説明

コークス炉補修用耐火物

【課題】 室炉式コークス炉の炭化室の炉壁に生じた目地切れや亀裂を効率的に補修し、その補修の効果を長期間にわたって維持できること。
【解決手段】
本発明は、黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材を5〜50質量%、粉末状フリットを3〜30質量%、残部が酸化物系材料からなることを特徴とするコークス炉補修用耐火物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室炉式コークス炉炉壁、特に炭化室壁に生じた目地切れ、亀裂等の損傷部に対する補修に使用される粉末状耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄原料としてのコークスは、一般に石炭を室炉式コークス炉によって乾留することにより製造する。この室炉式コークス炉は、石炭を乾留する炭化室と、高温の乾留ガスを流通させるための燃焼室を、交互に並列させた構造となっている。炭化室の炉壁は珪石れんがより構成されているが、乾留時には1000℃を超える高温に達することから、炉壁の劣化が激しく、目地切れや亀裂が多く発生している。これらの損傷を放置し、炭化室に原料炭を装入して乾留を続ければ、発生したコークスガスが目地切れ部を通って燃焼室へ漏洩し、不完全燃焼を起こして操業に支障をきたすとともに、炉寿命の低下が生じたり、煙突からの黒煙発生が生じたりする原因となる。従来、このような問題に対しては、炭化室の炉壁の亀裂等を補修することにより、コークスガスが燃焼室へ漏れ出さないようにしていた。
【0003】
炉壁の亀裂等を補修する方法としては、例えば、溶射材や吹き付け補修材で補修する方法、加圧した炭化室内に耐火粉末を充満させることにより亀裂部を塞ぐ方法(ドライシール法またはダスティング法という)がある。本発明は、ドライシール法でのコークス炉の補修に関するものである。
【0004】
ドライシール法は、作業が比較的簡便であり、炉壁全面にわたって発生している小さな亀裂に対応できる利点がある。ドライシール法の一例としては、例えば、特開平11−335668(特許文献1)には粒度の異なる2種類の材料を吹き込む方法が開示されている。また、特開2004−256755(特許文献2)には発泡材を活用した材料が、特開2004−262996(特許文献3)には平均粒径を特定した材料が、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−335668号公報
【特許文献2】特開2004−256755号公報
【特許文献3】特開2004−262996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は空気に補修材料が乗っている浮遊状態がほとんど得られないために、投入した補修材料のほとんど落下してしまい補修作業の能率に問題があった。特許文献2では発泡材が発泡する前に落下するという点で特許文献1と同様に浮遊効果が低いという問題があった。また、特許文献3は補修の効果を長期間維持できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、補修材料の充填率と補修作業の能率を向上するとともに、炭化室壁の損傷部を確実に補修することができるコークス炉補修用耐火物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、発明者らは、中空骨材と粉末状フリットを耐火粉末に添加することで、良好な浮遊状態とそれに伴う亀裂部への充填効果、および化学的な結合作用による高い閉塞効果が得られることを突き止め、本発明を開発するに至った。すなわち、本発明は、コークス炉の炭化室内に耐火材微粉末を吹き込んで、炭化室炉壁煉瓦の目地切れ、亀裂等を補修するための耐火物であって、黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材を5〜50質量%、粉末状フリットを3〜30質量%、残部が酸化物系耐火材料からなることを特徴とするコークス炉補修用耐火物である。また、黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材の50質量%以上が粒子径0.3mm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明に係るコークス炉補修材を使用すれば、補修材料の充填率と補修作業の能率を向上するとともに、炭化室壁の損傷部を確実に補修することができる。したがって、コークス炉ガスの燃焼室への漏洩に起因する不完全燃焼や黒煙の発生を防止し、操業に対する支障を未然に防ぐことができる。
【発明の実施するための形態】
【0010】
コークス炉の燃焼室と炭化室の間の炉壁レンガに発生した目地切れ、亀裂等の損傷部を炭化室内に補修材料を吹き込んで効率良く補修するには、補修材料を十分浮遊させておくことが重要である。すなわち、補修材料を十分浮遊させておくことで、亀裂に侵入する割合が格段に高くなり、その結果、その亀裂侵入時に亀裂内に補修材料が充填され、より少ない材料量で効果的に閉塞されることになる。
【0011】
そのため、本発明では、黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材を5〜50質量%含有することを特徴としている。黒曜岩系や真珠岩系の中空骨材は見掛け比重が0.05〜0.3(粒度に依存)と非常に軽く、通常の耐火骨材と比較して長時間の浮遊効果が期待できる。
【0012】
黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材の添加量は、5〜50質量%である。好ましくは10〜40質量%である。5質量%未満では亀裂への充填量が十分でなく補修効果が得られない。また、50質量%を越える場合、耐火性が低下し長期間の補修効果が期待できない。黒曜岩系や真珠岩系の中空骨材は一般に市販されているものを使用することができるが、経済性の点では真珠岩系の中空骨材を使用するのが好ましい。
一方、より長期間の補修効果を得たい場合、軟化温度が高い黒曜岩系の中空骨材を使用する方が好ましいが、両者を併用することも可能である。さらに粒子径が0.3mm以上を50質量%以上含む黒曜岩系や真珠岩系の中空骨材を使用すると、大きな幅の亀裂に対して効率良く充填されるため、より補修効果が高くなり好ましい。
【0013】
また、本発明においては、亀裂部へ充填された中空骨材や耐火粉末を化学的結合によって付着させるために粉末状フリットを5〜30質量%含有する。粉末状フリットは加熱により容易に軟化・溶融する性質を有するので、ドライシール法補修耐火材料に好適である。
【0014】
本発明に用いる粉末状フリットは一般に良く知られているホウ珪酸系ガラスや、ホウ珪酸鉛ガラス、ジルコン系ガラスが使用でき、粒子径が0.1mm以下、軟化温度が600℃以下のものが好ましい。粉末状フリットの添加量としては、3〜30質量%であり、好ましくは5〜25質量%である。3質量%未満では接着効果が十分でなく補修効果が得られない。また、30質量%を越える場合、耐火性が低下し長期間の補修効果が期待できない。
【0015】
残部を構成する耐火粉末は、酸化物系耐火材料であり、従来から使用されている乾モルタルや、珪石、非晶質シリカ、ロー石、シャモット、アルミナ等の耐火材微粉末、また不定形耐火物として一般的な結合材である珪酸塩粉末や燐酸塩粉末、あるいはそれらの混合物などが使用でき、粒子径は0.3mm以下、好ましくは0.075mm以下のものである。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の効果を以下の実施例によって検証するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
表1に示す実施例は、築後30年経過したカールスチル型コークス炉で、ドライシール材を使用したときの炭化室から燃焼室へのガスの漏れ出しが確認できるまでの経過日数を調査した結果である。ガスの漏れ出しは、炭化室内を、圧力0.2MPa×流量1m(標準状態)/分の圧搾空気を吹き込んで加圧した時の炉内圧にて評価した。表1から明らかなように、本発明の要件を満たす実施例(本発明品1〜4)にあっては、いずれについても比較品1〜3より高い補修効果が得られている。
【0018】
【表1】

【0019】
表1にあるように、炭化室内へ圧力0.2MPa×流量1m(標準状態)/分の圧搾空気を吹き込んで加圧した時、炭化室の内圧が0.5KPa以下となる経過日数が長いか短いかで補修効果の継続度合いを判定しているが、本発明品1〜4は前記経過日数が16〜20日と、比較品1〜3の経過日数よりも大幅に長いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によって、コークス炉炭化室の炉壁の補修が容易かつ効率的に行え、従来よりも炉壁の補修効果を長く維持することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の炭化室内に耐火材微粉末を吹き込んで、炭化室炉壁煉瓦の目地切れ、亀裂等を補修するための耐火物であって、黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材を5〜50質量%、粉末状フリットを3〜30質量%、残部が酸化物系耐火材料からなることを特徴とするコークス炉補修用耐火物。
【請求項2】
黒曜岩系および/または真珠岩系の中空骨材の50質量%以上が粒子径0.3mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のコークス炉補修用耐火物。

【公開番号】特開2010−275514(P2010−275514A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146980(P2009−146980)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】