説明

カーボンブラック分散有機溶剤、該有機溶剤を添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂および該有機樹脂を用いた炭素含有耐火物

【課題】 炭素含有耐火物の耐熱スポール性向上をもたらす「カーボンブラック分散有機溶剤、該有機溶剤を添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂および該有機樹脂を用いた炭素含有耐火物」を提供すること。
【解決手段】 有機溶剤に分散剤を添加,溶解した後にカーボンブラックを5〜50重量%分散させてなるカーボンブラック分散有機溶剤。第1の段階で、上記カーボンブラック分散有機溶剤を作製し、第2の段階で、第1の段階で作製した有機溶剤を有機樹脂(フェノール樹脂,フラン樹脂)に添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂。該有機樹脂を使用した炭素含有耐火物であって、該炭素含有耐火物に含有するカーボンブラック含有量が0.05〜2.0重量%であり、非酸化雰囲気中、1500℃でt時間加熱後の弾性率をE,1500℃で10t時間加熱後の弾性率をEとした場合(1≦t≦10)、式(1):(E−E)/E≦0.2を満たす炭素含有耐火物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック分散有機溶剤、該有機溶剤を添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂および該有機樹脂を用いた炭素含有耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素含有耐火物は、炭素質原料の添加により耐熱スポール性が向上すると共に、スラグに対する濡れ性も向上する等の特徴を有しており、製銑,製鋼に使用される炉の内張り耐火物として重要であり、現在では欠くことのできない耐火物となっている。
また、連続鋳造で使用される浸漬ノズルやロングノズルにおいても、炭素含有耐火物が汎用的に使用されている。さらに、近年では、廃棄物溶融炉の内張り耐火物としても、炭素含有耐火物が使用されるようになっている。
【0003】
しかし、近年は、これら炭素含有耐火物の改良が進み、その寿命が延びてきているが、それらの耐火物の使用条件もますます過酷となっており、今以上の高耐用化が求められてきている。
こうした中で、炭素含有耐火物中の炭素量は、たとえば連続鋳造で使用される浸漬ノズルの本体部に使用される材質を例にとると、当初は炭素量が30重量%程度であったものが、現在では20重量%程度のものまで使用されるようになっている。また、溶鋼処理炉に使用される窯炉においても、近年は、極低炭素鋼製造の要望が高まり、カーボンピックアップを極力抑える必要性が出てきており、必然的に耐火物の低炭素量化が進んでいる。現在では、合計の炭素量が3%程度の炭素含有耐火物も使用されるにいたっている。
【0004】
しかし、炭素含有耐火物においては、耐火物中の炭素量を低下させていくと、耐熱スポール性に劣るようになり、使用初期の割れや剥離が生じ易くなり、また、加熱,冷却の繰り返しによる割れ等が発生し易くなるという欠点が生じてくる。
連続鋳造で使用されている浸漬ノズルやロングノズルにおいては、使用しているアルミナ−カーボン系耐火物中のカーボン量を減少させていくと、特に鋳造初期の熱スポーリングによる割れが発生し易くなるという欠点がある。取鍋や転炉に使用されるマグネシア−カーボン煉瓦も、加熱,冷却の繰り返しにより、表面が剥離し易くなるなどの欠点がある。
【0005】
また、低炭素量化した材質だけでなく、従来の炭素量を有する炭素含有耐火物においても、操業条件の変化等による使用時の熱スポーリングの発生は、現在の技術においても避けがたい現象であり、その解決が炭素含有耐火物にとって、特に大きな解決課題の一つである。
【0006】
炭素含有耐火物の耐熱スポーリング性を改善する手法としては、従来から様々な手法が提案されているが、いまだに十分な耐熱スポーリング性は得られていない。また、炭素含有耐火物は、耐スラグ浸潤性の向上や、耐熱スポール性向上の目的で、通常、炭素原料として黒鉛を使用することが多いが、黒鉛を使用することの弊害も後述する先行技術で報告されている。そして、この問題を解決するために、従来から取られてきた手法の一つに、カーボンブラックの添加がある。
【0007】
たとえば、特許文献1(特開平11−322405号公報)においては、低カーボン質の炭素含有耐火物の炭素質原料の一部をカーボンブラックに置き換えて使用する技術が開示されている。
特許文献2(特開平10−152367号公報)においては、カーボンブラックの加圧成形体を作製し、その後粉化させた炭素粉を用いる炭素含有耐火物製造用組成物の技術が開示されている。
【0008】
特許文献3(特開平7−291712号公報)おいても、炭素源の一部として、カーボンブラックを用いた炭素含有耐火物の技術が開示されている。本技術は、球状炭素粉末を使用する技術であるが、カーボンブラックからなる球状炭素粉末を使用する技術も開示されている。
また、特許文献4(特開平7−164118号公報)においては、連続鋳造用浸漬ノズルへのカーボンブラックの適用が提案されている。本技術では、極低炭素鋼鋳造における黒鉛とシリカの反応によるガス発生抑制のためにカーボンブラックを適用するものである。
【0009】
特許文献5(特開平5−309457号公報)においては、連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、アルミナ付着防止を目的として、炭素質原料の一部としてカーボンブラックの適用が提案されている。
【0010】
しかし、これらの技術はいずれも、カーボンブラックと他の耐火性原料を混ぜ合わせる時に、カーボンブラックを粉末状の状態で混合するものであり、カーボンブラックの分散性に劣るという大きな欠点がある。
カーボンブラックは、その粒子径が非常に細かく、通常最大でも0.3μ程度の粒子サイズであり、したがって、前述の先行技術の分散手法では、分散性に劣り、目的とする特性が十分に発揮されないという問題がある。
【0011】
一方、特許文献6(特開2004−67431号公報)においては、カーボンブラックを予め、バインダーとして用いるフェノール樹脂中に分散させる技術が提案されている。本手法は、フェノール樹脂中にカーボンブラックを分散させる手段として、第1の段階で、フェノール樹脂とエチレングリコール等の溶剤を混合し、第2の段階で、その混合物にカーボンブラックを分散させる方法である。本手法は、従来の手法と比較すると、耐火物中に、より均一にカーボンブラックを分散させることが出来ると考えられるが、本手法においても、未だ、耐熱スポール性向上に対する効果が十分とは言い難い。
【0012】
【特許文献1】特開平11−322405号公報(請求項5参照)
【特許文献2】特開平10−152367号公報(請求項1参照)
【特許文献3】特開平7−291712号公報(請求項4,段落[0023]参照)
【特許文献4】特開平7−164118号公報(請求項1,段落[0016]参照)
【特許文献5】特開平5−309457号公報(請求項1,3参照)
【特許文献6】特開2004−67431号公報(請求項1,[0032]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記した従来技術の欠点,問題点を改善することを目的としたものであって、炭素含有耐火物の耐熱スポール性を従来の炭素含有耐火物と比較して大きく改善することを技術課題(目的)とした、カーボンブラック分散有機溶剤、該有機溶剤を添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂および該有機樹脂を用いた炭素含有耐火物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る有機溶剤は、「カーボンブラックを分散させたこと」(請求項1)を特徴とし、これにより前記技術課題(目的)を解決したものである。
そして、本発明に係る有機溶剤は、「カーボンブラックの濃度が有機溶剤に対して5〜50重量%であること」(請求項2)、「有機溶剤がエチレングリコールであること」(請求項3)、「有機溶剤に分散剤を添加,溶解した後にカーボンブラックを分散させたこと」(請求項4)を、本発明に係る有機溶剤の好ましい実施の形態とするものである。
【0015】
本発明に係る有機樹脂は、「前記本発明に係る有機溶剤(カーボンブラック分散有機溶剤)を第1の段階で作製し、第2の段階において、第1の段階で作製した有機溶剤を有機樹脂に添加,混合してなること」(請求項5)を特徴とし、これにより前記技術課題(目的)を解決したものである。
そして、本発明に係る有機樹脂は、「有機樹脂中の、前記有機溶剤(カーボンブラック分散有機溶剤)の含有量が5〜65重量%であること」(請求項6)、「有機樹脂がフェノール樹脂またはフラン樹脂であること」(請求項7)を、本発明に係る有機樹脂の好ましい実施の形態とするものである。
【0016】
一方、本発明に係る炭素含有耐火物は、「前記本発明に係る有機樹脂(カーボンブラック分散有機樹脂)を耐火性原料に混練してなること」(請求項8)を特徴とし、これにより前記技術課題(目的)を解決したものである。
そして、本発明に係る炭素含有耐火物は、「炭素含有耐火物中の、有機溶剤起源によるカーボンブラック含有量が0.05〜2.0重量%であること」(請求項9)、「非酸化雰囲気中、1500℃でt時間加熱後の弾性率をE,1500℃で10t時間加熱後の弾性率をEとした場合、式(1):(E−E)/E≦0.2を満たす炭素含有耐火物であること(tは1≦t≦10である)」(請求項10)を、本発明に係る炭素含有耐火物の好ましい実施の形態とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、該説明と共に更に本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、第1の段階としてエチレングリコール中にカーボンブラックを分散させ、第2の段階として、第1の段階で作製したカーボンブラック分散エチレングリコールをフェノール樹脂中に分散させた場合、カーボンブラックがフェノール樹脂中に良好に分散することを見出して、本発明を完成したものである。
そして、該フェノール樹脂を用いて炭素含有耐火物を形成した場合、炭素含有耐火物の耐熱スポール性が大きく向上することを見出した。更に、該炭素含有耐火物を非酸化性雰囲気中で加熱した場合の弾性率の上昇割合が、従来の炭素含有耐火物と比較して、大きく低減できることを見出した。
【0019】
従来、炭素含有耐火物の耐熱スポール性を向上させるために、カーボンブラックを添加することが一般的に実施されている。しかし、従来の添加方法においては、カーボンブラックは、他の耐火性原料、たとえば黒鉛,アルミナ,シリカ,スピネル,マグネシア等の耐火性原料と同時に添加され、ミキサーで混練されている。その場合、混練にはハイスピードミキサーや、ウエットパン,ニーダー等の混練機械が用いられているが、カーボンブラックは粉末の状態で、他の骨材原料と同時にミキサー中に投入され、混練されることが一般的である。バインダーとして用いられる有機樹脂も、それら原料の混練時に添加されるのが通例である。
【0020】
しかし、カーボンブラックはその粒子径が非常に小さいものが多く、最大でも0.3ミクロン程度の大きさであり、他の耐火性骨材と同時に混練して、均一に分散させることは非常に困難である。また、混練実施時には、発塵防止のために集塵機を用いて集塵されることが多く、そのため、カーボンブラックは集塵機によって集塵される場合があり、所定量が配合されない可能性もある。
【0021】
炭素含有耐火物は、通常、バインダーとしてフェノール樹脂を用いて形成されることが多い。フェノール樹脂は炭素質の骨材、たとえば天然の鱗状黒鉛に非常に濡れ易いという特徴があり、黒鉛を含有する耐火物の製造にはごく一般的に使用されている。フェノール樹脂は他の耐火性骨材ともよく濡れるため、ミキシング後の耐火性骨材はフェノール樹脂によって均一に薄く被覆された状態となる。したがって、予め、フェノール樹脂中にカーボンブラックを分散させておくことができれば、最終的に、耐火性骨材の周囲に、カーボンブラックを均一に分散させることが可能となる。
しかし、通常使用しているフェノール樹脂は、その粘性が高いため、フェノール樹脂中に直接カーボンブラックを分散させることは非常に困難である。
【0022】
本発明者等は、上記点を解決するために鋭意検討を行った結果、第1の段階として、有機溶剤(フェノール樹脂に溶解可能な有機溶剤)中に、カーボンブラックを分散させ、第2の段階として、該カーボンブラックを分散させた有機溶剤をフェノール樹脂に添加,混合することにより、フェノール樹脂中にカーボンブラックを極めて良好に分散させることができるということを見出した。
このとき使用する有機溶剤としては、エチレングリコールが好適であることも本発明者等は見出した。エチレングリコールは、フェノール樹脂に容易に溶解すると共に、爆発や火災の危険性も低いため、本発明の目的に使用する溶剤として非常に好適である。また、エチレングリコールは、任意の割合でフェノール樹脂に混ぜ合わせることが可能であり、したがって、フェノール樹脂中へのカーボンブラックの添加量も広い範囲で制御することが可能である。
【0023】
なお、本発明においては、カーボンブラックを分散させるための溶剤としては、有機樹脂に溶解する溶剤であれば、特に限定するものではなく、エタノールやメタノール等の溶剤を用いることもできるが、安全性や作業性の面から、エチレングリコールをより好適に用いるものである。
【0024】
カーボンブラックをエチレングリコール中に分散させる場合、直接、分散させることも可能であるが、分散剤を用いると、高濃度のカーボンブラック分散エチレングリコールを作製することが可能となることを本発明者等は見出した。
耐火物中には一定量以上のカーボンブラックを導入する必要があり、有機溶剤中に分散させるカーボンブラックの量はできるだけ多いほうがよく、高濃度にする必要がある。
本発明者等は、種々検討した結果、分散剤を使用するとエチレングリコール中にカーボンブラックを濃度で60重量%まで分散させることが可能となった。このとき、使用する分散剤は予め有機溶剤中に添加,溶解しておくことが好ましい。分散剤を以降の工程で添加しても効果は十分ではなく、カーボンブラックを添加する前のエチレングリコール中に予め溶解させておくことが重要である。
【0025】
有機溶剤中のカーボンブラックの濃度は60重量%以上の場合は、粘性が高くなり、カーボンブラックの分散が困難となる。一方、低濃度側では、カーボンブラックの分散性に対する量的な問題はないが、低濃度であると、最終的に炭素含有耐火物中に導入するカーボンブラックの必要量を確保するために、有機樹脂を過大に添加する必要性が発生する。
本発明者等は、有機溶剤中のカーボンブラックの濃度としては、5重量%以上が好適であることを見出した。5重量%未満の場合、必要なカーボンブラック量を得るために、最終的に耐火物に添加する有機樹脂量が過大となるため、不適当である。
【0026】
カーボンブラックに関しては、その一次粒子径が数10nm〜0.3μ程度まで、非常に高範囲の粒子サイズを有しているが、本発明では、その粒子径を限定するものではなく、現在工業的に製造されている、種々の粒子径サイズを有するカーボンブラックを好適に用いることができる。なお、ここで言う粒子径は一次粒子径を示すものである。
【0027】
また、通常、カーボンブラックは非晶質であるが、本発明では、その結晶形態を特に限定するものではない。前掲の特許文献6(特開2004−67431号公報)では、黒鉛化したカーボンブラックを使用する技術が開示されている。しかしながら、本先行技術では、誘導加熱炉を使用して高温下においてカーボンブラックを黒鉛化するものであり、そのコストは非常に高いのが実情である。本発明者等は、このような黒鉛化カーボンブラックを使用しなくても、従来のカーボンブラックを使用した場合においても、本発明の技術により、耐スポール性を大きく向上させることが可能であることを見出した。
また、この特許文献6では、第1の段階で、フェノール樹脂と溶剤を混合し、第2の段階で、第1の段階で作製したフェノール樹脂に黒鉛化カーボンブラックを添加する手法をとっているが、本手法では、カーボンブラックをフェノール樹脂中に均一に分散させるのは困難である。
【0028】
カーボンブラックは、その粒子径が非常に小さく、比表面積が大きいという特徴を有している。そのため、カーボンブラック単体で、粉末状態のままでミキサー中に投入して混練するという従来の手法では、どうしても分散性に劣るという欠点がある。
しかし、本発明では、カーボンブラックをまず、液体の有機溶剤中に分散させる手法、すなわち、第1段階で、カーボンブラック分散有機溶剤を作製する手法をとっているため、カーボンブラックが有機溶剤中で、非常に良好に分散した状態を得ることができる。特に、エチレングリコールはその粘性が水に近いため、分散性が非常に良好であり、カーボンブラックを高濃度に分散させることができる。その際、本発明では、分散剤をエチレングリコールに溶解することにより、更にカーボンブラックの分散性を向上させることが可能となった。
【0029】
本発明では、次の段階として、上記カーボンブラック分散有機溶剤を有機樹脂に添加,混合する手法をとっているため、最終的に、有機樹脂中にカーボンブラックを均一に分散させることが可能となった。
本発明において、カーボンブラック分散有機溶剤を任意の割合で有機樹脂に添加することが可能であり、その量については特に限定するものではないが、カーボンブラック分散有機溶剤の含有量は5〜65重量%が好ましく、より好ましくは20〜50重量%である。
【0030】
本発明において、カーボンブラックを分散させる手順としては、上記したように、最初に、有機溶剤中にカーボンブラックを分散させ、次に、該カーボンブラック分散有機溶剤を有機樹脂に添加,混合し、最終的にカーボンブラックを均一に分散させた有機樹脂を得ることができる。
【0031】
本発明では、特にこの順序が重要であり、本発明手順以外の順序では、目的のカーボンブラック分散有機樹脂を得ることはできない。たとえば、直接に、有機樹脂中にカーボンブラックを添加して分散させる手法、あるいは、第1の段階で有機樹脂に有機溶剤を添加し、第2の段階で、第1の段階で作製した有機樹脂と有機溶剤の混合物にカーボンブラックを添加する手法では、目的のカーボンブラック分散有機樹脂を得ることはできない。また、有機樹脂に溶剤を添加する際に加熱処理を行っても、カーボンブラックを良好に分散させることは出来ないということを見出した。
【0032】
本発明では、まず、第1段階として、液体の有機溶剤にカーボンブラックを分散させることによって、高濃度のカーボンブラック分散有機溶剤を作製する。そのとき、分散剤を使用すると、より効果的となる。そして、第2の段階として、第1段階で作製したカーボンブラック分散有機溶剤を有機樹脂に添加することにより、有機樹脂中に均一にカーボンブラックを分散させることが可能となった。
【0033】
ところで、炭素含有耐火物の製造においては、通常、有機樹脂としてフェノール樹脂が用いられている。本発明においても、フェノール樹脂を好適に用いることができるが、その種類を限定するものではなく、たとえば、フラン樹脂等も好適に用いることができる。なお、フェノール樹脂には、熱硬化性タイプ(レゾール)と熱可塑性タイプ(ノボラック)があり、熱可塑性タイプでは硬化剤が必要となるが、本発明では両者のタイプのフェノール樹脂を好適に使用することができる。
【0034】
このようにして作製したカーボンブラック分散有機溶剤を有機樹脂に添加,混合し、その有機樹脂(カーボンブラック分散有機樹脂)を用いて炭素含有耐火物を製造する。最終的に、炭素含有耐火物中に含有される、本発明手法によるカーボンブラックの量は、0.05重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上である。0.05重量%未満の場合、耐スポール性の効果を十分に得ることができない。
一方、カーボンブラック含有量の上限としては、2.0重量%以下が好ましい。2.0重量%を超える場合、添加する有機樹脂量が過大となり、得られる炭素含有耐火物の緻密性が阻害されるようになり、不適当である。
【0035】
本発明の上記手法によると、カーボンブラックの分散性が著しく向上することが判明した。
カーボンブラックは、その粒子径が非常に小さいために、その分散性の程度を定量的に把握することは非常に困難である。しかしながら、本発明技術によって作製された炭素含有耐火物は、非酸化性雰囲気中で加熱した場合の弾性率の上昇割合が、本発明以外の手法で作製された炭素含有耐火物と比較して、大きく低下する。そして、その弾性率の上昇割合が、カーボンブラックの分散性の良否を判断する目安とすることができるということを見出した。
【0036】
本発明のカーボンブラック分散有機樹脂を用いて作製した炭素含有耐火物は、非酸化性雰囲気中で加熱した場合、弾性率の上昇割合を、本発明以外のフェノール樹脂を用いた炭素含有耐火物と比較して、大きく低減することができる。
本発明者等は、カーボンブラックを含有した炭素含有耐火物を電気炉に用いて、非酸化雰囲気中、1500℃での加熱実験を実施した。その結果、非酸化雰囲気中、1500℃でt時間加熱した後の弾性率をE,1500℃で10t時間加熱した後の弾性率をEとすると、本発明の炭素含有耐火物においては、「式(1):(E−E)/E≦0.2」を満たすことを見出した。
一方、同一量のカーボンブラックを含有し、組成も同一であるが、本発明外の手法によって作製された炭素含有耐火物においては、「式(2):(E−E)/E>0.2」となることを見出した。tについては、1時間≦t≦10時間の範囲で、上記式(1)を満たすことができる。
そして、上記式(1)を満足する炭素含有耐火物を使用した場合、後記実施例でも例示するように、良好な耐熱スポール性を得ることができる。
【0037】
加熱後の弾性率の上昇割合が小さいということは、加熱による耐火物の組織の変化が少ないということである。炭素含有耐火物を非酸化性雰囲気中で加熱した場合、加熱によって耐火物を構成する耐火性粒子の焼結が進行するため、弾性率が上昇していく。そして、弾性率が高いほど、耐熱スポール性が低下し、そのような状態となった煉瓦を使用した場合には、稼動面の剥離や使用初期の割れが起き易くなる。
一方、本発明に係る炭素含有耐火物は、弾性率の上昇割合が従来手法で作製した炭素含有耐火物と比較して小さく、耐熱スポール性に優れた特性を維持することができる。
【0038】
本発明に係る炭素含有耐火物の製造においては、使用する原料の種類や粒度については、特に限定するものではなく、従来使用されている耐火性原料を好適に用いることができる。たとえば、連続鋳造用の炭素含有耐火物を例にとると、アルミナ−シリカ−黒鉛系,アルミナ−黒鉛系,ジルコニア−黒鉛系耐火物が一般的に使用されているが、それらの原料の種類や粒度については特に限定するものではない。また、溶鋼鍋や溶銑鍋の内張り用炉材として使用されている、マグネシア−黒鉛系,アルミナ−炭化珪素−黒鉛系,アルミナ−スピネル−黒鉛系耐火物等においても同様である。
これらの耐火物には、通常、少量の金属粉やガラス粉,ピッチ,炭化物,硼化物等を併用することが一般的であるが、それらの少量添加物も本発明においては、好適に使用することができる。
【0039】
なお、本発明において、有機溶剤にカーボンブラックを添加する手法は、本発明による分散手段に従う限り、従来の添加手段によって任意に添加することが可能である。例えば、回転する羽を有する万能ミキサーを使用して添加,攪拌する手段やボールミルを使用して添加,攪拌する手段、振動ミルを使用して添加,攪拌する手段などのような従来の添加手段によって任意に添加することができる。
【0040】
また、本発明に係る炭素含有耐火物の混練,成形,乾燥,焼成等の各製造方法についても、その方法を限定するものではなく、従来の方法を好適に用いることができる。
【0041】
本発明に係る炭素含有耐火物の最終的な製品形態としては、成形後の乾燥のみで製品となる不焼成品、および、成形後に一度、非酸化性雰囲気中で焼成して得られる焼成品がある。また、成形を行わずに使用される、不定形耐火物もその製品形態として挙げられる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0043】
〈実施例1〜10、比較例1〜3〉
表1に示す内容で、実施例1〜10,比較例1〜3(請求項2に係る発明の範囲外)のカーボンブラック分散有機溶剤を作製した。比較例1は、有機溶剤に対するカーボンブラックの添加量が少ない例を示し、比較例2,3は、有機溶剤に対するカーボンブラックの添加量が多い例である。
使用したカーボンブラックは、A,B,Cの3種類であり、その粒子径,表面積,DBP吸油量を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
〈実施例11〜20、比較例4〜9〉
表2に示す内容で、実施例11〜20,比較例4〜9のカーボンブラック分散有機樹脂を作製した。実施例11〜20は、表1に示す実施例で作製した有機溶剤を、本発明の分散手順(表2で示す“X”手順)により添加,混合した有機樹脂である。
比較例4,7は、同じく表1に示す実施例で作製した有機溶剤を添加して作製した有機樹脂であるが、請求項6に係る発明の範囲外の例であり、このうち、比較例4は、有機樹脂に対する有機溶剤の添加量が少ない例であり、比較例7は、多い例である。比較例5,6は、表1に示す実施例で使用した有機溶剤およびカーボンブラックを用いた有機樹脂であるが、本発明以外の分散手順(表2で示す“Y”手順)により作製した本発明外の例である。比較例8は、表1に示す比較例3で作製した有機溶剤を、本発明の分散手順(表2で示す“X”手順)により添加,混合した有機樹脂である。比較例9は、フェノール樹脂に直接、カーボンブラックを添加,分散させた(表2で示す“Z”手順)、本発明外の例である。
【0046】
表2に示す実施例11〜16,19,20、比較例4〜9で使用したフェノール樹脂は、レゾールタイプであり、全て同一のものを使用した。また、実施例17,18で使用したフラン樹脂も同一のものである。さらに、カーボンブラックの分散手順は、表2に記載するとおり、“X”は本発明の手順を示し、“Y”,“Z”は本発明外の手順である。
【0047】
【表2】

【0048】
〈実施例21〜25、比較例10〜14〉
表3に示す内容で、実施例21〜25,比較例10〜14のアルミナ−シリカ−カーボン系材質の浸漬ノズルを製作した。製作した浸漬ノズルの形状を図1に示す。
実施例21〜25は、表2に示す実施例で作製した有機樹脂を用いて得られた混練物を成形して得られた浸漬ノズルである。一方、比較例10は、同じく表2に示す実施例16で作製した有機樹脂を用いたものであるが、該混練物中のカーボンブラック量(耐火物中のカーボンブラック量)が請求項9に係る発明の範囲外の例であり、比較例11,12,14は、表2に示す比較例で作製した有機樹脂を用いた例であり、比較例13は、フェノール樹脂単身を用いて得られた、本発明外の例である。
【0049】
浸漬ノズルは、表3に示す配合内容で、アルミナ−シリカ−カーボン系の混練物を作製し、これを、図1に示す浸漬ノズルの本体部1(パウダーライン部2以外の部位)に適用した。パウダーライン部2については、別途用意したジルコニア−カーボン系材質を適用した。
原料の混練は、ハイスピードミキサーを用いて行い、得られた混練物は、ゴム枠に充填した後、CIPを用いて1000Kg/cmの圧力で成形した。得られた成形体は、200℃で3時間乾燥した後、非酸化性雰囲気中、1100℃で3時間の焼成を行った。焼成後、外形の加工を行い、スポーリング試験用の浸漬ノズルを得た。また、混練物の一部を用いて、上記と同一条件でブロック状の試験片を作製し、品質測定用の試料とした。
【0050】
加工後の浸漬ノズルを用いて、溶銑浸漬によるスポーリング試験を実施した。スポーリング試験は、1600℃に保持した溶銑中に、浸漬ノズルの下端からパウダーライン部の中央まで漬かるように、常温の状態から装入し、3分間保持した後、取り出して、空冷した。スポーリング試験の結果は、表3に示した。
また、焼成後の品質について、品質測定用のブロックから試験片を切り出して、見かけ気孔率、かさ比重、曲げ強度を測定した。その結果も表3に表示した。
更に、品質測定用試料の一部を1500℃で、2時間及び20時間、非酸化性雰囲気中で加熱し、得られた試料の弾性率E(2時間後)、E(20時間後)を測定し、「(E−E)/E」を求めた。その結果についても表3に表示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3の「スポーリング試験の結果」に示すように、実施例21〜25の浸漬ノズルは、亀裂の発生が認められず、耐熱スポール性に優れていることがわかった。
これに対して、比較例11〜13の浸漬ノズルは、亀裂の発生が確認され、また、比較例10,14の浸漬ノズルは、スポーリング試験では亀裂が発生していないが、得られた焼結体の曲げ強度が低く、緻密性が低い結果であった。
【0053】
〈実施例26〜32、比較例15〜18〉
表4に示す内容で、実施例26〜32,比較例15〜18のマグネシア−カーボン系煉瓦を作製した。
すなわち、マグネシア:95重量%、黒鉛:5重量%、金属Al:1%(外掛け)、金属Si:1%(外掛け)の配合物をウエットパンで混練し、得られた混練物を1500Kg/cmの圧力で成形し、150mm×200mm×250mm形状の成形体を得た。この成形体を200℃で5時間の乾燥を行った後、切断し、一部を非酸化雰囲気中1000℃で3時間の焼成を行い、この試料を用いて品質を測定した。また、切断後の一部の試料については、非酸化性雰囲気中1500℃で3時間及び30時間の加熱を行い、弾性率を評価した。さらに、1000℃で焼成した試料を用いて、下記の各種試験を実施した。
【0054】
【表4】

【0055】
(1)スポーリング試験
得られた焼成体から、40mm×40mm×250mm形状のスポーリング試験用サンプルを切り出した。本試料を用いて、1500℃で保持した溶銑中に浸漬した。3分間保持した後、取り出して空冷し、冷却後に切断を行った。切断後の切断面に観察される亀裂の発生量を測定し、数値化を行った。その結果を表4の「スポーリング試験の結果(指数)」の項に表示した。なお、この数値(指数)が高いほうが、耐スポーリング性が悪いことを示している。
(2)耐食性試験
前記焼成体から、40mm×40mm×250mm形状の試料を切り出し、1600℃で、塩基度3.0のスラグを用いてスラグ浸食テストを行った。テスト後にスラグライン部の溶損深さを測定し、耐食性の評価を行った。その結果も併せて、表4の「耐食性」の項に示す。
【0056】
表4から、実施例26〜32は、耐スポーリング性に優れると共に、耐食性にも優れているということがわかる。一方、比較例16,18においては、焼成後の圧縮強度が低く、また、見かけ気孔率も高いため、耐食性に劣っている。更に、比較例15,17では、1500℃加熱後の弾性率が高く、耐熱スポール性に劣っている。
【0057】
〈実施例33,34、比較例19〉
表5に示す内容で、実施例33,34及び比較例19の連続鋳造用浸漬ノズルを作製した。本浸漬ノズルは、無予熱仕様の浸漬ノズルであり、予熱されること無しに常温の状態でセットされ、使用されるものである。浸漬ノズルは、図1に示す形状で作製し、本体部1に実施例,比較例の配合を適用し、パウダーライン部2は、共通のジルコニア−カーボン系材料を適用した。
実施例33,34は、表2に示す実施例11,15の有機樹脂を用いて得られた混練物を本体部に適用し、比較例19は、表3に示す比較例13の有機樹脂(フェノール樹脂単身品)を用いて得られた混練物を本体部に適用したものである。なお、従来は、カーボンブラックを分散していないフェノール樹脂を使用して製造した浸漬ノズルが実機で用いられており、そのため、比較例19として使用したものである。
【0058】
【表5】

【0059】
本実施例,比較例の浸漬ノズルに適用する本体部位の練り土は、ニーダー混練により得、得られた混練物をゴム型に充填後、CIPで1200Kg/cmの圧力で成形した。その後、200℃で5時間の乾燥を行った後、非酸化性雰囲気中1000℃で3時間の焼成を行った。焼成後品は、外形加工を行った後、酸化防止剤を塗布し、最終製品とした。
そして、本浸漬ノズルを2ストランドタイプの連続鋳造機に取り付け、無予熱の条件下で、5chまでの鋳造を行った。1chの鋳造時間は約35分であった。
【0060】
各配合を適用した浸漬ノズルを各10本使用した結果を表5に示した。その結果、表5の「使用結果」の項に示すように、実施例33,34の浸漬ノズルは、5chまでの使用において割れ等発生せず、問題なく使用された。一方、比較例19の浸漬ノズルは、10本中1本が鋳造初期において縦割れを起こし、そのストランドは鋳造が停止し、片ストランドでの鋳造となった。更に、使用後の浸漬ノズルを回収し切断調査した結果、9本中1本で、吐出孔の柱部に横亀裂が発生しているのが確認された。この結果から、本発明に係る炭素含有耐火物は、耐スポーリング性に優れた効果を有していることがわかる。
【0061】
〈実施例35、比較例20〉
実施例35として、表2に示す実施例12で作製した有機樹脂を用いて得られた混練物を適用したマグネシア−カーボン煉瓦を作製した。また、比較例20として、表3に示す比較例13で使用した有機樹脂(フェノール樹脂単身品)を用いて得られた混練物を適用したマグネシア−カーボンれんがを作製した。実施例35,比較例20とも、れんがは、黒鉛5重量%,マグネシア95重量%,金属Al:1重量%(外掛け),金属Si:1重量%(外掛け)の配合とした。
得られた実施例35および比較例20のれんがを90tの溶鋼鍋のスラグライン部に適用し、実炉での使用を行った。
なお、比較例20で用いたフェノール樹脂単身品は、従来、本溶鋼鍋において使用されているマグネシア−カーボンれんがに用いられているフェノール樹脂である。
【0062】
その結果、実施例35のマグネシア−カーボンれんがを適用した溶鋼鍋は、60chまでの耐用を示し、計画での補修となった。一方、比較例20のマグネシア−カーボンれんがを適用した鍋は、32ch使用された段階で部分的に表層部の剥離が発生しているのが確認された。本剥離は、溶鋼鍋の繰り返し使用時における熱スポーリングによって発生したものと推定される。本溶鋼鍋はその後も継続して使用されるも、計画よりも10ch短い50chで補修が必要となった。
以上のことから、本発明に係る炭素含有耐火物は、耐熱スポール性に優れるということが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、以上詳記したように、炭素含有耐火物の耐熱スポール性向上をもたらす「カーボンブラック分散有機溶剤、該有機溶剤を添加,混合してなるカーボンブラック分散有機樹脂および該有機樹脂を用いた炭素含有耐火物」を提供するものであり、その利用可能性が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】浸漬ノズルの形状を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 本体部
2 パウダーライン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤にカーボンブラックを分散させてなる、ことを特徴とするカーボンブラック分散有機溶剤。
【請求項2】
前記カーボンブラックの濃度が有機溶剤に対して5〜50重量%である、請求項1記載のカーボンブラック分散有機溶剤。
【請求項3】
前記有機溶剤がエチレングリコールである、請求項1または2記載のカーボンブラック分散有機溶剤。
【請求項4】
有機溶剤に分散剤を添加,溶解した後にカーボンブラックを分散させてなる、請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンブラック分散有機溶剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカーボンブラック分散有機溶剤を第1の段階で作製し、第2の段階において、第1の段階で作製した有機溶剤を有機樹脂に添加,混合してなる、ことを特徴とするカーボンブラック分散有機樹脂。
【請求項6】
前記カーボンブラック分散有機溶剤を有機樹脂に5〜65重量%添加,混合してなる、請求項5記載のカーボンブラック分散有機樹脂。
【請求項7】
前記有機樹脂がフェノール樹脂またはフラン樹脂のいずれかである、請求項5または6記載のカーボンブラック分散有機樹脂。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載のカーボンブラック分散有機樹脂を耐火性原料に混練してなる、ことを特徴とする炭素含有耐火物。
【請求項9】
前記炭素含有耐火物中に、請求項1〜4のいずれかに記載の有機溶剤起源によるカーボンブラックを0.05〜2.0重量%含有する、請求項8記載の炭素含有耐火物。
【請求項10】
前記炭素含有耐火物は、非酸化雰囲気中、1500℃でt時間加熱後の弾性率をE,1500℃で10t時間加熱後の弾性率をEとした場合、次の式(1)を満たす、請求項8または9記載の炭素含有耐火物。
式(1)・・・・・(E−E)/E≦0.2
[前記tは、1≦t≦10である。]

【図1】
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【公開番号】特開2006−152160(P2006−152160A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346577(P2004−346577)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】