説明

シラン化合物、及びその加水分解物で処理したガラス繊維基材

【課題】エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象の発生を十分に抑制するシラン化合物及びその加水分解物で処理したガラス繊維基材を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(1)で表されるシラン化合物。


[式(1)中、RはR11−CO−を示し、Rは水素原子又はR11−CO−を示し、R、R及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、aは1又は2、bは0〜5の整数、cは1〜3の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物及びその加水分解物で処理したガラス繊維基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気製品の小型化が進み、それに用いられるプリント配線板も薄層化・多層化等により小型化が必要となってきている。プリント配線板は、ガラス繊維とマトリックス樹脂からなるガラス繊維強化樹脂層と導体層とを備えたプリント配線板用積層板から製造される。通常、プリント配線板へ加工する工程には、溶融半田に浸漬する工程や半田リフロー工程等の高温処理工程が含まれる。そのため、ガラス繊維とマトリックス樹脂の接着性及びガラス繊維へのマトリックス樹脂の含浸性が不十分であると、上記処理工程において、プリント配線板にボイド及び/又は膨れが発生しやすくなったり、層間剥離(ブリスター)及び/又はガラス繊維織り交点での剥離(ミーズリング)が生じやすくなったりするなどの問題になる。
【0003】
このような問題を解決するために、ガラス繊維をシラン化合物などのカップリング剤で処理し、ガラス繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させる手法がとられている。マトリックス樹脂がエポキシ樹脂である場合、一般に、エポキシ樹脂と良好な接着性を示すアミノシランが用いられている。代表的なアミノシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシランやN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級のアミノ基を有するアミノシランが知られている。
【0004】
しかし、1級のアミノ基は、エポキシ樹脂との反応性に優れ、ガラス繊維とエポキシ樹脂との接着性に優れているものの、エポキシ樹脂の硬化剤として作用するため、エポキシ樹脂がガラス繊維に十分に含浸する前に硬化してしまうことがある。そのため、1級のアミノ基が存在すると、硬化条件によっては、ガラス繊維へのエポキシ樹脂の含浸が阻害され、積層板作製時にボイドや膨れ等の発生による白化現象を引き起こす。
【0005】
そこで、上記問題を解決するため、2級のアミノ基を有するアルコキシシラン(例えば、特許文献1〜3参照)や、3級のアミノ基を有するアルコキシシラン(例えば、特許文献4参照)からなるシランカップリング剤が検討されている。
【特許文献1】特公平7−30236号公報
【特許文献2】特開2002−193976号公報
【特許文献3】特許第3823362号公報
【特許文献4】特開2004−300047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載されているものを始めとする従来の2級又は3級のアミノ基を有するアルコキシシランは、確かにエポキシ樹脂の硬化性への影響が低減する。しかしながら、このようなアルコキシシランは、エポキシ樹脂との接着性が低下してしまうため、シランカップリング剤として十分に機能しない。また、上述のようなシランカップリング剤でガラス繊維を被覆した場合であっても、ガラス繊維へのマトリックス樹脂の含浸性が充分とはいえず、プリント配線板における白化現象(ボイドや膨れの発生等)を防止するためには、更に改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象の発生を十分に抑制するシラン化合物、その加水分解物で処理したガラス繊維基材、このガラス繊維基材を用いたガラス繊維強化熱硬化性樹脂及びプリント配線板用積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、一般式(1)で表されるシラン化合物を提供する。
【化1】

【0009】
ここで、式(1)中、RはR11−CO−を示し、Rは水素原子又はR11−CO−を示し、R、R及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、aは1又は2、bは0〜5の整数、cは1〜3の整数を示す。ただし、R、R、R、R、R11及びLが複数存在するときは、複数のR、R、R、R、R11及びLはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0010】
本発明のシラン化合物は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象の発生を十分に抑制することができる。
【0011】
上記シラン化合物において、Rはアセチル基であることが好ましい。このように、1級のアミノ基がアセチル基でキャップされたシラン化合物は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に更に優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象をより一層抑制できる。
【0012】
また、式(1)中、bは0又は1であり、L及び/又はLは炭素数2又は3のアルキレン基であることが好ましい。これにより、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性がより向上し、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象の発生を更に低減することができる。
【0013】
本発明は、下記一般式(2)で表されるシラン化合物と、下記一般式(3)で表される酸無水物と、を反応させてなるシラン化合物を提供する。
【化2】

【0014】
ここで、式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、nは0〜5の整数、mは1〜3の整数を示す。また、(3)中、R12は炭素数1〜3のアルキル基を示す。ただし、R、R、R12及びLが複数存在するときは、複数のR、R、R12及びLはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0015】
これにより、アミノ基、特に1級のアミノ基が、アシル基でキャップされたシラン化合物を得ることができる。さらに、一般式(2)で表されるシラン化合物と、一般式(3)で表される酸無水物との反応により、上記一般式(1)で表されるシラン化合物を容易に得ることができる。このようなシラン化合物は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象を十分に抑制したものとなる。
【0016】
一般式(3)で表される酸無水物は、無水酢酸であることが好ましい。これにより、アミノ基、特に1級のアミノ基が、アセチル基でキャップされたシラン化合物を得ることができる。このようなシラン化合物は、より効果的かつ確実にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象を抑制したものとなる。
【0017】
また、上記式(2)中、nは0又は1であり、L及び/又はLが炭素数2又は3のアルキレン基であることが好ましい。これにより、エポキシ樹脂との接着性がより一層向上し、かつエポキシ樹脂の硬化時における白化現象の発生を更に抑制することができる。
【0018】
本発明は、ガラス繊維基材と、ガラス繊維基材に付着した上記シラン化合物の加水分解物とを備える表面処理ガラス繊維基材を提供する。上記シラン化合物の加水分解物は、ガラス繊維及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と結合して、それらの間の接着性を良好なものとする。それとともに、上記シラン化合物の加水分解物はガラス繊維基材への上記樹脂の含浸を阻害しないため、樹脂の硬化時に白化現象の発生を十分抑制する。したがって、上記表面処理ガラス繊維基材は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の含浸性が良好となる。
【0019】
本発明は、上記表面処理ガラス繊維基材と、表面処理ガラス繊維基材に含浸した熱硬化性樹脂とを含むガラス繊維強化熱硬化性樹脂を提供する。このガラス繊維強化熱硬化性樹脂は、ガラス繊維基材に熱硬化性樹脂が十分に含浸している。そのため、上記ガラス繊維強化熱硬化性樹脂を硬化しても、ボイドや膨れ等の発生が十分に抑制される。
【0020】
更に、本発明は、上記ガラス繊維強化熱硬化性樹脂からなる層と、当該層の少なくとも一方面上に設けられた導体層とを備えるプリント配線板用積層板を提供する。このようなプリント配線板用積層板は、上述したガラス繊維強化熱硬化性樹脂を絶縁層としている。そのため、本発明のプリント配線板用積層板を用いると、ボイド、膨れ等の発生が十分に抑制されたプリント配線板を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との接着性に十分優れ、かつ上記樹脂の硬化時における白化現象の発生を十分に抑制したシラン化合物、その加水分解物で処理したガラス繊維基材、このガラス繊維基材を用いたガラス繊維強化熱硬化性樹脂及びプリント配線板用積層板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るシラン化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
【化3】

【0023】
式(1)中、RはR11−CO−を示し、Rは水素原子又はR11−CO−を示し、R、R及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、aは1又は2、bは0〜5の整数、cは1〜3の整数を示す。ただし、R、R、R、R、R11及びLが複数存在するときは、複数のR、R、R、R、R11及びLはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0024】
及びRにおけるR11としては、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。接着性に優れる観点から、R11はメチル基、すなわち、R及びRがアセチル基であることがより好ましい。
【0025】
上記R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、メチル基又はエチル基であることが好ましい。この場合、アルコキシシリル基の加水分解速度が向上し、ガラス繊維との化学結合の形成が促進され易くなる。一方、R及びRは炭素数が4以上のアルキル基であると、アルコキシシリル基の加水分解性が低下し、ガラス繊維との接着性が低下する傾向にある。
【0026】
また、L及びLは、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基のような炭素数1〜4のアルキレン基が挙げられ、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0027】
上記bは0〜5の整数であるが、0〜3であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。ここで、bが0の場合、Lは炭素数2又は3のアルキレン基であり、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。bが1の場合、L及びLは炭素数2又は3のアルキレン基であり、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。また、上記cは1〜3の整数であるが、ガラス繊維表面との接着性を向上する観点から、cは2又は3であることが好ましく、3であることがより好ましい。なお、cが1又は2の場合は、R及びRが同一であることが好ましく、R及びRが複数存在する場合、それぞれ同一であることが好ましい。
【0028】
本発明に係るシラン化合物は、下記一般式(2)で表される1級のアミノ基を有するシラン化合物と、下記一般式(3)で表される酸無水物とを反応させてなるものである。
【化4】

【0029】
式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、nは0〜5の整数、mは1〜3の整数を示す。
【0030】
上記R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、メチル基又はエチル基であることが好ましい。この場合、アルコキシシリル基の加水分解速度が向上し、ガラス繊維との化学結合の形成が促進され易くなる。一方、R及びRは炭素数4以上のアルキル基であると、アルコキシシリル基の加水分解性が低下し、ガラス繊維との接着性が低下する傾向にある。
【0031】
上記L及びLは、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基のような炭素数1〜4のアルキレン基が挙げられ、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0032】
上記nは0〜5の整数であるが、0〜3であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。nが0の場合、Lは炭素数2又は3のアルキレン基であり、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。nが1の場合、L及びLは炭素数2又は3のアルキレン基であり、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。また、上記mは1〜3の整数であるが、ガラス繊維表面との接着性を向上する観点から、mは2又は3であることが好ましく、3であることがより好ましい。なお、mが1又は2の場合は、R及びRが同一であることが好ましく、R及びRが複数存在する場合は、それぞれ同一であることが好ましい。
【0033】
式(3)中、R12は、互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。接着性に優れる観点から、R12はメチル基、すなわち、上記一般式(3)で表される酸無水物は無水酢酸であることがより好ましい。
【0034】
本発明において、上記一般式(1)で表わされるシラン化合物は、一般式(2)で表されるシラン化合物と一般式(3)で表される酸無水物とを反応させてなるものであることが好ましい。
【0035】
本発明のシラン化合物において、上記一般式(1)及び(2)中、L及びLがエチレン基であり、L及びLがプロピレン基であることがより好ましい。より具体的には、上記一般式(2)で表されるシラン化合物は、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランであることが特に好ましい。すなわち、本発明に係るシラン化合物の最適な例として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン又はN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランと、無水酢酸との反応により得られるシラン化合物が挙げられる。
【0036】
上記一般式(2)で表されるシラン化合物は分子中にアミノ基を有しているため、上記一般式(3)で表される酸無水物(好ましくは無水酢酸)との間で縮合反応が生じる。この反応は、有機溶媒中で行うことも可能であるが、有機溶媒を使用せずに行うことも可能である。また、上記一般式(2)で表されるシラン化合物は水分との接触により、アルコキシ基が加水分解してしまうので、その周囲を窒素置換してから反応を開始するほうが好ましいことがある。有機溶媒中で反応を行う場合は、あらかじめ水分量を低減した溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
反応温度は室温〜80℃が好ましく、50℃以下に保つことがより好ましい。反応時間は数十分〜数時間とすることができる。
【0038】
上述の反応により、上記一般式(2)で表されるシラン化合物において、窒素原子に結合した水素原子の1つ以上がアシル基(好ましくはアセチル基)で置換される。こうして上記一般式(1)で表されるシラン化合物が主成分として得られる。上記一般式(1)で表されるシラン化合物を主成分として含有することは、赤外線吸収スペクトルにおいて、アセチル基などのアシル基由来のカルボニルのピークが発現することにより確認できる。
【0039】
γ−アミノプロピルトリエトキシシランと無水酢酸とを反応させて得られる反応生成物の主成分は、下記式(4)又は(5)で表されるシラン化合物、又はそれらの混合物からなるシラン化合物である。
【化5】

【0040】
また、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランと無水酢酸とを反応させて得られる反応生成物の主成分は、以下の式(6)、(7)、(8)又は(9)で表されるシラン化合物、又はそれらの混合物からなるシラン化合物である。なお、反応性生物には、一部式(10)表されるシラン化合物が若干含まれることもある。
【化6】

【0041】
上記一般式(2)で表されるシラン化合物と、上記一般式(3)で表される酸無水物との反応における配合比は、一般式(2)で表されるシラン化合物1モルに対し、上記一般式(3)で表される酸無水物が0.5モル以上で、理論反応モル数以下であることが好ましい。酸無水物の配合比が0.5モル未満では、1級のアミノ基が多量に存在してしまい、上記本発明の効果を奏し難くなる。また、理論反応モル数を超えると未反応の酸無水物が残存してしまい、シラン化合物の保存安定性が低下する傾向にある。
【0042】
上記シラン化合物は、アミノ基がアシル基でキャップされ不活性化されている。そのため、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、エポキシ樹脂がガラス繊維に含浸する前における、アミノ基によるエポキシ樹脂の硬化は十分に抑制される。また、上述のシラン化合物は、未硬化のエポキシ樹脂の溶融温度(約130〜160℃)程度に加熱されると、アミノ基をキャップしていたアセチル基などのアシル基が脱離して、活性なアミノ基を生成する。そのため、エポキシ樹脂をガラス繊維に含浸した後に、エポキシ樹脂とガラス繊維との間の接着性を十分に確保することができる。
【0043】
その結果、上述のシラン化合物は、シランカップリング剤としてガラス繊維及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と良好な接着性を示す。また、それと同時に、本発明のシラン化合物は、ガラス繊維への上記樹脂の含浸性を阻害しないため、樹脂の硬化時に白化現象の発生を十分抑制することができる。
【0044】
上記シラン化合物は、1種を単独で又は2種以上を混合してシランカップリング剤として用いてもよい。また、シランカップリング剤としては上述のシラン化合物以外に、本発明の作用効果を阻害しない範囲で公知のシランカップリング剤として用いられるシラン化合物を含有してもよい。
【0045】
本発明に係る表面処理ガラス繊維基材は、ガラス繊維基材と、ガラス繊維基材に付着した上記シラン化合物の加水分解物とを備えるものである。上記表面処理ガラス繊維基材は、ガラス繊維基材を上記一般式(1)で表されるシラン化合物の加水分解物、又は上記一般式(2)で表される1級のアミノ基を有するシラン化合物と上記一般式(3)で表される酸無水物とを反応により得られるシラン化合物の加水分解物で、被覆処理することにより得ることができる。
【0046】
ガラス繊維基材において、その態様は特に限定されない。例えば、ガラス繊維基材の態様として、長繊維束、織物、編物、組物、不織布、チョップドストランドを挙げることができる。ガラス繊維基材が織物である場合、本発明の効果が顕著に発揮される。なお、ガラス繊維基材のガラス組成は特に制限されず、Eガラス、Sガラス、Cガラス又はTガラスからなるガラス繊維がいずれも使用可能である。
【0047】
上記シラン化合物の加水分解物によるガラス繊維基材への付着は、通常の付着方法を用いることができる。例えば、付着方法は、シラン化合物を加水分解する加水分解工程と、シラン化合物又はその加水分解物をガラス繊維基材に被覆する被覆工程と、シラン化合物の加水分解物により発生する揮発成分及び/又はシラン化合物の溶媒を揮発させる乾燥工程とを備える。
【0048】
上記加水分解工程は、被覆工程に先立って備えられてもよく、被覆工程後に備えられてもよい。すなわち、シラン化合物を水に溶解し、加水分解したシラン化合物の水溶液をガラス繊維基材に被覆処理してもよく、シラン化合物を単独で、又はシラン化合物のアルコール溶液又は水分散液をガラス繊維基材に被覆した後、水蒸気等で処理しガラス繊維表面上でシラン化合物を加水分解してもよい。
【0049】
上記被覆工程において、シラン化合物又はその加水分解物をガラス繊維基材に被覆する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ガラス繊維基材をシラン化合物又はその加水分解物を含有する溶液に浸漬する方法、上記溶液をガラス繊維基材上にブレードコーティング法等で塗工する方法、スプレーコーティング法等で噴霧する方法を用いることができる。
【0050】
上記乾燥工程は、被覆工程後、所定の乾燥条件で加熱乾燥することにより行うことができる。これにより、シラン化合物の加水分解物により発生する揮発成分及び/又はシラン化合物の溶媒を揮発させ、シラン化合物の加水分解物をガラス繊維基材に付着させることができる。
【0051】
本発明に係る表面処理ガラス繊維基材は、シラン化合物を水に溶解し加水分解した水溶液を調製し、この水溶液をガラス繊維基材に被覆し、次いで、加熱乾燥することで作製することが好ましい。
【0052】
シラン化合物の加水分解物の被覆処理により、シラン化合物の加水分解物はガラス繊維表面とシラノール縮合し、本発明に係る表面処理ガラス繊維基材を得ることができる。なお、シラン化合物の加水分解物の全てがガラス繊維表面とシラノール縮合することはなく、一部加水分解物のまま、または加水分解せず、単にガラス繊維表面に付着しているものもあると考えられる。
【0053】
上記表面処理ガラス繊維基材において、シラン化合物の加水分解物の付着量(ガラス繊維表面とシラノール縮合しているシラン化合物の加水分解物、及び単にガラス繊維表面に付着しているシラン化合物の加水分解物の総量)は、被覆処理前のガラス繊維基材100質量部に対して0.04〜0.30質量部であることが好ましく、0.05〜0.20質量部であることがより好ましい。
【0054】
上記表面処理ガラス繊維基材は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を十分に含浸することができる。そして、含浸後、加熱することで、エポキシ樹脂との接着性を向上することができる。
【0055】
本発明のガラス繊維強化熱硬化性樹脂は、上記表面処理ガラス繊維基材と熱硬化性樹脂とを含むものである。この場合のガラス繊維基材は上述のいずれの態様を有していてもよいが、織物の場合、本発明の効果を顕著に認められる。また、本発明のガラス繊維強化熱硬化性樹脂における熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中では、本発明による作用効果をより有効に発現する観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
【0056】
なお、本発明のガラス繊維強化熱硬化性樹脂は、必要に応じて、低収縮剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、充填剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0057】
上述のガラス繊維強化熱硬化性樹脂は、本発明のシラン化合物の加水分解物で被覆されたガラス繊維を含むことから、ガラス繊維表面と熱硬化性樹脂との間で十分な接着性を有するとともに、熱硬化性樹脂がガラス繊維中に十分含浸されているので、白化現象を十分抑制することができる。
【0058】
本発明のプリント配線板用積層板は、上記ガラス繊維強化熱硬化性樹脂からなる層(以下、「ガラス繊維強化熱硬化性樹脂層」という。)と、該ガラス繊維強化熱硬化性樹脂層の最外層に接合された導体層とを備えるものである。ガラス繊維強化熱硬化性樹脂層は上述のガラス繊維強化熱硬化性樹脂を複数層積層したものであってもよい。上記プリント配線板用積層板における熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。また、上記導体層としては、銅、銀及び/又は金等を含む導体層が挙げられる。
【0059】
本発明のプリント配線板用積層板は、本発明のシラン化合物の加水分解物で被覆処理されたガラス繊維織物などの基材を含むガラス繊維強化熱硬化性樹脂層を備えていることから、各基板間の接着性が良好であり、ボイド、膨れ等の発生が十分に抑制されたプリント配線板を得ることができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
(シラン化合物の合成)
(実施例1)
冷却器、攪拌器、滴下ロート、温度計を取り付けた1000mLのセバラブルフラスコに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン221.1g(1モル)を仕込み、そこに常温で無水酢酸51.05g(0.5モル)をゆっくり滴下しながら、反応を行った。無水酢酸滴下中は、フラスコを水冷し、反応液の温度を50℃以下に保ちながら撹拌を行った。上記滴下終了後の反応液を、常温で2時間撹拌し、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を、液体クロマトグラフ質量分析装置(サーモテクエス社製、商品名「LCQ DuO」)により分析した結果、無水酢酸の95%が反応していることを確認した。また、赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、商品名「GX−2」)を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルを図1に示す。これにより、未反応のγ−アミノプロピルトリエトキシシランを多く含むものの、得られたシラン化合物の主成分は、上記式(4)で表される化合物であることを確認した。
【0063】
(実施例2)
無水酢酸51.05g(0.5モル)に代えて、無水酢酸102.1g(1モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を実施例1と同様に分析した結果、無水酢酸の87%が反応していることを確認した。また、実施例1と同様に赤外分光光度計を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルより、得られたシラン化合物中の主成分は、上記式(4)で表される化合物であることを確認した。
【0064】
(実施例3)
無水酢酸51.05g(0.5モル)に代えて、無水酢酸204.2g(2モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を実施例1と同様に分析した結果、無水酢酸の73%が反応していることを確認した。また、実施例1と同様に赤外分光光度計を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルより、得られたシラン化合物中の主成分は、上記式(4)及び(5)で表される化合物の混合物であることを確認した。
【0065】
(実施例4)
冷却器、攪拌器、滴下ロート、温度計を取り付けた1000mLのセバラブルフラスコに、N−β−(アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン264.5g(1モル)を仕込み、そこに常温で無水酢酸51.05g(0.5モル)をゆっくり滴下しながら、反応を行った。無水酢酸滴下中は、フラスコを水冷し、反応液の温度を50℃以下に保ちながら撹拌を行った。上記滴下終了後の反応液を、常温で2時間撹拌し、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を実施例1と同様に分析した結果、無水酢酸の97%が反応していることを確認した。また、実施例1と同様に赤外分光光度計を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルを図2に示す。これにより、未反応のN−β−(アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリメトキシシランを多く含むものの、得られたシラン化合物中の主成分は、上記式(6)で表される化合物であることを確認した。
【0066】
(実施例5)
無水酢酸51.05g(0.5モル)に代えて、無水酢酸102.1g(1モル)を用いた以外は実施例4と同様にして、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を実施例4と同様に分析した結果、無水酢酸の90%が反応していることを確認した。また、実施例4と同様に赤外分光光度計を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルより、得られたシラン化合物中の主成分は、上記式(6)で表される化合物であることを確認した。
【0067】
(実施例6)
無水酢酸51.05g(0.5モル)に代えて、無水酢酸204.2g(2モル)を用いた以外は実施例4と同様にして、シラン化合物を得た。得られたシラン化合物を実施例4と同様に分析した結果、無水酢酸の83%が反応していることを確認した。また、実施例4と同様に赤外分光光度計を用いて、上記シラン化合物のFT−IRによる赤外線吸収スペクトルを得た。そのスペクトルより、得られたシラン化合物中の主成分は、上記式(6)、(7)、(8)及び(9)で表される化合物の混合物であることを確認した。
【0068】
(比較例1)
シラン化合物として、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを用いた。
【0069】
(比較例2)
シラン化合物として、N−β−(アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリメトキシシランを用いた。
【0070】
(インテグラルブレンド法によるゲル化時間の測定)
下表2に示すエポキシ樹脂ワニス100質量部に対し、実施例及び比較例によるシラン化合物0.4質量部を直接添加して、シラン化合物含有エポキシ樹脂を得た。得られたシラン化合物含有エポキシ樹脂をホットプレート上、130℃、145℃、160℃の温度で加熱し、各温度におけるゲル化時間を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
(シラン化合物の加水分解物で被覆されたガラス繊維織物の作製)
上記実施例及び比較例によるシラン化合物を、pH3.2の酢酸水溶液1Lに添加し、シラン化合物が0.5質量%のガラス繊維織物被覆用の処理液を得た。次に、その処理液に、厚さ0.095mmのガラス繊維織物(日東紡績社製、IPCガラス繊維スタイル 2116、使用糸「ECE 225 1/0 0.7Z」)を浸漬した。次いで、マングル絞り機で上記浸漬後のガラス繊維織物を絞り、更に110℃の熱風で5分間乾燥した。こうして、シラン化合物の加水分解物で被覆されたガラス繊維織物(以下、「シラン処理ガラス繊維織物」という。)を得た。シラン化合物の加水分解物の付着量は、処理前のガラス繊維織物質量に対して0.1質量%であった。
【0074】
(積層板試験片の作製)
得られたシラン処理ガラス繊維織物に、上記表2に示した組成を有するエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、160℃で200秒間乾燥してプリプレグを作製した。得られたプリプレグにおけるガラス繊維織物の質量割合は、プリプレグの全質量に対して45質量%であった。このプリプレグを4枚積層し、更に積層方向の表裏面に銅箔を重ね、2MPaの圧力で、170℃、2時間加熱成形した。こうして銅張積層板(プリント配線板用積層板)を得た。この銅張積層板からエッチングにより銅箔を除去し、4cm×4cm角に切り出して、積層板試験片を作製した。
【0075】
(積層板試験片の半田耐熱性の評価)
得られた積層板試験片を、飽和水蒸気圧下、133℃のプレッシャークッカー試験(以下、「PCT」という。)器内に所定時間(60分間、90分間、120分間又は150分間)静置した。その後の積層板試験片を、260℃の半田浴に20秒間浮かべた。半田浴に浮かべた後の積層板試験片の膨れの有無を目視で観察し、以下に示す3段階で半田耐熱性を評価した。結果を表3に示す。
ランクA:膨れの発生なし。
ランクB:膨れが若干発生。8mm以上の膨れがなく、4mm以上の膨れが3個以下。
ランクC:膨れが顕著に発生。4mm以上の膨れが4個以上、又は8mm以上の膨れが1個以上あり。
【0076】
(積層板試験片の吸水率)
上述のようにして作製した積層板試験片を、飽和水蒸気圧下、133℃のPCT器内に、120分問静置する前後における積層板試験片の質量の増分を、吸水率(%)として評価した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
(積層試験片の絶縁抵抗の測定)
上述のようにして作製した積層板試験片を、飽和水蒸気圧下、133℃のPCT器内に所定時間(60分間、90分間、120分間又は150分間)静置した。その後、JISC 6481の2穴法により、積層板試験片の絶縁抵抗を評価した。結果を表4に示す。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1で得られたシラン化合物の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】実施例4で得られたシラン化合物の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシラン化合物。
【化1】


[式(1)中、RはR11−CO−を示し、Rは水素原子又はR11−CO−を示し、R、R及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、aは1又は2、bは0〜5の整数、cは1〜3の整数を示す。ただし、R、R、R、R、R11及びLが複数存在するときは、複数のR、R、R、R、R11及びLはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記Rはアセチル基である、請求項1記載のシラン化合物。
【請求項3】
前記bは0又は1であり、前記L及び/又はLは炭素数2又は3のアルキレン基である、請求項1又は2記載のシラン化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)で表されるシラン化合物と、下記一般式(3)で表される酸無水物と、を反応させてなるシラン化合物。
【化2】


[式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、L及びLはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、nは0〜5の整数、mは1〜3の整数を示す。また、式(3)中、R12は炭素数1〜3のアルキル基を示す。ただし、R、R、R12及びLが複数存在するときは、複数のR、R、R12及びLはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記酸無水物は無水酢酸である、請求項4記載のシラン化合物。
【請求項6】
前記nは0又は1であり、前記L及び/又はLは炭素数2又は3のアルキレン基である、請求項4又は5記載のシラン化合物。
【請求項7】
ガラス繊維基材と、該ガラス繊維基材に付着した請求項1〜6のいずれか一項に記載のシラン化合物の加水分解物と、を備える表面処理ガラス繊維基材。
【請求項8】
請求項7記載の表面処理ガラス繊維基材と、該表面処理ガラス繊維基材に含浸した熱硬化性樹脂と、を含むガラス繊維強化熱硬化性樹脂。
【請求項9】
請求項8記載のガラス繊維強化熱硬化性樹脂からなる層と、当該層の少なくとも一方面上に設けられた導体層と、を備えるプリント配線板用積層板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−91330(P2009−91330A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265794(P2007−265794)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】