説明

エンボス成形方法およびエンボス成形装置

【課題】原反の合成樹脂層側表面にエンボスを深く成形することができるエンボス成形方法およびエンボス成形装置を提供する。
【解決手段】エンボス成形方法において、まず少なくとも一方の面に配置された合成樹脂層11aを含む原反11を準備して供給する。次に、供給されてきた原反11の合成樹脂層11a側に対して、溶剤13aを塗布して、原反11の合成樹脂層11a側表面11cを軟化させる。その後、合成樹脂層11a側を向くエンボスロール14と、バックアップロール15との間で原反11を挟圧し、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側表面11cにエンボスロール14によりエンボス11dを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス成形方法およびエンボス成形装置に係り、とりわけ合成樹脂層を含む原反の合成樹脂層側表面にエンボスを深く成形することにより工程離型紙等を製造することができるエンボス成形方法およびエンボス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成皮革の製造方法の一つとして、工程離型紙を用いる方法が知られている。このような工程離型紙31は、図5に示すように合成皮革32の合成樹脂層32bへ凹凸形状の柄を転写させるために用いられる型紙である。すなわち工程離型紙31は、図5に示すように、紙層31bと、紙層31bに積層されたポリプロピレン(PP)等からなる合成樹脂層31aとからなっている。また、合成皮革32は、基布32aと、基布32aに積層されたポリウレタン(PU)等からなる合成樹脂層32bとからなっている。なお、工程離型紙31の合成樹脂層31aと合成皮革32の合成樹脂層32bは、互いに離型性を有する材料からなっていれば良く、上述したポリプロピレン(PP)とポリウレタン(PU)の組合せに限られない。
【0003】
次に、工程離型紙31を用いて合成皮革32を製造する方法について述べる。
まず、予め合成樹脂層31aの表面に所望の凹凸パターンが形成された工程離型紙31を準備する。次に、合成樹脂層31a上に、合成樹脂層32bを構成する液状の原料樹脂を塗布し、更にこの原料樹脂上に基布32aを載置する。この原料樹脂が乾燥・固化して合成樹脂層32bとなると、この場合合成樹脂層32bと基布32aとは互いに固着する。これに対して、上述したように合成樹脂層31aと合成樹脂層32bは、互いに離型性を有しているので、合成樹脂層31aは、合成樹脂層32bから容易に剥離することができる。このようにして基布32aと合成樹脂層32bとが一体となった合成皮革32を製造することができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
上述したように、工程離型紙31は、紙層31bとポリプロピレン(PP)等からなる合成樹脂層31aの2層からなっている。このような工程離型紙31は、図6に示すように、柄(凸部33aおよび凹部33b)が彫刻されたエンボスロール33と、エンボスロール33と対となって設けられたバックアップロール34とにより挟圧され、合成樹脂層31aに所望の凹凸形状が転写されてエンボス31cが形成される。
【0005】
ところで、工程離型紙31の意匠性を評価する際、エンボスロール33により転写されることにより工程離型紙31に形成された柄(エンボス31c)の深さが重要な評価項目となっている。このため、工程離型紙31の原反に最も適するエンボス加工条件(加工圧力、加工温度、および加工時間)の下で工程離型紙31を製造している。しかしながら、エンボス加工条件のみを最適化しても、工程離型紙31を製造する工場のユーティリティーによる制限や、工程離型紙31の加工装置やエンボスロール33の耐久性等の制約条件を満足する必要がある。このため、現実には工程離型紙31の合成樹脂層31aに対してエンボスロール33表面の凸部33aの深さを十分に転写できないという問題が存在する。すなわち、図7に示すように、エンボスロール33表面に長い比較的長い凸部33aが形成されていても、工程離型紙31の合成樹脂層31aにこの凸部33aに相当する深さのエンボス31cを形成するのは難しい(dr=dpとするのは難しい)。
【特許文献1】特開平11−140778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、原反の合成樹脂層側表面にエンボスを深く成形することができるエンボス成形方法およびエンボス成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも一方の面に配置された合成樹脂層を含む原反を準備して供給する工程と、原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布する工程と、合成樹脂層側を向くエンボスロールと、エンボスロールとの間で原反を挟圧するバックアップロールとを用いて、溶剤により軟化した原反の合成樹脂層側表面にエンボスを成形する工程と、を備えたことを特徴とするエンボス成形方法である。
【0008】
本発明は、エンボスロールの原反供給側に設けられたスプレーにより、原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布することを特徴とするエンボス成形方法である。
【0009】
本発明は、エンボスロール近傍に溶剤が収容された溶剤槽が配置され、この溶剤槽内の溶剤にエンボスロールの一部が浸漬されることにより、原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布することを特徴とするエンボス成形方法である。
【0010】
本発明は、原反の合成樹脂層は、ポリカーボネートまたはポリプロピレンからなることを特徴とするエンボス成形方法である。
【0011】
本発明は、少なくとも一方の面に配置された合成樹脂層を含む原反を供給する供給部と、
供給部からの原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布する塗布部と、溶剤により軟化した原反の合成樹脂層側表面にエンボスを成形するエンボスロールと、エンボスロールと対となって設けられ、エンボスロールとともに原反を挟圧するバックアップロールと、を備えたことを特徴とするエンボス成形装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合成樹脂層側を向くエンボスロールと、エンボスロールとの間で原反を挟圧するバックアップロールとを用いて、溶剤により軟化した原反の合成樹脂層側表面にエンボスを成形するので、原反の合成樹脂層側表面にエンボスを深く成形することができる。
【0013】
また、本発明によれば、エンボスロールの原反供給側に設けられたスプレーにより、原反の合成樹脂層側に、効率良く溶剤を塗布することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、溶剤槽内の溶剤にエンボスロールの一部が浸漬されているので、このエンボスロールに残存する溶剤により、効率良く溶剤を原反の合成樹脂層に塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の実施の形態
以下、本発明の第1の実施の形態について、図1および図2を参照して説明する。
ここで、図1は、本発明の第1の実施の形態を示す構成図であり、図2は、本発明の第1の実施の形態を示す工程図である。
【0016】
まず、図1により、本実施の形態によるエンボス成形装置の概略について説明する。
図1に示すように、エンボス成形装置10は、一方の面に配置された合成樹脂層11aと他方の面に配置された紙層11bとを含む工程離型紙等からなる原反11を供給する供給部12と、供給部12からの原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する塗布部13と、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形するエンボスロール14とを備えている。
【0017】
このうちエンボスロール14は、上述のように溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形するものである。このエンボスロール14表面に、エンボス11dを成形するための凸部14aおよび凹部14bが形成されている。また、エンボスロール14は、原反11の成形の際に合成樹脂層11aを軟化させるため、加熱手段(図示せず)により加熱されるようになっている。
【0018】
また、バックアップロール15は、エンボスロール14と対となって設けられ、エンボスロール14とともに原反11を挟圧するようになっている。このバックアップロール15は、凸部15aおよび凹部15bを有している。他方、バックアップロール15は、このような凸部15aおよび凹部15bを有することなく、表面が平坦な円筒形状からなっていても良い。
【0019】
なお、塗布部13は、スプレーからなっており、エンボスロール14の原反11供給側に設けられ、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布するようになっている。
【0020】
また、原反11の合成樹脂層11aは、例えばポリカーボネートまたはポリプロピレンからなっている。この場合、溶剤13aとしては、合成樹脂層11aを溶解する性質を有するものが用いられる。具体的には、合成樹脂層11aが例えばポリカーボネートからなる場合、溶剤13aはトルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、または水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液等を含み、他方、合成樹脂層11aが例えばポリプロピレンからなる場合、溶剤13aはトルエン等の芳香族炭化水素またはメチルエチルケトン等を含んでいる。
【0021】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について、図1および図2を用いて述べる。
まず、図1に示すエンボス成形装置10において、一方の面に配置された合成樹脂層11aと他方の面に配置された紙層11bとを含む原反11を準備して、供給部12から供給する(図2の符号21)。
【0022】
次に、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する(図2の符号22)。この場合、上述したエンボスロール14の原反11供給側に設けられたスプレーからなる塗布部13により、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する。
【0023】
このように、原反11のうちポリカーボネートまたはポリプロピレン等からなる合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布することにより、合成樹脂層11aを半溶解状態とし、合成樹脂層11aの見かけの弾性率を低下させることができる。これにより、溶剤13aを用いることなく原反11にエンボス11dを成形する場合(従来技術)と比較して、後述のようにエンボスロール14およびバックアップロール15により原反11に対して圧力を負荷した場合、エンボス11dの柄の転写率(エンボスロール14表面の凹凸がどの程度エンボス11dの凹凸として転写されるかを示す比率)を増大させることができる。すなわち、エンボスロール14およびバックアップロール15により原反11に対して圧力を付加した際、エンボスロール14による合成樹脂層11aの変形量を大きくし、原反11に対してより深いエンボス11dを形成することができる。
【0024】
次に、合成樹脂層11a側を向くエンボスロール14と、バックアップロール15との間で原反11を挟圧し、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形する(図2の符号23)。
【0025】
上述したように、エンボスロール14は加熱されているので、合成樹脂層11aに残存する溶剤13aは、エンボスロール14により加熱されて速やかに揮発する。これにより、合成樹脂層11aは、溶剤13aにより軟化される前の弾性率に戻る(軟化される前の降伏値となる)。したがって、エンボス11dが成形された後における合成樹脂層11aの塑性変形域に変化はなく、エンボス11dの深さは成形時のまま維持される。
【0026】
このように、本実施の形態によれば、合成樹脂層11a側を向くエンボスロール14と、エンボスロール14との間で原反11を挟圧するバックアップロール15とを用いて、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形するので、原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを深く、かつ確実に成形することができる。
【0027】
また、本実施の形態によれば、エンボスロール14の原反11供給側に設けられたスプレーからなる塗布部13により、原反11の合成樹脂層11a側に、効率良く溶剤13aを塗布することができる。
【0028】
第2の実施の形態
次に、本発明の第2の実施の形態について図3および図4を参照して説明する。
ここで、図3は、本発明の第2の実施の形態を示す構成図であり、図4は、エンボスロールの上部拡大図である。図3および図4に示す第2の実施の形態は、塗布部16の構成およびエンボスロール14とバックアップロール15との位置関係が異なるものであり、他の構成や作用効果は上述した第1の実施の形態と略同一である。図3および図4において、図1および図2に示す第1の実施の形態と同一部分には同一の部号を付して詳細な説明は省略する。
【0029】
まず、図3および図4により本実施の形態によるエンボス成形装置の概略について説明する。
図3に示すように、エンボス成形装置10は、一方の面に配置された合成樹脂層11aと他方の面に配置された紙層11bとを含む工程離型紙等からなる原反11を供給する供給部12と、供給部12からの原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する塗布部16とを備えている。
【0030】
このうち塗布部16は、エンボスロール14の下方近傍に配置された溶剤槽16aを有し、溶剤槽16a内に溶剤13aが収容されている。また、溶剤槽16a内の溶剤13aにエンボスロール14の一部が浸漬されている。このように、溶剤槽16a内の溶剤13aにエンボスロール14の一部が浸漬されているので、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布するようになっている。
【0031】
すなわち、図3に示すように、エンボスロール14の下部は溶剤槽16a内の溶剤13a内に常時浸漬され、エンボスロール14の上部は合成樹脂層11aの表面11cを常時押圧している。この場合、エンボスロール14は、図3において時計方向に回転している。したがって、エンボスロール14の各凹部14b内に残存する少量の溶剤13aがエンボスロール14の回転に伴って上方側へ供給され、合成樹脂層11aに到達するようになっている(図4参照)。
【0032】
次に、図3を用いて、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
まず、図3に示すエンボス成形装置10において、一方の面に配置された合成樹脂層11aと他方の面に配置された紙層11bとを含む原反11を準備して供給部12から供給する。
【0033】
次に、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する。この場合、上述した溶剤槽16a内の溶剤13aにより、回転するエンボスロール14を介して溶剤13aを上方へ供給し、原反11の合成樹脂層11a側に溶剤13aを塗布する。
【0034】
次に、合成樹脂層11a側を向くエンボスロール14と、バックアップロール15との間で原反11を挟圧し、エンボスロール14により、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形する。
【0035】
上述したように、エンボスロール14は加熱されているので、合成樹脂層11aに残存する溶剤13aは、エンボスロール14により加熱されて揮発する。
【0036】
このように、本実施の形態によれば、合成樹脂層11a側を向くエンボスロール14と、エンボスロール14との間で原反11を挟圧するバックアップロール15とを用いて、溶剤13aにより軟化した原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを成形するので、原反11の合成樹脂層11a側の表面11cにエンボス11dを深く、かつ確実に成形することができる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、溶剤槽16a内の溶剤13aにエンボスロール14の一部が浸漬されているので、このエンボスロール14の凹部14bに残存する溶剤13aをエンボスロール14の回転に伴って上方へ供給することにより、効率良く溶剤13aを原反11の合成樹脂層11aに塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるエンボス成形装置の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】本発明によるエンボス成形装置の第1の実施の形態を示す工程図。
【図3】本発明によるエンボス成形装置の第2の実施の形態を示す構成図。
【図4】本発明によるエンボス成形装置の第2の実施の形態におけるエンボスロールの上部拡大図。
【図5】工程離型紙およびこの工程離型紙により製造される合成皮革を示す構成図。
【図6】従来の工程離型紙を製造する方法を示す構成図。
【図7】エンボスロール表面を示す拡大図。
【符号の説明】
【0039】
10 エンボス成形装置
11 原反
11a 合成樹脂層
11b 紙層
11c 表面
11d エンボス
12 供給部
13 塗布部(スプレー)
13a 溶剤
14 エンボスロール
14a 凸部
14b 凹部
15 バックアップロール
15a 凸部
15b 凹部
16 塗布部
16a 溶剤槽
21 原反を準備する工程
22 溶剤を塗布する工程
23 エンボスを成形する工程
31 工程離型紙
31a 合成樹脂層
31b 紙層
32 合成皮革
32a 基布
32b 合成樹脂層
33 エンボスロール
33a 凸部
34 バックアップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に配置された合成樹脂層を含む原反を準備して供給する工程と、
原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布する工程と、
合成樹脂層側を向くエンボスロールと、エンボスロールとの間で原反を挟圧するバックアップロールとを用いて、溶剤により軟化した原反の合成樹脂層側表面にエンボスを成形する工程と、を備えたことを特徴とするエンボス成形方法。
【請求項2】
エンボスロールの原反供給側に設けられたスプレーにより、原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載のエンボス成形方法。
【請求項3】
エンボスロール近傍に溶剤が収容された溶剤槽が配置され、この溶剤槽内の溶剤にエンボスロールの一部が浸漬されることにより、原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載のエンボス成形方法。
【請求項4】
原反の合成樹脂層は、ポリカーボネートまたはポリプロピレンからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエンボス成形方法。
【請求項5】
少なくとも一方の面に配置された合成樹脂層を含む原反を供給する供給部と、
供給部からの原反の合成樹脂層側に溶剤を塗布する塗布部と、
溶剤により軟化した原反の合成樹脂層側表面にエンボスを成形するエンボスロールと、
エンボスロールと対となって設けられ、エンボスロールとともに原反を挟圧するバックアップロールと、を備えたことを特徴とするエンボス成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−73959(P2008−73959A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256114(P2006−256114)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】