説明

コンバインの油圧回路

【課題】刈取油圧無段変速装置へ刈刃速度の変速に充分な圧油の供給を行い、走行速度の変速中にも刈取装置の刈刃速度の変更が支障なく行えるものとする。
【解決手段】走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行なうメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設けたコンバインの油圧回路において、メイン油圧回路(W)からのリリーフ油に所定の圧力をかけて刈取無段変速回路(2)にチャージ油として送る補給油路(70)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインにおいて刈取装置の昇降制御や機体の前後左右方向への安定制御に用いられる油圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインの油圧回路は、例えば、特開2003−206907号公報や特開2009−118787号公報に記載されている如く、走行ブレーキや旋回ブレーキを制御する走行油圧回路と刈取装置を昇降制御する刈取昇降油圧回路と機体のローリングとピッチングを制御する機体制御油圧回路と穀粒排出用オーガの昇降を制御するオーガ昇降油圧回路等の多くの油圧回路で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−206907号公報
【特許文献2】特開2009−118787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバインの油圧回路構成として、穀粒の収穫作業に必要な刈取装置の昇降やオーガの昇降等のコンバイン機能を制御する油圧回路の圧油供給源としてメイン油圧ポンプが設けられ、コンバインの走行速度を無段変速する走行油圧無段変速装置の動力源として別のサブ油圧ポンプが設けられ、刈取装置の刈刃速度を無段変速する刈取油圧無段変速装置にはサブ油圧ポンプから圧油が供給されるようにした油圧回路構成が有る。
【0005】
このコンバインの油圧回路構成では、走行速度を変速しながら刈取装置の刈刃速度を変更する場合に、走行油圧無段変速装置に多くのオイルが使用されて刈取油圧無段変速装置への圧油供給が不足して刈刃速度を充分に変速できなく騒音が発生したりして耐久性も低下する。
【0006】
そこで、本発明では、走行速度の変速中にも刈取装置の刈刃速度の変更が支障なく行えるように刈取油圧無段変速装置へ刈刃速度の変速に充分な圧油の供給を行えるようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
即ち、この発明は、走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行なうメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設けたコンバインの油圧回路において、前記メイン油圧回路(W)からのリリーフ油に所定の圧力をかけて刈取無段変速回路(2)にチャージ油として送る補給油路(70)を設けたことを特徴とするコンバインの油圧回路とした。
【0008】
この構成で、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)へサブ油圧ポンプ(22)から常時圧油を供給し、メイン油圧回路(W)の所定圧のリリーフ油が補給油路(70)から刈取変速回路(2)へ補給される。
【発明の効果】
【0009】
この発明によると、サブ油圧ポンプ(22)を容量の大きなものにしないでも、メイン油圧回路(W)から補給油路(70)を通じて刈取無段変速回路(2)へチャージ油が供給されて、走行変速中にもコンバインの刈取装置の変速を支障なく行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明実施例を示すコンバインの油圧回路図である。
【図2】本発明実施例を示すコンバインの油圧回路の部分拡大図である。
【図3】チェック弁の拡大断面図である。
【図4】別実施例を示す走行変速油圧回路図である。
【図5】リリーバルブの組み付け工程を示す側断面図である。
【図6】シングルチェック弁の平断面図である。
【図7】ダブルチェック弁の平断面図である。
【図8】コンバインの部分側面図である。
【図9】コンバインのラジエータ外側を覆う外装カバーの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を示すコンバインの油圧回路について説明する。
コンバインの油圧制御同路は、図1に示す如く、油タンク10から走行無段変速回路1を介してメイン油圧ポンプ11で供給される圧油を第一減圧弁12で所定の圧にして、パイロット弁24から走行クラッチ操作油圧回路Tに向かう流れと、パイロット切換弁5からメイン油圧回路Wに向かう流れに分岐する。
【0012】
パイロット弁24を通って走行クラッチ操作油圧回路Tに向かう圧油は、左第一絞り8Lを介して左パイロット圧切換弁16Lへ向かう流れと右第一絞り8Rを介して右パイロット圧切換弁16Rへ向かう流れに分岐する。
【0013】
左パイロット圧切換弁16Lでは、左第二絞り7Lを通って左電磁比例弁17Lへ供給され、さらに左走行ブレーキシリンダ18Lへ向かう流れと、左電磁比例弁17Lの供給側の圧油を左クラッチ切換電磁弁14Lに向かう流れに切換える。左走行ブレーキシリンダ18Lの戻り油は、左電磁比例弁17Lから油タンク10へ戻される。
【0014】
左クラッチ切換電磁弁14Lには、前記左第一絞り8Lを通った二次圧力の圧油が左チェック弁9Lを通って供給される。左クラッチ切換電磁弁14Lでは、左操向クラッチシリンダ15Lの一方へ圧油が供給されたり、左パイロット圧切換弁16Lのパイロット圧として左パイロット圧切換弁16Lを切り換えて前記左第二絞り7Lを通った圧油が左操向クラッチシリンダ15Lの他方へ供給されたりする。
【0015】
以上の左パイロット圧切換弁16Lと左電磁比例弁17Lと左クラッチ切換電磁弁14Lと左チェック弁9Lが一体の左油圧制御ブロック35Lとして組み込まれている。
また、右パイロット圧切換弁16Rでは、右第二絞り7Rを通って右電磁比例弁17Rへ供給されさらに右走行ブレーキシリンダ18Rへ向かう流れと、右電磁比例弁17Rの供給側の圧油を右クラッチ切換電磁弁14Rに向かう流れに切換える。右走行ブレーキシリンダ18Rの戻り油は、右電磁比例弁17Rから油タンク10へ戻される。
【0016】
右クラッチ切換電磁弁14Rには、前記右第一絞り8Rを通った二次圧力の圧油が右チェック弁9Rを通って供給される。右クラッチ切換電磁弁14Rでは、右操向クラッチシリンダ15Rの一方へ圧油が供給されたり、右パイロット圧切換弁16Rのパイロット圧として右パイロット圧切換弁16Rを切り換えて前記右第二絞り7Rを通った圧油が右横向クラッチシリンダ15Rの他方へ供給されたりする。
【0017】
左クラッチ切換電磁弁14Lと右クラッチ切換電磁弁14Rは、同一構造であるが、図3で左クラッチ切換電磁弁14Lを説明すると、ソレノイド77を左油圧制御ブロック35L内に納め、スプール75が摺動するスリーブ74を設け、スリーブ74に流量決定用の絞り穴76を設けている。この構造で、加工性が良くなり加工穴を少なくして全体が小型化となった。
【0018】
以上の右パイロット圧切換弁15Rと右電磁比例弁17Rと右クラッチ切換電磁弁14Rと右チェック弁9Rが一体の右油圧制御ブロック35Rとして組み込まれている。
なお、第一減圧弁12の圧油供給側に電磁開閉バルブを介して油タンク10に通じるドレン油路を設け、走行系回路Tと作業系回路Wの油圧シリンダを使用しない場合にこの電磁開閉バルブを開いて圧油を直ちに油タンク10に戻すようにすれば、メイン油圧ポンプ11の駆動負荷を軽減する。なお、刈取昇降シリンダ28aとオーガ昇降シリンダ28bと左ローリングシリンダ28cと右ローリングシリンダ28dとピッチングシリンダ28eを使用する場合には、前記電磁開閉バルブを閉じて圧油を第一減圧弁12の圧力に保持する。
【0019】
メイン油圧ポンプ11から出た圧油がパイロット切換弁5と電磁切換弁6を介して比例流量制御弁26に送られ、オーガ昇降シリンダ28bと左ローリングシリンダ28cと右ローリングシリンダ28dとピッチングシリンダ28eを制御するメイン油圧回路Wに流れる。
【0020】
電磁切換弁6は、前記走行クラッチ操作油圧回路Tへの圧油供給と刈取・オーガ昇降制御と機体のローリング・ピッチング制御を切り換え、第一パイロット弁19と第二パイロット弁20に送られる。
【0021】
パイロット切換弁5から圧油は、手動切換弁21を介して比例流量制御弁26に送られる。
比例流量制御弁26に送られた圧油は、上昇用切換弁26a、下降用切換弁26b、リリーフ弁26eと、これら上昇用切換弁26aと下降用切換弁26bをパイロット圧によって可変調整する上昇用調整弁26cと下降用調整弁26dとにより制御された制御流の一方が第一パイロットチェック弁30aを介して刈取昇降シリンダ28aへ送油可能に接続すると共に、比例流量制御弁26の制細流の他方が第二パイロットチェック弁30bを介してオーガ昇降シリンダ28bへ送油可能に接続する。
【0022】
パイロット切換弁5から手動切換弁21を介して送られる圧油が、比例流量制御弁26を介して左ローリング切換電磁弁27cと右ローリング切換電磁弁27dとピッチング切換電磁弁27eへ送られる。この車体制御回路には車体制御用リリーフ弁54を設けて供給圧油の圧力安定を行っている。
【0023】
手動切換弁21は、油圧回路のトラブル時に手動で中立にすると車体のローリングやピッチングが人力で操作可能になるが、その構造は、図2に示す如く、中立時に圧力供給側のオイル供給を遮断するようにしている。
【0024】
左ローリング切換電磁弁27cへ送られた圧油は、第三パイロットチェック弁30cと第二チェック付き絞り弁29cを介して左ローリングシリンダ28cへ送油可能に接続し、右ローリング切換電磁弁27dへ送られた圧油は、第四パイロットチェック弁30dと第三チェック弁付き絞り弁29dを介して右ローリングシリンダ28dへ送油可能に接続し、ピッチング切換電磁弁27eへ送られた圧油は、第五パイロットチェック弁30eと第五チェック付き絞り弁29eを介してピッチングシリンダ28eへ送油可能に接続している。
【0025】
走行無段変速回路1内のサブ油圧ポンプ22から吐出する圧油が変速分流弁23で圧油の略7割が走行無段変速回路1に送られ、残り3割が刈取無段変速回路2に送られる。
また、前記の刈取昇降シリンダ28aとオーガ昇降シリンダ28bを制御する比例流量制御弁26のリリーフ弁26eの圧油リターン流路に第六調圧チェック弁34でクラッキング圧をかけて、第七チェック弁25を介して補給油路70から刈取無段変速回路2の供給路に合流している。この第六調圧チェック弁34のクラッキング圧は、刈取用油圧変速チャージ回路2のチャージ圧よりも低く設定する。(例えば、チャージ圧5kgf/cmに対してクラッキング圧を2kgf/cmとする。)
第六調圧チェック弁34と第七チェック弁25は、手動切換弁21を組み込む油圧ブロックに一体的に組みこんでも良い。
【0026】
図4は、走行無段変速回路1の別実施例で、可変油圧ポンプ71と油圧モータ72の閉回路に所定圧で閉作動するチェック弁73を設けているので、走行中にエンジントラブルで可変油圧ポンプ71の駆動が停止すると閉回路の圧が所定圧以上になって、チェック弁73を閉じて油圧モータ72の回転を止めて変速が中立となって走行を停止する。これによって、坂道走行中にエンジンが停止しても車体が自重で走行を続けることなく停止する。
【0027】
図5は、リリーバルブの組み付け工程を示し、バルブボデー78にシート79を組み付ける際に、バルブボデー78の嵌合穴80とシート79の差し込み部81の嵌合交差を緩くして、嵌合穴80に差し込み部81を差し込んだ後に、加圧台82をバルブボデー78の端面84に押し付けると加圧台82の突起刃83が嵌合穴80の入り口を塑性変形してシート79をバルブボデー78に固定する。バルブボデー78を差し込む受け台86は基台87に対してバネ85で弾発保持し、スチールボール88でシート79を受ける。
【0028】
この組付け工程で組み立てると従来嵌合穴80に差し込み部81を圧入することで発生する削り粉がバルブボデー78内に発生することが無い。
図6は、シングルパイロットチェック弁の油圧ブロック90への取り付け構造を示している。パイロットスプール91の摺動部を油圧ブロック90に直接設け、チェックボール収納部92と取り付けねじ部93を一体にしたプラグ94を油圧ブロック90に捻じ込み、管継手95をプラグ94に捻じ込んで取り付けている。
【0029】
図7は、ダブルパイロットチェック弁の油圧ブロック90への取り付け構造を示している。パイロットスプール91の摺動筒96を油圧ブロック90内に設け、パイロットスプール91の両端にプラグ94を取り付けている。
【0030】
図8は、コンバインの扱胴内部に設ける穀稈穂先検出センサ97で、レーザー光の透過率を検出して穀稈の穂先位置を検出している。刈り取り作業を終えるとその時点における透過率を旧透過率として記憶し、再度刈り取り作業を開始する際に検出する新透過率を旧透過率と比較し、その透過率の差が所定値よりも大きければ、センサ面が汚れていると判定し、清掃をするように報知するようにする。
【0031】
図9は、エンジンの側部に設けるラジエータの外側を覆う外装カバー40の断面図で、外装カバー40は間隔をおいた二枚の隔壁40a,40bから成り、この隔壁40a,40bを連通する連通管41と内側へ対向して短く突出する突起管42a,42bとが同数設けられている。この外装カバー40をエンジンの騒音が通過すると、内側の内音サイクルS1が連通管41を通過すると外第一音サイクルS2となり、突起管42a,42bを通過すると外第二音サイクルS3となって、外装カバー40の外側で外第一音サイクルS2と外第二音サイクルS3が合成されて外第四音サイクルS4となって、外部騒音が低下する。
【符号の説明】
【0032】
1 走行無段変速回路
2 刈取無段変速回路
11 メイン油圧ポンプ
22 サブ油圧ポンプ
70 補給油路
T 走行クラッチ操作油圧回路
W メイン油圧回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行なうメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設けたコンバインの油圧回路において、前記メイン油圧回路(W)からのリリーフ油に所定の圧力をかけて刈取無段変速回路(2)にチャージ油として送る補給油路(70)を設けたことを特徴とするコンバインの油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−109980(P2011−109980A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270246(P2009−270246)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】