説明

ガラス維強化樹脂ペレットの製造方法

【課題】機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂ペレット及びその製造方法、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、有機シランの水系液に接触させることにより、樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットに、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させる付着工程と、付着工程で得られた樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットを乾燥する乾燥工程と、を備える。この製造方法により得られるガラス繊維強化樹脂ペレットを用いて、射出成形によりガラス繊維強化樹脂成形品を製造すると、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法、及びガラス繊維強化樹脂ペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化樹脂のペレットの製造方法の一つとして、複数本の連続したガラス繊維を束ねて巻き取ったガラス繊維束を、熱溶融したマトリックス樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜いた後に切断する方法がある。この方法によって得られたガラス繊維強化樹脂ペレットを用いて製造するガラス繊維強化樹脂成形品は、従来の繊維を複数本束ねて所定の長さに切断したチョップドストランドを溶融した樹脂ペレットとともに混合し、これを射出成形して製造する成形品と比較して、長い繊維が樹脂と絡み合うことから、高い機械的強度を得ることができる。
【0003】
このガラス繊維強化樹脂成形品に用いられるガラス繊維束には、複数本のガラス繊維を束ねる目的や、巻き取る際の摩擦等による毛羽立ちを避ける目的で、集束剤が用いられる。集束剤中にはガラス繊維に対するマトリックス樹脂の濡れ性をよくし、ガラス繊維強化樹脂の機械的強度を向上する目的で有機シランが含まれている。
【0004】
近年、ガラス繊維強化樹脂がより厳しい環境で使用されることが増えており、ガラス繊維強化樹脂に対してさらに高い性能が要求されている。有機シランの量は、ガラス繊維強化樹脂の特性に大きく影響を与える。有機シランの量が少ない場合は、ガラス繊維に対するマトリックス樹脂の濡れ性が低くなりガラス繊維強化樹脂の機械的強度がでない。そのため、集束剤中の有機シラン量を増やす等の試みがなされている。
【0005】
特許文献1と特許文献2では有機シランを集束剤中に含ませてガラス繊維束に用いる方法が開示されている。また、特許文献3では、炭素繊維にエポキシ樹脂を含む一次処理剤を付着させ炭素繊維束とし、次いで、炭素繊維束にアミノシラン化合物を含む二次処理剤を付着させる方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3935468号公報
【特許文献2】特開2006−342469号公報
【特許文献3】特開2006−291039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多量の有機シランを集束剤中に含ませてガラス繊維束に用いると、ガラス繊維束が折れる、巻き取りができないなどの問題がある。さらに、特許文献3のように繊維束に二次処理剤として付着させる方法は、繊維束が硬くなり巻き取り保管ができないため、工程管理が煩雑になる、繊維束の巻きだし後に乾燥が必要である、乾燥コストが高い、などの問題がある。
【0007】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得るためのガラス繊維強化樹脂ペレット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法では、先ず、ガラス繊維を複数本束ねたガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引抜工程で樹脂含浸ガラス繊維束を得る。次に、当該樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットとする切断工程を経た後、ペレットを有機シランの水系液に接触させて有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させる付着工程を経る。次に、この有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物が付着したペレットを乾燥させる乾燥工程を経て、ガラス繊維強化樹脂ペレットとすることを特徴とする。
【0009】
なお、上記引抜工程の次に当該樹脂含浸ガラス繊維束を、有機シランの水系液に接触させて有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させ(付着工程)、その後、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させた樹脂含浸ガラス繊維束を乾燥し(乾燥工程)、切断工程を経て、ガラス繊維強化樹脂ペレットとしても良い。
【0010】
樹脂含浸ガラス繊維束又はペレットを有機シランの水系液に接触させる方法は、有機シラン水系液を樹脂含浸ガラス繊維束又はペレットにスプレー塗布する方法でもよく、樹脂含浸ガラス繊維束又はペレットを有機シラン水系液に浸漬する方法でもよい。尚、上記樹脂含浸ガラス繊維束とペレットの両方に対して行っても良い。
【0011】
この製造方法により得られるガラス繊維強化樹脂ペレットを用いて、射出成形によりガラス繊維強化樹脂成形品を製造すると、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を製造することができる。これは、ガラス繊維に有機シランを付着させることにより、ガラス繊維強化樹脂ペレット中の有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の量が増加し、ガラス繊維とマトリックス樹脂との界面接着性のムラが少なくなり、濡れ性が向上して高い接着強度が得られるためである。同時に、集束剤として添加する有機シランは増量されないため、ガラス繊維束が折れる、巻き取りができない、などの問題も発生することなく、上記目的を達成することができる。
【0012】
ガラス繊維束は、通常集束剤で被覆処理されたものであり、一般に有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を含む集束剤で被覆処理されたガラス繊維束である。そのため、本発明に係る製造方法により得られるガラス繊維強化樹脂ペレットに含まれる有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物は、集束剤成分に由来するものと、上記付着工程による付着に由来するものを含む。本製造方法においては、この2つの合計である有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量が、ガラス繊維強化樹脂ペレットの質量を100質量部としたときに、0.10〜2.00質量部となるように、前記付着工程を実施することが好ましい。より好ましくはガラス繊維強化樹脂ペレットの質量を100質量部としたときに、0.15〜1.50質量部となるようにする。さらに好ましくは0.20〜1.00質量部となるようにする。
【0013】
また、本製造方法において、付着工程の後に、樹脂含浸ガラス繊維束に付着した有機シランの水系液の揮発成分を乾燥する乾燥工程を経る。一般に乾燥は加熱により行われるが、本製造方法においては、減圧条件下で行われることが好ましい。減圧で乾燥を行うことにより、加熱温度を低く抑え、熱による有機シランの分解を低減できる。
【0014】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。元来ポリオレフィン系樹脂はガラス繊維に対する濡れ性が悪いために、従来の製造方法では、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を製造することができなかった。しかしながら、本発明に係る製造方法によれば、濡れ性が向上されるため、機械的強度の優れたガラス繊維強化樹脂成形品を製造することが可能となる。
【0015】
また、上述の製造方法によって得られたガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形することにより得られるガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス繊維とマトリックス樹脂の界面接着性のムラが少なく、濡れ性が向上し、高い接着強度が得られる。
【0016】
本発明に係るガラス繊維強化樹脂ペレットは、熱可塑性樹脂の中に、ガラス繊維束が一方向に配列されており、当該ガラス繊維束の両端面が当該熱可塑性樹脂から露出している、ガラス繊維強化樹脂ペレットであって、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物が、前記ガラス繊維強化樹脂ペレットの表面(側面のみ、又は側面及び断面)に存在することを特徴とする。
【0017】
また、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量は、ガラス繊維強化樹脂ペレットの総質量を100質量部としたときに、0.10〜2.00質量部であることが好ましく、より好ましくは0.15〜1.50質量部であり、さらに好ましくは0.20〜1.00質量部である。有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量を0.10〜2.00質量部の範囲にすることで、優れた機械的強度を持つ成形品が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得るためのガラス繊維強化樹脂ペレット及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のガラス繊維強化樹脂ペレット及びガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100の斜視図である。また、図2(a)は本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100の正面図、(b)は同側面図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100は、熱可塑性樹脂からなるペレット10中に、ガラス繊維20を複数本束ねたガラス繊維束を一方向に配列させたものである。図1、図2(b)にはガラス繊維束が1本の場合を示しているが複数本でも構わない。
また、図2(b)から明らかなようにこのガラス繊維20の端面は、ペレット10から露出している。なお、図2(b)では一方の側面(端面)のみを示しているが、他方の側面(端面)にもガラス繊維20が到達しており、端面はペレット10から露出している。
【0022】
さらに、図1及び図2では図示していないが、このガラス繊維強化樹脂ペレット100の側面及び断面には、加水分解性基を有する有機シランの加水分解物及び/又は有機シランの加水分解縮合物が付着している。また、同様に図1及び図2では図示していないが、ガラス繊維20の表面(側面)にはシラン加水分解物及び/又は加水分解縮合物を含む集束剤の不揮発成分が付着している。このようなガラス繊維強化樹脂ペレット100を用いて、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造することにより、優れた機械的強度を持つ成形品を得ることができる。
【0023】
ガラス繊維強化樹脂ペレット100に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、なかでもポリプロピレン樹脂が好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、例えばプライムポリマー社製のS119(商品名)やJ108M(商品名)などが好適に利用できる。
【0024】
ガラス繊維強化樹脂ペレット100に含まれるガラス繊維20の繊維長は2〜30mmが好ましく、3〜15mmがより好ましい。8〜10mmがより好ましい。繊維長が2mm未満である場合は、製造する成形品がガラス繊維により強化される程度が低くなる場合があり、30mmを超す場合は繊維長が長すぎるため、射出成形時に、成形機の供給ホッパーでブリッジを起こしやすく、成形不良を起こす場合がある。なお、図1及び図2で示しているように、ガラス繊維20はその両端がガラス繊維強化樹脂ペレット100の表面に達しているために、ガラス繊維20の繊維長とガラス繊維強化樹脂ペレット100のペレット長は等しくなる。例えば、ガラス繊維20の繊維長が10mmである場合は、ガラス繊維強化樹脂ペレット100のペレット長も同様に10mmである。
【0025】
ガラス繊維強化樹脂ペレット100に含まれるガラス繊維20のガラスの種類としては、Eガラス、Tガラス、低誘電ガラス、Cガラス、NCRガラス、Aガラス、ARガラス、NEガラス等が挙げられるが、繊維化が容易であるという点からEガラスが好ましい。
【0026】
また、ガラス繊維20の繊維径としては、3〜23μmが好ましい。9〜20μmがより好ましい。繊維径が3μm未満の場合は、ガラス繊維の毛羽立ちが多くなる。また、23μmを超える場合は、成形品にしたときに応力集中がおき、強度が低下する。
【0027】
さらに、ガラス繊維強化樹脂ペレット100に含まれるガラス繊維20の本数は500〜10000本が好ましく、1600〜8000本が更に好ましい。2000〜4000本が更に好ましい。強化繊維の本数が500本未満である場合は、ペレットの製造効率が低下してしまい、作業性が低下する。強化繊維の本数が10000本を超す場合は、ペレットが太くなりすぎ、ペレットの作製時にトラブルが発生しやすくなり、樹脂含浸性が低下することがある。なお、この本数は、ガラス繊維束を製造する際に束ねるガラス繊維の本数と同じである。
【0028】
さらに、ガラス繊維強化樹脂ペレット100に含まれるガラス繊維束21の番手は50〜8200Tex、好ましくは800〜3200Tex、より好ましくは1600〜2400Texである。
【0029】
このガラス繊維強化樹脂ペレット100の断面及び側面には、加水分解性基を有する有機シランの加水分解物及び有機シランの加水分解縮合物が付着している。
【0030】
ここで有機シランについて説明する。有機シランは、以下に詳述するように本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100の製造方法において用いられる。
【0031】
上記の有機シランは、以下の一般式(1)で示されるシランカップリング剤が好ましい。
R(4−n)Si(OR (1)
[nは1〜3の整数を示す。]
nは2〜3が好ましく、3が特に好ましい。上記一般式(1)において、Rとしては、1価の有機基が好ましく、さらに具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等が好ましい。これらの有機基は、ビニル結合等の不飽和二重結合や、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基を有していてもよい。
また、ORは加水分解基に相当し、Rとしては、炭素数が1〜12のアルキル基が好ましいが、炭素数1〜6が好ましく、炭素数1〜3がより好ましく、さらに具体的には、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0032】
有機シランとしては、具体的には、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられ、これらのうちの一種類もしくは複数種類を用いることが可能である。
【0033】
これらの有機シランの加水分解物及び有機シランの加水分解縮合物が、ガラス繊維強化樹脂ペレット100の総質量を100質量部としたときに、0.10〜2.00質量部であることが好ましく、0.15〜1.50質量部がさらに好ましく、0.20〜1.00質量部が最も好ましい。この場合、優れた機械的強度を持つ成形品が得られる。
【0034】
以下、本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を示す。この製造方法は、ガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットを、有機シランの水系液に接触させて、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させる付着工程と、付着工程で得られた樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットを乾燥する乾燥工程と、からなる。また、この製造方法により得られたガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形する、射出成形工程を経て、ガラス繊維強化樹脂成形品が製造できる。
【0035】
本実施形態に係る製造方法で用いるガラス繊維束は、ブッシングから引き出された溶融状態の複数のガラス繊維を冷却しながら、集束剤を塗布した後に束ねてストランドにし、該ストランドを1本もしくは複数本束ねてガラス繊維束にする、公知のガラス繊維束の製造方法により製造できる。
【0036】
ここで用いられる集束剤は、集束剤成分(130℃の温度で揮発しない不揮発成分)が、ガラス繊維質量を100質量部としたときに0.05〜0.5質量部付着していることが好ましい。集束剤成分が0.05質量部未満では、ガラス繊維の集束性の低下が起こりやすく、後工程において毛羽が発生しやすい。また、集束剤成分が0.5質量部を超える場合は、引抜工程において樹脂含浸性が低下し、成形品の強度が低下する場合がある。
【0037】
集束剤に含まれる不揮発成分は、有機シランのほか、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の被膜形成剤、及び油脂、界面活性剤、帯電防止剤等が含まれるが、これに限定されない。
【0038】
本製造方法で製造するガラス繊維強化樹脂ペレットに含まれるガラス繊維は、このペレットの全重量を100質量としたときに、好適には20〜80質量部であり、更には30〜75質量部である。ガラス繊維の量が20質量部未満では、ガラス繊維による補強効果が十分でなく、成形品の強度が低下することがある。また、ガラス繊維を80質量部を超えて含む場合は、樹脂含浸性が低下し、成形品の強度が低下することがある。
【0039】
図3は本実施形態に係るペレットを連続製造するための連続製造装置200の概略構成図である。図3に示すように、連続製造装置200は、加熱により溶融した熱可塑性樹脂10aを収容した熱可塑性樹脂槽34と、ガラス繊維束21(複数のガラス繊維20が集束してなる)を熱溶融した熱可塑性樹脂10aとともに通過させる貫通孔31が形成されたダイス30と、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束の冷却手段として、冷却液40を収容した水槽41と、水槽41から供給される冷却液40を熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束へ噴射するノズル42と、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束をダイス30から引き抜くプーラー50と、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束を所望の長さに切断して、ペレット100aを得る切断機60と、を備えている。この連続製造装置200を用いることにより、本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法のうち、引抜工程と、切断工程と、を行うことができる。
【0040】
なお、この連続製造装置200のダイス30の上流側には、ダイス30に導入すべきガラス繊維束21が巻きつけられた巻糸体22が配置されている。ダイス30の下流側に位置するプーラー50は、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束を、回転するローラで上下から挟み込むいわゆるキャタピラ方式のプーラーである。また、切断機60はブレードをモータMの駆動力で回転させて熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束を切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレット100とする切断機である。
【0041】
連続製造装置200を用いてペレット100aを製造するためには、先ず、プーラー50を回転駆動させ、巻糸体22からガラス繊維束21を解舒して引き出す。そして、引き出されたガラス繊維束21をダイス30の貫通孔31に導入するとともに、ポンプ等を使って熱溶融させた熱可塑性樹脂10aを貫通孔31に導く。ダイス30中ではガラス繊維束21の周囲及び内部に熱溶融した熱可塑性樹脂10aが付着し、プーラー50の巻取りにより、貫通孔31の出口側断面形状に対応した形状に成型されながら、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束がダイス30から引き抜かれる。引き抜かれた熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束は、ノズル42から噴射される冷却液40によって冷却される。冷却液40としては、水が用いられる。これにより熱可塑性樹脂が固化することにより、断面形状が確定し、切断に適した形状となる。その後、切断機60により切断し、樹脂含浸ガラス繊維束切断物100aを得る。繊維束が切断される際の長さは、上述のガラス繊維20の繊維長と同様に、2〜30mmが好ましく、3〜15mmがより好ましい。切断工程によって得られるペレット100aは、図1に示すガラス繊維強化樹脂ペレット100と同じ形状を持つ。
【0042】
図3では巻糸体22を1つ用いたが、これを複数用いてガラス繊維束21をダイス30に導入してもよい。また、ダイス30とノズル42との間に、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束の断面形状を整える成型手段を設置してもよい。
【0043】
本実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレットは、上記連続製造装置200を用いて製造されたペレット100aを、有機シラン水系液に浸漬などにより接触させ、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物をペレット100aに付着させる付着工程と、その後乾燥する乾燥工程を経ることにより製造される。
【0044】
ガラス繊維強化樹脂ペレットには集束剤由来の有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物が含まれている。
付着工程で用いる有機シランはガラス繊維を束ねる際に用いた有機シランと同一でも異なっていてもよいが、同一の有機シランを用いるほうが好ましい。
【0045】
上記の付着工程、及び乾燥工程により、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物をペレット100aの表面(側面及び断面)に確実に付着させることができる。
【0046】
付着工程では、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物をペレット100質量部に対して0.10〜2.00質量部付着させることが好ましい。より好ましくは0.12〜1.20質量部である。
有機シラン水系液の濃度としては、0.2〜10%w/wが好ましく、0.5〜5%w/wがさらに好ましい。有機シラン水系液の濃度が10%w/wを超える場合、成形品の強度が低下する恐れがある。また、有機シラン水系液の濃度が0.2%w/w未満の場合は、有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の付着量が少なすぎるため、本製造方法による効果を得ることができない。
【0047】
また、ペレット100aの有機シラン水系液への浸漬時間としては、5〜30分が好適である。長時間浸漬することにより、ペレットの表面に付着した有機シラン水系液に含まれる成分が内部へも浸透し、有機シランによる強度上昇効果をさらに高めることができる。
【0048】
続いて、乾燥工程により、有機シラン水系液が付着したペレット100aから、有機シランの水系液の揮発成分を除去する。有機シラン水系液の揮発成分を除去することにより、有機シランの加水分解物や加水分解縮合物がペレット100aに残り、ガラス繊維と樹脂との接着強度を高めることができる。
【0049】
具体的には、常圧条件で有機シラン水系液が付着したペレット100aを乾燥する。また、乾燥工程は減圧条件下(例えば、真空条件下)で行われることが好ましい。減圧条件下で行うことにより、揮発成分を除去する場合の温度を低く抑えることができ、有機シランが熱分解されることが少ない。また、減圧条件下により、有機シランの加水分解物や加水分解縮合物が、ペレット100aのさらに内部へ浸透するため、樹脂含浸ガラス繊維束切断物100aの表面と内部との間での接着強度のムラを減らすことができる。さらに、乾燥工程は減圧条件下で行うことによって、有機シランが加水分解や縮合する際に生じる低分子物質についても、ペレット100aから除去することができる。
【0050】
乾燥を常圧条件下で行う場合は、乾燥温度を100〜150℃とすることが好ましい。また、減圧条件下で行う場合は、乾燥温度を60〜100℃とすることが好ましい。
【0051】
以上の製造方法によって、ガラス繊維強化樹脂ペレット100を製造することができる。
【0052】
このようにして得られたガラス繊維強化樹脂ペレットは、公知の射出成形機のフィーダに投入して、用いた熱可塑性樹脂の種類に応じて加熱溶融させて所望の形状に射出成形することができる。射出成形機のフィーダにはガラス繊維強化樹脂ペレットの他、当該ペレットに用いたのと同種又は異種の熱可塑性樹脂を添加することができ、その他射出成形に一般に用いられる添加剤(帯電防止剤、離形剤等)を添加することもできる。
【0053】
なお、ガラス繊維強化樹脂ペレットのガラス含有量が高すぎて、射出成形時に樹脂が完全に充填されず、内部に空隙ができたり、正確に形状が転写されなかったりする不具合(ショートショット)が発生してしまう場合は、ガラス繊維強化樹脂ペレットにポリプロピレン樹脂を更に添加して、ガラス含有量を調節する。
【0054】
ガラス繊維強化樹脂成形品のガラス含有量は、ガラス繊維強化樹脂成形品100質量部としたときに10〜60質量部、より好ましくは30〜60質量部、より好ましくは40〜60質量部が好ましい。ガラス含有量が10質量部未満では繊維強化樹脂の強度が不足する恐れがあり、60質量部より高い含有量ではショートショットなどの成形不良が出てしまう場合がある。
【0055】
得られたガラス繊維強化樹脂成形品は、本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットを用いて製造されるものであるために、引張強度のみならず、衝撃強度も向上する。この効果は特にポリオレフィン系樹脂を用いた場合に特に発揮させることができる。
【0056】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、付着工程は切断工程の後に設けられているが、引抜工程の後であって切断工程の前に設けていてもよい。この場合は、付着工程についても図3に示す連続製造装置200を用いて行うことができる。
【0057】
具体的には、連続製造装置200において、巻糸体22からガラス繊維束21を解舒して引き出されたガラス繊維束21は、熱可塑性樹脂が付着した状態で、ダイス30の貫通孔31から引き抜かれた後、ノズル42から噴射される冷却液40によって冷却される。このときの冷却液40として、有機シラン水系液を用いることにより、樹脂含浸ガラス繊維束に有機シラン水系液を接触させることができる。また、同時に熱可塑性樹脂が固化することにより、断面形状が確定し、切断に適した形状となる。その後、切断機60により切断することにより、ペレット100aを得る。この場合、このペレット100aの側面は既に有機シラン水系液が覆っている。必要に応じて、このペレット100a中の有機シラン水系液の揮発成分を乾燥によって除去した後、図1に示すガラス繊維強化樹脂ペレット100が得られる。
【0058】
冷却液40として有機シラン水系液を用いる場合、好適な有機シラン水系液の濃度は、第1実施形態における付着工程で用いる有機シラン水系液と同じく0.2〜10%w/wが好ましく、0.5〜5%w/wがさらに好ましい。
【0059】
さらに、この付着工程は切断工程の前後の双方に設けてもよい。この場合、第1実施形態に示す製造方法のうち、冷却液40を有機シラン水系液とする態様を採ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(集束剤の調製)
被膜形成剤としてマレイン酸変性ポリプロピレン(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700、固形分濃度:30質量%)0.30質量部を、有機シランとしてモノアミノシランであるγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(固形分濃度:60質量%)0.12質量部、潤滑剤としてTEPA/SA(東邦化学工業株式会社製、商品名:HG―180、固形分濃度:30質量部)0.15質量部、ポリオキシエチレンアルキレン(アデカ社製、商品名:プルロニックL44、固形分:100質量%)0.40質量部、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(花王株式会社製、商品名:エマルゲンLS110、固形分:100質量%)0.20質量部をそれぞれ使用した。これらの不揮発成分の総量1.17質量部に対して、総量が100質量部となるように水で希釈して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0062】
(実施例1)
上記のようにして得られたガラス繊維用集束剤によって、ガラス繊維径17μmのガラス繊維に被覆処理をした後集束し、4000本からなるガラス繊維用集束剤が付着したガラス繊維束を得た。ガラス繊維束の番手は2400Texであった。
このガラス繊維用集束剤が付着したガラス繊維束を125℃で23時間乾燥してガラス繊維束を得た。ガラス繊維束に付着した有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物は、ガラス繊維束総量を70質量部としたときに、0.03質量部(集束剤の不揮発成分に対して10.3%)であった。
【0063】
次に、このガラス繊維束を熱溶融した樹脂中に導入し溶融含浸して、円形の貫通孔を有するダイスを通過させた後、水を噴射して樹脂を冷却固化させて、長さ10mmに切断し、ガラス繊維70質量部、樹脂30質量部のペレットを作製した。なお、上記の樹脂は、樹脂質量を基準として、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、商品名:S119)が23.01質量部、マレイン酸変性ポリプロピレン(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700)樹脂が6.99質量部含まれた混合品であった。
【0064】
次に、ペレットを、上記のガラス繊維束用集束剤で用いた有機シランと同じモノアミノシランであるγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(固形分濃度:60%)の水系液に浸漬させた。水系液の濃度は1%w/wであり、浸漬時間は30分であった。その後、水系液に浸漬したペレットを、真空条件下(0.1atm以下)で80℃、15時間乾燥し、実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを得た。
【0065】
実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットへの有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量はガラス繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して0.18質量部であった。実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットには集束剤由来の有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物が0.03質量部付着されていたので、付着工程でペレットに付着した有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の量は0.15質量部であった。
【0066】
さらに、実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットへ、ガラス繊維強化樹脂ペレットに含まれるガラス繊維束と熱可塑性樹脂の合計量を100質量部に対して75質量部となる量のポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、商品名:S119)を混合し、シリンダー温度260℃、金型温度45℃、射出圧40kg/cmで射出成形し、実施例1のガラス繊維強化樹脂成形品が得られた。実施例1のガラス繊維強化樹脂成形品のガラス含有率は試験片の質量を100質量部としたときに40質量部であった。また、実施例1のガラス繊維強化樹脂成形品から長さ方向の両側につかみしろ部を有する長さ216mm、幅12mm、厚さ3mmの大きさの実施例1の試験片を作成した。
【0067】
(実施例2〜4)
実施例2において用いた有機シラン水系液の濃度は2%w/wであった。また、実施例3において用いた有機シラン水系液の濃度は3%w/wであり、実施例4において用いた有機シラン水系液の濃度は5%w/wであった。実施例5において用いた有機シラン水系液の濃度は10%w/wであった。
【0068】
有機シラン水系液の濃度の他は実施例1と同様の方法で、実施例2〜5の試験片を作成した。
【0069】
(実施例6)
有機シラン水系液に浸漬したペレットの乾燥を、120℃で5時間の熱風乾燥で行った他は実施例1と同様の方法で、実施例6の試験片を作成した。
【0070】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、ペレットを作成した後、真空条件下(0.1atm以下)で80℃、15時間乾燥し、比較例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを得た。比較例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを、実施例1と同様の方法で射出成形して得たガラス繊維強化樹脂成形品から比較例1の試験片を得た。
【0071】
実施例1〜6及び比較例1で得られた試験片について、ASTM D−638に準じ、引張強度を測定した。また、ASTM D−790に準じ、曲げ強度を測定した。また、ASTM D−256に準じIZOD衝撃強度を測定した。
【0072】
実施例1〜6及び比較例1の水系液濃度、成形品に含まれる有機シランの加水分解物及び/又は有機シランの加水分解縮合物(表1では有機シランと記載)の付着量、強度の評価結果をまとめて表1に示す。
【0073】
【表1】



【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100の斜視図である。
【図2】(a)は第1実施形態に係るガラス繊維強化樹脂ペレット100の正面図、(b)は同側面図である。
【図3】第1実施形態に係るペレット100aを連続製造するための連続製造装置200の概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
10…熱可塑性樹脂、10a…熱溶融した熱可塑性樹脂、20…ガラス繊維、21…ガラス繊維束、22…巻糸体、30…ダイス、31…貫通孔、40…冷却液、50…プーラー、60…切断機、100…ガラス繊維強化樹脂ペレット、200…ガラス繊維強化樹脂ペレット連続製造装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、
前記樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、
有機シランの水系液に接触させることにより、前記樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットに、前記有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物を付着させる付着工程と、
前記付着工程で得られた前記樹脂含浸ガラス繊維束及び/又はペレットを乾燥する乾燥工程と、
を備えるガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量が、ガラス繊維強化樹脂ペレットの質量を100質量部としたときに、0.10〜2.00質量部となるように、前記付着工程を実施する、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程を減圧条件下で行う、請求項1又は2に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形するガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂の中に、ガラス繊維束が一方向に配列されており、当該ガラス繊維束の両端面が当該熱可塑性樹脂から露出している、ガラス繊維強化樹脂ペレットであって、
有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物が、前記ガラス繊維強化樹脂ペレットの表面に存在するガラス繊維強化樹脂ペレット。
【請求項7】
前記有機シランの加水分解物及び/又は加水分解縮合物の総質量が、前記ガラス繊維強化樹脂ペレットの質量を100質量部としたときに、0.10〜2.00質量部である請求項6又は7に記載のガラス繊維強化樹脂ペレット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242551(P2009−242551A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90350(P2008−90350)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】