説明

クリップ部材

【課題】50〜150Aという大電流が流れるクリップ部材であって、電極との接触部が繰り返し擦れても、耐磨耗性に優れたクリップ部材を提供する。
【解決手段】対向して電極を挟持するクリップ部材において、該クリップ部材の電極接触部に油保持部を形成し、該油保持部を油が滲み出る貫通孔を形成した薄い金属板で覆った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クリップコネクタ若しくはクリップ式プローブの電極に着脱するクリップ部材に係り、詳記すれば、電極に大電流が流れる場合でも支障なく使用することができる大電流電源電極クリップ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年自動車産業においては、車の各種機能の電子化が著しく進んできた。例えば、ハイブリッド車に搭載するエネルギーの中核電源には、50〜80Aという従来にない大電流が流れる電源が搭載されている。
【0003】
この一次電源に相当する電極に5A程度の電流が流れる場合は、電気容量に相当する薄い金属のコネクター等をプローブとして支障なく使用することができる。
【0004】
上記大電流が流れる電極の形状は板状であり、その厚さは0.6〜1.0mm等の電極が使用され、そのエネルギーは、50〜80Aという大電流が流れるから、従来のプローブ若しくはコネクタのクリップ部材では適用困難であるので、従来にない機能を持ったクリップ部材の開発が強く求められている。
【0005】
従来のクリップ方式のプローブ若しくはコネクタの外周には、金メッキが施されているが、大電流が流れると、クリップ部材の電極との接触部が擦れて剥がれる結果、測定の信頼性が減じられる問題があった。そればかりか、50〜80Aという大電流が流れると、クリップ部材と接する電極に微小な凹凸があっても、その凹凸部分でスパーク現象が現れ、プローブ若しくはコネクタ及び相手電極が使用不能となる場合が生じる問題があった。
【0006】
電源側ワーク(電極との接触部)を捉えるクリップコネクター及びクリップ式プローブの製作には可能な限り良好な面接触が要求されている。
【0007】
従来の一般的な考え方としては、クリップ圧力を増大させる事に依ってこの問題を解決することを試みているが、クリップ圧の増大とクリップ摺動とは相反するために、クリップ圧の増大はクリップ双方の部材のカジリ現象を招来する。このカジリ部分は随所に現れ、そのカジリの凸部分に大電流が集中して流れるために、スパーク現象が生じ、電極、クリップ側とも破損し使用不可能になる。従来は、脱着頻度2,000位で使用不能になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、このような問題点を解消しようとするものであり、50〜150Aという大電流が流れるクリップ部材であって、電極との接触部が繰り返し擦れても、耐磨耗性に優れたクリップ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者は、鋭意研究の結果、電極との接触部に油を付着させることによって耐磨耗性に優れたクリップ部材となることを想到した。しかしながら、単に油を付着させたのでは耐久性が不十分であるので、クリップ部材の電極接触部に油保持部を形成し、該油保持部を油が滲み出る貫通孔を形成した薄い金属板で覆うことによって、耐久性に優れた耐磨耗性部材となることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、対向して電極を挟持するクリップ部材において、該クリップ部材の電極接触部に油保持部を形成し、該油保持部を油が滲み出る貫通孔を形成した薄い金属板で覆ったことを特徴とする。
【0011】
要するに本発明は、振動等によって薄い金属板が若干上下動することにより、油保持部の油が貫通孔から常時滲み出ることによって、クリップ部材の耐磨耗性を飛躍的に向上させたことを要旨とするものである。
【0012】
本発明のクリップ部材は、プローブ若しくはコネクタのクリップ部材として特に好適である(請求項2)。
【0013】
クリップ部材の電極接触部に凹部を形成し、該凹部に油を保持させた部材を装着して油保持部を形成し、その上面を前記金属板で覆うのが好ましい(請求項3)。
【0014】
油を保持させた部材としては、油を保持させた金属箔若しくは金属粉であるのが好ましい(請求項4)。
【0015】
前記対向する挟持部材の間に絶縁材を介装し、一方の挟持部材は電流を、他方の挟持部部材は電圧をとらえるケルビン式プローブに形成することもできる(請求項5)。
【0016】
前記対向する挟持部材を、バネ性を有し導電性の低い金属板体、特にベリリウム銅からなる金属板体でクリップ状に構成するのがよい(請求項6、7)。
【0017】
前記金属板としては、金若しくは金合金の薄板とするのが好ましい(請求項8)。 前記薄い金属板の厚さは、40μ〜300μであるのが好ましい(請求項9)。
【0018】
前記電極には、10A以上、好ましくは50A〜150Aの大電流が流れる場合に使用するのが好適である(請求項10)。
【発明の効果】
【0019】
以上述べた如く、本発明によれば、50〜150Aという大電流が流れるクリップ部材であって、電極との接触部が擦れても、油が常時滲み出るので、磨耗し難く、カジリが生じないから、電気抵抗が高くなったり、スパーク現象が生じるのを回避できるという絶大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜図3は、本発明の一実施例を示すものであり、ワーク電極(図示省略)との接触面が突出した曲面1,1´に形成された上側挟持部材2と下側挟持部材2´と、両挟持部材2,2´の接触部1,1´で挟持する絶縁材3とを有するように構成した例を示す。両挟持部材2,2´の接触部1,1´で、大電流が流れる電極を着脱自在に挟持するようになっている。
【0021】
上側挟持部材2と下側挟持部材2´とは、バネ性があって導電性が低い金属(好ましくはベリリウム銅)から形成され、曲面1又は1´にプレスで押圧して凹部5を形成し、該凹部5に金箔6を好ましくは10〜20枚圧着充填している。本発明に使用する金箔としては、金箔を製造する過程で生じる完全な金箔となる直前の金箔を使用するのが好ましい。
【0022】
金箔の代わりに他の金属箔を使用しても良い。また、油保持部を形成して油が滲み出るように構成するのは、上側挟持部材2と下側挟持部材2´の一方であっても両方であっても差し支えない。
【0023】
この状態で金箔を充填した上側挟持部材2及び/又は下側挟持部材2´を油に浸漬し、油から取り出して余分な油は遠心分離によって除去する。
【0024】
金属箔の代わりに金属粉を使用することもできる。この場合は、油に浸漬した金属粉を凹部に充填すればよく、特に遠心分離の必要はない。
【0025】
それから多数の小孔(好ましくは直径50〜100ミクロンの孔)7を穿設した金属の薄板4(好ましくは金の薄板)を、上記凹部を覆うようにスポット溶接により固定する。
【0026】
本発明に使用する金属の薄板4の厚さは、好ましくは40μ〜300μ、特に好ましくは100〜200μである。本発明に使用する金の薄板4は、純金であっても14K、24K等の金の合金であっても差し支えないが、磨耗し難い金の合金とするのが特に好ましい。
【0027】
上記実施例では、油が滲み出る孔7として、多数の貫通孔を形成したが、これは線状の貫通孔であっても、渦巻き状の貫通孔であってもよく、油が滲み出る孔であれば特に限定されない。
【0028】
本発明のクリップ部材を使用して大電流ワーク電極をクリップすると、その摺動が頂点に達した時にクリップ側は装着されていた金属箔等の油分が直径50〜100ミクロンの孔を通してクリップの表面に微量に滲み出てクリップ側とワーク側との摺動を円滑にする。
【0029】
また、摺動の繰り返し作業の過程で双方に散在する顕微鏡的微小な凸部分が削除され、そのため更に良好な摺動作業の繰り返しが行われるほか、双方の凹凸が除外されることによって電気抵抗が最初に比べ10%以上低くなり、その結果熱の発生も当社設計以下(約60℃)の数値が得られた。
【0030】
上記試験では60A用クリップ部材の仕様で行ったが、上下の挟持部材の材料は、ベリリウム銅で、材料厚さ0.8mm、材料巾11mmの形状で行った。
【0031】
又摺動回数は30,000回行われたが、クリップ側、電極ワーク側とも大きな磨耗が見られず、油無し(2,000回で使用不能)に比べ著しい成果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例を示す側面図である。
【図3】本発明のクリップ部材を構成する挟持部材の一実施例を示す断面図である。
【図4】本発明のクリップ部材を構成する挟持部材の他の実施例を示す(A)平面図、(B)断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1´・・………電極との接触面
2,2´・・………挟持部材
3・・………絶縁材
4・・………金の薄板(薄い金属板)
5・・………挟持部材の接触部に形成された凹部
6・・………金箔
7・・………油が滲み出る孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して電極を挟持するクリップ部材において、該クリップ部材の電極接触部に油保持部を形成し、該油保持部を油が滲み出る貫通孔を形成した薄い金属板で覆ったことを特徴とするクリップ部材。
【請求項2】
前記クリップ部材は、プローブ若しくはコネクタのクリップ部材である請求項1記載のクリップ部材。
【請求項3】
前記クリップ部材の電極接触部に凹部を形成し、該凹部に油を保持させた部材を装着して、油保持部を形成し、その上面を前記金属板で覆ってなる請求項1又は2記載のクリップ部材。
【請求項4】
前記油を保持させた部材が、油を保持させた金属箔若しくは金属粉である請求項1〜3のいずれかに記載のクリップ部材。
【請求項5】
前記対向する挟持部材の間に、絶縁材を介装し、一方の挟持部材は電流を、他方の挟持部部材は電圧をとらえるケルビン式プローブに形成してなる請求項1〜4のいずれかに記載のクリップ部材。
【請求項6】
前記対向する挟持部材を、バネ性を有し導電性の低い金属板体でクリップ状に構成してなる請求項1〜5のいずれかに記載のクリップ部材。
【請求項7】
前記対向する挟持部材を、ベリリウム銅で形成してなる請求項6記載のクリップ部材。
【請求項8】
前記金属板は、金若しくは金合金の薄板である請求項1〜7のいずれかに記載のクリップ部材。
【請求項9】
前記薄い金属板の厚さは、40μ〜300μである請求項1〜8のいずれかに記載のクリップ部材。
【請求項10】
前記電極には、10A以上の大電流が流れる請求項1〜9のいずれかに記載のクリップ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−47164(P2006−47164A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230087(P2004−230087)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(591037133)有限会社清田製作所 (14)
【出願人】(502413083)
【Fターム(参考)】