コンバイン
【課題】車体を走行させる場合と、アンローダで穀粒の排出を行う作業とにおいて必要とする回転速度でエンジンを稼動させ得るコンバインを構成する。
【解決手段】主変速レバー43が、停車位置STから変速領域Fa、Raに操作されると、エンジン3の回転速度をアイドリング速度から定格速度まで上昇させ、排出クラッチレバー46が、切り位置「切」から穀粒の排出を行う入り位置「入」に操作されると、エンジン3の回転速度をアイドリング速度からアクセル設定ダイヤル47で設定されるダイヤル値まで上昇させる回転速度制御手段88を備えた。
【解決手段】主変速レバー43が、停車位置STから変速領域Fa、Raに操作されると、エンジン3の回転速度をアイドリング速度から定格速度まで上昇させ、排出クラッチレバー46が、切り位置「切」から穀粒の排出を行う入り位置「入」に操作されると、エンジン3の回転速度をアイドリング速度からアクセル設定ダイヤル47で設定されるダイヤル値まで上昇させる回転速度制御手段88を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたコンバインとしては特許文献1には、変速レバーの操作により走行速度を変速する油圧式無段変速装置を備え、グレンタンクの穀粒を排出するアンローダを備えた構成が示されている。この特許文献1ではエンジン負荷に基づいて車速を変更する車速制御手段を備えており、エンジンストップを回避しながらエンジンの能力を有効活用する点が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、作業開始指令が指令されると、アクセル手段を定格回転速度にし、作業クラッチを入り状態に設定する制御形態が記載されている。
【0004】
具体的には、エンジンから脱穀装置に伝えられる動力の断続を行う作業クラッチとしてベルトテンション式の脱穀クラッチが備えられ、エンジンの回転速度をアイドリング回転速度と定格回転速度とに切り換えるアクセル手段としてアクセル装置が備えられている。この特許文献2では、アクセル操作具が人為操作された場合、及び、電動モータの作動によりアクセル操作具が操作された場合に、アクセルケーブルを介してアクセル装置を操作するとともに、脱穀クラッチの断続操作が行われる制御形態が記載されている。
【0005】
更に、この特許文献2では、アクセル操作具がアイドリング位置にある状態で電動モータにより脱穀クラッチを入り状態に操作する作動が開始されると、脱穀クラッチの入り操作に連係して作動する操作部の接当によりアクセル操作具が移動操作され定格回転速度の位置に達し、エンジンも定格回転速度に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010‐57409号公報
【特許文献2】特開2009‐89618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来からのコンバインでは、非作業時にエンジンをアイドリング速度で回転させ、稲の収穫作業を行う際や、車体を走行させる際には、エンジンの回転速度を定格回転速度まで上昇させている。つまり、収穫作業を行う場合にはエンジンの回転速度を定格回転速度(エンジンから最大の出力を得る高速の回転速度)まで上昇させることにより脱穀処理部と刈取前処理部とからの負荷によってエンジンストップを招かない制御を行っている。また、収穫作業を行わずに車体を走行させる場合でもエンジンストップを招かないようにエンジンの回転速度を定格回転速度に設定する制御が行われている。
【0008】
穀粒を貯留する穀粒タンクを備え、この穀粒タンクから穀粒を排出するアンローダを備えたコンバインでは、アンローダを作動させて穀粒タンクから穀粒を排出する際にもエンジンの回転速度を上昇させる必要がある。
【0009】
そこで、アンローダで穀粒を排出する際にエンジンを定格回転速度まで上昇させることも考えられるが、この定格回転速度は、脱穀装置と刈取前処理部とでの作業を可能にする高い出力を得るものであるため、この定格回転速度でアンローダを作動させた場合にはスクリュー等の回転速度が高速化し過ぎ、スクリュー等が穀粒に強く接触して穀粒を傷めることもあり、このような不都合を解消する点や、燃料を無駄に消費する点において改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、車体を走行させる場合と、アンローダで穀粒の排出を行う作業とにおいて必要とする回転速度でエンジンを稼動させ得るコンバインを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインであって、
前記変速操作具は、前記車体を停車させる停車位置と、前記無段変速装置を無段階に変速する変速領域とに操作自在に構成され、前記エンジンの回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記エンジンの目標回転速度を人為的に設定する回転速度設定具とが備えられ、前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置にあり、かつ、前記排出クラッチが切り状態にある場合には、前記エンジンの回転速度をアイドリング速度に設定すると共に、前記変速操作具が、前記変速領域に操作された場合に前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定し、前記排出クラッチが入り状態に設定された場合に前記エンジンの回転速度を前記回転速度設定具で設定される目標回転速度に設定する点にある。
【0012】
この構成によると、変速操作具が停車位置にあり、かつ、排出クラッチが切り状態にある場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度をアイドリング速度に設定することによりエンジンの稼動音の低減と燃料の消費とを抑制する。また、変速操作具が変速領域に操作された場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度を定格回転速度に設定する。このようにエンジンの回転速度を定格回転速度に設定することでエンジンストップを招くことのない走行を実現する。更に、排出クラッチが入り状態に操作された場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度を、回転速度設定具で設定された目標回転速度に設定する。つまり、穀粒タンクの穀粒を排出する際には、作業者が設定した任意の回転速度にエンジンの回転速度を設定することによりアンローダにおいて穀粒に対して過剰な力が作用する不都合を抑制するとともに燃料の無駄な消費を抑制する。
その結果、車体を走行させる場合と、アンローダで穀粒の排出を行う作業とにおいて必要とする回転速度でエンジンを稼動させ得るコンバインが構成された。
【0013】
本発明は、前記無段変速装置が、前記車体の前進速度と後進速度とを無段階に変速するように構成され、前記変速操作具は、前記停車位置を基準にして一方側に形成される前進領域と、前記停車位置を基準にして他方側に形成される後進領域とに操作自在に構成され、前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置から前記前進領域と後進領域との何れの領域に操作された場合にも、前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定しても良い。
【0014】
これによると、変速操作具が中立位置にある場合には燃料の消費を抑制し、変速操作具が前進領域と後進領域との何れに操作された場合にも、エンジンストップのない走行を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コンバイン全体を示す側面図である。
【図2】コンバイン全体を示す平面図である。
【図3】コンバインの伝動系を概略的に示す図である。
【図4】運転部の平面図である。
【図5】操向レバーの側面と正面とを示す図である。
【図6】作業クラッチレバーの操作領域を示す平面図である。
【図7】フロント操作パネルとサイド操作パネルとの平面図である。
【図8】作業クラッチレバーの操作位置と検出形態を示す側面図である。
【図9】脱穀クラッチと刈取クラッチとの操作構造を模式的に示す図である。
【図10】穂先センサの配置を示す正面図である。
【図11】操向制御と昇降制御の制御構成を示すブロック回路図である。
【図12】エンジン回転速度の制御構成を示すブロック回路図である。
【図13】エンジン回転制御ルーチンのフローチャートである。
【図14】レバー類とエンジン回転制御との関係を一覧化した図である。
【図15】エンジン回転数の変化をグラフ化して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1〜図3に示すように、左右一対のクローラ走行装置1で走行する車体Aの前部位置にキャビンBaを有した運転部Bと、刈取前処理部Dとを並列配置すると共に、車体Aに刈取前処理部Dからの穀稈が供給される脱穀処理部Eと、穀粒を貯留するグレンタンクF(穀粒タンク)とを備えてコンバインが構成されている。
【0017】
キャビンBaの内部の運転座席2の下方位置にエンジン3が配置され、車体Aの前部の中央位置にはエンジン3からの駆動力を左右のクローラ走行装置1に伝えるミッションケース4が備えられている。
【0018】
ミッションケース4の上部には、走行方向の前後進の切り換えと走行速度の無段階の変速とを行う静油圧式の無段変速装置5が備えられている。ミッションケース4は、無段変速装置5から伝えられる走行速度を高低2段に切り換える副変速装置(図示せず)と、左右のクローラ走行装置1の駆動スプロケット1Sに伝えられる駆動力を断続する油圧作動型の操向クラッチ4Cとを内装している。
【0019】
エンジン3の出力軸に備えた第1出力プーリ3aと無段変速装置5の入力プーリ5aとに亘って無端ベルト6を巻回して走行伝動系が形成されている。
【0020】
刈取前処理部Dは、植立穀稈を分草するデバイダ11と、植立穀稈を多数の引起し爪で引き起こす複数の引起し装置12と、穀稈の株元を切断する刈取装置13と、刈り取られた穀稈を搬送する穀稈搬送装置14と、円筒状の部材で成る支持フレーム15とを備えている。この支持フレーム15は前端側が斜め下方に向かう姿勢で配置され、その基端部が横向軸芯P周りで揺動自在に車体Aに支持されている。この支持フレーム15は昇降シリンダ16の駆動力で横向き軸芯P周りで揺動し、この揺動により刈取前処理部Dの昇降が実現する。
【0021】
支持フレーム15は内部に備えた駆動軸(図示せず)からの駆動力を刈取前処理部Dの引起し装置12と、刈取装置13と、穀稈搬送装置14とに対して伝える伝動ケースとして機能する。この支持フレーム15の基端部で横向き軸芯Pと同軸芯上に、支持フレーム内部の駆動軸に駆動力を伝える刈取入力プーリ21を備え、この刈取入力プーリ21とミッションケース4の刈取出力プーリ22とに亘って無端ベルト23を巻回し、無端ベルト23に張力を作用させるテンションプーリ24を備えてベルトテンション式となる刈取クラッチCdが構成されている。
【0022】
脱穀処理部Eは、刈取前処理部Dから供給される穀稈を挟持搬送するフィードチェーン31と、フィードチェーン31で挟持搬送される穀稈の穂先部に扱き作用を与える扱胴32と、選別風を供給する唐箕33とを備えている。この脱穀処理部Eでは、扱胴32の扱き作用によって穂先から分離した処理物を受網(図示せず)から漏下させ、唐箕33からの選別風と揺動選別部(図示せず)による比重選別により処理物から穀粒を選別回収する選別処理を行い、選別回収された穀粒をグレンタンクFに送り出す処理を行う。
【0023】
エンジン3の出力軸に一対の第2出力プーリ3bを備え、脱穀処理部Eには扱胴32に駆動力を伝える扱胴入力プーリ32bと、唐箕33に駆動力を伝える唐箕入力プーリ33bとを備えている。また、第2出力プーリ3bの一方と扱胴入力プーリ32bとに亘って無端ベルト26を巻回し、第2出力プーリ3bの他方と唐箕入力プーリ33bとに亘って無端ベルト26を巻回し、この一対の無端ベルト26に張力を作用させる一対のテンションプーリ27を備えてベルトテンション式の脱穀クラッチCeが構成されている。尚、脱穀クラッチCeは一対のテンションプーリ27を同時に操作することになる。
【0024】
グレンタンクFは、脱穀処理部Eからの穀粒を貯留する穀粒タンクとして機能するものであり、穀粒を搬出するアンローダ34を備えている。このアンローダ34は排出端の上下位置の調節と、縦軸芯周りでの旋回が可能な構造を有しており、穀粒の排出位置を任意に設定できるように構成されている。
【0025】
グレンタンクFの底部に備えた底スクリュー38と、アンローダ34に内蔵された排出スクリュー34Sとがギヤ式に連動し、底スクリュー38の前端に駆動力を伝える中間伝動機構39に排出駆動プーリ39aが備えられている。この排出駆動プーリ39aとエンジン3の出力軸に備えた第3出力プーリ3cとの間に無端ベルト40を巻回し、この無端ベルト40に張力を作用させるテンションプーリを備えることで動力を伝えるテンション式の排出クラッチCfが構成されている。この構成から排出クラッチCfが入り状態に設定されることで、エンジン3の駆動力を底スクリュー38からアンローダ34の排出スクリュー34Sに伝え、グレンタンクFの穀粒の排出が行われる。
【0026】
〔運転部〕
前述したキャビンBaは、上部にルーフ36を備え、前部や側部にガラス37等を備えることで作業者の運転空間を形成し、この運転空間に前述した運転座席2が備えられている。図4に示すように、運転座席2の前部位置には、操向レバー41と、メータユニット42と、フロント操作パネルFPとが備えられている。運転座席2の左側部位置には変速操作具としての主変速レバー43と、副変速レバー44と、作業操作具としての作業クラッチレバー45と、サイド操作パネルSPとが配置されている。
【0027】
また、運転座席2の左後方位置には排出クラッチレバー46が配置され、運転座席2の両側部にはアンローダ34の排出側端部の方向と高さを設定することで穀粒の排出位置を制御するコントローラ57の配置空間Sが形成され、この運転座席2の後部にはエアクリーナ58が配置されている。更に、運転座席2の後方の壁部Wには電力を取り出すコネクタ59が備えられている。尚、コントローラ57にはアンローダ34の方向を決める複数のボタンが備えられると共に、取り扱いの自由度を高めるようにコードによって制御系に接続されている。コネクタ59はキャビンBaの内部で電気機器を使用する際(携帯電話機の充電など)の電源として利用される。
【0028】
操向レバー41は、車体Aの操向制御と刈取前処理部Dの昇降制御とを実現する。つまり、この操向レバー41は非操作状態で図5(a)、(b)に示す中立位置Nに保持され、この中立位置Nに保持されることで左右の操向クラッチ4Cを入り状態(伝動状態)に維持し、左右のクローラ走行装置1を等速駆動して車体Aを直進させる。また、操向レバー41を左右に揺動操作することにより揺動操作方向に対応した操向クラッチ4Cを切り操作(伝動を遮断する操作)して揺動操作方向へ車体Aを旋回(操向)させる。
【0029】
この操向レバー41を前方に揺動操作することにより、昇降シリンダ16を制御して揺動量(揺動角)に対応した速度で刈取前処理部Dを下降させ、操作を解除して中立位置Nに戻すことで刈取前処理部Dの下降が停止する。また、操向レバー41を後方に揺動操作することにより、昇降シリンダ16を制御して揺動量(揺動角)に対応した速度で刈取前処理部Dを上昇させ、操作を解除して中立位置Nに戻すことで刈取前処理部Dの上昇が停止する。
【0030】
更に、この操向レバー41のグリップ部には、車体Aのローリング制御を行う複数の操作スイッチ41aが備えられると共に、ボタン式の上昇スイッチ41Uと下降スイッチ41Dとが備えられている。上昇スイッチ41Uは押し操作することで、押し操作を継続しなくとも設定高さまで刈取前処理部Dを上昇させ、この上昇状態において下降スイッチ41Dを操作することで、押し操作を継続しなくとも、設定高さまで刈取前処理部Dを下降させる制御を実現する。尚、車体Aのローリング制御は左右のクローラ走行装置1の接地側を独立して上下作動させることによって実現するものあるが、公知の技術であるため作動構成や作動形態の説明は省略する。
【0031】
メータユニット42は、エンジン回転速度、副変速位置、燃料残量等が表示される。フロント操作パネルFPには、図7(a)に示すようにエンジン3の目標回転速度を設定するアクセル設定ダイヤル47(目標回転速度設定具の一例)と、このアクセル設定ダイヤル47の人為操作により設定される目標回転速度でエンジン3を常時回転させるモードを選択するモードスイッチ47Aとが備えられている。更に、このメータユニット42には、車体のローリング制御の制御条件等を設定する複数のボタンやランプを有したローリング設定部48と、収穫作業時における車体Aの刈取条件を設定する複数のボタンを有した刈取条件設定部49とが備えられている。尚、エンジン3の回転速度とは単位時間あたりのエンジン3の回転数である。
【0032】
主変速レバー43(変速操作具の一例)は、前述した無段変速装置5の制御系と機械的に連係しており、操作を行うことにより車体Aの前進と後進との切換と、速度の設定を実現する。副変速レバー44は、ミッションケース4に内蔵されたギヤ式の副変速装置と機械的に連係しており、操作を行うことにより走行速度を高低2段の変速を実現する。特に、主変速レバー43は、図12に示すように、停車位置STを基準にして前方側の前進領域Faと、後方側の後進領域Raとに操作自在に構成され、停車位置STから前進領域Faに操作することで操作量に伴い車体Aの前進速度を増大させ、停車位置STから後進領域Raに操作することで操作量に伴い車体Aの後進速度を増大させる。尚、前進領域Faと後進領域Raとが変速領域の具体例である。
【0033】
作業クラッチレバー45(作業操作具の一例)は、脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとを断続する操作具として機能するものであり、図6に示すようにホーム位置に対応する非作業位置OFFから、収穫作業モードを実現する収穫作業位置ONに亘る直線的な操作領域において操作自在に構成され、この操作領域の中間位置に脱穀作業モードを実現する脱穀作業位置Mが配置されている。この作業クラッチレバー45の操作による脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとの制御形態は後述する。
【0034】
サイド操作パネルSPには、図7(b)に示すように車体Aの側部に出退自在に備えた分草杆(図示せず)の姿勢を決める一対の分草杆操作スイッチ51と、刈取前処理部Dの対地高さを設定するダイヤルやボタン類を有する刈高さ設定部52と、脱穀処理部Eの扱胴32に対する穀稈の挿入量を適正に維持する扱深さ制御を実現するようにON状態とOFF状態とに切換自在な扱深さスイッチ53と、前述した上昇スイッチ41U及び下降スイッチ41Dの操作による刈取前処理部Dの上昇時及び下降時において刈取クラッチCdの切り操作及び刈取クラッチCdの入り操作を実現するオートクラッチスイッチ54と、車体Aの走行速度を設定する車速設定ダイヤルやボタン類を備えた車速設定部55と、脱穀処理部Eにおいて揺動選別部の選別性能を設定するダイヤル及び唐箕33の風量を設定するダイヤル等を有した選別性能設定部56とを備えている。
【0035】
排出クラッチレバー46は、排出クラッチCfと機械的に連係しており、図12に示す「切」位置に設定されることで排出クラッチCfを切り状態に設定し、「入」位置に設定されることで排出クラッチCfを入り状態に設定する。そして、入り状態ではグレンタンクFの穀粒をアンローダ34を介して排出する作動を実現する。
【0036】
〔作業クラッチレバー等の具体構成〕
図6及び図8に示すように、作業クラッチレバー45は、レバーガイド61の操作領域において直線的な操作を実現するように支軸62周りで揺動自在に支持されると共に、この作業クラッチレバー45と一体的に作動するカム体63が形成されている。このカム体63のカム面63Sに接触することで作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mにあることを検出する脱穀位置センサ64と、収穫作業位置ONにあることを検出する収穫位置センサ65とを備えている。
【0037】
図面には示していないが、作業クラッチレバー45は、非作業位置OFFと、収穫作業位置ONと、脱穀作業位置Mとの何れの作業位置にも保持されるように摩擦式やボールデテント式等の操作位置保持機構からの保持力が作用する。
【0038】
尚、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFから脱穀作業位置Mを含む領域に操作されると脱穀位置センサ64が検出状態に達し、この検出状態は作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONまで操作されても継続する。また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONを含む領域に操作されると収穫位置センサ65が検出状態に達する。この検出系は、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mを含む領域と、収穫作業位置ONを含む領域と、これらに含まれない領域(非作業位置OFF)との何れに存在するかの判別を可能にする。
【0039】
脱穀位置センサ64と収穫位置センサ65とはリミットスイッチで構成されるものであるが、例えば、これらに近接センサや、フォトインタラプタ型の非接触センサを用いることが可能であり、また、これらに代えてポテンショメータを用い、作業クラッチレバー45の揺動角度を計測するように構成しても良い。特に、ポテンショメータを用いた場合には、作業クラッチレバー45の操作位置の検出精度を向上させる。
【0040】
図9に示すように、フレーム66に回転自在に支承した支軸67と一体回転するようにセクタギヤ68と第1カムプレート69と第2カムプレート70とを備え、セクタギヤ68に噛合するピニオンギヤ71を駆動するように電動モータで成るクラッチモータ72をフレーム66に備えている。更に、支軸67の回転量を検出するためにポテンショメータで成る回転角センサ67Sを備えている。
【0041】
フレーム66に支持した軸体73に第1アーム74と第2アーム75とを揺動自在に支持している。第1アーム74の一端側には第1カムプレート69のカム面に接触自在な第1ローラ74Rを回転自在に支承し、第2アーム75の一端側には第2カムプレート70のカム面に接触自在な第2ローラ75Rを回転自在に支承している。また、第1アーム74の他端側に脱穀クラッチCeを操作する第1操作ワイヤ76のインナ部76aを連結し、第2アーム75の他端側に刈取クラッチCdを操作する第2操作ワイヤ77のインナ部77aを連結している。
【0042】
前述した脱穀クラッチCeのテンションプーリ27はテンションアーム27Aに支承され、このテンションアーム27Aは軸27S周りで揺動自在に支持され、このテンションアーム27Aに対して第1操作ワイヤ76のインナ部76aが連結している。これと同様に、刈取クラッチCdのテンションプーリ24はテンションアーム24Aに支承され、このテンションアーム24Aは軸24S周りで揺動自在に支持され、このテンションアーム24Aに対して第2操作ワイヤ77のインナ部77aが連結している。
【0043】
〔扱深さ制御機構〕
図3に示すように、前述した穀稈搬送装置14は、刈り取り直後の穀稈をフィードチェーン31に受け渡すように穀稈の株元を無端チェーンと挟持レールとで挟持搬送する株元搬送部14Aと、穀稈の穂先側を多数の係止爪によって係止搬送する穂先搬送部14Bとを備えており、株元搬送部14Aの搬送終端側には、株元をフィードチェーン31に受け渡す供給搬送部14AFを備えている。
【0044】
この供給搬送部14AFは、軸芯Q周りで揺動自在に穀稈搬送装置14に支持され、この供給搬送部14AFの軸芯Q周りでの揺動により、この供給搬送部14AFからフィードチェーン31に受け渡す穀稈の稈身方向の位置を変更して扱深さ調節を行う扱深さ制御を実現する。
【0045】
この扱深さ制御機構は、供給搬送部14AFの軸芯Q周りでの揺動を行うように電動モータを有した扱深さ調整ユニット17を備えると共に、図10に示すように穀稈搬送装置14の搬送終端部に2つの穂先センサ19を備えている。穂先センサ19は穀稈の穂先部分に接触して揺動自在なセンサバー19aと、このセンサバー19aの揺動を検出するセンサ本体19bとを備えている。そして、制御時には、2つの穂先センサ19のセンサバー19aの中間位置に穀稈の穂先位置が存在するように供給搬送部14AFの揺動制御が行われる。
【0046】
〔制御構成〕
このコンバインでは、図11、図12に示すようにマイクロプロセッサやDSP等を有し複数の処理を並行して実行可能な制御装置81を有している。この制御装置81のうち操向レバー41の操作に基づく刈取前処理部Dの昇降制御と、操向制御とを行う機能構成を図11に示し、作業クラッチレバー45や主変速レバー43等の操作に基づくエンジン3の回転速度の制御と、扱深さ制御とを行う機能構成を図12に示している。
【0047】
図11に示すように、制御装置81に対し、操向レバー41の前後方向及び左右方向の揺動操作量を検出する操作検出ユニット41Sと、上昇スイッチ41Uと、下降スイッチ41Dとからの信号が入力する入力信号系が形成されている。この制御装置81では、昇降シリンダ16に対する作動油の給排を行う電磁制御型の昇降制御弁82と、左右の操向クラッチ4Cを制御する電磁制御型の操向制御弁83とに制御信号を出力する出力信号系が形成されている。更に、制御装置81には、刈取前処理部Dの昇降制御を実現する昇降制御手段85と、車体Aの操向制御を実現する操向制御手段86とを備えている。
【0048】
尚、昇降制御手段85と、操向制御手段86とはソフトウエアで構成されるものを想定しているが、これに代えて、例えば、これらをロジック等の論理回路で構成することや、論理回路とソフトウエアとの組み合わせで構成しても良い。
【0049】
このような構成から、作業者が操向レバー41を左右方向に操作した場合には、この操作が操作検出ユニット41Sによって検出され、操向制御手段86が操向制御弁83を制御することで対応する操向クラッチ4Cが切り操作され、揺動操作方向への旋回(操向)が実現する。また、作業者が操向レバー41を前後方向に揺動操作した場合には、この操作が操作検出ユニット41Sによって検出され、昇降制御手段85が昇降制御弁82を制御して昇降シリンダ16を作動させることで揺動量(揺動角)に対応した速度での刈取前処理部Dを下降又は上昇が実現する。また、操向レバー41が中立位置Nに戻された場合には刈取前処理部Dの下降又は上昇が停止する。
【0050】
図12に示すように、制御装置81は、主変速レバー43の操作領域を検出する変速領域センサ43Sと、排出クラッチレバー46の操作位置を検出する操作位置センサ46Sと、モードスイッチ47Aと、回転速度設定具として機能するアクセル設定ダイヤル47の設定位置を検出するポテンショメータ型のアクセル設定器47Sと、扱深さスイッチ53と、作業クラッチレバー45の操作位置を検出する脱穀位置センサ64及び収穫位置センサ65と、回転角センサ67Sと、2つの穂先センサ19とからの信号が入力する入力信号系が形成されている。
【0051】
変速領域センサ43Sは、主変速レバー43が停車位置STと、これ以外の変速領域との何れの領域に存在するかを判別する機能を有するものであれば良く、ポテンショメータを用いることも考えられるがリミットスイッチを用いても良い。操作位置センサ46Sは、排出クラッチレバー46が「切」位置と「入」位置との何れの位置にあるかを判別する機能を有するものであれば良く、リミットスイッチが用いられている。
【0052】
また、制御装置81は、エンジン3の回転速度を制御するエンジン回転制御ユニット84と、クラッチモータ72と、扱深さ調整ユニット17とに制御信号を出力する出力信号系が形成されている。更に、制御装置81には、エンジン3の回転速度の制御を実現する回転速度制御手段88と、脱穀クラッチCe及び刈取クラッチCdの制御を実現するクラッチ制御手段87と、扱深さ制御を実現する扱深さ制御手段89とを備えている。
【0053】
尚、クラッチ制御手段87と、回転速度制御手段88と、扱深さ制御手段89とはソフトウエアで構成されるものを想定しているが、これに代えて、例えば、これらをロジック等の論理回路で構成することや、論理回路とソフトウエアとの組み合わせで構成しても良い。
【0054】
このような構成から、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにある場合には、脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとが切り状態に維持され、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mに設定された場合には、クラッチ制御手段87がクラッチモータ72を作動させて脱穀クラッチCeを入り状態にする。更に、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに設定された場合には、クラッチ制御手段87がクラッチモータ72を作動させることにより脱穀クラッチCeを入り状態に維持したまま、刈取クラッチCdを入り状態に設定する。
【0055】
このようにクラッチモータ72が作動する際には前述した回転角センサ67Sの検出結果がクラッチ制御手段87にフィードバックされることで第1カムプレート69と、第2カムプレート70との回転量が把握される。そして、クラッチモータ72の作動により第1カムプレート69が第1アーム74の第1ローラ74Rに接触することで第1操作ワイヤ76を介して脱穀クラッチCeを先に入り状態に設定する。この後、第2カムプレート70が第2アーム75の第2ローラ75Rに接触することで第2操作ワイヤ77を介して刈取クラッチCdを入り状態に設定する作動順序で作動が行われる。
【0056】
また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに設定された場合には、図14(a)に示すように、扱深さ制御手段89が扱深さ制御を実行し、この扱深さ制御では、穂先センサ19の信号をフィードバックする形態で扱深さ調整ユニット17が供給搬送部14AFを作動させる。また、扱深さ制御は、扱深さスイッチ53がON状態にある場合に実行されるものであり、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合には、扱深さ制御は実行されない。
【0057】
特に、この制御装置81では、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46と、作業クラッチレバー45との何れの操作に基づいて、回転速度制御手段88がエンジン3の回転速度を制御する点に特徴を有しており、この制御形態について次に説明する。
【0058】
〔作業クラッチレバー等の操作に基づく制御の概要〕
回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46との何れかの操作に基づいてエンジン3の回転速度を設定する制御を実行する。この制御はモードスイッチがON状態にある場合に実行されるものでありモードスイッチがOFF状態にある場合には、エンジン3の回転速度を常にアクセル設定ダイヤル47のダイヤル値(目標回転速度)に設定する制御が行われる。
【0059】
つまり、図14(a)に示すように、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに設定されている場合には、エンジン3の回転速度をアイドリング速度(同図ではアイドリングと記載)に設定し、非作業位置OFFから脱穀作業位置Mに操作された場合には、エンジン3の回転速度を定格回転速度(同図では定格回転と記載)まで上昇させ、収穫作業位置ONに設定された場合には定格回転速度を維持する。また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONから脱穀作業位置Mに操作に戻された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に維持し、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。ここで、定格回転速度とはエンジン3から最も高い出力を得る回転速度であり上限に近い回転速度である。
【0060】
また、図14(b)に示すように、主変速レバー43が停車位置STに設定されている場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定し、前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度まで上昇させる。このように主変速レバー43が変速域(前進領域Faと後進領域Raの何れか)に操作された後に停車位置STに戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0061】
また、図14(c)に示すように、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に設定されている場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定し、入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定されたダイヤル値(目標回転速度)に設定する。この操作の後に、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0062】
特に、この回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46とのレバーのうち2つ以上が同時に操作された場合には以下のような制御を行う。
【0063】
作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mと収穫作業位置ONとの何れかに操作された場合、又は、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定された場合において、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。また、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置M又は収穫作業位置ONに操作され、かつ、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定された場合において、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。
【0064】
その具体例を挙げると、排出クラッチレバー46が「入」位置に操作された場合には、エンジン3の回転速度がダイヤル値に設定されるものであるが、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mに操作される場合と、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定される場合との少なくとも一方の場合にあると、エンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。この後、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに戻され、主変速レバー43が停車位置STに戻される状態に達すると、排出クラッチレバー46が既に「入」位置にあるので、エンジン3の回転速度をダイヤル値に設定する。
【0065】
このように、回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と主変速レバー43と排出クラッチレバー46との操作によりエンジン3の目標とする回転速度が異なる場合には、高速となる回転速度を選択し、エンジン3の目標とする回転速度が同じ場合には同じ回転速度を選択するように制御形態が設定され、モードスイッチがOFF状態にある場合には、これらの制御に優先してエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47のダイヤル値(目標回転速度)に設定するのである。
【0066】
〔エンジン回転制御ルーチン〕
回転速度制御手段88によるエンジン3の回転速度の制御の概要を図13のフローチャートのように示すことが可能である。
【0067】
モードスイッチ47AがOFF状態にある場合には、レバー類がどのように操作されてもエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定される目標回転速度としてのダイヤル値に設定する(#01、#02ステップ)。このようにモードスイッチ47AがOFF状態にあれば、アクセル設定ダイヤル47の回転操作によりエンジン3の回転速度を任意の値に設定できる。
【0068】
また、モードスイッチ47AがON状態にある場合には、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにない場合、及び、主変速レバー43が停車位置STにない場合にエンジン3の回転速度を定格回転速度(フローチャートには定格回転と記載)に設定する(#03〜#05ステップ)。つまり、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置M又は収穫作業位置ONに操作された場合、又は、主変速レバー43が前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に設定されている場合の少なくとも一方の場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。
【0069】
回転速度制御手段88は、主変速レバー43が停車位置STから前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に設定された場合には、図15に示すように短時間のうちにエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定するためエンジン3の駆動力が不足することなく走行を開始できるようにしている。尚、例えば、変速操作量に対応してエンジン3の回転速度を制御するもののようにエンジン3の回転速度が迅速に行われないものでは同図において破線で示す如くエンジン3の回転速度を徐々に高めることになるが、この回転速度制御手段88のように短時間のうちにように定格回転速度に設定するものでは主変速レバー43の操作に反応良くエンジン3の回転速度を定格回転速度まで上昇させて変速を実現する。
【0070】
更に、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにあり、しかも、主変速レバー43が停車位置STにある状態において、排出クラッチレバー46が切り位置「切」にある場合には、エンジン3をアイドリング速度(フローチャートにはアイドリングと記載)で回転させ、排出クラッチレバー46が入り位置「入」にある場合には、エンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定される目標回転速度としてのダイヤル値に設定する(#06、#07、#02ステップ)。
【0071】
このように、作業が行われない場合には、エンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定することにより、エンジン3の無駄な稼動を抑制して燃料の無駄な消費を抑制する。また、作業を行うためにレバー類を操作した場合には、エンジン3の回転速度を定格速度まで増大させることにより過負荷によるエンジンストップを回避できるものにしている。特に、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合には、エンジン3の回転速度をダイヤル値に設定することにより、エンジン3の回転速度を定格回転速度より低速となるダイヤル値に設定して穀粒(籾)に過剰な力を作用させる不都合を回避して籾を傷めることなく排出を行える。そして、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0072】
また、図14(a)に示すように、扱深さスイッチ53がON状態にある場合において、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFと脱穀作業位置Mとの何れかに設定されている場合には扱深さ制御は行われず、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに操作された場合にのみ扱深さ制御が行われ、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONから脱穀作業位置Mに戻された場合に扱深さ制御が停止する。このような扱深さ制御を行うために作業者が特別にスイッチ類を操作しなくて済むものとなる。これにより、作業クラッチレバー45を脱穀作業位置M以外の位置に設定した場合でも、扱深さ制御により供給搬送部14AFが作動する不都合を回避して無駄な作動が抑制される。更に、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合には作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに操作されても、扱深さ制御は実行されない。尚、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合でも、図示しないスイッチを操作することで電動モータの駆動力により供給搬送部14AFを作動させ、人為操作による扱深さの調節を行うことも可能である。
【0073】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
(a)作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mと収穫作業位置ONとの何れの位置に操作された場合でも、扱深さ制御を実行するように制御形態を設定しても良い。このように制御形態を設定することにより、例えば、作業クラッチレバー45を非作業位置OFFから収穫作業位置ONに対して短時間のうちに操作した場合でも、脱穀作業位置Mを通過する時点で扱き深さ制御が開始され、収穫作業に迅速に移行することが可能となる。
【0074】
(b)脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとを入り状態に設定する操作具を押しボタン型のスイッチで構成する。このように構成することで操作形態が単純化する。また、操作具をレバー型ではなく、アクセル設定ダイヤル47と同様に回転操作型に構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、走行速度を無段階に設定する無段変速装置と、穀粒の排出を行うための排出クラッチとを有する自脱型や普通型のコンバイン全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 走行装置
3 エンジン
5 無段変速装置
34 アンローダ
43 変速操作具(主変速レバー)
47 回転速度設定具(アクセル設定ダイヤル)
88 回転速度制御手段
A 車体
F 穀粒タンク(グレンタンク)
Cf 排出クラッチ
ST 停車位置
Fa 変速領域・前進領域
Ra 変速領域・後進領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたコンバインとしては特許文献1には、変速レバーの操作により走行速度を変速する油圧式無段変速装置を備え、グレンタンクの穀粒を排出するアンローダを備えた構成が示されている。この特許文献1ではエンジン負荷に基づいて車速を変更する車速制御手段を備えており、エンジンストップを回避しながらエンジンの能力を有効活用する点が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、作業開始指令が指令されると、アクセル手段を定格回転速度にし、作業クラッチを入り状態に設定する制御形態が記載されている。
【0004】
具体的には、エンジンから脱穀装置に伝えられる動力の断続を行う作業クラッチとしてベルトテンション式の脱穀クラッチが備えられ、エンジンの回転速度をアイドリング回転速度と定格回転速度とに切り換えるアクセル手段としてアクセル装置が備えられている。この特許文献2では、アクセル操作具が人為操作された場合、及び、電動モータの作動によりアクセル操作具が操作された場合に、アクセルケーブルを介してアクセル装置を操作するとともに、脱穀クラッチの断続操作が行われる制御形態が記載されている。
【0005】
更に、この特許文献2では、アクセル操作具がアイドリング位置にある状態で電動モータにより脱穀クラッチを入り状態に操作する作動が開始されると、脱穀クラッチの入り操作に連係して作動する操作部の接当によりアクセル操作具が移動操作され定格回転速度の位置に達し、エンジンも定格回転速度に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010‐57409号公報
【特許文献2】特開2009‐89618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来からのコンバインでは、非作業時にエンジンをアイドリング速度で回転させ、稲の収穫作業を行う際や、車体を走行させる際には、エンジンの回転速度を定格回転速度まで上昇させている。つまり、収穫作業を行う場合にはエンジンの回転速度を定格回転速度(エンジンから最大の出力を得る高速の回転速度)まで上昇させることにより脱穀処理部と刈取前処理部とからの負荷によってエンジンストップを招かない制御を行っている。また、収穫作業を行わずに車体を走行させる場合でもエンジンストップを招かないようにエンジンの回転速度を定格回転速度に設定する制御が行われている。
【0008】
穀粒を貯留する穀粒タンクを備え、この穀粒タンクから穀粒を排出するアンローダを備えたコンバインでは、アンローダを作動させて穀粒タンクから穀粒を排出する際にもエンジンの回転速度を上昇させる必要がある。
【0009】
そこで、アンローダで穀粒を排出する際にエンジンを定格回転速度まで上昇させることも考えられるが、この定格回転速度は、脱穀装置と刈取前処理部とでの作業を可能にする高い出力を得るものであるため、この定格回転速度でアンローダを作動させた場合にはスクリュー等の回転速度が高速化し過ぎ、スクリュー等が穀粒に強く接触して穀粒を傷めることもあり、このような不都合を解消する点や、燃料を無駄に消費する点において改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、車体を走行させる場合と、アンローダで穀粒の排出を行う作業とにおいて必要とする回転速度でエンジンを稼動させ得るコンバインを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインであって、
前記変速操作具は、前記車体を停車させる停車位置と、前記無段変速装置を無段階に変速する変速領域とに操作自在に構成され、前記エンジンの回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記エンジンの目標回転速度を人為的に設定する回転速度設定具とが備えられ、前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置にあり、かつ、前記排出クラッチが切り状態にある場合には、前記エンジンの回転速度をアイドリング速度に設定すると共に、前記変速操作具が、前記変速領域に操作された場合に前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定し、前記排出クラッチが入り状態に設定された場合に前記エンジンの回転速度を前記回転速度設定具で設定される目標回転速度に設定する点にある。
【0012】
この構成によると、変速操作具が停車位置にあり、かつ、排出クラッチが切り状態にある場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度をアイドリング速度に設定することによりエンジンの稼動音の低減と燃料の消費とを抑制する。また、変速操作具が変速領域に操作された場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度を定格回転速度に設定する。このようにエンジンの回転速度を定格回転速度に設定することでエンジンストップを招くことのない走行を実現する。更に、排出クラッチが入り状態に操作された場合には回転速度制御手段がエンジンの回転速度を、回転速度設定具で設定された目標回転速度に設定する。つまり、穀粒タンクの穀粒を排出する際には、作業者が設定した任意の回転速度にエンジンの回転速度を設定することによりアンローダにおいて穀粒に対して過剰な力が作用する不都合を抑制するとともに燃料の無駄な消費を抑制する。
その結果、車体を走行させる場合と、アンローダで穀粒の排出を行う作業とにおいて必要とする回転速度でエンジンを稼動させ得るコンバインが構成された。
【0013】
本発明は、前記無段変速装置が、前記車体の前進速度と後進速度とを無段階に変速するように構成され、前記変速操作具は、前記停車位置を基準にして一方側に形成される前進領域と、前記停車位置を基準にして他方側に形成される後進領域とに操作自在に構成され、前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置から前記前進領域と後進領域との何れの領域に操作された場合にも、前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定しても良い。
【0014】
これによると、変速操作具が中立位置にある場合には燃料の消費を抑制し、変速操作具が前進領域と後進領域との何れに操作された場合にも、エンジンストップのない走行を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コンバイン全体を示す側面図である。
【図2】コンバイン全体を示す平面図である。
【図3】コンバインの伝動系を概略的に示す図である。
【図4】運転部の平面図である。
【図5】操向レバーの側面と正面とを示す図である。
【図6】作業クラッチレバーの操作領域を示す平面図である。
【図7】フロント操作パネルとサイド操作パネルとの平面図である。
【図8】作業クラッチレバーの操作位置と検出形態を示す側面図である。
【図9】脱穀クラッチと刈取クラッチとの操作構造を模式的に示す図である。
【図10】穂先センサの配置を示す正面図である。
【図11】操向制御と昇降制御の制御構成を示すブロック回路図である。
【図12】エンジン回転速度の制御構成を示すブロック回路図である。
【図13】エンジン回転制御ルーチンのフローチャートである。
【図14】レバー類とエンジン回転制御との関係を一覧化した図である。
【図15】エンジン回転数の変化をグラフ化して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1〜図3に示すように、左右一対のクローラ走行装置1で走行する車体Aの前部位置にキャビンBaを有した運転部Bと、刈取前処理部Dとを並列配置すると共に、車体Aに刈取前処理部Dからの穀稈が供給される脱穀処理部Eと、穀粒を貯留するグレンタンクF(穀粒タンク)とを備えてコンバインが構成されている。
【0017】
キャビンBaの内部の運転座席2の下方位置にエンジン3が配置され、車体Aの前部の中央位置にはエンジン3からの駆動力を左右のクローラ走行装置1に伝えるミッションケース4が備えられている。
【0018】
ミッションケース4の上部には、走行方向の前後進の切り換えと走行速度の無段階の変速とを行う静油圧式の無段変速装置5が備えられている。ミッションケース4は、無段変速装置5から伝えられる走行速度を高低2段に切り換える副変速装置(図示せず)と、左右のクローラ走行装置1の駆動スプロケット1Sに伝えられる駆動力を断続する油圧作動型の操向クラッチ4Cとを内装している。
【0019】
エンジン3の出力軸に備えた第1出力プーリ3aと無段変速装置5の入力プーリ5aとに亘って無端ベルト6を巻回して走行伝動系が形成されている。
【0020】
刈取前処理部Dは、植立穀稈を分草するデバイダ11と、植立穀稈を多数の引起し爪で引き起こす複数の引起し装置12と、穀稈の株元を切断する刈取装置13と、刈り取られた穀稈を搬送する穀稈搬送装置14と、円筒状の部材で成る支持フレーム15とを備えている。この支持フレーム15は前端側が斜め下方に向かう姿勢で配置され、その基端部が横向軸芯P周りで揺動自在に車体Aに支持されている。この支持フレーム15は昇降シリンダ16の駆動力で横向き軸芯P周りで揺動し、この揺動により刈取前処理部Dの昇降が実現する。
【0021】
支持フレーム15は内部に備えた駆動軸(図示せず)からの駆動力を刈取前処理部Dの引起し装置12と、刈取装置13と、穀稈搬送装置14とに対して伝える伝動ケースとして機能する。この支持フレーム15の基端部で横向き軸芯Pと同軸芯上に、支持フレーム内部の駆動軸に駆動力を伝える刈取入力プーリ21を備え、この刈取入力プーリ21とミッションケース4の刈取出力プーリ22とに亘って無端ベルト23を巻回し、無端ベルト23に張力を作用させるテンションプーリ24を備えてベルトテンション式となる刈取クラッチCdが構成されている。
【0022】
脱穀処理部Eは、刈取前処理部Dから供給される穀稈を挟持搬送するフィードチェーン31と、フィードチェーン31で挟持搬送される穀稈の穂先部に扱き作用を与える扱胴32と、選別風を供給する唐箕33とを備えている。この脱穀処理部Eでは、扱胴32の扱き作用によって穂先から分離した処理物を受網(図示せず)から漏下させ、唐箕33からの選別風と揺動選別部(図示せず)による比重選別により処理物から穀粒を選別回収する選別処理を行い、選別回収された穀粒をグレンタンクFに送り出す処理を行う。
【0023】
エンジン3の出力軸に一対の第2出力プーリ3bを備え、脱穀処理部Eには扱胴32に駆動力を伝える扱胴入力プーリ32bと、唐箕33に駆動力を伝える唐箕入力プーリ33bとを備えている。また、第2出力プーリ3bの一方と扱胴入力プーリ32bとに亘って無端ベルト26を巻回し、第2出力プーリ3bの他方と唐箕入力プーリ33bとに亘って無端ベルト26を巻回し、この一対の無端ベルト26に張力を作用させる一対のテンションプーリ27を備えてベルトテンション式の脱穀クラッチCeが構成されている。尚、脱穀クラッチCeは一対のテンションプーリ27を同時に操作することになる。
【0024】
グレンタンクFは、脱穀処理部Eからの穀粒を貯留する穀粒タンクとして機能するものであり、穀粒を搬出するアンローダ34を備えている。このアンローダ34は排出端の上下位置の調節と、縦軸芯周りでの旋回が可能な構造を有しており、穀粒の排出位置を任意に設定できるように構成されている。
【0025】
グレンタンクFの底部に備えた底スクリュー38と、アンローダ34に内蔵された排出スクリュー34Sとがギヤ式に連動し、底スクリュー38の前端に駆動力を伝える中間伝動機構39に排出駆動プーリ39aが備えられている。この排出駆動プーリ39aとエンジン3の出力軸に備えた第3出力プーリ3cとの間に無端ベルト40を巻回し、この無端ベルト40に張力を作用させるテンションプーリを備えることで動力を伝えるテンション式の排出クラッチCfが構成されている。この構成から排出クラッチCfが入り状態に設定されることで、エンジン3の駆動力を底スクリュー38からアンローダ34の排出スクリュー34Sに伝え、グレンタンクFの穀粒の排出が行われる。
【0026】
〔運転部〕
前述したキャビンBaは、上部にルーフ36を備え、前部や側部にガラス37等を備えることで作業者の運転空間を形成し、この運転空間に前述した運転座席2が備えられている。図4に示すように、運転座席2の前部位置には、操向レバー41と、メータユニット42と、フロント操作パネルFPとが備えられている。運転座席2の左側部位置には変速操作具としての主変速レバー43と、副変速レバー44と、作業操作具としての作業クラッチレバー45と、サイド操作パネルSPとが配置されている。
【0027】
また、運転座席2の左後方位置には排出クラッチレバー46が配置され、運転座席2の両側部にはアンローダ34の排出側端部の方向と高さを設定することで穀粒の排出位置を制御するコントローラ57の配置空間Sが形成され、この運転座席2の後部にはエアクリーナ58が配置されている。更に、運転座席2の後方の壁部Wには電力を取り出すコネクタ59が備えられている。尚、コントローラ57にはアンローダ34の方向を決める複数のボタンが備えられると共に、取り扱いの自由度を高めるようにコードによって制御系に接続されている。コネクタ59はキャビンBaの内部で電気機器を使用する際(携帯電話機の充電など)の電源として利用される。
【0028】
操向レバー41は、車体Aの操向制御と刈取前処理部Dの昇降制御とを実現する。つまり、この操向レバー41は非操作状態で図5(a)、(b)に示す中立位置Nに保持され、この中立位置Nに保持されることで左右の操向クラッチ4Cを入り状態(伝動状態)に維持し、左右のクローラ走行装置1を等速駆動して車体Aを直進させる。また、操向レバー41を左右に揺動操作することにより揺動操作方向に対応した操向クラッチ4Cを切り操作(伝動を遮断する操作)して揺動操作方向へ車体Aを旋回(操向)させる。
【0029】
この操向レバー41を前方に揺動操作することにより、昇降シリンダ16を制御して揺動量(揺動角)に対応した速度で刈取前処理部Dを下降させ、操作を解除して中立位置Nに戻すことで刈取前処理部Dの下降が停止する。また、操向レバー41を後方に揺動操作することにより、昇降シリンダ16を制御して揺動量(揺動角)に対応した速度で刈取前処理部Dを上昇させ、操作を解除して中立位置Nに戻すことで刈取前処理部Dの上昇が停止する。
【0030】
更に、この操向レバー41のグリップ部には、車体Aのローリング制御を行う複数の操作スイッチ41aが備えられると共に、ボタン式の上昇スイッチ41Uと下降スイッチ41Dとが備えられている。上昇スイッチ41Uは押し操作することで、押し操作を継続しなくとも設定高さまで刈取前処理部Dを上昇させ、この上昇状態において下降スイッチ41Dを操作することで、押し操作を継続しなくとも、設定高さまで刈取前処理部Dを下降させる制御を実現する。尚、車体Aのローリング制御は左右のクローラ走行装置1の接地側を独立して上下作動させることによって実現するものあるが、公知の技術であるため作動構成や作動形態の説明は省略する。
【0031】
メータユニット42は、エンジン回転速度、副変速位置、燃料残量等が表示される。フロント操作パネルFPには、図7(a)に示すようにエンジン3の目標回転速度を設定するアクセル設定ダイヤル47(目標回転速度設定具の一例)と、このアクセル設定ダイヤル47の人為操作により設定される目標回転速度でエンジン3を常時回転させるモードを選択するモードスイッチ47Aとが備えられている。更に、このメータユニット42には、車体のローリング制御の制御条件等を設定する複数のボタンやランプを有したローリング設定部48と、収穫作業時における車体Aの刈取条件を設定する複数のボタンを有した刈取条件設定部49とが備えられている。尚、エンジン3の回転速度とは単位時間あたりのエンジン3の回転数である。
【0032】
主変速レバー43(変速操作具の一例)は、前述した無段変速装置5の制御系と機械的に連係しており、操作を行うことにより車体Aの前進と後進との切換と、速度の設定を実現する。副変速レバー44は、ミッションケース4に内蔵されたギヤ式の副変速装置と機械的に連係しており、操作を行うことにより走行速度を高低2段の変速を実現する。特に、主変速レバー43は、図12に示すように、停車位置STを基準にして前方側の前進領域Faと、後方側の後進領域Raとに操作自在に構成され、停車位置STから前進領域Faに操作することで操作量に伴い車体Aの前進速度を増大させ、停車位置STから後進領域Raに操作することで操作量に伴い車体Aの後進速度を増大させる。尚、前進領域Faと後進領域Raとが変速領域の具体例である。
【0033】
作業クラッチレバー45(作業操作具の一例)は、脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとを断続する操作具として機能するものであり、図6に示すようにホーム位置に対応する非作業位置OFFから、収穫作業モードを実現する収穫作業位置ONに亘る直線的な操作領域において操作自在に構成され、この操作領域の中間位置に脱穀作業モードを実現する脱穀作業位置Mが配置されている。この作業クラッチレバー45の操作による脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとの制御形態は後述する。
【0034】
サイド操作パネルSPには、図7(b)に示すように車体Aの側部に出退自在に備えた分草杆(図示せず)の姿勢を決める一対の分草杆操作スイッチ51と、刈取前処理部Dの対地高さを設定するダイヤルやボタン類を有する刈高さ設定部52と、脱穀処理部Eの扱胴32に対する穀稈の挿入量を適正に維持する扱深さ制御を実現するようにON状態とOFF状態とに切換自在な扱深さスイッチ53と、前述した上昇スイッチ41U及び下降スイッチ41Dの操作による刈取前処理部Dの上昇時及び下降時において刈取クラッチCdの切り操作及び刈取クラッチCdの入り操作を実現するオートクラッチスイッチ54と、車体Aの走行速度を設定する車速設定ダイヤルやボタン類を備えた車速設定部55と、脱穀処理部Eにおいて揺動選別部の選別性能を設定するダイヤル及び唐箕33の風量を設定するダイヤル等を有した選別性能設定部56とを備えている。
【0035】
排出クラッチレバー46は、排出クラッチCfと機械的に連係しており、図12に示す「切」位置に設定されることで排出クラッチCfを切り状態に設定し、「入」位置に設定されることで排出クラッチCfを入り状態に設定する。そして、入り状態ではグレンタンクFの穀粒をアンローダ34を介して排出する作動を実現する。
【0036】
〔作業クラッチレバー等の具体構成〕
図6及び図8に示すように、作業クラッチレバー45は、レバーガイド61の操作領域において直線的な操作を実現するように支軸62周りで揺動自在に支持されると共に、この作業クラッチレバー45と一体的に作動するカム体63が形成されている。このカム体63のカム面63Sに接触することで作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mにあることを検出する脱穀位置センサ64と、収穫作業位置ONにあることを検出する収穫位置センサ65とを備えている。
【0037】
図面には示していないが、作業クラッチレバー45は、非作業位置OFFと、収穫作業位置ONと、脱穀作業位置Mとの何れの作業位置にも保持されるように摩擦式やボールデテント式等の操作位置保持機構からの保持力が作用する。
【0038】
尚、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFから脱穀作業位置Mを含む領域に操作されると脱穀位置センサ64が検出状態に達し、この検出状態は作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONまで操作されても継続する。また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONを含む領域に操作されると収穫位置センサ65が検出状態に達する。この検出系は、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mを含む領域と、収穫作業位置ONを含む領域と、これらに含まれない領域(非作業位置OFF)との何れに存在するかの判別を可能にする。
【0039】
脱穀位置センサ64と収穫位置センサ65とはリミットスイッチで構成されるものであるが、例えば、これらに近接センサや、フォトインタラプタ型の非接触センサを用いることが可能であり、また、これらに代えてポテンショメータを用い、作業クラッチレバー45の揺動角度を計測するように構成しても良い。特に、ポテンショメータを用いた場合には、作業クラッチレバー45の操作位置の検出精度を向上させる。
【0040】
図9に示すように、フレーム66に回転自在に支承した支軸67と一体回転するようにセクタギヤ68と第1カムプレート69と第2カムプレート70とを備え、セクタギヤ68に噛合するピニオンギヤ71を駆動するように電動モータで成るクラッチモータ72をフレーム66に備えている。更に、支軸67の回転量を検出するためにポテンショメータで成る回転角センサ67Sを備えている。
【0041】
フレーム66に支持した軸体73に第1アーム74と第2アーム75とを揺動自在に支持している。第1アーム74の一端側には第1カムプレート69のカム面に接触自在な第1ローラ74Rを回転自在に支承し、第2アーム75の一端側には第2カムプレート70のカム面に接触自在な第2ローラ75Rを回転自在に支承している。また、第1アーム74の他端側に脱穀クラッチCeを操作する第1操作ワイヤ76のインナ部76aを連結し、第2アーム75の他端側に刈取クラッチCdを操作する第2操作ワイヤ77のインナ部77aを連結している。
【0042】
前述した脱穀クラッチCeのテンションプーリ27はテンションアーム27Aに支承され、このテンションアーム27Aは軸27S周りで揺動自在に支持され、このテンションアーム27Aに対して第1操作ワイヤ76のインナ部76aが連結している。これと同様に、刈取クラッチCdのテンションプーリ24はテンションアーム24Aに支承され、このテンションアーム24Aは軸24S周りで揺動自在に支持され、このテンションアーム24Aに対して第2操作ワイヤ77のインナ部77aが連結している。
【0043】
〔扱深さ制御機構〕
図3に示すように、前述した穀稈搬送装置14は、刈り取り直後の穀稈をフィードチェーン31に受け渡すように穀稈の株元を無端チェーンと挟持レールとで挟持搬送する株元搬送部14Aと、穀稈の穂先側を多数の係止爪によって係止搬送する穂先搬送部14Bとを備えており、株元搬送部14Aの搬送終端側には、株元をフィードチェーン31に受け渡す供給搬送部14AFを備えている。
【0044】
この供給搬送部14AFは、軸芯Q周りで揺動自在に穀稈搬送装置14に支持され、この供給搬送部14AFの軸芯Q周りでの揺動により、この供給搬送部14AFからフィードチェーン31に受け渡す穀稈の稈身方向の位置を変更して扱深さ調節を行う扱深さ制御を実現する。
【0045】
この扱深さ制御機構は、供給搬送部14AFの軸芯Q周りでの揺動を行うように電動モータを有した扱深さ調整ユニット17を備えると共に、図10に示すように穀稈搬送装置14の搬送終端部に2つの穂先センサ19を備えている。穂先センサ19は穀稈の穂先部分に接触して揺動自在なセンサバー19aと、このセンサバー19aの揺動を検出するセンサ本体19bとを備えている。そして、制御時には、2つの穂先センサ19のセンサバー19aの中間位置に穀稈の穂先位置が存在するように供給搬送部14AFの揺動制御が行われる。
【0046】
〔制御構成〕
このコンバインでは、図11、図12に示すようにマイクロプロセッサやDSP等を有し複数の処理を並行して実行可能な制御装置81を有している。この制御装置81のうち操向レバー41の操作に基づく刈取前処理部Dの昇降制御と、操向制御とを行う機能構成を図11に示し、作業クラッチレバー45や主変速レバー43等の操作に基づくエンジン3の回転速度の制御と、扱深さ制御とを行う機能構成を図12に示している。
【0047】
図11に示すように、制御装置81に対し、操向レバー41の前後方向及び左右方向の揺動操作量を検出する操作検出ユニット41Sと、上昇スイッチ41Uと、下降スイッチ41Dとからの信号が入力する入力信号系が形成されている。この制御装置81では、昇降シリンダ16に対する作動油の給排を行う電磁制御型の昇降制御弁82と、左右の操向クラッチ4Cを制御する電磁制御型の操向制御弁83とに制御信号を出力する出力信号系が形成されている。更に、制御装置81には、刈取前処理部Dの昇降制御を実現する昇降制御手段85と、車体Aの操向制御を実現する操向制御手段86とを備えている。
【0048】
尚、昇降制御手段85と、操向制御手段86とはソフトウエアで構成されるものを想定しているが、これに代えて、例えば、これらをロジック等の論理回路で構成することや、論理回路とソフトウエアとの組み合わせで構成しても良い。
【0049】
このような構成から、作業者が操向レバー41を左右方向に操作した場合には、この操作が操作検出ユニット41Sによって検出され、操向制御手段86が操向制御弁83を制御することで対応する操向クラッチ4Cが切り操作され、揺動操作方向への旋回(操向)が実現する。また、作業者が操向レバー41を前後方向に揺動操作した場合には、この操作が操作検出ユニット41Sによって検出され、昇降制御手段85が昇降制御弁82を制御して昇降シリンダ16を作動させることで揺動量(揺動角)に対応した速度での刈取前処理部Dを下降又は上昇が実現する。また、操向レバー41が中立位置Nに戻された場合には刈取前処理部Dの下降又は上昇が停止する。
【0050】
図12に示すように、制御装置81は、主変速レバー43の操作領域を検出する変速領域センサ43Sと、排出クラッチレバー46の操作位置を検出する操作位置センサ46Sと、モードスイッチ47Aと、回転速度設定具として機能するアクセル設定ダイヤル47の設定位置を検出するポテンショメータ型のアクセル設定器47Sと、扱深さスイッチ53と、作業クラッチレバー45の操作位置を検出する脱穀位置センサ64及び収穫位置センサ65と、回転角センサ67Sと、2つの穂先センサ19とからの信号が入力する入力信号系が形成されている。
【0051】
変速領域センサ43Sは、主変速レバー43が停車位置STと、これ以外の変速領域との何れの領域に存在するかを判別する機能を有するものであれば良く、ポテンショメータを用いることも考えられるがリミットスイッチを用いても良い。操作位置センサ46Sは、排出クラッチレバー46が「切」位置と「入」位置との何れの位置にあるかを判別する機能を有するものであれば良く、リミットスイッチが用いられている。
【0052】
また、制御装置81は、エンジン3の回転速度を制御するエンジン回転制御ユニット84と、クラッチモータ72と、扱深さ調整ユニット17とに制御信号を出力する出力信号系が形成されている。更に、制御装置81には、エンジン3の回転速度の制御を実現する回転速度制御手段88と、脱穀クラッチCe及び刈取クラッチCdの制御を実現するクラッチ制御手段87と、扱深さ制御を実現する扱深さ制御手段89とを備えている。
【0053】
尚、クラッチ制御手段87と、回転速度制御手段88と、扱深さ制御手段89とはソフトウエアで構成されるものを想定しているが、これに代えて、例えば、これらをロジック等の論理回路で構成することや、論理回路とソフトウエアとの組み合わせで構成しても良い。
【0054】
このような構成から、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにある場合には、脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとが切り状態に維持され、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mに設定された場合には、クラッチ制御手段87がクラッチモータ72を作動させて脱穀クラッチCeを入り状態にする。更に、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに設定された場合には、クラッチ制御手段87がクラッチモータ72を作動させることにより脱穀クラッチCeを入り状態に維持したまま、刈取クラッチCdを入り状態に設定する。
【0055】
このようにクラッチモータ72が作動する際には前述した回転角センサ67Sの検出結果がクラッチ制御手段87にフィードバックされることで第1カムプレート69と、第2カムプレート70との回転量が把握される。そして、クラッチモータ72の作動により第1カムプレート69が第1アーム74の第1ローラ74Rに接触することで第1操作ワイヤ76を介して脱穀クラッチCeを先に入り状態に設定する。この後、第2カムプレート70が第2アーム75の第2ローラ75Rに接触することで第2操作ワイヤ77を介して刈取クラッチCdを入り状態に設定する作動順序で作動が行われる。
【0056】
また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに設定された場合には、図14(a)に示すように、扱深さ制御手段89が扱深さ制御を実行し、この扱深さ制御では、穂先センサ19の信号をフィードバックする形態で扱深さ調整ユニット17が供給搬送部14AFを作動させる。また、扱深さ制御は、扱深さスイッチ53がON状態にある場合に実行されるものであり、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合には、扱深さ制御は実行されない。
【0057】
特に、この制御装置81では、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46と、作業クラッチレバー45との何れの操作に基づいて、回転速度制御手段88がエンジン3の回転速度を制御する点に特徴を有しており、この制御形態について次に説明する。
【0058】
〔作業クラッチレバー等の操作に基づく制御の概要〕
回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46との何れかの操作に基づいてエンジン3の回転速度を設定する制御を実行する。この制御はモードスイッチがON状態にある場合に実行されるものでありモードスイッチがOFF状態にある場合には、エンジン3の回転速度を常にアクセル設定ダイヤル47のダイヤル値(目標回転速度)に設定する制御が行われる。
【0059】
つまり、図14(a)に示すように、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに設定されている場合には、エンジン3の回転速度をアイドリング速度(同図ではアイドリングと記載)に設定し、非作業位置OFFから脱穀作業位置Mに操作された場合には、エンジン3の回転速度を定格回転速度(同図では定格回転と記載)まで上昇させ、収穫作業位置ONに設定された場合には定格回転速度を維持する。また、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONから脱穀作業位置Mに操作に戻された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に維持し、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。ここで、定格回転速度とはエンジン3から最も高い出力を得る回転速度であり上限に近い回転速度である。
【0060】
また、図14(b)に示すように、主変速レバー43が停車位置STに設定されている場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定し、前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度まで上昇させる。このように主変速レバー43が変速域(前進領域Faと後進領域Raの何れか)に操作された後に停車位置STに戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0061】
また、図14(c)に示すように、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に設定されている場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定し、入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定されたダイヤル値(目標回転速度)に設定する。この操作の後に、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0062】
特に、この回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と、主変速レバー43と、排出クラッチレバー46とのレバーのうち2つ以上が同時に操作された場合には以下のような制御を行う。
【0063】
作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mと収穫作業位置ONとの何れかに操作された場合、又は、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定された場合において、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。また、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置M又は収穫作業位置ONに操作され、かつ、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定された場合において、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。
【0064】
その具体例を挙げると、排出クラッチレバー46が「入」位置に操作された場合には、エンジン3の回転速度がダイヤル値に設定されるものであるが、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mに操作される場合と、主変速レバー43が変速領域(前進領域Faあるいは後進領域Ra)に設定される場合との少なくとも一方の場合にあると、エンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。この後、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFに戻され、主変速レバー43が停車位置STに戻される状態に達すると、排出クラッチレバー46が既に「入」位置にあるので、エンジン3の回転速度をダイヤル値に設定する。
【0065】
このように、回転速度制御手段88は、作業クラッチレバー45と主変速レバー43と排出クラッチレバー46との操作によりエンジン3の目標とする回転速度が異なる場合には、高速となる回転速度を選択し、エンジン3の目標とする回転速度が同じ場合には同じ回転速度を選択するように制御形態が設定され、モードスイッチがOFF状態にある場合には、これらの制御に優先してエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47のダイヤル値(目標回転速度)に設定するのである。
【0066】
〔エンジン回転制御ルーチン〕
回転速度制御手段88によるエンジン3の回転速度の制御の概要を図13のフローチャートのように示すことが可能である。
【0067】
モードスイッチ47AがOFF状態にある場合には、レバー類がどのように操作されてもエンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定される目標回転速度としてのダイヤル値に設定する(#01、#02ステップ)。このようにモードスイッチ47AがOFF状態にあれば、アクセル設定ダイヤル47の回転操作によりエンジン3の回転速度を任意の値に設定できる。
【0068】
また、モードスイッチ47AがON状態にある場合には、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにない場合、及び、主変速レバー43が停車位置STにない場合にエンジン3の回転速度を定格回転速度(フローチャートには定格回転と記載)に設定する(#03〜#05ステップ)。つまり、作業クラッチレバー45が脱穀作業位置M又は収穫作業位置ONに操作された場合、又は、主変速レバー43が前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に設定されている場合の少なくとも一方の場合にはエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定する。
【0069】
回転速度制御手段88は、主変速レバー43が停車位置STから前進領域Faと後進領域Raとの何れかの変速領域に設定された場合には、図15に示すように短時間のうちにエンジン3の回転速度を定格回転速度に設定するためエンジン3の駆動力が不足することなく走行を開始できるようにしている。尚、例えば、変速操作量に対応してエンジン3の回転速度を制御するもののようにエンジン3の回転速度が迅速に行われないものでは同図において破線で示す如くエンジン3の回転速度を徐々に高めることになるが、この回転速度制御手段88のように短時間のうちにように定格回転速度に設定するものでは主変速レバー43の操作に反応良くエンジン3の回転速度を定格回転速度まで上昇させて変速を実現する。
【0070】
更に、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFにあり、しかも、主変速レバー43が停車位置STにある状態において、排出クラッチレバー46が切り位置「切」にある場合には、エンジン3をアイドリング速度(フローチャートにはアイドリングと記載)で回転させ、排出クラッチレバー46が入り位置「入」にある場合には、エンジン3の回転速度をアクセル設定ダイヤル47で設定される目標回転速度としてのダイヤル値に設定する(#06、#07、#02ステップ)。
【0071】
このように、作業が行われない場合には、エンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定することにより、エンジン3の無駄な稼動を抑制して燃料の無駄な消費を抑制する。また、作業を行うためにレバー類を操作した場合には、エンジン3の回転速度を定格速度まで増大させることにより過負荷によるエンジンストップを回避できるものにしている。特に、排出クラッチレバー46が入り位置「入」に操作された場合には、エンジン3の回転速度をダイヤル値に設定することにより、エンジン3の回転速度を定格回転速度より低速となるダイヤル値に設定して穀粒(籾)に過剰な力を作用させる不都合を回避して籾を傷めることなく排出を行える。そして、排出クラッチレバー46が切り位置「切」に戻された場合にはエンジン3の回転速度をアイドリング速度に設定する。
【0072】
また、図14(a)に示すように、扱深さスイッチ53がON状態にある場合において、作業クラッチレバー45が非作業位置OFFと脱穀作業位置Mとの何れかに設定されている場合には扱深さ制御は行われず、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに操作された場合にのみ扱深さ制御が行われ、作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONから脱穀作業位置Mに戻された場合に扱深さ制御が停止する。このような扱深さ制御を行うために作業者が特別にスイッチ類を操作しなくて済むものとなる。これにより、作業クラッチレバー45を脱穀作業位置M以外の位置に設定した場合でも、扱深さ制御により供給搬送部14AFが作動する不都合を回避して無駄な作動が抑制される。更に、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合には作業クラッチレバー45が収穫作業位置ONに操作されても、扱深さ制御は実行されない。尚、扱深さスイッチ53がOFF状態にある場合でも、図示しないスイッチを操作することで電動モータの駆動力により供給搬送部14AFを作動させ、人為操作による扱深さの調節を行うことも可能である。
【0073】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
(a)作業クラッチレバー45が脱穀作業位置Mと収穫作業位置ONとの何れの位置に操作された場合でも、扱深さ制御を実行するように制御形態を設定しても良い。このように制御形態を設定することにより、例えば、作業クラッチレバー45を非作業位置OFFから収穫作業位置ONに対して短時間のうちに操作した場合でも、脱穀作業位置Mを通過する時点で扱き深さ制御が開始され、収穫作業に迅速に移行することが可能となる。
【0074】
(b)脱穀クラッチCeと刈取クラッチCdとを入り状態に設定する操作具を押しボタン型のスイッチで構成する。このように構成することで操作形態が単純化する。また、操作具をレバー型ではなく、アクセル設定ダイヤル47と同様に回転操作型に構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、走行速度を無段階に設定する無段変速装置と、穀粒の排出を行うための排出クラッチとを有する自脱型や普通型のコンバイン全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 走行装置
3 エンジン
5 無段変速装置
34 アンローダ
43 変速操作具(主変速レバー)
47 回転速度設定具(アクセル設定ダイヤル)
88 回転速度制御手段
A 車体
F 穀粒タンク(グレンタンク)
Cf 排出クラッチ
ST 停車位置
Fa 変速領域・前進領域
Ra 変速領域・後進領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインであって、
前記変速操作具は、前記車体を停車させる停車位置と、前記無段変速装置を無段階に変速する変速領域とに操作自在に構成され、
前記エンジンの回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記エンジンの目標回転速度を人為的に設定する回転速度設定具とが備えられ、
前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置にあり、かつ、前記排出クラッチが切り状態にある場合には、前記エンジンの回転速度をアイドリング速度に設定すると共に、前記変速操作具が、前記変速領域に操作された場合に前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定し、前記排出クラッチが入り状態に設定された場合に前記エンジンの回転速度を前記回転速度設定具で設定される目標回転速度に設定するコンバイン。
【請求項2】
前記無段変速装置が、前記車体の前進速度と後進速度とを無段階に変速するように構成され、前記変速操作具は、前記停車位置を基準にして一方側に形成される前進領域と、前記停車位置を基準にして他方側に形成される後進領域とに操作自在に構成され、
前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置から前記前進領域と後進領域との何れの領域に操作された場合にも、前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定する請求項1記載のコンバイン。
【請求項1】
車体に備えたエンジンから走行装置に伝えられる動力を無段階に変速する無段変速装置と、人為操作により前記無段変速装置の変速を行う変速操作具と、車体に備えた穀粒タンクの穀粒を排出するアンローダと、前記エンジンから前記アンローダへの駆動力を断続する排出クラッチとを備えているコンバインであって、
前記変速操作具は、前記車体を停車させる停車位置と、前記無段変速装置を無段階に変速する変速領域とに操作自在に構成され、
前記エンジンの回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記エンジンの目標回転速度を人為的に設定する回転速度設定具とが備えられ、
前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置にあり、かつ、前記排出クラッチが切り状態にある場合には、前記エンジンの回転速度をアイドリング速度に設定すると共に、前記変速操作具が、前記変速領域に操作された場合に前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定し、前記排出クラッチが入り状態に設定された場合に前記エンジンの回転速度を前記回転速度設定具で設定される目標回転速度に設定するコンバイン。
【請求項2】
前記無段変速装置が、前記車体の前進速度と後進速度とを無段階に変速するように構成され、前記変速操作具は、前記停車位置を基準にして一方側に形成される前進領域と、前記停車位置を基準にして他方側に形成される後進領域とに操作自在に構成され、
前記回転速度制御手段は、前記変速操作具が前記停車位置から前記前進領域と後進領域との何れの領域に操作された場合にも、前記エンジンの回転速度を定格回転速度に設定する請求項1記載のコンバイン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−90607(P2012−90607A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242631(P2010−242631)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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