説明

シイタケ子実体からのβ−グルカンの製造方法

【課題】 β−グルカン量を効率的に抽出する方法を提供すること。
【解決手段】 シイタケ栽培の発生工程において、子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に管理することを特徴とする栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−グルカンの子実体内含有量を高めることができるシイタケ栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−グルカンには抗腫瘍効果をはじめとして種々の生理活性が報告されており、機能性食品や医薬品の成分として注目されている。
また、シイタケをはじめとして種々のきのこにβ−グルカンが含まれており、きのこは上記機能性食品や医薬品の原料として用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、きのこに含まれるβ−グルカン量はもともと微量であり、さらに同一品種であっても入手したきのこの栽培条件によって含有量が異なり、このことがきのこを原料としてβ−グルカンを工業的に生産する際、あるいは機能性食品や医薬品として利用する際に問題となっている。
一方、シイタケの栽培は、芽切後から収穫まで温度を約10〜25℃とし、見た目や食感が良好なシイタケを短期間で収穫する生産効率の良い栽培方法が一般的に採用されている。従って、これまで、シイタケ中のβ-グルカン量を増加させることを主眼としたシイタケの栽培方法は知られていない。
【0003】
【非特許文献1】「きのこの基礎科学と最新技術、農村文化社、1991年、p.125」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、β−グルカン量を効率的に抽出する方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記方法により得られたβ−グルカンを使用することを特徴とする食品及び/又は医薬品を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シイタケ種菌の接種、培養、芽だし(原基を芽切らせるために、菌床をたたく等菌床に刺激を与える作業)、芽切り(菌子体が子実体の芽である原基を菌床・ほだ木表面から発生させること)、生育、収穫といった工程を含むシイタケの栽培工程中、シイタケの子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に制御しておくと、及び/又は、この工程中100〜500ルクス(lx)の光を照射しておくと、シイタケ子実体中のβ-グルカンの含有量を大幅に向上させることができ、このようにして得られたシイタケ子実体から極めて効率的にβ−グルカンを抽出できるとの知見に基づいて、完成されたものである。
すなわち、本発明は、シイタケ栽培の発生工程において、シイタケの子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に管理することを特徴とする、β-グルカン含量を向上させたシイタケ子実体の栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法を提供する。
本発明は、又、上記製造方法においてさらに、又は上記製造方法とは別に、シイタケ栽培の発生工程において、子実体芽切後の生育段階を100〜500ルクス(lx)の光照射下で行うことを特徴とする、β-グルカン含量を向上させたシイタケ子実体の栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法を提供する。
本発明は、又、上記方法により得られたβ−グルカンを使用すること特徴とする食品及び/又は医薬品を生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することで、従来の場合と比較して、健康食品や医薬品を製造する際に原料の使用量を減らすことが可能であり、また、β−グルカンをはじめとする有効成分の濃縮などの製造工程を簡素化することも可能である。結果として、製造コストの削減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る実施形態としては、菌床栽培での実施が可能である。即ち、広葉樹オガコ、チップダストあるいはチップ等の木材粉砕物質1種以上に、フスマ、コメヌカ等の穀類、豆類の粉砕物質1種以上を混合し、水を加えて含水率を調整した培地を常法に従って加圧整形袋詰、殺菌、冷却し菌床を作製することがあげられる。これにシイタケ種菌を接種し、一定期間培養管理した菌床を通常栽培(袋から菌床を取り出して培地全体からきのこを発生させる栽培方法)あるいは上面栽培(菌床の上部のみ露出させて培地上部からのみきのこを発生させる栽培)において発生管理を行い、子実体が培地表面から芽切ってから収穫までの期間中、環境温度を5〜18℃に、好ましくは10〜15℃に、より好ましくは10℃に維持し、及び/又は100〜500ルクスに、好ましくは200〜300ルクスに、より好ましくは200ルクスの光を照射することにより、子実体内のβ−グルカン量を高めることができる。芽切ってから収穫までの期間としては、例えば、温度が15℃の場合、約5〜7日間、温度が10℃の場合、約10〜14日間、温度が5℃ の場合、約20〜30日間である。
本発明では、温度管理を±1.5℃以内で行うのが好ましく、より好ましくは±1℃以内である。又、光照射も±10ルクス以内で行うのが好ましく、より好ましくは±5ルクス以内である。
【0008】
ここで、シイタケ子実体中のβ−グルカン量が子実体芽切り後の成長過程において、5〜18℃、好ましくは10〜15℃、より好ましくは10℃の温度及び100〜500ルクス、好ましくは200〜300ルクス、より好ましくは200ルクスの照度で子実体を生育させると、特にβ−グルカン量が増大する。
尚、上記5〜18℃の環境温度はシイタケ子実体の原基(きのこの芽)形成を行わせるには低く、その後の芽作りが遅れて栽培期間が遅延することが危惧されるため、子実体収穫後に芽切りまでの期間を、原基形成に適した20〜30℃の環境温度で1〜40日間、好ましくは1〜14日間管理すると、栽培期間の遅延を防止することができる。
【0009】
本発明に係る別の実施形態としては、原木栽培での実施が可能である。即ち、常法に従って、ナラ、クヌギ等の原木に種菌を接種して榾木を作製する。一般的な榾木管理の後、子実体の発生を促して、子実体が樹皮表面から芽切ってから収穫までの期間中、環境温度を5〜18℃に、好ましくは10〜15℃に、より好ましくは10℃に、及び/又は100〜500ルクス、好ましくは200〜300ルクス、より好ましくは200ルクスの光照射により、子実体内のβ−グルカン量を高めることができる。
本発明は、シイタケの通常の栽培方法の場合に比べて1.2〜2倍も高いβ−グルカン含量のシイタケ子実体を製造することができるものである。
本発明では、上記の方法により製造したシイタケの子実体から、例えば、子実体を数ミリ角に細切し、蒸留水を加え、ホモジナイズし、得られたホモジネート液を液温約60〜100℃で撹拌湯煎抽出を行い、抽出終了後、速やかに高速遠心分離機やフィルタープレスなどで、固液分離し、抽出液を採取する方法により、容易にβ−グルカンを抽出することができる。
【0010】
本発明では、このようにして抽出したβ−グルカンは、超微粒子化することにより、食品、健康食品および機能性食品などの食品として、使用することができる(WO2002/87603参照)。又、例えば、免疫賦活剤、抗腫瘍剤などの医薬品として使用することができる。
さらに、本発明では、上記β−グルカンの乾燥粉末を用いて、サプリメントとして販売することができる。
【実施例】
【0011】
以下に本発明に係る詳細について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下に子実体中のβ−グルカン抽出方法及びβ−グルカン測定方法について示す。
β−グルカン抽出法
−30℃で凍結保存した子実体を凍結状態で数ミリ角に細切し、試料100gに対して300mlの蒸留水を加え、高速ホモジナイザーを用いて24,000rpmで2分間ホモジナイズした。
ホモジネート液を液温91〜93℃で4時間、撹拌湯煎抽出を行った。
抽出終了後、速やかに高速遠心分離機を用いて、60℃以上、8,000rpmで10分間遠心し、上清を分離、−30℃で凍結保存した。
β−グルカン(β−1,3−グルカン)の測定方法
凍結した抽出サンプルを80℃で湯煎過熱し、試験管ミキサーで強撹拌して溶解させてサンプル溶液を調製した。
サンプル溶液1.5gに10%水酸化ナトリウムを4ml加えて溶解させ、さらに蒸留水を加えて20mlにメスアップした。
上記の溶液4mlに10mg/dlコンゴーレッド溶液を4ml、さらに、2.12%リン酸溶液を6ml加え、β−1,3−グルカンによるコンゴーレッドの極大吸収波長のシフトを利用し、535nmの吸光度を分光光度計にて測定した。濃度の決定は標準品の検量線より算出した。
この定量方法は、日本バイオセラピィ学会誌、2003年3月号、第267頁においてβ−1,3−グルカン量の特異的定量法であることが証明されている。
【0012】
(実施例1)
常法により作製した菌床に北研607号(種苗登録シイタケ品種)を接種し、培養完了後、菌床を袋から取り出して17℃の発生室で4日間管理し、菌床表面からシイタケの子実体が芽切始めた状態で、半数の菌床を10℃、15℃又は17℃(これら全てにおいて光を平均200ルクスで照射、光照射±10ルクス以内、24時間)の発生室に移動し、子実体の生育を行った(温度管理を±1℃以内で行った)。また、芽切後の子実体を、屋外のビニールハウスで自然生育させたものを、コントロールとした(生育時期:7月、子実体生育時温度:20〜33℃)。
収穫した子実体から上記β−グルカン抽出法に従ってβ−グルカンを抽出した。又、上記測定法により、β−1,3−グルカン量を定量した。結果を図1に示す。
図1に示すように、自然生育させたものを用いるよりも、生育温度を17℃以下で管理して製造したものから抽出した方が、β−1,3−グルカン量が明らかに増加していることがわかる。
【0013】
(実施例2)
常法により作製した菌床に北研607号(種苗登録シイタケ品種)を接種し、培養完了後、菌床を袋から取り出して15℃の発生室で4日間管理し、子実体の生育を行った。
子実体が菌床表面から芽切ってきたころから、蛍光灯の光を照射した群(平均照度200ルクスの光を収穫後まで24時間連続照射、光照射も±10ルクス以内)と無照射群(10ルクス以下)とに分けて、子実体の育成を行った。尚、シイタケの子実体芽切後の生育段階を、15℃に維持した(温度管理を±1℃以内で行った)。
収穫した子実体から上記β−グルカン抽出法に従ってβ−グルカンを抽出した。又、上記測定法により、β−1,3−グルカン量を定量した。結果を図2に示す。
図2に示すように、子実体芽きり後の育成段階で、光を照射して得られた子実体からβ−グルカンを抽出する方が、β−1,3−グルカン量が明らかに増加していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明により、シイタケ子実体からβ−グルカン量を効率的に抽出することが可能であり、食品や医薬品の原料として工業的に広範に利用が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に管理することによる(実施例1:栽培温度10℃、15℃、17℃)β−グルカン量の増加を示す。
【図2】子実体芽切後の生育段階を100〜500ルクスの光照射下で行うことによる(実施例2)β−グルカン量の増加を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シイタケ栽培の発生工程において、子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に管理することを特徴とする栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法。
【請求項2】
シイタケ栽培の発生工程において、子実体芽切後の生育段階を100〜500ルクス(lx)の光照射下で行うことを特徴とする栽培方法により得られたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法。
【請求項3】
シイタケ栽培の発生工程において、子実体芽切後の生育段階を環境温度5〜18℃に管理し、100〜500ルクス(lx)の光照射下で行うことを特徴とする栽培方法により得られた栽培されたシイタケ子実体からβ−グルカンを抽出することを特徴とするβ−グルカンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により得られたβ−グルカンを使用することを特徴とする食品及び/又は医薬品を生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−111820(P2006−111820A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303116(P2004−303116)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【Fターム(参考)】