説明

オイル供給部材

【課題】オイル被塗布物にオイル塗布面からオイルを移行させるオイル保持層を有するオイル供給部材として、高温下で荷重がかかる状態で使用することが出来るオイル供給部材を提供する。
【解決手段】オイル供給面に接触するオイル被供給物に該オイル供給面からオイルを移行させるオイル保持層2を有するオイル供給部材1であって、オイル保持層2は、表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を含み、多孔質樹脂膜は、特定の数式で示される弾性率Sが、500〜5000MPaの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル保持層として表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を含むオイル供給部材に関する。また、本発明は、特定の厚み、空孔率、孔径を有する多孔樹脂膜を用いたオイル供給部材に関する。さらに本発明は、特定のガラス転移温度と特定の弾性率を有する多孔質樹脂膜を用いたオイル供給部材に関する。特に本発明は、オイル保持層として多孔質ポリイミド膜を用いたオイル供給部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一定量のオイルを制御して塗布するオイル保持層として多孔質ポリエチレン樹脂、多孔質フッ素樹脂やノメックス(商品名)フェルトを用いたオイル供給部材が提案され、複写機、プリンター、ファクシミリ等に配置されている画像定着装置、センサーカバー、オイルリテーナー、様々な軸受けやベアリングに使用される摺動材、各種機械や建築物等の滑り支承、ベアリング、軸受け等に用いられている。
【0003】
特許文献1には、肉厚多孔質組織材の表面に多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムとシリコンゴムおよび離型オイルからなるオイル保持層を形成した複写機用オイル塗布機構が開示されている。
【0004】
特許文献2には、連続気孔の熱硬化性ポリマーを含む多孔質のチューブ状支持体、その多孔質のチューブ状支持体の外側表面に接着された多孔質の透過コントロール材料、その透過コントロール材料に隣接し、その多孔質のチューブ状支持体の気孔の外側部分に配置された強化材料であって、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合物を含む強化材料、その強化材料に隣接し、その多孔質のチューブ状支持体の中心の近くまで実質的に放射状に気孔を満たすオイル供給材料であって、シリコーンオイルとシリコーンゴムの混合物を含むオイル供給材料、及びその多孔質の透過コントロール材料の外側表面の周りに接着して取り付けられた低い表面エネルギーの材料、を備えた、液体を定量供給してコーティングする装置が開示され、高速自動化普通紙コピー機に利用できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、多孔質組織材を摺動面部材とするシート状摺動材であって、該多孔質組織材の非摺動面側に該多孔質組織材の変形防止フィルムを積層接着させたシート状摺動材が開示され、2つの固体表面が接触する機構を有する各種の装置に対して適用することができ、複写機、プリンター、ファクシミリ等に配置されている画像定着装置や、センサーカバー、様々な軸受けやベアリングに使用される摺動材、各種機械や建築物等の滑り支承、ベアリング、軸受け等に使用できることが開示されている。
【0006】
また、特許文献4では、多孔質ポリテトラフルオロエチレン成形体にオイルを含浸させ、各種動力機械の軸受、オイルリテーナー、複写機やファクシミリの定着ローラ、さらに橋梁、建築物のいわゆるスライディング・パッドなどの用途に使用できることが開示されている。
【特許文献1】特開昭62−178992号公報
【特許文献2】特表平11−510276号公報
【特許文献3】特開2003−191389号公報
【特許文献4】特開平7−242769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した用途に用いられているこれまでのオイル供給部材は、具体的には、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、などの多孔質材が基材として用いられている。これらの素材は、剛性が低く、ガラス転移温度が低いものであり、高温下で荷重のかかる状態で使用することが出来るオイル保持層を有するオイル供給部材が求められている。
【0008】
本発明では、オイル塗布面に接触するオイル被塗布物に該オイル塗布面からオイルを移行させるオイル保持層を有するオイル供給部材として、高温下で荷重がかかる状態で使用することが出来るオイル保持層を有するオイル供給部材を提供することを目的とする。
【0009】
さらに本発明では、剛性が高く樹脂の変化が起きにくく、磨耗が生じにくく、耐久性に優れる高温下で荷重がかかる状態で使用することが出来るオイル保持層を有するオイル供給部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、オイル供給面に接触するオイル被供給物に該オイル供給面からオイルを移行させるオイル保持層を有するオイル供給部材であって、
オイル保持層は、表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を含み、
多孔質樹脂膜は、下記数式(1)で示される弾性率Sが、500〜5000MPaの範囲であることを特徴とするオイル供給部材である。
【数1】

(但し、Sは弾性率であり、Smは多孔質樹脂膜の引張初期弾性率であり、Dは多孔質樹脂膜の空孔率である。)
【0011】
本発明において、オイル保持層は上記多孔質樹脂膜単独でも用いることが出来、又は上記多孔質樹脂膜と本発明の多孔質樹脂膜以外の多孔質フッ素樹脂やノメックス(商品名)フェルトなどの多孔質素材と組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明のオイル供給部材の好ましい態様を以下に示す。
1)多孔質樹脂膜は、
空孔率が15〜80%であり、膜厚が5〜300μmであり、表面の平均孔径が0.01〜5μmで最大孔径が10μm以下であり、中央部の平均孔径が0.01〜5μmであること。
2)多孔質樹脂膜が、240℃以上のガラス転移温度を有すること。
3)多孔質樹脂膜が、多孔質ポリイミド膜であること。
4)多孔質樹脂膜が、
テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重合して得られたポリイミド前駆体溶液をフィルム状に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、複層化されたポリイミド前駆体流延物を、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させることでポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを、熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を施されることにより得られた多孔質ポリイミド膜であること。
5)多孔質樹脂膜が、
(i)ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
ジアミン成分とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であるか、
(ii)テトラカルボン酸成分と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であるか、
或いは、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であること。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオイル供給部材は、弾性率が優れるオイル保持層を使用するために、剛性が高く樹脂の変化が起きにくく、磨耗が生じにくく、耐久性に優れるオイル供給部材を提供することができる。
さらに本発明のオイル供給部材は、ガラス転移温度が高いオイル保持層を用いることにより、高温下で荷重がかかる状態で使用することが出来るオイル供給部材を提供することができる。
また本発明のオイル供給部材は、オイル保持層として溶媒置換速度調整層を介して凝固、イミド化して得られるガラス転移温度が高く、かつ弾性率に優れるポリイミド多孔質膜を用いることにより、耐用性、耐熱性、磨耗が生じにくく、高温下で荷重のかかった状態で、オイルの制御された均一な塗布が長期間必要な部位に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のオイル供給部材は、オイル供給部材のオイル供給面に接触するオイル被供給物に該オイル供給面からオイルを移行させる目的で使用することが出来、供給オイルの量はオイル保持層により制御され、オイル被供給物へのオイル供給方法としては、塗布などをあげることが出来る。
【0015】
本発明のオイル供給部材は、
1)オイル被塗布物とオイル保持層とが直接接触しても良く、又はオイル被塗布物とオイル保持層との間に表面層などを介しても良い。
【0016】
本発明のオイル供給部材は、オイルを含むオイル保持層のみで構成されていてもよく、また、オイル保持層にオイルを供給するオイル含浸されたオイル供給層、さらに必要ならば、さらにオイル保持層の表層側に表面層が形成されていても良い。
【0017】
本発明のオイル供給部材の形状は、ロール状、ブロック状、シート状、ベルト状、板状などの各種の形状で用いることができる。
【0018】
オイル被塗布物としては、本発明のオイル供給部材と直接又は間接的に接触してオイルが塗布されるものであればどのようなものでも用いることができ、例えばロール状部材、平面状部材、棒状部材、球状部材、円盤状部材、ベルト状部材などを挙げることが出来る。
【0019】
本発明のオイル供給部材の説明のため、以下に図面を用いて現状で好ましい使用態様の一例を示す。ここで、本発明は示したそのままの構成や装備に限定されるものではない。
【0020】
本発明のオイル供給部材の1つの態様である模式的な横断面の図を図1〜図4に示す。
図1には、ロール状のオイル供給部材であり、オイル供給部材1は、外側よりオイル保持層2、回転軸4の順に構成されている。
図2には、ロール状のオイル供給部材であり、オイル供給部材1は、外側よりオイル保持層2、多孔質材などのオイル供給層3、回転軸4の順に構成されている。
図3には、ロール状のオイル供給部材であり、オイル供給部材11は、外側より表面層5、オイル保持層2、多孔質材などのオイル供給層3、回転軸4の順に構成されている。
図4には、シート状のオイル供給部材であり、オイル供給部材21は、シート状のオイル保持層22、シート状の多孔質材などのオイル供給層23の順に構成されている。
【0021】
オイル供給層は、オイル保持層と直接又は間接的に接触してオイルをオイル保持層に供給することができるものであればよく、例えば高空孔率で、オイル保持力に優れ、適度にオイル保持層にオイルの移動が容易であるもの、例えば多孔質材を用いることができ、さらに供給するオイルに対して濡れ性に優れているものを用いることが好ましい。
【0022】
オイル供給層としての多孔質材は、樹脂、エラストマー、セラミックス或いは金属などの多孔質体を用いることが出来、例えば、メラミン、ポリイミド、フェノール、ビスマレイミドトリアジン樹脂などの熱硬化性樹脂多孔質発泡体、不織布などの熱硬化性樹脂多孔質体、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどの多孔質発泡体、不織布などの熱可塑性樹脂多孔質体、ステンレスなどの金属多孔質体などの耐熱性を有する多孔質体を用いることが出来る。
【0023】
回転軸は、ロール状のオイル供給部材を回転させる軸であり、公知の金属や樹脂製を用いることが出来る。耐熱環境下では耐熱性に優れる素材を選定して用いることが好ましい。
【0024】
オイル被塗布物に塗布するオイルとしては、公知のオイルを用いることが出来、オイル保持層を介してオイル被塗布物の表面等にオイルが移行し、オイル被塗布物にオイルが塗布できれば良く、用いる用途により、液状オイル、ゲル状オイル、或いは固形状オイル、又はこれらの混合物など、オイルの粘度、オイルの種類などを適宜選択すればよい。オイルとしては、ジエステル系、シリコーン系、ポリアルキレングリコール系、フッ素系などのオイルを上げることが出来る。また、粘度として、通常25℃で100〜300,000cSt、好ましくは5000〜30,000cStである。
【0025】
オイル保持層は、表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を含み、
該多孔質樹脂膜は、
下記数式(1)で示される弾性率Sが、500〜5000の範囲、好ましくは1000〜5000の範囲、さらに好ましくは1200〜4000の範囲であり、前記の下限値より低くなると荷重のかかる状態で磨耗、変形しやすいことから好ましくなく、前記の上限値より高くなるとオイル被塗布材を傷つけるなどして好ましくない。
【0026】
【数2】

(但し、Sは弾性率であり、Smは多孔質樹脂膜の引張初期弾性率であり、Dは多孔質樹脂膜の空孔率である。)
【0027】
オイル保持層において、用いる多孔質樹脂膜は以下の特性を有することが好ましい。
1)表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜であることが、長時間、均一なオイルの塗布のために好ましい。
2)多孔質樹脂膜のガラス転移温度が240℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは255℃以上、さらに好ましくは260℃以上、特に好ましくは265℃以上であることが、高温時の荷重がかかる状態での耐磨耗、耐変形性のために好ましい。
【0028】
オイル保持層において、用いる多孔質樹脂膜は以下の特性を有することが好ましい。
3)空孔率が好ましくは15〜80%、さらに好ましくは20〜70%、特に好ましくは30〜60%であること。
4)膜厚が好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは15〜150μm、特に好ましくは20〜100μmであること。
5)表面の平均孔径が好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜3μm、特に好ましくは0.02〜2μmであること。
6)最大孔径が好ましくは10μm以下、さらに好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.1〜3μmであること。
7)中央部の平均孔径が好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜3μm、特に好ましくは0.01〜1μmであること。
8)少なくとも片側の表面の空孔面積Afと全表面積Aaから、Af/Aaで計算される空孔面積率Aが、0.01〜0.95の範囲、好ましくは0.05〜0.90の範囲、より好ましくは0.10〜0.80の範囲、さらに好ましくは0.20〜0.70の範囲、特に好ましくは0.30〜0.60の範囲であることがオイル塗布量を制御して塗布するためと、磨耗、変形しにくくなることから好ましい。この範囲から小さいとオイルの塗布が少なくなったり、出来なくなることから好ましくなく、一方、この範囲より大きいとオイルが出すぎたり、磨耗、変形が生じやすくなり好ましくない。両表面とも同じ程度の空孔面積率でも良いが、片側の表面の空孔面積率が、他方の表面の空孔面積率より小さくても良い。なお、両側の空孔面積率が異なる場合、オイル被塗布物側が、空孔面積率の小さい方となるように用いることが、オイル塗布量の制御の面から好ましいことが多いが、必要となる塗布量によっては、空孔面積率の大きい側の表面がオイル被塗布物側に用いられてもよい。
【0029】
オイル保持層に用いる多孔質樹脂膜は、ポリアミド(例えばアラミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルフェニレン、ポリフェニレンスルフィドなどの、
(i)上記数式(1)で示される弾性率Sが、500〜5000の範囲である熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂などの樹脂、
(ii)ガラス転移温度が240℃以上の熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂などの樹脂、
或いは
(iii)上記数式(1)で示される弾性率Sが、500〜5000の範囲であり、かつガラス転移温度が240℃以上の熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂などの樹脂などを挙げることができる。
オイル保持層に用いる多孔質樹脂膜は、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂などの樹脂で一部が架橋されている樹脂、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含む樹脂を挙げることが出来る。
【0030】
オイル保持層に用いる多孔質樹脂膜は、公知のどのような方法で製法してもよい。多孔質樹脂膜として多孔質ポリイミド膜、多孔質ポリスルホン膜、多孔質ポリアミド膜などを用いる場合には、公知の方法、例えば樹脂を良溶媒に溶解させた溶液を流延法などの方法で形成し、その後貧溶媒による凝固による方法、さらに必要により凝固の後樹脂膜より一部の樹脂成分などを抽出する方法、樹脂より一部の樹脂成分などを抽出する方法などで製造したものを挙げることが出来る。
多孔質樹脂膜として多孔質ポリイミド膜、例えば、ポリアミック酸などのポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液を凝固溶媒に浸漬して凝固させる方法など、公知の方法で製造することが出来る。
【0031】
多孔質ポリイミド膜の製法の一例を挙げると、
1)テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを溶液中で重合してポリアミック酸などのポリイミド前駆体溶液を製造し、
2)ポリイミド前駆体溶液を支持体上にフィルム状に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、複層化されたポリイミド前駆体流延物は、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させて、ポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを製造し、
3)多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムをさらに熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミド膜を得ることができる。
【0032】
上記の方法で製造される多孔質ポリイミド膜は、
表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、両表面間に非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質ポリイミドであり、さらに任意の表面から細孔が通路状に他の表面まで連続したいわゆる開放孔であり、膜中に独立した密閉セルが殆どなく又は全くなく、隣接する細孔間が壁状構造になっているものである。このような構造を有していることから、本発明のオイル保持層に好適に用いることが出来る。
【0033】
特に上記のポリアミック酸などのポリイミド前駆体溶液を用いる方法で製造される多孔質ポリイミド膜は、
細孔が膜内から延びて表面に達して形成した開放孔以外の部分が平滑面であり、オイル被塗布物に直接接触する場合には、オイル被塗布物との接触界面が平滑面により面接触になるために、耐久性に優れる。
【0034】
本発明に用いられる多孔質ポリイミド膜の製造において、原料であるテトラカルボン酸成分としては公知のテトラカルボン酸ニ無水物、これらのエステル化物、加水分解物などを用いることできる。
【0035】
テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるテトラカルボン酸二無水物は、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0036】
特にビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含む芳香族テトラカルボン酸成分が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸ニ無水物を用いることが出来る。
【0037】
本発明で用いられる多孔質ポリイミド膜の製造において、原料であるジアミン成分としては公知のジアミン成分を用いることできる。
【0038】
ジアミンの具体例として、
1)1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのジアミン、
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン、
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン、
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン、
などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
特に、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物が好ましい。
【0039】
多孔質樹脂膜が、
(i)ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
ジアミン成分とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜、
(ii)
テトラカルボン酸成分と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜、
或いは、
(iii)
ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜を用いることにより、蒸気数式(1)で示される弾性率Sが高く、耐熱性に優れるポリイミド多孔質膜がえられるために好ましい。
【0040】
ポリイミド前駆体とは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分、好ましくは芳香族モノマ−を重合して得られたポリアミック酸或いはその部分的にイミド化したものであり、熱イミド化あるいは化学イミド化することで閉環してポリイミド樹脂とすることができるものである。ポリイミド樹脂とは、後述のイミド化率が約80%以上、好適には約95%以上の耐熱性ポリマ−である。
【0041】
ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、パラクロロフェノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0042】
ポリイミド前駆体について、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分は、上記の有機溶媒中に大略等モル溶解し重合して、対数粘度(30℃、濃度;0.5g/100mL NMP)が0.3以上、特に0.5〜7であるポリイミド前駆体が製造される。また、重合を約80℃以上の温度で行った場合に、部分的に閉環してイミド化したポリイミド前駆体が製造される。
【0043】
ポリイミドは、公知の方法で合成することができ、ランダム重合、ブロック重合、或いはあらかじめ複数のポリイミド前駆体溶液或いはポリイミド溶液を合成しておき、その複数の溶液を混合後反応条件下で混合して均一溶液とする、いずれの方法によっても達成される。
【0044】
多孔質ポリイミドの製法の一例を示すと、
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、有機溶媒中、約100℃以下、さらに80℃以下、さらに0〜60℃の温度で、特に20〜60℃の温度で、約0.2〜60時間反応させてポリアミック酸の溶液を製造し、このポリアミック酸溶液をドープ液として使用し、
1)そのドープ液より流延物を形成し、必要に応じて流延物の表面を気体や蒸気と接触させ、その流延物を直接凝固溶媒と接触させて、ポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを製造し、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムをさらに熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造する方法、
或いは、
2)そのドープ液より流延物を形成し、その流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、複層化されたポリイミド前駆体流延物は、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させて、ポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを製造し、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムをさらに熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を行いイミド化して、多孔質ポリイミドを製造する方法、
などを挙げることが出来る。
【0045】
多孔質ポリイミド膜の製法の別の一例を示すと、
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、有機溶媒中で反応させてポリイミド溶液を製造し、このポリイミド溶液をドープ液として使用し、
1)そのドープ液より流延物を形成し、必要に応じて流延物の表面を気体や蒸気と接触させ、その流延物を直接凝固溶媒と接触させて、ポリイミドの析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミドフィルムを製造し、必要に応じて多孔質化されたポリイミドフィルムをさらに加熱して、多孔質ポリイミドを製造する方法、
或いは、
2)そのドープ液より流延物を形成し、その流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、複層化されたポリイミド流延物は、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させて、ポリイミドの析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミドフィルムを製造し、必要に応じて多孔質化されたポリイミドフィルムをさらに加熱して、多孔質ポリイミドを製造する方法、
などを挙げることが出来る。
【0046】
多孔質樹脂膜が、
ポリイミド前駆体を、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重合して得て、そのポリイミド前駆体溶液をフィルム状に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、得られた複層化されたポリイミド前駆体流延物を、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させることでポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを、熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を施されて得られる多孔質ポリイミド膜を用いることにより、表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を容易に製造することが出来る。
【0047】
ポリイミド前駆体は、有機溶媒に0.3〜60質量%、好ましくは1%〜30質量%の割合で溶解してポリイミド前駆体溶液に調製される(有機溶媒を加えてもよくあるいは重合溶液をそのまま用いても良い)。ポリイミド前駆体の割合が0.3質量%より小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、60質量%より大きいと多孔質膜のイオン透過性が低下するため、上記範囲の割合が好適である。また、調製されたポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は10〜10000ポイズ、好ましくは40〜3000ポイズである。溶液粘度が10ポイズより小さいと多孔質膜を作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、10000ポイズより大きいとフィルム状に流延することが困難となるので、上記範囲が好適である。
【0048】
ポリイミド前駆体溶液は、フィルム状に流延して流延物とした後、少なくとも片面に溶媒置換速度調整材を配した積層フィルムとされる。ポリイミド前駆体溶液の流延積層フィルムを得る方法としては特に制限はないが、該ポリイミド前駆体溶液を基台となるガラス等の板上或いは可動式のベルト上に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆う方法、該ポリイミド前駆体溶液をスプレー法あるいはドクターブレード法を用いて溶媒置換速度調整層上に薄くコーティングする方法、該ポリイミド前駆体溶液をTダイから押出して溶媒置換速度調整層間に挟み込み、両面に溶媒置換速度調整層を配した3層積層フィルムを得る方法などの手法を用いることができる。
【0049】
溶媒置換速度調整層としては、前記多層フィルムを凝固溶媒と接触させてポリイミド前駆体を析出させる際に、ポリイミド前駆体の溶媒及び凝固溶媒が適切な速度で透過する事が出来る程度の透過性を有するものが好ましく、液状、ゲル状、固体状などを用いることが出来る。
【0050】
特に溶媒置換速度調整層は、透気度が50〜1000秒/100cc、特に250〜800秒/100ccである微多孔質膜が好ましい。
【0051】
溶媒置換速度調整層の厚みは、凝固溶媒と接触させてポリイミド前駆体を析出させる際に、ポリイミド前駆体の溶媒及び凝固溶媒が適切な速度で透過する事が出来る程度の透過性を有する厚みであれば良く、微多孔質膜を用いる場合には、5〜500μm、好ましくは10〜100μmであり、フィルム断面方向に貫通した0.01〜10μm、好ましくは0.03〜1μmの孔が十分な密度で分散しているものが好適であり、膜厚が上記範囲より小さいと溶媒置換速度が速すぎる為に析出したポリイミド前駆体表面に緻密層が形成されるだけでなく凝固溶媒と接触させる際にシワが発生する場合があるので適当でなく、上記範囲より大きいと溶媒置換速度が遅くなる為にポリイミド前駆体内部に形成される孔構造が不均一となる。
【0052】
溶媒置換速度調整層としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロース、テフロン(商品名)などを材料とした不織布或いは多孔膜などが用いられ、特にポリオレフィン製の微多孔質膜を用いた際に、製造されたポリイミド多孔質フィルム表面の平滑性に優れるので好適である。
【0053】
溶媒置換速度調整層とポリイミド前駆体流延物とで複層化されたポリイミド前駆体流延物は、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させることでポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行う。ポリイミド前駆体の凝固溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコ−ル類、アセトン、水等のポリイミド前駆体の非溶媒またはこれら非溶媒99.9〜50質量%と前記ポリイミド前駆体の溶媒0.1〜50質量%とのの混合溶媒を用いることができる。非溶媒及び溶媒の組合わせには特に制限はないが、凝固溶媒に非溶媒と溶媒からなる混合溶媒を用いた場合に析出したポリイミド前駆体の多孔質構造が均一となるので好適である。特に、凝固溶媒として、ポリイミド前駆体の溶媒0.1〜60質量%と非溶媒99.9〜40質量%とからなる混合溶媒を用いることが好ましい。
【0054】
多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムは、ついで熱イミド化処理或いは化学イミド化処理が施される。ポリイミド前駆体フィルムの熱イミド化は、溶媒置換速度調整層を取除いたポリイミド前駆体多孔質フィルムをピン、チャック或いはピンチロ−ル等を用いて熱収縮が生じないように固定し、大気中にて加熱してイミド化を行える条件であればよく、例えば280〜500℃で5〜60分間行うことが好ましい。
【0055】
ポリイミド前駆体多孔質フィルムの化学イミド化処理は、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを触媒として行われる。また、特開平4−339835のように、イミダール、ベンズイミダゾール、もしくはそれらの置換誘導体を用いても良い。
【0056】
ポリイミド前駆体多孔質フィルムの化学イミド化処理は、ポリイミド多孔質フィルムを複層構成で製造する場合に好適に用いられる。複層ポリイミド多孔質フィルムは、例えば溶媒置換速度調整材として用いるポリオレフィン微多孔膜表面をポリイミド多孔質層との界面接着性を改良するためにプラズマ、電子線或いは化学処理した後、ポリイミド前駆体溶液流延物と複層化し、凝固溶媒との接触によってポリイミド前駆体溶液流延物を析出、多孔質化し、得られた前駆体多孔質フィルムを複層化する。最後に化学イミド化処理を行うことで複層ポリイミド多孔質フィルムを製造することができる。複層ポリイミド多孔質フィルムの化学イミド化処理は、積層する溶媒置換速度調整層の融点或いは耐熱温度以下の温度範囲で行われることが好ましい。
【0057】
多孔質ポリイミドは、ポリイミド前駆体溶液或いはポリイミド溶液を介して製造する場合、用いるポリマーの種類、ポリマー溶液のポリマー濃度、粘度、有機溶液など、凝固条件(溶媒置換速度調整層の種類、温度、凝固溶媒など)などを適宜選択することにより、
空孔率、膜厚、表面の平均孔径、最大孔径、中央部の平均孔径などを適宜選択することができる。
【0058】
多孔質ポリイミドの少なくとも片面は、コロナ放電処理、低温プラズマ放電処理あるいは常圧プラズマ放電処理、化学エッチングなどによる表面処理を行うことが出来る。
【0059】
オイル供給部材の用途としては、複写機、プリンター、ファクシミリ等に配置されている画像定着装置、センサーカバー、オイルリテーナー、様々な軸受けやベアリングに使用される摺動材、各種機械や建築物等の滑り支承、ベアリング、軸受け等を挙げることが出来る。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(多孔質樹脂膜の評価)
1)表面の平均孔径:多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から式(1)に従って孔形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めた。式(1)のSaは孔面積の平均値を意味する。
【0062】
【数3】

【0063】
2)表面の最大孔径:多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積から孔形状が真円であるとした際の直径を計算し、その最大値を最大孔径とする。
3)中央部の平均孔径: ASTM・E−1294,ASTM・F−136,ASTM・F−778に準拠して、多孔質材料自動細孔測定システムPMIパームポロメーター CF−200AE(Porous Materials,Inc.製)を用いて得られる平均細孔流量径を平均孔径とする。
4)空孔率:所定の大きさに切取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から空孔率を次の式(2)によって求める。式(2)のSは多孔質フィルムの面積、dは膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度を意味し、ポリイミドの密度は1.34g/cmとする。
【0064】
【数4】

【0065】
5)ガラス転移温度(℃)の評価法:固体粘弾性アナライザーを用いて、引張モード、周波数10Hz、ひずみ2%、窒素ガス雰囲気、の条件で動的粘弾性測定を行い、その温度分散プロファイルにおいて損失正接が極大値を示す温度をガラス転移温度とする。
6)多孔質樹脂膜の引張初期弾性率の評価法:温度23℃、相対湿度50%の環境下でASTM・D−882に準拠する引張試験を行い、20点以上の平均値を算出する。
【0066】
(実施例1)
テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(s−BPDA)を、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DADEを略す)を用い、s−BPDAに対するDADEのモル比が0.995で且つ該モノマ−成分の合計質量が10質量%になるようにNMPに溶解し、温度40℃、15時間重合を行ってポリイミド前駆体を得た。ポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は580ポイズであった。
【0067】
得られたポリイミド前駆体溶液を、ガラス板上に膜厚みが約200μmになるように流延し、溶媒置換速度調整層として透気度450秒/100ccのポリオレフィン微多孔膜(宇部興産株式会社製)でシワの生じないように表面を覆い、ガラス板上にポリイミド前駆体溶液層、ポリオレフィン微多孔膜の順に積層した積層物を製造した。この積層物をメタノール中に10分間浸漬し、溶媒置換速度調整層であるポリオレフィン微多孔膜を介して溶媒置換を行うことで、ポリイミド前駆体を凝固させて多孔質化したポリイミド前駆体膜を得た。
【0068】
ポリイミド前駆体溶液層を多孔質化して得られる積層物を水中に15分間浸漬した後、積層物からポリオレフィン微多孔膜とガラス板とを剥がしてポリイミド前駆体多孔質膜を得た。さらにポリイミド前駆体多孔質膜の端部をピンテンターで固定し、固定した状態で、大気中にて320℃で10分間熱処理を行って多孔質ポリイミド膜を得た。
【0069】
得られた多孔質ポリイミド膜の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、多孔質ポリイミド膜の断面及び表面を走査型電子顕微鏡写真を撮影し、得られた断面及び表面のSEM写真を目視で観察したところ、多孔質ポリイミド膜の表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質ポリイミド膜であり、閉塞したセルが全く観察されなかった。
得られた多孔質ポリイミド膜の表面及び断面の走査型電子顕微鏡(SEM)によるSEM写真(図示していない)は、下記に示す図5及び図6と同様の構造であった。
多孔質ポリイミド膜は、厚みが50μm、表面の平均孔径は平均0.3μm、表面の最大孔径は2μm以下であり、中央部の平均孔径は平均0.20μmであり、空孔率は60%であった。
この多孔質ポリイミド膜の引張初期弾性率Smは1200MPaであり、弾性率Sは、数式(1)を用いて算出した。多孔質ポリイミド膜のガラス転移温度は280℃である。
得られた多孔質ポリイミド膜にシリコーンオイル(信越シリコーン社製、KF−9651000CS)を含浸させ、多孔質ポリイミド膜からなるオイル保持層を作成した。
4mmφ、長さが30cmのステンレス円筒の両端に回転軸が配置されたステンレス軸棒にオイル供給層としてアラミド不織布(日本バイリーン社製 XL−1030 厚み400μm)を2周巻きつけ、シリコーンオイルを含浸させた。これに前述のオイル保持層をオイル保持層の端部を2mm重ねて、その部分を接着剤で接着することで、ステンレス棒の外周にオイル供給層がありその外周にポリイミド多孔質膜からなるオイル保持層を配置した外径6mmφのオイル供給部材を作製した。オイル供給部材を50μm厚みのポリイミドフィルム(商品名:ユーピレックス−S、宇部興産社製)上で、温度160℃、速度0.3m/秒で、100gfの荷重をかけて、回転させた。その後、走査型電子顕微鏡でオイル供給部材のポリイミド多孔質膜の表面を観察したが、特にオイル供給部材の表面のポリイミド多孔質膜の表面構造に変化は認められなかった。
【0070】
(比較例1)
多孔質テトラフルオロエチレン膜(住友電工社製、商品名ポアフロン・品番:FP−100−100−100)をオイル保持層に用いた以外は、実施例1と同様にオイル供給部材を作成した。実施例1と同様の試験を行い、実施例1と同様の多孔質膜の表面観察を行ったところ、オイル供給部材の多孔質テトラフルオロエチレン膜の表面の孔がつぶれているのが観察できた。
【0071】
実施例1とほぼ同様の方法で得られた多孔質ポリイミド膜の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、多孔質ポリイミド膜の断面及び表面を走査型電子顕微鏡写真を撮影し、多孔質ポリイミド膜の断面(図5)及び表面(図6)として示す。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のオイル供給部材の1つの態様である模式的な横断面の図である。
【図2】本発明のオイル供給部材の1つの態様である模式的な横断面の図である。
【図3】本発明のオイル供給部材の1つの態様である模式的な横断面の図である。
【図4】本発明のオイル供給部材の1つの態様である模式的な横断面の図である。
【図5】走査型電子顕微鏡によるポリイミド多孔質膜の一例の断面写真である。
【図6】走査型電子顕微鏡によるポリイミド多孔質膜の一例の表面写真である。
【符号の説明】
【0073】
1,11,21:オイル供給部材、
2,22:オイル保持層、
3,23:オイル供給層、
4:回転軸、
5:表面層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル供給面に接触するオイル被供給物に該オイル供給面からオイルを移行させるオイル保持層を有するオイル供給部材であって、
オイル保持層は、表面に多数の孔を有し、開放孔以外の表面が平滑であり、両表面に緻密な層がなく、非直線性の連続孔を有する多孔質構造を持つ多孔質樹脂膜を含み、
多孔質樹脂膜は、下記数式(1)で示される弾性率Sが、500〜5000MPaの範囲であることを特徴とするオイル供給部材。
【数1】

(但し、Sは弾性率であり、Smは多孔質樹脂膜の引張初期弾性率であり、Dは多孔質樹脂膜の空孔率である。)
【請求項2】
オイル保持層の多孔質樹脂膜は、ガラス転移温度が240℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のオイル供給部材。
【請求項3】
多孔質樹脂膜は、
空孔率が15〜80%であり、膜厚が5〜300μmであり、表面の平均孔径が0.01〜5μmで最大孔径が10μm以下であり、中央部の平均孔径が0.01〜5μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオイル供給部材。
【請求項4】
多孔質樹脂膜が、多孔質ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のオイル供給部材。
【請求項5】
多孔質樹脂膜が、
ポリイミド前駆体を、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重合して得て、そのポリイミド前駆体溶液をフィルム状に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整層で覆い、得られた複層化されたポリイミド前駆体流延物を、溶媒置換速度調整層を介して凝固溶媒と接触させることでポリイミド前駆体の析出、多孔質化を行い、多孔質化されたポリイミド前駆体フィルムを、熱イミド化処理或いは化学イミド化処理を施されて得られる多孔質ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオイル供給部材。
【請求項6】
多孔質樹脂膜が、
ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
ジアミン成分とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のオイル供給部材。
【請求項7】
多孔質樹脂膜が、
テトラカルボン酸成分と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のオイル供給部材。
【請求項8】
多孔質樹脂膜が、
ビフェニルテトラカルボン酸成分及びピロメリット酸成分から選ばれる成分を含むテトラカルボン酸成分と、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから選ばれる芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン化合物とから得られる芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のオイル供給部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162297(P2009−162297A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−414(P2008−414)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】