説明

キャスト塗工紙および工程紙

【課題】、耐溶剤性に優れ、高い表面強度を有し、合成皮革製造用の工程紙の原紙として有用なキャスト塗工紙を提供する。
【解決手段】 原紙と、原紙の少なくとも一方の面に設けられた塗工層とからなるキャスト塗工紙であって、前記塗工層は、顔料、接着剤および架橋剤を含有する塗料で形成され、 前記接着剤は、カルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンを含み、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する成分を含み、溶剤処理前後のJIS H8686−2に基づいて測定した写像性の低下率が20%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスト塗工紙に関するものであり、特に合成皮革製造用の工程紙の原紙としての利用に適したキャスト塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗工層がキャスト法により設けられたキャスト塗工紙は、産業用基材(例えば、マーキングシート、金属箔等の剥離紙など)、包装用紙(例えば、紙袋、ブックカバーなど)、工程紙の原紙(例えば、合成皮革やプラスチックフィルム等の工程紙の原紙)などとして多用されている。
【0003】
合成皮革の製造は、工程紙上にウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などの合成樹脂を塗工し、乾燥・固化した後に必要に応じて接着剤を介して固化した合成樹脂層と基布とを貼合し、最終的に工程紙から合成皮革を剥がして製造される。工程紙は、これら一連の工程を繰り返す使用に耐えうるものでなければならない。
【0004】
工程紙の基材として、上質紙、コート紙、キャスト塗工紙の他に、プラスティックフィルム、合成紙、または金属箔なども使用されるが、リサイクル性に優れること、合成皮革の加工適性として重要である耐熱性に優れることから、天然パルプを使用した紙基材のものが好まれている。紙基材の中でも、高い白紙光沢度と、鏡面様の面状を有するキャスト塗工紙は、キャスト面を転写することで高級感のあるエナメル調の合成皮革が得られるため、工程紙の基材としての需要が増している。
【0005】
合成皮革製造用の工程紙として、例えば、特許文献1に、塗工層の接着剤としてゲル含量が85%以上であるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスを使用した、キャスト塗被紙が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
合成皮革の工程紙としてキャスト塗工紙に求められる品質として、高光沢でピンホールない良好な面感、塗工層の剥離が生じない高い表面強度、ウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂のペースト中に含まれるジメチルホルムアルデヒド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)またはトルエンなどの溶剤に対する耐溶剤性等を挙げることができる。
【特許文献1】特開2005−97781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面強度を向上させるには、塗工層中に含まれる接着剤の量を増加させる方法があるが、これは、製造直後は表面強度が向上する一方で、溶剤により接着剤成分が溶け出しやすく、繰り返し使用による耐溶剤性および表面強度の低下が起こる問題がある。また、特にキャスト法で製造する工程紙においては、接着剤の含有量が増加すると、工程紙の透気度が低下して、発生した水蒸気が塗工層を通過しにくく、キャストドラムと塗工層の間に水蒸気が溜まり、この水蒸気により均一な塗工層が得られないピットと呼ばれるトラブルが発生する。これらの問題があるため、表面強度を向上させつつ良好な面感を有し、耐溶剤性の高い合成皮革の工程紙は、未だ得られていなかった。
【0008】
本発明は、特に合成皮革製造用の工程紙の原紙として使用されるキャスト塗工紙において、耐溶剤性に優れ、高い表面強度を有するキャスト塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、原紙と、原紙の少なくとも一方の面に設けられた塗工層とからなるキャスト塗工紙であって、前記塗工層は、顔料、接着剤および架橋剤を含有する塗料で形成され、前記接着剤は、カルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンを含み、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する成分を含み、溶剤処理前後のJIS H8686−2に基づいて測定した写像性の低下率が20%以下である。前記溶剤処理は、キャスト塗工紙(幅100mm×縦148mm)の塗工層表面にメチルエチルケトン(MEK)を、No.2のワイヤーバーで1g/m2塗工し、30秒経過してから130℃で90秒間加熱するものである。前記接着剤は、カルボン酸変性スチレン−ブタジエンラテックスまたはカルボン酸変性ポリビニルアルコールを含むことが好ましい。上記において、「カルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョン」としては、カルボキシル基を有する水溶性樹脂、カルボキシル基を有する合成樹脂エマルジョン、水酸基を有する水溶性樹脂、水酸基を有する合成樹脂エマルジョンいずれもが含まれる。
【0010】
上記塗工液の前記顔料は、クレーおよび/または炭酸カルシウムを含むことが好ましく、立方状、柱状、または針状の軽質炭酸カルシウムを含むことがより好ましい。
【0011】
また本発明は、上記キャスト塗工紙の前記塗工層の表面に剥離剤を塗布した合成皮革製造用の工程紙である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐溶剤性に優れ、高い表面強度を有し、合成皮革製造用の工程紙として繰り返しの使用性に優れたキャスト塗工紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、原紙と、原紙の少なくとも一方の面に設けられた塗工層とからなるキャスト塗工紙であって、前記塗工層は、顔料、接着剤および架橋剤を含有する塗料で形成され、前記接着剤は、カルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンを含み、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する成分を含み、耐溶剤性試験前後のJIS H8686−2に基づいて測定した写像性の低下率が20%以下である、キャスト塗工紙である。
【0014】
以下、本発明について、実施の形態及び実施例を挙げながら詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態、実施例に限定して解釈されない。
【0015】
原紙の材料としては、通常の原料パルプを使用することができる。例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ等を使用することができる。また、古紙からなる古紙パルプを使用することも可能であり、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。本発明では、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0016】
本実施形態においては、原料パルプを混合して抄紙原料(紙料スラリー)を調製するが、当該原料パルプには、例えば、内添サイズ剤、紙力増強剤、紙厚向上剤、歩留向上剤等の通常の製紙工程で配合される種々の添加剤を、その種類及び配合量を適宜調整して内添することができる。
【0017】
また、原紙を抄造する抄紙機も特に限定されず、例えば、長網方式、ツインワイヤー方式、ギャップフォーマー方式、丸網方式、ヤンキー方式など各方式を適宜用いることができる。
【0018】
原紙の上に、顔料と接着剤を主成分とする塗工層を設ける。この塗工層を形成する塗料は、特定の構造を有する水溶性樹脂もしくは合成樹脂エマルジョン(以下、かかる水溶性樹脂もしくは合成樹脂エマルジョンを「接着剤第1成分」とも称する)を含む接着剤を含有する。さらに、特定の構造を有する成分(以下、かかる成分を「架橋剤第1成分」とも称する)を含む架橋剤を含有する。
【0019】
接着剤第1成分は、カルボキシル基および/または水酸基を有する水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンである。また、架橋剤第1成分はカルボジイミド基を有する成分である。これらを同時に含有する塗料を用いて塗工層を形成することにより、カルボキシル基および/または水酸基とカルボジイミド基が反応して架橋構造を構成し、優れた耐溶剤性と表面強度が得られる。しかしながら、これら接着剤第1成分と架橋剤第1成分を単に組み合わせるのみでは、合成皮革製造用の工程紙として使用することはできなかった。すなわち、配合量が最適化されていない場合は、塗工層の強度が向上しすぎてもろくなり、却って塗工層が剥離しやすくなったり、表面強度が向上する一方で塗工層の光沢度か低下して、得られる合成皮革の見栄えが低下したり、表面強度のムラにより繰り返し使用するうちに合成皮革の光沢ムラが発生するなどの問題があった。以下、これらの成分の好ましい配合量について説明する。
【0020】
塗料における接着剤第1成分の配合量は、顔料100質量部に対して、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは10〜40質量部である。5質量部未満であると、架橋剤第1成分との架橋構造の形成が充分ではなく高い表面強度が得られず、また50質量部を超過するとキャストドラムからの剥離性が低下し、ドラムピックが発生し、面感が悪化するため好ましくない。
【0021】
塗料における架橋剤第1成分の配合量は、顔料100質量部に対して、好ましくは0.1〜20.0質量部、より好ましくは3.0〜10.0質量部である。0.1質量部未満であると、接着剤第1成分との架橋構造の形成が充分ではなく高い表面強度、高い耐溶剤性が得られず、また20.0質量部を超過すると架橋反応に寄与しない架橋剤の存在により面感が悪化するため好ましくない。
【0022】
また、接着剤第1成分と架橋剤第1成分との配合比は、好ましくは、接着剤第1成分/架橋剤第1成分が1.0〜480.0、より好ましくは1.2〜240.0、最も好ましくは2.4〜8.0である。この配合比が1.0未満、あるいは480.0を超過すると、充分な架橋構造が得られず、耐溶剤性が低下し、また、表面強度も低下する。
【0023】
接着剤第1成分としては、カルボキシル基および/または水酸基を有するものであれば水溶性樹脂であっても合成樹脂エマルジョンであっても特に限定されないが、架橋剤第1成分とより強固な架橋構造を形成し、塗工紙の耐溶剤性を向上させるには、カルボキシル基を含有することが好ましい。接着剤第1成分の例示として、各種共重合体ラテックス(スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス;エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス)をカルボキシル基および/または水酸基含有単量体で変性したラテックス類(変性させずにカルボキシル基および/または水酸基を含有するラテックス類を含む)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。好ましい例示としてカルボン酸変性スチレン−ブタジエンラテックス、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、特に好ましい例示としてカルボン酸変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが挙げられる。
【0024】
架橋剤第1成分としては、カルボジイミド基を有する成分であれば特に限定されない。例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。
【0025】
前記カルボジイミド基を有する成分以外の架橋剤成分を用いると、架橋が進みにくいため、目的の表面強度やビット欠陥が得られ難いが、カルボジイミド基を有する成分と併用することを妨げるものではない。これらの架橋剤成分としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸塩、グリオキザール、メラミン・ホルムアルデヒド、グルタルホルムアルデヒド、メチロールウレア、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、アジリジン化合物、ジヒドラジド化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0026】
接着剤第1成分としてカルボン酸変性したスチレン−ブタジエンラテックスを使用し、架橋剤第1成分としてカルボジイミドを使用した場合は、より強固な架橋構造を形成でき、耐溶剤性と表面強度の向上が特に優れるため、特に好ましい。
【0027】
塗工液における接着剤の成分として、接着剤第1成分とともに、塗工紙製造で一般的に用いられる他の成分を併用することができる。例えば、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス;エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス;これらの各種共重合体ラテックスを官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0028】
これらの一般的に用いられる接着剤成分の種類と配合量は、使用用途によって異なる。具体的には、例えば、合成皮革製造用の工程紙の場合は、高光沢塗工層を設けるため、キャスト塗工を行うの好ましく、本発明に係る塗工紙もキャスト塗工紙とするが、この場合カゼインが好適に用いられる。カゼインはキャストドラムからの剥離性を向上させるために配合し、顔料100質量部に対して、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは3〜10質量部である。1質量部未満では、剥離性が低下し、塗工面の一部がキャストドラムに付着するトラブルが発生しやすくなる。他方、15質量部を超過すると剥離性能が頭打ちとなり、高価なカゼインを大量使用する意味がなく経済性に劣る。
【0029】
塗工液における架橋剤の成分として、架橋剤第1成分とともに、塗工紙製造で一般的に用いられる他の成分を併用することができる。
【0030】
塗工液に含まれる顔料は特に限定されないが、例えば、カオリンやデラミネーテッドカオリンなどのクレー、タルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、シリカ、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料やポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料の中から、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0031】
以上の顔料の中でも炭酸カルシウム、特に立方状、柱状、または針状の軽質炭酸カルシウムは、顔料の充填密度が低くなるため、塗工層が適度に空隙を有し、乾燥時に水分の蒸発を助けるため好ましい。特にキャスト法で塗工層を形成する本発明においては、塗工層をキャストドラムに押し付けてキャスト面の平滑性を写し取るため、塗料に含まれる水分が水蒸気となって、塗工紙を通じて抜けることで乾燥が進むが、塗工紙の透気度が低いと、キャスト塗工面に水蒸気が残ってキャスト面を写し取れず、塗工層の平滑性が低下するピット欠陥が発生する。ピット欠陥が発生すると、耐溶剤性試験時に、ピット部分において溶剤の溜まりが発生しやすく、局所的に溶剤が塗工紙に染み込み、写像性が低下しやすくなるため好ましくない。耐溶剤性の低下を防止するためには、塗工層内部に適度な空隙を設けて、適度な透気度を合成皮革製造用の工程紙に付与する必要があり、そのために充填割合の低い、立方状の軽質炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0032】
立方状、柱状、または針状の軽質炭酸カルシウムの配合量は、顔料中、5〜25質量%含まれることが好ましく、10〜20質量%を配合させるのがより好ましい。配合量が5質量%未満ではピット欠陥を充分に防止できず、耐溶剤性が劣り、他方、25質量%を超過すると、塗工層中の空隙が多くなり、有機溶剤が塗工層に沈み込みやすく、耐溶剤性が低下する。
【0033】
また、炭酸カルシウム以外の顔料として、クレーを使用すると、塗工層表面の平滑性に優れるため、合成皮革製造用の工程紙として耐溶剤性と表面強度を向上できるため好適に使用される。特に、より粒子径の小さい微粒クレーを使用することで、塗工層表面の細孔を少なくすることができ、溶剤が浸透しにくい塗工層表面が形成される。この微粒クレーの平均粒子径は0.1〜1.0μm程度が好ましく、0.2〜0.9μmがより好ましい。クレーの配合量は、顔料中、40〜90質量%が好ましく、60〜80質量%を配合させるのがより好ましい。配合量が40質量%未満では平滑性が劣るため耐溶剤性が低下しやすく、他方、90質量%を超過すると、塗工液の流動性が悪くなり、塗工時のプロファイルが悪化し、塗工層表面の平坦性が劣るため、耐溶剤性が低下する。
【0034】
以上のように、塗工層に耐溶剤性が必要な例えば合成皮革製造用の工程紙として用いられる塗工紙においては、塗工層の塗工液に接着剤第1成分および架橋剤第1成分を含むことで耐溶剤性を向上させることができるが、キャスト法で塗工する場合においては、ピットトラブルを発生させないよう、上記ごとく、炭酸カルシウムとクレーを配合することが好ましく、炭酸カルシウムとして、立方状、柱状、針状のいずれかの軽質炭酸カルシウムを含むことがより好ましい。
【0035】
上記のように、本発明においては、塗工層を形成する塗工液に、接着剤成分としてカルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンと、架橋剤成分としてカルボジイミド基を有する成分とを含有させることで、目的の耐溶剤性と表面強度を得るが、更に顔料として立方状、柱状、針状のいずれかの形状を有する軽質炭酸カルシウム、特に立方状の形状を有する軽質炭酸カルシウムとを組み合わせることで、より耐溶剤性と表面強度に優れた、特に合成皮革工程紙として好適に使用できる塗工紙を得ることができる。
【0036】
本発明の塗工紙の塗工層を形成する塗工液には、上述の顔料、接着剤、架橋剤の他にも、例えば、蛍光増白剤、蛍光増白剤の被染着物質、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の通常使用される各種助剤を適宜配合することもできる。
【0037】
原紙の表面への塗工液の塗工は、通常の塗工紙用途設備で行えば足り、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、原紙上に一層又は多層に分けて塗工液を塗工する。中でも、塗工層表面に高い平坦性が確保されるという点から、エアーナイフコーターを用いることが好ましい。また、ドライヤーパートでの乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方式を適宜採用することができる。
【0038】
塗工液の塗工量は2〜30g/m2が好ましい。2g/m2未満では原紙の被覆性が低下し、良好な光沢性、耐溶剤性が得られない。30g/m2を超過すると、塗工層が乾燥する際に発生する水蒸気が増加し、キャストコート法ではピット欠陥が発生しやすくなり、品質が低下するだけでなく、経済性も悪化する。
【0039】
塗工液を塗工後、塗工層にキャストコート法を施す。キャストコート法は、一般に、(1)塗工層が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着(圧接)して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦(半)乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化(湿潤)させて、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェットキャスト法(再湿潤法)、(3)湿潤状態の塗工層を凝固液等の凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)の3種類に分けることができ、いずれの方法でも耐溶剤性を得られる。したがって、いずれの方法を採用することもできるが、より耐溶剤性と表面強度が高いリウェットキャスト法が好ましい。
【0040】
上述の通り、本発明にかかる塗工層を形成する前に、原紙を平坦化する目的で、公知となっている塗工設備を用いて、顔料および接着剤を含有する塗工液を塗工し、下塗り塗工層を設け、公知となっている弾性ロールと金属ロールとの組み合わせによる平坦化処理を行うことが好ましい。このような下塗り塗工を行うと、得られる塗工紙の表面性が向上するため、耐溶剤性が向上するので好ましい。
【0041】
また、本形態の工程紙は、下記に示す溶剤処理を行う前後のJIS H 8686−2に基づいて測定する写像性の低下率が20%以下であるのが好ましく、15%以下であるのがより好ましく、更には10%以下とするのが好ましく、5%以下であるのが特に好ましい。これは、例えば合成皮革製造用の工程紙では、写像性の低下が小さいほど、製造する合成皮革の鏡面性の低下が少なく、見栄えの良い合成皮革となる。また、溶剤による劣化が起こり難いことから、トラレなどの欠陥発生が低減でき、剥離性が良好なため効率的に合成皮革の製造ができる。溶剤処理は、工程紙(幅100×縦148mm)の塗工層表面にメチルエチルケトン(MEK)を1g/m2、No.2のワイヤーバーで塗工し、30秒経過してから130℃で90秒間加熱した。
【0042】
以上のように、本発明にかかるキャスト塗工紙は、塗工層を形成する塗工液としてカルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンと、カルボジイミド基を有する成分とを含有することにより、繰り返し使用しても写像性の低下が低く、表面強度が良好でピットトラブルが少ない、耐溶剤性に優れた塗工紙となる。
【0043】
本発明のキャスト塗工紙は、工程紙用の基材に適しているが、一般印刷用途、袋用途、粘着ラベル用途等、その他の用途にも利用することができる。本発明のキャスト塗工紙は、工程紙の中でも特に合成皮革製造用の工程紙の基材に適しているが、セラミックグリーンシート、マジックフィルム等の工程の基材にも利用できる。
【0044】
工程紙の基材として、本発明にかかるキャスト塗工紙を使用する場合、キャスト塗工紙の塗工層表面に、剥離剤を塗布して剥離層を設ける。剥離剤としては、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル系樹脂等が使用できる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1〜35、比較例1、2のキャスト塗工紙を製造した。各キャスト塗工紙において、原紙として表1に示すようにコート紙または上質紙を用いた。コート紙および上質紙は下記に示すように調整した。
【0047】
〔上質紙〕
原料として広葉樹晒クラフトパルプ100%のパルプを使用し、フリーネスを370mlとした。絶乾パルプ1tに対して、カチオン化澱粉を5kg、サイズ剤0.2kgをそれぞれ有効成分基準で内添し、填料として軽質炭酸カルシウムを灰分10%となるよう内添した。長網抄紙機で抄造・乾燥後、サイズプレスを用いて、重質炭酸カルシウム100質量部とスチレン−ブタジエンラテックス4質量部とを混合した塗工液を、片面あたり乾燥質量で5.0g/m2となるよう塗工した。
【0048】
〔コート紙〕
上述の上質紙に、更にブレードコーターで、クレー50質量部、重質炭酸カルシウム50質量部、ラテックス8質量部からなる塗工液を、片面あたり10g/m2塗布し、スーパーカレンダー(SC)で平坦化処理して、米坪157g/m2の塗工紙を得た。
【0049】
次に、原紙上に下記の方法にしたがって塗工層を形成した。
【0050】
〔塗工層の形成〕
まず、表1に示す種類及び割合で、顔料、接着剤第1成分、架橋剤第1成分、その他の成分を常温にて混合撹拌して塗工液を得た。表1において、各顔料成分は顔料中における質量%で表し、他の成分は顔料100質量部に対する質量部で表す。表1における各材料は下記に示す通りである。
【0051】
・クレー(カオリン、品番:HYDRASPERSE90、HUBER社製)
・粒状炭酸カルシウム(重質、品番:エスカロン#90、三共製粉株式会社製)
・立方状炭酸カルシウム(軽質、品番:ブリリアントS15、白石カルシウム社製)
・針状炭酸カルシウム(軽質、品番:TP-123CS、奥多摩工業社製)
・柱状炭酸カルシウム(軽質、品番:PC-700、白石カルシウム社製)
・接着剤成分a(接着剤第1成分)(成分:カルボン酸変性SBR、品番:E1194、旭化成ケミカルズ社製)
・接着剤成分b(接着剤第1成分)(成分:カルボン酸変性PVA、品番:PVA-KL118、クラレ社製)
・接着剤成分c(接着剤第1成分)(成分:アクリル樹脂、品番:ニューコートPV303、新中村化学社製)
・接着剤成分d(接着剤第1成分)(成分:ポリビニルアルコール、品番:PVA117、クラレ社製)
・接着剤成分e(成分:ウレタン樹脂、品番:スーパーフレックス470、第一工業製薬社製)
・架橋剤成分f(架橋剤第1成分)(成分:カルボジイミド、品番:カルボジライトEM−03、日清紡社製)
・架橋剤成分g(架橋剤第1成分)(成分:グリオキザール、品番:グリオキザールGX、日本合成化学工業(株)製)
上記塗料を、前述した塗工紙原紙にエアーナイフコーターで乾燥質量12g/m2となるよう塗工し、リウェットキャスト法(再湿潤法)により鏡面仕上げを行った。ただし、実施例34では鏡面仕上げをゲル化キャスト法で行った。
【0052】
〔評価方法〕
以上のようにして製造した各実施例、各比較例のキャスト塗工紙について、以下のとおり測定・評価を行った。結果は、表1に示した。
1)耐溶剤性試験
キャスト塗工紙(幅100mm×縦148mm)の塗工層表面にメチルエチルケトン(MEK)を1g/m2程度、No.2のワイヤーバーで塗工し、30秒経過してから130℃で90秒間加熱した。この溶剤処理を行う前後の写像性を測定し、溶剤処理による写像性低下率を求めた。溶剤処理前後の写像性と低下率を表1に示す。
【0053】
1−1)写像性
JIS H 8686−2に準じて測定した。
【0054】
1−2)写像性低下率
次の式で変化率を算出した。
写像性低下率(%)=(1−(試験後の写像性測定値/試験前の写像性測定値))×100
【0055】
2)表面強度
キャスト塗工紙をラシャ紙に、染色堅牢度用摩擦試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて擦り合わせ、表面強度を測定した。試験は、ラシャ紙(ハグルマ封筒(株)製、品番:NTラシャ黒、商品名:A497BL、幅25mm×縦170mm)上で、500gの荷重を掛けたキャスト塗工紙(幅25mm×縦50mm)を20往復させて行った。試験後、ラシャ紙に擦り取られた塗工層を、目視で次のとおり評価した。
◎:塗工層が合成皮革に剥ぎ取られず、良好であった。
○:塗工層が合成皮革に若干、剥ぎ取られ、表面強度が若干、劣る。
△:塗工層が合成皮革に多少、剥ぎ取られ、表面強度が多少、劣る。
×:塗工層が合成皮革に剥ぎ取られ、表面強度が劣る。
尚、上記のうち◎、○、△を実使用可能と判断する。
【0056】
3)ピット欠陥
塗工紙をキャスト法で製造した際に発生したピット欠陥を、目視で次のとおり評価した。
◎:ピット欠陥が発生せず、良好であった。
○:ピット欠陥が若干発生し、塗工紙の表面性が若干低下した。
△:ピット欠陥が多少発生し、塗工紙の表面性が多少低下した。
×:ピット欠陥が発生し、塗工紙の表面性が低下した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、実施例1〜34では、耐溶剤性試験による写像性の変化率が20%以下であり、耐溶剤性と表面強度に優れる。他方、接着剤第1成分または架橋剤第1成分を含まない比較例1〜3は、耐溶剤性試験による写像性の変化率が20%を超過し、表面強度も低く溶剤耐性に劣り、ピット欠陥が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のキャスト塗工紙は、有機溶剤を用いて製造する合成皮革の工程紙として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、原紙の少なくとも一方の面に設けられた塗工層とからなるキャスト塗工紙であって、
前記塗工層は、顔料、接着剤および架橋剤を含有する塗料で形成され、
前記接着剤は、カルボキシル基および/または水酸基を有する、水溶性樹脂または合成樹脂エマルジョンを含み、
前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する成分を含み、
前記塗工層の表面にメチルエチルケトンをNo.2のワイヤーバーで1g/m2塗工し、30秒経過してから130℃で90秒間加熱した後のJIS H8686−2に基づいて測定した写像性の低下率が20%以下である、キャスト塗工紙。
【請求項2】
前記接着剤は、カルボン酸変性スチレン−ブタジエンラテックスまたはカルボン酸変性ポリビニルアルコールを含む、請求項1に記載のキャスト塗工紙。
【請求項3】
前記顔料は、クレーおよび/または炭酸カルシウムを含む、請求項1または2に記載のキャスト塗工紙。
【請求項4】
前記顔料は、立方状、柱状、または針状の軽質炭酸カルシウムを含む、請求項3に記載のキャスト塗工紙。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載のキャスト塗工紙の前記塗工層の表面に剥離剤を塗布した合成皮革製造用の工程紙。

【公開番号】特開2009−185395(P2009−185395A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23241(P2008−23241)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】