説明

ガス分離膜、その製造方法、それを用いたガス分離膜モジュール

【課題】優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、かつ高い膜強度を示し、さらにBTXが混入している混合ガスの分離に対して膜寿命が長期化されたガス分離膜、その製造方法、それを用いたガス分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜であって、前記分離層は相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造は、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造であり、前記相互貫入型網目構造のポリマーが、少なくとも、前記第一のポリマーと、この存在下で特定モノマーを重合せた特定の構造の前記第二のポリマーとで構成されたガス分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜、その製造方法、それを用いたガス分離膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の高分子化合物から構成された膜によって、所望の気体成分を選択的に透過させ、その気体成分を分離する分離膜がある。その産業上の利用態様として、地球温暖化の問題と関連し、火力発電所やセメントプラント、製鉄所高炉等の大規模な二酸化炭素発生源からこれを分離回収することが検討されている。この膜分離技術は、比較的小さなエネルギーで達成できる環境問題の解決手段として着目されている。一方、天然ガスやバイオガス(生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚水、ゴミ、エネルギー作物などの発酵、嫌気性消化により発生するガス)は主としてメタンと二酸化炭素の混合ガスである。その二酸化炭素等を除去する手段としても、上記膜分離法の利用が検討されている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
前記特許文献2に記載されたガス分離方法に適用される膜はポリイミド製のものであるが、さらにこれを架橋した架橋樹脂とすることが提案されている(特許文献3,4、非特許文献1参照)。これによりガス分離の選択性や膜の耐可塑性が高まるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297605号公報
【特許文献2】特開2006−297335号公報
【特許文献3】米国特許出願公開2009/0318620号明細書
【特許文献4】米国特許第7247191号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】European Polymer Journal,1997(33)pp.1717-1721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特に二酸化炭素をメタン等から分離する際の技術課題に着目し、さまざまなガス分離特性や膜の物性変化、分離挙動について調査分析を行い、素材等に関する研究を行った。すると、ガス分離膜の寿命を左右する因子として、水分ではなく、むしろこの系の混合ガスにおいては、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン系有機成分)が関与していることを突き止めた。これに対して、上記架橋ポリイミドでは十分ではなく(後記比較例参照)、さらに膜強度の向上及び長寿命化が望まれた。
【0007】
上記の点を考慮し、本発明は、優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、かつ高い膜強度を示し、さらにBTXが混入している混合ガスの分離に対して膜寿命が長期化されたガス分離膜、その製造方法、それを用いたガス分離膜モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜であって、前記分離層は相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造は、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造であり、
前記相互貫入型網目構造のポリマーが、少なくとも、前記第一のポリマーと、この存在下で特定モノマーを重合せた前記第二のポリマーとで構成され、当該第二のポリマーが、アクリレート重合体、メタクリレート重合体、アクリルアミド重合体、及びそれらを組み合わせた共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であるガス分離膜。
(2)前記特定モノマーが、少なくとも2つの重合性基を有する(1)に記載のガス分離膜。
(3)前記第一のポリマーには連結前の反応性基があり、当該反応性基を介して前記特定モノマーと共有結合して連結し、前記第一のポリマーと第二のポリマーとがなす相互貫入型網目構造を構成している(1)または(2)に記載のガス分離膜。
(4)前記分離層の厚さを0.05μm〜10μmとした(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス分離膜。
(5)前記第一のポリマーの重量平均分子量を1.0×10〜1.0×10とした(1)〜(4)のいずれか1項に記載のガス分離膜。
(6)前記第一のポリマー100質量部に対して、前記第二のポリマーが0.1〜50質量部となるように前記特定モノマーを適用した(1)〜(5)のいずれか1項に記載のガス分離膜。
(7)支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜の製造方法であって、前記分離層が相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造として、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造を形成するに当たり、
前記第一のポリマーと、前記第二のポリマーをなす特定モノマーとして、アクリレート基、メタクリレート基、及びアクリルアミド基から選ばれる重合性基を有するモノマーとを含有する混合溶液を準備する工程と、
該混合溶液を支持体層上に塗布する工程と、
前記塗布後、前記特定モノマーを重合させる工程とを含み、当該重合工程において、前記特定モノマーが重合されるとともに、前記第一のポリマーには前記特定モノマーと共有結合可能な反応性基があり、この反応性基を介して前記特定モノマーと共有結合して連結し、前記相互貫入型網目構造を形成する
ガス分離膜の製造方法。
(8)前記特定モノマーとして、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、またはアクリルアミドモノマーを用いる(7)に記載のガス分離膜の製造方法。
(9)前記特定モノマーが、少なくとも2つの重合性基を有する(7)または(8)に記載のガス分離膜の製造方法。
(10)前記混合溶液に重合開始剤を含有させる(7)〜(9)のいずれか1項に記載のガス分離膜の製造方法。
(11)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のガス分離膜を具備するガス分離モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガス分離膜、その製造方法、それを用いたガス分離膜モジュールは、優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い膜強度を有し、高温・高圧条件でのガス分離にも好適に対応することができる。また、BTXが混入している混合ガスの分離に対して耐性を示し、長寿命を示すという優れた作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のガス分離複合膜の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のガス分離複合膜の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】IPNポリマーの合成形態と構造例を模式的に示した説明図である。
【図4】一般的な架橋体の合成形態と構造を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガス分離膜は、支持層と該支持層の上側に形成された分離層とを具備するガス分離機能を有する複合膜であって、前記分離層が、相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなる。ここで、前記相互貫入型網目構造(IPN:interpenetrating polymer network)とは、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造を言う。以下に、本発明について、その好ましい実施形態を中心に図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
[複合膜の構成]
図1は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜10を模式的に示す断面図である。11はガス分離層、12は多孔質層からなる支持層である。図2は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜20を模式的に示す断面図である。この実施形態では、ガス分離層11及び多孔質層12に加え、支持層として不織布層13が追加されている。このような形態の複合膜は、多孔質性の支持層の少なくとも表面に、上記のガス分離層をなす塗布液(ドープ)を塗布し(本明細書において塗布とは浸漬により表面に付着される態様を含む意味である。)、任意の方法で硬化させることが好ましい。なお、支持層上側とは、支持層とガス分離層との間に他の層が介在してもよい意味である。なお、上下の表現については、特に断らない限り、分離対象となるガスが供給される方向を「上」とし、分離されたガスが出される方向を「下」とする。
【0013】
[相互貫入型網目構造(IPN)]
本発明のガス分離膜において分離層を構成する相互貫入型網目構造のポリマー(以下、IPNポリマーということがある。)は、上述のように第一のポリマーと第二のポリマーとが連結した網目構造を有する。この特有の形態は、その合成過程からみることでより明確に理解できるため、その点を踏まえ添付の図面を参照して以下に説明する。なお、一般的なIPNにおいては結合を介してポリマーどうしが連結されている必要はないが、本発明では共有結合を介して連結することが必須であり、その前提で図示している。
【0014】
図4はIPNポリマーとは異なる通常の架橋樹脂の形態を模式的に示した説明図である。この形態では、Aポリマー1が存在するところに、架橋剤9を添加し(図4(a))、架橋反応を通じて架橋鎖9aにより連結された架橋体90としている(図4(b))。ここで示したように、通常架橋樹脂は1種のポリマーから構成されるものである。これを2種以上のものとするためには、2種のポリマーを分子レベルで均一に混合することが必要であるが、通常異種のポリマーは然様には相溶せず、2種以上のポリマーからなる網目構造の架橋体を形成することは困難である。
【0015】
図3はIPNポリマーの合成及び構造に係る一例を模式的に示した説明図である。同図に示したように、IPNポリマーの合成には、典型的には、Aポリマー1が存在する系に特定のBモノマー3を添加し(図3(a))、Aポリマー1の存在下で前記Bモノマー3を重合させる(図3(b))。この例では、Bモノマー3が重合してBポリマー3aを構成するとともに、Bモノマー3とAポリマー1とが結合し、さらにBモノマー3の一部が別のBモノマー3と結合することで連結鎖3bを形成している。その結果、2種のポリマーが分子レベルで混在して網目状に連結されたIPNポリマー100を構成している。このときの結合は共有結合である。
【0016】
図示した形態及び上記の例示説明はあくまで模式的に反応及び樹脂構造を理解するためのものであり、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、相互貫入型網目構造(IPN)にいついては、nature materials 2006.5,PP.494−501などを参照することができる。
【0017】
(第一のポリマー)
本発明において第一のポリマーは、特に限定されないが、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリエチレングリコール樹脂からなる群から選ばれる1種であることが好ましい。本発明のガス分離膜において、
【0018】
より具体的には、Huntsman Advanced Materials社よりMatrimid(登録商標)の商標で販売されているMatrimid(Matrimid(登録商標)5218は、Matrimid(登録商標)の商標で販売されている特定のポリイミドポリマーを指す)およびHP Polymers GmbH社よりそれぞれ商品名P84および商品名P84HTで販売されているP84またはP84HT等のポリイミド類、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース類、ポリジメチルシロキサン類、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(新中村化学社製)の重合したポリマーなどのポリエチレングリコール類、また、特表2010−513021に記載のポリマーなどを選択することができる。
【0019】
(分子量)
本実施形態の第一の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量で1.0×10〜1.0×10が好ましく、1.0×10〜5.0×10がより好ましい。この分子量を前記下限値以上とすることで、はじきなどによる欠陥を低減でき、性能を安定させることができ好ましい。一方、前記上限値以下とすることで、調液時に溶媒に溶解しやすくなり、製造適性が向上することができ好ましい。
【0020】
分子量及び分散度は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定した値とし、分子量はポリスチレン換算の重量平均分子量とする。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリドンのアミド系溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒が挙げられる。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。使用可能温度が高いカラムを用いて50℃〜200℃で測定をおこなうこともできる。なお、使用するカラム及びキャリアは測定対象となる高分子化合物の物性に応じて適宜選定することができる。
【0021】
(第二のポリマー)
本発明において前記第二のポリマーは、少なくとも、アクリレート重合体、メタクリレート重合体、アクリルアミド重合体、及びそれらを組み合わせた共重合体からなる群から選ばれる1種である。この第二のポリマーは上述のとおり、第一のポリマーの共存下で次項で述べる特定モノマーを重合させてなることが好ましい。そのため、その重合体の構造は後記特定モノマーの種類により定まるものであり、その好ましい範囲も前記モノマーに対応したものである。
【0022】
(特定モノマー)
前記第二のポリマーをなす特定モノマーが、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基から選ばれる重合性基を有するモノマーとからなる群から選ばれるものであることが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、1−ヒドロキシ−2−プロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−1−プロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル等のグリシジル(メタ)アクリレート類;アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の第一アミン(メタ)アクリレート類;ウレタン(メタ)アクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、エタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類;アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド等の(メタ)アクリル酸クロライド類、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFのジアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM208」)、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのジアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM210」)、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAのジアクリレート(例えば共栄社化学(株)製「ライトアクリレートBP−4PA」)、エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸のジアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM215」)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM225」)、ポリエチレングリコールジアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM240」)、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート(例えば共栄社化学(株)製「ライトアクリレートPTMGA−250」)、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM233」)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(例えば共栄社化学(株)製「ライトアクリレートDCP−A」)、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル(例えば共栄社化学(株)製「ライトアクリレートBA−134」)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(例えば共栄社化学(株)製「ライトアクリレートHPP−A」)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM305」)、トリメチロールプロパントリアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM309」)、アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM310」、「アロニックスM350」)、エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸のトリアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM315」)、グリセリントリアクリレート、アルキレンオキサイド変性グリセロールのトリアクリレート(例えば日本化薬(株)製「カヤラッドGPO−303」)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM450」)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM400」)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM458」)、ウレタンアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM1100」、「アロニックスM1200」、「アロニックスM1600」)、ポリエステルアクリレート(例えば東亞合成(株)製「アロニックスM6100」、「アロニックスM7100」)、アルキレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(例えば共栄社化学(株)製「エポキシエステル70PA」)、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(例えば昭和高分子(株)製「リポキシVR60」)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂のアクリル酸付加物(例えば昭和高分子(株)製「リポキシH600」)、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(例えば昭和高分子(株)製「リポキシSP510」)等の多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記第一のポリマーの含有量と第二のポリマーの含有量との比率、換言すると前記第一のポリマーの含有量と特定のモノマーの適用量との比率は特に限定されないが、前記第一のポリマー100質量部に対して、特定のモノマーを0.1質量部以上で適用することが好ましく、0.5質量部以上で適用することがより好ましい。上限は特に限定されないが、前記第一のポリマー100質量部に対して、特定のモノマーを50質量部以下で適用することが好ましく、45質量部以下で適用することがより好ましく、40質量部以下で適用することがより好ましい。両者の量を上記の範囲とすることでネットワーク化の効果が際立ち、膜強度等において優れた特定が発揮され好ましい。
【0024】
[分離層の厚さ]
前記分離層の膜厚T(図1、図2参照)は、0.05μm以上であることが好ましく、0.08μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが特に好ましい。上限値は特に制限されないが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。この厚さを前記下限値以上とすることで、異物やはじきなどの欠陥が低減でき、性能が安定する点で好ましい。一方、前記上限値以下とすることで、ガス透過性能が高く保つことができ好ましい。
【0025】
本明細書において膜ないし各層の厚さは、特に断らない限り、支持層を含めた膜全体を液体窒素で凍結した後、割断したサンプル、もしくは、ウルトラミクロトームによる切削などにより作成した超薄切片サンプルを、高倍率のTEMやSEMにより観察することで解析する。
【0026】
[支持層]
支持層に好ましく適用される多孔質支持体は、機械的強度及び高気体透過性の付与に合致する目的のものであれば、特に限定されるものではなく有機、無機どちらの素材であっても構わないが、好ましくは有機高分子の多孔質膜であり、その厚さは1〜3000μm、好ましくは5〜500μmであり、より好ましくは5〜300μmである。この多孔質膜の細孔構造は、通常平均細孔直径が10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下であり、空孔率は好ましくは20〜90%であり、より好ましくは30〜90%である。また、その気体透過率は二酸化炭素透過速度で3×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であることが好ましい。多孔質膜の素材としては、従来公知の高分子、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等の各種樹脂を挙げることができる。なかでも、高い膜強度、高いガス透過性と分離選択性とを同時に達成する観点から、支持層が、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシドからなるものであることが好ましい。多孔質膜の形状としては、平板状、スパイラル状、管状、中空糸状などいずれの形状をとることができる。
【0027】
この支持層は上述したように薄く、多孔質な素材であることが、十分なガス透過性を確保することができ好ましい。また、後述するガス分離層の優れたガス分離選択性を最大限に引き出すためにも、薄膜多孔質の形態が好ましい。一方、ガス分離膜の成形に高温・長時間等のシビアな反応条件が課される場合には、上述した薄く多孔質の支持層を損傷し、複合膜として十分な性能を発揮できない場合がある。かかる観点から、本発明が採用するラジカル架橋性のポリイミド化合物を利用したガス分離複合膜は穏和な条件で製膜することができ、優れた効果を発揮し、製造適正と、製品質との両面で高い性能を発揮しうるものである。
【0028】
本発明においては、ガス分離層を形成する支持層の下部にさらに機械的強度を付与するために支持体が形成されていることが望ましい。その支持体としては、織布、不織布、ネット等が挙げられるが、製膜性およびコスト面から不織布が好適に用いられる。不織布としてはポリエステル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリアミド等からなる繊維を単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。不織布は、例えば、水に均一に分散した主体繊維とバインダー繊維を円網や長網等で抄造し、ドライヤーで乾燥することにより製造できる。また、毛羽を除去したり機械的性質を向上させたり等の目的で、不織布を2本のロール挟んで圧熱加工を施すことも好ましい。
【0029】
[ガス分離膜の製造方法]
本発明のガス分離膜は、支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜の製造方法であって、前記分離層が相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造として、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造を形成するに当たり、
前記第一のポリマーと、前記第二のポリマーをなす特定モノマーとして、アクリレート基、メタクリレート基、及びアクリルアミド基から選ばれる重合性基を有するモノマーとを含有する混合溶液を準備する工程と、
該混合溶液を支持層上に塗布する工程と、
前記塗布後、前記特定モノマーを重合させる工程とを含み、当該重合工程において、前記特定モノマーが重合されるとともに、前記第一のポリマーには前記特定モノマーと共有結合可能な反応性基があり、この反応性基を介して前記特定モノマーと共有結合して連結し、前記相互貫入型網目構造を形成するガス分離膜の製造方法によって製造されたものであることが好ましい。
【0030】
(第一のポリマーの溶液)
・溶媒
前記第一のポリマーを溶解させる溶媒は特に限定されないが、
(1)エステル類、例えば酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、アルキルエステル類、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチルなどの3−オキシプロピオン酸アルキルエステル類;3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等;
(2)エーテル類、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、等;
(3)ケトン類、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等;芳香族炭化水素類、例えばトルエン、キシレン
等が挙げられる。
【0031】
・濃度
第一のポリマーを含有させる濃度は特に限定されないが、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.75質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。上限値は特に限定されないが、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。この濃度を前記下限値以上とすることで、支持体へ染み込みすぎず製膜することができ好ましい。一方、前記上限値以下とすることで、液粘度が向上しすぎず塗布適性を保ったまま製膜することができ好ましい。なお、本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、上記第一のポリマーを二種以上併用してもよく、これ以外の添加剤等を使用してもよい。
【0032】
(特定モノマーの溶液)
・溶媒
本発明において特定モノマーを溶解する溶媒としては、前記第一のポリマーで利用したものと同様のものを利用することができる。
【0033】
・濃度
特定モノマーを含有させる濃度は特に限定されないが、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.025質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。上限値は特に限定されないが、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。この濃度を前記下限値以上とすることで、IPNを作製することができ好ましい。一方、前記上限値以下とすることで、モノマー重合体が凝集することなく製膜することができ好ましい。なお、本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、上記特定モノマーを二種以上併用してもよく、これ以外の添加剤等を使用してもよい。
【0034】
(重合反応)
特定モノマー溶液中の特定モノマーを重合させる反応形態は特に限定されない。採用される特定モノマーの種類や、重合開始剤の種類に応じて、適宜、熱重合反応を利用しても、光重合反応を利用してもよい。熱を付与して重合反応を進行させる場合には、代表的な化合物を想定するときには、40〜200℃に反応系内を加熱することが好ましい。光の照射により重合反応を進行させる場合には、上記化合物の種類に応じて所定の活性エネルギー線を照射すればよく、具体的には紫外線を照射して重合反応を行う態様が挙げられる。
【0035】
(重合開始剤)
特定モノマー溶液には重合開始剤を含有させることが好ましい。
熱によって開裂して開始ラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド及びメチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ジイソブチリルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノールパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド及びm−トルイルベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキセンなどのジアルキルパーオキサイド類;1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチル)シクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキサン及び2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール類;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオジカーボネート、α−クミルペルオキシネオジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオジカーボネート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエート及びジブチルペルオキシトリメチルアジペートなどのアルキルパーエステル類;ジ−3−メトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス(1,1−ブチルシクロヘキサオキシジカーボネート)、ジイソプロピルオキシジカーボネート、t−アミルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート及び1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボキシ)ヘキサンなどのパーオキシカーボネート類;1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン及び(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネートなどが挙げられる。
アゾ系(AIBN等)の重合開始剤として使用するアゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリック酸、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等が挙げられる(特開2010−189471など参照)。
【0036】
ラジカル重合開始剤として、上記の熱ラジカル重合開始剤の他に、光、電子線又は放射線で開始ラジカルを生成するラジカル重合開始剤を用いることができる。
このようなラジカル重合開始剤としては、ベンゾインエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン〔IRGACURE651、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン〔IRGACURE184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン〔DAROCUR1173、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン〔IRGACURE2959、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン〔IRGACURE127、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン〔IRGACURE907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1〔IRGACURE369、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モノホリニル)フェニル]−1−ブタノン〔IRGACURE379、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド〔DAROCUR TPO、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド〔IRGACURE819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム〔IRGACURE784、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]〔IRGACURE OXE 01、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)〔IRGACURE OXE 02、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商標〕などを挙げることができる。
これらのラジカル重合開始剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも好ましくは、パーオキサイド化合物が挙げられ、パーブチルO(t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油(株)社製)などを用いることができる。
重合開始剤の含有量は特に限定されないが、0.1〜5質量%で適用することが好ましい。
【0037】
(製膜方法)
本発明の好ましいガス分離膜の製膜方法は、前記第一のポリマーと特定モノマーの混合溶液を調液する工程と、前記混合溶液を塗布する工程と、塗布後前記特定モノマーを重合させる工程とを含んでなる。本実施形態においては、前記混合溶液を準備し、支持体に塗布後、溶媒が完全に乾燥しない時期に、特定モノマーを光重合することが好ましい。
【0038】
[ガス混合物の分離方法]
本発明のガス混合物の分離方法は、少なくとも一種の酸性ガスを含むガス混合物から酸性ガスを気体分離膜によって分離する方法において、本発明のガス分離膜又は前記複合膜を用いることができる酸性ガスが二酸化炭素又は硫化水素であることが好ましい。このように、本発明の分離膜はガス(気体)を分離する膜であるが、超臨界流体等の分離膜であってもよい。対象となる超臨界流体としては、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
【0039】
本発明の分離膜を用いる気体の分離方法において、原料の気体混合物の成分は特に規定されるものではないが、ガス混合物の主成分が二酸化炭素及びメタン、又は二酸化炭素及び水素であることが好ましい。ガス混合物が二酸化炭素や硫化水素のような酸性ガス共存下で特に優れた性能を発揮し、好ましくは二酸化炭素とメタン等の炭化水素、二酸化炭素と窒素、二酸化炭素と水素の分離において優れた性能を発揮する。そして、上述のとおり、分離する混合ガス中にBTXが含まれるような場合に本発明が高い効果を発揮して、良好なガス分離性を維持して、膜の長寿命化を図ることができる。
【0040】
とりわけ、供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、200kPaにおける二酸化炭素の透過度Q[CO](透過速度)が10GPU超であることが好ましく、10〜500GPUであることがより好ましい。二酸化炭素とメタンとの分離選択性α(透過速度比)(PCO2/PCH4)は10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。上限値は特にないが、分離選択性は100以下であることが実際的である。
【0041】
本発明においてガス分離膜の強度は特に限定されないが、IPNポリマーを適用することにより高い強度のものを提供できることが本発明の利点のひとつである。ガス分離膜のなかでも、分離層の強度が高まることが好ましく、分離層の具体的な強度を挙げると、2250MPa以上であることが好ましく、2500MPa以上であることがより好ましい。上限値は特にないが、10000MPa以下であることが実際的である。ここでの強度の値は後記実施例で採用した試験条件によるものとする。
【0042】
[ガス分離膜モジュール・気体分離装置]
本発明のガス分離膜は多孔質支持体と組み合わせた複合膜とすることが好ましく、更にはこれを用いた分離膜モジュールとすることが好ましい。また、本発明のガス分離膜、複合膜又は分離膜モジュールを用いて、ガスを分離回収又は分離精製させるための手段を有する気体分離装置とすることができる。
本発明のガス分離膜はモジュール化して好適に用いることができる。モジュールの例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などが挙げられる。また本発明の高分子膜は、例えば、特開2007−297605号に記載のような吸収液と併用した膜・吸収ハイブリッド法としての気体分離回収装置に適用してもよい。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
<分離膜(1)の作製>
第一のポリマーとして、非特許文献1に記載のPolyamic acid 6FDA/MEDAを熱架橋することにより得られるPolyimide 6FDA/MEDAを合成し、その5質量%、特定モノマーとして、0.8質量%のM−315(商品名:東亞合成社製、エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリアクリレート)及び0.01質量%の重合開始剤(Irgacure184、BASF社製)を含むTHF(テトラヒドロフラン)混合溶液を組成物として調製した。この組成物を、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製、不織布上にポリアクリロニトリル多孔質膜が存在、不織布含め、膜厚は約180μm厚)を支持体として、塗布後、直ちにUV照射(2.2J/cm)を行い、重合させ、乾燥させることで、分離膜101を作製した(表1)。なお、MEDAは2-(methacryloyloxy)ethyl-3,5-diaminobenzoateを意味する。
【0044】
第一のポリマー、特定モノマー、重合開始剤、を表1のものに変更した以外は分離膜101と同様にして、分離膜102〜104を作製した(表2)。
【0045】
【表1】

*繰り返し単位数9のポリエチレングリコールジアクリレートを用いた。
【0046】
前記モノマーM−315を用いない以外実施例1と同様にして、分離膜c11を作製した。なお、本試料が前記非特許文献1(European Polymer Journal,1997(33)pp.1717-1721)に相当するものとなる。
【0047】
−ガス分離評価1−
前記で製膜した各分離膜を用いて二酸化炭素ガスの分離性能について、以下のように評価した。
支持層ごと直径47mmに切り取り、PTFEメンブレンフィルターで挟んで透過試験サンプルを作製した。テストガスとしてCO/CH:50/50(容積比)の混合ガスを相対湿度0%、流量300ml/分、温度40℃、全圧200kPaで、前記の各サンプル(有効面積2.40cm)に供給し、透過側にArガス(流量90ml/分)をフローさせた。透過してきたガスをガスクロマトグラフで分析し、CO透過速度と分離係数を算出した。その値を表2に示す。
【0048】
−膜強度評価−
製膜した各分離膜を支持体から剥離し、引張試験(引張試験機:SHIMADZU社製)を行い、弾性率を測定した。試験条件は、引張速度10mm/min、チャック間距離25mm、25℃50%RHで行った。その結果を表2に示す。
【0049】
−膜寿命−
ガス分離評価1において、100時間後の分離係数の減少率を、本願の膜寿命として、評価した。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
*1 透過流速単位:1×10-6cm3(STP)/(s・cm2・cmHg)
*2 α=Q(CO2)/Q(CH4)
【0052】
本発明の分離膜は、高い透過度(透過速度)と良好な分離選択性とともに、大幅に長期化された膜強度及び寿命を示した(実施例101〜104、比較例c11を対比参照)。この結果より、BTXを含む系におけるガス分離において、本発明の分離膜は高い性能を発揮し、しかもその膜寿命の長さからオペレーションコストを削減するとともに、メンテナンスに係る作業を改善しうるものであることが分かる。また、高い膜強度を有するため、強度が求められる使用条件にも好適に対応して良好なガス分離を行うことができ、アプリケーションの拡大に資することが分かる。
【0053】
(実施例2)
−モジュール化−
実施例1で作製した分離膜を用いて、特開平5−168869を参考に、スパイラル型モジュールを作製した。作製した本発明の分離モジュールは、内蔵する分離膜の性能の通り良好なものであることを確認した。
【符号の説明】
【0054】
11 ガス分離層
12 支持層(多孔質層)
13 不織布層
10、20 ガス分離複合膜
1 Aポリマー
3 Bモノマー
3a Bポリマー3a
3b 連結鎖
9 架橋剤
90 架橋体
100 IPNポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜であって、前記分離層は相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造は、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造であり、
前記相互貫入型網目構造のポリマーが、少なくとも、前記第一のポリマーと、この存在下で特定モノマーを重合せた前記第二のポリマーとで構成され、当該第二のポリマーが、アクリレート重合体、メタクリレート重合体、アクリルアミド重合体、及びそれらを組み合わせた共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であるガス分離膜。
【請求項2】
前記特定モノマーが、少なくとも2つの重合性基を有する請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
前記第一のポリマーには連結前の反応性基があり、当該反応性基を介して前記特定モノマーと共有結合して連結し、前記第一のポリマーと第二のポリマーとがなす相互貫入型網目構造を構成している請求項1または2に記載のガス分離膜。
【請求項4】
前記分離層の厚さを0.05μm〜10μmとした請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離膜。
【請求項5】
前記第一のポリマーの重量平均分子量を1.0×10〜1.0×10とした請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分離膜。
【請求項6】
前記第一のポリマー100質量部に対して、前記第二のポリマーが0.1〜50質量部となるように前記特定モノマーを適用した請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分離膜。
【請求項7】
支持層と該支持層の上側に形成された樹脂からなる分離層とを具備するガス分離膜の製造方法であって、前記分離層が相互貫入型網目構造のポリマーを含有してなり、前記相互貫入型網目構造として、第一のポリマーと第二のポリマーとが少なくとも共存し、両者が共有結合を通じて連結した網目構造を形成するに当たり、
前記第一のポリマーと、前記第二のポリマーをなす特定モノマーとして、アクリレート基、メタクリレート基、及びアクリルアミド基から選ばれる重合性基を有するモノマーとを含有する混合溶液を準備する工程と、
該混合溶液を支持体層上に塗布する工程と、
前記塗布後、前記特定モノマーを重合させる工程とを含み、当該重合工程において、前記特定モノマーが重合されるとともに、前記第一のポリマーには前記特定モノマーと共有結合可能な反応性基があり、この反応性基を介して前記特定モノマーと共有結合して連結し、前記相互貫入型網目構造を形成する
ガス分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記特定モノマーとして、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、またはアクリルアミドモノマーを用いる請求項7に記載のガス分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記特定モノマーが、少なくとも2つの重合性基を有する請求項7または8に記載のガス分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記混合溶液に重合開始剤を含有させる請求項7〜9のいずれか1項に記載のガス分離膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分離膜を具備するガス分離モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−111565(P2013−111565A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263068(P2011−263068)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】