説明

コンバイン

【課題】手扱ぎ作業時にもフィードチェン14の穀稈搬送速度を上げて脱穀作業を能率良く行うことができるコンバインを提供すること。
【解決手段】エンジン動力を変速する走行用HST28とエンジン動力を変速して刈取装置6とフィードチェン(FC)14を駆動するための刈取装置・FC駆動用HST31とを設け、脱穀装置15の側面にある手扱ぎ作業位置に前記HST31を操作してFC14の移動速度を任意に変更できるFC移動速度変更ダイヤル124を設け、手扱ぎ時には、FC移動速度変更ダイヤル124によりFC駆動用HST31をコントロールしてFC14の移動速度をオペレータの手扱ぎ作業に適した安全な速度に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機体を移動しながら、例えば、圃場の穀稈(稲、麦、大豆、そば等の作物)を刈り取って脱穀処理するコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインでは、エンジン回転をギア式の伝動機構と静油圧式無段変速装置(HST)により変速して得られた動力はクローラ走行装置を駆動させるだけでなく、刈取装置、脱穀装置及びオーガでの穀粒排出を排出するために利用される。
【0003】
特開2002−142526号公報記載のコンバインをはじめとする従来のコンバインは走行しながら刈取装置で刈り取った穀稈をフィードチェンで脱穀装置内に供給して脱穀を行い、フィードチェンなどはエンジンの比較的高い回転数による動力で駆動するため、能率良く脱穀を行うことができる。このとき、コンバインの走行を停止させた状態で、脱穀する手扱ぎ作業時には、車速がゼロであるため、フィードチェンは脱穀装置の揺動棚を低速で一定回転させる動力により駆動されていたので、低速で駆動され、手扱ぎ作業時間が長くかかっていた。
【特許文献1】特開2002−142526号公報
【特許文献2】特開2003−164214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のコンバインでは、手扱ぎ作業時には車速がゼロであるため、フィードチェンの穀稈搬送速度が遅く、手扱ぎ作業に多くの時間を要していた。
また、車速がゼロでない場合はフィードチェンは刈取装置の穀稈刈取スピードに関係なく、主に刈取スピードの最高速に合わせた一定速度で移動、回転する構成であったため、刈取スピードが遅い場合、刈取装置から脱穀装置への穀稈の引継ぎ時に株元が先行し、穂先が極端に遅れることによる乱れが生じるため、扱ぎ残しや枝梗などの選別が不良になる原因になり、さらに排藁を機体後方に搬送するための排藁チェーン(図示せず)への引継ぎ部で詰まりが発生する原因になっていた。
【0005】
上記不具合を避けるためにフィードチェンの移動スピードを変化させる専用の装置を設けると、それ自体のコストがかかるだけでなく、その装置と刈取装置の穀稈刈取りスピードとの関係を調整するための自動調整装置が必要となり、コストアップの原因となっていた。
【0006】
また、静油圧式無段変速装置(HST)だけでフィードチェンに動力伝動する構成では、HSTからの動力で刈取装置が駆動されるため、穀稈の刈取りスピードが極端に遅い時にフィードチェンも遅くなりすぎ、藁を束ねるノッタ作業のタイミングをとるのが難しくなり、藁を傷ける不具合があった。さらに高能率コンバインにおいては、手扱ぎ作業時のフィードチェンの移動速度が速く、手扱ぎ作業を行うには熟練を要していた。
【0007】
上記特許文献2のコンバインでは、コンバインの走行停止時においてのみ刈取装置等の前処理部の駆動を停止させる構成であり、枕地等でのコンバインの走行停止時にも、刈取った穀稈を確実に搬送することができるが、手扱ぎ作業に付いては何ら対策がとられていない。
本発明の課題は、手扱ぎ作業時にもフィードチェンの穀稈搬送速度を上げて脱穀作業を能率良く行うことができるコンバインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、エンジン(21)を動力源とする走行装置(3)と該走行装置(3)に搭載される圃場の植立穀稈を刈り取る刈取装置(6)と該刈取装置(6)で刈取った穀稈を搬送するフィードチェン(14)を有し、かつ穀稈を脱穀する脱穀装置(15)とを備えたコンバインにおいて、エンジン(21)の動力を変速する走行用静油圧式無段変速装置(28)と、該走行用静油圧式無段変速装置(28)からの動力を変速して走行装置(3)を駆動するための走行用ギア機構からなる変速装置(24)と、エンジン(21)の動力を変速して刈取装置(6)とフィードチェン(14)を駆動するための刈取装置・フィードチェン駆動用静油圧式無段変速装置(31)と、脱穀装置(15)の側面にある手扱ぎ作業位置に設けた前記刈取装置・フィードチェン駆動用静油圧式無段変速装置(31)を操作してフィードチェン(14)の移動速度を任意に変更できる速度変更手段(124)とを備えたコンバインである。
請求項2記載の発明は、前記フィードチェン移動速度変速手段(124)を、脱穀装置(15)に設けられる扱胴(69)の側面を覆うカバー(126)の表面に設けた請求項1記載のコンバインである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、手扱ぎ時には、フィードチェン移動速度変更手段(124)により、刈取装置・フィードチェン駆動用HST(31)をコントロールしてフィードチェン(14)の移動速度を任意に変更できるので、オペレータの熟練度に適した安全な速度に調整した上で手扱ぎ作業ができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、フィードチェン移動速度変更手段(124)を脱穀装置(15)の扱胴カバー(126)の左側面に設けてるので、右手でフィードチェン(14)の移動速度を任意に変更できる。また、扱胴カバー(126)は剛性が強く強度があり、前記変更手段(124)の取り付けベースとして適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本発明の実施の形態の穀類の収穫作業を行うコンバインの左側面図を示し、図2は図1のコンバインの脱穀装置の側面断面概略図を示し、図3はコンバインのエンジンを駆動源とする駆動経路展開図である。
なお、本明細書では左側及び右側とはコンバインが前進する方向に向かっての方向を言い、前側と後側はそれぞれコンバインの前進側と後進側を言うものとする。
【0012】
図1などに示すコンバイン1の走行フレーム2の下部には、ゴムなどの可撓性材料を素材として無端帯状に成型した左右一対のクローラ4を持ち、乾田はもちろんのこと、湿田においてもクローラ4が若干沈下するだけで自由に走行できる構成の走行装置3を備え、走行フレーム2の前部には刈取装置6を搭載し、走行フレーム2の上部にはエンジン21(図3)ならびに脱穀装置15、操縦席20およびグレンタンク30を搭載する。
【0013】
刈取装置6は、図示しない刈取昇降シリンダの伸縮作用により刈取装置6全体を昇降して、圃場に植生する穀稈を所定の高さで刈取りができる構成としている。刈取装置6の前端下部に分草具7を、その背後に傾斜状にした図示しない穀稈引起し装置を、その後方底部には刈刃5を配置している。刈刃5と脱穀装置15のフィードチェン14の始端部との間に、図3に示すように前部搬送装置8、供給搬送装置9などを、順次穀稈の受継搬送と扱深さ調節とができるように配置している。
【0014】
コンバイン1の刈取装置6の作動は次のように行われる。まず、エンジン21を始動して主変速レバー10をコンバイン1が前進するように操作し、図3に示す刈取レバー47で刈取クラッチC1を入り操作し、また脱穀レバー48で脱穀クラッチC2を入り操作して機体の回転各部を伝動しながら、走行フレーム2を前進走行させると、刈取作業や脱穀作業が開始される。圃場に植立する穀稈は刈取装置6の前端下部にある分草具7によって分草作用を受け、次いで穀稈引起し装置の引起し作用によって倒伏状態にあれば直立状態に引起こされ、穀稈の株元が刈刃5に達して刈取られ、前部搬送装置8に掻込まれて後方に搬送され、供給搬送装置9に受け継がれて順次連続状態で後部上方に搬送される。
【0015】
穀稈は供給搬送装置9からフィードチェン14の始端部に受け継がれ、脱穀装置15に供給される。脱穀装置15には、上側に扱胴69を軸架した扱室66を配置し、扱室66の下側に選別室50を一体的に設け、供給された刈取穀稈を脱穀、選別する。
脱穀装置15に供給された穀稈は、図2に示す主脱穀部である扱室66に送られて脱穀され、比重の重い穀粒は一番揚穀筒16(図1)を経てグレンタンク30へ搬送され、グレンタンク30に一時貯留される。
【0016】
脱穀装置15の扱室66の終端に到達した脱穀された残りの穀稈で長尺のままのものは図示しない排藁チェーンと排藁穂先チェーンに挟持されて搬送され、脱穀装置15の後部の藁用カッター(図示せず)に投入された後、切断され、圃場に放出される。
【0017】
グレンタンク30内の底部に穀粒移送用のグレンタンク螺旋83(図3)を設け、グレンタンク螺旋83を駆動する螺旋駆動軸84に縦オーガ18および横オーガ19からなる排出オーガの駆動系を連接し、グレンタンク30内に貯留した穀粒を排出オーガ排出口からコンバイン1の外部に排出する。グレンタンク螺旋83、縦オーガ螺旋89および横オーガ螺旋90はエンジン21の動力の伝動を受けて回転駆動され、それぞれのラセン羽根のスクリュウコンベヤ作用により貯留穀粒を搬送する。
【0018】
刈取装置6で刈り取った穀稈は刈取装置6に装着された前部搬送装置8と供給搬送装置9で扱深さが調節され、脱穀装置15の主脱穀部である扱室66に挿入される。扱室66に軸架された扱胴69は、その表面に多数の扱歯69aが設けられており、図3に示す駆動機構によりエンジン21からの動力で回転する。扱室66に挿入された穀粒の付いた穀稈はフィードチェン14とスプリング付勢されたフィードチェン挟扼杆13との間に挟扼され、図1の矢印A方向に移送されながら、回転する扱胴69の扱歯69aにより脱穀される。穀稈から分離された被処理物(穀粒や藁くず)は扱網74を矢印C1方向(図2)に通過して、揺動棚51で受け止められる。
【0019】
揺動棚51は図示しない揺動棚駆動機構の作動により上下前後方向に揺動するので、被処理物は矢印D方向(図2)に移動しながら、唐箕79からの送風を受けて風力選別され、比重の重い穀粒はシーブ53および選別網63を矢印E方向に通過し、一番棚板64で集積され、一番螺旋65から一番揚穀筒16を経てグレンタンク30へ搬送される。グレンタンク30に貯留された穀粒は、オーガ18、19を経由してコンバイン1の外部へ搬送される。
【0020】
揺動棚51の上の被処理物のうち軽量のものは、揺動棚51の揺動作用と唐箕79のファン79aによる送風に吹き飛ばされて、シーブ53の上を矢印D方向に移動し、ストローラック62の上で大きさの小さい二番物は矢印G方向等に落下して二番棚板85に集められ、二番螺旋86で二番揚穀筒87へ搬送される。また一番螺旋65と二番螺旋86は駆動用ベルト91(図3)により同時に同一速度で駆動される。
【0021】
正常な穀粒、枝梗粒、藁くずおよび藁くずの中に正常な穀粒が刺さっているササリ粒などの混合物である二番物は、二番揚穀筒87の中を二番揚穀筒螺旋88(図3)により矢印H方向(図2)に揚送されて、二番処理室入口から二番処理室67の上方へ放出される。二番処理室67に軸架された二番処理胴70の多数の処理歯70aに衝突しながら二番物の分離と枝梗粒の枝梗の除去が行われて、被処理物の一部(三番物)は図2に示すように二番処理胴70の下方に設けられた受け網74を矢印C1方向に通り抜けて揺動棚51に落下し、被処理物の大部分は二番処理胴70の端部から受け網74を矢印C2方向に通り抜けて揺動棚51に落下し、扱室66からの被処理物と合流する。
【0022】
また、扱室66の被処理物搬送方向終端部に到達した被処理物の中で、藁くずなど短尺のものは、排塵処理室入口から排塵処理室68に入り、排塵処理室68では二番処理胴70と一体に回転する排塵処理胴71の螺旋71aにより矢印K方向に搬送されながら処理され、藁くずは解砕されて、藁くず中に残っていた穀粒と共に矢印C4方向に網体76を通り抜けて選別室50に落下する。
【0023】
図3に示すように変速装置24のギア式伝動機構は走行伝動ケ−ス25における伝動経路下手側から操向伝動部24aと中間伝動部24bと副変速部24cとカウンタ−部24d(入出力部26内にある)と入出力部26とを設け、回転動力を入出力部26からカウンタ−部24d、副変速部24c及び中間伝動部24bを経由して操向伝動部24aに伝動する構成しており、該操向伝動部24aを切り替え操作することにより機体の進行方向を右側又は左側に旋回させることができる構成である。
【0024】
走行用のHST28はケース29の側方に突出している油圧入力軸33の軸端部にエンジン21からの駆動力を受ける入力プーリ35を着脱自在に取り付け、さらにケース29の中に油圧ポンプ28aおよび回転可能に設けている出力軸26aを有する油圧モータ28b等を設けている。
【0025】
油圧ポンプ28aの斜板28cは主変速レバー10によってその傾斜角度が変更可能になっており、斜板28cの傾斜角度により油圧ポンプ28aの吐出油量と油の吐出方向を変え、それらに応じて油圧モータ28bに接続する入出力部26内の出力軸26aの回転速度と回転方向を調整する。
【0026】
また、走行用のHST28とは別に刈取装置6とフィードチェン14の駆動用のHST31がケース32に設けられている。HST31にも油圧ポンプ31aと油圧モータ31bが設けられ、油圧ポンプ31aの斜板31cは後述する手扱ぎ時に操作する速度変更ダイヤル124又はスイッチ124’とHSTモータ125(図4参照)とトラニオンアーム(図示せず)によってその傾斜角度が変更可能になっており、この斜板31cの傾斜角度により油圧モータ31bからの出力が調整されて刈取装置6とフィードチェン14の駆動速度が変更調整される。
【0027】
また、HST28とHST31は同軸である油圧入力軸33を備え、該油圧入力軸33に設けた入力プーリ35には、エンジン21の出力軸37に設けたプーリ38からベルト40を介してエンジン21からの動力が伝達されてHST28,31が駆動する構成である。入力プーリ35は操縦席20の下方の走行フレーム2に着脱自在に設けられ、且つ負荷が変動しても燃料供給量を自動制御してあらかじめ設定した回転数を出力する構成であり、入力プーリ35にはエンジン21の出力軸37に設けたプーリ38との間にベルト40が巻きかけられている。なお、HST28から出力される回転動力は伝動機構を介して変速装置24の入出力部26に伝動される。
【0028】
刈取装置6とフィードチェン14には、入出力部26から突出した出力軸44の軸端部に着脱自在に取り付けた刈取部伝動プ−リ45とフィードチェン駆動プーリ39a,39bを介してHST31からの動力がそれぞれ伝達される。
【0029】
フィードチェンクラッチC3は、図示していないが手動レバーでフィードチェン14を「高速」と「低速」とに切り換えるクラッチであり、フィードチェン14の刈取搬送に対する速度を変更し、条件適応性を向上させる。すなわち、前記手動レバーにより、条件に応じて高速側のフィードチェン駆動プーリ39a,ベルト43a,プーリ42aが選択される場合と、低速側のフィードチェン駆動プーリ39b,ベルト43b,プーリ42bが選択される場合がある。
【0030】
刈取装置6を駆動する伝動機構部12に動力伝達するため刈取入力プ−リ92と刈取部伝動プ−リ45との間にはベルト46を巻きかけ、刈取レバ−47の操作によってテンションプーリ93を作動し、このベルト46を張圧又は解除し、回転動力の伝動を入り切りするテンションクラッチC1を構成している。
【0031】
脱穀装置15は機体の進行方向に回転するフィードチェン14を一側部に有し、前記刈取装置6の供給搬送装置9などを搬送されてきた穀稈の株元部を挟持搬送して穂先部を扱室66内に送り込んで脱穀する自脱型の構成であって、前記走行フレーム2に搭載してボルトやナット等の取付具で着脱自在に取り付けている。
【0032】
なお、エンジン出力軸37に設けられた出力プーリ95は脱穀装置15の入力部にある脱穀入力プーリ96との間にベルト98を巻きかけ、脱穀レバ−48の操作によってテンションプーリ99を作動させ、このベルト98を張圧又は解除することによって回転動力の伝動を入り切りする脱穀クラッチC2を構成している。さらに、該エンジン出力軸37には出力プーリ101から穀粒排出オーガの入力部102の穀粒排出入力プーリ103との間にベルト105を巻きかけグレンタンク30内の螺旋駆動軸84などを駆動している。
【0033】
コンバインの前後進の速度の切換を行う主変速レバー10はHSTケース29のトラニオン軸(図示せず)の軸端部に連動連結し、斜板28cを回動する構成としている。したがって、主変速レバー10を前側に向けて回動すると、連繋機構を介して斜板28cの角度を回動し、操向装置3の出力軸3aの回転数を変速し得るとともに回転方向を正転(機体を前進)させ、反対に、主変速レバー10を後側に向けて回動すると、出力軸3aの回転数を変速し得るとともに回転方向を逆転して機体を後進することができる。また、ポテンショメータ36で主変速レバー10の操作角度を検出する。
【0034】
さらに、刈取レバー47を入り側に操作すると、テンションプーリ93は刈取部伝動プ−リ45と刈取入力プーリ92との間に巻き掛けたベルト46を張圧してテンションクラッチC1を入りにし、回転動力を刈取部伝動プ−リ45から刈取入力プーリ92に伝動し刈取装置6の回転各部を駆動する。
【0035】
また脱穀レバー48が入り側に操作されると、テンションプーリ99はエンジン出力プーリ95と脱穀入力プーリ96との間に巻き掛けたベルト98を張圧して脱穀クラッチC2が入りになり、回転動力をエンジン出力プーリ95から脱穀入力プーリ96に伝動し、脱穀装置15の回転各部を駆動する。
【0036】
このように、機体を穀稈の前方あるいは近くに移動したとき、運転者はスロットルレバー(図示せず)を操作することによる機体の作業部分の回転数の調節、穀稈列に対する機体位置、穀稈に対する刈取装置6の高さ位置等を適正に選択していることを再確認してから、主変速レバー10を前側に倒して所望する作業速度を選択し、作業を開始する。
刈取り後の穀稈の処理は先に概略を説明したとおりである。
【0037】
脱穀装置15の後部に吸引ファン110(図3)を設け、排塵処理室68(図2)を含む脱穀装置15内で発生する排塵のうち、比重の軽い藁くず、枝梗および塵埃を含む空気をカウンタ軸111を介して回転する吸引ファン110による送風で吸引し、吸引ファン110の出口から吹き出して、コンバイン1の外部へ放出する。
【0038】
扱室66の終端に到達した被処理物の中の脱穀された穀稈で長尺のままのものは、排藁処理室(図示せず)に投入される。排藁処理室の入口部の図示しないダンパーが開放した場合には、排藁は排藁処理室の入口部から落下して、カウンタ軸111に設けられた図示しない藁用カッター駆動用のプーリにより伝達され、藁用カッターにより切断される。
【0039】
脱穀装置15の扱胴69はプーリ112の扱胴回転軸113から動力が伝達される。また唐箕79は脱穀入力プーリ96の回転軸114に設けられたプーリ115からベルト117、プーリ118を介して唐箕回転軸119が回転されて唐箕ファン79aが回転する。また唐箕回転軸119の別のプーリ116を介して一番螺旋軸122、二番螺旋軸123が駆動され、またプーリ116からカウンタ軸111に動力が伝達され吸引ファン110と藁用カッターが駆動される。
【0040】
上記構成からなる走行ギア式伝動機構からなる変速装置24に走行用HST28と刈取装置・フィードチェン駆動用(以下、単にフィードチェン駆動用HSTということがある)31を装着したコンバイン1において、走行停止時に行う手扱ぎ作業時には機体左側の手扱ぎ作業位置にフィードチェン14の移動速度(穀稈搬送速度)を任意に変更可能な手段であるフィードチェン速度設定ダイヤル124(図1)を設けている。
【0041】
図4にフィードチェン移動速度制御用の制御ブロックとHST28,31及び刈取装置6の油圧制御回路の一部を示すが、フィードチェン速度設定ダイヤル124により刈取装置・フィードチェン駆動用HST制御モータ125の作動量を調整してトラニオンアーム31cの回動量を変えて、フィードチェン駆動用HST31の油圧ポンプ31aの斜板31cの傾斜角度を目標値に設定する。なお、トラニオン回動角度はポテンショメータ34で検出する。
そのため、フィードチェン14の移動速度が速い構成の高能率コンバインであっても、手扱ぎ時に単独でフィードチェン駆動用HST31をコントロールしてオペレータに適した安全な速度で手扱ぎ作業ができる。
【0042】
図1のコンバイン側面図と図5の脱穀装置15の内部正面図に示すように前記フィードチェン移動速度設定ダイヤル124を扱胴カバー126の左側面に設け、手扱ぎ時に左手に穀稈を持ちフィードチェン14に穀稈を供給するが、右手は自由であり、右手でフィードチェン14の移動速度を任意に変更できる。また、扱胴カバー126は剛性が強く強度があり、前記ダイヤル124の取り付けベースとして適している。
【0043】
また、前記扱胴カバー126のフィードチェン移動速度設定ダイヤル124の近傍にはエンジン緊急停止スイッチ129を設けている。エンジン緊急停止スイッチ129は手扱ぎ時にオペレータの服がフィードチェン14に巻き込まれるなど、緊急時にエンジン21を停止させるスイッチであり、前記ダイヤル124の近傍にエンジン緊急停止スイッチ129を設けると、それぞれを操作し易くなり、また電装部品の構成をコンパクトに配置できる。
【0044】
また前記ダイヤル124の近傍にフィードチェン14の作動を入り、切りするオン・オフする操作スイッチ130,131を設けている。そのため手扱ぎ時にフィードチェン14に手扱ぎ穀稈を載せた後でフィードチェン14を操作スイッチ130,131より入り、切りでき、安全に手扱ぎ作業を行うことができる。
【0045】
なお、図4に示す油圧回路には分草具7に設けられた左右一対のセンサ7a,7aが圃場の植立穀稈にタッチすると走行ギア式伝動機構からなる変速装置24の左右の走行軸3a,3aの回転数を変更して自動的にコンバイン1の進行方向を調整する構成が備え付けられている。
【0046】
また、図6(a)のダイヤル平面図と図6(b)のダイヤル側面図に示すように前記フィードチェン速度変更ダイヤル124と前記エンジン緊急停止スイッチ129を一体化した単一の操作手段132で構成すると、この操作手段132を押すとエンジン21が停止し、該操作手段132を回転させることにより、フィードチェン速度の変更を行うことができ、電装品の構成が簡略化でき、その構成がコンパクトとなる。
【0047】
さらに、扱胴カバー126のダイヤル124の設置部分の他の実施例の平面図を図7(a)に、側面図を図7(b)に示す。図7に示すようにフィードチェン速度変更スイッチ124’(早くするスイッチ124’aと遅くするスイッチ124’bからなる)とエンジン緊急停止スイッチ129とをタッチスイッチとし、扱胴カバー126の側面から突出させない構成としても良い。
【0048】
フィードチェン速度変更手段をダイヤル124でなく、図7に示すタッチスイッチ124’にすると扱胴カバー126からスイッチ類が突出しないので、機体シートを掛けた場合にシートがスイッチ124’を押さえ付けてスイッチ124’が損傷するような不具合を防ぐことができる。
【0049】
さらに、図8に示すように、扱胴カバー126のダイヤル設置部分にフィードチェン14の作動のオン・オフ操作スイッチ140a,140bとフィードチェン速度変更スイッチ(フィードチェン速度を早くするスイッチ124’aと遅くするスイッチ124’b)とエンジン緊急停止スイッチ129とをタッチスイッチで構成して、扱胴カバー126の側面から突出させない構成としても良い。
【0050】
これらのタッチスイッチ群は、扱胴カバー126の側面から突出していないため、機体シートを掛けた場合シートがスイッチを押さえつけ損傷することがない。
【0051】
また、図9のコンバイン側面図と図10の脱穀装置15の正面図に示すようにフィードチェン移動速度設定ダイヤル124とエンジン緊急停止スイッチ129とフィードチェン入、切用の操作スイッチ130,131をフィードチェンカバー134の左側面に設けても良い。
【0052】
図9,図10に示す構成では、フィードチェン14及びフィードチェンカバー134が図11の脱穀装置15の概略平面図に示すようにフィードチェンオープンフレーム143を回動支点として一体的にオープン可能な構成である。このときフィードチェン速度変更ダイヤル124とフィードチェンの作動オン・オフ操作スイッチ130,131などはフィードチェン14のオープン時にも動かないフィードチェンカバー部分134’の左側面に設けている。
このため、フィードチェン14のオープン時に、スイッチ群がコンバイン本体側に残るので、スイッチハーネスの伸縮が無く、構成が確実なものとなり、スイッチハーネス伸縮に伴うトラブルの発生が無い。
【0053】
また図12のグラフに示すように、手扱ぎスイッチ群をオンにした場合に、一定回転で起動し、設定時間速度勾配を持ってフィードチェン14が増速し、その後一定速となるように、手扱ぎ時のフィードチェン14の移動速度をコントロールしておくと、手扱ぎ作業時にオペレータの安全が確保できる。
上記本実施例の構成によると、手扱ぎ時にエンジン緊急停止スイッチ129の作動で、エンジン21が停止し、フィードチェン14も同時に駆動停止させることができる。
【0054】
従来はエンジン21を停止させても、扱胴69、揺動棚51等は慣性力で直ちに停止できず、フィードチェン14もしばらくの間は止まらないが、本実施例の構成ではエンジン緊急停止スイッチ129の作動で、扱胴69、揺動棚51等の作動停止とは関係なく、HST31が中立位置に戻るため、直ちにフィードチェン14が停止するので被害を少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の作業車両は農業用車両として利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例のコンバインの左側面図である。
【図2】図1のコンバインの脱穀装置の側面断面概略図である。
【図3】図1のコンバインの主要部分の伝動機構図である。
【図4】図3の伝動機構図中のフィードチェン移動速度制御用の制御ブロックとHST及び刈取装置の油圧制御回路の一部を示す図である。
【図5】図1のコンバインの脱穀装置の正面概略図である。
【図6】図1のコンバインの脱穀装置の扱胴カバーに配置されるフィードチェン移動速度変更ダイヤルの配置図である。
【図7】図1のコンバインの脱穀装置の扱胴カバーに配置されるフィードチェン移動速度変更タッチスイッチの配置図(図7(a))と脱穀装置の正面概略図(図7(b))である。
【図8】図1のコンバインの他の実施例の脱穀装置の扱胴カバーに配置されるフィードチェン移動速度変更タッチスイッチの配置図である。
【図9】図1のコンバインの他の実施例の脱穀装置のフィードチェンカバーに配置されるフィードチェン移動速度変更ダイヤルの配置図である。
【図10】図9の実施例の脱穀装置の正面概略図である。
【図11】図9の実施例の脱穀装置のフィートチェーンオープン時の平面概略図である。
【図12】図1のコンバインのフィードチェン移動速度と経過時間との関係図である。
【符号の説明】
【0057】
1 コンバイン 2 走行フレーム
3 走行装置 3a 出力軸
4 クローラ 5 刈刃
6 刈取装置 7 分草具
7a 穀稈センサ 8 前部搬送装置
9 供給搬送装置 10 主変速レバー
12 刈取装置駆動伝動機構部 13 フィードチェン挟扼杆
14 フィードチェン 15 脱穀装置
16 一番揚穀筒 18 縦オーガ
19 横オーガ 20 操縦席
21 エンジン 24 変速装置
24a 操向伝動部 24b 中間伝動部
24c 副変速部 24d カウンター部
25 走行伝動ケース 26 入出力部
26a 出力軸 28 走行用HST
28a 油圧ポンプ 28b 油圧モータ
28c 斜板 29 HSTケース
30 グレンタンク 31 刈取装置・フィードチェン駆動用HST
31a 油圧ポンプ 31b 油圧モータ
31c 斜板 32 HSTケース
33 油圧入力軸 34 ポテンショメータ
35 入力プーリ 36 ポテンショメータ
37 エンジン出力軸 38 プーリ
39a,39b フィードチェン駆動プーリ
40 ベルト 41 フィードチェン駆動軸
42,42a,42b フィードチェン入力プーリ
43,43a,43b ベルト 44 出力軸
45 刈取部伝動プ−リ 46 ベルト
47 刈取レバー 48 脱穀レバー
50 選別室 51 揺動棚
53 シーブ 62 ストローラック
63 選別網 64 一番棚板
65 一番螺旋 66 扱室
67 二番処理室 68 排塵処理室
69 扱胴 69a 扱歯
70 二番処理胴 70a 処理歯
71 排塵処理胴 71a 螺旋
74 扱網(受け網) 76 網体
79 唐箕 79a ファン
83 グレンタンク螺旋 84 螺旋駆動軸
85 二番棚板 86 二番螺旋
87 二番揚穀筒 88 二番揚穀筒螺旋
89 縦オーガ螺旋 90 横オーガ螺旋
91 駆動用ベルト 92 刈取入力プ−リ
93 テンションプーリ 95 エンジン出力プーリ
96 脱穀入力プーリ 98 ベルト
99 テンションプーリ 101 出力プーリ
102 穀粒排出オーガ入力部 103 穀粒排出入力プーリ
105 ベルト 110 吸引ファン
111 カウンタ軸 112 プーリ
113 扱胴回転軸 114 回転軸
115 プーリ 116 プーリ
117 ベルト 118 プーリ
119 唐箕回転軸 120 刈取昇降バルブ
121 刈取昇降用油圧シリンダ 122 一番螺旋軸
123 二番螺旋軸
124 フィードチェン速度設定ダイヤル
124’ フィードチェン速度変更タッチスイッチ
124’a 早くするスイッチ 124’b 遅くするスイッチ
125 刈取装置・フィードチェン駆動用HST制御モータ
126 扱胴カバー 129 エンジン緊急停止スイッチ
130,131 フィードチェンオン・オフ操作スイッチ
132 エンジン停止とフィードチェン速度変更用操作手段
134 フィードチェンカバー
134’ フィードチェンカバー部分
140a,140b オン・オフ操作スイッチ
143 フィードチェンオープンフレーム
C1 テンションクラッチ C2 脱穀クラッチ
C3 フィードチェンクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(21)を動力源とする走行装置(3)と該走行装置(3)に搭載される圃場の植立穀稈を刈り取る刈取装置(6)と該刈取装置(6)で刈取った穀稈を搬送するフィードチェン(14)を有し、かつ穀稈を脱穀する脱穀装置(15)とを備えたコンバインにおいて、
エンジン(21)の動力を変速する走行用静油圧式無段変速装置(28)と、
該走行用静油圧式無段変速装置(28)からの動力を変速して走行装置(3)を駆動するための走行用ギア機構からなる変速装置(24)と、
エンジン(21)の動力を変速して刈取装置(6)とフィードチェン(14)を駆動するための刈取装置・フィードチェン駆動用静油圧式無段変速装置(31)と、
脱穀装置(15)の側面にある手扱ぎ作業位置に設けた前記刈取装置・フィードチェン駆動用静油圧式無段変速装置(31)を操作してフィードチェン(14)の移動速度を任意に変更できる速度変更手段(124)と
を備えたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記フィードチェン移動速度変速手段(124)を、脱穀装置(15)に設けられる扱胴(69)の側面を覆うカバー(126)の表面に設けたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−110909(P2007−110909A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302556(P2005−302556)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】