説明

コンバイン

【課題】本発明の課題は、刈取装置の前部に設けた左右分草具の左右方向の位置を変更し、通常の刈取条数よりも2条多く刈取ることができるコンバインを提供することである。
【解決手段】左右の分草具(14L,14R)の先端を、機体内側に位置する閉状態と、該閉状態よりも機体外側に位置する開位置とに位置変更可能に構成し、前記閉状態における左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔を、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ1条の穀稈が導入可能な幅に設定し、前記開状態では、左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔が、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ2条の穀稈が導入可能な幅となるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刈取装置の前部に設けた左右及び中央分草具の先端分草作用位置を左右位置調節可能に構成し、分草幅の広狭調節によって、条間隔が通常条間でない不規則な圃場での条刈作業が行えるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−201428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、特許文献1に記載された技術は、不規則な植立条間の圃場での刈取収穫作業の能率を向上させるためのものであるが、通常条間の圃場において分草幅を広げて刈取収穫作業を行なう場合、分草間隔が適当でなく、株割りや穀稈の取りこぼしが発生する場合がある。
【0005】
また、通常の刈取条数より多くの穀稈条列を刈取装置に導入した場合、左右の分草具と各引起装置の間に形成される引起し経路との左右方向の間隔が大きくなり、穀稈を適切に引起すことができずに、引起装置より後方に設けた搬送装置において搬送姿勢の乱れを生じる虞がある。
【0006】
本願発明の課題は、上記問題を解消し、設定された刈取条数以上の穀稈を刈取収穫することができるコンバインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
即ち、請求項1記載の発明は、走行車体(1)の前側に刈取装置(4)を設け、該刈取装置(4)には、穀稈を分草して後方の引起装置(15)へ案内する左右の分草具(14L,14R)と、該左右の分草具(14L,14R)の間に配置される中分草具(14C)と、前記引起装置(15)によって引起された穀稈の株元を切断する刈刃装置(16)を備えたコンバインにおいて、前記左右の分草具(14L,14R)の先端を、機体内側に位置する閉状態と、該閉状態よりも機体外側に位置する開位置とに位置変更可能に構成し、前記閉状態における左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔を、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ1条の穀稈が導入可能な幅に設定し、前記開状態では、左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔が、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ2条の穀稈が導入可能な幅となるように設定したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記刈刃装置(16)の左右幅を、前記開状態における左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも狭く、且つ、前記閉状態における左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも広く設定したことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記刈取装置(4)の左右両側端に配置した左右の引起装置(15L,15R)の引起作用側に、前記左右の分草具(14L,14R)によって分草された穀稈を下方から上方へ移動する横向き突出姿勢の引起しラグ(29)で引起す引起し経路(Y2)を形成し、該引起装置(15L,15R)の下部には、下向き突出姿勢の引起しラグ(29)が前記引起し経路(Y2)の下端側に向けて左右方向に移動して穀稈の株元を掻き寄せる横方向所定幅の掻寄せ経路(Y1)を形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記掻寄せ経路(Y1)は、所定間隔をおいて配置した左右のガイドローラ(28a,28b)に複数の引起しラグ(29)を取付けた無端チェン(30)を巻回して形成し、前記左右のガイドローラ(28a,28b)の軸間距離であるローラピッチ(P1)に対して、無端チェン(30)に対する引起しラグ(29)の取付間隔であるラグピッチ(P2)を略同間隔に設定するか、又は狭く設定して、前記掻寄せ経路(Y1)に常時少なくとも2つの引起しラグ(29)が下向き突出姿勢で左右方向に移動する構成としたことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記走行車体(1)の下側に左右の走行クローラ(2L,2R)を設け、前記左右の分草具(14L,14R)のうち、前記開状態における左側の分草具(14L)の先端位置が、左側のクローラ(2L)の外側端部よりも外側の位置に偏倚する構成としたことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記左右の分草具(14L,14R)を開状態と閉状態とに各々独立して切換える2つの操作レバー(13L,13R)を運転操作部(33)に配置し、該2つの操作レバー(13L,13R)を機体後方に引き操作すると、左右の分草具(14L,14R)が開状態となり、操作レバー(13L,13R)を機体前方に押し操作すると、左右の分草具(14L,14R)が閉状態となるように連繋させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、通常の刈取条数の穀稈を刈取る状態から、この通常の刈取条数に加えて2条分の穀稈を刈取る状態までに亘り、刈取装置(4)に導入する穀稈の条数を変更することができる。
【0014】
例えば2条刈りのコンバインの場合は、引起装置(15)を左右に2基設け、2条から最大4条の穀稈を刈取装置(4)に導入することができる。
通常の2条刈作業を行う場合は、左右の分草具(14L),(14R)は閉状態にあって、左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との間に1条ずつの穀稈が導入され、左右合わせて2条分の穀稈が刈刃装置(16)側に分草案内されて刈り取られる。
【0015】
そして、左右の分草具(14L,14R)を上記の2条刈作業状態位置から外側方に大きく張り出した開状態とした場合には、左分草具(14L)と中分草具(14C)及び右分草具(14R)と中分草具(14C)との間にはそれぞれ2条ずつの穀稈が導入され、左右合わせて4条分の穀稈が刈り取られる。
【0016】
左右の分草具(14L,14R)を左右内外に位置変更するだけで、2条刈から3条刈または4条刈での刈取収穫作業が可能となり、通常の刈取条数が2条刈に設定された刈取搬送部の構造を大幅に変更することなく、安価で作業能率の高いコンバインを提供することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明による効果に加えて、刈刃装置(16)の左右幅を、各々前記開状態とした前記左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも狭く設定したので、刈取装置(4)に導入する穀稈を、通常の刈取条数から、この条数に加えて2条分の穀稈を刈取りできるものでありながら、刈刃装置(16)の左右幅を穀稈の切断性能に支障がない範囲で狭くすることで、刈刃装置(16)が発生させる振動や騒音を低減することができる。加えて、刈取装置(4)をコンパクトに構成でき、旋回時に刈取装置(4)が周囲の畦畔等に接触し難く、操作性の優れたコンバインを提供することができる。
【0018】
また、刈刃装置(16)の左右幅を、各々前記閉状態とした左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも広く設定したことにより、刈取装置(4)に導入される刈取対象の穀稈量に対して刈刃装置(16)の切断能力に余裕が生まれ、確実に穀稈を刈取ることができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明による効果に加えて、左右の分草具(14L,14R)と、これに隣接する中分草具(14C)との間に夫々2条分の穀稈が導入されても、引起装置(15)の下部に形成した掻寄せ経路(Y1)に沿って横移動する引起ラグ(29)によって、確実に引起し経路(Y2)側へ掻き寄せることができ、穀稈の取りこぼしを防止することができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明による効果に加えて、ローラピッチ(P1)に対して、ラグピッチ(P2)を略同間隔に、又は、狭く設定したことで、掻寄せ経路(Y1)において、複数の引起ラグ(29)が存在しうる構成としている。
【0021】
従って、左右の分草具(14L,14R)と、これに隣接する中分草具(14C)との間に夫々2条分の穀稈が導入されて掻寄せ経路(Y1)を移動中の引起ラグ(29)で掻寄せている穀稈が引起ラグ(29)から離脱することがあっても、この引起ラグ(29)に後続して移動している他の引起ラグ(29)によって穀稈を受け止めることができるので、整然と穀稈を掻寄せ、引起すことができる。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明による効果に加えて、左側の分草具(14L)を前記開状態とした場合の分草具(14L)の先端位置を、左側の走行クローラ(2L)の外側端部より外側に設定したので、機体直進時や、旋回時に未刈地側の穀稈が左側のクローラ(2L)によって踏み込まれることがなくなり、次行程での刈取作業が良好に行える。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明による効果に加えて、左右の分草具(14L,14R)は、外側に開くと穀稈導入条数が増加し、内側に閉じると導入条数は減少するが、この左右の分草具(14L,14R)を外側に開く時は、操作レバー(13L),(13R)の引き操作によって行うので、左右の分草具(14L,14R)の張出し操作が無理なく容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】コンバインの平面図
【図2】コンバインの正面図
【図3】コンバインの側面図
【図4】同上要部の平面図
【図5】コンバインの一部を示す側面図
【図6】刈取装置の要部の正面図
【図7】同上要部の正面図
【図8】同上要部の正面図
【図9】同上要部の正面図
【図10】同上要部の正面図
【図11】分草具操作用レバーの側面図
【図12】同上正面図
【図13】同上正面図
【図14】同上正面図
【図15】同上正面図
【図16】操作パネルの平面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
以下の説明では特別に断らない限りにおいて、コンバインの前進方向を向いて運転席5に着座した操縦者から視て左側を左といい、右側を右という。
【0026】
図1乃至図3は、コンバインの全体図を示すものであり、この走行車体1には、走行ミッションMを介して駆動される左右一対の走行クローラ2L,2Rを備え、後部に搭載した脱穀装置(脱穀部)3の前方部に刈取装置4を設置し,刈取装置4の横側部には、運転席5と、運転席前側のフロント操作ボックス6と、運転席左横側のサイド操作ボックス7とからなる運転操作部33を備え、更に、その運転操作部33の後方には脱穀粒を一時的に貯留するグレンタンクGを装備している。
【0027】
フロント操作ボックス6の右側には、左右方向の操作で機体の進行方向を操向制御し、前後方向の操作で刈取装置4を昇降制御するパワステレバー8が設置されている。運転席5左側のサイド操作ボックス7上には、刈取装置4及び脱穀部3への回転動力を断続操作する刈脱クラッチレバー9、図示せぬ無段変速装置を変速して走行速度を変更する変速レバー(HSTレバー)10、副変速レバー11等が配置されている。
【0028】
刈取装置4は、後支持フレーム31で支持され、この後支持フレーム31基端部(後端部)を、走行車体1に設けた不図示の支持部に回動自在に軸支している。そして、後支持フレーム31の中間部と走行車体1の間に設けた刈取昇降シリンダSの油圧駆動による伸縮により、刈取装置4が上下昇降される。
【0029】
後支持フレーム31の先端部(前端部)には、左右方向の横支持フレーム32の左右中間部を連結しており、横支持フレーム32からコンバインの機体前方に向けて、分草支持フレーム21を、左右所定間隔をおいて複数配置している。
【0030】
刈取装置4には、立毛する穀稈を左右に分草する左右の分草具14L,14R及び中央の中分草具14Cと、分草後の穀稈を引き起す左右一対の穀稈引起装置15L,15R(15)と、引起し後の穀稈を刈り取るバリカン式刈刃装置16と、刈取後の穀稈を掻込搬送するスターホイル等の掻込搬送装置17、掻込搬送後の穀稈を脱穀部に揚上搬送して供給する揚上搬送装置18等を装備している。
【0031】
なお、前記各分草具14は分草支持フレーム21の先端に取り付けられている。
左右の分草具14L,14Rは、先端側が左内側方又は右外側方に向けて回動するよう分草支持フレーム21の途中部に設けた上下方向の縦軸22回りに回動自在に枢着している。
【0032】
図7に示すように、通常の2条刈作業を行う場合は、左右の分草具14L,14Rは閉状態にあって、左右の分草具14L,14Rと中分草具14Cとの間に1条ずつの穀稈が導入され、左右合わせて2条分の穀稈が刈刃側に分草案内されるようになっている。
【0033】
左右分草具14L,14Rのうち、左分草具14Lを外側方に開いた状態(開状態)では、中分草具14Cと左分草具14Lとの間に2条の穀稈が導入され、中分草具14Cと右分草具14Rとの間に導入される1条の穀稈と合わせて3条の穀稈が導入され(図8参照)、3条刈作業が可能となる。
【0034】
また、左右分草具14L,14Rのうち、右分草具14Rを外側方に開いた状態(開状態)は、中分草具14Cと右分草具14Rとの間に2条の穀稈が導入され、中分草具14Cと閉状態の左分草具14Lとの間に導入される1条の穀稈と合わせて3条の穀稈が導入され(図9参照)、上記と同様に3条刈作業ができるようになっている。
【0035】
そして、図10に示すように、左右の分草具14L,14Rを外側方に開いた時には、左分草具14Lと中分草具14C及び右分草具14Rと中分草具14Cとの間にはそれぞれ2条ずつの穀稈が導入され、左右合わせて4条分の穀稈が導入されるようになっており、4条刈作業が可能となる。
【0036】
しかして、変速レバー10を前方に傾動させて、走行クローラ2L,2Rによって機体を前進させて刈取収穫作業を行うのであるが、コンバインの刈取収穫作業では、圃場を上方から視て半時計回りに回りながら周辺部から中心部に向かって穀稈を刈り取る。
【0037】
2条刈りの作業(図7)では、右分草具14Rを既に刈り取った穀稈(既刈穀稈)の切り株Cの位置に合せると、左右分草具14L,14Rの間に2条分の穀稈が導入される間隔に設定しているので、操縦者は、運転席5の前方にある右分草具14Rの位置を切り株Cの上を通過するように前記パワステレバー8で機体を操向しながら前進すればよく、刈取作業における機体の操作を容易となる。
【0038】
3条刈りの作業のうち、図8に示す作業では、左分草具14Lを圃場に植立する穀稈Kがこの左分草具14Lよりも内側に入るようにする。この作業形態は、主に畦際の穀稈を刈取る際に用いられ、左分草具14Lの先端が機体の左最外側に近づくことで、畦際の穀稈を刈取る際に周囲の障害物に機体を接触させることなく作業を行うことができ、周囲をコンクリート壁で囲まれた都市部の圃場などでは極めて有効である。
【0039】
図9に示す3条刈り作業は、コンバインの機体の左右両側に未刈り穀稈を位置させて行う所謂中割り作業に好適であり、走行クローラ2Rの外側端との距離が大きい右分草具14Rの先端を穀稈Kのすぐ右側に位置させて刈取ることで、この穀稈Kよりも機体進行方向右側に位置する穀稈と走行クローラ2Rとのクリアランスを確保して刈取作業を行なうため、未刈穀稈を走行クローラ2R,2Lによって踏みつけることなく中割り作業を行なうことができる。
【0040】
4条刈りの作業(図10)では、二条枠の穀稈引起装置15L,15Rで4条分の穀稈を刈取ることができ、刈取作業の効率を飛躍的に高めることができる。特に、前述の中割り作業を行なうにあたり効果的であり、刈取作業中に機体の方向転換などを行なう際にも、走行クローラ2R,2Lによって穀稈を踏みつけることなく作業を行なうことができる。
【0041】
また、上述のように2条刈りから最大4条刈りまでに左右分草具14L,14Rの間隔を変更できることで、作業条件が良好な場合(穀稈が立毛状態であり、雨水や泥土等が付着していない場合や、穀稈の穂先の穀粒が比較的少ない場合)には、4条分の穀稈を刈取装置4に導入することで、圃場内を移動する距離や、機体の旋回を行なう回数を減少させ、能率的な作業を行なうことができる。
【0042】
また、穀稈が倒伏していたり、濡れていたり、穀粒が多く、刈取搬送や脱穀の負荷が高いことが予想される作業条件においては、刈取装置4に導入する穀稈の量を2条分に制限することで、刈取装置4や脱穀装置3の負荷を軽減し安定した作業を行うことができる。
【0043】
左右の分草具14L,14Rとこれらを遠隔操作する操作レバー13L,13Rとは、操作ワイヤ23等を介して連動連結され、各操作レバー13L,13Rの支点Qを中心とする手前側(前方から後方)への引き操作により、左分草具14Lを左外側方へ、右分草具14Rを右外側方へ回動操作するように連動構成している。なお、操作レバー13L,13Rは、前方に押し操作すると、左右分草具14L,14Rは2条刈作業体勢の閉状態に復帰するようになっている。また、左右の操作レバー13L,13Rは、サイド操作ボックス7側において副変速レバー11の横側近傍に配置され、正面視で左右平行状に配置している(図12参照)。また、この操作レバーはユーザー左側と右側の識別が容易にできるように一方側の操作レバーを側方に向けて曲げたり(図13)、左右のレバーを異なる長さにしたり(図14)、左右のレバーを互いに反対方向の横向きに曲げたり(図15)するなど任意の形状に構成することができる。
【0044】
また、図4に示すように、左右の分草具14L,14Rは、それらの先端部が刈刃16の端部、つまり、左右の分草支持フレーム21L,21Rを基準として内側と外側とに回動変位するようになっており、分草具14L,14R後部のフレーム部が分草支持フレーム21L,21Rに対して大きく屈折しないように構成しているので、分草具14L,14Rから分草支持フレーム21L,21Rに亘って穀稈の株元を円滑に案内できる。
【0045】
刈刃装置(16)の左右幅を、各々前記開状態とした前記左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも狭く設定したので、刈取装置(4)に導入する穀稈を、通常の刈取条数から、この条数に加えて2条分の穀稈を刈取りできるものでありながら、刈刃装置(16)の左右幅を穀稈の切断性能に支障がない範囲で狭くすることで、刈刃装置(16)が発生させる振動や騒音を低減することができる。加えて、刈取装置(4)をコンパクトに構成でき、旋回時に刈取装置(4)が周囲の畦畔等に接触し難く、操作性の優れたコンバインを提供することができる。
【0046】
また、刈刃装置(16)の左右幅を、各々前記閉状態とした左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも広く設定したことにより、刈取装置(4)に導入される刈取対象の穀稈量に対して刈刃装置(16)の切断能力に余裕が生まれ、確実に穀稈を刈取ることができる。
【0047】
また、左右の分草具14L,14Rのうち、未刈地側(左側)の分草具14Lは、これを外側方開状態に張出した時、この分草具14Lの先端が未刈地側の走行クローラ2Lの外端部よりも外方に位置するように設定している(図5参照)。これによると、未刈地側の穀稈が未刈地側の走行クローラ2Lによって踏み込まれるのを防止することができる。加えて、湿田等の軟弱地盤での作業においては、未刈地側の走行クローラ2Lが地面に沈下することによって泥が未刈地側に押し退けられるが、分草具14Lの先端及び刈刃装置16の外側端がこの走行クローラ2Lよりも外側方に位置するため、未刈穀稈の株元に泥土を押し上げず、次回の刈取行程の支障にならない。また、図5の例では、左右の分草具14L,14Rをそれぞれ外側に同時に開いた状態では、中分草具14Cと左右分草具14L,14R先端の距離A・Bは略同じ距離とし、内側に同時に閉じた状態においても中分草具と左右分草具先端の距離は略同じ距離としている。
【0048】
左右の穀稈引起装置15L,15Rは、左右対称形状に構成された引起しケース25と、ケース内上部に架設された駆動スプロケット26、テンションスプロケット27及びケース内下部に左右所定間隔をあけて架設された左右ガイドローラ28a,28bと、それらにわたって掛け回した引起ラグ29付無端チェン30とから成り立っている。左右引起装置15L,15Rの始端側には、引起ラグ29によって導入された穀稈を外側から内側方の引起し経路Y2側に向けて掻き寄せる横方向所定幅の掻寄せ経路Y1が設けられている。この掻寄せ経路Y1は、所定間隔をあけて配置した左右のガイドローラ28a,28b間において構成され、そして、この左右ガイドローラ28a,28b間のローラ間ピッチP1を引起ラグ29,29間のラグピッチP2と略同等に設定することで、この掻寄せ経路Y1中において、複数の引起ラグ29,29が下向き作用姿勢で横移動するようになっている。なお、引起し経路Y2では引起ラグ29が横向き姿勢で上昇移行する。
【0049】
すなわち、引起ラグ29が、掻寄せ経路Y1の終端位置近傍を移動中、或いは、掻寄せ経路Y1から引起し経路Y2に移行する過程で円弧軌跡を描いて移動中に、穀稈が引起ラグ29に係合した状態から離脱しても、掻寄せ経路Y1中に他の引起ラグ29が存在することで穀稈の受け止めができ、引起装置15L,15Rでの穀稈の取りこぼしを防止することができる。
【0050】
従って、上記構成の掻寄せ経路Y1によれば、片側に2条の穀稈が導入されても引起し経路Y2内へ確実に掻き寄せることができる。
なお、前記ラグピッチP2は、ローラ間ピッチP1にガイドローラ28aの外周長の4分の1を加えた長さよりも小さくし、望ましくは、ローラ間ピッチP1にガイドローラ28aの外周長の8分の1を加えた長さよりも小さくする。このようにローラ間ピッチP1とラグピッチP2とを設定することで、引起装置15L,15Rにおける穀稈の取りこぼしを防いで良好に引起すことができるのである。
【0051】
また、図6に示したように、前記左右分草具14L,14Rを、外側に開いた状態と内側に閉じた状態とのいずれの状態においても、左右分草部14L,14Rの正面視における内側端部が、引起ラグ29の移動軌跡と重合する構成としている。
【0052】
引起ラグ29は、非引起作用側において無端チェン30に沿う倒伏姿勢で移動し、ガイドローラ28aの側方に至ると、このガイドローラ28aに当該引起ラグ29の基部が当接して起立姿勢となるが、左右分草部14L,14Rの正面視における内側端部と、起立姿勢の引起ラグ29の軌跡を重合させたことで、左右分草具14L,14Rにより分草された穀稈を起立姿勢となった引起ラグ29に円滑に引継ぐことができる。
【0053】
そして、左右分草部14L,14Rを内側に閉じた状態では、ガイドローラ28aの軸心位置と左右方向で近接した状態となるので、左右分草部14L,14Rと引起ラグ29との間に、この引起ラグ29が作用しない領域が殆ど無く、分草案内された刈取対象の穀稈を確実に引起し経路Y2に向けて掻き寄せることができ、穀稈の取りこぼしを可及的に減少させることができる。
【0054】
なお、左右分草部14L,14Rを内側に閉じた際の当該左右分草部14L,14Rの先端位置は、ガイドローラ28aの軸心位置と左右方向で同一の位置から、ガイドローラ28aの外周側端部から引起ラグ29の突出長さの半分程度までの距離の範囲にあることが望ましく、この範囲内に配置することで、引起ラグ29の移動により穀稈に作用する力のうち、穀稈を下方へ押付ける方向への分力よりも、引起し経路Y2方向へ掻き込む方向への分力が大きくなり、穀稈への掻き込み作用を向上させることができる。
【0055】
図16に示す操作パネル6aには表示器Dが装備されてあり、左右の分草具が片方又は両方「開」の時は、「副変速を低速にして下さい」と云う注意事項が画面に表示されるようになっている。通常、2条刈作業では標準の作業速で行うが、これが3条刈或は4条刈作業になると、能力的に無理な面があるので、作業速度を1段落として低速度で作業することが望ましい。そこで、オペレータはその表示に従って副変速を低速に切り替えて作業すればよい。
【0056】
なお、上記の表示器に代えて音声発生器を装備し、音声によってオペレータに報知するものであってもよい。
以上の実施例においては、便宜上2基の引起装置15L,15Rを設けた刈取装置4について説明したが、刈取装置4は通常の刈取条数が3条以上であってもよく、その場合は、刈取装置4の通常の刈取条数分の引起装置15と、掻込装置や搬送装置を設けて、左右最外側に位置する引起装置の外側前方に左右の分草具14L,14Rを設け、各引起装置15の間の前方位置に夫々中分草具14Cを配置すればよい。
【符号の説明】
【0057】
2 走行クローラ
4 刈取装置
13L 操作レバー
13R 操作レバー
14L 左分草具(分草具)
14R 右分草具(分草具)
14C 中分草具
15 穀稈引起装置(引起装置)
16 刈刃装置
28a ガイドローラ
28b ガイドローラ
29 引起ラグ
30 無端チェン
33 運転操作部
P1 ローラピッチ
P2 ラグピッチ
Y1 穀稈掻寄せ経路(掻寄せ経路)
Y2 穀稈引起し経路(引起し経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(1)の前側に刈取装置(4)を設け、該刈取装置(4)には、穀稈を分草して後方の引起装置(15)へ案内する左右の分草具(14L,14R)と、該左右の分草具(14L,14R)の間に配置される中分草具(14C)と、前記引起装置(15)によって引起された穀稈の株元を切断する刈刃装置(16)を備えたコンバインにおいて、
前記左右の分草具(14L,14R)の先端を、機体内側に位置する閉状態と、該閉状態よりも機体外側に位置する開位置とに位置変更可能に構成し、
前記閉状態における左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔を、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ1条の穀稈が導入可能な幅に設定し、
前記開状態では、左右の分草具(14L,14R)と中分草具(14C)との各配置間隔が、左の分草具(14L)と中分草具(14C)との間、及び、右の分草具(14R)と中分草具(14C)との間に、それぞれ2条の穀稈が導入可能な幅となるように設定したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記刈刃装置(16)の左右幅を、前記開状態における左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも狭く、且つ、前記閉状態における左右の分草具(14L,14R)の先端間隔よりも広く設定したことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記刈取装置(4)の左右両側端に配置した左右の引起装置(15L,15R)の引起作用側に、前記左右の分草具(14L,14R)によって分草された穀稈を下方から上方へ移動する横向き突出姿勢の引起しラグ(29)で引起す引起し経路(Y2)を形成し、該引起装置(15L,15R)の下部には、下向き突出姿勢の引起しラグ(29)が前記引起し経路(Y2)の下端側に向けて左右方向に移動して穀稈の株元を掻き寄せる横方向所定幅の掻寄せ経路(Y1)を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記掻寄せ経路(Y1)は、所定間隔をおいて配置した左右のガイドローラ(28a,28b)に複数の引起しラグ(29)を取付けた無端チェン(30)を巻回して形成し、前記左右のガイドローラ(28a,28b)の軸間距離であるローラピッチ(P1)に対して、無端チェン(30)に対する引起しラグ(29)の取付間隔であるラグピッチ(P2)を略同間隔に設定するか、又は狭く設定して、前記掻寄せ経路(Y1)に常時少なくとも2つの引起しラグ(29)が下向き突出姿勢で左右方向に移動する構成としたことを特徴とする請求項3記載のコンバイン。
【請求項5】
前記走行車体(1)の下側に左右の走行クローラ(2L,2R)を設け、前記左右の分草具(14L,14R)のうち、前記開状態における左側の分草具(14L)の先端位置が、左側のクローラ(2L)の外側端部よりも外側の位置に偏倚する構成としたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンバイン。
【請求項6】
前記左右の分草具(14L,14R)を開状態と閉状態とに各々独立して切換える2つの操作レバー(13L,13R)を運転操作部(33)に配置し、該2つの操作レバー(13L,13R)を機体後方に引き操作すると、左右の分草具(14L,14R)が開状態となり、操作レバー(13L,13R)を機体前方に押し操作すると、左右の分草具(14L,14R)が閉状態となるように連繋させたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−200238(P2012−200238A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70145(P2011−70145)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】