説明

カーボンナノチューブ含有溶液、フィルムおよび繊維

【課題】 カーボンナノチューブが単一に溶解した溶液、フィルム、繊維の提供。
【解決手段】 重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む、溶液。カーボンナノチューブの溶液を得る方法であって、カーボンナノチューブと重合度16以上5000以下の環状グルカンと溶媒とを含む混合物を提供する工程、および該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブおよび該環状グルカンが該溶媒中に溶解した溶液を得る工程を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む溶液、その製造方法、並びに該カーボンナノチューブ溶液を利用して作製したフィルム、繊維およびゲルなどの成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その化学的、電子的および力学的に優れた特性が理論的に予測されており、近年それらの性質が実験により確認されつつある。これらの優れた性質を利用してカーボンナノチューブは、例えば電子放出素子、燃料電池、複合材料、半導体、走査型プローブ顕微鏡探針、電磁波遮蔽材料等において利用研究および一部実用化もなされている。カーボンナノチューブには、1つのグラファイト層のみで形成される単層カーボンナノチューブと、複数のグラファイト層が同軸円筒状に重なったような形で形成される多層カーボンナノチューブとがある。この中で、特に単層カーボンナノチューブは、多くの溶媒に不溶であり、その表面が強い疎水性を有するため、水に全く溶解しない。このことが、溶媒へ溶解あるいは分散させることを必要条件とする、カーボンナノチューブ、中でも単層カーボンナノチューブの化学的な利用を大きく制限しており、結果としてカーボンナノチューブの利用分野を限定している要因の一つとなっている。
【0003】
カーボンナノチューブを溶媒に分散させる方法はこれまでにもいくつか開示されている。そのひとつに、カーボンナノチューブ表面を化学的に修飾する方法がある(非特許文献1参照)。しかし、こうして得られるカーボンナノチューブは化学的な修飾が原因となり、化学修飾する前のカーボンナノチューブの化学的、電子的および力学的な特性を変えてしまい、カーボンナノチューブ本来の優れた特性の利用を制限してしまう。
【0004】
カーボンナノチューブ本来の性質を保持したまま分散する方法として、非共有結合的にポリマーで包み込む方法(すなわち、ポリマーラッピング法)がある。この方法による有機溶媒への分散は、非特許文献2および3などで開示されており、この方法による水への分散は、特許文献1および非特許文献4に開示されている。
【0005】
水への分散ではさらに、界面活性剤などの両親媒性化合物をカーボンナノチューブの側壁に吸着させて分散する方法も開示されている。このような両親媒性化合物としては、例えば、両親媒性アンモニウム塩化合物(非特許文献5)、界面活性剤(非特許文献6)、合成ペプチド(非特許文献7)、カチオン性脂質とDNA(特許文献2)、デンプン(アミロースおよびアミロペクチン)(非特許文献8、9、10)、DNA(非特許文献11)およびシクロデキストリン(非特許文献12)が開示されている。
【特許文献1】特表2004−506530号公報
【特許文献2】特開2004−82663号公報
【非特許文献1】「Science」誌、vol. 282、P95 (1998)
【非特許文献2】「J. Phys.Chem. B 」誌、vol. 104、P10012 (2000)
【非特許文献3】「J.Am.Chem. Soc.」誌、vol.124、P9034 (2002)
【非特許文献4】「ChemicalPhysics Letters」誌、vol. 342、P265 (2001)
【非特許文献5】「ChemistryLetters」誌、P638 (2002)
【非特許文献6】「AppliedPhysics A」誌、vol. 69、P269 (1998)
【非特許文献7】「J. Am.Chem. Soc.」誌、vol. 125、P1770 (2003)
【非特許文献8】「Angew.Chem Int. Ed.」誌、vol. 41、P2508 (2002)
【非特許文献9】「CarbohydratePolymers」誌、vol. 51、P93 (2003)
【非特許文献10】「CarbohydratePolymers」誌、vol. 51、P311 (2003)
【非特許文献11】「ChemistryLetters」誌、vol. 32、P456 (2003)
【非特許文献12】「Chem.Commun.」誌、P986 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機溶媒を溶媒として用いる方法は環境への負荷が大きく、また有機溶媒は生体に有害であることが多い。環境への影響、生体への適合性などを考慮した場合、溶媒は水であることが好ましく、カーボンナノチューブを溶解させるために用いる化合物も天然物または生分解性を有する化合物であることが好ましい。
【0007】
上記開示されている技術のうち、この目的にかなうものはデンプン(アミロースおよびアミロペクチン)(非特許文献8、9、10)、DNA(非特許文献11)およびシクロデキストリン(非特許文献12)によるカーボンナノチューブの分散技術である。しかしながら、これらの技術を用いた場合(特に純度の高い単層カーボンナノチューブの溶解に用いた場合)、溶解されるカーボンナノチューブの量が少ない、水溶液の安定性が悪く、長期間(例えば、3日間以上)貯蔵すると、時間の経過に伴ってカーボンナノチューブが沈澱するなどの問題があることが明らかとなってきた。
【0008】
本発明は、これらの問題点の解決を意図するものであり、カーボンナノチューブが従来技術より高濃度かつ長期間安定に溶解した溶液(特に水溶液)を提供すること、およびカーボンナノチューブを溶解する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、重合度16以上5000以下の環状グルカンを用いることにより、カーボンナノチューブが従来技術より高濃度かつ長期間安定に溶解した溶液が得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、第1に重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む溶液を用いることにより、カーボンナノチューブが従来技術よりも高濃度にかつ長期間安定に溶解された溶液を提供する。
【0011】
本発明は、第2に重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む溶液に、カーボンナノチューブを含む粉末を加え、超音波を投射し、未溶解の固形物をろ過および/または遠心分離等により除去することを特徴とするカーボンナノチューブ溶液の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、第3に重合度16以上5000以下の環状グルカンを含むカーボンナノチューブ溶液を用いて作製した、フィルム、繊維またはゲル等の成型物を提供する。
【0013】
本発明の溶液は、重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む。
【0014】
1つの実施形態では、上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり得る。
【0015】
1つの実施形態では、上記環状グルカンは、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンであり得る。
【0016】
1つの実施形態では、上記溶液は水溶液であり得る。
【0017】
1つの実施形態では、上記溶液におけるカーボンナノチューブの濃度は、50mg/L以上であり得る。
【0018】
本発明の方法は、カーボンナノチューブの溶液を得る方法であって、
カーボンナノチューブと重合度16以上5000以下の環状グルカンと溶媒とを含む混合物を提供する工程、および
該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブおよび該環状グルカンが該溶媒中に溶解した溶液を得る工程、
を包含する。
【0019】
1つの実施形態では、上記環状グルカンおよび溶媒を含む溶液に前記カーボンナノチューブを添加することにより前記混合物が得られ得る。
【0020】
1つの実施形態では、上記環状グルカンと前記カーボンナノチューブとを混合した後に前記溶媒を添加することにより前記混合物が得られ得る。
【0021】
1つの実施形態では、上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり得る。
【0022】
1つの実施形態では、上記環状グルカンは、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンであり得る。
【0023】
1つの実施形態では、上記溶液は水溶液であり得る。
【0024】
1つの実施形態では、上記溶液中のカーボンナノチューブの濃度は、50mg/L以上であり得る。
【0025】
本発明の成型物は、重合度16以上5000以下の環状グルカンとカーボンナノチューブとを含む。
【0026】
1つの実施形態では、上記成型物は更にポリマーを含み得る。
【0027】
1つの実施形態では、上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであり得る。
【0028】
1つの実施形態では、上記環状グルカンは、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンであり得る。
【0029】
1つの実施形態では、上記成型物は、水のみを溶媒とした溶液から成型され得る。
【0030】
1つの実施形態では、上記ポリマーは、アミロースであり得る。
【0031】
1つの実施形態では、上記ポリマーは、アミロース以外のポリマーであり得る。
【0032】
1つの実施形態では、上記成型物の形状は、フィルムまたは繊維の形状であり得る。
【0033】
1つの実施形態では、上記成型物は、延伸フィルムであり得る。
【0034】
1つの実施形態では、上記成型物は、ゲル状であり得る。
【0035】
1つの実施形態では、上記成型物は、電磁遮蔽用であり得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記成型物は、生分解性であり得る。
【0037】
本発明の可溶化剤は、カーボンナノチューブを溶媒に溶解するための可溶化剤であって、重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む。
【0038】
1つの実施形態では、上記環状グルカンが、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンからなり得る。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、従来技術よりも高濃度にかつ長期間(例えば、3日間以上)、より単一の分子としてカーボンナノチューブを溶解させた溶液を得ることができる。中でも、カーボンナノチューブを水溶液として利用できることは、環境への影響や生体への適合性が問題となる化粧品、医薬品、食品など、これまでカーボンナノチューブの利用がされていなかった分野への用途拡大が期待できる。また、カーボンナノチューブの化学反応を溶液中で行えるようになり、新規な化学修飾されたカーボンナノチューブの合成およびそれを利用した用途拡大も期待できる。
【0040】
更に、好ましい実施形態では、この溶液を用いることにより、カーボンナノチューブを単一の分子として分散したゲルを得ることができ、さらにはフィルム、繊維などの成型物を得ることができる。このフィルム、繊維などの成型物は、電磁遮蔽効果および導電性を有する。フィルムは更に、延伸することにより偏光性を付与することもできる。生分解性を有する、フィルム、繊維およびゲルなどの成型物を得ることもできる。本発明の方法により、溶液中にカーボンナノチューブが均質に溶解した塗料などを得ることもできる。本発明の方法によって得られた成型物中には、カーボンナノチューブが均質に分布しているため、分布に偏りがある従来の成型物と比較して、強度が顕著に上昇している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明により、重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む、溶液および成型物が提供される。
【0042】
(1.環状グルカン)
本発明で用いられる環状グルカンとは、16個以上5000個以下のグルコースがα−1,4結合またはα−1,6結合で環状に結合した構造を一つ含む分子をいう。「グルカン」とは、D−グルコースから構成される多糖をいう。本明細書中では、グルカンという用語には、グルカンの誘導体が含まれる。本発明で用いられ得る環状グルカンは、環状構造のみを有するグルカンであっても、環状構造に加えて非環状構造を有するグルカンであってもよい。環状構造に加えて非環状構造を有する環状グルカンの例には、グルコースがα−1,4結合またはα−1,6結合で結合した直鎖状分子が、環状構造を形成するグルコース単位にα−1,6結合で結合した分子が含まれる。本発明で用いられる環状グルカンは、好ましくは、16個以上5000個以下のグルコース単位がα−1,4結合で環状に結合した構造のみを持つ(すなわち、分岐のない)分子(シクロアミロース)である。ここで、環状グルカンを構成するグルコース単位は、本発明の課題を解決できる限りにおいて、化学修飾されていてもよい。
【0043】
本発明で用いられる環状グルカンとしては、重合度が16以上5000以下であれば任意の重合度の環状グルカンを用い得る。環状グルカンの重合度は、好ましくは約17以上であり、より好ましくは約22以上である。環状グルカンの重合度は、好ましくは約3000以下であり、より好ましくは約2000以下であり、さらにより好ましくは約1000以下であり、特に好ましくは約500以下であり、ことに好ましくは約300以下であり、ことさら好ましくは約100以下であり、最も好ましくは約80以下である。
【0044】
また、必要に応じて重合度16〜5000の環状グルカンに加えて、重合度15以下の環状グルカンまたは重合度5001以上の環状グルカンを使用してもよい。ただし、重合度16〜5000の範囲(または上述した好ましい範囲)のもののみを用いることが好ましい。
【0045】
環状グルカンは、1種類の重合度のものを単独で用いてもよいし、種々の重合度のものの混合物として用いてもよい。通常、重合度が16以上5000以下の環状グルカンは、種々の重合度のものの混合物として製造および販売される。例えば、重合度が22〜数百の環状グルカンの混合物は、江崎グリコ株式会社からシクロアミロースとして販売されている。重合度が16以上5000以下の環状グルカンの製造方法は、特許第3150266号公報に記載されている。当該分野で公知であって、重合度が16以上5000以下の任意の環状グルカンが用いられ得る。
【0046】
高分子の混合物は、重量平均重合度(または重量平均分子量)で示されることが多い。本発明で用いられる環状グルカンの重量平均重合度は、好ましくは約17以上であり、より好ましくは約22以上である。本発明で用いられる環状グルカンの重量平均重合度は、好ましくは約3000以下であり、より好ましくは約2000以下であり、さらにより好ましくは約1000以下であり、特に好ましくは約500以下であり、格別好ましくは約300以下であり、最も好ましくは約100以下である。
【0047】
(2.カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブとは、炭素の同素体であり、複数の炭素原子が結合して筒状に並んだものをいう。カーボンナノチューブとしては、任意のカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブ、およびこれらがコイル状になったものが挙げられる。単層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が一重で並んでいるものであり、多層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が2層以上同心円状に重なったものである。本発明で用いられるカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブでも単層カーボンナノチューブでもよいが、より好ましくは単層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーン、その頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質、両側に穴があいたカーボンナノチューブなども用いることができる。
【0048】
カーボンナノチューブは、任意の直径のものであり得る。カーボンナノチューブの直径は好ましくは約0.4ナノメートル以上であり、より好ましくは約0.6ナノメートル以上であり、さらに好ましくは約1.0ナノメートル以上であり、最も好ましくは約1.2ナノメートル以上である。カーボンナノチューブの直径は好ましくは約100ナノメートル以下であり、より好ましくは約60ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約30ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約20ナノメートル以下であり、さらに好ましくは約10ナノメートル以下であり、さらに好ましくは5ナノメートル以下であり、最も好ましくは約2ナノメートル以下である。本明細書中で、多層ナノチューブについて直径という場合、最も外側のカーボンナノチューブの直径をいう。
【0049】
カーボンナノチューブは、任意の長さのものであり得る。カーボンナノチューブの長さは、好ましくは約0.6マイクロメートル以上であり、より好ましくは約1マイクロメートル以上であり、さらに好ましくは約2マイクロメートル以上であり、最も好ましくは約3マイクロメートル以上である。カーボンナノチューブの長さは、好ましくは約20マイクロメートル以下であり、より好ましくは約15マイクロメートル以下であり、さらに好ましくは約10マイクロメートル以下であり、最も好ましくは約5マイクロメートル以下である。
【0050】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、市販のものであっても、当該分野で公知の任意の方法によって製造されてもよい。カーボンナノチューブは例えば、シンセンナノテクポート社(Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.)、CARBON NANOTECHNOLOGIES INC.、SES RESEARCHから販売されている。
【0051】
カーボンナノチューブの製造方法の例としては、二酸化炭素の接触水素還元法、アーク放電法(例えば、C.Journetら、Nature(ロンドン),388(1997),756を参照のこと)、レーザー蒸発法(例えば、A.G.Rinzlerら、Appl.Phys.A,1998,67,29を参照のこと)、CVD法、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法(例えば、P.Nikolaevら、Chem.Phys.Lett.,1999,313,91を参照のこと)などが挙げられる。
【0052】
カーボンナノチューブは、洗浄、遠心分離、ろ過、酸化、クロマトグラフィーなどによって精製されたものであっても、未精製のものであってもよい。精製されたものであることが好ましい。用いられるカーボンナノチューブの純度は、任意であり得るが、好ましくは約5%以上、より好ましくは約10%以上、さらに好ましくは約20%以上、さらに好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約40%以上、さらに好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上である。カーボンナノチューブの純度が高いほど、特有の機能が発現されやすい。なお、本明細書中でカーボンナノチューブの純度という場合、特定の分子量の1種類のカーボンナノチューブとしての純度ではなく、カーボンナノチューブ全体としての純度をいう。すなわち、カーボンナノチューブ粉末がAという特定の分子量のカーボンナノチューブ30重量%と、Bという特定の分子量のカーボンナノチューブ70重量%とからなっている場合、この粉末の純度は100%である。もちろん、用いられるカーボンナノチューブは、特定の直径、特定の長さ、特定の構造(単層か多層か)などについて選択されたものであってもよい。
【0053】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置等を用いて粉砕したもの、または化学的処理もしくは物理的処理によって短く切断されたものであってもよい。
【0054】
(3.溶媒)
環状グルカン溶液の溶媒としては、環状グルカンが溶解できるものが使用される。溶媒は好ましくは、水および水と混和性の任意の有機溶媒であり、最も好ましくは水である。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、γ−ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、スルホラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンが挙げられる。
【0055】
水と有機溶媒とを混合する場合、溶媒全体のうちの水の割合は、約50容積%以上であることが好ましく、約60容積%以上であることが好ましく、約70容積%以上であることが好ましく、約80容積%以上であることが好ましく、約90容積%以上であることが好ましく、約95容積%以上であることが最も好ましい。水と混合される有機溶媒は、1種類であっても2種類以上であってもよい。環境への影響および人体への影響などを考慮すると、溶媒は水であるかまたは主に水からなることが好ましい。
【0056】
(4.環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む溶液)
本発明の溶液は、重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む。
【0057】
溶液中の環状グルカンの濃度は、環状グルカンが溶解可能である限り、任意に設定され得る。溶液中の環状グルカンの濃度は、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約5重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、最も好ましくは約15重量%以上である。溶液中の環状グルカンの濃度は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。環状グルカンの濃度が高すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が減少する場合がある。環状グルカンの濃度が低すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が少なすぎる場合がある。
【0058】
溶液中のカーボンナノチューブの濃度は、カーボンナノチューブが溶解可能である限り、任意に設定され得る。溶液中のカーボンナノチューブの濃度は、好ましくは約30mg/L(約0.003重量%)以上であり、より好ましくは約50mg/L(約0.005重量%)以上であり、さらに好ましくは約100mg/L(約0.01重量%)以上であり、さらに好ましくは約150mg/L(約0.015重量%)以上であり、さらに好ましくは約300mg/L(約0.03重量%)以上であり、さらに好ましくは約400mg/L(約0.04重量%)以上であり、さらに好ましくは約500mg/L(約0.05重量%)以上であり、さらに好ましくは約600mg/L(約0.6重量%)以上であり、さらに好ましくは約700mg/L(約0.07重量%)以上であり、最も好ましくは約800mg/L(約0.08重量%)以上である。カーボンナノチューブが溶解し得る限り、本発明の溶液中に含まれるカーボンナノチューブの濃度に上限はないが、通常、約10g/L(約1重量%)以下、約5g/L(約0.5重量%)以下、約2g/L(約0.2重量%)以下または約1g/L(約0.1重量%)以下である。
【0059】
本明細書中では、カーボンナノチューブの溶解度は、20℃で測定した溶解度である。
【0060】
本発明の溶液中には、カーボンナノチューブの溶解度を顕著に低下させない限り、環状グルカンおよびカーボンナノチューブ以外の任意の物質を含み得る。
【0061】
本発明の溶液は、必要に応じて、フィルムなどの基材の原料、顔料、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質をさらに含み得る。フィルムなどの基材の原料は、ポリマーであり得る。このようなポリマーの例としては、ポリビニルアルコール、プルラン、デキストラン、デンプンおよびデンプン誘導体、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、デオキシリボ核酸、リボ核酸、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、ゼラチンなどが挙げられる。別のポリマーの例としては、アミロースが挙げられる。これらの物質の添加量は、当業者によって任意に設定され得る。
【0062】
本発明の溶液は、その導電性を更に向上させるために導電性物質をさらに含有していてもよい。導電性物質の例としては、炭素系物質(例えば、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛など)、金属酸化物(例えば、酸化錫、酸化亜鉛など)、金属(例えば、銀、ニッケル、銅など)が挙げられる。これらの物質の添加量は、当業者によって任意に設定され得る。
【0063】
本発明の溶液中には、カーボンナノチューブが溶解している。「カーボンナノチューブが溶解している」とは、カーボンナノチューブを含む液体を、20℃にて2,200gで10分間遠心分離した後にその液体全体にカーボンナノチューブが依然として分布しており、カーボンナノチューブによる液体の呈色の低下、沈澱などが認められないことをいう。溶液中では、カーボンナノチューブは、ほぼ単一の分子として溶解している。
【0064】
本発明の溶液中には、カーボンナノチューブが安定して溶解している。「カーボンナノチューブが安定して溶解している」とは、カーボンナノチューブの溶液を室温(好ましくは約20℃)に少なくとも3日間放置した場合に、カーボンナノチューブによる液体の呈色の低下、沈澱などが認められないことをいう。本発明の溶液は、好ましくは約1週間、より好ましくは約2週間、さらに好ましくは約3週間、最も好ましくは約4週間放置した後でも、カーボンナノチューブによる液体の呈色の低下、沈澱などが認められない。
【0065】
なお、本明細書中では、溶液中にカーボンナノチューブが溶解していれば、他の物質(例えば、顔料など)が溶解していなくても溶液と呼ぶ。他の物質は、溶解、沈澱、分散またはコロイド化していてもよい。他の物質が溶解していない溶液の例としては、塗料、乳剤、染料、顔料、セメントなどが挙げられる。
【0066】
(5.カーボンナノチューブを溶液中に溶解させる方法)
本発明の方法は、カーボンナノチューブを溶液中に溶解させる方法である。この方法は、カーボンナノチューブと重合度16以上5000以下の環状グルカンと溶媒とを含む混合物を提供する工程、および該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブおよび該環状グルカンが該溶媒中に溶解した溶液を得る工程を包含する。この方法は例えば、重合度16以上5000以下の環状グルカンおよび溶媒を含む溶液に、カーボンナノチューブを添加して混合物を得る工程、および該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブを溶解させる工程を包含する。あるいは、この方法は、環状グルカンとカーボンナノチューブとを混合した後に溶媒を添加することにより混合物を得る工程、および該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブを溶解させる工程を包含する。本発明の方法で用いられる環状グルカンおよびカーボンナノチューブについては、上記1および2に記載の通りである。
【0067】
先ず、カーボンナノチューブを均一に溶解させた溶液の作製方法の一例について説明する。
【0068】
溶媒に重合度16以上5000以下の環状グルカンを添加して、環状グルカン溶液を作製し得る。環状グルカン溶液中の環状グルカンの濃度は、環状グルカンが溶解し得る限り、任意に設定され得る。添加する環状グルカンの量は、得られる溶液中の環状グルカンの濃度が、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約5重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、最も好ましくは約15重量%以上であるような量である。添加する環状グルカンの量は、得られる溶液中の環状グルカンの濃度が、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、最も好ましくは約30重量%以下であるような量である。例えば、約1〜30重量%の濃度範囲となる量であることが好ましい。環状グルカンの種類によっては、環状グルカンの濃度が高すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が減少する場合がある。環状グルカンの濃度が低すぎると、溶解するカーボンナノチューブの量が低すぎる場合がある。
【0069】
次いで、重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む溶液に、カーボンナノチューブを添加して混合物を得る。添加するカーボンナノチューブは、粉末の形態であることが好ましい。添加されるカーボンナノチューブの量は、本発明の方法によって溶解可能なカーボンナノチューブの量を超える量であればよく、任意に設定され得る。添加されるカーボンナノチューブの量は、例えば、溶液に対して約0.1重量%〜約1重量%であり得る。
【0070】
あるいは、重合度16以上5000以下の環状グルカンとカーボンナノチューブとを予め混合した後、これに溶媒を添加することによって混合物を得てもよい。この場合、環状グルカンとカーボンナノチューブとの混合物を、乳鉢などに入れ、乳棒などで摺り合わせると、カーボンナノチューブの溶解が促進される。他の機械的手段によって充分に混合してもよい。
【0071】
次いで、得られた混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブを溶解させる。超音波を投射する方法は、環状グルカン溶液にカーボンナノチューブを均一に溶解させ得る方法である限り、その超音波の投射方法、周波数、時間などの条件は特に限定されるものではない。超音波を投射する際の温度および圧力も、環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む溶液が、液体状態を保つ条件であればよい。例えば、環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む溶液をガラス容器に入れ、バス型ソニケーターを使用して、室温で超音波を投射することが行われる。例えば、超音波発振機における定格出力が超音波発振機の単位底面積当たり約0.1〜約2.0ワット/cmが好ましく、より好ましくは約0.2〜約1.0ワット/cmの範囲、発振周波数が約10〜約200KHzが好ましく、より好ましくは約20〜約100KHzの範囲で行うのがよい。また、超音波照射処理の時間は約1分間〜約3時間が好ましく、より好ましくは約3分間〜約30分間である。超音波を投射する際またはその前後に、ボルテックスミキサー、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサーなどの撹拌装置を用いてもよい。混合物の温度は、溶媒が揮発しすぎない温度であれば任意の温度であり得る。混合物の温度は、例えば、約5℃以上であり、好ましくは約10℃以上であり、さらに好ましくは約15℃以上であり、さらに好ましくは約20℃以上であり、最も好ましくは約25℃以上である。混合物の温度は、例えば、約100℃以下であり、好ましくは約90℃以下であり、さらに好ましくは約80℃以下であり、さらに好ましくは約70℃以下であり、最も好ましくは約60℃以下である。
【0072】
超音波の投射後、この溶液中の未溶解のカーボンナノチューブを含む固形物をろ過、遠心分離などにより取り除くことにより、カーボンナノチューブが均質に溶解された溶液が得られる。超音波を投射後の溶液から、未溶解の固形物を取り除く方法は、フィルターによるろ過、遠心分離など、溶解したカーボンナノチューブと未溶解の固形物とを分離できる限りにおいて特に限定されるものではない。フィルターによるろ過の場合、フィルターは溶解したカーボンナノチューブは通過し、未溶解の固形物は通過しない孔径を有するものを使用する。好ましくは、孔径1μm〜数百μm程度のフィルターを用いる。遠心分離の場合、溶解したカーボンナノチューブが上清に残り、未溶解の固形物が沈澱に分かれる条件を選択する。好ましくは、1,000〜4,000×g、5〜30分間と同等の遠心力をかけることにより分離する。このようにして、カーボンナノチューブが均質に溶解している溶液が得られる。
【0073】
カーボンナノチューブが溶液中に均質に溶解していることは、カーボンナノチューブ溶液中のカーボンナノチューブを遠心分離などにより回収し、溶媒で洗浄して過剰に存在する環状グルカンを除いた後、原子間力顕微鏡を用いて確認する。より具体的な方法の一例を、実施例1に後述する。
【0074】
溶液中に溶解しているカーボンナノチューブの量は、例えば、15,000×g、30分間遠心分離してカーボンナノチューブを回収し、重量を測定することにより測定することができる。あるいは、文献「Chem. Commun.」誌、P193(2001)に記載されるように、カーボンナノチューブの濃度は、500nmでの吸光度と極めて良好な相関があり、環状グルカンはこの波長での吸収はほとんどない。それゆえ、カーボンナノチューブの濃度は、500nm付近での吸収を有する何らかの他の物質を含む場合以外は、溶液の500nmでの吸光度を測定することにより容易に決定される。
【0075】
(6.成型物)
本発明の成型物は、1つの実施形態では、カーボンナノチューブと環状グルカンとを主成分として形成される。一般に、環状グルカンは、成形性を持つので、カーボンナノチューブおよび環状グルカン以外のポリマーを用いなくても、成型物を形成することができる。成型物がカーボンナノチューブと環状グルカンとを主成分とし、他のポリマーを含まずに形成される場合、成型物中のカーボンナノチューブの含有量は、好ましくは約0.01重量%以上であり、より好ましくは約0.1重量%以上であり、さらに好ましくは約0.2重量%以上であり、最も好ましくは約0.3重量%以上である。成型物中のカーボンナノチューブの含有量は、好ましくは約20重量%以下であり、より好ましくは約10重量%以下であり、さらに好ましくは約5重量%以下であり、最も好ましくは約2重量%以下である。成型物がカーボンナノチューブと環状グルカンとのみからなる場合は、環状グルカンの含有量は、100重量%からカーボンナノチューブの含有量を差し引いた量である。成型物は、カーボンナノチューブと環状グルカンとのみからなってもよく、ポリマー以外の他の物質(例えば、顔料、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤など)を含んでいてもよい。このような他の物質を含む場合、カーボンナノチューブ成型物中の環状グルカンの含有量は、好ましくは約70重量%以上であり、より好ましくは約80重量%以上であり、さらに好ましくは約90重量%以上であり、最も好ましくは約95重量%以上である。成型物中の環状グルカンの含有量は、好ましくは約99重量%以下であり、より好ましくは約98重量%以下であり、さらに好ましくは約97重量%以下であり、最も好ましくは約95重量%以下である。
【0076】
本発明の成型物は、別の実施形態では、カーボンナノチューブと環状グルカンとポリマーとを主成分として形成される。ポリマーとは、カーボンナノチューブおよび環状グルカン以外のポリマーである。ポリマーを含むことにより、そのポリマーの有する特性に依存して、強度、ガスバリア性などが成型物に付与される。この場合、成型物中のカーボンナノチューブの含有量は、好ましくは約0.001重量%以上であり、より好ましくは約0.01重量%以上であり、さらに好ましくは約0.05重量%以上であり、最も好ましくは約0.1重量%以上である。成型物中のカーボンナノチューブの含有量は、好ましくは約20重量%以下であり、さらに好ましくは約15重量%以下であり、最も好ましくは約10重量%以下である。成型物中の環状グルカンの含有量は、好ましくは約10重量%以上であり、より好ましくは約20重量%以上であり、最も好ましくは約30重量%以上である。成型物中の環状グルカンの含有量は、好ましくは約90重量%以下であり、さらに好ましくは約80重量%以下であり、最も好ましくは約70重量%以下である。成型物中のポリマーの含有量は、好ましくは約10重量%以上であり、より好ましくは約20重量%以上であり、最も好ましくは約30重量%以上である。成型物中のポリマーの含有量は、好ましくは約90重量%以下であり、さらに好ましくは約80重量%以下であり、最も好ましくは約70重量%以下である。
【0077】
なお、便宜上、本明細書中でカーボンナノチューブおよび環状グルカンは、「ポリマー」に含まない。すなわち、本明細書中の「ポリマー」とは、カーボンナノチューブおよび重合度16〜5000の環状グルカン以外の高分子材料を意味する。
【0078】
ポリマーとしては成型材料として使用され得る任意のポリマーが用いられ得る。ポリマーは、特定の実施形態では、好ましくはアミロースであり、さらに好ましくは酵素合成アミロースである。アミロースとは、天然の澱粉中に含まれるグルコースポリマーの一種であり、グルコースがα−1,4結合で直鎖状に結合した分子であるが、わずかにα−1,6結合の分岐構造が含まれ得る。酵素合成アミロースとは、グルコース−1−リン酸を原料として、酵素グリコーゲンホスホリラーゼにより合成されるグルコースがα−1,4結合のみで直鎖状に結合した分子を指す。特に、平均分子量60万以上の酵素合成アミロースは水に溶解するため、これを用いることにより、カーボンナノチューブを分散させた成型物(例えば、フィルム)を、水のみを溶媒に用いて作製できる。ポリマーが主にアミロースである成型物は生分解性を有する。生分解性とは、微生物または生物が合成する酵素の作用により、水、二酸化炭素、アンモニアなどの低分子に分解される物質、あるいは微生物または植物に分解吸収されて同化される物質を指す。
【0079】
本発明の成型物において用いられ得る他の生分解性ポリマーとしては、プルラン、デキストラン、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、デオキシリボ核酸、リボ核酸、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、ゼラチン、乳酸ポリマー、グリコール酸ポリマーなど、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、アミロース以外のポリマーを用いることが好ましく、プルランを用いることがさらに好ましい。
【0080】
本発明の成形物において用いられ得るポリマーは、生分解性でなくてもよい。生分解性でないポリマーの例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ、フェノール樹脂など、およびこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0081】
本発明の成型物は、携帯電話、ラップトップコンピュータなどのための電磁遮蔽部品、ステルス航空機用のレーダー吸収材料、ナノエレクトロニクス材料(新世代コンピュータ用メモリなど)において、および高強度で軽量の複合材として用いられ得る。本発明の成型物は、フィルム、繊維、積層体の接着層、コーティングなどとしても用いられ得る。
【0082】
本発明の成型物はまた、必要に応じて、顔料、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質をさらに含み得る。これらの物質の添加量は、当業者によって任意に設定され得る。
【0083】
本発明の成型物はまた、その導電性を更に向上させるために導電性物質をさらに含有していてもよい。導電性物質の例としては、炭素系物質(例えば、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛など)、金属酸化物(例えば、酸化錫、酸化亜鉛など)、金属(例えば、銀、ニッケル、銅など)が挙げられる。
【0084】
(7.成型材料)
本発明により得られるカーボンナノチューブ溶液は、カーボンナノチューブが均質に溶解していることを特徴としている。この溶液を利用することにより、カーボンナノチューブが均質に分布した成型物を得ることができる。本発明の成型物は、重合度16以上5000以下の環状グルカンとカーボンナノチューブとを含む。成型物は、このカーボンナノチューブ溶液をそのまま乾燥して製造してもよいし、またポリマー(高分子素材)を加えて乾燥して製造してもよい。本発明の成型物は、任意の形状であり得る。本発明の成型物の形状は、例えば、フィルム、繊維などの形状であり得る。本発明の成型物は、フィルムなどのように固体状であってもよく、ゲル状であってもよい。ポリマーとしてゲルを形成する性質を有する材料を使用し、ゲル状の成型物を得ることも可能である。また、ポリマーをゲル化させるゲル化剤を用いてゲル状にすることも可能である。
【0085】
(8.成型方法)
上記成型材料は、従来公知の任意の成型方法により成型することができる。例えば、ポリマー材料の成型方法として公知の各種方法が使用可能であり、具体的には、射出成型、押出成型、プレス成型、キャスト法、ブロー成型などの方法が挙げられる。
【0086】
溶媒を含む材料を用いる成型方法(例えば、キャスト法など)の場合には、本発明により得られる溶液をそのまま用いてもよく、あるいはその溶媒の一部を除去して用いてもよく、または同種もしくは別の溶媒を加えて用いてもよい。溶媒を実質的に含まない材料を用いて行う成型方法(例えば、射出成型、押出成型など)の場合には、上記カーボンナノチューブおよび環状グルカンおよびポリマーを含む溶液中の溶媒を除去して成型用の材料とすることができる。
【0087】
成型物製造の一例として、フィルムの作製方法について説明する。カーボンナノチューブ溶液をそのまま、あるいはポリマーと混合し、溶液キャスト法、スピンコート法によりフィルムが作られる。このフィルムは、カーボンナノチューブ溶液と同様、カーボンナノチューブ溶液が均質に分布していることを特徴とする。こうして得たフィルムを延伸することにより、延伸フィルムにすることができる。延伸を行う際には、延伸に耐えられるポリマーと混合することが好ましい。
【0088】
(7.可溶化剤)
本発明によってまた、カーボンナノチューブを溶媒に溶解するための可溶化剤が提供される。この可溶化剤は、重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む。
【0089】
本発明の可溶化剤は、環状グルカン以外に賦形剤、増量剤などを含み得る。
【0090】
(8.他の用途)
本発明の溶液が薄膜を形成し得るポリマーを含む場合、本発明の溶液は、一般の塗布に用いられる方法によって基材の表面に加工され、薄膜を形成できる。例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられ得る。
【0091】
本発明の溶液が薄膜を形成し得るポリマーを含む場合、本発明の溶液を塗布して薄膜を形成する基材としては、高分子化合物、プラスチック、木材、紙材、セラミックス繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、及びそのフィルム、発泡体、多孔質膜、エラストマーまたはガラス板などが用いられ得る。例えば高分子化合物、プラスチック及びフィルムとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、そのフィルム、発泡体及びエラストマーなどがある。これらの高分子フィルムは、少なくともその一つの面上に薄膜を形成させるため、該薄膜の密着性を向上させる目的で上記フィルム表面をコロナ表面処理またはプラズマ処理することが好ましい。
【0092】
本発明の溶液および成型物は、カーボンナノチューブを含む溶液および成型物の他の用途にも好適に用いられ得る。
【実施例】
【0093】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0094】
(実施例1:カーボンナノチューブ溶液の作製)
重合度22から数百(重量平均重合度46)のシクロアミロース混合物(江崎グリコ株式会社製シクロアミロース)の20重量%水溶液1mLに、約4mgの単層カーボンナノチューブ粉末(シンセンナノテクポート社製 SWCNT−1)を加え、ボルテックスミキサーにより約10秒間攪拌した。この混合物にバス型ソニケーター(Branson 1200)により、室温(15〜25℃)で5分間超音波を投射し、カーボンナノチューブを溶解および分散させた。この溶液を2,200×gにて10分間遠心分離し、上清を取り出した。上清は、黒色溶液であった。得られた黒色溶液の500nmの吸光度は3.11であり、約116μg/mLのカーボンナノチューブが含まれていた。
【0095】
得られた黒色溶液を15,000×gにて20分間遠心分離し、水溶液中に溶解していたカーボンナノチューブを沈澱として回収した。これに1mLの水を加え、超音波を5分間投射して再溶解させ、再度15,000×gにて20分間遠心分離するという操作を2回繰り返し、溶液中の余分なシクロアミロースを除いた。こうして得たカーボンナノチューブ溶液を原子間力顕微鏡で観察したところ、外径0.4〜2.3nm、長さ0.15〜1.0μmの単層カーボンナノチューブが単一の分子として溶液中に分布していることが観察された(図1)。このことから、カーボンナノチューブ溶液中に、各カーボンナノチューブがほぼ単一の分子として均質に溶解していることが分かった。
【0096】
(実施例2および比較例1〜4:他のグルカンとの比較)
重合度22から数百(重量平均重合度46)のシクロアミロース混合物(江崎グリコ株式会社製シクロアミロース)(実施例2)、直鎖グルカンであるアミロース(平均分子量2,900;比較例1)、または重合度6、7、8の環状グルカンであるシクロデキストリン(それぞれα−CD(比較例2)、β−CD(比較例3)、γ−CD(比較例4))の各水溶液を用いて、実施例1と同様にカーボンナノチューブ溶液を調製し比較した。
【0097】
各グルカンは水への溶解度が異なるため、シクロアミロースは0.1〜20重量%、アミロースは0.1〜5重量%、α−とγ−CDは0.1〜10重量%、β−CDは0.1〜1重量%の水溶液を用いた。
【0098】
図2は、得られたカーボンナノチューブ溶液中のカーボンナノチューブ量を500nmの吸光度で測定した結果である。この結果、シクロアミロースでは、濃度の上昇に伴って分散するカーボンナノチューブの量が増加することが分かる。しかしアミロースの場合3.0重量%までは、濃度の上昇に伴い溶解するカーボンナノチューブの量が増加したが、3.0重量%を超える濃度では逆に、溶解するカーボンナノチューブの量が減少した。一方、シクロデキストリンの場合、調べた濃度範囲においてカーボンナノチューブをほとんど溶解させることができなかった。このように、シクロアミロースの水溶液は、他のグルカンより顕著に多い量のカーボンナノチューブを溶解させることができる。
【0099】
(実施例3および比較例5:安定性試験)
シクロアミロースおよびアミロースのそれぞれの5重量%水溶液を用い、実施例1のとおり調製したカーボンナノチューブ溶液の安定性を比較した。シクロアミロースを用いた場合も、アミロースを用いた場合も、溶解直後には、カーボンナノチューブが溶液全体に分布しており、全体が均一に黒く見えた(図3の溶解直後AおよびB)。それぞれの調製したカーボンナノチューブ溶液を室温に3日間放置し、観察を行った。その結果、アミロースの溶液では3日後に、上清の呈色が低下したり沈澱を生じたりした(図3の3日後、Aを参照、透明な部分と黒い部分とに分かれている)。一方、シクロアミロースおよびカーボンナノチューブを含む溶液では全く変化が見られず、カーボンナノチューブが溶液全体に分布しており、全体が均一に黒く見えた(図3の3日後、Bを参照)。このことから、シクロアミロースを用いると、アミロースを用いた場合よりもカーボンナノチューブ溶液の安定性が高くなることがわかった。さらに、このシクロアミロースを用いたカーボンナノチューブを室温に1ヶ月放置した場合にも、沈澱がほとんど見られなかった。このことから、シクロアミロースを用いたカーボンナノチューブ溶液が極めて安定であることがわかった。
【0100】
実施例2および実施例3の結果より、シクロアミロースを用いることにより、より多い量のカーボンナノチューブをより長い期間水溶液中に溶解できることが分かる。
【0101】
(実施例4:カーボンナノチューブ−アミロースフィルムの作製およびその複素誘電率の測定)
アミロースフィルムは高い透明性とヨウ素とのコンプレックスにより偏光性を持たせることができる有用な生分解性フィルムである。これに均一で安定なシクロアミロース−カーボンナノチューブ水溶液を用いることにより、電磁波の遮蔽効果および吸収効果をフィルムに持たせることを目的とし、カーボンナノチューブ−アミロースフィルムを作製した。
【0102】
実験試料として、酵素合成アミロース(重量平均分子量100万)0.8g、単層カーボンナノチューブ(SWCNT−1;シンセンナノテクポート社製)40mg、シクロアミロース(重合度22から数百(重量平均重合度46)のシクロアミロース混合物(江崎グリコ株式会社製シクロアミロース)1g、蒸留水1mLおよびカプトンフィルム(デュポン製)を用いた。
【0103】
(実施例4.1)
シクロアミロース−カーボンナノチューブ水溶液を以下の手順で作製した。まず、メノウ乳鉢でカーボンナノチューブ粉末4mgと0.1gのシクロアミロース粉末とを20分ほど擦り合わせた後、これに1mLの蒸留水(DW)を加えて混合物を得た。この混合物中でのシクロアミロースの溶液濃度は10%となる。この混合物をボルテックスでよく攪拌させてからBath typeのソニケーターを室温(15〜25℃)で5分間かけた後、2,200×gにて10分間の条件でスイングローターの遠心分離をおこなった。
【0104】
上清をエッペンチューブに抜き取り、さらに16,600×gにて10分間の条件で遠心分離をおこなった。遠心分離後に上清を抜き取り、褐色ビンにプールした。これにより、シクロアミロース−カーボンナノチューブ水溶液が得られた。これを10回繰り返して、約10mLのシクロアミロース−カーボンナノチューブ水溶液を得た。
【0105】
(実施例4.2:フィルム作製)
80mLの蒸留水をホットスターラーで約80℃に加温し、これに0.8gを量り取った酵素合成アミロースを徐々に加えた。60mLぐらいになるまでホットスターラーで攪拌を続け、その後G2ガラスフィルターで濾過した。濾過後もしばらくホットスターラーで攪拌を続けて水分を一部蒸発させ、容積が50mL以下になったところで上記実施例4.1で作製した約10mLのシクロアミロース−カーボンナノチューブ水溶液を徐々に加え、フィルム形成用溶液を得た。
【0106】
このフィルム形成用溶液をしばらくホットスターラーで攪拌を続けて水分を一部蒸発させ、容積が50mL以下になったところで、カプトンフィルム(デュポン製)を引いたキャスト板(12cm×4cm)にこの溶液を流し込み、60℃に設定した乾燥機にて一晩乾燥した。これにより、厚さ0.2〜0.3mm、12cm×4cmの黒色のフィルムが形成された。このフィルムは、アミロース0.8g、シクロアミロース1g、カーボンナノチューブ1.16mgからなる。そのため、このフィルム中のカーボンナノチューブの含有量は、0.06重量%であり、環状グルカンの含有量は、55.5重量%であった。
【0107】
(実施例4.3:複素誘電率の測定)
複素誘電率に関して簡略に説明する。誘電率εは電束密度Dと電解Eの関係を与える係数で、D=εEで定義される。もし誘電率εの物体に角周波数ωの高周波電界E=Eexp(jωt)を加えたとき、電束密度D=Dexp(jωt−jφ)で表せるとすると、ε=D/E=(J/E)exp(−jφ)となる。ここでD/E=ε1とおくと、ε=ε1 exp(−jφ)=ε1 cosφ−jε1 sinφと表せる。実数部をε’、虚数部をε”と表すと、ε=ε’−jε”となる。これを複素誘電率という。ここにε’=ε1 cosφ、ε”=ε1 sinφである。
【0108】
電束密度Dと電気分極Pの間には、D=ε0E+Pの関係が成り立つ。従って誘電率の実数部は、電界と同位相で生じる電気分極Pに対応する。一方、虚数部は、電界に対して90度位相が異なる電気分極に対応する。
【0109】
電束の時間的変化があると、変位電流Jp=dD/dtが流れる。このDにD=(ε’−jε”)Eを代入すると、Jp=jω(ε'−jε”)E=ωε”E+jωε’Eと書くことができる。これを=σEと書くと、σ’=ωε”、σ”=ωε’となる。σとεでは実数部と虚数部がひっくり返っている。誘電率の虚数部は、伝導率の実数部と同じ働きをする、つまり、エネルギーの消費をともなうということがわかる。誘電率の虚数部を誘電損失と呼ぶ。電子レンジで食品が温まるのはこの誘電損失のためである。
【0110】
一般に、電磁波吸収材料は電磁界への働きから
(1)導電損失材料・・・カーボン等の高抵抗導電体を利用
(2)磁性損失材料・・・フェライト等透磁率の高い磁性体を利用
(3)誘電損失材料・・・発泡体にカーボン等を含有させて複素誘電率の虚数部を大きくした材料を利用
に分類される。
【0111】
実施例4.3で得られたシクロアミロースおよびカーボンナノチューブを含む黒色のフィルムの複素誘電率を、空胴共振器(アジレント・テクノロジー株式会社(Agilent Technologies Japan,Ltd.)製商品名A8361E(PNAシリーズ・マイクロ波ネットワークアナライザー))を常温(25℃)、常圧(1気圧)の条件で用いて、共振器摂動法により測定した。対照として、カーボンナノチューブを含まない以外は実施例4.3と同じ方法によって得られたフィルムを用いた。結果を以下の表1に示す。
【表1】


測定を行なった全ての周波数域において、カーボンナノチューブ含有アミロースフィルムはアミロースフィルムに比べて、電磁波の反射効果を示すε’値が向上し、同時に電磁波の吸収効果を示すε”値も向上した。これらの結果から、カーボンナノチューブをアミロースフィルムに含有させることにより、電磁波の反射と吸収効果を同時に高めることができた。
【0112】
(実施例5:カーボンナノチューブ含有PVAフィルムの作製)
80mLの蒸留水を80℃に加熱し、0.8gのポリビニルアルコール(重合度約2,000)を徐々に加え溶解した。この溶液をさらに加熱攪拌し、容量が約50mLになるまで濃縮した。このポリビニルアルコール溶液15mLに、実施例1のように作製したカーボンナノチューブ溶液1.5mLを加え、10分間加熱攪拌した。この溶液をプラスチックシャーレに流し込み、60℃、一晩乾燥させることにより、カーボンナノチューブ含有ポリビニルアルコールフィルムが得られた。このフィルムは、ポリビニルアルコール0.24g、シクロアミロース0.15g、カーボンナノチューブ0.17mgからなる。そのため、このフィルム中のカーボンナノチューブの含有量は、0.04重量%であり、環状グルカンの含有量は、38.5重量%であった。
【0113】
(実施例6:カーボンナノチューブ含有プルランフィルムの作製)
80mLの蒸留水を80℃に加熱し、0.8gのプルラン(分子量約200,000)を徐々に加え溶解した。この溶液をさらに加熱攪拌し、容量が約50mLになるまで濃縮した。このプルラン溶液15mLに、実施例1のように作製したカーボンナノチューブ溶液1.5mLを加え、10分間加熱攪拌した。この溶液をプラスチックシャーレに流し込み、60℃、一晩乾燥させることにより、カーボンナノチューブ含有プルランフィルムが得られた。このフィルムは、プルラン0.24g、シクロアミロース0.15g、カーボンナノチューブ0.17mgからなる。そのため、このフィルム中のカーボンナノチューブの含有量は、0.04重量%であり、環状グルカンの含有量は、38.5重量%であった。
【0114】
(実施例7および比較例6〜8:他のグルカンとの比較2)
重合度22から数百(重量平均重合度46)のシクロアミロース混合物(江崎グリコ株式会社製シクロアミロース)(実施例7)、直鎖グルカンであるアミロース(平均分子量2,900;比較例1)、または重合度6、7、8の環状グルカンであるシクロデキストリン(それぞれα−CD(比較例6)、β−CD(比較例7)、γ−CD(比較例8))各0.1gと、約4mgの単層カーボンナノチューブ粉末(シンセンナノテクポート社製 SWCNT−1)をメノウ乳鉢で約20分間すりあわせた。これに蒸留水をそれぞれ、シクロアミロースを含む混合物には0.5〜10mL(グルカンの終濃度1〜20重量%)、α−CDとγ-CDの混合物には1〜10mL(グルカンの終濃度1〜10重量%)、β−CDとアミロースの混合物には6.7〜20mL(グルカンの終濃度0.5〜1.5重量%)加え、ボルテックスミキサーにより約10秒攪拌した。この混合物にバス型ソニケーター(Branson 1200)により、室温(15〜25℃)で5分間超音波を投射し、カーボンナノチューブを溶解および分散させた。この溶液を2,200×gにて10分間遠心分離し、上清中のカーボンナノチューブ量を500nmの吸光度で測定した(図4)。
【0115】
この結果、シクロアミロースを用いた場合、溶液中でのシクロアミロース濃度の上昇に伴って溶解するカーボンナノチューブの量が増加した。溶解したカーボンナノチューブの量は実施例1の方法よりも多く、シクロアミロース濃度20重量%の条件で比較すると、約6.5倍多いカーボンナノチューブを溶解した。
【0116】
一方、α−CDを用いた場合、1.0重量%ではシクロアミロースよりも溶解したカーボンナノチューブの量が多かったが、α−CDの濃度が上がると逆に溶解したカーボンナノチューブの量が減少した。また、β−CD、γ−CDおよびアミロースを用いた場合、シクロアミロースと比較して、溶解したカーボンナノチューブの量が少なかった。
【0117】
このように、グルカンとカーボンナノチューブとを混合した後に溶媒を加える方法においても、シクロアミロースは、他のグルカンより顕著に多い量のカーボンナノチューブを溶解させることができた。また、環状グルカン溶液中にカーボンナノチューブを添加する方法よりも、環状グルカンとカーボンナノチューブとを予め混合してから溶媒を添加する方法の方が、カーボンナノチューブを高濃度で溶解させることができることがわかった。
【0118】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の溶液を用いれば、カーボンナノチューブが均一に分散して物性に優れた成型物を得ることができる。また、化粧品、医薬品、食品など、これまでカーボンナノチューブの利用がされていなかった分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明で得られるカーボンナノチューブ溶液中に溶解しているカーボンナノチューブの原子間力顕微鏡画像である。白い部分がカーボンナノチューブであり、黒い部分は試料台のシリコンウエハーの表面である。溶媒中にカーボンナノチューブが均質に分布していたことがわかる。
【図2】図2は、種々のグルカン溶液で溶解されるカーボンナノチューブの量の各グルカン濃度依存性を示すグラフである。
【図3】図3は、シクロアミロースとアミロースの5重量%水溶液を用いて調製したカーボンナノチューブ溶解液の安定性を調べた結果を示す写真である。
【図4】図4は、種々のグルカン溶液で溶解されるカーボンナノチューブの量の各グルカン濃度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度16以上5000以下の環状グルカンおよびカーボンナノチューブを含む、溶液。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記環状グルカンが、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンである、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
前記溶液が水溶液である、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
カーボンナノチューブの濃度が50mg/L以上である、請求項1に記載の溶液。
【請求項6】
カーボンナノチューブの溶液を得る方法であって、
カーボンナノチューブと重合度16以上5000以下の環状グルカンと溶媒とを含む混合物を提供する工程、および
該混合物に超音波を投射することにより該カーボンナノチューブおよび該環状グルカンが該溶媒中に溶解した溶液を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項7】
前記環状グルカンおよび溶媒を含む溶液に前記カーボンナノチューブを添加することにより前記混合物が得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記環状グルカンと前記カーボンナノチューブとを混合した後に前記溶媒を添加することにより前記混合物が得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記環状グルカンが、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液が水溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記溶液中のカーボンナノチューブの濃度が50mg/L以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
重合度16以上5000以下の環状グルカンとカーボンナノチューブとを含む、成型物。
【請求項14】
ポリマーをさらに含む、請求項13に記載の成型物。
【請求項15】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである、請求項13に記載の成型物。
【請求項16】
前記環状グルカンが、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンである、請求項13に記載の成型物。
【請求項17】
前記成型物が、水のみを溶媒とした溶液から成型される、請求項13に記載の成型物。
【請求項18】
前記ポリマーがアミロースである、請求項14に記載の成型物。
【請求項19】
前記ポリマーがアミロース以外のポリマーである、請求項14に記載の成型物。
【請求項20】
前記成型物の形状が、フィルムまたは繊維の形状である、請求項13に記載の成型物。
【請求項21】
前記成型物が、延伸フィルムである、請求項13に記載の成型物。
【請求項22】
前記成型物が、ゲル状である、請求項13に記載の成型物。
【請求項23】
前記成型物が電磁遮蔽用である、請求項13に記載の成型物。
【請求項24】
前記成型物が生分解性である、請求項13に記載の成型物。
【請求項25】
カーボンナノチューブを溶媒に溶解するための可溶化剤であって、重合度16以上5000以下の環状グルカンを含む、可溶化剤。
【請求項26】
前記環状グルカンが、グルコースがα−1,4結合で環状に結合した構造のみからなる環状グルカンからなる、請求項25に記載の可溶化剤。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−63307(P2006−63307A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30805(P2005−30805)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】