説明

カプセル内視鏡システム

【課題】カプセル内視鏡システムにおいて、撮影対象とする深度の範囲を狭くすることなくカプセルを小型化する。
【解決手段】所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に位置する被写体の光学像を、略一定の解像度、かつ軸対称な解像度で受光面21上に投影可能に構成されてなる撮像レンズ10を通して、被写体を表す光学像を受光面21上に投影する。撮像素子20が受光面21上に投影された被写体の光学像を撮像し、送信部25が撮像素子20による撮像で得られた被写体の光学像を表す画像データを示す信号Sgを外部へ送信する。送信された信号Sgはカプセル30の外部で受信され、受信された信号Sgの示す画像データに対して、画像データの表す画像の解像度を高める解像度向上処理が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル内視鏡システムに関し、詳しくは、カプセル内に収容された撮像レンズを通してカプセル外に配された被写体を撮影するカプセル内視鏡システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、被験者の消化器管等を観察するためのカプセル内視鏡システムが知られている。このカプセル内視鏡システムは、撮像レンズ、撮像素子、送信機等を収容してなるカプセルが被験者に飲み込まれて被験者の消化器管内を移動しつつこの消化器管の撮影を行い、カプセル内の送信機から送信された画像データがカプセル外に配された受信部で受信されて画像データの表す画像が表示されるものである。このカプセルは、カプセルを飲み込むときの被験者の負担を軽減するために小型であることが必須である。
【0003】
このようなカプセル内視鏡システムとして、例えば、撮像レンズ中に空間周波数変換素子である光位相マスクを配置したものが知られている(特許文献1参照)。このカプセル内視鏡システムは、光位相マスクを配置した撮像レンズを通して被写体の光学像を受光面上に非軸対称な解像度で投影することにより、解像度が全体的に低下した光学像を表す画像データを得、その後、この画像データをカプセル外へ送信して非軸対称に低下した解像度を復元する画像処理を施し、解像度を全体的に高めた光学像を表す画像データを得るものである。なお、光位相マスクは、撮像レンズを通る光束の位相を光軸に対し非対称に変化させて、投影される光学像の空間周波数特性を受光面上で略一定にするものである。
【0004】
このような、光位相マスクを通した被写体の撮影、およびその撮影で得られた画像データの示す画像の解像度を復元する手法を利用すれば、所望の解像度を有するとともに撮影対象とする深度の範囲が拡大された画像が得られる。これにより、1回の撮像で消化器管内のより広範囲に亘る部位の画像を得ることができ、被験者を診断する際の撮影回数を少なくすることができる。また、撮影回数の減少によりカプセル内に収容されている照明部等の消費電力も少なくなるので、カプセル内に搭載するバッテリーのサイズを小さくすることができ、カプセルを小型化することができる。
【0005】
なお、撮影対象とする深度の範囲は、撮像レンズを通して被写体の光学像を受光面上に投影する際の光路方向(深さ方向)における範囲であって、上記解像度を復元する画像処理によって所望の解像度を有する画像が得られる範囲である。すなわち、撮影対象深度の範囲に位置する被写体を撮影して得た画像データに対して上記解像度を復元する処理を実施することにより上記撮影対象深度の範囲に位置する被写体を所望の解像度で表す画像が得られる。
【特許文献1】特開2003−275171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カプセルを飲み込む際の被験者の負担を軽減するためにカプセル内視鏡システムのカプセルをさらに小型化したいという要請がある。
【0007】
これに対し、上記光位相マスクを配した撮像レンズを備えたカプセル内視鏡システムは、1回の撮影で消化器管内の広範囲の画像を得ることができる点では優れているが、撮像レンズ中に光位相マスクを配置するためのスペースが必要となるため、カプセルの全長が長くなりサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撮影対象深度の範囲を狭くすることなくカプセルを小型化することができるカプセル内視鏡システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカプセル内視鏡システムは、照明された被写体の光学像を投影する撮像レンズと、受光面を有し、前記撮像レンズを通して受光面上に投影された被写体の光学像を撮像する撮像素子と、撮像素子の撮像で得られた被写体の光学像を表す画像データを示す信号を外部へ送信する送信手段と、被写体の光学像を投影させるための透明窓が設けられた、撮像レンズ、撮像素子、および送信手段を収容するカプセルとを備えたカプセル内視鏡システムであって、撮像レンズが、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に位置する被写体の光学像を、略一定の解像度、かつ軸対称な解像度で受光面上に投影可能に構成されてなるものであり、送信手段により送信された信号がカプセルの外部で受信され、この受信された信号の示す画像データに対して、撮影対象深度の範囲内に位置する被写体を表す光学像の解像度を高める解像度向上処理が施されることを特徴とするものである。
【0010】
前記撮像レンズは、拡大された撮影対象深度の範囲内に位置する被写体の光学像を所定の解像度で表す画像データの生成が可能となるように、前記撮影対象深度の範囲内に位置する被写体を表す光学像を、前記拡大された深度の範囲内で略一定の軸対称な解像度、かつ前記所定の解像度よりも低い解像度で前記受光面上に投影するように構成されたものである。
【0011】
前記撮影対象深度の範囲は、近点の位置が透明窓の外側表面またはこの表面より近く、遠点の位置が透明窓の外側表面から200mm以上離れているものとすることが望ましい。
【0012】
前記撮像レンズを構成する各レンズは、レンズの光軸に対して対称な形状を有するものとすることが望ましい。
【0013】
前記撮像レンズを構成する各レンズのレンズ面それぞれは、そのレンズ面の中心部から周縁部へ滑かに形状変化するものとすることが望ましい。
【0014】
前記透明窓および撮像レンズを構成する各レンズは、均質な光学材料で形成されたものとすることが望ましい。
【0015】
前記カプセル内視鏡システムは、撮像素子から出力された信号をA/D変換するA/D変換手段をカプセル内に備え、送信手段から送信される信号の表す画像データを、A/D変換手段によりA/D変換された直後の画像データとすることが望ましい
前記カプセル内視鏡システムは、被写体を照明するための照明手段をカプセル内に備えていることが望ましい。
【0016】
前記撮像レンズは、受光面上に投影される被写体の光学像の周辺部にディストーションを生じさせるものとすることができる。
【0017】
前記カプセル内視鏡システムは、前記送信された信号を受信する受信手段と、受信した信号の示す画像データを入力し、解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とをカプセルの外部に備えたものとすることができる。
【0018】
前記カプセル内視鏡システムは、受信した信号が示す画像データを蓄積する蓄積手段と、解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とをカプセルの外部に個別に配置したものとすることができる。
【0019】
前記カプセル内視鏡システムは、送信された信号を受信する受信手段と、受信した信号の示す画像データを入力し、解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とをカプセルの外部に備え、解像度向上処理手段が、画像データの表す光学像の周辺部に生じるディストーションを、撮像レンズの持つディストーションの特性に応じて補正するものとすることができる。
【0020】
前記「撮像レンズが、光学像を略一定の解像度かつ軸対称な解像度で受光面上に投影可能」とは、撮像レンズが、撮影の対象とする撮影対象深度の範囲内のいずれの位置に配された被写体についても、この被写体を表す光学像を受光面上に投影したときに、この受光面上において略一定の解像度を持つ光学像が形成され、かつ撮像レンズの光軸と受光面とが交差する交点に対して解像度が対称となる光学像が形成されるようにすることを可能とするものであることを意味する。
【0021】
これに対して、一般的な撮像レンズは、撮影の対象とする撮影対象深度の範囲内の特定位置、すなわち、受光面と光学的に共役な位置関係にある物体側位置に位置する被写体について、この被写体を最も高い解像度で表す光学像が受光面上に形成されるようにするものであり、上記特定の位置から深度方向へ離れて位置する被写体ほど受光面上に形成される光学像の解像度が低下する。
【発明の効果】
【0022】
本発明者は上記課題に対して、撮像レンズの撮影対象深度の範囲と、この撮像レンズを通して投影される光学像の解像度と、この光学像を撮像して得られる画像の解像度を高める解像度向上処理との関係に注目し種々検討した結果、光位相マスク等の空間周波数変換素子を用いることなく、かつ撮影対象深度の範囲を狭くすることなくカプセル内視鏡システムの撮影光学系の小型化が可能であるとの知見を得、かかる知見に基づいて本発明に至ったものである。
【0023】
本発明のカプセル内視鏡システムによれば、撮像レンズを、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に位置する被写体の光学像を、略一定の解像度、かつ軸対称な解像度で受光面上に投影可能に構成されたものとしたので、送信手段により送信されカプセルの外部で受信された画像データに対して、光学像の解像度を高める解像度向上処理を施すことができ、これにより撮影対象深度の範囲を狭くすることなくカプセルを小型化することができる。
【0024】
すなわち、例えば、解像力を低下させて撮影対象深度の範囲を拡大してなる撮像レンズを用いた被写体の撮像で得られた画像データに対して、上記解像力の低下を補う解像度向上処理を施すことにより、上記受光面上に投影された光学像の解像度よりも高い解像度で被写体の広範囲に亘る領域を表す画像を得ることができる。
【0025】
したがって、光位相マスク等の空間周波数変換素子を用いることなく、所望の解像度および所望の撮影対象深度を有する画像を得ることができるので、上記空間周波数変換素子等を配置するためのスペース分だけカプセルを小型化することができる。これにより、そのカプセルを飲み込む被験者の負担を軽減することができる。
【0026】
さらに、光位相マスクを用いる方式は撮像レンズ中にこの光位相マスクを配置する際の位置決めの公差範囲が狭いので、組み立てが難しいという問題があるが、本願発明の撮像レンズは、公差範囲が広いので、光位相マスク方式より組立が容易である。さらに、従来の撮影対象深度を拡大していない撮像レンズに対しても組立が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明のカプセル内視鏡システムの実施例を説明する。図1は本発明のカプセル内視鏡システムの全体構成を示す図、図2はカプセル内視鏡システムのカプセル部を飲み込む被験者を示す図、図3はカプセル部が被験者の消化器管内に配されたときの撮影対象深度の範囲を示す図である。
【0028】
図示のカプセル内視鏡システム100は、被写体を撮影してこの被写体を表す画像データを得、その画像データを示す信号を送信するカプセル部101と、カプセル部101から送信された信号を受信してこの信号の示す画像データを再生する受信部210と、受信部210から出力された画像データを入力し蓄積する蓄積部220と、この蓄積部220から出力された画像データの解像度を向上させる解像度向上処理を施す画像処理部230と、解像度を向上させた処理済の画像データの表す画像を表示する表示部240とを備えている。
【0029】
カプセル部101は、被験者1の消化器管内を照明するための照明部5と、照明された消化器管内の壁面Hの光学像を受光面21上に投影する撮像レンズ10と、撮像レンズ10を通して受光面21上に投影された消化器管内の壁面Hの光学像を撮像する撮像素子20と、撮像素子20から出力された信号をA/D変換してデジタル信号からなる画像データを出力するA/D変換器23と、A/D変換器23から出力された直後の画像データを示す信号を外部へ送信する送信部25と、撮像レンズ10で被写体の光学像を投影するための光路中に設けられた透明窓31を有し、撮像レンズ10、撮像素子20、および送信部25を密封収容するカプセル30とを備えている。
【0030】
撮像レンズ10は、所定の拡大された撮影の対象となる深度の範囲内に存在する被写体を表す光学像を、略一定の解像度かつ軸対称な解像度で受光面21上に投影するように構成されている。
【0031】
このカプセル部101は、さらに、このカプセル部101に収容された各部に電力を供給する電源部40と、送信部25から外部へ信号を送信するためのアンテナ45と、カプセル部101に収容された各部の動作およびそれらのタイミングを制御するコントローラ50とをカプセル30内に備えている。
【0032】
また、送信部25は、A/D変換器23によりA/D変換されて出力された直後の、画像処理等の施されていない画像データを示す信号を外部に送信する。
【0033】
照明部5には、消費電力が小さく小型のLED素子を用いることができる。また、電源部40には電池を用いることができる。
【0034】
撮像レンズ10における撮影対象深度の範囲は、近点の位置がカプセル30の透明窓31の外側表面またはこの表面より近く、遠点の位置が透明窓31の外側表面から200mm以上離れている。
【0035】
また、撮像レンズ10を構成する各レンズは、レンズの光軸に対して対称な形状を有するものであり、かつ、レンズ面の中心部から周縁部へ滑かに形状変化するものである。
【0036】
また、撮像レンズ10を構成する各レンズ、および透明窓31は、均質な光学材料で形成されたものである。
【0037】
ここでは、被写体を表す光学像が透明窓31を透過して受光面21上に投影されるまでに通過する全ての光学部材は、光軸に対して対称な形状を有し、レンズ面の中心部から周縁部へ滑かに形状変化し、かつ、均質な光学材料で形成されている。
【0038】
さらに、撮像レンズ10は、受光面21上に投影される被写体の光学像の周辺部にディストーションを生じさせるものである。
【0039】
一方、画像処理部230は、受信部210が受信した信号の示す画像データを入力し、撮像レンズ10の撮影対象深度の拡大に伴って低下したこの画像データの表す光学像の解像度を高める解像度向上処理を実施する解像度向上処理部231を有している。この解像度向上処理部231は、画像データの表す光学像の周辺部に生じた上記ディストーションを、撮像レンズ10の持つディストーションの特性に応じて補正する処理も行う。
【0040】
なお、撮像レンズ10の持つディストーションの特性は、画像処理部230のレンズ特性記憶部232に記憶されている。
【0041】
受信部210によって受信され再生された画像データは、一旦、蓄積部220に蓄積され、この蓄積部220から出力された画像データが画像処理部230に入力される。上記受信部210、蓄積部220、画像処理部230、および表示部240のそれぞれは個別に配置されている。
【0042】
次に、本発明のカプセル内視鏡システム100の作用について説明する。
【0043】
カプセル部101は、被験者1に飲み込まれてこの被験者1の消化器管内に入り、食道1s、胃1i、小腸1c、および大腸1d等を通ってこの被験者1から排出される。
【0044】
カプセル部101は、被験者1の消化器管内を移動しながら、照明部5から発せられる照明光で照明された消化器管内の壁面Hを表す光学像を受光面21に投影し、この光学像を撮像素子20で撮像する。撮像素子20で撮像された消化器管内の壁面Hの光学像を表す信号は、A/D変換器23を通してデジタル化された画像データとなり出力される。
【0045】
A/D変換器23から出力された画像データは、画像処理等の加工が施されることなく送信器25に入力され、その画像データを示す信号Sgがアンテナ45を介してカプセル30の外部へ送信される。
【0046】
外部に送信された信号Sgは、受信部210で受信されこの信号Sgから画像データが再生される。受信部210で再生された画像データは蓄積部220に一旦蓄積された後に画像処理部230へ入力される。
【0047】
画像データが入力された画像処理部230に配されている解像度向上処理部231がこの画像データに対して解像度向上処理を実施する。解像度向上処理を実施する際には特性記憶部232に記憶されている撮像レンズ10のディストーションの特性データを用いてディストーションの補正も行なわれる。
【0048】
解像度向上処理部231により解像度が向上されるとともにディストーションが補正された光学像を表す処理済みの画像データは、表示部240に入力されこの表示部240が画像データの表す画像を表示する。
【0049】
ここで、図3を参照して、撮像レンズ10が、上記拡大された撮影対象深度の範囲内に存在する被写体を表す光学像を、略一定の解像度かつ軸対称な解像度で受光面21上に投影する作用について説明する。上記撮像レンズ10による被写体を表す光学像の受光面21上への投影は、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に存在する被写体の光学像を所定の解像度で表す画像データが再生可能となるように行われるものである。
【0050】
撮像レンズ10の撮影対象深度の範囲R1(図3中の高濃度で表示させた領域)の近点は、カプセル30の透明窓31の外側表面または外側表面より近い位置であり、遠点は、透明窓31の外側表面から200mm以上離れた位置である。図中の高濃度で示した範囲R1が大腸1dの壁面Hにおける撮影対象深度の範囲となる。なお、透明窓31が壁面Hに接していてもこの壁面は撮影対象深度の範囲内となるので、この透明窓31に接している壁面を表す所定の解像度を有する画像の生成が可能である。
【0051】
撮像レンズ10は、大腸1dの壁面H中の上記拡大された撮影対象深度の範囲R1に含まれる領域を表す光学像を、略一定の解像度、例えば受光面21上において1000dpi(ドット/インチ)程度の解像度でこの受光面21上に投影する。
【0052】
受光面21上に投影された撮影対象深度の範囲R1に位置する被写体を表す光学像は、必ずしも受光面21上のいずれの領域においても同じ解像度で投影される場合に限らず、軸対称な解像度、すなわち撮像レンズ10の光軸と交差する受光面21上の交点Cに関して対称に解像度が変化するように投影させたものであってもよい。
【0053】
例えば、受光面21上の交点Cを中心に輪帯状に半径方向へ解像度が高くなるように、あるいは半径方向へ解像度が低くなるように光学像を投影させるようにしてもよい。
【0054】
より具体的には、この撮像レンズ10は、上記拡大された撮影対象深度の範囲R1に含まれる被写体の光学像を、例えば受光面21上の交点Cにおいて1050dpiの解像度で投影し、受光面21上の周辺部において950dpiの解像度で投影するようにしてもよい。
【0055】
すなわち、この撮像レンズ10は、上記拡大された撮影対象深度の範囲R1内のいずれの位置に配された被写体についても、この被写体の光学像を、受光面21上の位置の違いによる解像度の差が±5%以内となるように受光面21上に投影するものである。
【0056】
このように、撮像レンズ10は、撮影の対象とする撮影対象深度の範囲内のいずれの位置に配された被写体についても、この被写体を表す光学像を、略一定の解像力で、かつ撮像レンズの光軸に対して対称性を有する解像力で受光面上に投影可能なレンズ系であり、撮影の対象とする撮影対象深度の範囲内の特定位置、すなわち、受光面と光学的に共役な位置関係にある物体側位置に被写体が位置するときに、この被写体を表す光学像を最も高い解像力で受光面上に投影し、被写体がその特定位置から深度方向へ離れるにしたがって被写体の光学像を受光面上に投影するときの解像力が低下するようなレンズ系ではない。
【0057】
このように、略一定の解像度かつ軸対称な解像度で受光面21上に投影された被写体を表す光学像は、撮像素子20によって撮像されA/D変換されてデジタル化された画像データとなる。そして、この画像データを入力した送信部25がその画像データを示す信号を外部へ送信する。
【0058】
次に、光学像を表す画像データに解像度向上処理を施して、より解像度の高い光学像を表す画像データを得る場合について説明する。
【0059】
送信部25から送信された信号は、受信部210が受信し、この受信部210により上記A/D変換されデジタル化された画像データと同じ画像データが再生される。この再生された画像データは、蓄積部220に一旦蓄積された後、画像処理部230に入力され解像度向上処理部231により解像度向上処理が施される。
【0060】
この解像度向上処理(画像復元処理)の手法については、特開2000-123168号公報、段落0002〜0016に紹介されている画像復元処理の技術や、非特許文献〔鷲沢嘉一・山下幸彦著、題名「Kernel Wiener Filter」、2003 Workshop on Information-Based Induction Sciences、(IBIS2003)、Kyoto, Japan, Nov 11 -12, 2003〕の技術等を適用することができる。
【0061】
この解像度向上処理(画像復元処理)によれば、例えば、受光面21上において1000dpi(ドット/インチ)程度の解像度で投影された上記撮影対象深度の範囲R1を表す光学像を示す画像データを用いて、受光面21上において2400dpi(ドット/インチ)に相当する解像度を有する上記撮影対象深度の範囲R1を表す光学像を示す画像データを生成することができる。
【0062】
すなわち、解像力は低いが、拡大された撮影対象深度の範囲に位置する被写体の光学像を解像度の変動幅を小さくして受光面上に投影可能な撮像レンズを用いて得られた画像データに対して解像度向上処理の手法を適用することにより、拡大された撮影対象深度の範囲に位置する被写体の光学像を高い解像力で受光面上に投影可能な撮像レンズを用いて得られる画像データと同等の画像データを生成することができる。
【0063】
なお、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に存在する被写体の光学像を、略一定の解像度、かつ軸対称な解像度で前記受光面上に投影可能に構成されてなる撮像レンズは、以下のようにして設計することもできる。
【0064】
例えば、始めに、撮影深度(被写界深度)の範囲は狭いが解像力が高い撮像レンズを設計する。その後、この撮像レンズを構成するレンズの位置あるいはレンズの形状を上記設計値からずらすことにより、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に存在する被写体の光学像を、略一定の低い解像度でかつ軸対称な解像度で受光面上に投影可能な撮像レンズを設計することも可能である。このようにして設計された撮像レンズは、解像度向上処理の手法を適用することができる光学像を投影可能なものとなる。
【0065】
すなわち、例えば、所定の解像度(2400dpi(ドット/インチ))で受光面上に光学像を投影させる性能を持ち、所定の解像度で撮影可能な撮影深度(被写界深度)の範囲が撮像レンズの被写体側のレンズ面先端を基準に近点10mm、遠点30mmに位置する撮像レンズの設計に修正を加える。これにより、撮影対象深度の範囲が撮像レンズのレンズ面先端を基準に近点5mm、遠点200mmの範囲に位置する被写体の光学像を、受光面上に500dpi(ドット/インチ)の略一定の解像度、かつ軸対称の解像度で投影する撮像レンズを設計することが可能である。
【0066】
そして、このようにして設計された撮像レンズを用いた撮影で得られた画像データに解像度向上処理を施すことにより、撮像レンズのレンズ面先端を基準に近点5mm、遠点200mmに位置する被写体の光学像であって、受光面上での解像度が2400dpi(ドット/インチ)に相当する光学像を表す画像データを得ることができる。
【0067】
上記のようなことにより、撮影対象深度が拡大されるように設計された上記撮像レンズ10は、製品の生産時に受光面21に投影される光学像のピント調整を省略できる場合がある。また、撮像レンズ10を構成する各レンズの製作公差や位置公差を拡大できる場合がある。そのため、カプセル部101の組立作業を簡略化でき、カプセル部101の製作時の歩留まりを大幅に改善でき、製造コストを削減することができる。
【0068】
例えば、撮像レンズ10は、この撮像レンズ10を構成する部品を順番にレンズ枠の中へ落とし込むだけで組み立てるようにすることも可能となる。
【0069】
このように、撮影対象深度が拡大されるように設計された撮像レンズは、組立てが容易なため、それにかかる作業の手間と時間を大幅に削減することができる。
【0070】
このように、カプセル内視鏡システムに用いられる撮像レンズは、光位相マスク等の空間周波数変換素子を、被写体の光学像を受光面上に投影する光路中に挿入することなく撮影対象深度の拡大が可能なので、光位相マスクを除いた分だけカプセル部の全長Lを短縮して小型化することができる。
【0071】
また、一般に、カプセル内視鏡システムは消化器管内での方向制御が難しく、できる限り撮影範囲を広くして、消化器管内を観察し診断する際の見落としを防止する必要がある。これに対して、上記撮影対象深度の範囲を拡大した撮像レンズと、解像度向上処理(画像復元処理)の手法とを用いて被写体を表す画像を得るカプセル内視鏡システムを使用することにより、胃や腸など細長い管状の壁面の撮影範囲を管路に沿った方向へ拡大することができるので、従来よりも撮影枚数を少なくすることができ、カプセル内視鏡システムを使用して診断を行う際の負担を軽減することができる。
【0072】
なお、本発明のカプセル内視鏡システムは、撮影対象深度の範囲が、近点は透明窓の外側表面またはこの表面より近く、遠点は透明窓の外側表面から200mm以上離れている場合に限定されるものではない。
【0073】
また、撮像レンズを構成する各レンズは、レンズの光軸に対して対称な形状を有するものとし、各レンズのレンズ面それぞれが、中心部から周縁部へ滑かに形状変化し、各レンズおよび透明窓が、均質な光学材料で形成されたものとすることが望ましいが、このような場合に限定されるものではない。
【0074】
また、本発明のカプセル内視鏡システムは、撮像素子から出力された信号をA/D変換するA/D変換手段をカプセル内に備え、送信手段から送信される画像データが、A/D変換手段によりA/D変換された直後の画像データとする場合に限るものではない。送信手段から送信される画像データは、A/D変換された直後の画像データに対して画像処理等を施したものであっても上記と同様の効果が得られる場合がある。
【0075】
撮像レンズは、受光面上に投影される被写体の光学像の周辺部にディストーションを生じさせるものに限らない。受光面上に投影される被写体の光学像の周辺部にディストーションを生じさせない場合であっても概略上記と同様の効果を得ることができる。
【0076】
受信された画像データを蓄積する蓄積手段と、解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とは、カプセルの外部に個別に配置する場合に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のカプセル内視鏡システムの全体構成を示す図
【図2】カプセル内視鏡システムのカプセル部を飲み込む被験者を示す図
【図3】カプセル部が被験者の消化器管内に配されたときの撮影対象深度の範囲を示す図
【符号の説明】
【0078】
10 撮像レンズ
20 撮像素子
21 受光面
25 送信部
30 カプセル
Sg 信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を表す光学像を投影する撮像レンズと、
受光面を有し、前記撮像レンズを通して前記受光面上に投影された前記被写体を表す光学像を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子の撮像で得られた前記被写体を表す光学像を表す画像データを外部へ送信する送信手段と、
前記被写体を表す光学像を投影させるための透明窓が設けられた、前記撮像レンズ、撮像素子、および送信手段を収容するカプセルとを備えたカプセル内視鏡システムであって、
前記撮像レンズが、所定の拡大された撮影対象深度の範囲内に位置する被写体を表す光学像を、略一定の解像度、かつ軸対称な解像度で前記受光面上に投影可能に構成されたものであり、
前記送信手段により送信された前記画像データが前記カプセルの外部で受信され、該受信された画像データに対して、前記撮影対象深度の範囲内に位置する被写体を表す光学像の解像度を高める解像度向上処理が施されることを特徴とするカプセル内視鏡システム。
【請求項2】
前記撮影対象深度の範囲が、近点は前記透明窓の外側表面または該表面より近く、遠点は前記透明窓の外側表面から200mm以上離れていることを特徴とする請求項1記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項3】
前記撮像レンズを構成する各レンズが、該レンズの光軸に対して対称な形状を有するものであることを特徴とする請求項1または2記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項4】
前記撮像レンズを構成する各レンズのレンズ面それぞれが、該レンズ面の中心部から周縁部へ滑かに形状変化するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項5】
前記透明窓および前記撮像レンズを構成する各レンズが、均質な光学材料で形成されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項6】
前記撮像素子から出力された信号をA/D変換するA/D変換手段を前記カプセル内に備え、前記送信手段から送信される画像データが、前記A/D変換手段によりA/D変換された直後のものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項7】
前記被写体を照明するための照明手段を前記カプセル内に備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項8】
前記撮像レンズが、前記受光面上に投影される被写体を表す光学像の周辺部にディストーションを生じさせるものであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項9】
前記送信された画像データを受信する受信手段と、前記受信した画像データを入力し、前記解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とを前記カプセルの外部に備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項10】
前記受信された画像データを蓄積する蓄積手段と、前記解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とを前記カプセルの外部に個別に配置したことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載のカプセル内視鏡システム。
【請求項11】
前記送信された画像データを受信する受信手段と、前記受信した画像データを入力し、前記解像度向上処理を実施する解像度向上処理手段とを前記カプセルの外部に備え、前記解像度向上処理手段が、前記画像データの表す光学像の周辺部に生じるディストーションを、前記撮像レンズの持つディストーションの特性に応じて補正するものであることを特徴とする請求項8記載のカプセル内視鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284943(P2009−284943A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137992(P2008−137992)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】