化合物を加えて反応させて、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を得る。反応の進行とともに、水系に溶け難いポリビニルアセタ−ル樹脂(1)が析出する。この析出したポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を水洗し、濾過した後、乾燥させる。
【0048】
溶解法には、カルボキシル基を供するコモノマーと共重合したポリビニルアルコ−ルから合成する方法と、酢酸ビニルとコモノマーをラジカル重合開始剤で共重合して得たポリビニルアセテ−トから合成する方法とがある。いずれの場合も、ポリビニルアルコ−ルまたはポリビニルアセテ−トをポリビニルアセタ−ルの良溶媒に溶解し、加水分解のための水と酸触媒を添加し、さらにアルデヒド化合物を加えてポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を得る。反応終了後、溶媒中に溶解しているポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を、ポリビニルアセタ−ル樹脂難溶性溶媒中に分散させ、ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を析出させる。この析出したポリビニルアセタ−ル樹脂(1)を、水洗し、濾過した後、乾燥させる。
【0049】
なお、沈殿法および溶解法で用いる酸触媒としては、塩酸、硫酸、蟻酸、リン酸などを挙げることができる。
これらは単独で使用しても良いし、混合して使用してもよい。
【0050】
また、沈殿法および溶解法で用いるアルデヒド化合物としては、脂肪族飽和アルデヒド、脂肪族ジアルデヒド、脂肪族不飽和アルデヒドなどを使用することができる。
脂肪族飽和アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ピバリンアルデヒドなどを挙げることができる。
脂肪族ジアルデヒドとしては、グリオキサール、スクシンジアルデヒドなどを挙げることができる。
脂肪族不飽和アルデヒドとしては、アクロレイン、クロトンアルデヒド、プロピオールアルデヒドなどを挙げることができる。
これらは単独で使用しても良いし、混合して使用してもよい。
なお、アルデヒドの使用形態は、ホルマリンなどの溶液での使用、パラホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドの重合体)などの固体での添加も可能である。
【0051】
従来は、側鎖にカルボキシル基を持たないポリビニルアセタール樹脂とエポキシ樹脂を混合し、その後硬化剤を用いて硬化させることが行われていた。これに対し本願発明では、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)とエポキシ樹脂(2)とを混合するところに特徴がある。
本願発明に従えば、ポリビニルアセタール樹脂(1)の側鎖に導入されたカルボキシル基が架橋点となり、これらとエポキシ樹脂(2)とが直接、または硬化剤(4)を介して架橋が行なわれ、架橋点を基点とした密な両高分子の分子鎖の物理的な絡まりあいを生じさせる。このメカニズムにより、柔軟なポリビニルアセタール樹脂(1)が、網状に結合するエポキシ樹脂(2)のネットワ−ク中に組み込まれる。
【0052】
本発明におけるエポキシ樹脂(2)は、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂などを使用することができる。
使用するエポキシ樹脂(2)に特に制限はないが、ポリビニルアセタール樹脂と容易に混ざるエポキシ樹脂が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂と混合し易い、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が特に好ましい。
これらのエポキシ樹脂は、単独、または2種類以上を併用して使用することができる。
【0053】
ビスフェノール型エポキシ樹脂については、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂などがある。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製品では、jER827、jER828、jER834、jER1001、jER1002、jER1003、jER1004、jER1055、jER1007、jER1009、jER1010が含まれる。大日本インキ化学工業株式会社製品では、エピクロン840、エピクロン850、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050が含まれ、東都化成株式会社製品では、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−134が含まれる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製品では、jER806、jER807、jER4004P、jER4005P、jER4007P、jER4010P、などが含まれる。大日本インキ化学工業株式会社製品としては、エピクロン830が含まれ、東都化成株式会社製品では、エポトートYD−170、エポトートYD−2001、エポトートYD−2004、エポトートYD−2005RLが含まれる。
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロンEXA-1514、エピクロンEXA-1515、などが含まれる。
【0054】
ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製品のjER 5046B80、jER 5047B75、jER 5050T60、jER 5050、jER 5051や、日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロン152、エピクロン153などが含まれる。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製品のjER152、jER154や、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロンN−740、エピクロンN−770、エピクロンN−775が含まれ、東都化成株式会社製品としては、エポトートYDPN−638などが含まれる。
【0055】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロンN−660、エピクロンN−665、エピクロンN−670、エピクロンN−673、エピクロンN−695や、日本化薬株式会社製品のEOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104Sなどが含まれる。
【0056】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、住友化学株式会社製品として、ELM−120、ELM−434、ELM−434HVや、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロン430−L、エピクロン430や、東都化成株式会社製品のエポトートYH−434、エポトートYH−434Lや、ジャパンエポキシレジン株式会社製品のjER604や、日本化薬株式会社製品のGAN,GOTが含まれる。
【0057】
イソシアネート変性エポキシ樹脂やウレタン変性エポキシ樹脂としては、旭化成エポキシ株式会社製品のAER4152や、旭電化株式会社製品のACR1348などが含まれる。
【0058】
脂環式エポキシ樹脂としては、ダイセル化学工業株式会社製品のセロキサイド2021、セロキサイド2080などが含まれる。
【0059】
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製品のjER XY4000、jER YL6121H、jER YL6640や、日本化薬株式会社製品のNC−3000などが含まれる。
【0060】
ナフタレン型エポキシ樹脂としては、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロンHP4032や、日本化薬株式会社製品のNC−7000、NC−7300などが含まれる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、大日本インキ化学工業株式会社製品のエピクロンHP7200、エピクロンHP7200L、エピクロンHP7200Hや、日本化薬株式会社製品のXD−1000−1L、XD−1000−2Lなどが含まれる。
【0061】
本発明における硬化剤(4)は、エポキシ樹脂(2)を架橋させる化合物であり、アミン系硬化剤、塩基性硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、フッ化ホウ素エチルアミン錯体などのようなルイス酸錯体を使用することができる。また、これら硬化剤(4)とエポキシ樹脂(2)とを反応させて得られる硬化活性を有する付加物も、硬化剤(4)として使用することができる。
【0062】
アミン系硬化剤の分類には、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミンなどがある。
脂肪族アミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどがある。
脂環式ポリアミンとしては、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ラロミンC−260などがある。
芳香族ポリアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォンなどがある。
その他のアミン系硬化剤としては、ポリオキシプロピレンジアミンD−230、ポリオキシプロピレントリアミンT−403、ポリシクロヘキシルポリアミン混合物、N−アミノエチルピペラジンなどがある。
【0063】
塩基性硬化剤としては、イミダゾール類、3級アミン類などがあり、その他、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、N,N−ジメチル尿素誘導体なども使われる。
イミダゾール類としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]エチル−s−トリアジン、2−フェニルイミダゾリン、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾールなどがある。
3級アミン類としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などがある。
【0064】
酸無水物系硬化剤としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、ドデセニル無水コハク酸、脂肪族二塩基酸ポリ無物、クロレンド酸無水物などがある。
【0065】
ポリフェノール類としては、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラックなどがある。
【0066】
本発明においては、硬化剤(4)に硬化反応を調節する目的で、さらに硬化促進剤(6)を添加してもよい。硬化促進剤(6)の例には、特定の構造の尿素化合物、第三アミン、イミダゾ-ル類などがある。
【0067】
本発明の第三の形態は、エポキシ樹脂組成物(3)の製造方法である。
共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)とエポキシ樹脂(2)とを混合させて、エポキシ樹脂組成物(3)を得る。
【0068】
共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)の含有量は、エポキシ樹脂(2)100重量部に対して0.5〜50重量部とすることが好ましく、1〜30重量部とすることが更に好ましい。
【0069】
また、予めカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)をエポキシ樹脂(2)に多量に溶解させてマスターバッチを製造しておき、適宜このマスターバッチにエポキシ樹脂(2)をさらに溶解させて、エポキシ樹脂組成物(3)を得ることも可能である。この場合、マスターバッチの形態は、液状でも、ペレット状でも構わない。
【0070】
本発明の第四の形態は、エポキシ樹脂硬化物(5)の製造方法である。
上記のエポキシ樹脂組成物(3)に、硬化剤(4)を添加し硬化反応させることでエポキシ樹脂硬化物(5)を得ることができる。また、硬化剤(4)に硬化反応を調節する目的で、さらに硬化促進剤(6)を添加することができる。
【0071】
また、エポキシ樹脂(2)を有機溶媒に溶解させ、このエポキシ樹脂溶液にカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)を加えてエポキシ樹脂組成物(3)を得た後、硬化剤(4)を添加して硬化反応させることで、エポキシ樹脂硬化物(5)を得ることもできる。
この方法もまた、硬化反応を調節する目的で、さらに硬化促進剤(6)を添加することができる。なお、多くの場合、有機溶媒は、硬化反応前に蒸発除去される。
【0072】
さらに、カルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)を有機溶媒に溶解させ、これにエポキシ樹脂(2)を加えて、エポキシ樹脂組成物(3)を得た後、硬化剤(4)を添加して硬化反応することで、エポキシ樹脂硬化物(5)を得ることができる。 この方法もまた、硬化反応を調節する目的で、さらに硬化促進剤(6)を添加することができる。なお、多くの場合、有機溶媒は、硬化反応前に蒸発除去される。
【0073】
その他の方法として、カルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)を、硬化剤(4)に溶解させてポリビニルアセタール樹脂(1)と硬化剤(4)の混合溶液を得た後、エポキシ樹脂(2)を加えて硬化反応させることで、エポキシ樹脂硬化物(5)を得ることも可能である。
この方法もまた、硬化反応を調節する目的で、さらに硬化促進剤(6)を添加することができる。
【0074】
本発明における硬化剤(4)の添加量は特に限定されないが、目安としては、エポキシ樹脂組成物(3)100重量部に対して、1〜200重量部とすることが好ましい。また、硬化促進剤(6)の添加量は、エポキシ樹脂組成物(3)100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましい。
【0075】
本発明のカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)の架橋を促進するために、カルボキシル基の一部を中和してもよい。中和することにより、エポキシ樹脂組成物(3)中で、ポリビニルアセタール鎖中のカルボキシル基およびヒドロキシル基と、エポキシ樹脂(2)の硬化過程で生成するカルボキシル基およびヒドロキシル基とが、金属イオンを介してイオン結合をおこなうため、架橋を促進できる。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂組成物(3)は、接着剤、塗料、土木建築材料、電気・電子絶縁材料、封止材料および複合材料のマトリックス樹脂などの分野で利用できる。
耐熱性(ガラス転移温度)を維持しつつ強靭性に優れたエポキシ樹脂硬化物(5)が得られるため複合材料用途への活用が期待される。
【0077】
本発明のエポキシ樹脂組成物(3)は、公知の繊維材料やフィラーと組み合わせることにより、複合材料とすることができる。
繊維材料としては、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、鉄、ステンレスなどの金属繊維、アラミド繊維などの有機合成繊維を挙げることができる。
また、これらは単独で使用してもよく、または2種類以上を併用してもよい。また、繊維の形状は、フィラメント(長繊維)であってもよいし、また任意数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントであってもよい。さらにフィラメントを任意の長さに切断したステープルファイバー(短繊維)であってもよい。
【0078】
繊維がフィラメント、或いはマルチフィラメントである場合、これを製織した織物や布帛であってもよい。織物や布帛にあっては、他の材料、例えばステープルファイバー、フラットヤーンのようなフィルム状の材料、またはエポキシ樹脂に通常配合されるマイカやタルクといったフィラーをさらに加えてもよい。
【0079】
勿論、繊維材料を用いずに、単にフィラーを含有させることも可能である。
【0080】
なお、複合材料の成形においては、プリプレグと呼ばれる中間材料を使用して成形されることが多い。
プリプレグとは、強化繊維にエポキシ組成物と硬化剤の混合物を、未硬化、あるいは半硬化の状態で、含浸したシート状の中間材料である。
この中間材料には、成形性を向上させるために、タック、ドレープ性(型枠等への形状追従性)が必要となり、熱可塑性樹脂が添加されることが多く、本発明のカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)も同様の効果が得られる。
さらに、本発明のカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)が、プリプレグに含有されていると、カルボキシル基の架橋により重ね合わせたプリプレグ同士の層間接着力を向上でき、層間剥離を防止できる。さらに、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上できる。
このように、強化繊維のマトリックス樹脂として使用することで、強靭な複合材料を得ることができる。
【0081】
また、エポキシ樹脂組成物(3)を接着剤と用いた場合、接着層の靭性向上、接着界面の接着力を向上できる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本願発明の実施形態を説明するが、実施形態の一例を示しているものであり、本願発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
実施例、比較例のために、表1に示すポリビニルアセタール樹脂を準備した。なお、比較例に用いたポリビニルアセタール樹脂は、チッソ株式会社製品PVF−Kを使用した。
実施例に用いたポリビニルアセタール樹脂(PVFM−COOH #1)は、次の製法で製造した。なお、実施例、比較例に用いたポリビニルアセタール樹脂は、RがH(水素)のポリビニルホルマール樹脂である。
【0084】
<酢酸ビニルとアクリル酸メチルの共重合>
1)ウォーターバスにセパラブルフラスコ(容量=2l)を設置し、攪拌機とコンデンサーを取付けた。
2)セパラブルフラスコ内を窒素ガスで置換した。
3)セパラブルフラスコに純水1200gを加え、純水中にポリビニルアルコール(日本合成工業株式会社製KH−17)を0.48g添加して溶解させた。
4)セパラブルフラスコ中に酢酸ビニル970g、アクリル酸メチル30gをとった。
5)攪拌しながらウォーターバスの温度を67℃まで昇温させた。
6)昇温後、和光純薬工業株式会社製試薬である、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)を1.07g添加し、温度と攪拌を維持して7時間反応させた。
7)7時間経過後にウォーターバスの加熱を止め、室温まで冷却し、反応を終了させた。
【0085】
<酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合物の鹸化、ホルマール化、加水分解>
1)セパラブルフラスコ内から、重合により得られたポリマーを抜き出し、濾過した。
2)抜き出したポリマー930gを、反応器(丸底4ッ口フラスコ(容量=3l))にとった。
3)反応器をマントルヒーターに設置し、反応器に攪拌機とコンデンサーを取付け、反応器内を窒素ガスで置換した。
4)反応器内に、濃度70[重量%]の酢酸1500gを加え、ポリマーを溶解させた。
5)さらに、パラホルムアルデヒド230gを加えて、反応器内温度80℃に昇温して溶解させた。
6)パラホルムアルデヒドの溶解を確認後、濃硫酸41gを、反応器内に滴下した。
7)滴下後、80℃で20時間保持し、反応を進めた。
8)20時間経過後に、加熱を止めて室温まで冷却し、反応液2600gを得た。
【0086】
<ポリマー精製>
1)純水(貧溶媒)6lを槽内で攪拌し、反応液2600gをそこに滴下し、ポリマーを析出させた。
2)ポリマーの析出完了後、ポリマーを濾過した。
3)濾過したポリマー粒子を、水洗し、酢酸、硫酸などを除き、精製した。
4)酢酸分などを除いたポリマー粒子を、脱水、乾燥し、カルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(PVFM−COOH #1)880gを得た。
【0087】
表1に記載のガラス転移点は、以下の方法で測定した。
<ガラス転移点>
島津製作所製 DSC−50(示差走査熱量測定装置)にて測定した。
キャリア:窒素ガス
測定範囲:25〜250[℃]
昇温速度:10[℃/min]
【0088】

【0089】
本願発明において実施したエポキシ樹脂組成物(3)の製造方法、およびエポキシ樹脂硬化物(5)の製造方法を以下に説明する。
【0090】
[実施例1]
<エポキシ樹脂組成物(3)の製造>
1)油浴にセパラブルフラスコ(容量=500ml)を設置し、セパラブルフラスコに、コンデンサー、温度計、攪拌機を取付けた。
2)セパラブルフラスコ中に、エポキシ樹脂(2)であるjER828を300g取り、カルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(1)であるPVFM−COOH #1を30g(エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部)加えた。
3)セパラブルフラスコを、油浴で120℃に加温し、4時間攪拌し、添加したカルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂を、エポキシ樹脂に完全に溶解させた。
4)調合した混合物を、真空オーブン中に入れ、減圧下、100℃にて4時間加温して脱泡してエポキシ樹脂組成物(3)330gを得た。
【0091】
<エポキシ樹脂硬化物(5)の製造>
1)エポキシ樹脂組成物(3)330gに、硬化剤(4)であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化株式会社 リカシッドMH−700)258g(エポキシ樹脂(2)100重量部に対して86重量部)を加え15分攪拌した。これをアルミカップに移し、硬化促進剤(6)である2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル3g(エポキシ樹脂(2)100重量部に対して1重量部)を加え、攪拌してエポキシ樹脂組成物(3)、硬化剤(4)と硬化促進剤(6)の混合物591gを得た。
2)テフロン(登録商標)板で作成したスペーサーを、離型材を貼ったガラス板で挟んで注型を作成した。この注型に、1)で得られた混合物を50g注ぎ、100℃に保持したオーブンに入れた。
3)100℃に保ったまま、2時間加熱し、混合物を初期硬化させた。
4)その後、1時間かけて130℃まで昇温した。
5)130℃到達後に、さらに15時間かけて混合物を硬化し、エポキシ樹脂硬化物(5)50gを得た。
【0092】
[比較例1]
比較のため、ポリビニルホルマール樹脂(PVF−K)、およびカルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(PVFM-COOH #1)を加えず、エポキシ樹脂(2)(jER828)のみでエポキシ樹脂組成物とした。これに硬化剤(4)であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸258gを加え15分攪拌した。これをアルミカップに移し、硬化促進剤(6)である2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル3g(エポキシ樹脂(2)100重量部に対して1重量部)を加え攪拌し、エポキシ樹脂(2)、硬化剤(4)と硬化促進剤(6)の混合物を561g得た。この一部を、実施例1と同様に硬化させ、エポキシ樹脂硬化物50gを得た。
【0093】
[比較例2]
カルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(PVFM-COOH #1)に代わって、ポリビニルホルマール樹脂(PVF−K)を用いたほかは、実施例1と同様とし、エポキシ樹脂硬化物50gを得た。
【0094】
実施例および比較例にて得られたエポキシ樹脂硬化物は、以下に記載の方法にて物性を
評価した。
【0095】
<硬化物の透明性>
エポキシ樹脂硬化物の透明性は、株式会社島津製作所製 紫外可視分光光度計UV-2000を用い、光の透過率を測定して評価した。測定条件は以下の通りである。
試験片:厚み3.0[mm]
測定波長域:400〜800[nm]
【0096】
<動的粘弾性測定>
動的粘弾性測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 DMS6100を用いて、温度依存性、両持ち曲げモードで行った。測定条件は以下の通りである。
測定周波数:10[Hz]
温度範囲:40〜250[℃]
昇温速度:2[℃/min]
歪み波形:正弦波とした。
試料の形状:厚み3.0[mm]、幅10[mm]、長さ40[mm]の帯状の直方体
【0097】
<引張試験>
エポキシ樹脂硬化物の引張試験は、インストロン型万能試験機 (AGS−500B、島津製作所株式会社製)を用いて行った。測定条件は以下の通りである。
モ−ド:引張
試験速度:5[mm/min]
試験片:JIS−K−7113に準拠
1(1/5)号形を基本とし、
全長:30[mm]、 幅:4.0[mm]、 厚み:2.0[mm]
標線間距離:10[mm]、 平行部の長さ:12[mm]
平行部の幅:1.0[mm]、 丸みの半径:12[mm]
【0098】
破断応力 および破断歪みは次式により算出した。また、破壊エネルギ−は応力−歪み曲線の下降面積から求めた。
σ=(F×9.8)/A
ここで、σ:引張応力[MPa]、 F:荷重[kgf]、 A:断面積[m
9.8:重力加速度[m/s] である。
ε=ΔL/L×100
ここで、ε:歪み[%]、 ΔL:破断時の伸び[mm]、 L:標線間距離[mm]である。
【0099】
<コンパクトテンション(CT)試験>
エポキシ樹脂硬化物のコンパクトテンション試験は、インストロン型万能試験機(AGS−J、島津製作所(株)社製)を用いて行った。測定条件は以下の通りである。
試験速度:0.5[mm/min]
最大強度:20[kgf]
試験片:ASTM E399−93に準拠(板状の硬化物からの切り出し)
表面および切削加工面は、#2000のサンドペーパーにより仕上処理
仕上処理後、カミソリを用いて、亀裂進展部に初期クラックを作成
全長:35.0[mm]、 幅:33.6[mm]、 厚み:4.0[mm]
【0100】
破壊靭性値KIC[MN/m3/2]は次式により算出した。
IC=P/(BW1/2)×f(α)
ここで、P:荷重[kN]、 B:試験片厚さ[mm]、 W:試験片幅[mm]
であり、f(α)およびαは、以下の式より導かれる値である。
f(α)={(2+α)(0.886+4.64α−13.32α+14.72α−5.6α)}/(1−α)3/2
α=a/W
ここで、a:亀裂長さ[mm] である。
【0101】
さらに弾塑性破壊靭性値JIC[kN/m]は、次式より求めた。
IC=A/Bb×f(a/W)
ここで、f(a/W)とβは、以下の式より導かれる値である。
f(a/W)=2×(1+β)/(1+β
β=[(2a/b+2×(a/b)+2]1/2−(2a/b+1)
ここで、b=W−a:リガメント幅[mm] である。
【0102】
実施例および比較例に記載のエポキシ樹脂硬化物(5)の物性を、表2に記す。
【0103】

【0104】
<実施例と比較例の考察;透明性試験>
実施例1で用いたエポキシ樹脂硬化物は、各波長とも良好な光の透過が認められ、目視でも透明であった。よって、良好な透明性を確認できた。
【0105】
<実施例と比較例の考察;引張試験>
実施例1と比較例1を比較すると、ガラス転移温度は同程度であったが、引張試験における破壊エネルギー値は、比較例1の4割程度高い靭性を示した。よって、ガラス転移温度を維持しつつ高い靭性を示す材料が得られた。
比較例2の引張試験の結果は、実施例1とほぼ同等であったが、ガラス転移温度が非常に低いものであった。
これらの結果より、カルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(PVFM−COOH #1)を、エポキシ樹脂に添加することにより、靭性とガラス転移温度の維持を同時に達成できることが確認できた。
【0106】
<実施例と比較例の考察;破壊靱性>
実施例1と比較例1を比較すると、ガラス転移温度は同程度であったが、コンパクトテンション試験における破壊靱性値KICは1.4倍、塑性破壊靱性値JICは1.6倍であり、実施例1は高い靭性を示した。よって、ガラス転移温度を維持しつつ高い靭性を示す材料が得られた。
比較例2のコンパクトテンション試験の結果は、実施例1とほぼ同等であったが、ガラス転移温度が非常に低いものであった。
これらの結果より、カルボキシル基導入ポリビニルホルマール樹脂(PVFM−COOH #1)を、エポキシ樹脂に添加することにより、靭性とガラス転移温度の維持を同時に達成できることが確認できた。
【0107】
<マイクロドロップレット試験>
次に、エポキシ樹脂硬化物の接着性を評価するため、マイクロドロップレット試験を行った。試験装置は、東栄産業株式会社製 複合材界面特性評価装置(Model MH410)を用いた。なおマイクロドロップレット試験とは、樹脂の付着した繊維の引抜試験から、両者界面の剪断強度を求める試験方法である。使用する繊維には規定が無いが、ここでは市販の炭素繊維を用いて試験を行った。試験の詳細は以下の通りである。
【0108】
1)市販の炭素繊維構造体(トレカ(登録商標)T−300)より抜き出した炭素繊維(カーボンフィラメント 繊維直径 7[μm])を用意した。この炭素繊維上に、パスツールピペットを用いて、実施例1で得た混合物を1滴ずつ滴下して付着させ、炭素繊維上に微小な球状のドロップ(液滴;以降、マイクロドロップ)を形成した。
2)マイクロドロップを硬化させるため、マイクロドロップが付着した炭素繊維を、100℃で2時間加温し、次いで1時間かけて130℃まで昇温した。さらに、測定時のマイクロドロップの変形を抑制するため、130℃で66時間保温して硬化を促進させ、エポキシ樹脂硬化物(5)のマイクロドロップとしてこれを炭素繊維に接着させた。得られたマイクロドロップは、炭素繊維(カーボンフィラメント)に強固に付着しており、強度的にも十分で、測定中にマイクロドロップが崩れるような不具合はなかった。
なお、硬化の完了したマイクロドロップサンプルは、2日間室温で放置して、測定に使用した。
同様にして、比較例1および2で得たエポキシ樹脂硬化物を用いて、比較用のサンプルも作成した。
3)複合材界面特性評価装置にて、作成したサンプルの引抜荷重Pm[N]を測定した。なお、測定条件は以下の通りである。
試験温度:25[℃]
試験雰囲気:大気中
試験速度:25[μm/min]
【0109】
剪断強度Sc[MPa]は、次式により算出した。
Sc=Pm/Ac
ここで、Acは以下の式より導かれる値である。
Ac=Df×π×Dr×10−6

ここで、Ac:断面積[mm]、 Df:繊維直径[μm]、 Dr:球状ドロップの直径[μm]
【0110】
マイクロドロップレット試験の結果を表3にまとめる。
【0111】

【0112】
<実施例と比較例の考察;剪断強度>
本願発明において、剪断強度の向上が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)と、エポキシ樹脂(2)とを含む、エポキシ樹脂組成物(3)。
【請求項2】
前記ポリビニルアセタ−ル樹脂(1)が、下記式で示される構成単位A、B、CおよびDを含み、RおよびRは独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物(3)。


【請求項3】
前記ポリビニルアセタール樹脂(1)の全構成単位に基づいて、構成単位Aの含有率が49.9〜80mol%であり、構成単位Bの含有率が0.1〜49.9mol%であり、構成単位Cの含有率が0.1〜49.9mol%であり、構成単位Dの含有率が0.1〜49.9mol%である、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物(3)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の、エポキシ樹脂組成物(3)に硬化剤(4)を添加して得られるエポキシ樹脂硬化物(5)。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の、共重合によりカルボキシル基が導入されたポリビニルアセタール樹脂(1)とエポキシ樹脂(2)とを混合させ生成することを特徴とする、エポキシ樹脂組成物(3)の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法で得られたエポキシ樹脂組成物(3)に、硬化剤(4)を添加してなる、エポキシ樹脂硬化物(5)の製造方法。
【請求項7】
接着剤、塗料、土木建築材料、電気・電子絶縁材料および封止材料から選ばれる用途への、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物(3)の使用。
【請求項8】
複合材料のマトリックス樹脂としての、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物(3)の使用。

【公開番号】特開2010−202862(P2010−202862A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21067(P2010−21067)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】