説明

クライオポンプ

【課題】 水素などの凝縮温度の低い気体を吸着するクライオポンプであって、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプとすること、占有空間の小型化が可能なクライオポンプを提供すること。
【解決手段】 クライオポンプ1は、第1、2コールドヘッド21、22を備えた蓄冷型冷凍機2と第1、2コールドヘッド21、22により冷却される第1、2クライオポンプ部50と、第2クライオポンプ部6、7とを備える。第2クライオポンプ部6、7は前面62f、64fがバッフル5に向いたクライオパネル62とアドソープションパネル63とを備え、アドソープションパネル63は外周側が傾斜した第1領域63aと第1領域63aの内側の傾斜した第2領域63bと第2領域63bの内側の平坦な第3領域63cと裏面64g側とにより形成され、第1領域63aを除いた両面64f、64gに吸着材65が接着される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分子を吸着により補足して高真空を生成するクライオポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のクライオポンプとして、図12に示すように、一端に開口部102を有する筒状の熱シールド部材101と、熱シールド部材101に固定したバッフル106と、熱シールド部材101の内部に配置され、熱シールド部材よりも低温に冷却されるパネル構造体110と、を備え、パネル構造体110の表面に形成された吸着領域にて開口部102から熱シールド部材101の内部へと飛来する気体分子を吸着により捕捉して排気するクライオポンプ100であって、パネル構造体110は気体分子が開口部102から直線的な飛来経路を経て到達しうる部位に第1の吸着領域112a、113a、114aが形成され、気体分子が開口部102から直線的な飛来経路を経て到達しない部位に第2の吸着領域112b、113b、114bが形成され、第1の吸着領域112a、113a、114aの単位面積当りの排気速度が第2の吸着領域112b、113b、114bの単位面積当りの排気速度よりも相対的に高くされているクライオポンプ100が開示されている。
【0003】
更に詳しく述べると、熱シールド部材101は、主クライオポンプハウジング109に設置したギフォードマクマホン冷凍機などの冷凍機103の第1冷却ステージ104に固定される。熱シールド部材101の開口部102側に、バッフル106が設けられ、バッフル106を介して真空チャンバー120の内部空間108と熱シールド部材101の内部空間107とが連通される。そして、熱シールド部材101は第1冷却ステージ104で発生している冷凍により略80K〜略100Kに冷却され、バッフル106は熱シールド部材101を介して第1冷却ステージ104と同程度の温度に冷却される。
【0004】
パネル構造体110は、パネル取付部材111と、最上パネル112、下部パネル113、114とを備え、内部空間107で、冷凍機103の第2冷却ステージ105に固定される。そしてパネル構造体110は、第2冷却ステージ105で発生している略10K〜略20Kの冷凍により第2冷却ステージ105と同程度の温度に冷却される。図12において、各パネル112、113、114は円錐台側面の形状で、開口部102側に近い方の側面端の径が小さくなっているが、パネル取付部材111の上面111aに平行な平板形状でも良い。各パネル112、113、114の開口部102側の面(以後、前面)には、活性炭115が接着剤で全面に接着され、前面の裏側の面(以後、裏面)に活性炭116が全面に接着されている。活性炭115の径は、活性炭116の径より小さい。活性炭116を接着した各パネル112、113、114の前面側は、第1の吸着領域112a、113a、114aが形成され、活性炭116を接着した各パネル112、113、114の裏面側は、第2の吸着領域112b、113b、114bが形成される。第1の吸着領域112a、113a、114aと、第2の吸着領域112b、113b、114bの温度はパネル構造体110の温度と同程度の温度(略10K〜略20K)に冷却される。これにより、第1の吸着領域112a、113a、114aは、第2の吸着領域112b、113b、114bより排気速度が相対的に優れ、第2の吸着領域112b、113b、114bは第1の吸着領域112a、113a、114aより相対的に気体吸蔵量が優れている。
【0005】
バッフル106および熱シールド部材101は、真空チャンバー120からクライオポンプ100の内部に向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水蒸気、レジストなど)分子を表面に捕獲(凝固)する。バッフル106の温度において蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば、窒素、水素など)分子およびバッフル106で捕獲されなかったレジスト(有機物の気体)分子は、バッフル106を通過して内部空間107に飛来する。
【0006】
飛来した気体分子のうちレジストと、パネル構造体110の冷却温度において蒸気圧が充分に低くい窒素などの気体は、第1の吸着領域112a、113a、114aの各活性炭115と、第2の吸着領域112b、113b、114bの各活性炭116とに吸着あるいは各活性炭115、116の表面に凝固される。上記のレジスト、窒素などの気体の吸着量、凝固量に比べて少量であるが、パネル取付部材111の表面にもレジストと窒素などの気体が捕獲される。
【0007】
内部空間107に飛来した気体のうちパネル構造体110の冷却温度において、蒸気圧が低くない水素などの気体は第1の吸着領域112a、113a、114aの各活性炭115と、第2の吸着領域112b、113b、114bの各活性炭116とに吸着される。このようにして、真空チャンバー120の内部空間108の気体分子が排気される(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
また、従来技術のクライオポンプとして、図13に示すクライオポンプ200が開示されている。クライオポンプ200は、ハウジング201と、2段のギフォードマクマホン冷凍機等の冷凍機203と、輻射シールド207と、第1段ポンプ面(バッフル)208と、第2段クライオパネル210とを備える。ハウジング201のフランジ202は、ゲートバルブ(図示せず)を備えた真空チャンバー(図示せず)に接続される。
【0009】
冷凍機203の低温部204は、略77Kの冷凍を発生する第1段ヒートシンク205と、略4K〜25Kの冷凍を発生する第2段ヒートシンク206とを備え、ハウジング201内に設けられる。第1段ヒートシンク205には、輻射シールド207が固定され、輻射シールド207の開口部209側に第1段ポンプ面208が設けられる。そして、輻射シールド207と第1段ポンプ面208とは、第1段ヒートシンク205で発生した略77Kの冷凍により略100K〜略80Kに冷却されている。第2段ヒートシンク206には、第2段クライオパネル210が固定され、第2段ヒートシンク206と第2段クライオパネル210は、輻射シールド207と第1段ポンプ面208とにより包囲されている。
【0010】
第2段クライオパネル210は、円板からなる2枚のクライオパネル211、212と、吸着材221が接着されたクライオパネル213〜218と、スペーサ219と、ロッド220とを備える。そして第2段クライオパネル210は、各クライオパネルの内周面側をスペーサ219を介してロッド220で固定されている。クライオパネル213〜218は、ドーナツ形状の円板の外周端側を第1段ポンプ面208側に略45°折り曲げた周辺屈曲部213a〜218aが形成され、各クライオパネル213〜218の各最外端213d〜218dは、この順に順次、外径が大きくなっている。
【0011】
ここで、クライオパネル213〜218の第1段ポンプ面208側の面を前面とし、前面の裏側の面を裏面とする。第2段クライオパネル210は、周辺屈曲部213a〜218aと、スペーサの当接面とを除いたクライオパネル213〜218の平坦な裏面213b〜218bに活性炭あるいはゼオライトなどの吸着材221が接着される。クライオパネル213〜218の前面213c〜218cと、周辺屈曲部213a〜218aと、クライオパネル211、212の両面とには吸着材221が接着されていない。そして、クライオパネル211、212と、クライオパネル213〜218と、吸着材221の各温度は、第2段ヒートシンク206で発生する略4K〜25Kの冷凍により、略30K〜略10Kに冷却されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−108744号公報
【特許文献2】特表昭63−501585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1によれば、最上パネル112の第1の吸着領域112aは、活性炭115が接着されており、バッフル106側から輻射熱を受けている。活性炭115は金属に比べて放射率が大きいため、最上パネル112の前面に活性炭115が接着されていない場合に比べて、バッフル106側から多量の輻射熱が侵入する。この侵入輻射熱によりパネル構造体110の温度が上昇し、クライオポンプ100の吸着能力(排気能力)と排気速度とが低下する問題が生じ、さらには長時間連続使用における排気能力と排気速度が急速に劣化する問題がある。
【0014】
また、各パネル112、113、114の各間隔が大きい場合、内部空間107内で熱シールド部材などに衝突して反射し飛来する窒素あるいはレジストの気体分子が下部パネル113、114の第1の吸着領域113a、114aの活性炭115に吸着あるいは活性炭115の表面に凝固される。このため、下部パネル113、114の第1の吸着領域113a、114aの活性炭115は、水素などの気体に対する吸着能力(排気能力)と排気速度が低下する問題がある。さらには、長時間連続使用における水素などの気体に対する排気能力と排気速度が急速に劣化する問題が生じる。
【0015】
また、各パネル112、113、114が、パネル取付部材111の上面111aに平行な平板である場合は、各パネル112、113、114の各間隔の大小に係らず、上述と同じ理由により水素などの気体に対して、上述と同じ問題がある。
【0016】
また、水素などの気体の吸着能力と排気速度を増大するには、パネル構造体110の各パネル間の間隔を変えずに、活性炭115の表面積を増大するためにパネルの枚数を増せば良い。しかし、パネル枚数の増大によりパネル構造体110が大型になり、結果、クライオポンプ100も大型化して、蒸着装置に設置する占有空間が増大する問題がある。
【0017】
さらに、最上パネル112、下部パネル113、114は、略円錐台形状で、径方向に分割されていない。このため、第1の吸着領域113a、114aの中央側の活性炭115と、第2の吸着領域112b、113b、114bの中央側の活性炭116には、気体分子が飛来し難く、クライオポンプ100の排気速度が低下する問題がある。
【0018】
また、特許文献2によれば、真空チャンバーからの凝縮温度の高い水蒸気、あるいはレジストなどは、第1段ポンプ面208に捉えられ凝固される。凝縮温度の比較的低い窒素などの気体分子と、第1段ポンプ面208で凝固されなかったレジストの気体分子は、第1段ポンプ面208を通過して第2段クライオポンプ210に飛来し、クライオパネル211、212と、クライオパネル213〜218の表面213c〜218cと、各最外端213d〜218dと、周辺屈曲部213a〜218aとに捉えられ凝固される。そして周辺屈曲部213a〜218aが、第1段ポンプ面208方向へ略45°折り曲げられているので、窒素などの気体分子とレジストの気体分子は、殆どクライオパネル213〜218の裏面213b〜218bの吸着材221に吸着されない。
【0019】
凝縮温度の極めて低い水素、ヘリウムなどの気体分子は、第1段ポンプ面208を通過して、クライオパネル213〜218の裏面213b〜218bの吸着材221に吸着される。しかし、真空チャンバーで発生する水素、ヘリウムなどの気体分子が多量である場合、吸着材221はクライオパネル213〜218の裏面213b〜218bにのみ接着されている。このためクライオポンプ200は、水素、ヘリウムなどの気体分子に対して吸着材221の容量不足になり、排気能力と排気速度の低下と、長期間に亘る排気能力と排気速度の低下の問題を生じる。
【0020】
また、水素、ヘリウムなどの気体分子に対して吸着材221の容量と、排気速度と、長期間に亘る排気能力と排気速度を増大するため、クライオパネル213〜218の各表面213c〜218cにも吸着材221を接着することが考えられる。しかし、周辺屈曲部213a〜218aは第1段ポンプ面208方向へ略45°折り曲げられているので、クライオパネル213〜218の間を飛来してくる窒素あるいはレジストの気体分子は、表面213c〜218c側の吸着材221に吸着、あるいは表面213c〜218c側の吸着材221の表面に凝固される。このため、表面213c〜218c側の吸着材221の水素あるいはヘリウム等の気体に対する吸着能力は不足する。結果、クライオポンプ200は、水素、ヘリウムなどの気体分子に対して吸着材221の容量不足になり、排気能力と排気速度の低下と、長期間に亘る排気能力と排気速度の低下の問題を生じる。
【0021】
さらに、水素、ヘリウムなどの気体分子に対して吸着材221の容量と、排気速度と、長期間に亘る排気能力の排気速度を増大するため、クライオパネル213〜218の枚数を増加すると、第2段クライオパネル210が大型化し、これに伴いハウジング201も大型になり、クライオポンプ200の設置空間が大きくなる問題がある。
【0022】
また、クライオパネル213〜218は、略円錐台形状で、径方向に分割されていない。このため、クライオパネル213〜218の中央側の吸着材221には、水素などの気体が飛来し難く、クライオポンプ200の排気速度が低下する問題がある。
【0023】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、水素などの凝縮温度の低い気体を吸着するクライオポンプであって、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプとすること、占有空間の小型化が可能なクライオポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、冷凍を発生する第1コールドヘッドと、第1コールドヘッドより低い温度の冷凍を発生する第2コールドヘッドとを備えた蓄冷型冷凍機と、第2コールドヘッドを収納すると共に開口部を備え、第1コールドヘッドに熱接触した輻射シールドと、開口部側に設けられ輻射シールドに熱接触したバッフルとを備える第1クライオポンプ部と、バッフル側に配設されたクライオパネルと、クライオパネルのバッフル側を前面とした場合の裏面に対して所定の間隔を持って配列したアドソープションパネルとを輻射シールドとバッフルとで包囲すると共に、第2コールドヘッドにより冷却される第2クライオポンプ部と、を備え、クライオパネルの少なくとも前面は、金属面またはメッキが施された面である共に、吸着材が貼着されず、アドソープションパネルは、アドソープションパネルのバッフル側の面を前面とすると共に前面の裏側を裏面とし、外縁側の少なくとも一部がバッフルから遠ざかると共に外側へ拡がる方向に傾斜した第1傾斜部と、第1傾斜部の内側に設けた中央部と、中央部と第1傾斜部との間に設けられ、第1傾斜部と同じ方向に傾斜した第2傾斜部とにより形成され、且つ第1傾斜部の前面には吸着材を貼着せず、中央部の前面と、第2傾斜部の前面と、アドソープションパネルの裏面と、には吸着材が貼着される。
【0025】
また、請求項2に記載の発明は、クライオパネルは、外縁側の少なくとも一部がバッフルから遠ざかると共に外側へ拡がる方向に傾斜した傾斜部が設けられる。
【0026】
また、請求項3に記載の発明は、隣合うアドソープションパネルのうち、クライオパネルに近い側のアドソープションパネルの第1傾斜部の裏面外縁側に貼着された吸着材端部により形成されると共に配列方向に直交する裏面側仮想外面が、裏面外縁の内側にある場合には、隣合うアドソープションパネルの間隔は、クライオパネルより遠い側にあるアドソープションパネルの中央部の前面に貼着された吸着材端部により形成されると共に配列方向に直交する前面側仮想外面が裏面外縁を基準にクライオパネルに近い側のアドソープションパネル側にあり、裏面側仮想外面が、裏面外縁側より突出している場合には、隣合うアドソープションパネルの間隔は、前面側仮想外面が、裏面側仮想外面を基準にクライオパネルに近い側のアドソープションパネル側にある。
【0027】
また、請求項4に記載の発明は、クライオパネルと、クライオパネルの隣に配置されたアドソープションパネルとの間隔は、アドソープションパネルの中央部の前面に貼着された吸着材端部により形成されると共に配列方向に直交する前面側仮想外面が、クライオパネルの傾斜部の裏面外縁を基準にクライオパネル側にある。
【0028】
また、請求項5に記載の発明は、クライオパネルの傾斜部の外縁は、輻射シールドの開口部の内周側縁からクライオパネルの隣に配置されたアドソープションパネルの第2傾斜部の吸着材に向かって直接飛来する気体分子が吸着材にあたることを阻止する。
【0029】
また、請求項6に記載の発明は、隣合うアドソープションパネルのうち、クライオパネルに近い方のアドソープションパネルの第1傾斜部の外縁は、輻射シールドの開口部の内周側縁からクライオパネルに遠い方のアドソープションパネルの第2傾斜部の吸着材に向かって直接飛来する気体分子が吸着材にあたることを阻止する。
【0030】
また、請求項7に記載の発明は、第2クライオポンプ部は、配列方向に対して直交する方向に所定の間隙を持って、複数個配備される。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に記載の発明では、クライオパネルの少なくとも前面は、金属面またはメッキが施された面であると共に吸着材が貼着されていない。これにより、クライオパネルの前面の放射率は吸着材の放射率に比べて低い。従って、クライオパネルにバッフル側および輻射シールドの開口部側から直進する輻射熱、あるいは輻射シールドの内面にあたり反射して照射される輻射熱は、僅かである。また、アドソープションパネはクライオパネルの裏面に配列されているので、アドソープションパネルの中央部と第2傾斜面の各吸着材には、クライオパネルによりバッフル側および輻射シールドの開口部側から輻射による侵入熱の多くが阻止される。結果、第2クライオポンプ部は低い温度(例えば、略25K〜略10K)に維持されるので、吸着材の吸着能力が増大する。
【0032】
また、アドソープションパネルは、第1傾斜部と第2傾斜部を備えており、第1傾斜部の前面を除き、アドソープションパネルの前面と裏面とに吸着材が貼着されている。従って、吸着材の容量を充分確保できる。さらには、互いに隣合うアドソープションパネルの間隔を適正することにより、アドソープションパネルの第1傾斜部の外側の間隙から飛来する窒素やレジストなどの気体分子の殆どは、第1傾斜部前面と第2傾斜部前面の吸着材とに凝固あるいは吸着される。水素などの気体の多くは、アドソープションパネルの中央部前面の吸着材と裏面の吸着材に吸着される。結果、第2クライオポンプ部は、凝縮温度の極めて低い水素などの気体に対する吸着材の吸着能力の増大と吸着材の容量の充分な確保とが出来る。また、窒素やレジストなどの気体分子に対する排気能力と排気速度が高い。
【0033】
以上により、排気能力と排気速度が高くなると共に、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプを提供できる。
【0034】
また、請求項2に記載の発明では、クライオパネルに設けた傾斜部により、バッフル側および輻射シールドの開口部側からクライオパネルの隣のアドソープションパネルへの直進する輻射熱の侵入を阻止しつつ、クライオパネルの外縁寸法(アドソープションパネルの配列の直交方向)が短縮できる。従って、クライオパネルとアドソープションパネルとの間隔と、隣合うアドソープションパネルとの間隔とを適正にすると共に、アドソープションパネルを適正枚数にすることにより、第2クライオポンプ部が小型になり、占有空間の小さなクライオポンプが提供できる。
【0035】
また、請求項3に記載の発明では、互いに隣合うアドソープションパネルの第1傾斜部の外側の間隙から飛来する窒素やレジストなどの気体分子の殆どは、クライオパネルに遠い側のアドソープションパネルの第1傾斜部の前面と第2傾斜部前面の吸着材とに凝固あるいは吸着される。これにより、クライオパネルに近い側のアドソープションパネルの裏面の吸着材と、クライオパネルに遠い側のアドソープションパネルの中央部前面の吸着材には、窒素、レジストなどが微量吸着されるだけで、多くは水素などの気体分子が吸着される。結果、水素などの凝縮温度の極めて低い気体分子に対する排気能力(吸着能力)と排気能力と排気速度が高く、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプを提供できる。
【0036】
また、請求項4に記載の発明では、クライオパネルの傾斜部の外側と、隣のアドソープションパネルの第1傾斜部の外側の間隙から飛来する窒素やレジストなどの気体分子の殆どは、クライオパネルと、クライオパネルの隣のアドソープションパネルの第1傾斜部の前面と第2傾斜部前面の吸着材とに凝固あるいは吸着される。これにより、アドソープションパネルの中央部前面の吸着材は、主に水素などの気体分子を吸着する。結果、水素などの凝縮温度の極めて低い気体分子に対する排気能力と排気速度が高く、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプを提供できる。
【0037】
また、請求項5に記載の発明では、輻射シールドの開口部の内周側縁からクライオパネルの隣に配置されたアドソープションパネルの第2傾斜部の吸着材に向かって直接飛来する窒素やレジストなどの気体分子は、クライオパネルで凝固される。結果、水素などの凝縮温度の低い気体分子に対する排気能力と排気速度が高く、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプを提供できる。
【0038】
また、請求項6に記載の発明では、輻射シールドの開口部の内周側縁からクライオパネルの隣以降に配置されたアドソープションパネルの第2傾斜部前面の吸着材に向かって直接飛来する窒素やレジストなどの気体分子は、主に第1傾斜部前面で凝固される。結果、水素などの気体に対する吸着能力が増大し、水素などの凝縮温度の低い気体分子に対する排気能力と排気速度が高く、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有するクライオポンプを提供できる。
【0039】
また、請求項7に記載の発明では、第2クライオポンプ部は、アドソープションパネルの配列方向に対して直交する方向に所定の間隙を持って、複数個配備される。従って、この間隙から飛来する水素などの極めて凝縮温度の低い気体は、短い飛来距離で、アドソープションパネルの吸着材により吸着されるので、クライオポンプの排気速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施例に係るクライオポンプの説明図である。
【図2】図1におけるバッフルの輻射シールドへの取付けを示すA矢視図である。
【図3】図1のアドソープションパネルのパネル本体のA矢視図である。
【図4】図3のCC断面図である。
【図5】図1のアドソープションパネルの断面図である。
【図6】図1のクライオパネルの断面図である。
【図7】図1の第2クライオポンプ部のブラケットの斜視図である。
【図8】図1の第2クライオポンプ部のB矢視図である。
【図9】図8のD矢視図である。
【図10】図9のEE断面図における第2クライオポンプ部の部分の拡大図である。
【図11】図9のEE断面図における第2クライオポンプ部の別例の部分拡大図である。
【図12】本実施例に係る従来技術のクライオポンプの説明図である。
【図13】本実施例に係る従来技術の他のクライオポンプの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0042】
図1は本実施例に係るクライオポンプの説明図である。図1に示すように、クライオポンプ1は、ギフォードマクマホン冷凍機などの蓄冷型冷凍機2と、真空ケース3と、第1クライオポンプ50と、輻射シールド4の内部に設けられた第2クライオポンプ部6、7(図8)とを備える。真空ケース3は、略コップ形状をなし、有底の円筒部31と、円筒部31の上端の開口部34に設けたフランジ部32と、円筒部31の円周面に設けた冷凍機取付けポート33とを備える。フランジ部32は半導体製造装置などの真空チャンバー35に気密に接続され、真空チャンバー35には、開口部34との導通と遮断とを制御する仕切弁(図示せず)が備えられる。
【0043】
蓄冷型冷凍機2は、例えば略50Kの冷凍を発生する第1コールドヘッド21と、例えば略10Kの冷凍を発生する第2コールドヘッド22とを備え、蓄冷型冷凍機2のガス供給ポート24とガス戻りポート25とは、それぞれ配管(図示せず)を介して圧縮機(図示せず)に接続される。第1コールドヘッド21を形成するシリンダ23の常温側は、真空ケース3の冷凍機取付けポート33に気密に接続される。
【0044】
輻射シールド4は、アルミニュームなどの熱伝導の良好な板材からなり、略コップ形状で、円筒面の一部に設けた平面部44に第1コールドヘッド21が固定される。これにより輻射シールド4は、第1コールドヘッド21で発生する略50Kの冷凍により、略100K〜略50Kに冷却される。そして輻射シールド4の開口部41が、真空ケース3の開口部34側に設けられる。開口部41側の輻射シールド4の内周面には、バッフル5を固定するステイ42が4つ等分に固定される。
【0045】
図2は、図1におけるバッフル5の輻射シールド4への取付けを示すA矢視図である。図1、図2に示すように、バッフル5は、略十字形状をなす保持器55と、外周面が円錐台形状のバッフル部材51〜54とを備えている。そして保持器55とバッフル部材51〜54は、熱伝導の良好な銅などにより形成される。バッフル部材51〜53は、保持器55の中央の交叉位置を中心にして、バッフル部材51が中心側に順次同心に配置され、バッフル部材51と、52と、53との大径側の端部の各4箇所が保持器55に溶接などで固定される。バッフル部材54は、大径側の端部の4箇所にスリッド54a(図2)が設けられ、バッフル部材53の外側同心になるよう、スリッド54aに保持器55を挿入して溶接などで固定される。そして、バッフル5は、輻射熱の侵入を抑制するために表面がニッケルメッキされ、バッフル部材51〜54の各小径側端部が輻射シールド4の開口部41側に向くように、保持器55の外側の取付部55aに挿入したボルト56と、輻射シールド4のステイ42側のナット57とにより、ステイ42に固定される。
【0046】
輻射シールド4は、真空ケース3からの輻射熱を吸熱すると共に、第1コールドヘッド21で発生した冷凍によりバッフル5を略100K〜略50Kに冷却する伝導部材として機能する。これにより、バッフル部材51〜54は略100K〜略50K冷却される。そして、バッフル5と輻射シールド4とにより、真空チャンバー35内の水蒸気あるいはレジストを凝固する第1クライオポンプ部50が形成される。
【0047】
図1に示すように第2クライオポンプ部6は、ブラケット61と、クライオパネル62と、複数枚のアドソープションパネル63とを備える。
【0048】
図3はアドソープションパネル63のパネル本体64をA方向(図1)から視た平面図であり、図4は図3のCC断面図である。図3、図4に示すように、パネル本体64はA方向から視た形状は、円周角が180°より小さい弧の両端を弦で結んだ略半月形状をなし、銅などの熱伝導の良好な板材から成形される。ここで、パネル本体64およびアドソープションパネル63のバッフル5側の面を前面64f、前面64fの裏側の面をパネル本体64およびアドソープションパネル63の裏面64gとする。
【0049】
パネル本体64は、平坦な半月形状の中央部64aと、中央部64aの弧側の縁部分を折り曲げた第2傾斜部64bと、第2傾斜部64bの外側に設けた第1傾斜部64dと、第2傾斜部64bと第1傾斜部64dとを繋ぐ平坦な帯部64cと、パネル本体64の弦側中央部分を裏面64g側に90°折り曲げた取付部64eとから形成される。第2傾斜部64bと第1傾斜部64dは、裏面64g側にそれぞれ折り曲げられる(図4)。第2傾斜部64bが中央部64aから折り曲げられた曲げ角度αは135°〜165°としている。第1傾斜部64dが帯部64cから折り曲げられた曲げ角度βは135°〜165°としている。帯部64cは中央部64aと略平行としている。
【0050】
図5は、アドソープションパネル63の断面図である。図5に示すように、アドソープションパネル63は、パネル本体64の裏面64gと、パネル本体64の前面64f側の第2傾斜部64bと、パネル本体64の前面64f側の平坦な中央部64aとに活性炭などの吸着材65が接着される。これにより、アドソープションパネル63の前面64f側は、第1傾斜部64dおよび帯部64cの吸着材65を接着していない第1領域63aと、パネル本体64の第2傾斜部64bに吸着材65を接着した第2領域63bと、中央部64aに吸着材65を接着した第3領域63cとが形成される。
【0051】
図6は、図1のクライオパネルの断面図である。パネル本体64と同様に、クライオパネル62のバッフル5側の面を前面62f、前面62fの裏側の面を裏面62gとする。図6において、クライオパネル62は、パネル本体64と同じ材質の板材で、同じ形状、同じ寸法に形成される。即ち、中央部62aと、第2傾斜部(傾斜部)62bと、帯部62cと、第1傾斜部(傾斜部)62dと、取付部62eとを備える。そして少なくとも前面62fには、吸着材は接着されていない。裏面62gも吸着材は接着されていないが、場合によっては吸着材を接着しても良い。
【0052】
また、クライオパネル62の前面62fは、輻射熱を受け難くするためニッケルメッキ等の表面処理が施される。尚、クライオパネル62の材質が放射率が低い金属であれば、メッキ等の表面処理をせず、金属面のままでも良い
尚、クライオパネル62は、パネル本体64と必ずしも同じ材質の板材で、同じ形状、同じ寸法に形成されなくても良い。例えば、第2傾斜部62bと帯部624cと第1傾斜部62dとを有せず、略半月形状の平坦な板でも良い。この場合、略半月形状のクライオパネルの寸法は、バッフル5側および輻射シールド4の開口部41からクライオパネル62の隣のアドソープションパネル63の第1領域63a、第2領域63b、第3領域63cへ直接侵入する輻射熱を阻止する寸法が好ましい。
【0053】
図7は、図1のブラケット61の斜視図である。図7に示すようにブラケット61は、銅などの熱伝導の良好な板材から形成され、細長い板部分のパネル固定部61aと、パネル固定部61aの中央縁部分を90°折り曲げたヘッド接続部61bとから形成される。
【0054】
図8は、図1における第2コールドヘッド22に取付けられた第2クライオポンプ部6、7のB矢視図であり、図9は図8のD矢視図である。図10、図11は、図9の第2クライオポンプ部6のEE断面の部分拡大図である。図10と図11とは、パネル本体64の第1傾斜部64dの裏面端部の吸着材65の接着位置が異なる。
【0055】
図8、図9に示すように第2クライオポンプ部6は、クライオパネル62がバッフル5に対面する(図1)と共に、図8の上側から順次、クライオパネル62と、複数枚のアドソープションパネル63とが所定の間隔を持って複数本のリベット66でパネル固定部61a(図7)に固定される。第2クライオポンプ部6と同じように、第2クライオポンプ部7は、ブラケット71と、クライオパネル62と、複数枚のアドソープションパネル63とから構成される。ブラケット71は、ブラケット61と同様に銅などの熱伝導の良好な板材から形成され、ブラケット61の形状および寸法が蓄冷型冷凍機2の第2コールドヘッド22の中心軸X(図9)に対して対称になる。
【0056】
図10に示すように第2クライオポンプ部6のクライオパネル62の折り曲げられた外縁62daと、アドソープションパネル63の各パネル本体64の第1傾斜部64dの縁とが、バッフル5に対して遠ざかる方向に配置される。第2クライオポンプ部7のクライオパネル62と、アドソープションパネル63の各パネル本体64についても同じ方向に配置される。そして図9に示すように、第2クライオポンプ部6、7は、間隙Mを持って中心軸Xに対して互いに対称なるよう、ブラケット61、71のヘッド接続部61b、71bとが複数のボルト67により第2コールドヘッド22に固定される。従って、第2クライオポンプ部6、7の各クライオパネル62と、各アドソープションパネル63のパネル本体64、吸着材65とは、ブラケット61、71を介して第2コールドヘッド22で発生する略10Kの冷凍により、略25K〜10Kに冷却される。
【0057】
次に、第2クライオポンプ部6、7の寸法設定について説明する。
【0058】
(クライオパネル62と隣のアドソープションパネル63との間の距離H1の設定)
第2クライオポンプ部6のクライオパネル62と、クライオパネル62の隣にあるアドソープションパネル63との間のD方向(図8、図10)の距離H1は、第3領域63cの吸着材65により形成される前面側仮想外面65a(図5、図10)がクライオパネル62の外縁62daの裏面外縁62dbと同じ高さ位置あるいは裏面外縁62dbより僅かに裏面62g側(バッフル5側)にあるように設定される。例えば、前面側仮想外面65aが裏面外縁62dbと同じ高さ位置と裏面外縁62dbより吸着材65の層厚さの36%の距離だけ裏面62g側の位置との間にあるように設定される。好ましくは、前面側仮想外面65aが裏面外縁62dbと同じ高さ位置と裏面外縁62dbより吸着材65の層厚さの21%の距離だけ裏面62g側の位置との間にあるように設定される。吸着材65の層厚さとして1.4mmが例示される。即ち、クライオパネル62の外縁62daと、クライオパネル62の隣にあるパネル本体64の外縁64daとの間(以下、弧側間隙R1(図9、図10))から飛来した分子流の気体分子は、途中、反射することなく直接、第3領域63cの吸着材65の前面側仮想外面65aにあたらないように距離H1が設定される。好ましくは、距離H1は、図10における下側のパネル本体64の中央部64aの前面64afが図10における上側のクライオパネル62の外縁62daの裏面外縁62dbと同じ高さ位置にあると良い。尚、図10では、距離H1は第3領域63cの吸着材65の前面側仮想外面65aとクライオパネル62の外縁62daの裏面外縁62dbとが同じ高さ位置にある。
【0059】
(隣合うアドソープションパネル63、63間の距離H2の設定)
パネル本体64の第1傾斜部64d裏面の吸着材65は、吸着材65端部を(1)第1傾斜部64dの裏面外縁64dbの稜線より僅かに突出させる接着と、(2)裏面外縁64dbの稜線より僅かに内側にある接着と、(3)裏面外縁64dbの稜線に合わせる接着とがある。
【0060】
上記(1)〜(3)のいずれの場合も、互いに隣合うアドソープションパネル63、63間のD方向の距離H2は、図10および図11において、下側のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65により形成される前面側仮想外面65a(図10、図11)が、上側のパネル本体64の第1傾斜部64dの裏面外縁64dbと同じ高さ位置にあるか、又は、同じ高さ位置より僅かに上側のアドソープションパネル63側にあるように設定する。例えば、前面側仮想外面65aが裏面外縁64dbと同じ高さ位置と裏面外縁64dbより吸着材65の層厚さの36%の距離だけアドソープションパネル63側の位置との間にあるように設定される。好ましくは、前面側仮想外面65aが裏面外縁64dbと同じ高さ位置と裏面外縁64dbより吸着材65の層厚さの21%の距離だけアドソープションパネル63側の位置との間にあるように設定される。吸着材65の層厚さとして1.4mmが例示される。これにより、上側(図10、図11)のパネル本体64の第1傾斜部の外縁64daと、下側(図10、図11)のパネル本体64の第1傾斜部の外縁64daとの間(以下、弧側間隙R2(図9、図10、図11))から飛来する分子流の気体分子は、下側のアドソープションパネル63の第1領域63aと第2領域63に遮られ、反射せずに直接、下側のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65の前面側仮想外面65aにあたらない。
【0061】
前述の(1)突出させる接着の場合(図10)のみ、距離H2は、図10における下側のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65の端部により形成される前面側仮想外面65a(図10)が、図10における上側のパネル本体64の第1傾斜部64dの裏面に接着され、裏面外縁64dbより突出した吸着材65により形成される裏面側仮想外面65b(図10)と同じ高さ位置にあるか、又は、同じ高さ位置より僅かに上側のアドソープションパネル63側にあるように設定しても良い。この場合も、弧側間隙R2から飛来する分子流の気体分子は、反射せずに直接、下側(図10)のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65の前面側仮想外面65aにあたらない。
【0062】
尚、図10では、下側のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65の吸着材65の前面側仮想外面65aが、上側のパネル本体64の第1傾斜部64dの裏面外縁64dbの裏面側に接着された吸着材65の裏面側仮想外面65bと同じ高さ位置にある。
【0063】
図11は前述の(3)裏面外縁64dbの稜線に合わせる接着の場合を示し、下側のアドソープションパネル63の第3領域63cの吸着材65の吸着材65の前面側仮想外面65aが、下側のパネル本体64の裏面外縁64dbの稜線に合っている。この場合の距離H2は、前述した通りである。
【0064】
また、第2クライオポンプ部7のクライオパネル62と、クライオパネル62の隣にあるアドソープションパネル63との間のD方向(図8)の距離H1、および、互いに隣合うアドソープションパネル63、63間のD方向の距離H2も、上述の第2クライオポンプ部6と同じである。
【0065】
(クライオパネル62の第1傾斜部62dの外縁62daの寸法設定)
クライオパネル62の第1傾斜部62dの外縁62daは、輻射シールド4の開口部41の内周側縁からクライオパネル62の隣に配置されたアドソープションパネル63の第2領域63bの吸着材65に向かって直接飛来する気体分子が第2領域63bの吸着材65にあたることを阻止するように設定される。
【0066】
(パネル本体64の第1傾斜部64dの外縁64daの寸法設定)
パネル本体64の第1傾斜部64dの外縁64daは、輻射シールド4の開口部41の内周側縁から隣合うパネル本体64のうちクライオパネル62に遠い方のパネル本体64の第2領域64bの吸着材65に向かって直接飛来する気体分子が第2領域64bの吸着材65にあたることを阻止するように設定される。
【0067】
次に、本発明の実施例に係るクライオポンプの作動と効果について説明する。
【0068】
ロータリ真空ポンプ(図せず)により真空チャンバー35を荒引きした後、真空チャンバー35には、水蒸気、レジスト(有機物質)、窒素、酸素、水素、ヘリウムなどの分子がまだ残存している。そして、真空チャンバー35に設置された仕切弁(図せず)を開くと、これらの分子が輻射シールド4の開口部41側およびバッフル5へ飛来する。バッフル5と輻射シールド4は略100K〜略50Kに冷却されているので、凝縮温度の高い水蒸気、レジストはバッフル5の表面、および輻射シールド4の外周面で凝固される。凝縮温度の比較的低い気体分子(窒素、酸素)と、凝縮温度の極めて低い気体分子(水素、ヘリウムなど)は、輻射シールド4とバッフル5に凝固されることなく、輻射シールド4とバッフル5とで包囲された第2クライオポンプ領域8(図1)へ飛来する。また、バッフル5およびで輻射シールド4で凝固されなかったレジストもバッフル5あるいは輻射シールド4の開口部41の内周面側の開口部分43(図1、図2)を通過して、第2クライオポンプ領域8に飛来する。
【0069】
ところで、クライオパネル62は、バッフル5側および輻射シールド4の開口部41側から熱輻射を受熱している。クライオパネル62の前面62fは放射率の低いニッケルがメッキされているので、クライオパネル62が受熱する輻射熱は僅かである。アドソープションパネル63の第2領域63bと第3領域63cとには吸着材65が設けられており、
一般に吸着材65は金属にくらべて放射率が高い。クライオパネル62の隣に配置されたアドソープションパネル63の第2領域63bと第3領域63cの吸着材65は、クライオパネル62によりバッフル5および輻射シールド4の開口部41から直接侵入する輻射熱が遮られている。
【0070】
さらには、前述したクライオパネル62の第1傾斜部62dの外縁62daおよびパネル本体64の第1傾斜部64dの外縁64daの各寸法設定により、輻射シールド4の開口部41の内周側縁側から直進する輻射熱は、クライオパネル62の隣のアドソープションパネル63の第2領域63bへの侵入が阻止される。従って、第2クライオポンプ部6、7に侵入する輻射熱は僅かである。
【0071】
以上により、第2クライオポンプ部6、7は、第2クライオポンプ部6、7は低い温度(略25K〜略10K)に冷却される。結果、第2クライオポンプ部6、7は、凝縮温度の高いレジスト、凝縮温度の比較的低い窒素などの気体分子と、凝縮温度の極めて低い水素などの気体分子を吸着する能力が増大する。
【0072】
また、第2クライオポンプ部6、7は、アドソープションパネル63の第1領域63aを除き、パネル本体64の両面に吸着材65が接着されており、アドソープションパネル63の配列枚数も適正に確保される。従って、凝縮温度の極めて低い水素などの気体分子と、および凝縮温度の比較的低い窒素などの気体分子と、凝縮温度の高いレジストを吸着できる吸着材の容量が確保される。
【0073】
前述の第2クライオポンプ部6、7の温度低下による吸着材の吸着能力の増大と、吸着材の容量の確保とにより、第2クライオポンプ部6、7は、排気能力と排気速度が高く、且つ長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有する。
【0074】
第2クライオポンプ領域8に飛来したレジストと窒素などの気体分子の多くは、反射することなく直線的にクライオパネル62の前面62fとアドソープションパネル63の第1領域63aに飛来し、短い飛来距離で凝固される。この場合、アドソープションパネル63には、バッフル5から遠ざかる方向に拡がるように傾斜する第1領域63aが設けられている。これにより、弧側間隙R1、弧側間隙R2とから飛来するレジストと窒素などの気体分子、輻射シールド4の開口部41の内周側縁からアドソープションパネル63の第2領域63b飛来するレジストと窒素などの気体分子は、主に第1領域63aに凝固される。以上により、第2クライオポンプ6、7は、レジスト、窒素などの気体分子に対する排気速度が高い。
【0075】
残りのレジストと窒素などの気体分子の多くは、輻射シールド4の内面、バッフル5の表面などにあたり反射し、あるいは反射を繰返しながら、クライオパネル62の裏面62gと、アドソープションパネル63の第1領域63aに凝固する。アドソープションパネル63の第1領域63aで凝固できなかったレジストと窒素などの気体分子の多くは、アドソープションパネル63の第2領域63bの吸着材65、およびアドソープションパネル63の裏面64gの吸着材65に吸着され、あるいは吸着材65表面に凝固される。従って、第2クライオポンプ部6、7は、レジスト、窒素などの気体分子に対する排気能力(凝固能力と吸着能力)が高い。また、輻射シールド4の内面でもレジストは凝固される。
【0076】
以上により、第2クライオポンプ部6、7は、レジスト、窒素などの気体分子に対して、排気能力と排気速度が高く、且つ長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有する。
【0077】
尚、クライオパネル62の直線側縁62hと、クライオパネル62の隣にあるパネル本体64の直線側縁64hとの間(以下、直線側間隙L1)、および、隣合うパネル本体64と、64の各直線側縁64hと、64hとの間(以下、直線側間隙L2)からは、レジストと窒素などの気体分子は、第2クライオポンプ部6、7の内部に殆ど飛来しない。
【0078】
第2クライオポンプ領域8に飛来した凝縮温度の極めて低い例えば水素などの気体分子は、直接、または、輻射シールド4の内面、バッフル5の表面、クライオパネル62の前面62fなどにあたり反射し、あるいは反射を繰返しながら、弧側間隙R1、弧側間隙R2、直線側間隙L1、直線側間隙L2に飛来する。
【0079】
弧側間隙R1に飛来した水素などの気体分子の多くは、第2領域63bの吸着材65にあたり吸着されたり、あるいは第1領域63aにあたり反射し、さらにクライオパネル62の裏面62gにあたり反射して第3領域63cの吸着材65に吸着される。前述した距離H1の設定により、弧側間隙R1に飛来するレジストと窒素などの気体分子は第3領域63cには殆ど飛来しない。
【0080】
弧側間隙R2に飛来した水素などの気体分子は、直接あるいは反射して、アドソープションパネル63の第2領域63b、第3領域63cの各吸着材65に吸着されたり、図10、図11における直ぐ上側のパネル本体64の裏面64gの吸着材65に吸着される。前述した距離H2の設定により、弧側間隙R2に飛来するレジストと窒素などの気体分子は第3領域63cには殆ど飛来しない。
【0081】
直線側間隙L1に飛来した水素などの気体分子は、直接、アドソープションパネル63の第2領域63bや第3領域63cの吸着材65に吸着されたり、図10、図11における直ぐ上側のクライオパネル62の裏面62gにあたり反射して、第2領域63bや第3領域63cの吸着材65に吸着される。
【0082】
直線側間隙L2に飛来した水素などの気体分子は、直接、アドソープションパネル63の第2領域63bや第3領域63cの吸着材65と、図10、図11における直ぐ上側のパネル本体64の裏面64gの吸着材65に吸着される。
【0083】
距離H1、H2の設定により、それぞれ弧側間隙R1と弧側間隙R3から飛来するレジストと窒素などの気体分子の多くは、アドソープションパネル63の吸着材が接着していない第1領域63aに凝固される。また、クライオパネル62の第1傾斜部62dの外縁62daおよびパネル本体64の第1傾斜部64dの外縁64daの各寸法設定により、輻射シールド4の開口部41の内周側縁からアドソープションパネル63の第2領域63bの吸着材65に向かって直接飛来するレジストと窒素などの気体分子の多くも、アドソープションパネル63の吸着材が接着していない第1領域63aに凝固される。従って、アドソープションパネル63の吸着材65は、主に水素などの気体分子を吸着する。そして前述したように、吸着材65は、第1領域63aを除き、パネル本体64の前面64fと裏面64gとに接着されている。従って、第2クライオポンプ部6、7は、水素などの凝縮温度の極めて低い気体分子を吸着する容量を充分確保できる。
【0084】
以上により第2クライオポンプ部6、7は、水素などの凝縮温度の極めて低い気体分子に対する排気能力と排気速度が高く、長時間に亘り安定した排気能力と排気速度を有する。
【0085】
また、第2クライオポンプ部6、7は、第1領域63aを除き、アドソープションパネル63の両面64f、64gに吸着材65が接着され、クライオパネル62と、適正な複数枚のアドソープションパネル63を所定の間隔を持って配列される。これにより第2クライオポンプ部6、7は、所定の排気速度と、所定の到達真空度が得られる吸着材65の容量を確保しつつ、パネル本体64の配列方向の寸法を短くできる。クライオパネル62も第1傾斜部62dと第1傾斜部62bを備えているので、パネル本体64の配列方向に直交する方向の寸法を短縮できる。以上により、第2クライオポンプ部6、7は小型になるので、クライオポンプ1は設置する占有空間が小さくなる。
【0086】
さらに、第2クライオポンプ部6と7とが、第2コールドヘッド22を跨いで配備され、第2クライオポンプ部6と7との間は、隙間M(図8)が設けられ、隙間Mは略H2(図10、図11)であれば良い。これにより、水素などの極めて凝縮温度の低い気体が、直線側間隙L1と、直線側間隙L2とからも飛来して、短い飛来距離でアドソープションパネル63の裏面64gの吸着材65と、前面64f側の第3領域63cの吸着材65に吸着される。結果、本発明のクライオポンプ1の排気速度が向上する。
【0087】
尚、本実施例では、第2クライオポンプ部6のクライオパネル62と第2クライオポンプ部7のクライオパネル62との間には、間隙Mが設けられているが、アドソープションパネル63への輻射熱侵入をより少なくする場合には、間隙を設けなくても良い。
【符号の説明】
【0088】
1 クライオポンプ1
2 蓄冷型冷凍機
4 輻射シールド
5 バッフル
6、7 第2クライポンプ部
21 第1コールドヘッド
22 第2コールドヘッド
41 開口部
50 第1クライポンプ部
62 クライオパネル
62b 第2傾斜部(傾斜部)
62d 第1傾斜部(傾斜部)
62da、64da 外縁
62db、64db 裏面外縁
62f、64f、64af 前面
62g、64g 裏面
63 アドソープションパネル
64a 中央部
64b 第2傾斜部
64d 第1傾斜部
65 吸着材
65a 前面側仮想面
65b 裏面側仮想面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍を発生する第1コールドヘッドと、前記第1コールドヘッドより低い温度の冷凍を発生する第2コールドヘッドとを備えた蓄冷型冷凍機と、
前記第2コールドヘッドを収納すると共に開口部を備え、前記第1コールドヘッドに熱接触した輻射シールドと、前記開口部側に設けられ前記輻射シールドに熱接触したバッフルとを備える第1クライオポンプ部と、
前記バッフル側に配設されたクライオパネルと、前記クライオパネルの前記バッフル側を前面とした場合の裏面に対して所定の間隔を持って配列したアドソープションパネルとを前記輻射シールドと前記バッフルとで包囲すると共に、前記第2コールドヘッドにより冷却される第2クライオポンプ部と、を備え、
前記クライオパネルの少なくとも前記前面は、金属面またはメッキが施された面である共に、吸着材が貼着されず、
前記アドソープションパネルは、前記アドソープションパネルの前記バッフル側の面を前面とすると共に該前面の裏側を裏面とし、外縁側の少なくとも一部が前記バッフルから遠ざかると共に外側へ拡がる方向に傾斜した第1傾斜部と、該第1傾斜部の内側に設けた中央部と、該中央部と前記第1傾斜部との間に設けられ、前記第1傾斜部と同じ方向に傾斜した第2傾斜部とにより形成され、且つ前記第1傾斜部の前面には吸着材を貼着せず、前記中央部の前面と、前記第2傾斜部の前面と、前記アドソープションパネルの前記裏面と、には吸着材が貼着される、ことを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記クライオパネルは、外縁側の少なくとも一部が前記バッフルから遠ざかると共に外側へ拡がる方向に傾斜した傾斜部が設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
隣合う前記アドソープションパネルのうち、前記クライオパネルに近い側の該アドソープションパネルの前記第1傾斜部の裏面外縁側に貼着された前記吸着材端部により形成されると共に前記配列方向に直交する裏面側仮想外面が、該裏面外縁の内側にある場合には、隣合う前記アドソープションパネルの間隔は、前記クライオパネルより遠い側にある前記アドソープションパネルの前記中央部の前面に貼着された吸着材端部により形成されると共に前記配列方向に直交する前面側仮想外面が前記裏面外縁を基準に前記クライオパネルに近い側の前記アドソープションパネル側にあり、
前記裏面側仮想外面が、前記裏面外縁側より突出している場合には、隣合う前記アドソープションパネルの間隔は、前記前面側仮想外面が、該裏面側仮想外面を基準に前記クライオパネルに近い側の前記アドソープションパネル側にある、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記クライオパネルと、該クライオパネルの隣に配置された前記アドソープションパネルとの間隔は、該アドソープションパネルの前記中央部の前記前面に貼着された前記吸着材端部により形成されると共に前記配列方向に直交する前記前面側仮想外面が、前記クライオパネルの前記傾斜部の裏面外縁を基準に前記クライオパネル側にある、ことを特徴とする請求項2又は3に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記クライオパネルの前記傾斜部の外縁は、前記輻射シールドの前記開口部の内周側縁から前記クライオパネルの隣に配置された前記アドソープションパネルの前記第2傾斜部の前記吸着材に向かって直接飛来する気体分子が該吸着材にあたることを阻止する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクライオポンプ。
【請求項6】
隣合う前記アドソープションパネルのうち、前記クライオパネルに近い方の該アドソープションパネルの前記第1傾斜部の前記外縁は、前記輻射シールドの前記開口部の内周側縁から前記クライオパネルに遠い方の前記アドソープションパネルの前記第2傾斜部の前記吸着材に向かって直接飛来する気体分子が該吸着材にあたることを阻止する、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記第2クライオポンプ部は、前記配列方向に対して直交する方向に所定の間隙を持って、複数個配備される、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のクライオポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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