説明

コンクリート表面の補強構造及び補強方法並びに繊維強化樹脂製の網状筋材

【課題】コンクリート表面の補強構造及び補強方法並びに繊維強化樹脂製の網状筋材の提供。
【解決手段】第1の間隔B1をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋4を一組とした2条一組の縦筋2を、前記第1の間隔B1よりも広い第2の間隔B2をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋2に交差するように、第3の間隔B3をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋4を一組とした2条一組の横筋3を、前記第3の間隔B3よりも広い第4の間隔B4をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋2と2条一組の横筋3との交差部を固着して一体化している繊維強化樹脂製の網状筋材1とする。コンクリート表面に前記網状筋材1をスペーサー16を介してボルト又はアンカーボルト12により固定し、前記網状筋材を埋め込むようにモルタル層が形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁面或は床面等のコンクリート表面の補強構造及び補強方法に関するものであり、特に、二重格子構造の繊維強化樹脂製の網状筋材及びそれを用いたコンクリート表面の補強構造及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート表面を補強する方法としては、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等の強化繊維を用いた強化繊維シートを、エポキシ樹脂等の室温硬化樹脂を用いて、コンクリート表面に含浸接着させるFRPライニング工法がある。また、L形アングル材やフラットバー材をアンカーボルトで固定する方法、エキスパンドメタルや魚網をアンカーボルトで固定する方法等も用いられている。
【0003】
前記FRPライニング工法は、下地ケレン、プライマー処理、不陸修正、強化繊維シートの含浸接着と多くの工程がかかり、工事費用がかさむ点で問題があった。
【0004】
一方、Lアングルやフラットバーをひび割れに直角方向にアンカーボルトを用いて固定する方法は、ひび割れに対しての拘束効果はあるものの、面としての補強効果が少ないという問題がある。
【0005】
エキスパンドメタルをアンカーで固定する場合は、エキスパンドメタルの自重が大きく、作業性の面でより作業性のよい材料が求められている。また、エキスパンドメタル自体が錆びて腐食する恐れがあるとい問題がある。また、魚網の場合は、小さな塊の落下には有効であるが、大きな塊には耐荷重力が不足するという問題がある。
【0006】
そこで、FRPライニング工法より安価で、エキスパンドメタルをアンカーで固定する方法より施工が安全で確実な補強ができ、L形アングルやフラットバーや魚網をアンカーにて固定する方法より広範囲なコンクリート表面の補強が可能な方法として、図9に示すように、上下方向及び左右方向の補強筋の間隔が一定の格子からなるFRP格子筋30をアンカーボルト、接着樹脂等でコンクリート構造物に取り付ける方法が開発された。
【0007】
前記のFRP格子筋30は、縦補強筋31と横補強筋32とから構成され、各縦補強筋31及び横補強筋32は、主にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維の強化繊維を一方向に並べて、ビニルエステル樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させて積層して形成されたものである。また、各縦補強筋31及び横補強筋32は、補強筋幅(w)3〜10mm、厚さ(t)1〜5mm、であり、格子間距離(W1)30〜150mmの格子板状に形成硬化されて格子状強化繊維シートに形成される。前記のFRP格子筋30は、補強筋の交差部分の厚さが他の部分の厚さと等しくなるように成形硬化されている。
【0008】
前記のFRP格子筋30は、コンクリート表面35に、アンカーボルト33及び座金34で固定することによって、コンクリート構造物に取り付けられる。
【0009】
このFRP格子筋30を使用したコンクリート表面の補強方法は、FRP格子筋30が鉄筋と同様の補強効果があり、FRP格子筋30が鉄筋よりも軽くて、腐食も少なく、施工もアンカーで留めることができるため簡便である利点がある。
【0010】
しかしながら、従来のコンクリート表面の補強方法では、前記のFRP格子筋30をアンカーボルト33及び座金34でコンクリート層に取り付けるに際して、座金34はFRP格子筋30の升目に対して面積が小さく、且つ、平面状とされており、FRP格子筋30をしっかりとコンクリート面に固定するためには、図9のように、縦補強筋31と横補強筋32との交差部分付近の角の部分にて、座金34及びアンカーボルト33を利用してFRP格子筋30を取り付けていた。
【0011】
一方、図9のように、縦補強筋31及び横補強筋32の、特に交差部分近くの角の部分にて、座金34及びアンカーボルト33を利用してFRP格子筋30を取り付けた場合には、アンカーボルト33及び座金34の一部分しか格子筋に接触しておらず、しかも座金34の面積が小さいために取付力が不足し、多数のアンカーボルト33を必要としていた。
【0012】
前記の取付力を改善する技術として、下記(1)又は(2)のような技術も知られている。(1)格子筋と座金との接触面積を大きく改善することで取付力を改善した技術で、一対の縦補強筋と横補強筋による形成される格子1升分の大きさの座金を用いる技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0013】
(2)さらには、FRP格子筋と一対の帯板とを組み合わせることで、取付力を改善可能な技術も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−222734号公報
【特許文献2】特開平3−224910号公報
【特許文献3】特開2006−9266号公報
【特許文献4】特開2002−38655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記従来のFRP格子筋の場合には、間隔が一定の多数の縦補強筋と、間隔が一定の横補強筋を備えたFRP格子筋であり、縦補強筋と横補強筋との交差部を熱融着しており、1本の縦補強筋と1本の横補強筋の重合部を熱融着しているため、接合部の剛性が低いから補強筋材を多数層にして一体に熱融着して、板厚寸法の厚いFRP格子筋とする必要があった。また、縦補強筋の配置ピッチ及び横補強筋の配置ピッチも一定である。
【0016】
また、格子1升内の面積をさらに小分けするように網状物を組み合わせるようにすると、部品が格子と網状物との2部品になって、構造が複雑になりコスト高になる。
【0017】
また、FRP格子筋に帯板を組み合わせる場合は、FRP格子筋と帯板との複数部品になって、構造が複雑になりコスト高になるという問題がある。
【0018】
FRP格子筋は、その取付部で周囲からの荷重を負担することになるから、取付部で最も強度が高くなっている方が合理的な構造になる。しかるに、前記従来のFRP格子筋は、面状部材で、縦方向或いは横方向が筋材の配置ピッチが一様であるため、縦方向或いは横方向の部分からの荷重を取付部で負担する構造になっているから、相対的に、取付部の縦補強筋及び横補強筋の負担が大きくなる構造になるという問題がある。
【0019】
本発明は、コンクリート表面の補強構造及び補強方法並びに繊維強化樹脂製の網状筋材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明のコンクリート表面の補強構造においては、第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化した繊維強化樹脂製の網状筋材を構成し、コンクリート製壁面及び床表面のいずれか一方又は両方にスペーサーを介して、前記繊維強化樹脂製の網状筋材が配置され、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内にアンカーボルトが配置されると共にコンクリート製壁及び床のいずれか一方又は両方に固定され、前記矩形枠部の裏面側に前記スペーサーが配置され、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材が矩形枠部の表面側に配置されて前記アンカーボルトにより固定され、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層が形成されて補強されていることを特徴とする。
【0021】
第2発明では、第1発明のコンクリート表面の補強構造において、前記第1の間隔と前記第3の間隔が同じ間隔とされ、前記第2の間隔と前記第4の間隔が同じ間隔とされている繊維強化樹脂製の網状筋材であることを特徴とする。
【0022】
第3発明では、第1発明又は第2発明のコンクリート表面の補強構造において、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋とが、直交又は傾斜して交差するように配置されている繊維強化樹脂製の網状筋材であることを特徴とする。
【0023】
第4発明のコンクリート表面の補強方法では、第1発明〜第3発明のいずれか1つのコンクリート表面の補強構造の構築方法であって、第1発明〜第3発明のいずれか1つの繊維強化樹脂製の網状筋材を、既設コンクリート表面にスペーサーを介して配置し、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内に、既設コンクリートに基端側を固定した保持装置を配置し、前記保持装置の先端側で、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材を矩形枠部の表面側に配置した後、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層を形成することを特徴とする。
【0024】
第5発明の繊維強化樹脂製の網状筋材では、第1発明〜第3発明のいずれかのコンクリート表面の補強構造又は第4発明のコンクリート表面の補強方法に用いる維強化樹脂製の網状筋材であって、その維強化樹脂製の網状筋材は、第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
第1発明のコンクリート表面の補強構造においては、第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化した繊維強化樹脂製の網状筋材を構成し、コンクリート製壁面及び床表面のいずれか一方又は両方にスペーサーを介して、前記繊維強化樹脂製の網状筋材が配置され、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内にアンカーボルトが配置されると共にコンクリート製壁及び床のいずれか一方又は両方に固定され、前記矩形枠部の裏面側に前記スペーサーが配置され、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材が矩形枠部の表面側に配置されて前記アンカーボルトにより固定され、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層が形成されて補強されているので、押え部材を前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部で応力を分散して押え部材を支承することができ、また、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部から押え部材及びアンカーボルトで、モルタル層を確実に保持して、コンクリート表面を確実に補強することができる等の効果が得られる。また、取付部を二重格子状に補強された網状筋材とすることができる等の効果が得られる。
【0026】
第2発明では、第1発明のコンクリート表面の補強構造において、前記第1の間隔と前記第3の間隔が同じ間隔とされ、前記第2の間隔と前記第4の間隔が同じ間隔とされている繊維強化樹脂製の網状筋材であるので、2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を二重の矩形格子状とした簡単な構造で、取付部を補強された格子網状筋材とすることができる等の効果が得られる。
【0027】
第3発明では、第1発明又は第2発明のコンクリート表面の補強構造において、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋とが、直交又は傾斜して交差するように配置されている繊維強化樹脂製の網状筋材であるので、直交又は傾斜して交差するように配置されている2条一組の縦筋と、直交又は傾斜して交差するように配置されている2条一組の横筋との交差部を二重の矩形格子状又は菱形格子状とした簡単な構造で、取付部を補強された格子網状筋材とすることができる等の効果が得られる。
【0028】
第4発明のコンクリート表面の補強方法では、第1発明〜第3発明のいずれか1つのコンクリート表面の補強構造の構築方法であって、第1発明〜第3発明のいずれか1つの繊維強化樹脂製の網状筋材を、既設コンクリート表面にスペーサーを介して配置し、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内に、既設コンクリートに基端側を固定した保持装置を配置し、前記保持装置の先端側で、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材を矩形枠部の表面側に配置した後、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層を形成するので、簡単な構造の網状筋材を用いて簡単にコンクリート表面を補強することができ、また、網状筋材の取付部における縦補強筋或いは横補強筋の負担を軽減することができる等の効果が得られる。
【0029】
第5発明の繊維強化樹脂製の網状筋材では、第1発明〜第3発明のいずれかのコンクリート表面の補強構造又は第4発明のコンクリート表面の補強方法に用いる維強化樹脂製の網状筋材であって、その維強化樹脂製の網状筋材は、第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化しているので、2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を二重の矩形格子状とした簡単な構造で、取付部を補強された格子網状筋材とすることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の繊維強化樹脂製の網状筋材を示す概略正面図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す正面図である。
【図3】(a)は図2のA−A線断面図、(b)は図2のB−B線断面図である。
【図4】本発明のコンクリート表面の補強構造を示す平面図である。
【図5】図4に示す本発明のコンクリート表面の補強構造を示す断面図である。
【図6】図5の一部を拡大して示す断面図である。
【図7】河川等のコンクリート製床スラブ及びコンクリート製側壁に網状筋材を設置した形態を示す断面図である。
【図8】図7の状態から網状筋材を埋め込むようにモルタル層を設けて、河川等のコンクリート製床スラブ及びコンクリート製側壁を補強した形態を示す断面図である。
【図9】従来のコンクリート表面の補強形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0032】
先ず、図1〜図3を参照して、本発明において用いられる繊維強化樹脂製の網状筋材1について説明する。
【0033】
本実施形態における繊維強化樹脂製の網状筋材1に用いられる各縦筋2及び横筋3を構成している間隔をおいた一対の繊維強化合成樹脂製筋4は、FRP製の補強用の筋材を使用する。本実施形態における繊維強化樹脂製の網状筋材1は、直交して二重格子状に配置された複数の繊維強化合成樹脂製筋4即ち、小間隔をおいた2条一組の縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4による多数の縦筋2を備えていると共に、小間隔をおいた2条一組の横方向の繊維強化合成樹脂製筋4による多数の横筋3とを一体化して備えている。
【0034】
各縦筋2或いは横筋3を構成している一対の繊維強化合成樹脂製筋4は、主にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維のいずれか1つを一方向に並べて、ビニルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させたものを複数積層し、硬化して形成される。繊維強化樹脂製の網状筋材1は、繊維強化合成樹脂製筋4の幅(w)が、例えば、3〜10mm、厚さ(t)が2〜5mmの繊維強化合成樹脂製筋4が用いられ、縦筋2を形成している2条一組の縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4間の間隔(B1)は、例えば、20mm〜50mmの範囲(例えば、25mm)とされ、2条一組の縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4により形成されている縦筋2間の中心軸線間隔(B2)は、前記間隔よりも広く、例えば、100mm〜500mmの範囲(例えば、150mm)とされている。同様に、横筋3を形成している2条一組の横方向の繊維強化合成樹脂製筋4間の間隔(B3)は、20mm〜50mmの範囲とされ(例えば、25mm)とされ、2条一組の横方向の繊維強化合成樹脂製筋4により形成されている横筋3間の間隔(B4)は、前記間隔B3よりも広く例えば、100mm〜500mmの範囲(例えば、150mm)とされている。
【0035】
前記の繊維強化合成樹脂製筋4間の間隔(B1又はB3)は、例えば、同じ間隔で、25mm〜50mmの範囲(例えば、25mm)とされ、また、前記の間隔B2とB4は、例えば、同じ間隔で、100mm〜500mmの範囲(例えば、150mm)とされる。
【0036】
2条一組の縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4からなる縦筋2と、2条一組の横方向の繊維強化合成樹脂製筋4からなる横筋3との交差部5は、熱融着により一体化されて、全体として同面状となるように面板状の網状筋材1とされている。前記の交差部5は、縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4と横方向の繊維強化合成樹脂製筋4の4つの交点部5aが熱融着されることで形成されている。前記の縦筋2と、横筋3は、互いに直交して配置されるが、所望に応じて互いに90°以外の所定の角度にて交差し、格子状となるように構成することも可能である。
【0037】
前記のように、小間隔をおいた2条一組の縦方向の繊維強化合成樹脂製筋4による多数の縦筋2と、小間隔をおいた2条一組の横方向の繊維強化合成樹脂製筋4による多数の横筋3とが、一体化されることで、二重格子状の網状筋材1とされている。
【0038】
前記の交差部5の板厚寸法は、一定の板厚寸法、例えば、2mm〜3mmとされている。
【0039】
前記のように、第1の間隔として小間隔B1をおいて、繊維強化合成樹脂製筋4が2条、縦方向に配置されて、2条の繊維強化合成樹脂製筋4を一組とした2条一組の縦筋2とされ、2条一組の繊維強化合成樹脂製筋4による縦筋2が、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔(B1)をおいて複数配置されている。また、前記繊維強化合成樹脂製筋4が2条一組の縦筋2に直角に(又は、図示を省略するが、傾斜して)交差するように、第3の間隔(B3)をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋4を一組とした横筋3が、前記第3の間隔(B3)よりも広い第4の間隔(B4)をおいて複数配置されている。そして、各2条一組の縦筋2と2条一組の横筋3との各筋の交差部5を熱融着により固着して一体化して矩形枠部を形成している。そのため、2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部5を矩形枠部とした簡単な構造の取付部とし、当該取付部を、縦・横各2条一組の繊維強化合成樹脂製筋4に接続してそれ自体で補強された構造としている。本発明において用いる網状筋材は、二重格子網状で、面板状の繊維強化樹脂製の網状筋材1とされている。
【0040】
隣り合う縦筋2間の間隔(B2)、又は横筋3間の間隔(B4)は、間隔をおいて隣り合う縦筋2の中心間の間隔、又は間隔をおいて隣り合う横筋3間の中心軸線間の間隔であり、前記間隔(B1又はB2は)、縦筋2又は横筋3を構成している2条の繊維強化合成樹脂製筋4の中心間の間隔(B1,B3)である。
【0041】
面板状の繊維強化樹脂製の網状筋材1に、強化繊維としてガラス繊維を使用した場合には、網状筋材1は500N/mm2以上の引張強度、30000N/mm2以上の引張弾性率を有している。
【0042】
また、このような構成の繊維強化樹脂製の網状筋材1は、軽量で、耐食性があり、また曲げやすく、施工性に優れている。また、筋材の交差部分が他の部分と同一平面上にあり、全体として薄いシート状とされ、重ねても嵩張らない。
【0043】
本発明における繊維強化樹脂製の網状筋材1に使用する強化繊維は、下記の(1)〜(3)から選択されるいずれか1種の繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入した複合タイプとしてもよい。(1)ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維を含む無機繊維。(2)ボロン、チタン、スチール等の金属繊維。(3)アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維。マトリクス樹脂としては、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はMMA樹脂等の樹脂を使用することができる。
【0044】
次に、前記のような面板状の繊維強化樹脂製の網状筋材1を用いて、コンクリート製床版6及びコンクリート製壁7を備えた河川或いは通水路8のコンクリート表面を補強形態について、図4〜図8を参照して説明する。
【0045】
図5に示すように、補強しようとするコンクリート床版6又は側壁7のコンクリート層9にアンカー孔10を、前後方向或いは左右方向に所定の間隔(G)をおいて電動ドリル等により掘削して穿孔する。前記の間隔(G)は、縦筋2間の間隔(B2)又は横筋3間の間隔(B4)となっている。
【0046】
そして、コンクリート床版6又は側壁7の前記のコンクリート層9に設けたアンカー孔10に、公知のアンカー装置14を設置して網状筋材1を設置する。前記のアンカー装置14としては、例えば、後部にスリットと拡開式圧着片とを有するスリット付スリーブ11と、その内側に配置される雌ねじ付き截頭円錐状楔15及びその截頭円錐状楔15の雌ねじ孔(又は前記スリット付スリーブ11の雌ねじ孔)にねじ込まれるボルト又はアンカーボルト12、前記ボルト又はアンカーボルト12に予め装着されるナット13を備えたアンカー装置を使用してもよい。前記アンカー装置14以外にも、他の公知のアンカー装置をアンカー孔10に設置するようにしてもよい。
【0047】
前記アンカー装置14におけるスリット付スリーブ11内に截頭円錐状楔15を配置すると共にボルト又はアンカーボルト12を装着した状態で、前記アンカー孔10に配置して、スリット付スリーブ11を押し込んで截頭円錐状楔15により拡開させてアンカー孔内壁面に圧着させる。
【0048】
アンカー孔10周りの前記コンクリート床版6上面又は側壁7表面にスペーサー16を適宜接着剤等により固定して設置する。前記のスペーサー16は、適宜樹脂ブロック等を用いることができる。前記のスペーサー16の配置位置は、本発明の網状筋材1における縦筋2と横筋3の交差部5を形成している4つの各交点部5a、すなわち、各縦横の繊維強化合成樹脂製筋4の交差した融着部の裏面の位置に設置するようにされる。
【0049】
前記のようにスペーサー16を設置した状態で、前記ボルト又はアンカーボルト12のみを一端取り外して、網状筋材1をスペーサー16上に配置し、前記ボルト又はアンカーボルト12に、円形又は矩形の押え部材17を、ボルト頭部とナット13(又はアンカーボルト12にねじ込まれる2のナット)等により緩く把持して位置保持状態で装着する。前記の押え部材17は、交差部5における縦・横4辺の繊維強化合成樹脂製筋4に載置され、又は4つの交点部5a上に載置されるため、交差部5の升目と同じ又はそれよりも大きい円形又は矩形の金属製の押え部材17とされ、その中心部に、ボルト又はアンカーボルト挿通孔を備え、また、必要に応じ、図示を省略するが、前記アンカーボルト挿通孔に同心状に開口部を備えた形態とされ、モルタルの網状筋材升目内の充填性を向上させた形態とされる。前記のスペーサー16及びアンカー装置14並びに押え部材17等により、網状筋材1の保持装置の一形態とされている。
【0050】
前記のように、押え部材17を、ボルト頭部とナット13(又はアンカーボルト12にねじ込まれる2のナット)等により緩く把持して位置保持状態のボルト又はアンカーボルト12を前記雌ねじ付截頭円錐状楔15にねじ込むことで、前記網状筋材1を、スペーサー16と押え部材17との間で押さえ込んで、所定の位置に保持する。また、前記のボルト又はアンカーボルト12を、雌ねじ付截頭円錐状楔15に締め込むことで、スリット付スリーブ11の拡開式圧着片をアンカー孔10内周壁面にさらに食い込ませることで一層強固に定着させてもよい。
【0051】
前記のように、床版6上及び側壁7の所定の範囲に、アンカー装置14により固定された網状筋材1を設置する。
【0052】
その後、コンクリートのコンクリート前記の網状筋材1及びアンカー装置14を埋め込むように、ポリマーセメントモルタル或いは無収縮モルタル等のモルタル層18を設けて、既設のコンクリート表面の補強を図る。前記のポリマーセメントモルタルとしては、例えば、水性ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂を、ポリマー混和剤として用い、早強ポルトランドセメント又はポルトランドセメントと、砂を混合した材料を用いることができる。
【0053】
前記のように補強された構造では、前記2条一組の縦筋2と2条一組の横筋3との交差部5で応力を分散して押え部材17を支承することができ、また、前記2条一組の縦筋2と2条一組の横筋3との交差部5から押え部材17及びボルト又はアンカーボルト12で、モルタル層18を確実に保持して、既設コンクリート表面(コンクリート表層)を確実に補強することができる等の効果が得られる。また、取付部を二重格子状に補強された網状筋材1とすることができる。また、前記実施形態のように、ポリマーセメントモルタルからなるモルタル層18を、既設のコンクリート表面に設けることで、既設のコンクリート表面のひび割れ等の亀裂を補修・補強することができ、セメントと砂とのモルタル層の場合よりも、曲げ力、止水性の面で一層強固なモルタル層とすることができる。
【0054】
前記実施形態では、通水路におけるコンクリート製床スラブ或いは側壁についてのコンクリート表面の補強する形態を示したが、本発明を実施する場合、コンクリート製給水槽等の壁面あるいは床面、煙突等のコンクリート構造物におけるコンクリート表面の補強構造に適用するようにしてもよい。
【0055】
また、前記以外にも、トンネルにおけるトンネル内周壁面、コンクリート製壁、コンクリート製床板等のコンクリート構造物において適用可能で、コンクリートのひび割れ防止、せん断補強等、FRP製の網状筋材1を用いたコンクリート構造物の補強に有効である。
【符号の説明】
【0056】
1 繊維強化樹脂製の網状筋材
2 縦筋
3 横筋
4 繊維強化合成樹脂製筋
5 交差部
5a 交点部
6 床版
7 壁
8 通水路
9 コンクリート層
10 アンカー孔
11 スリット付スリーブ
12 ボルト又はアンカーボルト
13 ナット
14 アンカー装置
15 截頭円錐状楔
16 スペーサ−
17 押え部材
18 モルタル層
30 FRP格子筋
31 縦補強筋
32 横補強筋
33 アンカーボルト
34 座金
35 コンクリート表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化した繊維強化樹脂製の網状筋材を構成し、
コンクリート製壁面及び床表面のいずれか一方又は両方にスペーサーを介して、前記繊維強化樹脂製の網状筋材が配置され、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内にアンカーボルトが配置されると共にコンクリート製壁及び床のいずれか一方又は両方に固定され、前記矩形枠部の裏面側に前記スペーサーが配置され、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材が矩形枠部の表面側に配置されて前記アンカーボルトにより固定され、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層が形成されて補強されていることを特徴とするコンクリート表面の補強構造。
【請求項2】
前記第1の間隔と前記第3の間隔が同じ間隔とされ、前記第2の間隔と前記第4の間隔が同じ間隔とされている繊維強化樹脂製の網状筋材であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート表面の補強構造。
【請求項3】
前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋とが、直交又は傾斜して交差するように配置されている繊維強化樹脂製の網状筋材であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート表面の補強構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート表面の補強構造の構築方法であって、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂製の網状筋材を、既設コンクリート表面にスペーサーを介して配置し、前記2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部に形成されている矩形枠部内に、既設コンクリートに基端側を固定した保持装置を配置し、前記保持装置の先端側で、前記交差部に形成されている矩形枠部に係合するように押え部材を矩形枠部の表面側に配置した後、前記アンカーボルト及び繊維強化樹脂製の網状筋材を埋め込むようにモルタル層を形成することを特徴とするコンクリート表面の補強方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項のコンクリート表面の補強構造又は請求項4のコンクリート表面の補強方法に用いる維強化樹脂製の網状筋材であって、その維強化樹脂製の網状筋材は、第1の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の縦筋を、前記第1の間隔よりも広い第2の間隔をおいて複数配置すると共に、前記2条一組の縦筋に交差するように、第3の間隔をおいて平行に配置された2条の繊維強化合成樹脂製筋を一組とした2条一組の横筋を、前記第3の間隔よりも広い第4の間隔をおいて複数配置して、各2条一組の縦筋と2条一組の横筋との交差部を固着して一体化していることを特徴とする繊維強化樹脂製の網状筋材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−79517(P2013−79517A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219833(P2011−219833)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【出願人】(306032316)新日鉄住金マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】