エンコーダ装置及びエンコーダ装置のための補正方法
【課題】 内挿精度の低下を極力抑えて、検出対象物の回転角度又は移動位置を高精度で検出する。
【解決手段】 センサ部は、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状のA相出力信号及びB相出力信号を出力する。A相出力信号の最大値VAmax及び最小値VAminに対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1〜VA4を取得して、これらの平均値をオフセット値とする。B相出力信号に関しても、同様に、オフセット値を計算する。これらのオフセット値を用いて、A相出力信号及びB相出力信号のサンプリング値をオフセット補正した、検出対象物の回転角度又は移動距離を計算する。
【解決手段】 センサ部は、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状のA相出力信号及びB相出力信号を出力する。A相出力信号の最大値VAmax及び最小値VAminに対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1〜VA4を取得して、これらの平均値をオフセット値とする。B相出力信号に関しても、同様に、オフセット値を計算する。これらのオフセット値を用いて、A相出力信号及びB相出力信号のサンプリング値をオフセット補正した、検出対象物の回転角度又は移動距離を計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物の回転角度又は移動位置を検出するエンコーダ装置に係り、特に検出対象物の回転角度又は移動位置に応じてセンサ部から出力された正弦波状の検出信号を補正するエンコーダ装置及びエンコーダ装置のための補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置はよく知られている。この場合、第1及び第2ディジタル検出信号VA(θ),VB(θ)(以下、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)という)を下記数1,2でそれぞれ表せば、回転角度(移動位置)ωは、下記数3によって表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【0003】
この場合、理想的には、前記数1,2中の両振幅値A,Bが常に等しく、オフセット値ΔA,ΔBが常に共に「0」であって、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)は完全な正弦波状信号であることが望まれる。しかしながら、実際には、オフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bは、センサ部自身に潜在する誤差と、センサ部と検出対象物(例えば、磁石)の設置誤差とを含み、オフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bは変動するとともに、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)も完全な正弦波状信号にはならない。その結果、前記数3の演算処理によって実際に計算される回転角度ωは誤差を含む。この誤差を内挿精度φと呼び、内挿精度φは、通常、回転角度ω(電気角)から誤差を含まない角度(機械角)を減算した下記数4で表される。本発明者らは、この内挿精度φに対するオフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bの影響を、次の第1及び第2条件下による計算により確認した。
【数4】
【0004】
(第1条件)
A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の両振幅値A,Bを等しく、両振幅巾を「2」とし、オフセット値ΔBを「0」に維持したまま、オフセット値ΔAを前記振幅巾の0〜5%(すなわち0〜0.1)の範囲で0.5%(すなわち0.01)ごとに変化させ、オフセット値ΔAを0.5%ずつ変化させるごとに、θを0〜360度に亘って変化させて内挿精度φを順次計算した。そして、θの0〜360度に亘る内挿精度φの最大値φMaxから最小値φMinを減算した値φMax−φMin(Error)を図1のグラフに黒三角印で示している。
【0005】
(第2条件)
A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の両オフセットΔA,ΔBを共に「0」に保ち、振幅値A,Bの比率(1−A/B)を0〜5%の範囲で0.05%ごとに変化させ(例えば、振幅値Bを「1」とすると、振幅値Aを1〜0.95まで0.005ずつ変化させて)、振幅値A,Bの比率(1−A/B)を0.05%ずつ変化させるごとに、θを0〜360度に亘って変化させて内挿精度φを順次計算した。そして、θの0〜360度に亘る内挿精度φの最大値φMaxから最小値φMinを減算した値φMax−φMin(Error)を図1のグラフに黒四角印で示している。
【0006】
この計算結果からも理解できるように、オフセット値ΔA,ΔBの内挿精度φに与える影響は、非常に大きく振幅比A/Bの4倍強になる。したがって、オフセット値ΔA,ΔBに関する補正が振幅値A,Bに比べた遥かに重要であることが理解できる。その意味で、本発明では、詳しくは後述するように、オフセット値ΔA,ΔBに関する補正を必須とし、振幅値A,Bに関する補正を選択事項としている。
【0007】
この種の補正に関しては、従来から行われており、例えば下記特許文献1に示されている。なお、この特許文献1に示されたエンコーダ装置は、円柱の側面にN極とS極を交互に円周を等分割するように着磁された多極磁石の側面に対向するように、2つの磁気センサを90度位相のずれた正弦波信号を出力するように配置した構造を有している。
【0008】
そして、補正方法としては次のような方法を採用している。まず、オフセット値に関しては、0〜360度に亘るA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のそれぞれに対して、最大値VAmax,VBmax及び最小値VAmin,VBminをそれぞれ抽出し、下記数5,6に示すように、前記抽出した最大値VAmax,VBmaxと最小値VAmin,VBminの平均値(振幅中心値)をオフセット値VAoff,VBoffとしてそれぞれ設定する。
【数5】
【数6】
【0009】
そして、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)から前記設定したオフセット値VAoff,VBoffをそれぞれ減算することにより、下記数7,8に示すように、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)をオフセット補正するようにしている。
【数7】
【数8】
【0010】
また、振幅値A,Bに関しては、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のそれぞれにおいて、前記最大値VAmax,VBmaxから最小値VAmin,VBminを減算することにより振幅巾VAmax−VAmin,VBmax−VBminをそれぞれ計算し、振幅巾VBmax−VBminに対する振幅巾VAmax−VAminの比率を、下記数9に示すように振幅補正値Aamとして計算する。
【数9】
そして、A相出力信号VA(θ)に関してはそのまま用いるが、B相出力信号VB(θ)に関しては下記数10に示すように振幅補正値Aamを乗算することにより両振幅巾が同じになるように振幅補正するようにしている。
【数10】
【0011】
そして、前記数7,8のオフセット補正及び数10の振幅補正を行ったA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を用いて前記数3と同様な下記数11の演算の実行により回転角度ωを計算するようにしている。
【数11】
【0012】
また、前記オフセット補正及び振幅補正には直接関係しないが、例えば、下記特許文献2には、センサ部に検知素子である8つのAMR磁気抵抗効果素子を点対称形に配置したエンコーダ装置が示されている。このエンコーダ装置においては、検出対象物である2極磁石にセンサ部を対向させることで、センサ部に潜在する振幅比を最小にし、互いに90度だけ位相の異なる均等性のある正弦波状のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)が磁石の1回転で2周期分出力される。また、下記特許文献3,4には、センサ部に検知素子としてSV−GMR磁気抵抗効果素子及びホール素子をそれぞれ用いた前記と同種のエンコーダ装置が示されている。これらのエンコーダ装置においても、センサ部に潜在する振幅比を最小にするために、複数の検知素子が点対称形に配置されている。また、これらのエンコーダ装置では、互いに90度だけ位相の異なる均等性のある正弦波状のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)が磁石の1回転で1周期分出力される。なお、前記特許文献2〜4に記載のエンコーダ装置を、機械的分解能を増すため、検出対象物が多極に着磁されたリニア磁石及びリング磁石の側面に配置するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平04−118513号公報
【特許文献2】特開昭59−41822号広報
【特許文献3】特開平10−70325号公報
【特許文献4】特開2002−71381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、この種のエンコーダ装置においては、前述のように、センサ部自身に潜在する誤差と、検出対象物とセンサ部との相互の次のような設置誤差とが生じる。すなわち、(1)回転時における偏芯によって起こる検出対象物との傾きによる誤差、(2)検出対象物の中心と回転軸とのずれ、(3)検出対象物に対するセンサ部の傾き、及び(4)回転軸の線上からセンサの位置ずれによる設置誤差が生じる。しかも、これらの設置誤差(1)〜(4)は、一つもしくは複合的に生じる。
【0015】
そして、前記特許文献2〜4に示されたエンコーダ装置に対して前述した特許文献1のようなオフセット補正及び振幅を行っても、内挿精度の低下を十分に抑制できない。これは、センサ部自身に潜在するオフセット値と振幅比に関する誤差と、検出対象物に対するセンサ部の設置誤差による影響とを一緒に補正するため、センサ部自身に潜在する誤差に設置誤差が影響して、内挿精度の低下を抑制できないためであると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、内挿精度の低下を極力抑えて、検出対象物の回転角度又は移動位置を高精度で検出できるようにしたエンコーダ装置及びエンコーダ装置のための補正方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、検出対象物(21,22)の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部(10)と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部(31〜33)とを備えたエンコーダ装置に適用され、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を補正するエンコーダ装置のための補正方法であって、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を所定間隔でそれぞれサンプリングすることにより、少なくとも波形1周期分の第1及び第2ディジタルデータをそれぞれ取得するデータ取得手順(S14〜S18)と、前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手順(S20,S26)と、前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手順(S22,S28)と、前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手順(S24,S30)と、演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号を第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正するオフセット値補正手順(S44,S46)とを含むことにある。
【0018】
上記のように構成した本発明においては、補正用ディジタルデータ抽出手順で、センサ部から出力される第1アナログ検出信号に対応した第1ディジタル検出信号の最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータがそれぞれ抽出されて4つの補正用ディジタルデータとされるとともに、センサ部から出力されて前記第1アナログ検出信号とは90度だけ位相の異なる第2アナログ検出信号に対応した第2ディジタル検出信号の最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータがそれぞれ抽出されて4つの補正用ディジタルデータとされる。オフセット値設定手順で、前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値が第1オフセット値として設定されるとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値が第2オフセット値として設定される。そして、オフセット値補正手順により、演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号が第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正される。その結果、センサ部と検出対象物の設置誤差によって生じる内挿精度が良好となり、検出対象物の回転角度又は移動位置が高精度で検出されるようになる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものであるとよい。これによれば、設置誤差の許容性の強いエンコーダ装置においても、検出対象物の回転角度又は移動位置がより高精度で検出されるようになる。
【0020】
また、前記本発明においては、前記背景技術の項で説明した振幅に関する補正を合わせて行うようにしてもよい。これによれば、検出対象物の回転角度又は移動位置がより高精度で検出されるようになる。
【0021】
さらに、本発明は、前記エンコーダ装置のための補正方法を、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換するとともに、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を前記第1及び第2アナログ検出信号の各オフセット値を用いて補正し、前記補正した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置に適用するようにしてもよい。これによっても、前記と同様に、センサ部と検出対象物の設置誤差によって生じる内挿精度が良好となり、検出対象物の回転角度又は移動位置が高精度で検出されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】オフセット値と振幅比とが内挿精度に与える影響を説明するための内挿精度の誤差の大きさを示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置に適用される補正装置を概略的に示すブロック図である。
【図3】図2の演算処理装置にて実行される補正値取得プログラムを示すフローチャートである。
【図4】最大値及及び最小値からプラス90度及びマイナス90度の位置にあるサンプリング値の抽出動作を説明するための説明図である。
【図5】前記サンプリング値の他の抽出例を説明するための説明図である。
【図6】前記サンプリング値の他の抽出例を説明するための説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置を概略的に示すブロック図である。
【図8】図7の演算処理装置にて実行される回転角度計算プログラムを示すフローチャートである。
【図9A】本発明の第1実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図9B】前記第1実施例の磁気センサの等価回路を示す図である。
【図9C】前記第1実施例の磁気センサと磁石との配置関係を説明するための概略配置図である。
【図10】前記第1実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図11】前記第1実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図13】前記第2実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図14】前記第2実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図15】本発明の第3実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図16】前記第3実施例の磁気センサから出力されるA相出力信号及びB相出力信号と、サンプリング位置の関係を示す波形図である。
【図17】前記第3実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図18】前記第3実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図19】前記第1及び第2実施例に係り、設置誤差がない状態における磁界変化を説明するための図である。
【図20】前記第1及び第2実施例に係り、設置誤差がある状態における磁界変化を説明するための図である。
【図21】前記第3実施例に係り、設置誤差がある状態における磁界変化を説明するための図である。
【図22】本発明の変形例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図23A】設置誤差のない状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リング磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図23B】設置誤差のない状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リニア磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図24A】設置誤差の有する状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リング磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図24B】設置誤差の有する状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リニア磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図25A】前記図24Aのように配置した磁気センサにおいて従来の補正方法及び本発明による補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図25B】前記図24Bのように配置した磁気センサにおいて従来の補正方法及び本発明による補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図26】本発明の他の変形例に係る磁気センサと多極リング磁石とを示す概略図である
【発明を実施するための形態】
【0023】
a.実施形態
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図2は、本発明に係るエンコーダ装置に適用される補正装置を概略的に示すブロック図である。磁気センサ10は、本発明のセンサ部を構成するもので、回転軸21に固定された磁石22に対向して配置され、検出対象物の回転に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状のアナログ信号であるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力する。回転軸21及び磁石22は、本発明の検出対象物を構成するものである。
【0024】
この場合、図2に示すように、周方向に分割されてN極及びS極が配置された円板状の磁石22の上面又は底面に磁気センサ10が配置されていてもよいし、後述する具体的な実施例で説明するように、円柱の側面にN極とS極を交互に円周を等分割するように着磁された磁石の側面に対向させて磁気センサを設けてもよい。また、多極に着磁されたリニア磁石の側面に対向させて磁気センサを配置し、磁気センサは、磁石の直線的な移動に応じて90度だけ位相の異なる正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力するような構成でもよい。また、磁気センサ10に関しても、磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む2つのパッケージを90度位相のずれた位置に配置して各パッケージがA相出力信号VA及びB相出力信号VBをそれぞれ出力するようにしてもよいし、複数の磁気抵抗素子を一つのパッケージに含むように磁気センサ10を構成して、1つのパッケージからA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力するようにしてもよい。さらに、1つのパッケージ内に多数の磁気抵抗効果素子を対称に配置した、ハーフブリッジ型、フルブリッジ型、ダブルブリッジ型などの磁気センサ10であってもよい。
【0025】
磁気センサ10の出力端には、サンプリング回路11及びA/D変換器12a,12bが接続されている。サンプリング回路11は、後述する演算処理装置13によって制御され、磁気センサ10からアナログ信号であるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを所定の周期でそれぞれサンプリングして、A/D変換器12a,12bにそれぞれ出力する。A/D変換器12a,12bは、前記サンプリングされたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値をそれぞれA/D変換して、演算処理装置13に出力する。演算処理装置13は、CPU,ROM,RAM、その他のメモリ装置などからなるコンピュータ装置で構成され、本実施形態では図3に示す補正値取得プログラムを記憶しているとともに実行する。
【0026】
この演算処理装置13には、入力装置14、表示装置15及び入出力回路16が接続されている。入力装置14は、操作スイッチなどからなり、演算処理装置13の作動指示に利用される。表示装置15は、演算処理装置13の作動指示、作動内容、作動結果などを表示する。入出力回路16は、他の装置とのデータの授受などをする。また、この演算処理装置13には、演算処理装置13にて生成されたデータなどを記憶するメモリ17が接続されるようになっている。
【0027】
演算処理装置13には、モータなどを含む駆動装置23も接続されている。駆動装置23は、演算処理装置13により制御されて、回転軸21及び磁石22を回転させる。なお、前述のように、磁石22がリニアに移動するものであるある場合は、駆動装置23は磁石22をリニアに駆動する。なお、回転軸21、磁石22及び磁気センサ10は、磁気センサ10から出力されるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた回転角度又は移動位置の検出に利用する装置内に既に組み込まれているものである。そして、他の装置及び回路11〜17,23は、前記回転角度又は移動位置の検出を利用する装置内とは別のものであってもよいが、前記装置内に組み込まれていてもよい。
【0028】
次に、上記のように構成した実施形態の動作について説明する。この場合、ユーザの入力装置14などを用いた指示により、演算処理装置13は、図3の補正値取得プログラムの実行を開始する。この補正値取得プログラムはステップS10にて開始され、演算処理装置13は、ステップS12にて、駆動装置23の駆動制御を開始して回転軸21及び磁石22を所定の一定速で回転させ始める。なお、前述のように、磁石22をリニアに移動させる場合には、磁石22を一定速でリニアに移動させ始める。これにより、磁石22は一定速で回転(移動)し始め、磁気センサ10は、アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBをサンプリング回路11にそれぞれ出力し始める。前記ステップS12の処理後、演算処理装置13は、ステップS14にてサンプリング回路11にサンプリングの開始を指示する。この場合、アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期当たりサンプリング数は、磁石22の回転速度に反比例するとともにサンプリング回路11のサンプリングレートに比例する。本実施形態においては、前記アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期当たりサンプリング数が一定個数(例えば、1024個)に決められているので、演算処理装置13は、サンプリング回路11によるサンプリングレート及び駆動装置23による磁石22の回転速度の少なくとも一方を制御する。
【0029】
前記ステップS14の処理後、演算処理装置13は、ステップS16にて、サンプリング回路11によってサンプリングされ、かつA/D変換器12a,12bによってそれぞれディジタル変換されたディジタルのA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を取込んで記憶する。そして、演算処理装置13は、ステップS18にて駆動終点を確認する。ここでは、磁石22が1回転以上回転したかを判定する。この判定は、磁石22の回転速度と、タイマによる時間計測とによって行われる。磁石22が1回転以上回転するまで、演算処理装置13は、ステップS18にて「No」と判定して、ステップS16におけるA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値の取込み及び記憶処理を繰返し実行し続ける。磁石22が1回転以上回転すると、演算処理装置13は、ステップS18にて「Yes」と判定して、ステップS20に進む。
【0030】
ステップS20においては、A相出力信号VAの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から最大値VAmax及び最小値VAminを抽出する。次に、演算処理装置13は、ステップS22にて前記最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4を、A相出力信号VAの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から抽出する。
【0031】
この4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4の抽出について図を用いて説明しておく。図4は、磁気センサ10として、上述した特許文献3,4と同様にSV−GMR磁気抵抗効果素子又はホール素子を用いた場合のA相出力信号VA及びB相出力信号VB、すなわち磁石22の1回転で1周期分のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される例を示している。図4のA相出力信号VAにおいて、丸印で示すように、最大値VAmax及び最小値VAminが抽出され、その後に、三角印で示すように、最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が抽出される。この場合の90度に対応するサンプリング数は256個であり、最大値VAmax及び最小値VAminのサンプリング値から前後に256個離れたサンプリング値が前記4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出されることになる。
【0032】
なお、図5に示すように、最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が直接的に抽出されない場合(例えば、図5に示すように、最大値VAmaxの位置に対してマイナス90度の位置に対応するサンプリング値VA2を直接的に抽出できない場合)には、1つ前又は後の周期の対応する位相位置のサンプリング値(サンプリング値VA2)がサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出される。
【0033】
また、図6は、磁気センサ22として、上述した特許文献2と同様にAMR磁気抵抗効果素子を用いた場合のA相出力信号VA及びB相出力信号VB、すなわち磁石22の1回転で2周期分のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される例を示している。したがって、この場合には、90度はサンプリング数128に相当するので、最大値VAmax及び最小値VAminのサンプリング値から前後に128個離れたサンプリング値が前記4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出されることになる。また、この場合も、4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が直接的に抽出されない場合には、1つ前又は後の周期の対応する位相位置のサンプリング値がサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出される。さらに、この場合には、ステップS16,S18の処理により、前記図4の場合の半分の時間だけサンプリング値を取込んで処理するようにしてもよい。
【0034】
前記ステップS22の処理後、演算処理装置13は、ステップS24にて、前記抽出した4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4を用いた下記数12の演算の実行により、4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4の平均値をA相出力信号VAのオフセット値VAoffとして計算する。
【数12】
【0035】
前記ステップS24の処理後、演算処理装置13は、B相出力信号VBの1周期分のサンプリング値に対して、上記ステップS20〜S24と同様なステップS26〜S30の処理を実行して、B相出力信号VBの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から最大値VBmax及び最小値VBminを抽出し、前記最大値VBmax及び最小値VBminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VB1,VB2,VB3,VB4を抽出し、下記数13の演算処理によってB相出力信号VBのオフセット値VBoffを計算する。
【数13】
【0036】
次に、演算処理装置13は、ステップS32にて、A相出力信号VAの最大値VAmaxから最小値VAminを減算することによりA相出力信号VAの振幅巾VAmax−VAminを計算し、B相出力信号VBの最大値VBmaxから最小値VBminを減算することによりB相出力信号VBの振幅巾VBmax−VBminを計算し、これらの振幅巾VAmax−VAmin,VBmax−VBminの比を計算する下記数14の演算の実行により振幅補正値Aamを計算する。なお、この振幅補正値Aamに関しては従来の方法と同じである。
【数14】
【0037】
次に、演算処理装置13は、前記数12〜14の演算処理により計算したオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamをメモリ17に保存したり、入出力回路16を介して他の装置、例えば後述する本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置に出力する。エンコーダ装置は、これらのオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを入力して保存する。前記ステップS34の処理後、演算処理装置13は、ステップS36にてこの補正値取得プログラムの実行を終了する。
【0038】
次に、このようにして計算されたオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを用いたエンコーダ装置の補正処理について説明する。エンコーダ装置は、図7に示すように、検出対象物である回転軸21及び磁石22に対向させた磁気センサ10を備えている。図2の補正装置では、上述のように、検出対象物である回転軸21及び磁石22に磁気センサ10を対向配置した状態においてオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを計算するので、図7に示す磁気センサ10、回転軸21及び磁石22も図2にて示したものと同じである。また、このエンコーダ装置は、サンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35を備えている。これらのサンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35は、図2に示したサンプリング回路11、A/D変換器12a,12b、演算処理装置13、入出力回路16及びメモリ17と同様に構成されている。なお、これらのサンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35は、図2のサンプリング回路11、A/D変換器12a,12b、演算処理装置13、入出力回路16及びメモリ17とは別途設けられていてもよいし、共通であってもよい。特に、サンプリング回路31及びA/D変換器32a,32bは、図2のサンプリング回路11及びA/D変換器12a,12bと共通であってもよい。ただし、演算処理装置33は、回転角度計算プログラムを記憶しているとともに、回転角度計算プログラムを実行する。
【0039】
次に、前記のように構成したエンコーダ装置の動作を説明する。このエンコーダ装置においても、演算処理装置33は、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBを所定の周期でサンプリングするように、サンプリング回路31に指示する。サンプリング回路31は、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBを前記所定の周期でサンプリングして、サンプリング値VA,VBをA/D変換器32a,32bにそれぞれ出力する。A/D変換器32a,32bは、前記サンプリング値VA,VBをそれぞれA/D変換して、ディジタル変換されたサンプリング値VA,VBを演算処理装置33に出力する。これにより、回転軸21及び磁石22の回転角度ωに応じて変化する磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値VA,VBが演算処理装置33に所定の周期で供給されるようになる。
【0040】
演算処理装置33は、サンプリング値VA,VBの入力ごとに、回転角度計算プログラムを実行する。この回転角度計算プログラムの実行は図8のステップS40にて開始され、演算処理装置33は、ステップS42にて、A/D変換器32a,32bでそれぞれA/D変換されたサンプリング値VA,VBをそれぞれ入力する。次に、演算処理装置33は、ステップS44にて前記入力したサンプリング値VAを前記保存したオフセット値VAoffを用いた下記数15の演算処理によりオフセット補正し、ステップS46にて前記入力したサンプリング値VBを前記保存したオフセット値VBoffを用いた下記数16の演算処理によりオフセット補正する。
【数15】
【数16】
【0041】
次に、演算処理装置33は、ステップS48にて、前記入力したサンプリング値VBを前記保存した振幅補正値Aamを用いた下記数17の演算処理により振幅補正する。なお、この振幅補正は、従来の方法と同じである。
【数17】
【0042】
そして、演算処理装置33は、ステップS50にて、前記補正処理したサンプリング値VA,VBを用いて下記数18の演算処理により回転軸21及び磁石22の回転角度ωを計算する。
【数18】
【0043】
前記回転角度ωの計算後、演算処理装置13は、ステップS52にて、前記計算した回転角度ωをメモリ35に保存したり、入出力回路34を介して他の装置、例えば回転軸21及び磁石22の回転角度ωを利用する利用装置に出力したりする。そして、演算処理装置33は、ステップS54にてこの回転角度計算プログラムの実行を一端終了する。その後、A/D変換器32a,32bからのサンプリング値VA,VBがふたたび演算処理装置33に入力されると、演算処理装置33は前述したステップS40〜S54からなる回転角度計算プログラムをふたたび実行して、サンプリング値VA,VBを補正処理し、補正処理後のサンプリング値VA,VBを用いて回転角度ωを計算する。このような、回転角度計算プログラムの実行により、演算処理装置33は回転軸21及び磁石22の回転角度ωを計算しては出力する。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、前記数12〜14の演算処理により、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの各最大値VAmax,VBmax及び各最小値VAmin,VBminに対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1〜VA4,VB1〜VB4の各平均値をそれぞれオフセット値VAoff,VBoffとして計算するとともに、A相出力信号VAの振幅巾VAmax−VAminとB相出力信号VBの振幅巾VBmax−VBminとの比を振幅補正値Aamとして計算する。前記数15〜17の演算処理により、これらのオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを用いて、サンプリング値VA,VBをオフセット及び振幅補正する。そして、前記数18の演算処理により、補正したサンプリング値VA,VBを用いて、回転角度ωが計算される。
【0045】
b.本発明の実験による検証
次に、上記実施形態による補正方法の効果について実験結果を用いて検証する。
(1)第1実施例
第1実施例に係る磁気センサ10は、ダブルフルブリッジ型磁気センサであって、2組のフルブリッジ構成の磁気抵抗効果素子(この場合、AMR磁気抵抗効果素子)を互いに45度傾けて一つの基板上に形成している。具体的には、図9Aに示すように、延設方向を互いに45度ずつずらして磁気抵抗素子1〜8を円周方向に沿って配置して、回転中心に対して同一延設方向の磁気抵抗効果素子を点対称位置に配置している。そして、図9Bの等価回路に示すように、2組のフルブリッジ回路を形成している。図9B中、端子Vcc,Gnd間に規定電圧が印加され、端子VoutA+,VoutA−間からA相出力信号VAが出力され、かつ端子VoutB+,VoutB−間からB相出力信号VBが出力される。
【0046】
この磁気センサ10に対向するように回転軸21の一端に固定された周方向に分割された円板状の直径9mmの2極磁石22が配置されている。回転軸21の軸線(回転中心)と磁石22の中心線(回転中心)は一致している。このように構成した検出対象物である回転軸21及び磁石22と、磁気センサ10とを用いて、次の5つ条件(a)〜(e)下で磁石22を1回転させ、磁気センサ10から出力される1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを360度当たり(磁石22の1回転当たり)2000ポイントのサンプリング数でサンプリングした。そして、サンプリングしたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を従来の補正方法を用いて補正し、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。
【0047】
すなわち、A相出力信号VA及びB相出力信号VBを、上記数5〜8を用いてオフセット補正を行うとともに、上記数9,10を用いて振幅補正を行い、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた上記数4の演算の実行により内挿精度φを下記条件(a)〜(d)ごとに計算した。
(a) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に一致させる。
(b) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向に+0.5mmずらす。
(c) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向に−0.5mmずらす。
(d) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してY方向に+0.5mmずらす。
(e) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してY方向に−0.5mmずらす。
【0048】
上記条件(a),(b),(c),(d),(e)ごとの実験結果による内挿精度φを、図10の(a),(b),(c),(d),(e)のグラフに誤差としてそれぞれ示す。これによれば、前記条件(a)の「 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に一致させた場合」には、内挿精度φ(誤差)はほとんど現れないことが理解できる。これに対して、前記条件(b),(c),(d),(e)のように、「磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向及びY方向にそれぞれずらした場合」には、内挿精度φ(誤差)が大きくなる、すなわち悪化することが理解できる。
【0049】
次に、前記図9A〜9Cに示す磁気センサ10及び磁石22を用いて、前記場合と同様に、前記5つ条件(a)〜(e)下で磁石22を1回転させ、磁気センサ10から出力される1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを360度当たり2000ポイントのサンプリング数でサンプリングした。そして、サンプリングしたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を本発明の補正方法を用いて補正し、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。すなわち、A相出力信号VA及びB相出力信号VBを、上記数12,13,15,16を用いてオフセット補正を行うとともに、上記数14,17を用いて振幅補正を行い、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた上記数4の演算の実行により内挿精度φを前記条件(a)〜(d)ごとに計算した。
【0050】
図11の(a),(b),(c),(d),(e)は、上記条件(a),(b),(c),(d),(e)ごとに、本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差としてそれぞれ示す。これによれば、上記条件(a)
,(b),(c),(d),(e)のように、磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向及びY方向にそれぞれずらした場合、すなわち回転軸21及び磁石22に対してX方向及びY方向に設置誤差を磁気センサ10を設置しても、本発明によるオフセット補正を行えば、内挿精度φ(誤差)が小さく抑えられることが理解できる。
【0051】
(2)第2実施例
次に、第2実施例について説明する。この場合も、上記第1実施例と同様な磁気センサ10及び磁石22を用い、上記第1実施例の場合と同様な従来及び本発明の補正方法を用いて補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。ただし、この場合には、回転軸21及び磁石22に対する磁気センサ10の複合的な設置誤差の影響を確認するために、図12(a)の概略斜視及び図12(b)の概略正面図に示すように、磁石22が回転軸21の軸線に対して0.5mm偏芯して取り付けられている。そして、磁石22に対して磁気センサ10はX方向に+0.5mmずらして配置されている。
【0052】
図13は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、図14は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、前記複合的な磁気センサ10の設置誤差によっても、従来の補正方法を用いた場合には、大きな誤差が発生することが理解できる。一方、本発明の補正方法を用いた場合には、誤差が抑制されることが理解できる。
【0053】
(3)第3実施例
次に、第3実施例について説明する。この場合、上記第1及び第2実施例とは異なり、図15に示すように、磁石22として円周方向に10分割されて10極着磁されたリング磁石が用いられる。磁石22も、図15の紙面垂直方向の中心軸線周りに、図示しない回転手段によって回転される。なお、この場合の磁石22の直径は7mmである。また、この第3実施例では、磁気センサ10は、上記第1及び第2実施例と同様に構成されているが、磁気抵抗効果素子の延設面が磁石22の径方向と平行なるように磁石22の側方の法線上に配置されている。
【0054】
この場合も、磁石22を前記中心軸周りに1回転させて、この1回転中に、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBから2000個のサンプリング値をそれぞれ取得する。なお、図16は、これらの磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBと、サンプリング位置との関係を示す波形図である。この場合、磁石22は円周方向に10極着磁されているので、磁石22の1回転当たり10波の正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される。
【0055】
そして、この場合には、10波の正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBから1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値をそれぞれ抽出し、1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ従来の補正方法を適用して、内挿精度φをそれぞれ計算した。図17の(a),(b),(c)は、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、この種の磁気センサ10において、従来の補正方法を用いた場合には、1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBに大きな誤差(内挿精度φ)が含まれることが理解できる。このことは、第3実施例のように複数の磁極を有する磁石22の回転(又は移動)方向に磁気センサ10を対向させて、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBに基づいて磁石22(検出対象物)の回転角度を検出する場合に、回転角度の検出に大きな誤差が含まれることを意味する。
【0056】
一方、図18の(a),(b),(c)は、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。なお、この場合には、10周期分のサンプリング数が「2000」であるので、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期分のサンプリング数は「200」となる。したがって、90度に対応するサンプリング数は「50」となる。そして、1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBの補正用ディジタルデータについて、図16に示す例で説明しておく。1周期目のA相出力信号VAの最大値VAmax及び最小値VAminの位置は、「83」及び「183」である。したがって、前記位置「83」及び「183」から90度離れた4つの位置は、それぞれ「33」,「133」,「133」,「233」となる。そして、これらの位置のサンプリング値が、1周期目のA相出力信号VAのための4つの補正用ディジタルデータとなる。また、1周期目のB相出力信号VBの最大値VBmax及び最小値VBminの位置は、「32」及び「134」である。したがって、前記位置「32」及び「134」から90度離れた4つの位置は、それぞれ「1982」,「82」,「84」,「184」となる。そして、これらの位置のサンプリング値が、1周期目のB相出力信号VBのための4つの補正用ディジタルデータとなる。
【0057】
このような本発明による補正方法を用いた内挿精度φ(誤差)を表す図18の(a)(b)(c)によるグラフによれば、この種の磁気センサ10においても、本発明の補正方法を用いた場合に、1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBに含まれる誤差を抑制できることが理解できる。その結果、この第3実施例のように複数の磁極を有する磁石22の回転(又は移動)方向に磁気センサ10を対向させて、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBに基づいて磁石22(検出対象物)の回転角度を検出する場合にも、本発明による補正方法を用いることにより、回転角度の誤差を抑制できることが理解できる。
【0058】
c.本発明の理論的な説明
各種実施例にて以下のことが確認できる。第1乃至第3実施例での従来方法である振幅中心値で補正した場合の内挿精度φ(図10(b)〜図10(e)、図13及び図17(a)〜図17(c))及び後述する変形例1,2での従来方法である振幅中心値で補正した場合の内挿精度φ(図25A(a)及び図25B(a))において、機械角における誤差の変化が一様な勾配を示す。図10(b)、図13、図17(a)〜図17(c)、図25A(a)及び図25B(a)は−cos波形に近似し、図10(c)及び図10(e)はcos波形に近似し、図10(d)はsin波形に近似し、それぞれ1周期分の勾配となる。内挿精度φの機械角における誤差の変化を、勾配と定義して、上記第1乃至第3実施例に関し、上記実施形態による補正方法について理論的に説明する。第1乃至第3実施例に関しては、極座標(r,θ)のカージオイド曲線を想定することにより理解できる。
【0059】
まず、上記第1実施例の場合においては、磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差がない場合すなわち上述した(a)の状態には、図19に示す黒丸上の磁界変化は、半径r=1のx=cosθ,y=sinθとなる。一方、磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差が、上述した(b)〜(e)のいずれかの方向にずれた状態を図20の黒丸で示した。この黒丸での磁界変化は、図20に示すようになる。このように磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差が、上述した(b)〜(e)のうちの一つの方向にずれた状態を、式r=1+a’・cosθとして、直交座標(x、y)で考えると、x=r・cosθ,y=r・sinθとなり、x,yが検出対象物の運動によっておこる磁界変化を表す。位置ずれがない場合の磁界変化は、a’=0すなわちr=1である。位置ずれが起こると、a’が、位置ずれの大きさに比例して大きくなる。
【0060】
このx=r・cosθ及びy=r・sinθに、r=1+a’・cosθを代入すると、x、yは下記数19,20のように表される。
【数19】
【数20】
【0061】
上記第1実施例で示した設置誤差(b)〜(e)は、実際にはこの4方向だけでなく、全角(α=0〜360°)範囲であるため、その位置での検出対象物の運動によっておこる磁界変化として考えれば、A相出力信号VA及びB相出力信号VBにそれぞれ対応する磁界HA,HBを下記数21,22のように表すことができる。
【数21】
【数22】
これにより、設置誤差による磁界HA,HB の変化には、2次高調波が一定の関係で重畳していることが分かる。
【0062】
次に、上記第2実施例について説明する。この場合、2種類の位置ずれがあり、異なった2次高調波が重畳すると考えることができる。したがって、磁界HA,HBは下記数23,24で表される。
【数23】
【数24】
前記数23,24を整理すると、下記数25,26のように変形される。
【数25】
【数26】
【0063】
ここで、下記数27〜30で定義されるc,dを用いて、前記数25,26を変形すると、下記数31,32のようになる。
【数27】
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
これにより、この場合も、設置誤差による磁界HA,HB の変化には、2次高調波が一定の関係で重畳していることが分かる。
【0064】
次に、上記第3実施例について説明する。この第3実施例では、磁気センサ10を磁石22の法線上に設置されており、磁気センサ10の各磁気抵抗効果素子は、点対称形をなし、かつ異なる方向(例えば、法線方向と接線方向)の磁界を検出する。この異なった方向の磁界変化、リング側面においては、歪曲した基線上を磁界が回転する。よって、磁界の変化は、図21に示すように、前記第1実施例の図20と同様なカージオイド曲線を描くこととなる。
【0065】
次に、磁気センサ10からの出力信号を考える。磁気センサ10のA,B相からの出力信号をVA、VBとしたとき、その出力信号は下記数33,34で表される。ただし、A,Bは感度であり、ΔA,ΔBはオフセット電圧である。
【数33】
【数34】
仮に、磁気センサ10内に、感度違いとオフセット電圧がない状態(すなわち、A=BかつΔA=ΔB=0)で、設置誤差が生じた場合の各出力信号は下記数35,36で表される。
【数35】
【数36】
【0066】
一方、内挿精度φ(電気角−機械角)は、上述したように下記数37(前記数4と同じ)で定義される。
【数37】
ここで、下記数38,39のようx,yを定義すると、前記数37は下記数40のように表される。
【数38】
【数39】
【数40】
【0067】
ここで、前記数40の両辺のタンジェントを取ると、前記40は下記数41のように変形される。
【数41】
前記数38,39は下記数42,43のように変形され、公式を用いた変形により前記数41は下記数44のように変形される。
【数42】
【数43】
【数44】
【0068】
前記数44をアークタンジェントに戻すと、前記数44は下記数45のようになる。
【数45】
この数45に前記数35,36で表されるVA(θ),VB(θ)を代入すると、前記数45は下記数46のように表される。
【数46】
そして、この数46をさらに変形すると、下記数47,48のようになる。
【数47】
【数48】
【0069】
ここで、値Aは値aに比べて極めて大きい(言い換えれば、比の値a/Aは極めて小さい)ことを考慮すれば、前記数48の分母は定数となり、以下のように内挿精度φの勾配は1周期となる。
(a)α=0°のとき、内挿精度φの勾配はsin波形となる。
(b)α=90°のとき、内挿精度φの勾配はcos波形となる。
(c)α=180°のとき、内挿精度φの勾配は−sin波形となる。
(d)α=270°のとき、内挿精度φの勾配は−cos波形となる。
【0070】
次に、磁気センサ10自身に潜在する感度の違いではなく(A=B)、オフセット電圧が潜在する場合のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)は下記数49,50のように表される。
【数49】
【数50】
【0071】
内挿精度φ(電気角−機械角)は、前記数45で表され、この数45に前記数49,50のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を代入すると、下記数51のようになる。
【数51】
そして、この数51をさらに変形すると、下記数52,53のようになる。
【数52】
【数53】
【0072】
ここで、値Aは値ΔA,ΔBに比べて極めて大きい(言い換えれば、比の値ΔA/A,ΔB/Aは極めて小さい)ことを考慮すれば、前記数53の分母は定数となり、以下のように内挿精度φの勾配は1周期となる。
(a)ΔB=0,ΔA>0のとき、内挿精度φの勾配はcos波形となる。
(b)ΔB=0,ΔA<0のとき、内挿精度φの勾配は−cos波形となる。
(c)ΔA=0,ΔB>0のとき、内挿精度φの勾配は−sin波形となる。
(d)ΔA=0,ΔB<0のとき、内挿精度(φ)の勾配はsin波形となる。
このような内挿精度φを表す前記数48と前記数53とにより、設置誤差によって2次高調波が重畳した出力信号の影響と、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧によって与える影響は同じ現象になることが分かる。
【0073】
次に、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧と設置誤差による2次高調波が重畳した出力信号の内挿精度φの勾配を抑制するための最適補正値を計算する。この場合、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)として、下記数54,55に示す信号を定義する。
【数54】
【数55】
【0074】
そして、前記数45によって定義される内挿精度φの式に前記数54,55で表されたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を代入すると、内挿精度φは下記数56で与えられる。
【数56】
そして、前記数56を変形すると、下記数57のようになる。
【数57】
【0075】
内挿精度φが向上することは、前記数57でφ=0とすることにより与えられる。θがどの値でも分子式の各項の係数が「0」であればよい。そのときのオフセット電圧値をΔA0、ΔB0とすると、下記数58が成立する。
【数58】
そして、前記数58を変形すると、下記数59のようになる。
【数59】
【0076】
これにより、sinθの項はa・cosα=ΔB0で、cosθの項は−a・sinα=ΔA0となる。したがって、2次高調波が重畳した出力信号のオフセットの最適補正値をX、Yとすれば、値ΔA0,ΔB0は下記数61,62で表される。
【数60】
【数61】
これにより、最適補正値X,Yは、下記数62,63によって表されることになる。
【数62】
【数63】
【0077】
次に、このような2次高調波が重畳する波形で、従来技術のオフセット補正のように振幅中心値がオフセット値の最適補正値になり得るかについて説明する。A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の振幅中心値XVPP,YVPPは、下記数64,65で表される。なお、数64,65中のθmax,θminは、各出力信号の最大値及び最小値の位置(角度)を示す。
【数64】
【数65】
【0078】
ここで、A相出力信号VA(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ90°,270°であること、及びA相出力信号VA(θ)が下記数66で表されることを考慮すれば、VA(90),VA(270)は、下記数67,68のようになる。
【数66】
【数67】
【数68】
【0079】
したがって、振幅中心値XVPPは、下記数69のようになる。
【数69】
【0080】
また、B相出力信号VB(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ0°,180°であること、及びB相出力信号VB(θ)が下記数70で表されることを考慮すれば、VB (0),VB(180)は下記数71,72のようになる。
【数70】
【数71】
【数72】
【0081】
したがって、振幅中心値YVPPは、下記数73のようになる。
【数73】
【0082】
すなわち、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の振幅中心値XVPP,YVPPは、下記数74,75のようになる。
【数74】
【数75】
【0083】
しかし、これらの振幅中心値XVPP,YVPPは、前記計算した数62,63で示される最適補正値X,Yとは一致しない。むしろ、振幅中心値XVPP,YVPPをオフセット電圧の補正値とすることは、内挿精度φの勾配を逆に増長することなる。これにより、従来のオフセット補正方法は好ましくないことが理解される。
【0084】
次に、このような2次高調波が重畳する波形で、上述した本発明による補正方法で最適補正値を導き出すことができる点について説明する。本発明によるオフセット補正では、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)において、最大値の検出位置(角度)θmaxからプラス及びマイナス側に一定量εだけシフトする2つの位置θmax+ε,θmax−εと、最小値の検出位置(角度)θminからプラス及びマイナス側に一定量εだけシフトする2つの位置θmin+ε,θmin−εとからなる4つの位置の出力信号の平均値をオフセット電圧の補正値X4,Y4とするものである。そして、この場合も、A相出力信号VA(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ90°,270°であること、及びA相出力信号VA(θ)が前記66で表されることを考慮すれば、VA(90+ε),VA(90−ε),VA(270+ε),VA(270−ε)は、下記数76,77,78,79のようになる。
【0085】
【数76】
【数77】
【数78】
【数79】
【0086】
したがって、オフセット電圧の補正値X4は下記数80のように表され、これを変形すると、下記数81のようになる。
【数80】
【数81】
【0087】
また、B相出力信号VB(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ0°,180°であること、及びB相出力信号VB(θ)が前記数70で表されることを考慮すれば、VB(0+ε),VB(0−ε),VB(180+ε),VB(180−ε)は、下記数82,83,84,85のようになる。
【数82】
【数83】
【数84】
【数85】
【0088】
したがって、オフセット電圧の補正値Y4は下記数86のように表され、これを変形すると、下記数87のようになる。
【数86】
【数87】
【0089】
すなわち、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のオフセット電圧の補正値X4,Y4は、下記数88,89のようになる。
【数88】
【数89】
【0090】
ここで、シフトする一定量εを90°とすると、前記数88,89で表された補正値X4,Y4は下記数90,91のようになり、これらを整理すると、最終的には下記数92,93のようになる。
【数90】
【数91】
【数92】
【数93】
【0091】
そして、これらの補正値X4,Y4は、前記計算した数62,63で示される最適補正値X,Yとは一致する。すなわち、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧の補正値と設置誤差による2次高調波が重畳した出力信号の内挿精度φの勾配を抑制する最適補正値を求めるためには、前記最大値及び最大値からのシフト量εを90°に設定するとよい。その結果、本発明のオフセット補正方法を用いれば、内挿精度φの悪化を良好に抑制できることが理解される。
【0092】
d.変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0093】
(1)
変形例1
上記実施形態及び従来技術で説明した磁気センサ10は点対称形を成す磁気センサであったが、磁気センサ10としてはこれに限らず、本発明は種々の磁気センサにも適用される。例えば、磁気センサ10として、図22に示すように、検出素子としての磁気抵抗効果素子S1、S2,S3,S4を、着磁ピッチに対応した間隔で図示矢印で示す同一方向(すなわちピッチ方向)に線対称(図22の一点鎖線を中心に線対称)に配置した磁気センサを利用できる。この場合、磁気抵抗効果素子S1、S2,S3,S4は4個以外の2個、8個などの偶数であればよい。
【0094】
この磁気センサ10は、主に多極磁石の検出に用いられる。装置構造例として、磁気センサ10と磁石22の適性配置を図23A,23Bに示す。図23Aは多極リング磁石22の接線方向と、磁気センサ10のピッチ方向(図示矢印方向)が一致し、かつ磁石22の法線と磁気センサ10の対称線が一致するように配置する。この場合も、磁石22の回転に伴って、接線方向のみの磁界変化を検出することで互いに90度位相ずれた出力信号を出力するロータリーエンコーダ装置となる。図23Bは多極リニア磁石22の側面に、磁気センサ10を、磁石22と磁気センサ10のピッチ方向(図示矢印方向)が並行になるように配置する。磁石22が直動することで、その方向のみの磁界変化を検出することで互いに90度位相ずれた出力信号を出力するリニアエンコーダ装置となる。
【0095】
これらの変形例に係るエンコーダ装置において、磁気センサ10を磁石22に対して適切に設置すれば、前記第3実施例の場合と異なり、磁気センサ10は同一方向の磁界変化を検出するから、上記図21で示したカージオイド曲線の磁界変化を検出することにはならない。しかしながら、上記第1及び第2実施例の場合と同様に、図24A及び図24Bで示すように、設置誤差を有する状態で磁気センサ10を磁石22に対して配置すると2次高調波が出力信号に重畳する。すなわち、図24Aに示すように、多極リング磁石22の場合において、磁気センサ10対称線と磁石22の法線とで設置誤差が有る場合には、2次高調波が出力信号に重畳する。また、図24Bに示すように、多極リニア磁石22の場合において、磁気センサ10が磁石22のピッチ方向に対して傾いた場合、2次高調波が出力信号に重畳する。
【0096】
図25Aは、前記図24Aのエンコーダ装置における内挿精度φ(=電気角−機械角)を示している。この場合、(a)は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、(b)は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。また、図25Bは、前記図24Bのエンコーダ装置における内挿精度φ(=電気角−機械角)を示している。この場合も、(a)は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、(b)は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、これらの変形例に係るエンコーダ装置においても、本発明による補正方法を用いることにより、従来の補正方法を用いる場合には比べて、内挿精度φ(誤差)の悪化を良好に抑制できることが理解される。
【0097】
(2)
変形例2
上記実施例及び変形例に係る磁気センサ10は、1枚の基板上に複数の検出素子としての磁気抵抗効果素子を配置したものであったが、本発明は、1枚の基板上に1個の検出素子としての磁気抵抗効果粗衣を配置したエンコーダ装置にも適用される。例えば、この種のエンコーダ装置としては、図26に示すように、1つのみの磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む複数の磁気センサ10を多極リング磁石22の側方に配置させて、磁石22の回転に応じて、互いに90°位相のずれたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)からなる出力信号を得るようにしている。なお、この場合も、前記1つのみの磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む複数の磁気センサ10を、図23Bの場合のように、多極リニア磁石に平行に配置して、磁石の直動位置を検出するように変形することもできる。
【0098】
(3)
その他の変形例
上記実施例及び前記変形例に係るエンコーダ装置における磁気センサ10では、AMR磁気抵抗効果素子を用いたが、上記従来技術で説明したように、GMR磁気抵抗効果素子を用いたり、ホール素子を用いたりすることもできる。
【0099】
また、上記実施例及び前記変形例に係るエンコーダ装置におけるセンサとして磁気センサを採用するようにした。しかし、上述した理論式から分かるように、検出対象物の回転又は移動に応じて、互いに90°位相のずれたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)からなる出力信号を得ることができればよいので、センサ部に磁気センサ以外のセンサを用いてもよい。例えば、検出対象物をスリットを有するように形成して、センサを光学プローブとした光学式エンコーダ装置にも本発明は適用される。
【0100】
また、上記実施形態及び変形例では、オフセット補正及び振幅補正の両補正を行うようにした。しかし、A相出力信号VA(θ)とB相出力信号VB(θ)との振幅比に起因する内挿精度φの悪化は上述のように小さい。したがって、振幅比に関する内挿精度φの悪化が問題とならない場合には、振幅補正を省略して、オフセット補正のみを行うようにしてもよい。
【0101】
さらに、動作時の環境変化により一度定めた補正値が適当でなくなる場合(例えば、温度特性が加わった場合など)には、一度定めた補正値を環境に応じてさらに補正するようにするとよい。これによれば、精度向上がさらに期待できる。
【符号の説明】
【0102】
10…磁気センサ、11,31…サンプリング回路、12a,12b,32a,32b…A/D変換器、13,33…演算処理装置、16,34…入出力回路、17,35…メモリ、21…回転軸、22…磁石、23…駆動装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物の回転角度又は移動位置を検出するエンコーダ装置に係り、特に検出対象物の回転角度又は移動位置に応じてセンサ部から出力された正弦波状の検出信号を補正するエンコーダ装置及びエンコーダ装置のための補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置はよく知られている。この場合、第1及び第2ディジタル検出信号VA(θ),VB(θ)(以下、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)という)を下記数1,2でそれぞれ表せば、回転角度(移動位置)ωは、下記数3によって表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【0003】
この場合、理想的には、前記数1,2中の両振幅値A,Bが常に等しく、オフセット値ΔA,ΔBが常に共に「0」であって、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)は完全な正弦波状信号であることが望まれる。しかしながら、実際には、オフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bは、センサ部自身に潜在する誤差と、センサ部と検出対象物(例えば、磁石)の設置誤差とを含み、オフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bは変動するとともに、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)も完全な正弦波状信号にはならない。その結果、前記数3の演算処理によって実際に計算される回転角度ωは誤差を含む。この誤差を内挿精度φと呼び、内挿精度φは、通常、回転角度ω(電気角)から誤差を含まない角度(機械角)を減算した下記数4で表される。本発明者らは、この内挿精度φに対するオフセット値ΔA,ΔBと振幅値A,Bの影響を、次の第1及び第2条件下による計算により確認した。
【数4】
【0004】
(第1条件)
A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の両振幅値A,Bを等しく、両振幅巾を「2」とし、オフセット値ΔBを「0」に維持したまま、オフセット値ΔAを前記振幅巾の0〜5%(すなわち0〜0.1)の範囲で0.5%(すなわち0.01)ごとに変化させ、オフセット値ΔAを0.5%ずつ変化させるごとに、θを0〜360度に亘って変化させて内挿精度φを順次計算した。そして、θの0〜360度に亘る内挿精度φの最大値φMaxから最小値φMinを減算した値φMax−φMin(Error)を図1のグラフに黒三角印で示している。
【0005】
(第2条件)
A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の両オフセットΔA,ΔBを共に「0」に保ち、振幅値A,Bの比率(1−A/B)を0〜5%の範囲で0.05%ごとに変化させ(例えば、振幅値Bを「1」とすると、振幅値Aを1〜0.95まで0.005ずつ変化させて)、振幅値A,Bの比率(1−A/B)を0.05%ずつ変化させるごとに、θを0〜360度に亘って変化させて内挿精度φを順次計算した。そして、θの0〜360度に亘る内挿精度φの最大値φMaxから最小値φMinを減算した値φMax−φMin(Error)を図1のグラフに黒四角印で示している。
【0006】
この計算結果からも理解できるように、オフセット値ΔA,ΔBの内挿精度φに与える影響は、非常に大きく振幅比A/Bの4倍強になる。したがって、オフセット値ΔA,ΔBに関する補正が振幅値A,Bに比べた遥かに重要であることが理解できる。その意味で、本発明では、詳しくは後述するように、オフセット値ΔA,ΔBに関する補正を必須とし、振幅値A,Bに関する補正を選択事項としている。
【0007】
この種の補正に関しては、従来から行われており、例えば下記特許文献1に示されている。なお、この特許文献1に示されたエンコーダ装置は、円柱の側面にN極とS極を交互に円周を等分割するように着磁された多極磁石の側面に対向するように、2つの磁気センサを90度位相のずれた正弦波信号を出力するように配置した構造を有している。
【0008】
そして、補正方法としては次のような方法を採用している。まず、オフセット値に関しては、0〜360度に亘るA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のそれぞれに対して、最大値VAmax,VBmax及び最小値VAmin,VBminをそれぞれ抽出し、下記数5,6に示すように、前記抽出した最大値VAmax,VBmaxと最小値VAmin,VBminの平均値(振幅中心値)をオフセット値VAoff,VBoffとしてそれぞれ設定する。
【数5】
【数6】
【0009】
そして、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)から前記設定したオフセット値VAoff,VBoffをそれぞれ減算することにより、下記数7,8に示すように、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)をオフセット補正するようにしている。
【数7】
【数8】
【0010】
また、振幅値A,Bに関しては、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のそれぞれにおいて、前記最大値VAmax,VBmaxから最小値VAmin,VBminを減算することにより振幅巾VAmax−VAmin,VBmax−VBminをそれぞれ計算し、振幅巾VBmax−VBminに対する振幅巾VAmax−VAminの比率を、下記数9に示すように振幅補正値Aamとして計算する。
【数9】
そして、A相出力信号VA(θ)に関してはそのまま用いるが、B相出力信号VB(θ)に関しては下記数10に示すように振幅補正値Aamを乗算することにより両振幅巾が同じになるように振幅補正するようにしている。
【数10】
【0011】
そして、前記数7,8のオフセット補正及び数10の振幅補正を行ったA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を用いて前記数3と同様な下記数11の演算の実行により回転角度ωを計算するようにしている。
【数11】
【0012】
また、前記オフセット補正及び振幅補正には直接関係しないが、例えば、下記特許文献2には、センサ部に検知素子である8つのAMR磁気抵抗効果素子を点対称形に配置したエンコーダ装置が示されている。このエンコーダ装置においては、検出対象物である2極磁石にセンサ部を対向させることで、センサ部に潜在する振幅比を最小にし、互いに90度だけ位相の異なる均等性のある正弦波状のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)が磁石の1回転で2周期分出力される。また、下記特許文献3,4には、センサ部に検知素子としてSV−GMR磁気抵抗効果素子及びホール素子をそれぞれ用いた前記と同種のエンコーダ装置が示されている。これらのエンコーダ装置においても、センサ部に潜在する振幅比を最小にするために、複数の検知素子が点対称形に配置されている。また、これらのエンコーダ装置では、互いに90度だけ位相の異なる均等性のある正弦波状のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)が磁石の1回転で1周期分出力される。なお、前記特許文献2〜4に記載のエンコーダ装置を、機械的分解能を増すため、検出対象物が多極に着磁されたリニア磁石及びリング磁石の側面に配置するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平04−118513号公報
【特許文献2】特開昭59−41822号広報
【特許文献3】特開平10−70325号公報
【特許文献4】特開2002−71381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、この種のエンコーダ装置においては、前述のように、センサ部自身に潜在する誤差と、検出対象物とセンサ部との相互の次のような設置誤差とが生じる。すなわち、(1)回転時における偏芯によって起こる検出対象物との傾きによる誤差、(2)検出対象物の中心と回転軸とのずれ、(3)検出対象物に対するセンサ部の傾き、及び(4)回転軸の線上からセンサの位置ずれによる設置誤差が生じる。しかも、これらの設置誤差(1)〜(4)は、一つもしくは複合的に生じる。
【0015】
そして、前記特許文献2〜4に示されたエンコーダ装置に対して前述した特許文献1のようなオフセット補正及び振幅を行っても、内挿精度の低下を十分に抑制できない。これは、センサ部自身に潜在するオフセット値と振幅比に関する誤差と、検出対象物に対するセンサ部の設置誤差による影響とを一緒に補正するため、センサ部自身に潜在する誤差に設置誤差が影響して、内挿精度の低下を抑制できないためであると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、内挿精度の低下を極力抑えて、検出対象物の回転角度又は移動位置を高精度で検出できるようにしたエンコーダ装置及びエンコーダ装置のための補正方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、検出対象物(21,22)の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部(10)と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部(31〜33)とを備えたエンコーダ装置に適用され、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を補正するエンコーダ装置のための補正方法であって、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を所定間隔でそれぞれサンプリングすることにより、少なくとも波形1周期分の第1及び第2ディジタルデータをそれぞれ取得するデータ取得手順(S14〜S18)と、前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手順(S20,S26)と、前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手順(S22,S28)と、前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手順(S24,S30)と、演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号を第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正するオフセット値補正手順(S44,S46)とを含むことにある。
【0018】
上記のように構成した本発明においては、補正用ディジタルデータ抽出手順で、センサ部から出力される第1アナログ検出信号に対応した第1ディジタル検出信号の最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータがそれぞれ抽出されて4つの補正用ディジタルデータとされるとともに、センサ部から出力されて前記第1アナログ検出信号とは90度だけ位相の異なる第2アナログ検出信号に対応した第2ディジタル検出信号の最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータがそれぞれ抽出されて4つの補正用ディジタルデータとされる。オフセット値設定手順で、前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値が第1オフセット値として設定されるとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値が第2オフセット値として設定される。そして、オフセット値補正手順により、演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号が第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正される。その結果、センサ部と検出対象物の設置誤差によって生じる内挿精度が良好となり、検出対象物の回転角度又は移動位置が高精度で検出されるようになる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものであるとよい。これによれば、設置誤差の許容性の強いエンコーダ装置においても、検出対象物の回転角度又は移動位置がより高精度で検出されるようになる。
【0020】
また、前記本発明においては、前記背景技術の項で説明した振幅に関する補正を合わせて行うようにしてもよい。これによれば、検出対象物の回転角度又は移動位置がより高精度で検出されるようになる。
【0021】
さらに、本発明は、前記エンコーダ装置のための補正方法を、検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換するとともに、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を前記第1及び第2アナログ検出信号の各オフセット値を用いて補正し、前記補正した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置に適用するようにしてもよい。これによっても、前記と同様に、センサ部と検出対象物の設置誤差によって生じる内挿精度が良好となり、検出対象物の回転角度又は移動位置が高精度で検出されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】オフセット値と振幅比とが内挿精度に与える影響を説明するための内挿精度の誤差の大きさを示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置に適用される補正装置を概略的に示すブロック図である。
【図3】図2の演算処理装置にて実行される補正値取得プログラムを示すフローチャートである。
【図4】最大値及及び最小値からプラス90度及びマイナス90度の位置にあるサンプリング値の抽出動作を説明するための説明図である。
【図5】前記サンプリング値の他の抽出例を説明するための説明図である。
【図6】前記サンプリング値の他の抽出例を説明するための説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置を概略的に示すブロック図である。
【図8】図7の演算処理装置にて実行される回転角度計算プログラムを示すフローチャートである。
【図9A】本発明の第1実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図9B】前記第1実施例の磁気センサの等価回路を示す図である。
【図9C】前記第1実施例の磁気センサと磁石との配置関係を説明するための概略配置図である。
【図10】前記第1実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図11】前記第1実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図12】本発明の第2実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図13】前記第2実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図14】前記第2実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図15】本発明の第3実施例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図16】前記第3実施例の磁気センサから出力されるA相出力信号及びB相出力信号と、サンプリング位置の関係を示す波形図である。
【図17】前記第3実施例の磁気センサにおいて従来の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図18】前記第3実施例の磁気センサにおいて本発明の補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図19】前記第1及び第2実施例に係り、設置誤差がない状態における磁界変化を説明するための図である。
【図20】前記第1及び第2実施例に係り、設置誤差がある状態における磁界変化を説明するための図である。
【図21】前記第3実施例に係り、設置誤差がある状態における磁界変化を説明するための図である。
【図22】本発明の変形例に係る磁気センサの概略構成図である。
【図23A】設置誤差のない状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リング磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図23B】設置誤差のない状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リニア磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図24A】設置誤差の有する状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リング磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図24B】設置誤差の有する状態における、前記変形例に係る磁気センサと多極リニア磁石に対する配置関係を説明するための概略配置図である。
【図25A】前記図24Aのように配置した磁気センサにおいて従来の補正方法及び本発明による補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図25B】前記図24Bのように配置した磁気センサにおいて従来の補正方法及び本発明による補正方法を用いて計算した内挿精度を示すグラフである。
【図26】本発明の他の変形例に係る磁気センサと多極リング磁石とを示す概略図である
【発明を実施するための形態】
【0023】
a.実施形態
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図2は、本発明に係るエンコーダ装置に適用される補正装置を概略的に示すブロック図である。磁気センサ10は、本発明のセンサ部を構成するもので、回転軸21に固定された磁石22に対向して配置され、検出対象物の回転に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状のアナログ信号であるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力する。回転軸21及び磁石22は、本発明の検出対象物を構成するものである。
【0024】
この場合、図2に示すように、周方向に分割されてN極及びS極が配置された円板状の磁石22の上面又は底面に磁気センサ10が配置されていてもよいし、後述する具体的な実施例で説明するように、円柱の側面にN極とS極を交互に円周を等分割するように着磁された磁石の側面に対向させて磁気センサを設けてもよい。また、多極に着磁されたリニア磁石の側面に対向させて磁気センサを配置し、磁気センサは、磁石の直線的な移動に応じて90度だけ位相の異なる正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力するような構成でもよい。また、磁気センサ10に関しても、磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む2つのパッケージを90度位相のずれた位置に配置して各パッケージがA相出力信号VA及びB相出力信号VBをそれぞれ出力するようにしてもよいし、複数の磁気抵抗素子を一つのパッケージに含むように磁気センサ10を構成して、1つのパッケージからA相出力信号VA及びB相出力信号VBを出力するようにしてもよい。さらに、1つのパッケージ内に多数の磁気抵抗効果素子を対称に配置した、ハーフブリッジ型、フルブリッジ型、ダブルブリッジ型などの磁気センサ10であってもよい。
【0025】
磁気センサ10の出力端には、サンプリング回路11及びA/D変換器12a,12bが接続されている。サンプリング回路11は、後述する演算処理装置13によって制御され、磁気センサ10からアナログ信号であるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを所定の周期でそれぞれサンプリングして、A/D変換器12a,12bにそれぞれ出力する。A/D変換器12a,12bは、前記サンプリングされたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値をそれぞれA/D変換して、演算処理装置13に出力する。演算処理装置13は、CPU,ROM,RAM、その他のメモリ装置などからなるコンピュータ装置で構成され、本実施形態では図3に示す補正値取得プログラムを記憶しているとともに実行する。
【0026】
この演算処理装置13には、入力装置14、表示装置15及び入出力回路16が接続されている。入力装置14は、操作スイッチなどからなり、演算処理装置13の作動指示に利用される。表示装置15は、演算処理装置13の作動指示、作動内容、作動結果などを表示する。入出力回路16は、他の装置とのデータの授受などをする。また、この演算処理装置13には、演算処理装置13にて生成されたデータなどを記憶するメモリ17が接続されるようになっている。
【0027】
演算処理装置13には、モータなどを含む駆動装置23も接続されている。駆動装置23は、演算処理装置13により制御されて、回転軸21及び磁石22を回転させる。なお、前述のように、磁石22がリニアに移動するものであるある場合は、駆動装置23は磁石22をリニアに駆動する。なお、回転軸21、磁石22及び磁気センサ10は、磁気センサ10から出力されるA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた回転角度又は移動位置の検出に利用する装置内に既に組み込まれているものである。そして、他の装置及び回路11〜17,23は、前記回転角度又は移動位置の検出を利用する装置内とは別のものであってもよいが、前記装置内に組み込まれていてもよい。
【0028】
次に、上記のように構成した実施形態の動作について説明する。この場合、ユーザの入力装置14などを用いた指示により、演算処理装置13は、図3の補正値取得プログラムの実行を開始する。この補正値取得プログラムはステップS10にて開始され、演算処理装置13は、ステップS12にて、駆動装置23の駆動制御を開始して回転軸21及び磁石22を所定の一定速で回転させ始める。なお、前述のように、磁石22をリニアに移動させる場合には、磁石22を一定速でリニアに移動させ始める。これにより、磁石22は一定速で回転(移動)し始め、磁気センサ10は、アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBをサンプリング回路11にそれぞれ出力し始める。前記ステップS12の処理後、演算処理装置13は、ステップS14にてサンプリング回路11にサンプリングの開始を指示する。この場合、アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期当たりサンプリング数は、磁石22の回転速度に反比例するとともにサンプリング回路11のサンプリングレートに比例する。本実施形態においては、前記アナログのA相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期当たりサンプリング数が一定個数(例えば、1024個)に決められているので、演算処理装置13は、サンプリング回路11によるサンプリングレート及び駆動装置23による磁石22の回転速度の少なくとも一方を制御する。
【0029】
前記ステップS14の処理後、演算処理装置13は、ステップS16にて、サンプリング回路11によってサンプリングされ、かつA/D変換器12a,12bによってそれぞれディジタル変換されたディジタルのA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を取込んで記憶する。そして、演算処理装置13は、ステップS18にて駆動終点を確認する。ここでは、磁石22が1回転以上回転したかを判定する。この判定は、磁石22の回転速度と、タイマによる時間計測とによって行われる。磁石22が1回転以上回転するまで、演算処理装置13は、ステップS18にて「No」と判定して、ステップS16におけるA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値の取込み及び記憶処理を繰返し実行し続ける。磁石22が1回転以上回転すると、演算処理装置13は、ステップS18にて「Yes」と判定して、ステップS20に進む。
【0030】
ステップS20においては、A相出力信号VAの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から最大値VAmax及び最小値VAminを抽出する。次に、演算処理装置13は、ステップS22にて前記最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4を、A相出力信号VAの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から抽出する。
【0031】
この4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4の抽出について図を用いて説明しておく。図4は、磁気センサ10として、上述した特許文献3,4と同様にSV−GMR磁気抵抗効果素子又はホール素子を用いた場合のA相出力信号VA及びB相出力信号VB、すなわち磁石22の1回転で1周期分のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される例を示している。図4のA相出力信号VAにおいて、丸印で示すように、最大値VAmax及び最小値VAminが抽出され、その後に、三角印で示すように、最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が抽出される。この場合の90度に対応するサンプリング数は256個であり、最大値VAmax及び最小値VAminのサンプリング値から前後に256個離れたサンプリング値が前記4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出されることになる。
【0032】
なお、図5に示すように、最大値VAmax及び最小値VAminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が直接的に抽出されない場合(例えば、図5に示すように、最大値VAmaxの位置に対してマイナス90度の位置に対応するサンプリング値VA2を直接的に抽出できない場合)には、1つ前又は後の周期の対応する位相位置のサンプリング値(サンプリング値VA2)がサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出される。
【0033】
また、図6は、磁気センサ22として、上述した特許文献2と同様にAMR磁気抵抗効果素子を用いた場合のA相出力信号VA及びB相出力信号VB、すなわち磁石22の1回転で2周期分のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される例を示している。したがって、この場合には、90度はサンプリング数128に相当するので、最大値VAmax及び最小値VAminのサンプリング値から前後に128個離れたサンプリング値が前記4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出されることになる。また、この場合も、4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4が直接的に抽出されない場合には、1つ前又は後の周期の対応する位相位置のサンプリング値がサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4として抽出される。さらに、この場合には、ステップS16,S18の処理により、前記図4の場合の半分の時間だけサンプリング値を取込んで処理するようにしてもよい。
【0034】
前記ステップS22の処理後、演算処理装置13は、ステップS24にて、前記抽出した4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4を用いた下記数12の演算の実行により、4つのサンプリング値VA1,VA2,VA3,VA4の平均値をA相出力信号VAのオフセット値VAoffとして計算する。
【数12】
【0035】
前記ステップS24の処理後、演算処理装置13は、B相出力信号VBの1周期分のサンプリング値に対して、上記ステップS20〜S24と同様なステップS26〜S30の処理を実行して、B相出力信号VBの少なくとも1周期分のサンプリング値の中から最大値VBmax及び最小値VBminを抽出し、前記最大値VBmax及び最小値VBminの位置に対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VB1,VB2,VB3,VB4を抽出し、下記数13の演算処理によってB相出力信号VBのオフセット値VBoffを計算する。
【数13】
【0036】
次に、演算処理装置13は、ステップS32にて、A相出力信号VAの最大値VAmaxから最小値VAminを減算することによりA相出力信号VAの振幅巾VAmax−VAminを計算し、B相出力信号VBの最大値VBmaxから最小値VBminを減算することによりB相出力信号VBの振幅巾VBmax−VBminを計算し、これらの振幅巾VAmax−VAmin,VBmax−VBminの比を計算する下記数14の演算の実行により振幅補正値Aamを計算する。なお、この振幅補正値Aamに関しては従来の方法と同じである。
【数14】
【0037】
次に、演算処理装置13は、前記数12〜14の演算処理により計算したオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamをメモリ17に保存したり、入出力回路16を介して他の装置、例えば後述する本発明の一実施形態に係るエンコーダ装置に出力する。エンコーダ装置は、これらのオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを入力して保存する。前記ステップS34の処理後、演算処理装置13は、ステップS36にてこの補正値取得プログラムの実行を終了する。
【0038】
次に、このようにして計算されたオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを用いたエンコーダ装置の補正処理について説明する。エンコーダ装置は、図7に示すように、検出対象物である回転軸21及び磁石22に対向させた磁気センサ10を備えている。図2の補正装置では、上述のように、検出対象物である回転軸21及び磁石22に磁気センサ10を対向配置した状態においてオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを計算するので、図7に示す磁気センサ10、回転軸21及び磁石22も図2にて示したものと同じである。また、このエンコーダ装置は、サンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35を備えている。これらのサンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35は、図2に示したサンプリング回路11、A/D変換器12a,12b、演算処理装置13、入出力回路16及びメモリ17と同様に構成されている。なお、これらのサンプリング回路31、A/D変換器32a,32b、演算処理装置33、入出力回路34及びメモリ35は、図2のサンプリング回路11、A/D変換器12a,12b、演算処理装置13、入出力回路16及びメモリ17とは別途設けられていてもよいし、共通であってもよい。特に、サンプリング回路31及びA/D変換器32a,32bは、図2のサンプリング回路11及びA/D変換器12a,12bと共通であってもよい。ただし、演算処理装置33は、回転角度計算プログラムを記憶しているとともに、回転角度計算プログラムを実行する。
【0039】
次に、前記のように構成したエンコーダ装置の動作を説明する。このエンコーダ装置においても、演算処理装置33は、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBを所定の周期でサンプリングするように、サンプリング回路31に指示する。サンプリング回路31は、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBを前記所定の周期でサンプリングして、サンプリング値VA,VBをA/D変換器32a,32bにそれぞれ出力する。A/D変換器32a,32bは、前記サンプリング値VA,VBをそれぞれA/D変換して、ディジタル変換されたサンプリング値VA,VBを演算処理装置33に出力する。これにより、回転軸21及び磁石22の回転角度ωに応じて変化する磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値VA,VBが演算処理装置33に所定の周期で供給されるようになる。
【0040】
演算処理装置33は、サンプリング値VA,VBの入力ごとに、回転角度計算プログラムを実行する。この回転角度計算プログラムの実行は図8のステップS40にて開始され、演算処理装置33は、ステップS42にて、A/D変換器32a,32bでそれぞれA/D変換されたサンプリング値VA,VBをそれぞれ入力する。次に、演算処理装置33は、ステップS44にて前記入力したサンプリング値VAを前記保存したオフセット値VAoffを用いた下記数15の演算処理によりオフセット補正し、ステップS46にて前記入力したサンプリング値VBを前記保存したオフセット値VBoffを用いた下記数16の演算処理によりオフセット補正する。
【数15】
【数16】
【0041】
次に、演算処理装置33は、ステップS48にて、前記入力したサンプリング値VBを前記保存した振幅補正値Aamを用いた下記数17の演算処理により振幅補正する。なお、この振幅補正は、従来の方法と同じである。
【数17】
【0042】
そして、演算処理装置33は、ステップS50にて、前記補正処理したサンプリング値VA,VBを用いて下記数18の演算処理により回転軸21及び磁石22の回転角度ωを計算する。
【数18】
【0043】
前記回転角度ωの計算後、演算処理装置13は、ステップS52にて、前記計算した回転角度ωをメモリ35に保存したり、入出力回路34を介して他の装置、例えば回転軸21及び磁石22の回転角度ωを利用する利用装置に出力したりする。そして、演算処理装置33は、ステップS54にてこの回転角度計算プログラムの実行を一端終了する。その後、A/D変換器32a,32bからのサンプリング値VA,VBがふたたび演算処理装置33に入力されると、演算処理装置33は前述したステップS40〜S54からなる回転角度計算プログラムをふたたび実行して、サンプリング値VA,VBを補正処理し、補正処理後のサンプリング値VA,VBを用いて回転角度ωを計算する。このような、回転角度計算プログラムの実行により、演算処理装置33は回転軸21及び磁石22の回転角度ωを計算しては出力する。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、前記数12〜14の演算処理により、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの各最大値VAmax,VBmax及び各最小値VAmin,VBminに対してプラス90度の位置とマイナス90度の位置に対応する4つのサンプリング値VA1〜VA4,VB1〜VB4の各平均値をそれぞれオフセット値VAoff,VBoffとして計算するとともに、A相出力信号VAの振幅巾VAmax−VAminとB相出力信号VBの振幅巾VBmax−VBminとの比を振幅補正値Aamとして計算する。前記数15〜17の演算処理により、これらのオフセット値VAoff,VBoff及び振幅補正値Aamを用いて、サンプリング値VA,VBをオフセット及び振幅補正する。そして、前記数18の演算処理により、補正したサンプリング値VA,VBを用いて、回転角度ωが計算される。
【0045】
b.本発明の実験による検証
次に、上記実施形態による補正方法の効果について実験結果を用いて検証する。
(1)第1実施例
第1実施例に係る磁気センサ10は、ダブルフルブリッジ型磁気センサであって、2組のフルブリッジ構成の磁気抵抗効果素子(この場合、AMR磁気抵抗効果素子)を互いに45度傾けて一つの基板上に形成している。具体的には、図9Aに示すように、延設方向を互いに45度ずつずらして磁気抵抗素子1〜8を円周方向に沿って配置して、回転中心に対して同一延設方向の磁気抵抗効果素子を点対称位置に配置している。そして、図9Bの等価回路に示すように、2組のフルブリッジ回路を形成している。図9B中、端子Vcc,Gnd間に規定電圧が印加され、端子VoutA+,VoutA−間からA相出力信号VAが出力され、かつ端子VoutB+,VoutB−間からB相出力信号VBが出力される。
【0046】
この磁気センサ10に対向するように回転軸21の一端に固定された周方向に分割された円板状の直径9mmの2極磁石22が配置されている。回転軸21の軸線(回転中心)と磁石22の中心線(回転中心)は一致している。このように構成した検出対象物である回転軸21及び磁石22と、磁気センサ10とを用いて、次の5つ条件(a)〜(e)下で磁石22を1回転させ、磁気センサ10から出力される1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを360度当たり(磁石22の1回転当たり)2000ポイントのサンプリング数でサンプリングした。そして、サンプリングしたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を従来の補正方法を用いて補正し、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。
【0047】
すなわち、A相出力信号VA及びB相出力信号VBを、上記数5〜8を用いてオフセット補正を行うとともに、上記数9,10を用いて振幅補正を行い、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた上記数4の演算の実行により内挿精度φを下記条件(a)〜(d)ごとに計算した。
(a) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に一致させる。
(b) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向に+0.5mmずらす。
(c) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向に−0.5mmずらす。
(d) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してY方向に+0.5mmずらす。
(e) 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してY方向に−0.5mmずらす。
【0048】
上記条件(a),(b),(c),(d),(e)ごとの実験結果による内挿精度φを、図10の(a),(b),(c),(d),(e)のグラフに誤差としてそれぞれ示す。これによれば、前記条件(a)の「 磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に一致させた場合」には、内挿精度φ(誤差)はほとんど現れないことが理解できる。これに対して、前記条件(b),(c),(d),(e)のように、「磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向及びY方向にそれぞれずらした場合」には、内挿精度φ(誤差)が大きくなる、すなわち悪化することが理解できる。
【0049】
次に、前記図9A〜9Cに示す磁気センサ10及び磁石22を用いて、前記場合と同様に、前記5つ条件(a)〜(e)下で磁石22を1回転させ、磁気センサ10から出力される1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBを360度当たり2000ポイントのサンプリング数でサンプリングした。そして、サンプリングしたA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を本発明の補正方法を用いて補正し、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。すなわち、A相出力信号VA及びB相出力信号VBを、上記数12,13,15,16を用いてオフセット補正を行うとともに、上記数14,17を用いて振幅補正を行い、補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBを用いた上記数4の演算の実行により内挿精度φを前記条件(a)〜(d)ごとに計算した。
【0050】
図11の(a),(b),(c),(d),(e)は、上記条件(a),(b),(c),(d),(e)ごとに、本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差としてそれぞれ示す。これによれば、上記条件(a)
,(b),(c),(d),(e)のように、磁気センサ10の中心線を回転軸21及び磁石22の軸線に対してX方向及びY方向にそれぞれずらした場合、すなわち回転軸21及び磁石22に対してX方向及びY方向に設置誤差を磁気センサ10を設置しても、本発明によるオフセット補正を行えば、内挿精度φ(誤差)が小さく抑えられることが理解できる。
【0051】
(2)第2実施例
次に、第2実施例について説明する。この場合も、上記第1実施例と同様な磁気センサ10及び磁石22を用い、上記第1実施例の場合と同様な従来及び本発明の補正方法を用いて補正したA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値を用いて内挿精度φ(電気角−機械角)を計算した。ただし、この場合には、回転軸21及び磁石22に対する磁気センサ10の複合的な設置誤差の影響を確認するために、図12(a)の概略斜視及び図12(b)の概略正面図に示すように、磁石22が回転軸21の軸線に対して0.5mm偏芯して取り付けられている。そして、磁石22に対して磁気センサ10はX方向に+0.5mmずらして配置されている。
【0052】
図13は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、図14は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、前記複合的な磁気センサ10の設置誤差によっても、従来の補正方法を用いた場合には、大きな誤差が発生することが理解できる。一方、本発明の補正方法を用いた場合には、誤差が抑制されることが理解できる。
【0053】
(3)第3実施例
次に、第3実施例について説明する。この場合、上記第1及び第2実施例とは異なり、図15に示すように、磁石22として円周方向に10分割されて10極着磁されたリング磁石が用いられる。磁石22も、図15の紙面垂直方向の中心軸線周りに、図示しない回転手段によって回転される。なお、この場合の磁石22の直径は7mmである。また、この第3実施例では、磁気センサ10は、上記第1及び第2実施例と同様に構成されているが、磁気抵抗効果素子の延設面が磁石22の径方向と平行なるように磁石22の側方の法線上に配置されている。
【0054】
この場合も、磁石22を前記中心軸周りに1回転させて、この1回転中に、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBから2000個のサンプリング値をそれぞれ取得する。なお、図16は、これらの磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBと、サンプリング位置との関係を示す波形図である。この場合、磁石22は円周方向に10極着磁されているので、磁石22の1回転当たり10波の正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBが出力される。
【0055】
そして、この場合には、10波の正弦波状のA相出力信号VA及びB相出力信号VBから1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBのサンプリング値をそれぞれ抽出し、1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ従来の補正方法を適用して、内挿精度φをそれぞれ計算した。図17の(a),(b),(c)は、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、この種の磁気センサ10において、従来の補正方法を用いた場合には、1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBに大きな誤差(内挿精度φ)が含まれることが理解できる。このことは、第3実施例のように複数の磁極を有する磁石22の回転(又は移動)方向に磁気センサ10を対向させて、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBに基づいて磁石22(検出対象物)の回転角度を検出する場合に、回転角度の検出に大きな誤差が含まれることを意味する。
【0056】
一方、図18の(a),(b),(c)は、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期目、2周期目及び3周期目ごとのサンプリング値に対してそれぞれ本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。なお、この場合には、10周期分のサンプリング数が「2000」であるので、A相出力信号VA及びB相出力信号VBの1周期分のサンプリング数は「200」となる。したがって、90度に対応するサンプリング数は「50」となる。そして、1周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBの補正用ディジタルデータについて、図16に示す例で説明しておく。1周期目のA相出力信号VAの最大値VAmax及び最小値VAminの位置は、「83」及び「183」である。したがって、前記位置「83」及び「183」から90度離れた4つの位置は、それぞれ「33」,「133」,「133」,「233」となる。そして、これらの位置のサンプリング値が、1周期目のA相出力信号VAのための4つの補正用ディジタルデータとなる。また、1周期目のB相出力信号VBの最大値VBmax及び最小値VBminの位置は、「32」及び「134」である。したがって、前記位置「32」及び「134」から90度離れた4つの位置は、それぞれ「1982」,「82」,「84」,「184」となる。そして、これらの位置のサンプリング値が、1周期目のB相出力信号VBのための4つの補正用ディジタルデータとなる。
【0057】
このような本発明による補正方法を用いた内挿精度φ(誤差)を表す図18の(a)(b)(c)によるグラフによれば、この種の磁気センサ10においても、本発明の補正方法を用いた場合に、1周期目、2周期目及び3周期目のA相出力信号VA及びB相出力信号VBに含まれる誤差を抑制できることが理解できる。その結果、この第3実施例のように複数の磁極を有する磁石22の回転(又は移動)方向に磁気センサ10を対向させて、磁気センサ10からのA相出力信号VA及びB相出力信号VBに基づいて磁石22(検出対象物)の回転角度を検出する場合にも、本発明による補正方法を用いることにより、回転角度の誤差を抑制できることが理解できる。
【0058】
c.本発明の理論的な説明
各種実施例にて以下のことが確認できる。第1乃至第3実施例での従来方法である振幅中心値で補正した場合の内挿精度φ(図10(b)〜図10(e)、図13及び図17(a)〜図17(c))及び後述する変形例1,2での従来方法である振幅中心値で補正した場合の内挿精度φ(図25A(a)及び図25B(a))において、機械角における誤差の変化が一様な勾配を示す。図10(b)、図13、図17(a)〜図17(c)、図25A(a)及び図25B(a)は−cos波形に近似し、図10(c)及び図10(e)はcos波形に近似し、図10(d)はsin波形に近似し、それぞれ1周期分の勾配となる。内挿精度φの機械角における誤差の変化を、勾配と定義して、上記第1乃至第3実施例に関し、上記実施形態による補正方法について理論的に説明する。第1乃至第3実施例に関しては、極座標(r,θ)のカージオイド曲線を想定することにより理解できる。
【0059】
まず、上記第1実施例の場合においては、磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差がない場合すなわち上述した(a)の状態には、図19に示す黒丸上の磁界変化は、半径r=1のx=cosθ,y=sinθとなる。一方、磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差が、上述した(b)〜(e)のいずれかの方向にずれた状態を図20の黒丸で示した。この黒丸での磁界変化は、図20に示すようになる。このように磁石22に対する磁気センサ10の設置誤差が、上述した(b)〜(e)のうちの一つの方向にずれた状態を、式r=1+a’・cosθとして、直交座標(x、y)で考えると、x=r・cosθ,y=r・sinθとなり、x,yが検出対象物の運動によっておこる磁界変化を表す。位置ずれがない場合の磁界変化は、a’=0すなわちr=1である。位置ずれが起こると、a’が、位置ずれの大きさに比例して大きくなる。
【0060】
このx=r・cosθ及びy=r・sinθに、r=1+a’・cosθを代入すると、x、yは下記数19,20のように表される。
【数19】
【数20】
【0061】
上記第1実施例で示した設置誤差(b)〜(e)は、実際にはこの4方向だけでなく、全角(α=0〜360°)範囲であるため、その位置での検出対象物の運動によっておこる磁界変化として考えれば、A相出力信号VA及びB相出力信号VBにそれぞれ対応する磁界HA,HBを下記数21,22のように表すことができる。
【数21】
【数22】
これにより、設置誤差による磁界HA,HB の変化には、2次高調波が一定の関係で重畳していることが分かる。
【0062】
次に、上記第2実施例について説明する。この場合、2種類の位置ずれがあり、異なった2次高調波が重畳すると考えることができる。したがって、磁界HA,HBは下記数23,24で表される。
【数23】
【数24】
前記数23,24を整理すると、下記数25,26のように変形される。
【数25】
【数26】
【0063】
ここで、下記数27〜30で定義されるc,dを用いて、前記数25,26を変形すると、下記数31,32のようになる。
【数27】
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
これにより、この場合も、設置誤差による磁界HA,HB の変化には、2次高調波が一定の関係で重畳していることが分かる。
【0064】
次に、上記第3実施例について説明する。この第3実施例では、磁気センサ10を磁石22の法線上に設置されており、磁気センサ10の各磁気抵抗効果素子は、点対称形をなし、かつ異なる方向(例えば、法線方向と接線方向)の磁界を検出する。この異なった方向の磁界変化、リング側面においては、歪曲した基線上を磁界が回転する。よって、磁界の変化は、図21に示すように、前記第1実施例の図20と同様なカージオイド曲線を描くこととなる。
【0065】
次に、磁気センサ10からの出力信号を考える。磁気センサ10のA,B相からの出力信号をVA、VBとしたとき、その出力信号は下記数33,34で表される。ただし、A,Bは感度であり、ΔA,ΔBはオフセット電圧である。
【数33】
【数34】
仮に、磁気センサ10内に、感度違いとオフセット電圧がない状態(すなわち、A=BかつΔA=ΔB=0)で、設置誤差が生じた場合の各出力信号は下記数35,36で表される。
【数35】
【数36】
【0066】
一方、内挿精度φ(電気角−機械角)は、上述したように下記数37(前記数4と同じ)で定義される。
【数37】
ここで、下記数38,39のようx,yを定義すると、前記数37は下記数40のように表される。
【数38】
【数39】
【数40】
【0067】
ここで、前記数40の両辺のタンジェントを取ると、前記40は下記数41のように変形される。
【数41】
前記数38,39は下記数42,43のように変形され、公式を用いた変形により前記数41は下記数44のように変形される。
【数42】
【数43】
【数44】
【0068】
前記数44をアークタンジェントに戻すと、前記数44は下記数45のようになる。
【数45】
この数45に前記数35,36で表されるVA(θ),VB(θ)を代入すると、前記数45は下記数46のように表される。
【数46】
そして、この数46をさらに変形すると、下記数47,48のようになる。
【数47】
【数48】
【0069】
ここで、値Aは値aに比べて極めて大きい(言い換えれば、比の値a/Aは極めて小さい)ことを考慮すれば、前記数48の分母は定数となり、以下のように内挿精度φの勾配は1周期となる。
(a)α=0°のとき、内挿精度φの勾配はsin波形となる。
(b)α=90°のとき、内挿精度φの勾配はcos波形となる。
(c)α=180°のとき、内挿精度φの勾配は−sin波形となる。
(d)α=270°のとき、内挿精度φの勾配は−cos波形となる。
【0070】
次に、磁気センサ10自身に潜在する感度の違いではなく(A=B)、オフセット電圧が潜在する場合のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)は下記数49,50のように表される。
【数49】
【数50】
【0071】
内挿精度φ(電気角−機械角)は、前記数45で表され、この数45に前記数49,50のA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を代入すると、下記数51のようになる。
【数51】
そして、この数51をさらに変形すると、下記数52,53のようになる。
【数52】
【数53】
【0072】
ここで、値Aは値ΔA,ΔBに比べて極めて大きい(言い換えれば、比の値ΔA/A,ΔB/Aは極めて小さい)ことを考慮すれば、前記数53の分母は定数となり、以下のように内挿精度φの勾配は1周期となる。
(a)ΔB=0,ΔA>0のとき、内挿精度φの勾配はcos波形となる。
(b)ΔB=0,ΔA<0のとき、内挿精度φの勾配は−cos波形となる。
(c)ΔA=0,ΔB>0のとき、内挿精度φの勾配は−sin波形となる。
(d)ΔA=0,ΔB<0のとき、内挿精度(φ)の勾配はsin波形となる。
このような内挿精度φを表す前記数48と前記数53とにより、設置誤差によって2次高調波が重畳した出力信号の影響と、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧によって与える影響は同じ現象になることが分かる。
【0073】
次に、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧と設置誤差による2次高調波が重畳した出力信号の内挿精度φの勾配を抑制するための最適補正値を計算する。この場合、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)として、下記数54,55に示す信号を定義する。
【数54】
【数55】
【0074】
そして、前記数45によって定義される内挿精度φの式に前記数54,55で表されたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)を代入すると、内挿精度φは下記数56で与えられる。
【数56】
そして、前記数56を変形すると、下記数57のようになる。
【数57】
【0075】
内挿精度φが向上することは、前記数57でφ=0とすることにより与えられる。θがどの値でも分子式の各項の係数が「0」であればよい。そのときのオフセット電圧値をΔA0、ΔB0とすると、下記数58が成立する。
【数58】
そして、前記数58を変形すると、下記数59のようになる。
【数59】
【0076】
これにより、sinθの項はa・cosα=ΔB0で、cosθの項は−a・sinα=ΔA0となる。したがって、2次高調波が重畳した出力信号のオフセットの最適補正値をX、Yとすれば、値ΔA0,ΔB0は下記数61,62で表される。
【数60】
【数61】
これにより、最適補正値X,Yは、下記数62,63によって表されることになる。
【数62】
【数63】
【0077】
次に、このような2次高調波が重畳する波形で、従来技術のオフセット補正のように振幅中心値がオフセット値の最適補正値になり得るかについて説明する。A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の振幅中心値XVPP,YVPPは、下記数64,65で表される。なお、数64,65中のθmax,θminは、各出力信号の最大値及び最小値の位置(角度)を示す。
【数64】
【数65】
【0078】
ここで、A相出力信号VA(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ90°,270°であること、及びA相出力信号VA(θ)が下記数66で表されることを考慮すれば、VA(90),VA(270)は、下記数67,68のようになる。
【数66】
【数67】
【数68】
【0079】
したがって、振幅中心値XVPPは、下記数69のようになる。
【数69】
【0080】
また、B相出力信号VB(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ0°,180°であること、及びB相出力信号VB(θ)が下記数70で表されることを考慮すれば、VB (0),VB(180)は下記数71,72のようになる。
【数70】
【数71】
【数72】
【0081】
したがって、振幅中心値YVPPは、下記数73のようになる。
【数73】
【0082】
すなわち、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)の振幅中心値XVPP,YVPPは、下記数74,75のようになる。
【数74】
【数75】
【0083】
しかし、これらの振幅中心値XVPP,YVPPは、前記計算した数62,63で示される最適補正値X,Yとは一致しない。むしろ、振幅中心値XVPP,YVPPをオフセット電圧の補正値とすることは、内挿精度φの勾配を逆に増長することなる。これにより、従来のオフセット補正方法は好ましくないことが理解される。
【0084】
次に、このような2次高調波が重畳する波形で、上述した本発明による補正方法で最適補正値を導き出すことができる点について説明する。本発明によるオフセット補正では、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)において、最大値の検出位置(角度)θmaxからプラス及びマイナス側に一定量εだけシフトする2つの位置θmax+ε,θmax−εと、最小値の検出位置(角度)θminからプラス及びマイナス側に一定量εだけシフトする2つの位置θmin+ε,θmin−εとからなる4つの位置の出力信号の平均値をオフセット電圧の補正値X4,Y4とするものである。そして、この場合も、A相出力信号VA(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ90°,270°であること、及びA相出力信号VA(θ)が前記66で表されることを考慮すれば、VA(90+ε),VA(90−ε),VA(270+ε),VA(270−ε)は、下記数76,77,78,79のようになる。
【0085】
【数76】
【数77】
【数78】
【数79】
【0086】
したがって、オフセット電圧の補正値X4は下記数80のように表され、これを変形すると、下記数81のようになる。
【数80】
【数81】
【0087】
また、B相出力信号VB(θ)における角度θmax,θminがそれぞれほぼ0°,180°であること、及びB相出力信号VB(θ)が前記数70で表されることを考慮すれば、VB(0+ε),VB(0−ε),VB(180+ε),VB(180−ε)は、下記数82,83,84,85のようになる。
【数82】
【数83】
【数84】
【数85】
【0088】
したがって、オフセット電圧の補正値Y4は下記数86のように表され、これを変形すると、下記数87のようになる。
【数86】
【数87】
【0089】
すなわち、A相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)のオフセット電圧の補正値X4,Y4は、下記数88,89のようになる。
【数88】
【数89】
【0090】
ここで、シフトする一定量εを90°とすると、前記数88,89で表された補正値X4,Y4は下記数90,91のようになり、これらを整理すると、最終的には下記数92,93のようになる。
【数90】
【数91】
【数92】
【数93】
【0091】
そして、これらの補正値X4,Y4は、前記計算した数62,63で示される最適補正値X,Yとは一致する。すなわち、磁気センサ10自身に潜在するオフセット電圧の補正値と設置誤差による2次高調波が重畳した出力信号の内挿精度φの勾配を抑制する最適補正値を求めるためには、前記最大値及び最大値からのシフト量εを90°に設定するとよい。その結果、本発明のオフセット補正方法を用いれば、内挿精度φの悪化を良好に抑制できることが理解される。
【0092】
d.変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0093】
(1)
変形例1
上記実施形態及び従来技術で説明した磁気センサ10は点対称形を成す磁気センサであったが、磁気センサ10としてはこれに限らず、本発明は種々の磁気センサにも適用される。例えば、磁気センサ10として、図22に示すように、検出素子としての磁気抵抗効果素子S1、S2,S3,S4を、着磁ピッチに対応した間隔で図示矢印で示す同一方向(すなわちピッチ方向)に線対称(図22の一点鎖線を中心に線対称)に配置した磁気センサを利用できる。この場合、磁気抵抗効果素子S1、S2,S3,S4は4個以外の2個、8個などの偶数であればよい。
【0094】
この磁気センサ10は、主に多極磁石の検出に用いられる。装置構造例として、磁気センサ10と磁石22の適性配置を図23A,23Bに示す。図23Aは多極リング磁石22の接線方向と、磁気センサ10のピッチ方向(図示矢印方向)が一致し、かつ磁石22の法線と磁気センサ10の対称線が一致するように配置する。この場合も、磁石22の回転に伴って、接線方向のみの磁界変化を検出することで互いに90度位相ずれた出力信号を出力するロータリーエンコーダ装置となる。図23Bは多極リニア磁石22の側面に、磁気センサ10を、磁石22と磁気センサ10のピッチ方向(図示矢印方向)が並行になるように配置する。磁石22が直動することで、その方向のみの磁界変化を検出することで互いに90度位相ずれた出力信号を出力するリニアエンコーダ装置となる。
【0095】
これらの変形例に係るエンコーダ装置において、磁気センサ10を磁石22に対して適切に設置すれば、前記第3実施例の場合と異なり、磁気センサ10は同一方向の磁界変化を検出するから、上記図21で示したカージオイド曲線の磁界変化を検出することにはならない。しかしながら、上記第1及び第2実施例の場合と同様に、図24A及び図24Bで示すように、設置誤差を有する状態で磁気センサ10を磁石22に対して配置すると2次高調波が出力信号に重畳する。すなわち、図24Aに示すように、多極リング磁石22の場合において、磁気センサ10対称線と磁石22の法線とで設置誤差が有る場合には、2次高調波が出力信号に重畳する。また、図24Bに示すように、多極リニア磁石22の場合において、磁気センサ10が磁石22のピッチ方向に対して傾いた場合、2次高調波が出力信号に重畳する。
【0096】
図25Aは、前記図24Aのエンコーダ装置における内挿精度φ(=電気角−機械角)を示している。この場合、(a)は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、(b)は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。また、図25Bは、前記図24Bのエンコーダ装置における内挿精度φ(=電気角−機械角)を示している。この場合も、(a)は従来の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示し、(b)は本発明の補正方法を用いた場合の内挿精度φをグラフに誤差として示している。これによれば、これらの変形例に係るエンコーダ装置においても、本発明による補正方法を用いることにより、従来の補正方法を用いる場合には比べて、内挿精度φ(誤差)の悪化を良好に抑制できることが理解される。
【0097】
(2)
変形例2
上記実施例及び変形例に係る磁気センサ10は、1枚の基板上に複数の検出素子としての磁気抵抗効果素子を配置したものであったが、本発明は、1枚の基板上に1個の検出素子としての磁気抵抗効果粗衣を配置したエンコーダ装置にも適用される。例えば、この種のエンコーダ装置としては、図26に示すように、1つのみの磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む複数の磁気センサ10を多極リング磁石22の側方に配置させて、磁石22の回転に応じて、互いに90°位相のずれたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)からなる出力信号を得るようにしている。なお、この場合も、前記1つのみの磁気抵抗効果素子をそれぞれ含む複数の磁気センサ10を、図23Bの場合のように、多極リニア磁石に平行に配置して、磁石の直動位置を検出するように変形することもできる。
【0098】
(3)
その他の変形例
上記実施例及び前記変形例に係るエンコーダ装置における磁気センサ10では、AMR磁気抵抗効果素子を用いたが、上記従来技術で説明したように、GMR磁気抵抗効果素子を用いたり、ホール素子を用いたりすることもできる。
【0099】
また、上記実施例及び前記変形例に係るエンコーダ装置におけるセンサとして磁気センサを採用するようにした。しかし、上述した理論式から分かるように、検出対象物の回転又は移動に応じて、互いに90°位相のずれたA相出力信号VA(θ)及びB相出力信号VB(θ)からなる出力信号を得ることができればよいので、センサ部に磁気センサ以外のセンサを用いてもよい。例えば、検出対象物をスリットを有するように形成して、センサを光学プローブとした光学式エンコーダ装置にも本発明は適用される。
【0100】
また、上記実施形態及び変形例では、オフセット補正及び振幅補正の両補正を行うようにした。しかし、A相出力信号VA(θ)とB相出力信号VB(θ)との振幅比に起因する内挿精度φの悪化は上述のように小さい。したがって、振幅比に関する内挿精度φの悪化が問題とならない場合には、振幅補正を省略して、オフセット補正のみを行うようにしてもよい。
【0101】
さらに、動作時の環境変化により一度定めた補正値が適当でなくなる場合(例えば、温度特性が加わった場合など)には、一度定めた補正値を環境に応じてさらに補正するようにするとよい。これによれば、精度向上がさらに期待できる。
【符号の説明】
【0102】
10…磁気センサ、11,31…サンプリング回路、12a,12b,32a,32b…A/D変換器、13,33…演算処理装置、16,34…入出力回路、17,35…メモリ、21…回転軸、22…磁石、23…駆動装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置に適用され、
前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を補正するエンコーダ装置のための補正方法であって、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を所定間隔でそれぞれサンプリングすることにより、少なくとも波形1周期分の第1及び第2ディジタルデータをそれぞれ取得するデータ取得手順と、
前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手順と、
前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手順と、
前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手順と、
前記演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、前記センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号を第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正するオフセット値補正手順とを含むことを特徴とするエンコーダ装置のための補正方法。
【請求項2】
前記センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものである請求項1に記載したエンコーダ装置のための補正方法。
【請求項3】
検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換するとともに、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を前記第1及び第2アナログ検出信号の各オフセット値を用いて補正し、前記補正した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置において、
前記第1及び第2検出信号を所定の位置間隔でサンプリングすることにより少なくとも波形1周期分のディジタルデータを取得するデータ取得手段と、
前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手段と、
前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手段と、
前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手段とを設けたことを特徴とするエンコーダ装置。
【請求項4】
前記センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものである請求項3に記載したエンコーダ装置。
【請求項1】
検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換して、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置に適用され、
前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を補正するエンコーダ装置のための補正方法であって、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を所定間隔でそれぞれサンプリングすることにより、少なくとも波形1周期分の第1及び第2ディジタルデータをそれぞれ取得するデータ取得手順と、
前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手順と、
前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手順と、
前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手順と、
前記演算処理部で第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する前に、前記センサ部から入力されて変換された第1及び第2ディジタル検出信号を第1及び第2オフセット値を用いてそれぞれ補正するオフセット値補正手順とを含むことを特徴とするエンコーダ装置のための補正方法。
【請求項2】
前記センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものである請求項1に記載したエンコーダ装置のための補正方法。
【請求項3】
検出対象物の回転又は移動に応じて互いに90度だけ位相の異なる正弦波状の第1及び第2アナログ検出信号を出力するセンサ部と、
前記センサ部からの第1及び第2アナログ検出信号を第1及び第2ディジタル検出信号にそれぞれディジタル変換するとともに、前記変換した第1及び第2ディジタル検出信号を前記第1及び第2アナログ検出信号の各オフセット値を用いて補正し、前記補正した第1及び第2ディジタル検出信号を用いて検出対象物の回転角度又は移動位置を演算処理する演算処理部とを備えたエンコーダ装置において、
前記第1及び第2検出信号を所定の位置間隔でサンプリングすることにより少なくとも波形1周期分のディジタルデータを取得するデータ取得手段と、
前記取得された第1及び第2ディジタルデータの中から最大値及び最小値の位置をそれぞれ検出する位置検出手段と、
前記取得された第1ディジタルデータの中から、前記検出された第1ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとするとともに、前記取得された第2ディジタルデータの中から、前記検出された第2ディジタルデータの最大値及び最小値の各検出位置からそれぞれ90度だけ離れた4つの位置の各ディジタルデータをそれぞれ抽出して4つの補正用ディジタルデータとする補正用ディジタルデータ抽出手段と、
前記抽出された第1ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第1オフセット値として設定するとともに、前記抽出された第2ディジタルデータに関する4つの補正用ディジタルデータを平均した値を第2オフセット値として設定するオフセット値設定手段とを設けたことを特徴とするエンコーダ装置。
【請求項4】
前記センサ部は、一つの基板上に複数の検出素子を対称形に配置したものである請求項3に記載したエンコーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26】
【公開番号】特開2012−189350(P2012−189350A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51059(P2011−51059)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000236447)浜松光電株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000236447)浜松光電株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
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