説明

コンバインのエンジン冷却構造

【課題】エンジンの冷却を常時行なえるものとして、ラジエータの小型化によるコストダウンと、オーバーヒート防止による作業能率向上を達する。
【解決手段】エンジン(10)を内装するエンジンルーム(3)と脱穀装置(6)側に設けた唐箕ファン配置室(13)とを通気ダクト(14)で連通し、エンジン(10)から脱穀装置(6)に動力を伝動する脱穀装置駆動経路(15)とは別にエンジン(10)から唐箕ファン(17)に動力を伝動する唐箕ファン駆動経路(16)を設け、この唐箕ファン駆動経路(16)からの駆動で唐箕ファン(17)を脱穀装置駆動経路(15)からの駆動時回転速度よりも低速で常時駆動してエンジンルーム(3)内の熱気を吸引する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに搭載するエンジンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインは、機体前部の操縦席下部にエンジンを搭載してこのエンジンの動力で刈取装置や脱穀装置などの各駆動部を駆動している。そして、例えば、下記特許文献1及び2には、エンジンを冷却して温まった空気を脱穀装置の穀粒選別部に送って穀粒を乾燥させ選別を良くするようにした穀粒乾燥手段が考えられている。
【0003】
このコンバインの穀粒乾燥手段は、エンジンを囲ったエンジンルームと脱穀装置の唐箕ファン室とを連通する通気空間を設けて、脱穀装置の駆動時にエンジンルーム内の温まった空気を通気空間から唐箕ファンで吸引して穀粒選別部に送り、穀粒を乾燥させる構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−14号公報
【特許文献2】特開2003−180143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンバインは、収穫作業時に脱穀装置を駆動して走行し、路上走行や圃場内の単なる移動走行時には脱穀装置を停止している。このために、前記穀粒乾燥手段の唐箕ファンによるエンジンルーム内からの温風吸引作用が路上走行や圃場内の単なる移動走行時には働かない。このために、エンジンに吸引ファンを設けて、この吸引ファンの回転によって、外部からエンジンルーム内に冷却空気を吸引するようにしている。
【0006】
本発明では、脱穀装置の駆動停止時にも唐箕ファンによるエンジンルームからの空気吸引作用を働かすことで、エンジンに強力な吸引ファンを設けなくてもエンジンルーム内の冷却風の流れを確保して常時エンジンの冷却を可能にすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、エンジン(10)を内装するエンジンルーム(3)と脱穀装置(6)側に設けた唐箕ファン配置室(13)とを通気ダクト(14)で連通し、エンジン(10)から脱穀装置(6)に動力を伝動する脱穀装置駆動経路(15)とは別にエンジン(10)から唐箕ファン(17)に動力を伝動する唐箕ファン駆動経路(16)を設け、この唐箕ファン駆動経路(16)からの駆動で唐箕ファン(17)を脱穀装置駆動経路(15)からの駆動時回転速度よりも低速で常時駆動してエンジンルーム(3)内の熱気を吸引する構成としたことを特徴とするコンバインのエンジン冷却構造とした。
【0008】
この構成で、脱脱穀装置駆動経路(15)から脱穀装置(6)を駆動していない時にも唐箕ファン駆動経路(16)からの動力で唐箕ファン(17)を常時回転してエンジンルーム(3)内の空気が通気ダクト(14)を通じて唐箕ファン配置室(13)へ吸引されてエンジンルーム(3)に冷却風が流れる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、エンジンルーム(3)の空気が唐箕ファン(17)によって常に吸引されて流れることによって、エンジン(10)が冷却されるので、エンジン(10)冷却用のラジエータを小型化することができ、コンバインの製造コストを低減して安価に提供することができる。また、エンジン(10)のオーバーヒートを少なくして作業能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】コンバインの全体左側面図である。
【図2】コンバインの部分拡大平断面図である。
【図3】コンバインの動力伝動線図である。
【図4】自動制御の制御ブロック図である。
【図5】HSTレバーの加速率を示すグラフである。
【図6】作業カウンタケースの側断面図である。
【図7】作業カウンタケースの平断面図である。
【図8】作業カウンタケース内の一部断面図である。
【図9】走行HSTの増速率制御フローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施例を説明する。
図1は、コンバインの全体側面図で、機体の最前部に設ける刈取搬送装置1で圃場に植生する稲や麦等の穀稈を刈り取って、コンバイン機体中間から後部にかけて設ける脱穀装置6のフィードチェン24に搬送供給して脱穀し、脱穀した穀粒を脱穀装置6の右側に設けるグレンタンク5に溜めて、このグレンタンク5が満杯になると収穫作業を一時停止して畦道に止まっているトラックに接近し、排出オーガ8を使ってグレンタンク5内の穀粒をトラックの穀粒タンクに移送する。
【0012】
コンバインの車体2の下部にクローラ走行装置4を設け、機体の右前部に設けるキャビン7内に作業者が搭乗する操縦席9を設け、このキャビン7の下部にエンジン10を搭載している。
【0013】
コンバインの機体後部には後部カメラ11を設けて機体の後部を映し、排出オーガ8の先端にはオーガカメラ12を設けて穀粒の排出状況を映し、操縦席9に設ける一個のモニタに通常は後部カメラ11による機体後部の映像を映し、排出オーガ8を起伏させるとオーガカメラ12による排出オーガ8の先端映像に自動的に切換るようにしている。モニタの画面は手動で適宜にどちらの映像にでも切り換えることも出来るようにしている。
【0014】
図2は、コンバイン前部の拡大平断面図で、キャビン7の下部でエンジン10を車体2に搭載し、このエンジン10の周囲を囲ってエンジンルーム3を形成し、そのエンジンルーム3の上部をエンジンカバー18で覆い、このエンジンカバー18上に操縦席9を設けている。
【0015】
エンジンルーム3の左側部にはラジエータ104を設け、エンジンルーム3の中央後部から脱穀装置6の底部に設ける唐箕ファン配置室13にかけて中空の通気ダクト14を設け、ラジエータ104側からエンジンルーム3に吸い込む空気が通気ダクト14を通って唐箕ファン配置室13に流れるようにしている。
【0016】
唐箕ファン17は、脱穀装置6の選別部を形成するチャフシーブとグレンシーブの下方に選別風を送るもので、ラジエータ104とエンジン10の周りを通って暖められた空気が通気ダクト14を通って唐箕ファン配置室13に吸い込まれ、選別風となって脱穀装置6の選別部に送られ、湿って収穫された穀粒を乾燥し選別作用を良好にする。
【0017】
図3は、動力伝動線図で、エンジン10の機体中央側のメイン出力軸19には、クローラ走行装置4のトランスミッション22の入力側に設ける走行油圧無段変速装置21(以下、油圧無段変速装置をHSTと表示する)へ動力を伝動する走行ベルト20と、作業カウンタケース28のカウンタ入力軸27にクラッチプーリ26を介して伝動する作業ベルト25と、メイン出力軸19に取り付けた出力プーリ40から唐箕軸38のワンウェイプーリ37へ伝動する唐箕駆動ベルト36を取り付けている。
【0018】
エンジン10の機体側部側のサブ出力軸23はグレンタンク5の穀粒排出関係の駆動に伝動している。
作業カウンタケース28内で適宜に変速された回転動力は、脱穀第一出力軸29から扱胴105や処理胴106等の駆動に出力され、脱穀第二出力軸30から揚穀軸等を駆動する脱穀伝動ベルト31や唐箕軸38を駆動する唐箕伝動ベルト32に出力され、刈取出力軸33から刈取伝動ベルト34で刈取入力軸35へ出力される。
【0019】
唐箕軸38は、エンジン10の起動と共に出力プーリ40と唐箕駆動ベルト36とワンウェイプーリ37からなる唐箕ファン駆動経路16から常時低速で回転し、この回転はワンウェイプーリ37であるので、作業ベルト25のクラッチプーリ26を入りにすると作業カウンタケース28と脱穀第二出力軸30と唐箕伝動ベルト32からなる脱穀装置駆動経路15からの高速回転が優先されて回転することになる。
【0020】
図6乃至図8は、作業カウンタケース28の内部構成を示している。
作業カウンタケース28には作業HST41が取り付けられ、エンジン10からの動力が入力軸42に伝動され、変速された出力軸45の回転が刈取出力軸33とシンクロチェン駆動軸46に伝動され、入力軸42の回転が減速して脱穀第二出力軸30に伝動される。刈取出力軸33の回転がプーリ47で脱穀伝動ベルト31と唐箕伝動ベルト32に伝動され、脱穀第二出力軸30の回転がプーリ48で刈取伝動ベルト34に伝動される。
【0021】
出力軸45には、回転検出ギヤ50を取り付け、回転センサ49で回転数を検出している。シンクロチェンとは、刈取搬送装置1の搬送チェンからフィードチェン24の先端部へ穀稈を引き継ぐチェンである。
【0022】
図8は、刈取出力軸33への刈取伝動ギヤ44とシンクロチェン駆動軸46へのシンクロ伝動ギヤ43と前記回転検出ギヤ50を出力軸45に溶接によって一体に構成した実施例である。出力軸45には軸受103を受ける鍔部39を形成している。
【0023】
図4は、自動制御の制御信号の流れを説明する制御ブロック図である。
マイクロコンピュータからなるコントローラは、本機コントローラ60とエンジンコントローラ89とHSTコントローラ87である。
【0024】
まず、本機コントローラ60に入力するデータは、主変速ポテンショメータ58からの主変速レバーの回動角度信号と、ブレーキペダルの近傍或はブレーキペダルを強く踏み込むことでオンになる緊急停止スイッチ59からのオン信号と、刈取(入)スイッチ61からのオン信号と、スピン旋回スイッチ62からのオン・オフ信号と、脱穀(入)スイッチ63からのオン信号と、湿田スイッチ64からのオン・オフ信号と、HSTポテンショメータ57からのHSTレバーの回動角度信号と、車速センサ66からの走行速度信号と、オーガ排出スイッチ67からのオン・オフ信号と、HSTポンプ斜板角センサ68からの変速信号と、刈取変速スイッチ69の刈取速度信号と、掻込スイッチ70からのオン・オフ信号と、駐車ブレーキスイッチ71のからのオン・オフ信号と、刈取用HST出力回転センサ65からの回転数と、走行用HST出力回転センサ72からの回転数と、作業上限速設定ダイヤル73からの設定速度である。
【0025】
なお、作業上限速設定ダイヤル73は、前記HSTレバーを低作業速或いは標準作業速にした場合の速度を設定するダイヤルで、これらの設定速度は、エンジンコントローラ89がエンジン回転センサ92からの回転低下によって判断する過負荷の状態になると、適宜に低下してエンジン停止になるのを防ぐ。また、前記HSTレバーで設定する低作業速と標準作業速は、エンジン10が過負荷になるとその最大変速域を低下させてエンジン10が停止しないようにする。
【0026】
本機コントローラ60から出力される制御信号は、サイドクラッチ(左)ソレノイド74への動作信号と、サイドクラッチ(右)ソレノイド75への動作信号と、ブレーキ(右)比例弁76への動作信号と、ブレーキ(左)比例弁77への動作信号と、脱穀クラッチモータ78への動作信号と、フィードチェンクラッチモータ79への動作信号と、オーガクラッチモータ80への動作信号と、ローリング(右)ソレノイド81への動作信号と、ローリング(左)ソレノイド82への動作信号と、ピッチングソレノイド83への動作信号と、HSTモータ2段変速ソレノイド84への動作信号と、ドライブユニット85への増減速信号とである。ドライブユニット85は刈取用HST変速モータ86を制御する。
【0027】
なお、図示を省略しているが、操向レバーの操作量を検出する操向センサとクローラ走行装置4の左右駆動スプロケット軸の回転数を検出する左右駆動軸回転センサを設け、操向レバーの操向操作量が少なくても左右駆動軸の回転差が大きい場合には、左右旋回クラッチの油圧力を弱くして急激な旋回にならないように自動制御している。
【0028】
HSTコントローラ87は本機コントローラ60とエンジンコントローラ89との間で信号の交信が行われ、HSTポンプ比例弁88へ走行用HST21の可変油圧ポンプ52の斜板を動かす油圧シリンダ51の制御信号が出力され、HSTモータ比例弁55へ可変油圧モータ54の斜板を動かす油圧シリンダ53の制御信号が出力される。
【0029】
走行用HST21は、油圧ポンプと高・低変速の油圧モータで構成し、油圧モータを高・低に切り換えHSTレバーで無段変速するが、図9のフローチャートに示す如く、ステップS1のHSTレバーで変速を行っている時にステップS2で油圧モータが低速ではHSTレバーを増速してゆくとステップS3の感度敏感(すなわち、図5の如く急な増速率)で目的速度に達するようにして作業能率を高め、油圧モータが高速ではHSTレバーを増速してゆくとステップS4の感度鈍感(すなわち、図5の如くゆっくりした増速率)で目的速度に達するようにして路上走行の安全を図っている。
【0030】
さらに、前記緊急停止スイッチ59からの停止信号によりHSTコントローラ87から停止バルブ56が走行用HST21を変速する油圧シリンダ51を前後進の中立位置へ戻すように制御して走行を停止する。
【0031】
エンジンコントローラ89に入力するデータは、水温センサ90からのエンジン冷却水の温度と、吸気温センサ91からのエンジン吸気温度と、エンジン回転センサ92からのエンジン回転数と、クランクポジションセンサ93からのエンジンクランク軸角度と、アクセル開度センサ94からのアクセルペダル等の開度と、燃料温度センサ95からの燃料温度と、コモンレール圧力センサ96からのコモンレール圧力と、吸気流量センサ97からのエンジン吸気流量と、燃料流量センサ98からの燃料流量と、大気圧センサ99からの大気圧である。
【0032】
エンジンコントローラ89から出力される制御信号は、サプライポンプ100に対する燃料供給量と、インジェクタ101に対する燃料噴射タイミングと、本機モニタ102に対する水温、エンジン負荷、グロータイミング、オイル圧、エンジン回転数等である。
【符号の説明】
【0033】
3 エンジンルーム
6 脱穀装置
10 エンジン
13 唐箕ファン配置室
14 通気ダクト
15 脱穀装置駆動経路
16 唐箕ファン駆動経路
17 唐箕ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)を内装するエンジンルーム(3)と脱穀装置(6)側に設けた唐箕ファン配置室(13)とを通気ダクト(14)で連通し、エンジン(10)から脱穀装置(6)に動力を伝動する脱穀装置駆動経路(15)とは別にエンジン(10)から唐箕ファン(17)に動力を伝動する唐箕ファン駆動経路(16)を設け、この唐箕ファン駆動経路(16)からの駆動で唐箕ファン(17)を脱穀装置駆動経路(15)からの駆動時回転速度よりも低速で常時駆動してエンジンルーム(3)内の熱気を吸引する構成としたことを特徴とするコンバインのエンジン冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−252696(P2010−252696A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106640(P2009−106640)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】