説明

ガスセンサ

【課題】例えば携帯型やシステム組み込み型のように回路基板を内蔵する必要のあるガスセンサにおいて、良好な出力安定性が達成できるガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】検出素子を覆う金属製の有孔キャップと、この有孔キャップの孔9と対向しない位置に設けたガス導入口8を形成した金属製のケース4と、検出素子を実装した回路基板2とからなり、有孔キャップをガス導入口8近傍に固着するとともに、回路基板2をケース4に緩衝材21を介して固定した構成とすることにより、回路基板2は有孔キャップを介してケース4と1か所のみで固着されることになるため、周囲温度が変化して回路基板2の熱膨張が起こっても緩衝材21が吸収し、回路基板2に実装した部品の定数が変化することがなくなるので、出力安定性のよいガスセンサを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサのうち、検出回路を内蔵しガス濃度出力が直接得られるものが提案されている。このようなガスセンサは使用する際に極めて容易にガス濃度を知ることができるため、ガス濃度を検知したい場所まで携帯して測定したり、システムに組み込む場合も電源を供給するだけでガス濃度を検知することができてシステムの簡略化を図ることができる。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特公平6−53200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなガスセンサは、図5に示すように制御用基板112が装置本体101に内蔵固定されている。このような構造の携帯可能なガスセンサは、任意の場所でガス濃度を知ることができて利便性が向上するのであるが、このように制御用基板(回路基板)を内蔵固定したガスセンサを周囲温度変化の大きい環境下(例えば−40℃から100℃)のシステムに組み込んだところ、ガスセンサの出力が変動してしまうことがわかった。すなわち、周囲温度の変動に対してはサーミスタの出力から温度補正を行っているが、幅広い周囲温度変化を繰り返すと、同じガス濃度でも出力にずれが発生するという課題があった。特に低温領域ではガスセンサのフルスケール比25%もの誤差が発生した。これは、ガスセンサに固定した回路基板が周囲温度変化を繰り返し受けることで固定時に基板が受けていた応力が熱膨張のため変化してしまい、それにより基板表面に実装したチップ抵抗などの部品にかかる応力が変わり部品の抵抗値などの定数が変化したためである。これについてはガスセンサを駆動した状態で回路基板を指で押すだけで出力が変動することから確認した。
【0005】
以上のことから、本発明は出力安定性のよいガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、特に、被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う金属製の有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置に設けたガス導入口を形成した金属製のケースと、前記検出素子を実装した回路基板とからなり、前記有孔キャップを前記ガス導入口近傍に固着するとともに、前記回路基板を前記ケースに緩衝材を介して固定した構成とすることにより、回路基板は有孔キャップを介してケースと1か所のみで固着されることになるため、周囲温度が変化して回路基板の熱膨張が起こっても緩衝材が吸収し、回路基板に実装した部品の定数が変化することがなくなるので、出力安定性のよいガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、有孔キャップの周囲を回路基板上の前記有孔キャップの実装位置近傍に設けたグランドパターンに半田で接続したものであり、これにより、回路基板が有孔キャップを介してケースと半田により強固に固着されるとともに、有孔キャップがグランドに電気的に接続されるので、ガスセンサ外部からのノイズ(以下、外乱ノイズ)が直接検出素子に至らず、より出力安定性のよいガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0009】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に回路基板のケースとの固定部分にはグランドパターンが形成され、緩衝材を導電性ゴムで形成したものであり、これにより、熱膨張による変動を低減するとともに、ガスセンサに加わる振動による基板への応力変化に起因したノイズも低減でき、ケースと回路基板のグランドが電気的に接続されることになるので、外乱ノイズによる出力への影響を低減できるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項4に記載の発明は、特にケースの一部に貫通コンデンサを設け、この貫通コンデンサの端子をU字形状に曲げて回路基板と接続したものであり、貫通コンデンサを介して信号線を接続しているためより一層シールド効果が高まるとともに、端子のU字形状部分で振動や熱膨張に起因した回路基板への応力の影響を低減でき、より出力安定性のよいガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項5に記載の発明は、特にケースの一部で回路基板の検出素子実装部分の近傍に開口部を設け、この開口部を通して被検出ガス濃度や温度と出力との相関関係から得た補正係数を回路基板に実装したマイクロコンピュータを介して不揮発性メモリに書き込むようにしたものであり、これにより、補正係数を書き込む際に回路基板を固定した部分の近傍に書き込み用のピンを圧接できるため、圧接による回路基板への応力で実装部品の定数が変化し補正係数が狂ってしまう可能性を低減することができるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項6に記載の発明は、特に、補正係数が書き込まれた後の開口部を、段差を有する金属製の栓で封止したものであり、これにより、開口部から侵入するノイズの影響を低減できるので、さらに出力安定性のよいガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガスセンサは、上記のような構成をとることにより、回路基板は有孔キャップを介してケースと1か所のみで固着されることになるため、周囲温度が変化して回路基板の熱膨張が起こっても緩衝材が吸収し、回路基板に実装した部品の定数が変化することがなくなるので、出力安定性のよいガスセンサを構成できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施の形態を用いて、本発明の全請求項に記載の発明について説明する。なお、本実施の形態ではガス検出の原理として、ガスの持つ熱伝導率の違いを発熱素子により検知する熱伝導式ガスセンサの例を述べる。
【0015】
図1は本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図である。図2は本発明の実施の形態におけるガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図である。図3は本発明の実施の形態におけるガスセンサの概略断面図である。図4は本発明の実施の形態におけるガスセンサのガス検出部近傍の拡大断面図であり、(a)は補正係数を書き込む様子を、(b)は書き込んだ後に栓をする様子をそれぞれ示す。
【0016】
図1において、1はガス検出部であり、その端子は回路基板2に半田付けにより実装されている。なお、ガス検出部1の外周は全周に渡って回路基板2の上に設けたグランドパターンとも半田3により固着されている。これにより、ガス検出部1は電気的かつ機械的に回路基板2に固定されることになる。回路基板2はアルミダイキャストにより形成されたケース本体4aおよびケース蓋4bからなるケース4に対して4本の金属製のネジ6で固定される。その際に、回路基板2とケース本体4aの間および回路基板2とケース蓋4bの間にそれぞれネジ6が貫通する計8個の導電性ゴムからなる緩衝材21を噛ませてある。これにより回路基板2は緩衝材21を介してケース4に固定されることになる。また、回路基板2で緩衝材21が接触する部分は全てグランドパターンにしてあり、また緩衝材21は導電性を有するので、回路基板2をケース4内に固定することでケース本体4aおよびケース蓋4bもグランド共通になる。
【0017】
ケース本体4aには突起部7が設けられており、ガス検出部1を実装した回路基板2をケース本体4aに取り付けることでガス検出部1の一部が突起部7にちょうど挿入される。挿入する際にはガス検出部1の突起部7に挿入される外周部分に接着剤を塗布している。これにより挿入することでガス検出部1と突起部7の隙間が接着剤で埋まり、この部分からのガス漏れを防ぐことができる。突起部7の底面にはガス検出部1に設けた孔9の中心(すなわち、突起部7の中心)が対称点となるように4つのガス導入口8が形成されている。ガス導入口8はガス検出部1が突起部7に挿入されても孔9と対向しない位置に設けられている。
【0018】
ケース本体4aには、さらに回路基板2の信号のやり取りを行うための貫通コンデンサ10が固定されており、その端子は回路基板2をケース本体4aに挿入することでU字形状に曲げた部分を介して回路基板2と接続される。接続部分は半田付けにより固定される。
【0019】
ケース蓋4bにはガスセンサの温度補正などに必要な補正係数を回路基板2に実装したメモリに書き込むための開口部22が設けられている。開口部22には書き込み完了後に金属製の栓23が被せられる。その際、栓23には段差が設けられているので、開口部22に被せることでケース蓋4bと電気的接続が得られグランド共通になると同時に、ガスセンサ外部からの外乱ノイズが直接侵入できなくなるため、出力安定性がよくなる。栓23は開口部22に被せた後、接着剤で周囲を封止することで固定してある。
【0020】
以上述べた構造とすることにより、回路基板2はケース本体4aおよびケース蓋4bとグランドを共通にしたシールド構造の中に固定されるので、外乱ノイズに強いガスセンサが構成される。
【0021】
次に、ガス検出部1の詳細構造について図2を用いて説明する。ガス検出部1は、ベース11の上に発熱する検出素子12を接着し、金製のワイヤ13でベース11に設けたピン14と検出素子12を配線し、有孔キャップ15をベース11に被せて溶接することで構成されている。なお、有孔キャップ15の孔9の部分にはステンレス製の網16が二重に設けられている。網16は有孔キャップ15と溶接により接合されているので、網16もグランドに接続されることになる。従って、網16の部分に到達した外乱ノイズが検出素子12に至ることはなくなり、ノイズの影響を低減できる。
【0022】
検出素子12はシリコンからなる台座17をマイクロマシン加工技術により厚み約10マイクロメートルの極薄に加工した窪み部の表面上に、図示しない絶縁層と、その上につづら折れ状に形成した白金薄膜からなる発熱体18からなる。これにより発熱体18の熱容量が極めて低減され、応答性のよいガスセンサを構成することができる。発熱体18の両端はワイヤ13をボンディングするためのランド19が設けられている。なお、発熱体18やランド19の下面には図示しない絶縁層が形成されている。さらに、発熱体18の上面にも図示しない保護層が形成されている。
【0023】
次にガスセンサに被検出ガスが到達する様子を図3で説明する。被検出ガスは図3の矢印で示したようにガス導入口8を通って突起部7と有孔キャップ15の隙間に至る。被検出ガスはさらに孔9、網16を通り有孔キャップ15内に導入される。その後、検出素子12に到達することでガス濃度を検出している。このように被検出ガスが到達する構成とすることで、被検出ガスの流量が変っても検出素子12に直接被検出ガスが流入しないので、流量依存性の少ないガスセンサが構成できる。なお、突起部7に有孔キャップ15が挿入された部分には接着剤20が充填されるため、挿入部分を通って被検出ガスが回路基板2に拡散していくことはない。従って、被検出ガス中に含まれる湿気などが回路基板2に実装された部品に到達して劣化させるという不具合が発生することがなくなり、ガスセンサの信頼性を確保することができる。
【0024】
次に、ガスセンサの補正係数の書き込み方法について説明する。
【0025】
背景技術で述べたように温度の影響や、本実施の形態のような熱伝導式の場合に、例えば検出対象ガス以外の湿気などの影響を補正するために、ガスセンサにはマイクロコンピュータが内蔵されており、それに接続された不揮発性メモリに補正係数を記憶させておくことで任意の温度や湿度などの環境の変化に対しても正しいガス濃度を出力している。その補正係数は、あらかじめガスセンサを組み立てる際に被検出ガス濃度、温度、湿度などの条件が既知の環境での出力を測定することで求めている。測定後に決定された補正係数はメモリに書き込まれることで正しいガス濃度を出力するガスセンサとして機能できる。
【0026】
図4(a)に補正係数を書き込む様子を示す。前記のごとく決定された補正係数はパソコン24に接続された複数の書き込みピン25を開口部22から回路基板2上に設けられた書き込みランド26に圧接し、信号を送ることで回路基板2に実装した図示しないマイクロコンピュータを介して図示しない不揮発性メモリに書き込まれる。この際、書き込みピン25の近傍に本体ケース4と強固に固定されたガス検出部1が存在するので、書き込みピン25で回路基板2を押し付けても、その応力はほとんど回路基板2には影響を与えない。従って、補正係数を書き込む際に回路基板2に加わる応力の影響を受け、入力される補正係数の値も変化してしまうといった不具合を避けることができる。
【0027】
書き込みが完了すると、書き込みピン25を外した後、図4(b)に示すように開口部22に栓23をはめ込み、周囲を図示しない接着剤で固定することでガスセンサの組み立てが完了する。
【0028】
このような構造のガスセンサを用いて、−40℃から100℃の広い周囲温度範囲で出力の変化を測定した。その結果、繰り返し温度を変化させても出力のずれはフルスケール比5%以下で、従来の1/5まで改善されることが確認できた。これは、回路基板2がケース本体4aに強固に固定されている部分はガス検出部1に設けた有孔キャップ15が突起部7にはめ込まれている部分のみとし、回路基板2の四隅をネジ6で固定している部分は、回路基板2に設けた穴をネジ6の径よりも十分大きくして緩衝材21を介して保持し、かつ貫通コンデンサ10の端子はU字形状の曲げ部分を持った構造としているため、周囲温度が変化することによる回路基板2への熱膨張の影響は緩衝材21や端子のU字形状の曲げ部分で吸収され、回路基板2に実装した部品はほとんど回路基板2からの熱応力を受けなくなり、出力のずれが発生せず安定した出力が得られるようになった。
【0029】
さらに、ガスセンサに振動が加わっても、緩衝材21や貫通コンデンサ10の端子のU字形状曲げ部分で振動を吸収できるため、振動に起因した回路基板2への応力が加わらなくなり、回路基板2の実装部品の定数が安定し、ずれのない出力が得られた。
【0030】
なお、回路基板2のケース本体4aへの固定をガス検出部1に設けた有孔キャップ15が突起部7にはめ込まれている部分としたのは、被検出ガスが回路基板2に漏れないように突起部7に有孔キャップ15が挿入された部分に接着剤20を充填する必要があるためで、本実施の形態のガスセンサの構造では必然的に前記部分を強固に固定することになる。
【0031】
以上の構成、動作により、出力安定性のよいガスセンサが得られた。
【0032】
なお、本実施の形態では熱伝導式ガスセンサの例を説明したが、他の原理のガスセンサにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明にかかるガスセンサは、回路基板を1か所のみで強固に固定したことにより、良好な出力安定性が達成できるという効果を有し、特に回路基板を内蔵する必要のある携帯型やシステム組み込み型のガスセンサへの適用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図
【図2】同ガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図
【図3】同ガスセンサの概略断面図
【図4】(a)同ガスセンサのガス検出部近傍で補正係数を書き込む様子の拡大断面図、(b)同ガスセンサのガス検出部近傍で補正係数を書き込んだ後に栓をする様子の拡大断面図
【図5】背景技術におけるガスセンサの断面図
【符号の説明】
【0035】
1 ガス検出部
2 回路基板
3 半田
4 ケース
4a ケース本体
4b ケース蓋
6 ネジ
7 突起部
8 ガス導入口
9 孔
10 貫通コンデンサ
11 ベース
12 検出素子
13 ワイヤ
14 ピン
15 有孔キャップ
16 網
17 台座
18 発熱体
19 ランド
20 接着剤
21 緩衝材
22 開口部
23 栓
24 パソコン
25 書き込みピン
26 書き込みランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う金属製の有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置に設けたガス導入口を形成した金属製のケースと、前記検出素子を実装した回路基板とからなり、前記有孔キャップを前記ガス導入口近傍に固着するとともに、前記回路基板を前記ケースに緩衝材を介して固定した構成のガスセンサ。
【請求項2】
有孔キャップの周囲を回路基板上の前記有孔キャップの実装位置近傍に設けたグランドパターンに半田で接続した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
回路基板のケースとの固定部分にはグランドパターンが形成され、緩衝材を導電性ゴムで形成した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
ケースの一部に貫通コンデンサを設け、この貫通コンデンサの端子をU字形状に曲げて回路基板と接続した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
ケースの一部で回路基板の検出素子実装部分の近傍に開口部を設け、この開口部を通して被検出ガス濃度や温度と出力との相関関係から得た補正係数を回路基板に実装したマイクロコンピュータを介して不揮発性メモリに書き込むようにした請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
補正係数が書き込まれた後の開口部を、段差を有する金属製の栓で封止した請求項5に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−208078(P2006−208078A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18059(P2005−18059)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】