説明

カドミウム溶出抑制剤およびカドミウム溶出抑制方法

【課題】 安価にかつ効果的に、しかも有害物質を生成させずに、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを持続的に抑制する。
【解決手段】 カドミウム溶出抑制方法は、農耕地土壌などのカドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するための方法であり、カドミウム含有物と酸化鉄とを接触させる工程を含んでいる。この抑制方法では、通常、カドミウム含有物と酸化鉄とを接触させた後に、アルカリ土類金属化合物を用いてカドミウム含有物のpHを6.5以上に調整するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム溶出抑制剤およびカドミウム溶出抑制方法、特に、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するための抑制剤および抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
田畑の土壌に含まれるカドミウムは、根を通じて農作物に吸収されるため、農作物のカドミウム汚染を引き起こす。例えば、水稲栽培において、水田土壌に含まれるカドミウムは、水田土壌が湛水のため還元状態である場合は主に硫化カドミウムとして存在し、湛水に不溶であって溶出しにくいが、稲の収穫前の落水により土壌表面が酸化状態になると、硫酸カドミウムに変換され、また、土壌が酸性を呈するようになるため、土壌中に含まれる水分中へ溶出する。そして、水分中へ溶出したカドミウムは、根から吸収されて玄米中に取り込まれ、玄米を汚染する。そこで、食の安全等を確保するため、食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」は、玄米がカドミウムを1mg/kg以上含んではならないことを定め、汚染された玄米の流通を規制している。したがって、カドミウム濃度が1mg/kg以上の玄米は、販売や加工が禁止され、焼却処分される。さらに、農林水産省では、カドミウム濃度が0.4mg/kg以上1mg/kg未満の玄米を農家から買い上げ、工業用糊として処理している。
【0003】
このため、農用地土壌から農作物へのカドミウム吸収抑制技術の研究が進められている。農作物へのカドミウム吸収抑制技術として、例えば、非特許文献1は、農耕地土壌に対して水酸化カルシウム(消石灰)を散布する方法を開示している。また、特許文献1は、軽量気泡コンクリート粉末(ALC粉末)と炭酸カルシウムとの混合物を土壌に施用する方法を開示している。さらに、特許文献2は、土壌に対してアパタイト化合物を添加する方法を開示している。さらに、特許文献3は、土壌に硫化鉄を添加し、水分の存在下で混合処理する方法を開示している。
【0004】
非特許文献1に記載の方法は、消石灰による土壌の酸性化抑制作用のために硫酸カドミウムが生成しにくくなり、土壌水分中へのカドミウムの溶出を抑制することができるが、消石灰自体が水溶性であるため土壌水分や灌水中へ溶出して土壌から流出しやすく、カドミウムの溶出抑制効果が持続しにくい。また、特許文献1および2に記載の方法は、ALC粉末やアパタイト化合物という、特殊で高価な材料を用いているため、大面積の田畑に対して適用すると農作物の高コスト化を招き、実用性を欠く。さらに、特許文献3に記載の方法は、硫化水素が発生し、これが農作物に対して悪影響を与える可能性がある。例えば、水稲栽培においては、硫化水素により根腐れが生じ、秋落ちが起こる可能性がある。また、硫化鉄に由来の硫黄が酸化されて硫酸イオンが生成し、これが土壌を酸性化して稲の収穫に悪影響を与える可能性もある。
【0005】
【非特許文献1】農林水産省;農業環境技術研究所「水稲のカドミウム吸収抑制のための対策技術マニュアル」(平成14年11月)
【特許文献1】特許第3218991号公報
【特許文献2】特開2004−51762号公報
【特許文献3】特開2004−74051号公報
【0006】
本発明の目的は、安価にかつ効果的に、しかも有害物質を生成させずに、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを持続的に抑制することにある。
本発明の他の目的は、安価にかつ効果的に、しかも収穫に悪影響を与えずに、農作物のカドミウム含有量を低減させることにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のカドミウム溶出抑制剤は、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するためのものであり、酸化鉄を含んでいる。このカドミウム溶出抑制剤は、例えば、アルカリ土類金属化合物をさらに含んでいる。
【0008】
本発明のカドミウム溶出抑制方法は、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するための方法であり、カドミウム含有物と酸化鉄とを接触させる工程を含んでいる。また、この方法は、例えば、カドミウム含有物と酸化鉄とを接触させた後に、カドミウム含有物のpHを6.5以上に調整する工程をさらに含んでいる。この場合は、例えば、アルカリ土類金属化合物を用いてカドミウム含有物のpHを6.5以上に調整する。
【0009】
本発明のカドミウム溶出抑制方法を適用可能なカドミウム含有物は、例えば農耕地土壌である。
【0010】
本発明の農作物育成方法は、農耕地土壌と酸化鉄とを接触させて改質土壌を調製する工程と、改質土壌において農作物を育成する工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカドミウム溶出抑制剤は、低廉な酸化鉄を含むものであるため安価に提供することができ、また、有害物質を生成させずにかつ効果的に、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを持続的に抑制することができる。
【0012】
本発明のカドミウム溶出抑制方法は、低廉な酸化鉄を用いているため安価に実施することができ、また、有害物質を生成させずにかつ効果的に、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを持続的に抑制することができる。
【0013】
本発明の農作物育成方法は、農耕地土壌と低廉な酸化鉄とを接触させて改質土壌を調製しているため、安価にかつ効果的に、しかも収穫に悪影響を与えずに、農作物のカドミウム含有量を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のカドミウム溶出抑制剤は、酸化鉄を含んでいる。ここで利用可能な酸化鉄は、特に限定されるものではなく、FeO、Fe(三二酸化鉄)、Fe(四三酸化鉄)等、酸化鉄の概念に含まれる各種のものである。因みに、四三酸化鉄は、酸化鉄(FeO)と三二酸化鉄(Fe)との混合物であり、通常、マグネタイトと言われている。これらの酸化鉄は、二種以上のものが混合して用いられてもよい。また、酸化鉄は、水分を含むものであってもよいし、水分を実質的に含まないものであってもよい。
【0015】
三二酸化鉄および四三酸化鉄を用いる場合、これらは、硫酸法酸化チタンの製造工程において副生成物として得られる低廉なものを用いるのが好ましい。これらの酸化鉄は、硫酸法酸化チタンの製造工程において、次のようにして得られる。先ず、硫酸法酸化チタンの製造工程において得られる鉄含有硫酸を水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウム(消石灰)で中和した後に濃縮、分離処理する。そして、その際の上澄み液をろ過して得られたろ過液をさらに中和、酸化処理する。より具体的には、ろ過液に気流を通過させながら水酸化ナトリウムを加え、温度を65℃に設定しながら、pHが6.0〜6.3に、また、酸化率が75〜80%になるよう処理する。そして、このような中和、酸化処理により得られる生成物をろ過して分離した後、120℃程度で乾燥する。
【0016】
上述の硫酸法酸化チタンの製造工程において三二酸化鉄は、鉄含有硫酸を中和した段階において、Fe・nCaSO・mHOとして得られる。また、四三酸化鉄は、最終段階である120℃程度での乾燥により、FeOとFeとの比率(FeO:Fe)が10〜30:90〜70の低結晶性の四三酸化鉄として得られる。最終の乾燥工程は、窒素雰囲気下で実施するのが好ましい。このようにすると、FeOとFeとの比率が上述のように設定された、カドミウムの溶出抑制効果の高い四三酸化鉄が得られやすい。
【0017】
因みに、酸化鉄は、FeClやFeCl等の塩化鉄、FeSOやFe(SO等の硫酸鉄およびFe(NOやFe(NO等の硝酸鉄のような、水溶液中で製造されて水和物となる、結晶性を有する水溶性の鉄化合物とは異なり、低結晶性で水に溶解しにくい性状を有している。
【0018】
上述のような酸化鉄は、後述するカドミウム含有物と均一に混合しやすいことから粉末状のものが好ましいが、その粒形状は特に限定されるものではない。但し、酸化鉄は、一般に、より細粒なもの程、カドミウム含有物と混合しやすいためカドミウム含有物との接触効率が高まり、それに伴ってカドミウムの溶出をより効果的に抑制することができるが、細粒化すると高価になるため、通常は酸化鉄の現状の製造ラインを用いて製造した粉末状のものをそのまま利用することができる。因みに、酸化鉄粉末の平均粒径は、200μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0019】
酸化鉄として四三酸化鉄を用いる場合、それを粉末状にするための方法や条件は特に限定されるものではないが、通常は、四三酸化鉄が水分および酸素と反応してカドミウムの溶出抑制効果が低下するのを避けるため、四三酸化鉄を無水の不活性ガス気流下(例えば窒素気流下)において粉砕すると共に乾燥するのが好ましい。
【0020】
本発明のカドミウム溶出抑制剤は、実質的に上述の酸化鉄のみからなるものであってもよいが、アルカリ土類金属化合物をさらに含んでいてもよい。カドミウム溶出抑制剤がアルカリ土類金属化合物を含む場合、後に詳述するようにカドミウム含有物のpHを調整することができるため、カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのをより効果的に抑制することができる。
【0021】
ここで用いられるアルカリ土類金属化合物は、カドミウム含有物のpHが酸性側へ移行するのを抑制することができるものであれば特に限定されるものではないが、通常は、各種のカルシウム化合物やマグネシウム化合物を用いるのが好ましい。カルシウム化合物の具体例としては、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸カルシウム(CaSO)、ケイ酸カルシウム(CaSiO)および酸化カルシウム(CaO)を挙げることができ、また、マグネシウム化合物の具体例としては、酸化マグネシウム(MgO)および水酸化マグネシウム(Mg(OH))を挙げることができる。これらのアルカリ土類金属化合物は、それぞれ単独で用いられてもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。
【0022】
上述のようなアルカリ土類金属化合物は、カドミウム含有物や酸化鉄と均一に混合しやすいことから粉末状のものが好ましいが、その粒形状は特に限定されるものではない。但し、アルカリ土類金属化合物は、一般に、より細粒なもの程、カドミウム含有物や酸化鉄と混合しやすいためカドミウム含有物や酸化鉄との接触効率が高まり、それに伴ってカドミウムの溶出をより効果的に抑制することができるが、細粒化すると高価になるため、通常はアルカリ土類金属化合物の現状の製造ラインを用いて製造した粉末状のものをそのまま利用することができる。因みに、アルカリ土類金属化合物の平均粒径は、200μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0023】
本発明のカドミウム溶出抑制剤が上述のアルカリ土類金属化合物を含む場合、アルカリ土類金属化合物の割合は、通常、カドミウム含有物に対してカドミウム溶出抑制剤を添加して混合したときに、カドミウム含有物のpHが6.5以上になるよう設定するのが好ましく、当該pHが6.8以上になるよう設定するのがより好ましい。
【0024】
アルカリ土類金属化合物を含む本発明のカドミウム溶出抑制剤は、通常、所定量の酸化鉄に対してアルカリ土類金属化合物の所定量を添加して均一に混合すると、容易に製造することができる。
【0025】
因みに、上述のような硫酸法酸化チタンの製造工程において副生成物として得られる三二酸化鉄は、三二酸化鉄と硫酸カルシウムとの実質的な混合物(Fe・nCaSO・mHO)であるため、アルカリ土類金属化合物を含む形態のカドミウム溶出抑制剤としてそのまま利用することができる。また、この三二酸化鉄は、硫酸カルシウム若しくはそれ以外のアルカリ土類金属化合物を混合することによりアルカリ土類金属化合物含有量を調整することもできる。
【0026】
本発明のカドミウム溶出抑制剤は、その目的とする効果を損なわない範囲において、上述の酸化鉄およびアルカリ土類金属化合物の他に、ケイ素、チタンおよびアルミニウム等を含む化合物を不純物として含んでいてもよい。
【0027】
次に、本発明に係るカドミウム溶出抑制方法について説明する。この抑制方法は、カドミウム含有物に含まれるカドミウムが溶出するのを抑制するための方法である。この方法を適用可能なカドミウム含有物は、カドミウムを含む固体状のものであれば特に限定されるものではないが、水稲栽培用の水田土壌並びに大豆、小豆、トウモロコシおよび小麦等の豆類や穀類、かぼちゃ、きゅうり、トマトおよび大根等の根菜類や果菜類等を栽培するための畑土壌などの農耕地土壌、港湾の浚渫土壌、工場排水等の下水に由来の汚泥の焼却灰(汚泥焼却灰)並びに焼却施設において発生する飛灰等であり、特に元素若しくは化合物の形態で硫黄を含むものである。処理対象となるカドミウム含有物は、実質的に水分を含まないものであってもよいし、水分を含むものであってもよい。
【0028】
この抑制方法では、カドミウム含有物と上述のカドミウム溶出抑制剤とを接触させる。具体的には、カドミウム含有物に対して上述のカドミウム溶出抑制剤を添加若しくは散布し、両者を十分に混合する。この混合は、通常、スクリューコンベアーやバイブロミキサーをはじめとする各種の混合機を用いて実施することができる。また、カドミウム含有物が農耕地土壌の場合は、耕耘機を用いて農耕地土壌の表層部と散布されたカドミウム溶出抑制剤とを混合することもできる。これらの混合工程においては、カドミウム含有物とカドミウム溶出抑制剤とを均一に混合するため、必要に応じ、水を添加することができる。
【0029】
この混合工程において、カドミウム含有物に対するカドミウム溶出抑制剤の混合割合は、カドミウム含有物100重量部に対して酸化鉄換算の混合割合が0.02〜10重量部になるよう設定するのが好ましく、0.1〜2重量部になるよう設定するのがより好ましい。カドミウム含有物に対する酸化鉄換算の混合割合が0.02重量部未満の場合は、カドミウム含有物からカドミウムの溶出を効果的に抑制するのが困難になる可能性がある。逆に、カドミウム含有物に対する酸化鉄換算の混合割合が10重量部を超える場合は、溶出抑制剤の使用量の増加に比例したカドミウムの溶出抑制効果が得られず、不経済である。
【0030】
この混合工程において、カドミウム含有物に含まれるカドミウムは、酸化鉄に由来の鉄元素の存在下においてカドミウム含有物中の硫黄元素と強く結合する。これにより、カドミウム含有物は、硫黄若しくは硫黄化合物による酸性化が抑制され、結果的にpH低下によるカドミウムの溶出が抑制される。この際、混合物において、酸化鉄の影響による有害物質の生成は起こりにくい。また、酸化鉄は、既述のように水に溶解しにくいものであるため、混合物中に長期間残留しやすく、カドミウムの溶出抑制効果を長期間持続的に発揮することができる。
【0031】
この抑制方法において、カドミウム含有物とカドミウム溶出抑制剤との混合物は、pHが6.5以上になるよう調整するのが好ましい。より具体的には、混合物のpHが6.5〜8になるよう調整するのが好ましく、6.8〜8になるよう調整するのがより好ましい。混合物のpHをこのように調整すると、カドミウム含有物からのカドミウム溶出をより効果的に抑制することができる。
【0032】
ここで、カドミウム溶出抑制剤として実質的に酸化鉄のみからなるものを用いる場合は、上述の混合物に対してアルカリ土類金属化合物を別途添加することにより、混合物のpHを上記範囲に調整するのが好ましい。一方、カドミウム溶出抑制剤としてアルカリ土類金属化合物を含むものを用いる場合は、そのアルカリ土類金属化合物の作用により混合物のpHを上記範囲に調整することができるが、カドミウム溶出抑制剤中に含まれるアルカリ土類金属化合物量によりpHを上記範囲に調整するのが困難な場合は、混合物に対してアルカリ土類金属化合物をさらに追加的に添加するのが好ましい。
【0033】
また、この抑制方法においては、混合物に対し、還元剤を添加することもできる。還元剤を添加すると、カドミウム含有物中に含まれる硫化カドミウムの酸化による硫酸カドミウムの生成を抑制しやすくなるため、カドミウム含有物のpH低下(酸性化)を持続的に抑制することができ、カドミウムの溶出をより効果的に抑制することができる。
【0034】
ここで利用可能な還元剤は、上述の混合物が酸化するのを抑制することができるものであれば特に限定されるものではないが、通常、鉄粉、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムなどである。
【0035】
還元剤の使用量は、通常、上述の混合物100重量部に対して0.01〜0.5重量部に設定するのが好ましく、0.05〜0.2重量部に設定するのがより好ましい。この使用量が0.01重量部未満の場合は、還元剤を用いることによる効果が得られにくくなる。逆に、0.5重量部を超える場合は、酸化鉄が還元されてしまい、カドミウム含有物からのカドミウムの溶出抑制効果が却って発揮されにくくなる可能性がある。
【0036】
上述の抑制方法は、稲、穀類、豆類、根菜類、果菜類をはじめとする農作物の育成において適用することができる。上述の抑制方法を採用した農作物育成方法においては、先ず、農耕地土壌(すなわち、カドミウム含有物)に対して上述の抑制方法を適用し、改質土壌を調製する。そして、この改質土壌において農作物を育成する。この場合、改質土壌に含まれるカドミウムは灌水若しくは湛水中へのカドミウム溶出が持続的に抑制されるため、生育中の農作物は、根を通じてカドミウムを吸収しにくくなる。このため、この方法により育成された農作物は、通常の農耕地土壌において育成された農作物に比べてカドミウム含有量が少なく、安全性が高い。しかも、この育成方法は、改質土壌において有害物質の生成が起こりにくいため、農作物の成長不良等、農作物の収穫に悪影響を与えにくい。
【実施例】
【0037】
比較例1
カドミウム汚染土壌の一部を採取してカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度は0.06mg/リットルであった。ここで、カドミウムの溶出試験は、土壌汚染対策法施行規則(平成14年12月26日環境省令第29号)で定められた方法に基づいて実施した。因みに、この溶出試験におけるカドミウム濃度の基準値は0.01mg/リットル以下であり、上記結果は当該基準値を上回っていた。
【0038】
実施例1
比較例1のカドミウム汚染土壌100kg当りに対し、硫酸法酸化チタンの製造工程において副生成物として得られる三二酸化鉄(Fe・nCaSO・mHO)を0.1kgの割合で添加した。そして、カドミウム汚染土壌と添加した三二酸化鉄とを混合し、その6時間後にこの混合物の一部を採取してカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度は0.009mg/リットルであり、上記基準値を満たしていた。また、10日後に上記混合物の一部を採取してカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度は0.007mg/リットルであり、上記基準値を満たしていた。
【0039】
実施例2
三二酸化鉄の添加量を0.5kgに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、6時間後および10日後にカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度はそれぞれ0.007mg/リットルおよび0.004mg/リットルであり、いずれも上記基準値を満たしていた。
【0040】
実施例3
三二酸化鉄の添加量を2kgに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、6時間後および10日後にカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度はそれぞれ0.004mg/リットルおよび0.003mg/リットルであり、いずれも上記基準値を満たしていた。
【0041】
実施例4
実施例3において、三二酸化鉄を添加後のカドミウム汚染土壌(すなわち、カドミウム汚染土壌と三二酸化鉄との混合物)100kg当りに1kgの割合で消石灰をさらに添加し、カドミウム汚染土壌のpHが7以上になるよう調整した。そして、実施例1の場合と同様にして6時間後および10日後にカドミウムの溶出試験を実施したところ、溶出したカドミウム濃度はそれぞれ0.003mg/リットルおよび0.002mg/リットルであり、いずれも上記基準値を満たし、溶出量がさらに低減していた。
【0042】
比較例2
カドミウム汚染水田土壌において田植えをし、稲を栽培した。そして、その玄米を収穫してカドミウム濃度を分析したところ、0.6mg/kgであり、農林水産省による食用玄米の買取り基準値下限である0.4mg/kgを上回っていた。ここで、玄米のカドミウム濃度は、食品衛生法に基づく前記「食品、添加物等の規格基準」に基づいて分析した。
【0043】
比較例3
不定期的に消石灰を散布した点を除いて比較例2と同じカドミウム汚染水田土壌において稲を栽培したところ、玄米の収穫時における土壌のpHは6.0であり、また、玄米のカドミウム濃度は0.45mg/kgであった。
【0044】
実施例5
比較例2と同じカドミウム汚染水田土壌1m当りに対し、硫酸法酸化チタンの製造工程において副生成物として得られる三二酸化鉄(Fe・nCaSO・mHO)を0.1kgの割合で散布し、カドミウム汚染土壌の表層部と散布した三二酸化鉄とを混合して改質土壌を調整した。この改質土壌は、カドミウム汚染水田土壌100kg当たり0.03kgの三二酸化鉄を含むものである。当該改質土壌において田植えをし、稲を栽培したところ、玄米の収穫時における土壌のpHは6.3〜6.4であった。また、収穫した玄米のカドミウム濃度は、0.3mg/kgであり、農林水産省による食用玄米の買取り基準値下限である0.4mg/kg未満であった。
【0045】
実施例6
三二酸化鉄の散布量を実施例5のカドミウム汚染水田土壌1m当り0.5kgに変更した点を除き、実施例5と同様に改質土壌(カドミウム汚染水田土壌100kg当たり0.15kgの三二酸化鉄を含むもの)を調製して稲を栽培した。玄米の収穫時における土壌のpHは6.3〜6.4であった。また、収穫した玄米のカドミウム濃度は、0.12mg/kgであり、農林水産省による食用玄米の買取り基準値下限である0.4mg/kgを大きく下回っていた。
【0046】
実施例7
三二酸化鉄の散布量を実施例5のカドミウム汚染水田土壌1m当り2kgに変更した点を除き、実施例5と同様に改質土壌(カドミウム汚染水田土壌100kg当たり0.6kgの三二酸化鉄を含むもの)を調製して稲を栽培した。玄米の収穫時における土壌のpHは6.3〜6.4であった。また、収穫した玄米のカドミウム濃度は、0.05mg/kgであり、農林水産省による食用玄米の買取り基準値下限である0.4mg/kgをさらに大きく下回っていた。
【0047】
実施例8
カドミウム汚染水田土壌1m当りに1kgの消石灰をさらに散布した点を除き、実施例7と同様に改質土壌を調製して稲を栽培した。玄米の収穫時における土壌のpHは6.5であった。また、収穫した玄米のカドミウム濃度は、0.04mg/kgであり、農林水産省による食用玄米の買取り基準値下限である0.4mg/kgをさらに大きく下回っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するための抑制剤であって、
酸化鉄を含む、
カドミウム溶出抑制剤。
【請求項2】
アルカリ土類金属化合物をさらに含む、請求項1に記載のカドミウム溶出抑制剤。
【請求項3】
カドミウム含有物からカドミウムが溶出するのを抑制するための方法であって、
前記カドミウム含有物と酸化鉄とを接触させる工程を含む、
カドミウム溶出抑制方法。
【請求項4】
前記カドミウム含有物と前記酸化鉄とを接触させた後に、前記カドミウム含有物のpHを6.5以上に調整する工程をさらに含む、請求項3に記載のカドミウム溶出抑制方法。
【請求項5】
アルカリ土類金属化合物を用いて前記カドミウム含有物のpHを6.5以上に調整する、請求項4に記載のカドミウム溶出抑制方法。
【請求項6】
前記カドミウム含有物が農耕地土壌である、請求項3から5のいずれかに記載のカドミウム溶出抑制方法。
【請求項7】
農耕地土壌と酸化鉄とを接触させて改質土壌を調製する工程と、
前記改質土壌において農作物を育成する工程と、
を含む農作物育成方法。

【公開番号】特開2006−152126(P2006−152126A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344992(P2004−344992)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】