説明

ガラス引き戸

【課題】防水性能及び外観を長期間良好に維持でき、かつガラスビードの破断発生を防止して耐久性に優れたガラス引き戸を提供する。
【解決手段】両側に配される縦框2、及びこの双方の縦框2の上端、下端の間を継ぐ上框3、下框4を含み、かつ内周面に内に向くガラス支持溝5を周設した矩形の外周枠と、前記外周枠の内側に配され、周縁部が前記ガラス支持溝5内に挿入されるガラス板7と、前記ガラス支持溝5内に装着されて、ガラス板8を水密的に支持しうる軟質のガラスビード8とからなるガラス引き戸1であって、前記ガラスビード8とガラス支持溝5の底部との間隙に縦長の弾性スペーサ9が挿入されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅など建築物の開口部に取り付けられて、この開口部内をスライドして開閉するガラス引き戸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のガラス引き戸は、例えば図5に示すように、外周枠aの内側に形成されたガラス支持溝bに、ガラス板dの周縁部を挿入して構成される。そしてこのとき、前記ガラス支持溝bとガラス板dとの間に、弾性材料で形成されたガラスビードeを介装し、これによりガラス板dをガタツキなく安定支持するとともに水密性能を維持している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−124389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガラス板dの上下及び左右の巾寸法、及び外周枠aの内法寸法は、加工上の誤差などによりバラツキがある。この誤差を吸収してスムースな組み立てを行うため、ガラス板dの縁部と前記ガラス支持溝bの底面部との間に一定の間隙fができるよう、前記外周枠a及びガラス板dの寸法を設定している。
【0005】
他方、ガラス引き戸の開閉の際に、レール上をスライド移動するガラス引き戸が開口枠の戸当りに衝突する時、重いガラス板dの慣性力によって、ガラスビードeに対して衝撃的な圧力が作用する。そして、この衝撃力を受けたガラスビードeには、圧縮、引張りなどの応力が生じ、ガラス引き戸が反復して開閉操作されると、ガラスビードeに繰り返し応力が負荷される。その結果、ガラスビードeに伸びなど変形を生じ、更にはこの変形により、ガラスビードeがガラス支持溝b内で偏りを起こし、或いはガラスビードeとガラス板dとの間に隙間が生まれる。そのためガラス引き戸は、水密性能を損ない、かつ見栄えを低下させるという問題を生じる。更にガラスビードeは、経年変化により弾性が至第に低下して硬くなるため、前記変形、応力の繰り返しにより破断を生じ易く、この場合にはガラスビードeの取り替えなどのメンテナンスが必要となる。
【0006】
本発明は、ガラスビードと支持溝の底部との間に形成される間隙に弾性スペーサを挿入することを基本とし、防水性能及び外観を長期間良好に維持でき、かつガラスビードの破断を防止して、耐久性に優れたガラス引き戸の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、両側に配される縦框、及びこの双方の縦框の上端、下端の間を継ぐ上框、下框を含み、かつ内周面に内に向くガラス支持溝を周設した矩形の外周枠と、前記外周枠の内側に配され、周縁部が前記ガラス支持溝内に挿入されるガラス板と、前記ガラス支持溝内に装着されて、ガラス板を水密的に支持しうる軟質のガラスビードとからなるガラス引き戸であって、前記ガラスビードとガラス支持溝の底部との間隙に縦長の弾性スペーサが挿入されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明では、前記弾性スペーサは、断面矩形状をなし、かつ双方の外周枠の縦框の上端近傍に配され、また請求項3に係る発明においては、前記弾性スペーサは、その縦長さを最小30mm、かつ最大300mmとし、しかもその上端部が、前記ガラス板の上端部よりも10〜500mm下位に配され、そして請求項4に係る発明の弾性スペーサは、スポンジを用いて形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明は、ガラス引き戸の開口枠への衝突時に生じる衝撃などにより、ガラスが縦框に沿って配されたガラスビードを押圧しても、弾性スペーサがその衝撃力を支持して、ガラスビードの変形は小さく抑えられ、ガラスビードに生じる圧縮、引張りなどの応力が抑制される。その結果、ガラスビードの偏り、或いはコーナー部の伸びによる隙間が抑制されて、防水性能を保つとともに外観が維持され、かつガラスビードの破断を防止して、耐久性を高める。
【0010】
請求項2に係る発明のように弾性スペーサを外周枠の縦框の上端近傍に配すると、ガラス引き戸の開口枠への衝突時に、最も多きな衝撃力が起きる外周枠の縦框の上端近傍が弾性スペーサにより支持されるため、前記ガラスビードの破断、偏り、或いはコーナー部に伸びを有効に抑制でき、防水性能、耐久性を高めうる。
【0011】
請求項3に係る発明のように構成すると、ガラス引き戸内に生じる衝撃力を必要充分、かつ効率的に支持でき、また請求項4に係る発明のように、弾性スペーサがスポンジにより構成されると、開口枠への衝突時にガラス引き戸内に生じる衝撃力を確実に支持でき、またガラス引き戸組立時の装着作業の作業性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1に示すように、ガラス引き戸1は、矩形の外周枠6と、この外周枠6の内側に嵌め込まれるガラス板7と、このガラス板7を支持するガラスビード8と、弾性スペーサ9とを具える。
【0013】
前記外周枠6は、図3に示すように、左右に平行に配される縦框2、2と、この縦框2、2の上端部間を継ぐ上框3と、下端部間を継ぐ下框4とからなる。本形態の外周枠6は、アルミッサッシ材を用いて構成され、縦框2及び上下框3、4の端部相互がビスなどの固着具22により緊結されて矩形枠状をなす。
【0014】
縦框2、2には、図2に示すように、その向き合う内側部から内に向って平行でのびる一対の側片5A、5Aが形成され、この側片5A、5Aと底部5Bとで断面矩形状のガラス支持溝5が形成される。また、図3、4に示すように、上下框3、4の内周面にも同様のガラス支持溝5が形成される。その結果外周枠6の内周面には、内に向って開口する断面矩形状のガラス支持溝5が環状に連続して形成される。
【0015】
下框4の下部には、開口下枠のレール上を走行しうる戸車(図示せず)が設けられ、かつ上框3が開口枠の上位の鴨居内に挿入されることにより、開口枠内を水平移動可能に支持される。縦框2の中位には、縦長凹部状の引手21が形成され、また外周枠6には、上框3、下框4の中間に水平な中桟を設けることもできる。また前記外周枠6は、引き違い戸用として2個で一対として形成され、或いは3個以上がセットとして形成されることもある。
【0016】
前記ガラス板7は、矩形状をなし、その全周縁が前記外周枠6のガラス支持溝5内に挿入されることにより前記外周枠6の内側に配される。このガラス板7は、例えばアルミ製の外周枠6の熱膨張率との差を吸収し、かつ前記の如くガラス板7の切断寸法の誤差などを吸収して組み立て作業をスムースに行なうため、ガラス支持溝5の底部との間に間隙ができる寸法に形成される。なおこのガラス板7には、フロートガラス、型板ガラス、網入板ガラス、合わせガラス、強化ガラス、ペアガラス等が用いられる。
【0017】
前記ガラス板7は、その全周が断面略溝状のガラスビード8により覆われて、ガラス支持溝5内に挿入される。このガラスビード8は、軟質の弾性体からなり、ガラス板7の縁部を保護するとともにガラス板7を固定し、かつガラス支持溝5内に装着されて外周枠6とガラス板7との間で加圧されることにより水密性能を維持する。図3では、便宜上ガラスビード8を上下左右に4分割して図示しているが、ガラス板7全周に亘り連続して装着される。ガラスビード8は、塩化ビニル樹脂、その他の軟質材料により形成されたものを用いるため、ガラス板7の大きさに応じた任意の長さに切断して簡単に装着でき、ガラス引き戸の組み立て作業の効率を高めうる点で好ましい。また前記ガラスビード8は、その始端と終端とを接着して環状に形成すると、隙間を生じることがないため水密性を向上でき、ガラス板7への装着性を高めうる点で好ましい。
【0018】
前記弾性スペーサ9は、図2に示すように、ガラス支持溝5内に配され、ガラス支持溝5の底部5Bとガラスビード8との間で挟着される。そしてガラス引き戸1の開閉動作の際、開口枠に勢い良く衝突した時などに生じる、ガラス板7の慣性力による衝撃力は、弾性スペーサ9によって支持され、これによりガラスビード8に大きな変形を生じることが防止される。その結果、ガラスビード8がガラス支持溝5内で偏りを生じ、或いはガラスビード8が引き伸ばされて外周枠6のコーナー部において隙間を生じることが抑制されるため、防水性能が損なわれることがなく、しかも外観が維持される。またガラスビード8内に生じる圧縮、引っ張りなどの応力も抑制されるため、ガラスビード8が変形により破断することが防止されて、耐久性を高めうる。
【0019】
前記弾性スペーサ9は、図1に示すように、外周枠6の両側の縦框2、2の上端近傍に配置される。下框4は、ガラス板7の自重により、開口枠への衝突時のガラス板7の慣性力を有効に支持するが、上框3がガラス板7の慣性力を支持する力は下框4よりも小さい。その結果、ガラス板7がガラスビード8及び外周枠6に与える衝撃力は、下位よりも上位側が大きくなる。しかし、この上位側で大きく生じる衝撃力は、前記縦框2、2の上端近傍に配された弾性スペーサ9により支持されるため、ガラスビード8の変形が抑制され、発生する圧縮、引っ張り応力も小さく抑えることができる。そのため、ガラスビード8の偏り、コーナー部における隙間の発生が防止され、ガラス板7と外周枠6との水密性能が維持されるとともに外観を維持しうる。またガラスビード8が破断して、これを取り替える等のメンテナンスの手間が省ける。
【0020】
具体的には、弾性スペーサ9は、その上端部がガラス板7の上端部から、例えば10〜500mm程度、好ましくは30〜300mm下位に配置されることが望ましい。10mm未満では、縦框2と上框3の接合部におけるガラス支持溝5内に、ガラスビード8及び弾性スペーサ9を挿入する作業がやり辛くなり、逆に500mmを超えると、前記衝撃力の支持が不安定となる。
【0021】
また本形態の弾性スペーサ9は、断面矩形状をなし、その自由状態での厚さT1と、挿入されるガラス支持溝5の底部5B、ガラスビード8間の間隙寸法T2との比T1/T2は、例えば、1.03〜1.3程度、好ましくは1.05〜1.2である。1.03未満では、弾性スペーサ9が位置ズレを起し易く、逆に1.3を超えると、無負荷状態での弾性スペーサの圧縮が過大となり、ガラスビード8を変形させて隙間を生じる可能性があるとともに、衝撃時の緩衝能力が低下する。なお弾性スペーサ9は、前記の如くガラス支持溝5の底部5Bとガラスビード8とで挟着されるが、更に位置ズレを防止し、かつ組み立て時の仮固定のため、底部5B、又はガラスビード8に両面テープなどを用いて接着、粘着することもよい。
【0022】
更に本形態の弾性スペーサ9は、その縦長さを最小30mm、最大で300mmに形成される。下限についてより好ましくは50mm以上、上限についてより好ましくは250mm以下が良い。30mm未満では、ガラス引き戸1の開口枠との衝突時の緩衝能力が不足し、逆に300mmを超えると、前記緩衝能力が過剰となる上、組み立て作業の能率を低下させる。
【0023】
前記弾性スペーサ9は、前記衝突時の衝撃力を確実に支持でき、かつガラス引き戸組み立て時の装着作業の効率を高めるため、ハンドリング性に優れたスポンジが用いられる。このスポンジとしては、発泡ポリエチレン、発泡ウレタン、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム(EDPM)、ニトリルゴム( NBR) などを用いることができる。
【0024】
尚、叙上の説明は本発明の実施の形態を例示したものであり、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態を例示する正面図である。
【図2】そのA−A断面図である。
【図3】その分解斜視図である。
【図4】その要部拡大図である。
【図5】従来例の水平断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ガラス引き戸
2 縦框
3 上框
4 下框
5 ガラス支持溝
6 外周枠
7 ガラス板
8 ガラスビード
9 弾性スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に配される縦框、及びこの双方の縦框の上端、下端の間を継ぐ上框、下框を含み、かつ内周面に内に向くガラス支持溝を周設した矩形の外周枠と、
前記外周枠の内側に配され、周縁部が前記ガラス支持溝内に挿入されるガラス板と、
前記ガラス支持溝内に装着されて、ガラス板を水密的に支持しうる軟質のガラスビードとからなるガラス引き戸であって、
前記ガラスビードとガラス支持溝の底部との間隙に縦長の弾性スペーサが挿入されることを特徴とするガラス引き戸。
【請求項2】
前記弾性スペーサは、断面矩形状をなし、かつ双方の外周枠の縦框の上端近傍に配されることを特徴とする請求項1記載のガラス引き戸。
【請求項3】
前記弾性スペーサは、その縦長さを最小30mm、かつ最大300mmとし、
しかもその上端部が、前記ガラス板の上端部よりも10〜500mm下位に配されることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス引き戸。
【請求項4】
前記弾性スペーサは、スポンジを用いて形成されることを特徴とする請求項2又は3記載のガラス引き戸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−177055(P2006−177055A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371699(P2004−371699)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】