説明

コケ植生体及び緑化構造物並びに緑化擁壁

【課題】 ベース部材に立体編物を取り付けたコケ植生体を用いることで、コケによる緑化施工が簡単にでき、また、雨、風に対して長期的にコケの剥離や脱落を防止してコケの植生が長期に亘って確実に維持できるようにしたコケ植生体の提供。
【解決手段】 厚み内に空隙が形成された立体編物50をコケ植生部材とし、この立体編物の裏面側にベース部材40が取り付けられることで、このベース部材によって奥部が閉鎖された植生空隙54aが立体編物の厚み内に形成されている。立体編物が、裏側網目開口部を表側網目開口部よりも下方に位置ずれさせた対向状態で表裏二枚の網状編成部51,52を連結繊維列53で連結させることで、連結繊維列により囲まれた空隙54が表側から裏側に向けて下向き斜め方向に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コケによる緑化を行なうためのコケ植生体、及びこのコケ植生体を使用した緑化構造物並びに緑化擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
都市圏におけるヒートアイランド現象の対策として、従来、構造物や擁壁の壁面をコケ等によって緑化するようにした技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このコケ等による壁面の緑化技術は、構造物や擁壁の壁面にラス網を固定し、種子やコケ等を含んだ練土をラス網に塗り込んで、その上から保護用樹脂網を被着させるようにしたものである。
【0004】
しかしながら、かかる従来の緑化技術では、緑化対象となる壁面にラス網を張る必要があるし、又、種子やコケ等を含んだ練土をラス網に塗り込んで壁面に付着させるため、緑化植物とラス網との絡みが弱いし、保護用樹脂網を張って練土の剥がれを押える必要があるといった極めて手間のかかる施工が必要になる。
【0005】
又、緑化対象となる壁面にラス網を張ったものであるため、経年によってラス網が壁面から剥がれてしまうという問題があった。
【特許文献1】特許公開平9−84450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ベース部材に立体編物を取り付けたコケ植生体を用いることで、コケによる緑化施工が簡単にでき、また、雨、風に対して長期的にコケの剥離や脱落を防止してコケの植生が長期に亘って確実に維持できるようにしたコケ植生体及び緑化構造物並びに緑化擁壁を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のコケ植生体(請求項1)は、
厚み内に空隙が形成された立体編物をコケ植生部材とし、この立体編物の裏面側にベース部材が取り付けられることで、このベース部材によって奥部が閉鎖された植生空隙が立体編物の厚み内に形成されている構成とした。
【0008】
なお、本発明でいうコケとは、スナゴケ、ハイゴケ、スギゴケ、その他のコケ類を含む。
【0009】
又、本発明のコケ植生体(請求項2)は、
請求項1記載のコケ植生体において、ベース部材が保水性シート部材であって、この保水性シート部材に立体編物の裏面が取り付けられている構成とした。
この場合、保水性シート部材としては、水分を吸水して保水できるシートであって、不織布、織布、編布、植物繊維シート等を用いることができる。
また、本発明で言う保水性シート部材には、保水材としての綿、ヘチマ繊維、ヤシ繊維、パルプかす、ガラスウール、ロックウール、その他の植物繊維、熱可塑性樹脂製糸条(例えば、モスネット協会製作、商標:モスフラット)、布(織布、不織布繊維)、保水性骨材、保水性発泡体、合成繊維綿マット、繊維ボード、繊維球状体等を積層したり、組み合わせたりしてシート状やマット状に形成したものを含むものとする。
また、保水性シート部材の保水とは、材料自体が水を吸水して保水する場合と、材料自体に吸水性がなくても材料同士の隙間に水を吸水して保水する場合を含む。
【0010】
又、本発明のコケ植生体(請求項3)は、
請求項1記載のコケ植生体において、ベース部材が保水性パネル部材であって、この保水性パネル部材に立体編物の裏面側が埋設されている構成とした。
【0011】
前記保水パネル部材としては、水分を吸水して保水できるパネル(板状体)であって、モルタルパネルやコンクリートパネルや発泡セメントパネル等のセメント系パネル、透水性合成樹脂パネル、透水性合成樹脂と骨材を混ぜ合わせて形成したパネル、セメント系ポーラスパネル、樹脂系ポーラスパネル等を用いることができる。
尚、前記コンクリートパネルやモルタルパネルは保水作用を有するもので、本発明では、このコンクリートパネルやモルタルパネルについても保水パネル部材に含むものとする。
また、保水性パネル部材の保水とは、材料自体が水を吸水して保水する場合と、材料自体に吸水性がなくても材料同士の隙間に水を吸水して保水する場合を含む。
【0012】
又、本発明のコケ植生体(請求項4)は、
請求項1又は2又は3記載のコケ植生体において、立体編物が、多数の網目開口部を形成するように樹脂繊維を用いて編成した表裏二枚の網状編成部と、この表裏二枚の網状編成部を厚み方向に連結させる連結繊維列を備え、前記連結繊維列により囲まれた空隙が表裏の網目開口部間に開口して形成されたハニカム状立体編物である構成とした。
【0013】
又、本発明のコケ植生体(請求項5)は、
請求項4記載のコケ植生体において、ハニカム状立体編物が、裏側網目開口部と表側網目開口部が符合する対向状態で表裏二枚の網状編成部を連結繊維列で連結させることで、連結繊維列により囲まれた空隙が厚み方向に対して平行に形成されている平行ハニカム状立体編物である構成とした。
【0014】
又、本発明のコケ植生体(請求項6)は、
請求項4記載のコケ植生体において、ハニカム状立体編物が、裏側網目開口部を表側網目開口部よりも下方に位置ずれさせた対向状態で表裏二枚の網状編成部を連結繊維列で連結させることで、連結繊維列により囲まれた空隙が表側から裏側に向けて下向き斜め方向に形成されている下向ハニカム状立体編物である構成とした。
【0015】
又、本発明のコケ植生体(請求項7)は、
請求項1又は2又は3記載のコケ植生体において、立体編物が、繊維同士の間に空隙を形成させるように樹脂繊維を自在に屈曲させて一定の厚みに形成したワイヤメッシュ状立体繊維体である構成とした。
【0016】
又、本発明のコケ植生体(請求項8)は、
請求項1〜7のいずれかに記載のコケ植生体において、前記植生空隙の奥部に保水材が設けられている構成とした。
【0017】
保水材としては、綿、ヘチマ繊維、ヤシ繊維、パルプかす、その他の植物繊維、熱可塑性樹脂製糸条(例えば、モスネット協会製作、商標:モスフラット)、布(織布、不織布繊維)、保水性骨材、保水性発泡体、合成繊維綿マット、繊維ボード、繊維球状体等が用いられ、これらを単独、あるいは組み合わせて使用できる。
この場合、コケが定着し易いように、綿や不織布等の繊維材で保水性骨材を包んで用いるようにすることができる。
なお、保水性骨材としては、パミス(大江化学社製商品)、ゼオライト、珪藻土、軽石、パーライト等の多孔性骨材を、粒状のまま、あるいはセメントや接着剤で固めて使用することができる。
【0018】
また、前記保水材は、立体編物をベース部材に取り付ける前に植生空隙に入れてもよいし、取り付けた後に植生空隙に入れてもよい。
【0019】
又、本発明の緑化構造物(請求項9)は、
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項1〜8のいずれかに記載のコケ植生体が構造物の表面に取り付けられている構成とした。
【0020】
又、本発明の緑化構造物(請求項10)は、
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項5記載の平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が構造物の水平表面に取り付けられている構成とした。
【0021】
又、本発明の緑化構造物(請求項11)は、
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項6記載の下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が構造物の垂直表面又は傾斜表面に取り付けられている構成とした。
【0022】
この場合の構造物としては、家屋やビルディング等の建築物、土木構築物、道路構築物、高速道路構築物の側壁、橋梁、高架構造物、中央分離帯、造形物、及びその材料(コンクリート2次製品、縁石、鉄骨材、金属材、合成樹脂材、木材、石材、岩材等)等を含み、構造物の表面としては、壁面、腰面、ベランダ壁面、屋上面、屋根面、外表面、路面、床面等を含み、水平表面とは、その表面のうち略水平面を言う。又、垂直表面とは、その表面のうち略垂直面を言い、傾斜表面とは水平から40度以上の傾斜面を言う。
【0023】
又、本発明の緑化擁壁(請求項12)は、
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項1〜8のいずれかに記載のコケ植生体が擁壁の表面に取り付けられている構成とした。
【0024】
又、本発明の緑化擁壁(請求項13)は、
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項5記載の平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が擁壁の水平表面に取り付けられている構成とした。
【0025】
又、本発明の緑化擁壁(請求項14)は、
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項6記載の下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が擁壁の垂直表面又は傾斜表面に取り付けられている構成とした。
【0026】
この場合の擁壁としては、L型擁壁コンクリートブロック壁、大型積みコンクリートブロック壁、コンクリートブロック法面、現場打ちコンクリート擁壁、現場打ちコンクリート法面、石積みブロック壁、岩積みブロック壁、建築用ブロック塀、金属塀、合成樹脂塀、木塀等を含み、擁壁の表面としては壁面、法面、塀面等を含み、水平表面とは、その表面のうち略水平面を言い、垂直表面とは、その表面のうち略垂直面を言い、傾斜表面とは水平から40度以上の傾斜面を言う。
【発明の効果】
【0027】
本発明のコケ植生体(請求項1)は、コケ植生部材としての立体編物の裏面側にベース部材が取り付けられ、前記立体編物の厚み内に形成した植生空隙にコケを植生させるものである。
従って、このコケ植生体を緑化対象となる構造物や擁壁等の表面に取り付けるだけの施工で、簡単に緑化することができる。
【0028】
又、コケを立体編物の植生空隙内に植生させるため、コケが立体編物の繊維に絡まり、また立体編物の樹脂繊維が防風林の如くコケを保護する状態になるため、風雨等によってコケが脱落するといったことがなく、コケの植生を長期に亘って確実に維持させることができる。
【0029】
また、厚み内に空隙が形成された立体編物を用いているため、その空隙によってコケ植生体に空気層が形成され、断熱効果を得ることができる。
【0030】
なお、コケは、コケ植生体を構造物等の表面に取り付けた後、植生空隙内に植え付けてもよいし、予めコケを植生空隙内に植え付けたコケ植生体を構造物等の表面に取り付けてもよい。
【0031】
また、本発明のコケ植生体(請求項2)は、ベース部材が保水性シート部材であるため、この保水性シート部材によって水分を保水することができ、その保水した水分によってコケの育成に必要な湿気環境を作ることができる。
【0032】
また、本発明のコケ植生体(請求項3)は、ベース部材が保水性パネル部材であるため、この保水性パネル部材によって水分を保水することができ、その保水した水分によってコケの育成に必要な湿気環境を作ることができる。
【0033】
又、立体編物が保水性パネル部材に埋設されているため、この保水性パネル部材が立体編物の繊維によって補強され、保水性パネル部材の強度を向上させることができる。
従って、保水性パネル部材が乾燥収縮等によるクラックで破壊したとしても、立体編物が繊維補強材として機能するため、保水性パネル部材がバラバラに分離破壊し、落下するのを防止できる。
【0034】
本発明のコケ植生体(請求項4)は、立体編物がハニカム状立体編物であり、植生空隙がポット状に形成されるため、保水材やコケを確実に保持することができる。
【0035】
又、空隙が厚み方向に対して平行に形成されている平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体では(請求項5、請求項10、請求項13)、このコケ植生体を水平表面に取り付けるように施工すれば、植生空隙が上方を開口し、底部がベース部材で閉鎖されたポット状になり、保水材やコケを確実に保持することができる。
なお、平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体を垂直表面や傾斜表面に使用できるのは勿論である。
【0036】
又、空隙が表側から裏側に向けて下向きに斜行して形成されている下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体では(請求項6、請求項11、請求項14)、このコケ植生体を垂直表面又は傾斜表面に取り付けるように施工すれば、植生空隙が表面側上方を開口し、裏面側下方がベース部材で閉鎖されたポケット状になり、コケを確実に保持することができる。
特に、垂直表面への施工でありながら、植生空隙が底を備えているため、この底により下から支える状態でコケを水平に植生させることが可能になり、コケを植生空隙内に確実に保持して脱落を防止することができる。
【0037】
即ち、下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体において、保水材を植生空隙の奥部に保水材を設ける場合、植生空隙がポケット状になっているため、保水材を単に載置するのではなく、ポケット状の植生空隙の奥底に圧縮して押し詰めることができる。
このようにして押し詰められた保水材は、身動きが取れない状態になるし、その周囲が繊維によってガードされた状態になるため、強風や豪雨で叩かれたとしてもズレ動いたり剥がれたりすることがなく、確実に植生空隙内に保持される。
従って、この保水材は、その上面にコケを植生させる植生基板として安定し、コケの剥離や脱落を防止することができる。
なお、下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体を水平表面に使用できるのは勿論である。
【0038】
本発明のコケ植生体(請求項7)は、立体編物がワイヤメッシュ状立体繊維体であり、自在に屈曲させた樹脂繊維同士の間が植生空隙になるため、この植生空隙を利用してコケを植生させることができる。
なお、このようなワイヤメッシュ状立体繊維体は編物とは異なるが、本発明では立体編物に含めるものとする。
【0039】
又、植生空隙の奥部に保水材を設けると(請求項8)、この保水材が水分を保水することにより、コケの育成に必要な湿気環境を植生空隙に作ることができる。
即ち、コケには適度の水分があるに越したことはない。このため、コケの基盤構造のいたるとろに水を吸水、保水する機能を設けることが必要であり、そのため保水材を設けたのである。
【0040】
また、本発明の緑化構造物(請求項9、10、11)、及び緑化擁壁(請求項12、13、14)は、前記コケ植生体を構造物等や擁壁等の表面に取り付けるだけの簡単な施工で緑化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施例を図面により説明する。
図1は本発明のコケ植生体の第1実施例を示す断面図、図2はそのコケ植生体に用いた立体編物を示す部分斜視図である。
【0042】
本実施例のコケ植生体Aは、図1に示すように、ベース部材として保水性シート部材10である不織布を用い、立体編物として平行ハニカム状立体編物20{例えば、商標:キュウビックアイ(三次元シート):品番SK1208のサイズを大きくしたもの:(株)ユニチカテクノス製}を用いている。
【0043】
前記平行ハニカム状立体編物20は、図2に示すように、多数の網目開口部21a,22aを形成するように樹脂繊維を用いて編成した表裏二枚の網状編成部21,22と、この表裏二枚の網状編成部21,22を厚み方向に連結させる連結繊維列23を備え、前記連結繊維列23により囲まれた空隙24が表裏の網目開口部21a,22a間に開口して形成されたものである。
この場合、表側網目開口部21aと裏側網目開口部22aが符合する対向状態で表裏二枚の網状編成部21,22を連結繊維列23で連結させることで、空隙24が厚み方向に対して平行になるように形成されている。
【0044】
そして、この平行ハニカム状立体編物20の裏面に保水性シート部材10が樹脂糸や針金等による結び付けやその他の留め具を用いて取り付けられるもので、これにより、保水性シート部材10によって奥部が閉鎖された植生空隙24aが平行ハニカム状立体編物20の厚み内に形成されている。
【0045】
上記のように形成されたコケ植生体Aは、これを構造物や擁壁の表面に取り付けることで、緑化構造物や緑化擁壁を形成させるもので、この実施例では、ビルディングの水平表面である屋上面Rに取り付けられるもので、このとき屋上面Rに保水層3を形成し、この保水層3の上にコケ植生体Aを取り付けるようにしている。
このように、このコケ植生体Aを水平表面である屋上面Rに取り付けるように施工すれば、植生空隙24aが上方を開口し、底部が保水性シート部材10で閉鎖されたポット状になり、植生空隙24a内に植生させたコケKを確実に保持することができる。
【0046】
又、保水層3を形成させると、降雨による雨水を保水性シート部材10を通して保水層3に浸み込ませて保水させることができるし、逆にその保水した水分を保水性シート部材10を通して植生空隙24aに浸み出させることができる。
これにより、保水層3からコケKに水分を供給させることができ、コケKの育成に必要な湿気環境を作ることができる。
【0047】
次に、図3は本発明のコケ植生体の第2実施例を示す断面図、図4はそのコケ植生体に用いた立体編物を示す部分正面図である。
【0048】
本実施例のコケ植生体Bは、図3に示すように、ベース部材として保水性パネル部材40であるコンクリートパネルを用い、立体編物として下向ハニカム状立体編物50{例えば、商標:キュウビックアイ(三次元シート):品番UTK7010B:(株)ユニチカテクノス製}を用いている。
【0049】
前記下向ハニカム状立体編物50は、図4に示すように、六角形の裏側網目開口部52aを六角形の表側網目開口部51aよりも下方に位置ずれさせた対向状態で表裏二枚の網状編成部51,52を連結繊維列53で連結させることで、連結繊維列53により囲まれた空隙54が表側から裏側に向けて下向き斜め方向になるように形成されている。
【0050】
そして、この下向ハニカム状立体編物50の裏面側が前記保水性パネル部材40に埋設されるもので、これにより、保水性パネル部材40によって奥部が閉鎖された植生空隙54aが下向ハニカム状立体編物50の厚み内に形成されている。
【0051】
上記のように形成されたコケ植生体Bは、実施例では、擁壁の垂直表面である壁面Hに取り付けられるもので、このとき、壁面Hに保水層3を形成し、この保水層3の上にコケ植生体Bを取り付けるようにしている。
また、実施例では、前記植生空隙54aの奥部に保水材としての綿55が詰め込まれ、この綿55の上にコケKを植生させている。
施工としては、まず先に植生空隙54aの奥部に綿55を詰め込んでコケの基盤(水平面)を確保させ、その水平面にコケを植生させることになる。
【0052】
このように、このコケ植生体Bを垂直表面である壁面Hに取り付けるように施工すれば、植生空隙54aが表面側上方を開口し、裏面側下方が保水性パネル部材40で閉鎖されたポケット状になり、植生空隙54a内に植生させたコケKを確実に保持することができる。
特に、垂直表面である壁面Hへの施工でありながら、植生空隙54aが底を備えているため、この底により下から支える状態でコケKを水平に植生させることが可能になり、コケの面が上(太陽光線)に向かって成長できるし、コケKを植生空隙54a内に確実に保持して脱落を防止することができる。
【0053】
又、保水層3及び保水性パネル部材40及び綿55によって水分を保水することができ、その保水した水分によってコケKの育成に必要な湿気環境を作ることができる。
なお、保水層3の上方に散水管を配管して、この散水管から必要に応じて保水層3に水を供給するようにできる。
【0054】
又、下向ハニカム状立体編物50が保水性パネル部材40に埋設されて繊維補強材として機能するため、保水性パネル部材40がバラバラに分離破壊し、落下するのを防止できる。
【0055】
次に、図5は本発明のコケ植生体の第3実施例を示す断面図である。
このコケ植生体Cは、ベース部材として保水性パネル部材70であるモルタルパネルを用い、立体編物としてワイヤメッシュ状立体繊維体80(例えば、ヘチマロン:商標)を用いている。
【0056】
前記ワイヤメッシュ状立体繊維体80は、繊維同士の間に空隙81を形成させるように樹脂繊維82を自在に屈曲させて一定の厚みに形成されている。
【0057】
そして、このワイヤメッシュ状立体繊維体80の裏面側が前記保水性パネル部材70に埋設されるもので、これにより、保水性パネル部材70によって奥部が閉鎖された植生空隙81aがワイヤメッシュ状立体繊維体80の厚み内に形成されている。
【0058】
上記のように形成されたコケ植生体は、実施例では、コンクリート床の水平表面である床面Fに取り付けられるもので、このとき、保水性パネル部材70の裏面に凹部71を形成して、この凹部71内に保水層3を形成させている。
これにより、コケ植生体Cを床面Fに取り付けると同時に、保水性パネル部材70の裏面と床面Fとの間に保水層3を介在させることができる。
また、実施例では、前記植生空隙81aの奥部に保水材としての保水性骨材85(パミス)が充填され、この保水性骨材85の上にコケKを植生させている。
【0059】
なお、本発明において、立体編物の網目開口部は実施例で示した六角形に限らず、円形、楕円形、三角形、方形であってもよいし、表裏の網目開口部の大きさが異なるものを用いてもよい。
例えば、図6に示すように、表裏の網目開口部90a,91aを横細長の長方形とし、この両網目開口部90a,91aを上下方向に位置ズレさせた対向状態で連結繊維列92により連結させることで、空隙93が表側から裏側に向けて下向き斜め方向になるよ形成した下向ハニカム状立体編物9に形成してもよい。
この場合、ベース部材として保水性パネル部材95を用いると、側面形状が略V字状に形成されたポケット状の植生空隙96が形成される。
【0060】
前記立体編物の厚さは、連結繊維列の長さ(高さ)によって調整することができ、一般的には、10mm〜40mmとしている。
前記立体編物の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、アラミド、炭素繊維等の耐食性に優れた有機繊維や無機繊維、金属繊維等が用いられる。
網状編成部と連結繊維列の樹脂繊維素材が異なっていてもよい。
立体編物の色彩については、緑化という点から言えば緑色系が好ましいが、透明、有色を問わないいし、単一色、複数の色彩の組み合わせでもよく、外観を損なうことがないような色を選択する。
立体編物の樹脂繊維の劣化対策として、紫外線カット剤を含む塗料で繊維を塗装したり、ディッピング(浸漬)したりしてもよい。
立体編物の樹脂繊維の太さは、編成形態を勘案しながら決定されるが、0.1mm以上で2mm以下程度としている。
【0061】
又、本発明において、ベース部材の厚みは、特に限定されないが、保水性パネル部材を用いた場合は、保水性や材質や強度や立体編物の埋設深さ等を勘案しながらできるだけ薄く形成して、軽量にするのが取扱い易さや形成し易い点から好ましい。
ベース部材の大きさについても、例えば、10cm×100cm、30cm×30cm、30cm×60cm、60cm×90cm等、強度及び重量、材質、それに取扱い易さや成形し易さ等を勘案しながら決定する。
ベース部材の色彩については、特に制限はないが、例えば、土色や緑色の単色、複数の色彩を組み合わせたまだら模様等、外観を損なうことがないような色を選択する。
保水性パネル部材を用いた場合は、立体編物の埋設深さは、立体編物の厚み方向において立体編物の半分程度まで埋設させるなど、立体編物が剥離したり、脱落したりしないような強度を持つような深さに埋設させる。
【0062】
又、立体編物をベース部材としての保水性パネル部材に埋設させるには、例えば、所定の大きさの型枠の中にパネル原料であるコンクリートやモルタル等を打設したのち、パネル原料が固化しないうちに直ちに立体編物を載せて、その自重或いは加重によって立体編物を一定の深さに沈め、その位置でパネル原料を固化させる方法がある。
【0063】
本発明のコケ植生体を構造物等や擁壁等の表面に取り付ける場合、コケ植生体を表面に敷き詰めたり、表面に形成した凹部や溝等に嵌め込んだりして取り付けていくことができるし、又、表面に突設したアンカーボルトを利用して取り付けたり、釘やスクリュー等の打ち込みで取り付けたり、接着剤で取り付けたり、これらアンカーボルトや釘やスクリューや接着剤の組み合わせで取り付けたりすることができる。
【0064】
又、多数の植生空隙の全てに保水材を詰めて、その全ての保水材の上にコケを植生させるのが効果的であるが、一部の保水材の上にはコケを植生させない施工でもよい。この場合、コケを植生させない保水材は植生空隙の内部を完全に満たすように充填させて、多量の保水ができるようにする。なお、コケが繁殖するにつれて、このコケを植生させない保水材の上にもコケが植生してくる。
【0065】
本発明のコケ植生体を用いてコケを植生させたのち、全体をメッシュ(例えば、5mm方眼)によって覆い、風や雨によってコケが飛び出したり、脱落したりするのを防止させることができる。この場合、メッシュを立体編物の表面に接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のコケ植生体の第1実施例を示す断面図。
【図2】そのコケ植生体に用いた立体編物を示す部分斜視図。
【図3】本発明のコケ植生体の第2実施例を示す断面図。
【図4】そのコケ植生体に用いた立体編物を示す部分正面図。
【図5】本発明のコケ植生体の第3実施例を示す断面図。
【図6】立体編物の他例をしめす斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
10 保水性シート部材(ベース部材)
20 平行ハニカム状立体編物
21 網状編成部
22 網状編成部
21a 表側網目開口部
22a 裏側網目開口部
23 連結繊維列
24 空隙
24a 植生空隙
3 保水層
40 保水性パネル部材(ベース部材)
50 下向ハニカム状立体編物
51 網状編成部
52 網状編成部
51a 表側網目開口部
52a 裏側網目開口部
53 連結繊維列
54 空隙
54a 植生空隙
55 綿(保水材)
70 保水性パネル部材(ベース部材)
71 凹部
80 ワイヤメッシュ状立体繊維体
81 空隙
81a 植生空隙
82 樹脂繊維
85 保水性骨材(保水材)
9 下向ハニカム状立体編物
90a 網目開口部
91a 網目開口部
92 連結繊維列
93 空隙
95 保水性パネル部材(ベース部材)
96 植生空隙
A コケ植生体
B コケ植生体
C コケ植生体
F 床面
H 壁面
K コケ
R 屋上面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み内に空隙が形成された立体編物をコケ植生部材とし、この立体編物の裏面側にベース部材が取り付けられることで、このベース部材によって奥部が閉鎖された植生空隙が立体編物の厚み内に形成されていることを特徴とするコケ植生体。
【請求項2】
請求項1記載のコケ植生体において、ベース部材が保水性シート部材であって、この保水性シート部材に立体編物の裏面が取り付けられているコケ植生体。
【請求項3】
請求項1記載のコケ植生体において、ベース部材が保水性パネル部材であって、この保水性パネル部材に立体編物の裏面側が埋設されているコケ植生体。
【請求項4】
請求項1又は2又は3記載のコケ植生体において、立体編物が、多数の網目開口部を形成するように樹脂繊維を用いて編成した表裏二枚の網状編成部と、この表裏二枚の網状編成部を厚み方向に連結させる連結繊維列を備え、前記連結繊維列により囲まれた空隙が表裏の網目開口部間に開口して形成されたハニカム状立体編物であるコケ植生体。
【請求項5】
請求項4記載のコケ植生体において、ハニカム状立体編物が、裏側網目開口部と表側網目開口部が符合する対向状態で表裏二枚の網状編成部を連結繊維列で連結させることで、連結繊維列により囲まれた空隙が厚み方向に対して平行に形成されている平行ハニカム状立体編物であるコケ植生体。
【請求項6】
請求項4記載のコケ植生体において、ハニカム状立体編物が、裏側網目開口部を表側網目開口部よりも下方に位置ずれさせた対向状態で表裏二枚の網状編成部を連結繊維列で連結させることで、連結繊維列により囲まれた空隙が表側から裏側に向けて下向き斜め方向に形成されている下向ハニカム状立体編物であるコケ植生体。
【請求項7】
請求項1又は2又は3記載のコケ植生体において、立体編物が、繊維同士の間に空隙を形成させるように樹脂繊維を自在に屈曲させて一定の厚みに形成したワイヤメッシュ状立体繊維体であるコケ植生体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のコケ植生体において、前記植生空隙の奥部に保水材が設けられているコケ植生体。
【請求項9】
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項1〜8のいずれかに記載のコケ植生体が構造物の表面に取り付けられていることを特徴とする緑化構造物。
【請求項10】
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項5記載の平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が構造物の水平表面に取り付けられていることを特徴とする緑化構造物。
【請求項11】
表面がコケによって緑化されている緑化構造物であって、
前記請求項6記載の下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が構造物の垂直表面又は傾斜表面に取り付けられていることを特徴とする緑化構造物。
【請求項12】
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項1〜8のいずれかに記載のコケ植生体が擁壁の表面に取り付けられていることを特徴とする緑化擁壁。
【請求項13】
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項5記載の平行ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が擁壁の水平表面に取り付けられていることを特徴とする緑化擁壁。
【請求項14】
表面がコケによって緑化されている緑化擁壁であって、
前記請求項6記載の下向ハニカム状立体編物を用いたコケ植生体が擁壁の垂直表面又は傾斜表面に取り付けられていることを特徴とする緑化擁壁。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−246886(P2006−246886A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33860(P2006−33860)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(391032864)
【Fターム(参考)】