説明

コンクリート養生システム

【課題】外気と遮断された気密性の高い養生空間を実現して、コンクリートの硬化に必要な温度と湿潤な環境もとでコンクリートの養生を可能にしたコンクリート養生システムを提供する。
【解決手段】建設中のRC構造の橋脚Aとその外周に仮設された仮設足場Bとの間に設置する。仮設足場Bの内側に突設される複数のブラケット2と、当該ブラケット2,2間に架け渡される複数の横部材3と、当該横部材3,3間に垂直に架け渡される複数の縦部材4と、前記橋脚Aと仮設足場Bとの間に設置される複数の養生シート5と、当該養生シート5を前記横部材3および縦部材4に止め付ける複数の止め具7とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート養生システムに関し、打設直後のコンクリートの養生に広く利用でき、特に寒中コンクリートや暑中コンクリートの養生に適している。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(以下「RC」という)構造物の施工に際しては、特に打設直後のコンクリートは、コンクリートの硬化に必要な温度と湿潤状態のもとで一定期間養生する必要がある。
【0003】
特に、寒中コンクリートの施工に際しては、一般にコンクリートは、コンクリートの内部温度が上昇して外気温との間に温度差が発生するとひび割れが生じる(温度応力ひび割れ)ため、常温になるまで温度差を小さくする必要がある。
【0004】
また、暑中コンクリートの施工に際しては、乾燥によるひび割れを防止するために充分な湿潤養生を行う必要がある。
【0005】
これまで、例えば建設中のRC構造の橋脚を施工するに際しては、一般的に、型枠の外周に組み立てられた仮設足場の外側をブルーシートで覆い、寒中コンクリートの施工に際しては、さらにブルーシートの中でジェットヒーター等による給熱養生を行うことによりコンクリートの凍結等を防止していた。
【0006】
また、暑中コンクリートの施工に際しては、型枠の上から散水する等して湿潤養生を行なうことによりコンクリートの乾燥によるひび割れ等を防止していた。
【0007】
【特許文献1】特開平6−146609号公報公報
【特許文献2】特開2005−188241号公報
【特許文献3】特開2006−291690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、橋脚のような大型のRC構造物をブルーシートで覆い外気と遮断するには、ブルーシートを隙間なく設置することが現実的に不可能なため、ブルーシート内の気密性を確保することは困難であり、コンクリートの硬化に必要な温度と湿潤状態を維持しにくいものであった。
【0009】
また、寒中コンクリートの施工に際し、何らかの方法で気密性を確保した場合、養生シートの中でジェットヒーター等によって給熱養生を行なうと、酸欠事故を引き起こすおそれがあり、作業者の安全を確保する上で課題があり、また石化燃料を大量に消費するため経済的にも課題があり、しかもCO2の大量排出により環境問題も懸念された。
【0010】
さらに、暑中コンクリートの施工に際しては、散水養生は暑さや風などにより散水された水がすぐに乾燥してしまうため、水を大量に消費し、きわめて不経済な養生を強いられた。
【0011】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、外気と遮断された気密性の高い養生空間を実現し、乾燥と温度の低下を防止して、コンクリートの硬化に必要な温度と湿潤な環境のもとでのコンクリートの養生を可能にしたコンクリート養生システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のコンクリート養生システムは、建設中の構造物とその外周に仮設された仮設足場との間に設置されるコンクリート養生システムであって、前記仮設足場の内側に架け渡される複数の横部材と、当該横部材間に架け渡される複数の縦部材と、前記構造物と前記仮設足場との間に設置される複数の養生シートと、当該養生シートを前記横部材と縦部材に止め付ける複数の止め具とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明はRC構造物の施工に際し、打設直後のコンクリートを型枠の外側から完全に覆うことにより外気とほぼ完全に遮断された気密性の高い養生空間を実現して、乾燥と温度の低下を防止してコンクリートの硬化に必要な最適な温度と湿潤な環境を維持できるようにしたものである。
【0014】
また、本発明は、橋脚などの土木構造物のコンクリートの養生の他に、後述するように、構成部材の殆どを農業用ビニールハウスで用いられている物を利用し、また農業用ビニールハウスはトンネルと形状的に似ていることからトンネルの覆工コンクリートの養生にも利用できるようにしたものである。
【0015】
ここで使用する横部材、縦部材、養生シート等の必要な資材は、原則農業用ビニールハウスで用いられるものをそのまま利用することができる。例えば、横部材と縦部材にはビニールハウスの支柱や筋交い等として用いられている丸パイプ(鋼管)を利用することができ、養生シートにはビニールシートを利用することができる。
【0016】
また、横部材を仮設足場の支柱などに固定する固定具と縦部材を横部材に固定する固定具、さらには養生シートを横部材と縦部材に止め付ける止め具には農業用ビニールハウスで支柱などの骨組を組み立てる際の連結金具とビニールシートを骨組に固定する固定金具を用いることができる。
【0017】
また、複数の横部材と縦部材は縦横に格子状に枠組みされ、また仮設足場と構造物との間に垂設される養生シートは、横部材と縦部材に複数の止め具によって所定間隔おきに止め付けられるため、養生シートは仮設足場に確実に固定することができる。
【0018】
さらに、隣接する養生シートの端部は、横部材と縦部材の上でそれぞれ重ね合わせ、それぞれ横部材と縦部材に上から止め具によって一緒に止め付けることにより、隣接する養生シートの端部間を確実に密閉することができる。なお、障害物などで止め具による止め付けが困難な部分については、粘着テープによって止め付ければよい。
【0019】
請求項2記載のコンクリート養生システムは、請求項1記載のコンクリート養生システムにおいて、仮設足場に突設され、横部材を支持する複数のブラケットと、前記横部材を前記ブラケットに固定する複数の固定具とを備えて構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明は、ブラケットを介して横部材を仮設足場の支柱などに支持するようにしたものであり、本発明によれば、仮設足場を建設中のRC構造物からある程度離して仮設せざるを得ないような場合でも、養生シートをRC構造物側に近接させて設置することができる。
【0021】
なお、この場合のブラケットは、鋼製足場の組み立て等で用いられる結合金物(単クランプ)の側部に丸パイプ(鋼管)を溶接する等して簡単に形成することができる。
【0022】
請求項3記載のコンクリート養生システムは、請求項1または2記載のコンクリート養生システムにおいて、コンクリートの給熱養生を行なうための投光器などを備えていることを特徴とするものである。給熱養生に投光器などを利用することにより、特に酸欠事故を未然に防止することができて作業員の安全を確保することができる。
【0023】
また、石化燃料の消費もなくなるためコスト削減が図れ、またCO2の発生による環境問題の解消の一端を担うことにもなる。なお、投光器には在来のものをRC構造物の規模に応じて必要数、養生シートの外側に設置すればよい。
【0024】
請求項4記載のコンクリート養生システムは、請求項1〜3のいずれか1に記載のコンクリート養生システムにおいて、コンクリートの湿潤養生を行なうための散水装置を備えていることを特徴とするものである。
【0025】
建設中のRC構造物は、養生シートによって外気とほぼ完全に遮断されていることによりかなりの湿潤状態は維持されていることから、霧状に散水できような簡単な装置を散水装置として利用することができる。
【0026】
請求項5記載のコンクリート養生システムは、コンクリートの蒸気養生を行なうための蒸気養生装置を備えていることを特徴とするものである。打設直後のコンクリートを常圧蒸気養生することによりコンクリートの養生を促進させ、コンクリートの耐久性を高め、かつ工期の短縮化等を図ることができる。
【0027】
この場合、養生シート内は外気とほぼ完全に遮断されて機密性が保持されていることから、養生シート内にある程度高温の蒸気(温水ミスト)を散布することにより、コンクリートの常圧蒸気養生を行なうことができる。また、給熱養生と並行して温水を霧状に散布することによっても常圧蒸気養生を行なうことができる。
【0028】
請求項6記載のコンクリート養生システムは、請求項1〜5のいずれか1に記載のコンクリート養生システムにおいて、養生シートは二重に設置されていることを特徴とするものである。本発明は、特に保湿効果を上げる必要がある場合に有効な手段といえる。
【0029】
また、養生シートを二重に設置することにより保温効果を大幅に改善することが可能なため、特に寒中コンクリートの養生に適している。なお、この場合の養生シートは、横部材および縦部材の型枠側と仮設足場側に横部材および縦部材を剪み込むように設置するのが望ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、RC構造物の施工に際し、打設直後のコンクリートを型枠の外側から完全に覆うことにより外気とほぼ完全に遮断された気密性の高い養生空間を実現できるため、乾燥と温度の低下を防止してコンクリートの硬化に必要な最適な温度と湿潤な環境を維持できる効果がある。
【0031】
また、横部材、縦部材、養生シート等の必要な資材は、農業用ビニールハウスで用いられるものをそのまま利用することができ、また繰り返し利用することができるのできわめて経済的である。
【0032】
さらに、構造物の周囲に仮設される仮設足場を利用して設置するため、構造物の規模に応じた形状および大きさに無駄なく合理的に設置することができる等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1〜図6は、本発明の一実施形態を示し、図において、符号Aは建設中のRC構造の橋脚、符号Bは橋脚Aの周囲に仮設された仮設足場である。また、符号1は、橋脚Aと仮設足場Bとの間に設置されたコンクリート養生システムである。
【0034】
コンクリート養生システム1は、仮設足場Bの内側に突設された複数のブラケット2と当該ブラケット2,2間に水平に架け渡された複数の横部材3と、当該横部材3,3間に垂直に架け渡された複数の縦部材4と、橋脚Aと仮設足場Bとの間に橋脚Aの周囲を覆うように垂設され、横部材3と縦部材4に止め付けられた複数の養生シート5等から構成されている。
【0035】
ブラケット2は仮設足場Bの支柱aをクランプ部2aによって強く挟み込むことにより仮設足場Bの内側に仮設足場Bの上下方向および横方向に一定間隔おきに取り付けられ、各ブラケット2のアーム部2bは橋脚A側に水平に突出している。
【0036】
また、ブラケット2はクランプ部2aと当該クランプ部2aの側部に水平に突設されたアーム部2bとから構成されている。クランプ部2aには鋼製足場の組み立て等で用いられる結合金物(単クランプ)が利用され、アーム部2bには丸パイプが利用され、かつアーム部2aはクランプ部2aの側部に溶接することにより突設されている。そして、各ブラケット2は、ねじの締め付けにより仮設足場Bの支柱aに脱着自在に取り付けられている。
【0037】
横部材3は複数のブラケット2のアーム部2b,2b間に水平に架け渡され、両端部をアーム部2b,2bの上に固定具6で止め付けることによりブラケット2に固定されている。
【0038】
なお、図1(c),図2(b)および図4に図示するように、横部材3はブラケット2を利用せず、仮設足場Bの複数の支柱aに固定具6によって直接固定される場合もある。
【0039】
縦部材4は、複数の上下横部材3,3間に垂直に架け渡され、両端および中間部を横部材3に固定具6で止め付けることにより複数の横部材3に固定されている。
【0040】
この場合、横部材3と縦部材4は、図2(a),(b)に図示するように縦横に格子状に組み立てられている。また、横部材3と縦部材4には丸パイプ(鋼管)が用いられている。
【0041】
固定具6は、図5(a)に図示するように、互いに交差するアーム部2bと横部材3に連続して巻きかけられ、かつ強力なバネの力によって横部材3の端部をアーム部2bの上に脱着自在に、かつワンタッチで固定できるように形成されている。
【0042】
同様に、縦部材4を横部材3に固定する固定具6も、図5(b)に図示するように、互いに交差する横部材3と縦部材4に連続して巻きかけられ、かつ強力なバネの力によって縦部材4を横部材3の側部に脱着自在に、かつワンタッチで固定できるように形成されている。
【0043】
なお、いずれの固定具6も強力なバネ力を有する金属線材から形成されている。
【0044】
養生シート5は橋脚Aと仮設足場Bとの間に垂設され、図2(a),(b)に図示するように複数ヶ所を横部材3と縦部材4にそれぞれ複数の止め具7によって止め付けられている。
【0045】
この場合、養生シート5は、図6(a),(b)に図示するように、それぞれ横部材3および縦部材4と共に止め具7によって強く挟み込むことにより横部材3および縦部材4に固定されている。
【0046】
また特に、隣接する養生シート5,5間は端部を横部材3および縦部材4の上で互いに重ね合わせ、その上を止め具7で横部材3および縦部材4と共に挟み込むことにより密閉されている。
【0047】
なお、障害物などで止め具7による止め付けが困難な場合は粘着テープ等で貼り合わせることにより密閉されている。養生シート5には農業用ビニールシートが用いられている。
【0048】
止め具7は、図6(a),(b)に図示するように軟質製の合成樹脂材から横部材3および縦部材4に外接し得る内径の円筒形に形成され、その一側部にスリット7aが材軸方向に連続して形成されている。また、内側に線状または板状のスプリング7bが円周方向に沿って取り付けられている。
【0049】
そして、止め具7は全体が径方向に変形することによりスリット7aが大きく開き、かつスプリング7bの働きによって元の形状に戻るようになっている。止め具7がこのように形成されていることにより養生シート5を横部材3および4に脱着自在にかつワンタッチで止めつけることができる。
【0050】
このような構成において、次にコンクリート養生システムの設置手順を簡単に説明する。
【0051】
(1) 橋脚Aの型枠の組み立てが完了したら、橋脚Aのコンクリートを打設する前に、仮設足場Bの各支柱aに複数のブラケット2を型枠の天端まで、仮設足場Bの横方向および上下方向に所定間隔おきに取り付ける。
【0052】
(2) 次に、横方向に隣接する複数のブラケット2,2間に横部材3を水平に架け渡し、各横部材3の両端部をブラケット2のアーム2bに固定具6によって固定する。なお、この場合の横部材3は仮設足場Bの上下方向に一定間隔おきに複数段に設置する。
【0053】
(3) 次に、上下方向に隣接する複数の横部材3,3間に複数の縦部材4を垂直に架け渡し、各縦部材4の上下端部および中間部を横部材3に固定具6によって止め付ける。この場合の縦部材4は仮設足場Bの横方向に所定間隔おきに設置する。また、横部材3と縦部材4は格子状に組み立てる。
【0054】
(4) 次に、橋脚Aと仮設足場Bとの間に養生シート5を垂らす。そして、横部材3と縦部材4に添え付け、複数ヶ所をその上から止め具7によって横部材3および縦部材4と共に強く挟み込むことにより各横部材3と縦部材4に止め付ける。
【0055】
(5) その際特に、隣接する養生シート5,5間は、端部を横部材3と縦部材4の上でそれぞれ互いに重ね合わせ、その上を止め具7で強く挟み込むことにより密閉する。なお、コンクリートの天端までの高さがかなりあるときは、養生シート5は複数段に設置する。
【0056】
(6) そして、橋脚Aのコンクリートの打設が完了したら、コンクリートの天端を梱包用の気泡シート8等によって覆う。これによりコンクリート養生システムの設置は完了したことになる。
【0057】
こうして設置したブラケット2、横部材3および縦部材4、養生シート5等の各資材は橋脚Aの施工の進行に合せて上方に移動させながら繰り返し利用する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、コンクリートの硬化に必要な温度と湿潤な環境のもとでコンクリートを養生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】建設中のRC構造の橋脚を養生する目的で設置されたコンクリート養生システムの一実施形態を示し、図1(a)はその平面図、図1(b),(c)はそれぞれ図1(a)におけるイ−イ線、ロ−ロ線断面図である。
【図2】(a),(b)はブラケット、横部材、縦部材および養生シート等の設置された状態を示す一部斜視図である。
【図3】横部材の端部をブラケットのアーム部に固定具によって固定した状態を示し、図3(a)は正面図、図3(b)は図3(a)におけるハ−ハ線断面図である。
【図4】横部材の端部を仮設足場の支柱に固定具によって固定した状態を示し、図4(a)は正面図、図4(b)は図4(a)におけるニ−ニ線断面図である。
【図5】図5(a)は横部材の端部をブラケットのアーム部に固定する固定具を示す斜視図、図5(b)は縦部材を横部材に固定する固定具を示す斜視図である。
【図6】図6(a)は養生シートを縦部材に止め具によって止め付ける方法を示す横断面図、図6(b)は養生シートを横部材に止め具によって止め付ける方法を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0060】
A 建設中のRC構造の橋脚
B 仮設足場
a 支柱
1 コンクリート養生システム
2 ブラケット
2a クランプ部
2b アーム部
3 横部材
4 縦部材
5 養生シート
6 固定具
7 止め具
7a スリット
7b スプリング
8 気泡シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設中の構造物とその外周に仮設された仮設足場との間に設置されるコンクリート養生システムであって、前記仮設足場の内側に架け渡される複数の横部材と、当該横部材間に架け渡される複数の縦部材と、前記構造物と前記仮設足場との間に設置される複数の養生シートと、当該養生シートを前記横部材と縦部材に止め付ける複数の止め具とから構成されていることを特徴とするコンクリート養生システム。
【請求項2】
仮設足場に突設され、横部材を支持する複数のブラケットと、前記横部材を前記ブラケットに固定する複数の固定具とを備えていることを特徴とする請求項1記載のコンクリート養生システム。
【請求項3】
コンクリートの給熱養生を行なう投光器などを備えていることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート養生システム。
【請求項4】
コンクリートの湿潤養生を行なう散水装置を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のコンクリート養生システム。
【請求項5】
コンクリートの蒸気養生を行なう養生装置を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のコンクリート養生システム。
【請求項6】
養生シートは二重に垂設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のコンクリート養生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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