説明

キノコ栽培用袋体

【課題】作成が簡単で雑菌の侵入・繁殖を防ぎ、適量の空気を供給できるキノコ栽培用袋体を提供すること。
【解決手段】有底で、多角柱状又は円柱状の壁面を有しており、内部に培地4及び種菌等を充填してキノコを生育させるキノコ栽培用袋体において、
袋体1のうち、袋体1の底部と袋体1の壁面の底部から所定高さ位置までとを除いた部分には、雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔5が形成されている。また、袋体1は、生分解性フィルムや光触媒性フィルムで形成されているものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、椎茸、舞茸等の各種のキノコを人工栽培できるキノコ栽培用袋体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定大きさの袋体を使用し、この袋体におがくず、米糠、ふすまを主成分とする培地を詰めて、椎茸、舞茸、しめじ、なめこなどのキノコ種菌を植え付けて各種のキノコを人工栽培することが行なわれている。そして、各種のキノコ栽培に適したキノコ栽培用袋体が開発されて特許文献でも紹介されている。
【0003】
この種の袋体は、通常、プラスチックフィルムを素材にして、これを所定大きさ及び形状の袋体に形成し、その袋体の側面の一部分に通気窓口を設けてこの窓口に不織布、多孔性ゴムシート、クラフト紙などのフィルタ部材を貼付したもの(例えば、下記特許文献1、2参照)、あるいは袋体の全体に微細孔を形成したものとなっている(例えば、下記特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】実公昭57−22518号公報(図1、第2頁左欄35行〜右欄10行)
【特許文献2】特開平8−172906号公報(図1、段落〔0007〕)
【特許文献3】特開平9−51723号公報(図1、段落〔0013〕〜〔0017〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のキノコ栽培用袋体は、キノコ栽培中に袋体内への雑菌の侵入を阻止するとともに、種菌を生育するために適量の空気の供給が必要となるので、上記特許文献1、2に記載された袋体は、袋体に所定大きさの窓穴をあけてこの窓穴にフィルタ部材を貼付し、あるいは上記特許文献3に記載された袋体のように、袋体全体に微細孔を形成している。
【0006】
ところが、上記特許文献1、2に記載の袋体のように窓穴にフィルタ部材を貼付するものは、窓穴の大きさ及びフィルタ部材のメッシュを所定のものに選定しなければならないので栽培条件に適合させることが難しく、しかもコスト高になる等の課題がある。すなわち、袋体を用いたキノコ栽培は、栽培するキノコの種類及び袋体の大きさ、栽培する温度、湿度等の栽培条件に応じて、供給する空気量、すなわち通気量を変更しなければならないので、フィルタ部材を使用する袋体は、通気量がそれぞれ異なる微細孔、いわゆるメッシュが異なるフィルタ部材を予め多数種準備しておき、その都度、栽培条件に応じて、最適なメッシュを有するフィルタを選定して使用しなければならない。このため、多種のフィルタ部材を貼付したシートを予めストックして置かなければならないので、それらの管理が面倒であり、しかもコスト高になる。また、フィルタ部材を貼付する箇所は、袋体の側面の一部であるので、袋体周囲から袋体内へ均一に空気を供給することが難しくキノコ生育にバラツキが発生する恐れがある。さらにキノコ栽培の途中でキノコの生育状態をみて、空気の供給量を変更する必要がある場合は、フィルタ部材の交換ができない。さらにまた、使用済みの袋体をゴミとして処分する際にフィルタ部材を袋体から分離しなければならないので、その分離、分別作業も面倒になっている。
【0007】
この点、上記特許文献3に記載の袋体は、袋体全体に微細孔を形成しているので、シートを貼付する手間、及び分離、分別作業が不要になる。しかしながら、この袋体は、全体に微細孔が形成されているので、栽培中に、特に袋体底部から水分が漏れ、これによってこの底部において雑菌が繁殖する恐れがある。
【0008】
本発明者は、長年このような袋体を使用したキノコ栽培、袋体ビジネスに関わり、これまでの袋体は上記のような課題を抱えていることから、かかる課題を解決するために、試行錯誤をしてきたところ、微細孔を形成する箇所を特定するとともに、袋体の封鎖箇所を変更できるようにすれば、雑菌の侵入・繁殖を阻止でき且つ適量の空気が供給できることに想到し本発明を完成するに到ったものである。
【0009】
そこで本発明の目的は、作成が簡単で雑菌の侵入・繁殖を防ぎ、適量の空気を供給できるキノコ栽培用袋体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、キノコ栽培を終了した使用済み袋体の処理を容易にしたキノコ栽培用袋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のキノコ栽培用袋体は、有底で、多角柱状又は円柱状の壁面を有しており、内部に培地及び種菌等を充填してキノコを生育させるキノコ栽培用袋体において、
前記袋体のうち、前記袋体の底部と前記袋体の壁面の前記底部から所定高さ位置までとを除いた部分には、雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のキノコ栽培用袋体において、前記袋体は、前記培地等を充填させる充填部とキノコを生育させる生育部とからなり、前記微細孔は、前記生育部の袋体壁面にのみ形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のキノコ栽培用袋体において、前記微細孔は、前記袋体壁面のうち、前記袋体の開口部周辺には形成されていないことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体において、前記微細孔は、前記袋体壁面のうち、所望の通気量に合わせて区画された領域に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体において、前記袋体は、生分解性フィルムで形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体において、前記袋体は、光触媒性フィルムで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記構成を備えることにより以下に示すような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1の発明によれば、袋体の底部及び袋体の壁面のうち前記底部から所定高さ位置までの部分を除く領域に通気性と雑菌の侵入阻止を実現する微細孔を形成したので、上記特許文献1又は2のようにフィルタ部材を使用する必要がなくなり、また、袋体の底部及び袋体の壁面の前記底部に隣接する部分には微細孔を形成していないので、袋体を使用する際、詳しくは袋体内に培地及び種菌等を充填し開口を封止した状態でこの培地に水が供給された際に、この水分が袋体外部に漏れることなく袋体内に留まるので、袋体から水分が漏れ出ることによって外部の雑菌が袋体内に侵入することを防ぐことができ、袋体内を清浄に保つことができる。
加えて、この袋体を使用する際には、内部に培地及び種菌等が充填された後殺菌されてその開口部が封止、例えば熱シールされて使用されるが、この熱シールの際にそのシール位置を変更することによって簡単に袋体全体の微細孔の量を可変できるので、栽培されるキノコの種類に応じてその通気量等を変更することができる。
【0017】
また、請求項2の発明によれば、袋体の壁面のうち、キノコを生育する生育部を形成する面にのみ微細孔を形成したので、袋体外部への水漏れをより確実に防止することができるとともに、充填部を適湿に維持することができる。
【0018】
また、請求項3の発明によれば、袋体開口部周辺には微細孔を形成しないこととしたため、この部分の強度が低下することがないので、特に袋体内に培地等を充填するために開口部を開口する際に袋体が破断することを抑えることができる。
【0019】
また、請求項4の発明によれば、例えば栽培するキノコが必要とする通気量に合わせた領域にのみ微細孔を形成することとしたので、種々のキノコの栽培に使用できる袋体を提供することができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、キノコ栽培を終了した使用済み袋体は、フィルタ部材を有していないためにそのまま放置あるいは土へ埋設して処分することができるので、地中の微生物によって水と二酸化炭素に分解することができ、焼却した場合にも、熱量が低いため焼却炉を傷つけることがなく、クリーンで大気を汚すことがない。
【0021】
請求項6の発明によれば、光触媒性フィルムで形成されているので、環境汚染物質を除去して大気をクリーンにし、かつ防汚、防臭、抗菌効果により、良質なキノコを栽培することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのキノコ栽培用袋体を例示するものであって、本発明をこのキノコ栽培用袋体に特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図1(a)は全体透視図、図1(b)は図1(a)のV部分の拡大図である。図2は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図2(a)は全体透視図、図2(b)は図2(a)のX部分の拡大図である。図3は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図3(a)は全体透視図、図3(b)は図3(a)のY部分の拡大図である。図4は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図4(a)は全体透視図、図4(b)は図4(a)のZ部分の拡大図である。
【0024】
図1は、本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図である。
このキノコ栽培用袋体(以下、単に「袋体」という)1は、図1(a)に示すように、所定の長さL及び幅長Wを有する矩形状の底部1aと、この底部1aの外周囲から上方へ所定の高さH立設した側壁1b〜1eとを有し、上端に開口部2を設けた袋体に成形したものである。上端の開口部2付近は、シール手段3を用いて密閉できるようになっている。なお、シール手段は、公知の手段、例えば熱シールが使用される。この袋体の長さL、幅長W及び高さHは、例えば、Lは200mm、Wは120mm、Hは390mmである。また、袋材には、ポリプロピレンなどの合成樹脂製フィルム、あるいは生分解性フィルムや光触媒性フィルムが使用され、その肉厚は、例えば10〜100μmである。
【0025】
この袋体1は、培地4が充填される充填部Aと、キノコを生育させる生育部Bとに区分されて使用される。充填部Aは底部1aから所定高さH、生育部Bはこの充填部Aの頂部から高さHに位置し、高さHは、例えば140mm、高さHは、例えば250mmである。充填部Aには、おがくず、米糠、ふすまを主成分とする培地、栄養剤及び水が所定の比率で混合された混合材が充填される。
【0026】
生育部Bは、図1(b)に示すように、その袋体壁面に、雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔5が形成される。微細孔5の大きさは、例えば0.02〜0.4μmの範囲に設定される。この範囲の孔径に設定すると、空気中の酸素及び二酸化炭素ガス等の分子は通過することができるが、一方、雑菌及び微生物はこの空気分子よりサイズが大きいので侵入が阻止される。生育部Bに微細孔5を形成することにより、袋体上端の開口部2付近のシール3の位置を変更するのみで、開口部2を閉口したまま袋体内への空気の通気量を調節することができる。なお、生育部Bだけでなく、充填部Aにおいても、底部から所定高さ部分を除き微細孔5を形成することができる。この底部からの所定高さ部分については水分が浸入しないよう微細孔5を形成しないこととすれば、充填部Aを好適な湿度、例えば62%〜63%に保持することができかつ雑菌の繁殖を防ぐことができ、また、厳密に培地等を微細孔5の形成されていない部分にのみ充填しなければならないという手間を省くことができる。
【0027】
フィルム材への微細孔5の形成は、例えば、一対のローラーを使用して、一方のローラーの表面に研磨粒などの粒を接着するなどして微細な突起を無数に突設しておき、フィルム材をこれらのローラー間に通すことにより形成することができる。このとき、ローラーの加圧力を調整すると、微細突起のフィルムへの食い込み深さが変化するので、ローラー加圧力を適宜に設定することにより微細孔5の大きさを変えることができる。これにより菌種に適した所望の通気性を確保するための微細孔5を形成できる。
【0028】
袋体1は、複数個の微細孔5を生育部Bの全壁面に形成しているが各側壁1b〜1eのいずれか壁面に形成してもよい。例えば、図2(b)では側壁1cには微細孔5が形成されているが、側壁1bには微細孔5は形成されていない。このように、各側壁1b〜1eのいずれか1つの壁面、あるいは対向する側壁1bと側壁1d、又は側壁1cと側壁1eに形成してもよい。かかる場合においては、従来技術のように袋体に窓穴をあけてシール部材を貼付する必要がなくなる。
【0029】
また、それぞれの側壁1b〜1eにあっても、複数個の微細孔は、側壁全面でなく一部その面積を限定して形成してもよい。例えば、図3(a)、図3(b)に示すように、側壁1cと側壁1eの壁面のうち、所定面積に区画した部分にのみ微細孔5を形成してもよいし、図4(a)、図4(b)に示すように、各側壁1b〜1eの壁面の一部にのみ微細孔を形成してもよい。
【0030】
次に、この袋体1を使用したキノコ栽培の例を説明する。
先ず、袋体1の開口部から、栽培するキノコに適合する培地、例えば、おがくず、米糠、ふすま等を主成分とする培地に栄養剤を添加して所定量の水を加えて混合した混合体を充填する。充填した培地等は袋体1の充填部Aへ充填する。この充填により充填部Aの上方に生育部Bが形成される。
【0031】
次に、袋体1の上端開口部2を仮止めして、高圧釜内に入れて加熱滅菌する。滅菌終了後は、クリーンルームへ搬送して、このルームで開口部2の仮止めを外して、開口部2から栽培するキノコ種菌を培地4に植菌し、開口部2をシール、例えばヒートシールして密封する。その後、袋体1を培養室へ搬送し、この培養室で菌糸培養に適した温度(例えば、室温23℃と湿度60%)に保持して種菌を生育・増殖させる。この種菌の生育は、空気中の酸素を消費して二酸化炭素及び熱が排出されるが、袋体1の生育部Bに無数の微細孔5が形成されているので、これらの微細孔5から酸素が供給される。すなわち、培地4には、生育部Bの前後左右の側壁面に形成した微細孔5から所定量の空気が袋体1内へ供給される。これにより培地4にはほぼ均一に菌糸が繁殖する。一方、発生した二酸化炭素ガスは、生育部Bの微細孔5から袋体1外部に放出される。したがって、袋体1の内部、特に培地4内の二酸化炭素ガスの濃度は従来よりも低くなる。このように、袋体1内に十分な空気が供給されてほぼ均一に菌糸が培養されると、培養期間が短縮される。したがって、菌糸培養時間の短縮化により、植菌から発生までの時間を短縮化することができ、これにより生産性を高めることができる。また、生分解性フィルム材で作成した袋体1を使用すると、キノコ栽培を終了した使用済み袋体1は、そのまま放置あるいは土へ埋設して処分することができ、光触媒性フィルム材で作成した袋体を使用すると、強力な酸化力により、環境汚染物質を除去して大気をクリーンにし、かつ防汚、防臭、抗菌効果により、良質なキノコを栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図1(a)は全体透視図、図1(b)は図1(a)のV部分の拡大図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図2(a)は全体透視図、図2(b)は図2(a)のX部分の拡大図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図3(a)は全体透視図、図3(b)は図3(a)のY部分の拡大図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係るキノコ栽培用袋体の外観斜視図であり、図4(a)は全体透視図、図4(b)は図4(a)のZ部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
1 キノコ栽培用袋体
2 開口部
3 シール
4 培地
5 微細孔
A 培地充填部
B 生育部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底で、多角柱状又は円柱状の壁面を有しており、内部に培地及び種菌等を充填してキノコを生育させるキノコ栽培用袋体において、
前記袋体のうち、前記袋体の底部と前記袋体の壁面の前記底部から所定高さ位置までとを除いた部分には、雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔が形成されていることを特徴とするキノコ栽培用袋体。
【請求項2】
前記袋体は、前記培地等を充填させる充填部とキノコを生育させる生育部とからなり、前記微細孔は、前記生育部の袋体壁面にのみ形成されていることを特徴とする請求項1に記載のキノコ栽培用袋体。
【請求項3】
前記微細孔は、前記袋体壁面のうち、前記袋体の開口部周辺には形成されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載のキノコ栽培用袋体。
【請求項4】
前記微細孔は、前記袋体壁面のうち、所望の通気量に合わせて区画された領域に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体。
【請求項5】
前記袋体は、生分解性フィルムで形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体。
【請求項6】
前記袋体は、光触媒性フィルムで形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキノコ栽培用袋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−228871(P2007−228871A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54211(P2006−54211)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504328152)株式会社サカト産業 (13)
【Fターム(参考)】