説明

シイタケ栽培方法及びシイタケ栽培ハウス

【課題】シイタケ栽培に最適な温度及び湿度環境を、季節に関わらず低コストで形成することができて、ランニングコストも低く抑えることができ、シイタケの収量も大きくすることのできるシイタケ栽培ハウスを提供すること。
【解決手段】シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12間に離隔空間R2を形成し、この離隔空間R2内に、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布を行う地下水散布機40を配置し、生育空間R1内に前記地下水の散布を行う散水器41を設置し、太陽熱吸収材13を外ハウス12の外面に展開可能に設置したこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイタケを栽培する方法及びハウスに関し、特に、栽培温度及び栽培湿度の管理が容易に行えて、シイタケの大きな収量が望めるシイタケ栽培方法及びシイタケ栽培ハウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より行われているシイタケの栽培は、自然木からなる「榾(ほだ)木」にシイタケ菌を埋め込んで、このほだ木を湿って暗い林の中に多数並べて置き、この林の自然のままの状態でシイタケが生育するのを待つというものであった。
【0003】
このような言わば、自然環境でのシイタケ栽培では、自然の状況によって成育が悪くなることがあるだけでなく、ナメクジを代表とする害虫による食害を受け易くなり、また「ほだ木」を自然木から切り出することは近年困難になってきているため、特許文献1〜特許文献3にて提案されているように、種々な改良が、当該シイタケ栽培について行われてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−143947号公報、要約、代表図
【特許文献2】特開平8−103161号公報、要約、代表図
【特許文献3】特開平9−210435号公報、要約、代表図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、「自然木利用のほだ木を一切使用する事の無い栽培方法で、産業廃棄〔廃土〕の再利用を効果的に使用する」を目的としてなされた「土柱で椎茸栽培」が提案されており、この椎茸栽培方法では、図5の(1)にて示すような「自然木や大鋸屑などを全く用いないで建設用骨材の砂利や砂を製造する過程で廃棄物として排出される廃土を主原料とする。この廃土に珪藻土と枯れ雑草を加え、さらに木酢酸液、カリシュウム粉、カリウム粉、リン鉱粉、炭素粉に水を加え充分に撹拌する。この混練物を金型に入れ、加熱・成形して円筒形土柱とする」ものである。そして、この特許文献1にて提案されている「椎茸栽培方法」では、図5の(2)にて示すように、「円筒形土柱をビニールハウス内に設置し、土柱に穴を開けて椎茸菌を接種し、ハウス内を加湿して椎茸を栽培する」ものである。
【0006】
この特許文献1の「椎茸栽培方法」によれば、「自然木利用のほだ木を一切使用する事の無い栽培方法で、産業廃棄〔廃土〕の再利用を効果的に使用する」ことができるものと考えられるが、本願の発明者の検討によると、シイタケ栽培では、シイタケの生育を左右する温度と湿度の管理を十分に行わないと、十分な収量が見込めないことが分かったのである。
【0007】
例えば、特許文献2には、「ハウス内での椎茸栽培では、その栽培過程において椎茸栽培用素材の表面を水で程良く湿らせておくことが、椎茸の育成の点から望ましいことが知られている」(同文献2の段落0003)点に着目し、「ハウス内の地面をぬかるませることなく、椎茸栽培用素材の表面に水を付着させることができる」ようにすることを目的としてなされた、「椎茸栽培用素材へ水分を付着させるための方法及びその装置」が提案されている。
【0008】
この特許文献2にて提案されている「椎茸栽培用素材へ水分を付着させるための方法及びその装置」では、図6に示すように、「装置10は、水槽12、霧発生タンク14、第一噴霧ノズル16並びに第二噴霧ノズル18とを有する。超音波発生装置36によって霧発生タンク14内に霧を発生させ、この霧を第一噴霧ノズル16から外部へ噴出する。この霧は、その粒子の直径が空気中に霧を漂わせるための5ミクロン以下とする。コンプレッサ46によって高圧空気を第二噴霧ノズル18から外部に噴出させ、その際に高圧空気によって発生する負圧によって霧発生タンク14内の水を同時に第二噴霧ノズル18から外部に噴出させて、第二噴霧ノズル18から霧を外部に噴出する」ものである。
【0009】
しかしながら、この特許文献2のシイタケ栽培方法では、「椎茸栽培用素材(ほだ木)の表面に水を付着させることができる」かもしれないが、本願の発明者の検討によって分かった点、「シイタケ栽培では、シイタケの生育を左右する温度と湿度の管理を十分に行わないと、十分な収量が見込めないこと」の改善がなされていないものである。
【0010】
特許文献3には、「植物栽培用等のハウスの室内空間に対する空気の供給状態を改良することにより、植物の成育等が良好に得られるハウス内環境を確保する」ことを目的としてなされた「空気調和装置」に関する発明が記載されており、この「空気調和装置」は、図7に示すように、「椎茸栽培用のハウスの室内を冷房する空気調和装置において、サーモオン時には、比較的大風量で空調空気をハウス内に供給する。サーモオフ時には、サーモオン時の約半分の風量としてハウス内の空気を循環させる。ハウス内の温度分布を均一にすると共に椎茸表面の乾燥を抑制して成育に良好な環境を確保する」ようにするものである。
【0011】
しかしながら、この特許文献3に記載されている「空気調和装置」は、非常に複雑な機構になっているため、それ程高い値段では売れないシイタケ栽培用のものとしては、コストの面から採用することは困難であると考えられるだけでなく、本願の発明者の検討によって分かった点、「シイタケ栽培では、シイタケの生育を左右する温度と湿度の管理を十分に行わないと、十分な収量が見込めないこと」の改善がなされていないものである。
【0012】
そこで、本発明者等は、シイタケ栽培で、シイタケの生育を良好にする温度は、15℃〜23℃であること、同じく湿度は、60%〜70%であることを突き止め、これらの温度及び湿度の管理を十分に行うにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、地下水温度が、西日本では15℃〜17℃、北日本では9℃〜11℃であることに気付き、本発明を完成したのである。
【0013】
すなわち、本発明の目的とするところは、シイタケ栽培に最適な温度及び湿度環境を、季節に関わらず低コストで形成することができて、ランニングコストも低く抑えることができ、シイタケの収量も大きくすることのできるシイタケ栽培方法及びシイタケ栽培ハウスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「シイタケ栽培ハウス10内に形成した生育空間R1内にシイタケ栽培用のほだ木20を多数配列して、これらのほだ木20からシイタケ30を生育させるシイタケ栽培方法であって、
シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12による太陽光の遮光と、これら内外両ハウス11・12間に形成した離隔空間R2によって前記生育空間R1と外界との断熱とを行い、
生育空間R1内の冷却については、離隔空間R2内にて、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布により行い、
生育空間R1内の加湿については、前記地下水の生育空間R1内への散布により行い、
さらに、生育空間R1内の加熱については、外ハウス12の外面に太陽熱吸収材13を展開することによっても行うようにして、
生育空間R1内の温度を15℃〜23℃に保つとともに、生育空間R1内の湿度を60%〜70%に保つようにしたことを特徴とするシイタケ栽培方法」
である。
【0015】
すなわち、本発明に係るシイタケ栽培方法は、シイタケ栽培空間の温度を15℃〜23℃に保つとともに、湿度を60%〜70%に保つことを、自然のエネルギーを十分利用して行うようにしたものであり、これにより、シイタケ30の栽培を低コストで収量が多くなるようにするものである。
【0016】
そのために、本発明に係るシイタケ栽培方法では、図1の(1)及び図2に示すように、まず、シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12によって生育空間R1内への太陽光の入射を制限するものである。換言すれば、内外両ハウス11・12による遮光によって、昼間の生育空間R1内が、丁度自然のシイタケ栽培地(林の中)における照度と同程度になるようにするのである。
【0017】
また、このシイタケ栽培ハウス10を構成している内外両ハウス11・12間には離隔空間R2が形成されるのであるが、この離隔空間R2内には空気が風によって動かないように閉じこめられるから、この閉じこめられた空気が生育空間R1と外界との断熱とを行うことになる。つまり、本発明に係るシイタケ栽培方法では、内ハウス11と外ハウス12とによって形成した離隔空間R2により、また内ハウス11と外ハウス12とによる遮光によって、生育空間R1内の温度が急激に変化しないため、ボイラーやエアコンを使用しなくても、ある程度の保冷あるいは保温がなされるのである。
【0018】
一方、このシイタケ栽培方法では、図2中に示した地下水散布機40によって、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布により行うのであるが、地下水温度は、年間を通じて、西日本では15℃〜17℃、北日本では9℃〜11℃とほぼ一定であるため、生育空間R1内の温度は、この地下水温度に近い温度まで冷却されることになるのである。なお、地下水については、離隔空間R2内にて散布されるため、風の影響を受けることなく、安定した状態で内ハウス11の外面に散布されることは、言うまでもない。
【0019】
ところで、生育空間R1内の加湿については、当該生育空間R1内に設置した散水器41からの前記地下水の散布により行われる。散水器41からの地下水の散布は、本来生育空間R1内に配置したほだ木20への灌水のためになされるものであるが、灌水に使用されなかった地下水は生育空間R1内にも散布されるから、この地下水が生育空間R1内にて蒸散することにより、結果的に生育空間R1内の加湿もなされることになるのである。
【0020】
なお、散水器41からの灌水を地下水によって行う理由は、生育空間R1内を冷却するとともに、もともと地下水散布機40へ地下水を供給するために使用しているポンプを共通に使用して、当該シイタケ栽培方法を採用するにあたってのコスト低減をより図りたいからである。
【0021】
そして、本発明に係るシイタケ栽培方法では、例えば冬季におけるように外気温が低い場合、外ハウス12の外面に太陽熱吸収材13を展開することによって、生育空間R1内の加熱も行うようにしているのである。太陽熱吸収材13としては、種々なものが考えられるが、後述する実施例では、外ハウス12の外面に展開し易いような可撓性を有するビニールシートのような材料によって形成したもので、太陽光を熱エネルギーとして吸収し易いように、例えば「黒色」に着色したものを採用している。
【0022】
このような太陽熱吸収材13を、太陽が出ている昼間に、外ハウス12の外面に展開すれば、この太陽熱吸収材13が太陽熱を吸収して外ハウス12に伝導させ、暖まった外ハウス12で内ハウス11、従って生育空間R1を包み込むのであり、結果的に生育空間R1内に対する加熱を行うことになるのである。
【0023】
勿論、以上のような地下水の散水や、太陽熱吸収材13の展開は、実測された生育空間R1内の温度及び湿度に応じて制御すればよいものであり、そのような制御設備や制御装置は、一般的に採用されているものを使用すればよい。
【0024】
以上のように、本発明に係るシイタケ栽培方法を採用することによって、生育空間R1内の温度が15℃〜23℃に保たれるとともに、生育空間R1内の湿度も60%〜70%に保たれることになるから、シイタケ30は年間を通じて十分な生育環境に置かれることになるのである。
【0025】
ここで、生育空間R1内の温度を15℃〜23℃に保つようにする必要があるが、その理由は、温度が15℃以下になると、シイタケ30の「出」が遅くかつ悪くなるからであり、23℃を超えるとシイタケ30の「出」が悪くなり、特に25℃を超えるとほだ木20内のシイタケ菌が死滅するからである。また、当該生育空間R1内の湿度を60%〜70%に保つようにする必要があるが、その理由は、湿度が60%以下であると、シイタケ30の「出」が遅くなり、70%を超えると、折角出たシイタケ30が腐り始めるからである。
【0026】
従って、この請求項1に係るシイタケ栽培方法は、シイタケ栽培に最適な温度及び湿度環境を、季節に関わらず低コストで形成することができて、ランニングコストも低く抑えることができ、シイタケの収量も大きくすることのできるものとなっているのである。
【0027】
また、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「シイタケ栽培ハウス10内に形成した生育空間R1内にシイタケ栽培用のほだ木20を多数配列して、これらのほだ木20からシイタケ30を生育させるシイタケ栽培ハウス10であって、
このシイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12間に離隔空間R2を形成し、
この離隔空間R2内に、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布を行う地下水散布機40を配置し、
生育空間R1内に前記地下水の散布を行う散水器41を設置し、
さらに、太陽熱吸収材13を外ハウス12の外面に展開可能に設置したことを特徴とするシイタケ栽培ハウス10」
である。
【0028】
すなわち、この請求項2に係るシイタケ栽培ハウス10は、前述した請求項1に係るシイタケ栽培方法を具体的に実現するものであり、シイタケ栽培ハウス10自体を内ハウス11と外ハウス12とにより二重構造のものとして構成するとともに、内ハウス11と外ハウス12とによって形成した離隔空間R2内、及び内ハウス11自体内の生育空間R1内に、年間を通じて西日本では15℃〜17℃、北日本では9℃〜11℃である地下水を散布できるようにしたものである。
【0029】
本発明に係るシイタケ栽培ハウス10では、図1の(1)及び図2に示すように、まず、シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12による二重構造によって生育空間R1内への太陽光の入射を制限し、昼間の生育空間R1内が、丁度自然のシイタケ栽培地(林の中)における照度と同程度になるようにしている。
【0030】
また、このシイタケ栽培ハウス10を構成している内外両ハウス11・12間には、空気を風によって動かないように閉じ込める離隔空間R2が形成されるのであるが、この閉じこめられた空気が生育空間R1と外界との断熱とを行うのである。つまり、本発明に係るシイタケ栽培ハウス10では、内ハウス11と外ハウス12とによって形成した離隔空間R2により、また内ハウス11と外ハウス12とによる遮光によって、生育空間R1内の温度が急激に変化しないため、加熱のためのボイラーや冷却のためのエアコンを使用しなくてもよいものとなっている。
【0031】
そして、本発明に係るシイタケ栽培ハウス10では、例えば冬季におけるように外気温が低い場合、外ハウス12の外面に太陽熱吸収材13を展開できるようにしてある。この太陽熱吸収材13は、例えば黒色またはこれに近い着色が施してあり、これが太陽光を熱エネルギーとして吸収するから、生育空間R1内の加熱を行うことになるのである。
【0032】
このような太陽熱吸収材13を、太陽が出ている昼間に、外ハウス12の外面に展開すれば、この太陽熱吸収材13が太陽熱を吸収して外ハウス12に伝導させ、暖まった外ハウス12で内ハウス11、従って生育空間R1を包み込むのであり、結果的に生育空間R1内に対する加熱を行うことになるのである。
【0033】
一方、このシイタケ栽培ハウス10では、図2中に示した地下水散布機40によって、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布により行うため、生育空間R1内の温度を、地下水温度に近い温度まで冷却するのである。また、生育空間R1内の加湿は、当該生育空間R1内に設置した散水器41からの前記地下水の散布及び蒸散により行われる。
【0034】
このシイタケ栽培ハウス10では、図示はしていないが、地下水散布機40または散水器41へ地下水を供給するために使用しているポンプを共通に使用していて、当該シイタケ栽培ハウス10を構成するにあたってのコスト低減を図るようにしている。
【0035】
そして、本発明に係るシイタケ栽培ハウス10では、例えば冬季におけるように外気温が低い場合、外ハウス12の外面に、可撓性を有し、太陽光を熱エネルギーとして吸収し易い、例えば「黒色」に着色したビニールシートのような材料によって形成した太陽熱吸収材13を展開できるようにしてある。
【0036】
勿論、以上のような地下水の散水や、太陽熱吸収材13の展開は、実測された生育空間R1内の温度及び湿度に応じて制御すればよいものであり、そのような制御設備や制御装置は、一般的に採用されているものを使用すればよい。
【0037】
以上のように、本発明に係るシイタケ栽培ハウス10を採用することによって、生育空間R1内の温度を15℃〜23℃に簡単に保つことができるとともに、生育空間R1内の湿度も60%〜70%に簡単に保つことができるから、シイタケ30を生育させるためのほだ木20は、年間を通じてシイタケ30の十分な生育環境に置かれるのである。
【0038】
従って、この請求項2に係るシイタケ栽培ハウス10は、シイタケ栽培に最適な温度及び湿度環境を、季節に関わらず低コストで形成することができて、ランニングコストも低く抑えることができ、シイタケの収量も大きくすることのできるものとなっているのである。
【0039】
上記課題を解決するために、請求項3に係る発明の採った手段は、上記請求項2のシイタケ栽培ハウス10について、
「少なくとも生育空間R1の床面に砂利50を敷設するとともに、この砂利50の下側に遮水シート51を敷設するようにしたこと」
である。
【0040】
すなわち、この請求項3に係るシイタケ栽培ハウス10では、上記請求項2のシイタケ栽培ハウス10における生育空間R1の床面について、敷設した遮水シート51の上に砂利50を敷設したものである。
【0041】
つまり、この請求項3に係るシイタケ栽培ハウス10では、その生育空間R1内の床面に砂利50の層が展開するものであり、散水器41から散水された地下水の一部がこの砂利50内に染み込む。勿論、砂利50の下には遮水シート51があるから、地下水が砂利50を通って地面内に吸収されてしまうことはない。
【0042】
砂利50内に染み込んだ地下水は、図3中の波線で示すように、生育空間R1内に蒸散することになるのであり、これにより、生育空間R1内の湿度が高くなる。換言すれば、散水器41によって散水された地下水は、ほだ木20を灌水するために使用されるだけでなく、生育空間R1内の湿度確保にも使用されるのであり、この地下水の無駄な使用が無くなるのである。
【0043】
従って、この請求項3のシイタケ栽培ハウス10は、上記請求項2のそれと同様な機能を発揮する他、生育空間R1内で使用する地下水の無駄が省けるものとなっているのである。
【発明の効果】
【0044】
以上、説明した通り、本発明においては、
「シイタケ栽培ハウス10内に形成した生育空間R1内にシイタケ栽培用のほだ木20を多数配列して、これらのほだ木20からシイタケ30を生育させるシイタケ栽培方法であって、
シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12による太陽光の遮光と、これら内外両ハウス11・12間に形成した離隔空間R2によって前記生育空間R1と外界との断熱とを行い、
生育空間R1内の冷却については、離隔空間R2内にて、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布により行い、
生育空間R1内の加湿については、前記地下水の生育空間R1内への散布により行い、
さらに、生育空間R1内の加熱については、外ハウス12の外面に太陽熱吸収材13を展開することによっても行うようにして、
生育空間R1内の温度を15℃〜23℃に保つとともに、生育空間R1内の湿度を60%〜70%に保つようにしたことを特徴とするシイタケ栽培方法」
あるいは、
「シイタケ栽培ハウス10内に形成した生育空間R1内にシイタケ栽培用のほだ木20を多数配列して、これらのほだ木20からシイタケ30を生育させるシイタケ栽培ハウス10であって、
このシイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12間に離隔空間R2を形成し、
この離隔空間R2内に、内ハウス11の外面に向けた地下水の散布を行う地下水散布機40を配置し、
生育空間R1内に前記地下水の散布を行う散水器41を設置し、
さらに、太陽熱吸収材13を外ハウス12の外面に展開可能に設置したことを特徴とするシイタケ栽培ハウス10」
にその構成上の主たる特徴があり、これにより、シイタケ栽培に最適な温度及び湿度環境を、季節に関わらず低コストで形成することができて、ランニングコストも低く抑えることができ、シイタケ30の収量も大きくすることのできるシイタケ栽培方法及びシイタケ栽培ハウス10を提供することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るシイタケ栽培ハウスを示すもので、(1)は正面図、(2)は側面図である。
【図2】同シイタケ栽培ハウスを正面から見た拡大断面図である。
【図3】同シイタケ栽培ハウスの側面後部を部分的に拡大して示すもので、(1)は西日本仕様のシイタケ栽培ハウスの部分側面図、(2)は北日本仕様のシイタケ栽培ハウスの部分側面図である。
【図4】本発明に係るシイタケ栽培ハウスの別例を示す側面図である。
【図5】特許文献1に示されたほだ木の拡大断面図(1)と、同ほだ木を使用したハウスの断面図(2)である。
【図6】特許文献2に示された代表図である。
【図7】特許文献3に示された代表図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示したシイタケ栽培ハウス10について説明するが、この実施形態に係るシイタケ栽培ハウス10には、実質的に請求項1のシイタケ栽培方法が化体されているため、以下では、このシイタケ栽培ハウス10の説明を詳しくしていくことによって、請求項1に係るシイタケ栽培方法の説明を省略する。
【0047】
図1の(1)及び(2)には、本発明に係るシイタケ栽培ハウス10の正面図、及び側面図がそれぞれ示してあるが、このシイタケ栽培ハウス10は、後述する生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11を覆う外ハウス12とによる二重構造になっているものである。つまり、このシイタケ栽培ハウス10では、図1の(1)及び図2に示したように、まず、シイタケ栽培ハウス10を、生育空間R1を囲む内ハウス11と、この内ハウス11全体を囲む外ハウス12とによって構成して、これらの内外両ハウス11・12による二重構造によって生育空間R1内への太陽光の入射を制限し、昼間の生育空間R1内が、丁度自然のシイタケ栽培地(林の中)における照度と同程度になるようにしているのである。
【0048】
このシイタケ栽培ハウス10内は、図2に示したようになっている。つまり、このシイタケ栽培ハウス10の内ハウス11内は生育空間R1となっており、この生育空間R1内には、多数の棚21が配置してあって、各棚21にはシイタケ菌を埋め込んだほだ木20が多数配列してある。このほだ木20としては、特許文献1にて提案されているような「人工的」なものでもよく、可能であれば、シイタケ菌を埋め込んだ自然木であってもよい。自然木を使用する場合には、棚21は不要になることもある。
【0049】
また、このシイタケ栽培ハウス10を構成している内外両ハウス11・12間には、空気を風によって動かないように閉じ込める離隔空間R2が形成してあり、この離隔空間R2内に閉じこめられた空気が生育空間R1と外界との断熱とを行うようにしてあるのである。つまり、本実施例に係るシイタケ栽培ハウス10では、内ハウス11と外ハウス12とによって形成した離隔空間R2により、また内ハウス11と外ハウス12とによる遮光によって、生育空間R1内の温度が急激に変化しないようにしてあり、加熱のためのボイラーや冷却のためのエアコンを使用しなくてもよいものとしている。
【0050】
一方、このシイタケ栽培ハウス10では、図2中に示したように、離隔空間R2内に内ハウス11の外面に向けた地下水の散布を行う地下水散布機40が設置してあり、また、生育空間R1内には散水器41が設置てある。これらの地下水散布機40及び散水器41には、図示しない共通ポンプによって地下水が供給できるようになっている。この共通ポンプは、当該シイタケ栽培ハウス10を構成するにあたってのコスト低減を図るものである。
【0051】
そして、このシイタケ栽培ハウス10では、例えば冬季におけるように外気温が低い場合、外ハウス12の外面に、可撓性を有し、太陽光を熱エネルギーとして吸収し易い、例えば「黒色」に着色したビニールシートのような材料によって形成した太陽熱吸収材13を展開できるようにしてある。
【0052】
この太陽熱吸収材13の展開は、種々な方法によって行われる。図1で示した例では、外ハウス12の天井部分に巻き取り機13aを設置しておいて、この巻き取り機13aによって、太陽熱吸収材13に接続してある索条13bを巻き取ったり巻き戻したりして、当該太陽熱吸収材13を展開するのである。これとは逆に、図4に示した例では、シイタケ栽培ハウス10の下側に巻き取り機13aを設置するとともに、太陽熱吸収材13に接続してある索条13bを外ハウス12の天井部分に架け渡しておいて、巻き取り機13aにより、索条13bを巻き取ったり巻き戻したりすることにより、当該太陽熱吸収材13を外ハウス12の天井上に展開するのである。
【0053】
勿論、以上のような地下水の散水や、太陽熱吸収材13の展開は、実測された生育空間R1内の温度及び湿度に応じて制御すればよいものであり、そのような制御設備や制御装置は、一般的に採用されているものが使用される。
【0054】
さらに、この実施例に係るシイタケ栽培ハウス10では、図2に示したように、少なくとも生育空間R1の床面に砂利50を敷設するとともに、この砂利50の下側に遮水シート51を敷設するようにしてある。すなわち、このシイタケ栽培ハウス10では、生育空間R1の床面について、敷設した遮水シート51の上に、砂利50が敷設してある。
【0055】
つまり、このシイタケ栽培ハウス10では、その生育空間R1内の床面に砂利50の層が展開しているものであり、散水器41から散水された地下水の一部がこの砂利50内に染み込むようにしてあって、砂利50の下の遮水シート51によって、散布した地下水が砂利50を通って地面内に吸収されてしまわはないようにしてある。
【0056】
砂利50内に染み込んだ地下水は、図2中の波線で示したように、生育空間R1内に蒸散するのであり、これにより、生育空間R1内の湿度を高くするのである。換言すれば、散水器41によって散水された地下水は、ほだ木20を灌水するために使用できるだけでなく、生育空間R1内の湿度確保にも使用できるのであり、この地下水の無駄な使用を無くすのである。
【0057】
一般的な人工ほだ木20を採用してシイタケ30を生育させた結果、従来の方法では600gの収量であったが、本発明のシイタケ栽培ハウス10によると、750gの収量であった。
【0058】
ところで、本実施例に係るシイタケ栽培ハウス10は、西日本仕様のものと、北日本仕様のものとがある。
【0059】
(西日本仕様の場合)
西日本は、比較的温暖なため、内ハウス11及び外ハウス12を構成するビニールシートは、夏場の太陽光を反射し易いように、白を基調とした色の半透明のものが採用される。このような半透明のビニールシートによって、生育空間R1内を林の中のように暗くできるようにするとともに、夏場の太陽光を反射できるようにしていることによって、生育空間R1内の必要以上の温度上昇がないようにしている。
【0060】
そして、この西日本仕様のシイタケ栽培ハウス10では、図3の(1)に示したように、白色に着色した外ハウス12が折角の太陽光の殆どを反射してしまわないようにするために、太陽光を熱エネルギーとして吸収できる太陽熱吸収材13を展開できるようにしてある。つまり、冬場の太陽エネルギーを有効に利用できるようにしてあるのである。なお、この太陽熱吸収材13は、例えば外ハウス12の天井上に設置した巻き取り機13aによって、当該太陽熱吸収材13に接続した索条13bを巻き取ることにより外ハウス12上に展開され、巻き取り機13aによる索条13bの巻き戻しを行うことにより、外ハウス12上から適宜外される。
【0061】
(北日本仕様の場合)
北日本は、比較的寒冷なため、内ハウス11及び外ハウス12を構成するビニールシートは、太陽光を吸収し易いように、透明のものが採用される。このような透明のビニールシートでも、これを内ハウス11と外ハウス12とによって二重にすることによって、生育空間R1内を林の中のように暗くできる。なお、夏場の強烈すぎる太陽光の反射ができるようにするために、図3の(2)に示したように、内ハウス11の外面に寒冷紗14を配置して、生育空間R1内の必要以上の温度上昇がないようにしている。
【符号の説明】
【0062】
10 シイタケ栽培ハウス
11 内ハウス
12 外ハウス
13 太陽熱吸収材
13a 巻き取り機
13b 索条
14 寒冷紗
20 ほだ木
21 棚
30 シイタケ
40 地下水散布機
41 散水器
50 砂利
R1 生育空間
R2 離隔空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シイタケ栽培ハウス内に形成した生育空間内にシイタケ栽培用のほだ木を多数配列して、これらのほだ木からシイタケを生育させるシイタケ栽培方法であって、
前記シイタケ栽培ハウスを、前記生育空間を囲む内ハウスと、この内ハウス全体を囲む外ハウスとによって構成して、これらの内外両ハウスによる太陽光の遮光と、これら内外両ハウス間に形成した離隔空間によって前記生育空間と外界との断熱とを行い、
前記生育空間内の冷却については、前記離隔空間内にて、前記内ハウスの外面に向けた地下水の散布により行い、
前記生育空間内の加湿については、前記地下水の前記生育空間内への散布により行い、
さらに、前記生育空間内の加熱については、前記外ハウスの外面に太陽熱吸収材を展開することによっても行うようにして、
前記生育空間内の温度を15℃〜23℃に保つとともに、前記生育空間内の湿度を60%〜70%に保つようにしたことを特徴とするシイタケ栽培方法。
【請求項2】
シイタケ栽培ハウス内に形成した生育空間内にシイタケ栽培用のほだ木を多数配列して、これらのほだ木からシイタケを生育させるシイタケ栽培ハウスであって、
このシイタケ栽培ハウスを、前記生育空間を囲む内ハウスと、この内ハウス全体を囲む外ハウスとによって構成して、これらの内外両ハウス間に離隔空間を形成し、
この離隔空間内に、前記内ハウスの外面に向けた地下水の散布を行う地下水散布機を配置し、
前記生育空間内に前記地下水の散布を行う散水器を設置し、
さらに、太陽熱吸収材を前記外ハウスの外面に展開可能に設置したことを特徴とするシイタケ栽培ハウス。
【請求項3】
少なくとも前記生育空間の床面に砂利を敷設するとともに、この砂利の下側に遮水シートを敷設するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のシイタケ栽培ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284102(P2010−284102A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139825(P2009−139825)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509165600)株式会社WSBバイオ (1)
【Fターム(参考)】