説明

シリコン含有廃液処理方法

【課題】本発明は、効果的に不純物を除去したシリコン屑を回収することができるシリコン含有廃液処理方法を提供する。
【解決手段】本発明のシリコン含有廃液処理方法は、水溶性クーラントを供給しながらシリコン塊を機械加工することにより排出される廃液から再生クーラントと再生シリコン塊を得るためのシリコン含有廃液処理方法であって、前記廃液または前記廃液の濃縮分を蒸留することによって前記再生クーラントとシリコン回収用固形分とに分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を洗浄液中に分散させ洗浄した後、前記シリコン回収用固形分と液分とに固液分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散させ洗浄する工程と、前記塩基性水溶液と前記シリコン回収用固形分とを固液分離することなく、前記塩基性水溶液に酸性水溶液を添加することにより、酸性水溶液中で前記シリコン回収用固形分を洗浄する工程とを順次含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップや太陽電池用として広く用いられるシリコン単結晶又は多結晶からなる薄板(以下、「シリコンウェハ」と呼ぶ。)の製造工程において、原料であるシリコン塊の約60%が切断、面取り又は研磨等により廃液中に廃棄されており、製品に対するコスト負荷ならびに廃棄処分(この廃液は濃縮処理や一部材料の回収の後、埋め立て処分されるのが一般的である)に伴う環境への負荷が大きな問題となっている。
【0003】
また、特に近年、太陽電池の生産量は増加の一途をたどっており、原料であるシリコン塊や切断時に使用されるクーラントの需要も急激な伸びが見られる。
そこで従来、上記の切断又は研磨といったシリコンウェハの製造時に排出される廃液から加工用スラリや再生シリコンを回収する方法が提案されてきた。
【0004】
廃液を、砥粒を主として含む分散液とシリコン屑を主として含む分散液に分離し、回収した砥粒を主として含む分散媒を利用する加工用スラリ再生方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、廃液に対して固液分離した後の固形分を有機溶剤により洗浄し、固形分に含まれる分散剤を除去する有機溶剤洗浄工程と、有機溶剤洗浄工程後の固形分から酸化シリコン及び砥粒を除去して、シリコン屑を主成分とする粉体を得る分離工程と、を含むシリコン屑の回収方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−340719号公報
【特許文献2】特開2001−278612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のシリコン屑を含有する廃液の処理方法では、シリコン塊の機械加工により混入した鉄、リン、オイル成分などの不純物を十分に除去したシリコン屑を回収することができず、または、これらを除去するために多くの工程を必要とする。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、効果的に不純物を除去したシリコン屑を回収することができるシリコン含有廃液処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、グリコールを主成分とする水溶性クーラントまたは前記水溶性クーラントを含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材を用いてシリコン塊を機械加工することにより排出される廃液または前記廃液の濃縮分から再生クーラントと再生シリコン塊を得るためのシリコン含有廃液処理方法であって、前記廃液または前記廃液の濃縮分を蒸留することによって前記再生クーラントとシリコン回収用固形分とに分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を洗浄液中に分散させ洗浄した後、前記シリコン回収用固形分と液分とに固液分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散させ洗浄する工程と、前記塩基性水溶液と前記シリコン回収用固形分とを固液分離することなく、前記塩基性水溶液に酸性水溶液を添加することにより、酸性水溶液中で前記シリコン回収用固形分を洗浄する工程とを順次含むことを特徴とするシリコン含有廃液処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコン屑と、グリコールを主成分とする水溶性クーラントと、金属製の加工部材を用いた機械加工により生じた不純物(加工部材から混入した鉄、リンなどの不純物と水溶性クーラントが加工熱により反応した有機化合物を含む)とが混在する廃液などを蒸留することにより、再生クーラントとシリコン回収用固形分とに分離することができるため、シリコン塊の機械加工に使用した水溶性クーラントを再生クーラントとして回収でき容易に再利用することができる。
さらに、本発明によれば、廃液に含まれるシリコン回収用固形分を塩基性水溶液中、酸性水溶液中などに分散させて洗浄することにより、不純物を十分に除去することができる。この不純物が十分に除去されたシリコン回収用固形分を使用して再生シリコン塊を作成することにより、少ない工程数でシリコンを高純度に精製することができ、低コストで再生シリコン塊を得ることができる。
【0010】
次に、本発明によれば、シリコン回収用固形分に含まれていた不純物が十分に除去されることについて説明する。
まず、シリコン屑を含む廃液などを蒸留することにより得られたシリコン回収用固形分を洗浄液中に分散させて洗浄することにより、シリコン回収用固形分に含まれる水溶性クーラントおよび不純物の大部分を除去することができる。
この後、前記洗浄液を固液分離して得られるシリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散させて洗浄することにより、前記塩基性水溶液中で洗浄する前のシリコン回収用固形分に含まれ、かつ、シリコン屑を含む凝集体を分散させることができ、凝集体の内部の塩基性水溶液に可溶な不純物を除去することができる。
さらにシリコン回収用固形分を分散させた前記塩基性水溶液に酸性水溶液を加え、シリコン回収用固形分を分散させた溶液を酸性水溶液とすることにより、凝集体の内部の酸性水溶液に可溶な不純物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のシリコン含有廃液処理方法の工程を説明するための説明図である。
【図2】(a)(b)は、本発明の一実施形態のシリコン含有廃液処理方法に含まれるシリコン回収用固形分を洗浄する工程におけるシリコン屑の状態を説明するための説明図である。
【図3】シリコン回収用固形分について行った粒度分布測定の結果を示す粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシリコン含有廃液処理方法は、グリコールを主成分とする水溶性クーラントまたは前記水溶性クーラントを含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材を用いてシリコン塊を機械加工することにより排出される廃液または前記廃液の濃縮分から再生クーラントと再生シリコン塊を得るためのシリコン含有廃液処理方法であって、前記廃液または前記廃液の濃縮分を蒸留することによって前記再生クーラントとシリコン回収用固形分とに分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を洗浄液中に分散させ洗浄した後、前記シリコン回収用固形分と液分とに固液分離する工程と、前記シリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散させ洗浄する工程と、前記塩基性水溶液と前記シリコン回収用固形分とを固液分離することなく、前記塩基性水溶液に酸性水溶液を添加することにより、酸性水溶液中で前記シリコン回収用固形分を洗浄する工程とを順次含むことを特徴とする。
【0013】
固液分離とは、固形分と液分との混合物を固形分と液分に分離することである。固液分離には、例えば、遠心分離、ろ過、蒸留などが含まれる。
固形分とは、固形分と液分との混合物を固液分離して得られる固体を主成分とする部分であり、液体を含んでいてもよい。
液分とは、固形分と液分との混合物を固液分離して得られる液体を主成分とする部分であり、固体を含んでいてもよい。
凝集体とは、粒子が会合して形成されたものをいう。
廃液の濃縮分とは、廃液に含まれるある成分の割合を高くしたものをいう。
【0014】
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、前記酸性水溶液中で洗浄した前記シリコン回収用固形分は、5重量ppm以上20重量ppm以下の鉄濃度を有することが好ましい。
このことにより、このシリコン回収用固形分を精製して再生シリコン塊を形成する場合、鉄濃度が低いため、精製コストを低くすることができる。
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、前記シリコン回収用固形分を洗浄する前記塩基性水溶液は、9以上11以下のpH値を有することが好ましい。
このことにより、シリコンが塩基性水溶液に溶解することを抑制することができ、かつ、シリコン屑を含む凝集体を分散させることができる。この結果、シリコンの回収率を低下させないで、不純物を除去することができる。
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、シリコン回収用固形分を洗浄する塩基性水溶液は、アンモニア水溶液であることが好ましい。
このことにより、シリコン回収用固形分を洗浄する塩基性水溶液のpH値を容易に9以上11以下の範囲に調整することができる。
【0015】
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、前記アンモニア水溶液は、0.001質量%以上1質量%以下のアンモニア濃度を有することが好ましい。
このことにより、シリコンがアンモニア水溶液に溶解することを抑制することができ、かつ、シリコン屑を含む凝集体を分散させることができる。この結果、シリコンの回収率を低下させないで、不純物を除去することができる。
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、シリコン回収用固形分は、2倍以上20倍以下の重量の塩基性水溶液中に分散され洗浄されることが好ましい。
このことにより、シリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散し洗浄することにより、シリコン回収用固形分に含まれる不純物を十分に除去することができる。
【0016】
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、シリコン回収用固形分を洗浄する酸性水溶液は、0以上2以下のpH値を有することが好ましい。
このことにより、酸性水溶液に可溶な不純物を十分に除去することができる。
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、前記塩基性水溶液に添加する酸性水溶液は、フッ化水素酸であることが好ましい。
このことにより、フッ化水素酸に可溶な不純物を十分に除去することができる。
本発明のシリコン含有廃液処理方法において、蒸留により得られたシリコン回収用固形分を洗浄する洗浄液は、水、酸性水溶液、塩基性水溶液または有機溶剤であることが好ましい。
このことにより、蒸留により得られたシリコン回収用固形分に含まれる不純物の多くを除去することができる。
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0018】
シリコン含有廃液処理方法
図1は本発明の一実施形態のシリコン含有廃液処理方法を説明するための説明図である。また、図2は、本発明の一実施形態のシリコン含有廃液処理方法に含まれる工程を説明するための説明図であり、(a)はシリコン回収用固形分を洗浄液に分散させ洗浄する工程の説明図であり、(b)はシリコン回収用固形分を塩基性水溶液に分散させ洗浄する工程の説明図である。
【0019】
本実施形態のシリコン含有廃液処理方法は、グリコールを主成分とする水溶性クーラント4または水溶性クーラント4を含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材を用いてシリコン塊1を機械加工することにより排出される廃液3または廃液3の濃縮分から再生クーラント5と再生シリコン塊25を得るためのシリコン含有廃液処理方法であって、廃液3または廃液3の濃縮分を蒸留することによって再生クーラント5とシリコン回収用固形分7とに分離する工程と、シリコン回収用固形分7を洗浄液9中に分散させ洗浄した後、シリコン回収用固形分15と液分12とに固液分離する工程と、シリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17中に分散させ洗浄する工程と、塩基性水溶液17とシリコン回収用固形分とを固液分離することなく、塩基性水溶液17に酸性水溶液19を添加することにより、酸性水溶液20中でシリコン回収用固形分を洗浄する工程とを順次含むことを特徴とする。
【0020】
以下、本実施形態のシリコン含有廃液処理方法について説明する。なお、本実施形態のシリコン含有廃液処理方法は、シリコン塊1の機械加工から生じる廃液3を利用するものであるため、シリコン塊1の機械加工の一実施形態についても説明する。また、本発明のシリコン含有廃液処理方法により得られるシリコン回収用固形分は、溶融などの工程を経て再生シリコン塊25として再生されることが可能であるため、シリコン再生方法についても説明する。なお、シリコン再生方法は、溶融工程およびシリコン塊の形成工程、溶融後洗浄工程、真空溶融工程、リーチング工程、偏析工程などを含んでもよい。
【0021】
1.シリコン塊の機械加工
シリコン塊1は、グリコールを主成分とする水溶性クーラント4または水溶性クーラント4を含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材により機械加工することができ、この機械加工により、シリコン塊1が削られることにより発生するシリコン屑2と水溶性クーラント4とを含む廃液3が生じる。また、シリコン塊1の機械加工には、シリコン塊1の切断や研磨が含まれる。また、シリコン塊1の機械加工には、砥粒を用いることができ、砥粒は、前記水溶性スラリに含まれる遊離砥粒であってもよく、シリコンの機械加工に用いる加工部材に固定された固定砥粒であってもよい。
【0022】
シリコン塊1は、特に限定されないが、例えば、シリコンインゴット、シリコンウェハなどである。シリコン塊1の形状は、特に限定されないが、一例では、円柱状、四角柱状、薄板状である。シリコン塊1の機械加工を行う装置の一例は、シリコンインゴットの切断装置として広く用いられているマルチワイヤソー装置(以下、「MWS」と呼ぶ。)である。MWSとは一般に、複数のローラ間にワイヤを架け渡して巻き付け、クーラントと遊離砥粒を含むスラリをワイヤに供給しつつ走行させ、このワイヤにシリコン塊1を押し付けて切断する切断装置のことである。ワイヤは鋼材を伸線したもの、または、線材にダイヤモンド等の固定砥粒を固着させたもののいずれでもよい。
【0023】
グリコールを主成分とする水溶性クーラント4とは、シリコン塊1の機械加工時に供給される冷却用溶液である。水溶性クーラント4は、シリコン塊1の加工のために用いる遊離砥粒、分散剤などと混合して、加工用水溶性スラリとして用いてもよい。
水溶性クーラント4に含まれるグリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール又はポリエチレングリコールなどの水溶性有機溶剤であり、これらの複数であってもよい。また、「グリコールを主成分とする」とは、グリコールを70質量%以上含んでいることをいう。また、水溶性クーラント4は、有機酸、塩基性水溶液、ベントナイトなどの添加物を含んでもよく、この添加量は、水溶性クーラント4の10質量%以下であることが好ましく、水溶性クーラント4の3質量%以下であることがさらに好ましい。また、水溶性クーラント4は、水溶性クーラント4の20質量%以下の水分を含んでいてもよく、好ましくは水溶性クーラント4の15質量%以下の水分を含んでいてもよい。
【0024】
シリコン塊1の機械加工に砥粒を用いる場合、砥粒は、遊離砥粒であっても、固定砥粒であってもよい。また、砥粒は、例えば、SiC、ダイヤモンド、CBN、アルミナなどである。
シリコン屑2は、シリコン塊1の機械加工により、シリコン塊1が削られることにより生じる。シリコン屑2は、主に粒子状であり、廃液3として、シリコン塊1を機械加工する装置から排出される。
【0025】
廃液3とは、シリコン塊1を機械加工する装置から排出される廃液3であり、主に水溶性クーラント4、シリコン屑2、シリコン塊1の機械加工に用いた金属製の加工部材から生じた金属屑などが含まれる。また、シリコン塊1の機械加工に伴う摩擦熱などにより上記の成分が化学反応した成分も含まれると考えられる。また、シリコン塊1の機械加工に砥粒を使用したとき、砥粒も廃液3に含まれる。
本実施形態のシリコン含有廃液処理方法は、これらの廃液3の成分のうち、水溶性クーラント4およびその化学反応した成分、加工部材から生じた金属屑を十分に除去したシリコン回収用固形分を回収することができる。これらの成分が十分に除去されないと、シリコン回収用固形分を溶融し再生シリコン塊25を得る工程において、シリコンと反応しシリコンの回収率を低くしたり、余分な工程が必要になったり、処理時間が長くなったり、処理に用いる坩堝などの寿命が短くなったり、除去が難しく再生シリコンの品質を低下させたりするためである。例えば、回収したシリコン回収用固形分に水溶性クーラント4またはその化合物などの有機化合物が含まれていると、シリコン回収用固形分を溶融する工程において、シリコン屑2と有機化合物が容易に反応することによりSiCを形成しシリコンの回収率を低下させる場合がある。
なお、本実施形態のシリコン含有廃液処理方法で回収することができるシリコン屑2を含むシリコン回収用固形分22には、砥粒は含まれてもよい。砥粒は、シリコン回収用固形分22を溶融し再生シリコン塊25を得る工程において、除去することができるためである。
廃液3は、固形分を有してもよく、液分と固形分の割合は特に限定されない。
廃液3の濃縮分とは、廃液3に含まれるある成分の割合を高くしたものである。例えば、廃液に含まれるシリコン屑2の割合を高くしたものである。
なお、廃液の濃縮は、例えば、加熱、遠心分離または濾過等の方法を用いておこなうことができる。また、廃液3をシリコン屑2の割合を高くする濃縮は、例えば、遠心分離により、水溶性クーラント4を主成分とする部分および砥粒などを主成分とする部分とシリコン屑2を主成分とする部分とに分離することにより行うことができる。
【0026】
2.廃液などの蒸留
グリコールを主成分とする水溶性クーラント4または水溶性クーラント4を含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材を用いてシリコン塊1を機械加工することにより排出され、かつ、シリコン屑2を含む廃液3または廃液3の濃縮分を蒸留することにより再生クーラント5とシリコン屑2を含むシリコン回収用固形分7とに分離する。
廃液3などを蒸留により再生クーラント5とシリコン回収用固形分7とに分離する方法は、特に限定されないが、例えば、減圧または真空下で廃液3などの蒸留を行い、蒸留分と残りのシリコン回収用固形分7とに分離することができる。この蒸留分には主に水溶性クーラント4が含まれ、再生クーラント5として再利用することができる。残りのシリコン回収用固形分7は、この工程により水溶性クーラント4の大部分が除去されており、シリコン屑2を回収するために次の工程で用いることができる。
さらに詳しく説明すると、廃液3などをグリコールの沸点以上、例えば200℃に加熱し、例えば0.1気圧以下の減圧下または真空下で蒸留を行うことができる。このことにより、廃液3に含まれる成分の酸化、化学反応などを抑制することができる。
【0027】
3.シリコン回収用固形分の洗浄液による洗浄
シリコン回収用固形分7を洗浄液9に分散させて、洗浄する。洗浄液9は、水、酸性水溶液、塩基性水溶液または有機溶剤である。また、シリコン回収用固形分7を分散させた洗浄液9を攪拌子10により攪拌することにより、シリコン回収用固形分7の洗浄を行うことができる。また、超音波分散により分散させながら洗浄することもできる。また、洗浄液9に塩基性水溶液を用いることにより、後述する塩基性水溶液17による洗浄と同様の効果が得られ、不純物除去効果が高いと考えられる。この場合、洗浄液9である塩基性水溶液での洗浄と塩基性水溶液17での洗浄を行うことによりさらに不純物除去効果が高くなると考えられる。
シリコン回収用固形分7は、洗浄液9で希釈しながら分散させ洗浄することができる。洗浄時間は、特に限定されないが、30分以上が好ましい。
洗浄液9とする酸性水溶液としては、例えば無機酸性物質又は有機酸性物質を含む溶液が挙げられる。無機酸性物質としては、塩化水素、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素などが挙げられる。有機酸性物質としては、クエン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、乳酸などが挙げられる。この酸性水溶液は少なくとも1種の酸性物質を含んでいればよく、無機酸性物質と有機酸性物質の両方を含んでいてもよい。
【0028】
洗浄液9とする塩基性水溶液としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなど、アルカリ金属の水酸化物の水溶液やアンモニア水溶液を用いることができる。この塩基性水溶液はシリコンとの反応を抑えるため弱塩基であることが望ましくアンモニア水溶液が好ましい。
洗浄液9とする有機溶剤は、水溶性クーラント4が溶解することができる性質を有しかつ水溶性クーラント4よりも沸点が低いものが好ましく、例えば炭素数が1〜6(好ましくは、1,2、3、4、5及び6の何れか2つの間の範囲)のアルコール又は炭素数が3〜6(好ましくは、3,4,5及び6)の何れか2つの間の範囲のケトンである。この有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンからなる群から選ばれる1つからなるか又は2つ以上の混合物であればさらに好ましい。
また洗浄液9は、水、酸性水溶液、有機溶剤を少なくとも1つ用いるか又は組み合わせて2つ以上用いてもよい。
【0029】
4.シリコン回収用固形分と液分との固液分離
シリコン回収用固形分7を分散させた洗浄液9について、固液分離を行い、シリコン屑2を含むシリコン回収用固形分15と液分12とに分離する。また、この分離に伴い、洗浄液または水をシリコン回収用固形分に供給しながら固液分離を行ってもよい。また、洗浄液または水の供給と固液分離を交互に複数回繰り返してもよい。
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、遠心分離、ろ過などである。
この工程により、オイル含有率が1質量%以下のシリコン回収用固形分15を得ることができる。
シリコン回収用固形分7の洗浄液9による洗浄および固液分離に用いる装置は洗浄液の供給と固液分離が行える装置であればいかなるものであっても良いが、例えば、遠心分離機、濾過装置などの固液分離装置と、洗浄剤の供給装置を2つ以上直列に組み合わせて構成されることが好ましい。
【0030】
シリコン回収用固形分7を洗浄液9で洗浄し、シリコン回収用固形分15を得ることにより、シリコン回収用固形分7に含まれていた不純物の多くを除去することができ、塩基性水溶液17を用いた洗浄および酸性水溶液20を用いた洗浄による不純物除去効果をより高くすることができる。
なお、シリコン回収用固形分15には、シリコン屑2などが凝集した凝集体27が存在し、この凝集体27の内部の水溶性クーラント4およびその化学反応した成分、加工部材から生じた金属屑などは除去できていないと考えられる。シリコン屑2などが凝集体27を形成する理由は明らかではないが、例えば、水溶性クーラント4などの有機成分がシリコン塊1の機械加工に伴う熱により反応し形成された高分子有機化合物が接着剤の役割を果たしシリコン屑2などを凝集させていると考えられる。
図2は、凝集体27を説明するための説明図であり、図2(a)は、シリコン回収用固形分7を分散させた洗浄液9中でのシリコン屑2の状態を説明するための模式図である。図2(a)のように洗浄液9中でのシリコン屑2は、凝集体27を形成していると考えられるため、凝集体27の内部の不純物は、洗浄液9では十分に除去できないことが考えられる。なお、洗浄液9に塩基性水溶液を用いた場合、後述する塩基性水溶液17による洗浄と同様の効果があると考えられるため、洗浄液9により除去できない凝集体27の内部の不純物は減少すると考えられる。
【0031】
5.シリコン回収用固形分の塩基性水溶液による洗浄
シリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17中に分散させて洗浄する。また、シリコン回収用固形分15を分散させた塩基性水溶液17を攪拌子10により攪拌することにより、シリコン回収用固形分15の洗浄を行うことができる。また、超音波分散により分散させながら洗浄することもできる。塩基性水溶液17は、塩基性の水溶液であれば特に限定されないが、例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液である。また、洗浄時間は特に限定されないが、たとえば、30分間洗浄を行うことができる。
【0032】
シリコン回収用固形分15を水に分散させた場合、この水は、pHが5〜6.5の弱酸性を示すため、シリコン屑2などを凝集させていると考えられる高分子有機化合物は、塩基性水溶液に溶解性があると考えられる。このため、シリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17で洗浄することにより、シリコン回収用固形分15に含まれる凝集体27を分散させることができ、また、洗浄液9による洗浄により除去できなかった塩基性水溶液に溶解性のある有機化合物などを除去することができる。
【0033】
塩基性水溶液17は、9以上11以下のpH値を有することが好ましい。また、塩基性水溶液17は、アンモニア水溶液であることが好ましい。一般的にシリコンは塩基性水溶液に溶解するため、塩基性水溶液でシリコン回収用固形分15を洗浄することにより、シリコン屑2の回収率が低下することが考えられるが、塩基性水溶液17のpH値が9以上11以下の場合、シリコンの塩基性水溶液17であるアンモニア水溶液への溶解は抑制されることが後述の実験により確認された。この理由は、明らかではないが、シリコン屑2に付着した前記高分子有機化合物などがシリコンとアルカリとの反応を抑制するためと考えられる。また、後述の実験により9以上11以下のpH値の塩基性水溶液であるアンモニア水溶液でシリコン回収用固形分15を洗浄することにより、シリコン回収用固形分15に含まれる粒子の粒径が小さくなっていることが確認された。このことから、シリコン回収用固形分15に含まれる凝集体27は、塩基性水溶液17を用いた洗浄により、分散されていると考えられる。
【0034】
図2(b)は、シリコン回収用固形分15を分散させた塩基性水溶液17中でのシリコン屑2の状態を説明するための説明図である。塩基性水溶液17中では、図2(b)のように凝集体27を形成していたシリコン屑2が分散されると考えられるため、凝集体27が存在することにより除去することができなかった不純物は、塩基性水溶液17中に分散され、塩基性水溶液に可溶な不純物は、除去されると考えられる。
また、塩基性水溶液17をアンモニア水溶液とすることにより、塩基性水溶液17のpH値を9以上11以下の範囲に容易に制御することができる。
本工程において用いられる洗浄装置は、塩基性水溶液の供給と固液分離が行える装置であればいかなるものであっても良いが、一例では、洗浄漕と、洗浄漕内に設けられた攪拌機、超音波発振装置とで構成されることが好ましい。
【0035】
6.酸性水溶液による洗浄
シリコン回収用固形分15を分散させた塩基性水溶液17に酸性水溶液19を加えることにより、シリコン回収用固形分15を分散させた溶液を酸性水溶液20とする。このことにより、シリコン回収用固形分15に含まれていた凝集体27を溶液に中に分散させた状態、例えば図2(b)に示した状態と同じような状態で、この溶液を酸性にすることができる。その結果、凝集体27に含まれていた酸性水溶液に可溶な金属屑などの不純物を除去することができると考えられる。
酸性水溶液19は、酸性水溶液であれば特に限定されないが、例えばフッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸の何れか1つか、それらの混合物の無機酸溶液が使用できる。好ましくはフッ化水素酸が使用できる。フッ化水素酸は、鉄など多くの不純物に対し溶解性を有するからである。
【0036】
また、シリコン回収用固形分15を分散させた酸性水溶液20を攪拌子により攪拌することにより、シリコン回収用固形分15の洗浄を行うことができる。また、超音波分散により分散させながら洗浄することもできる。
このように、シリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17で洗浄した後、連続して酸性水溶液20で洗浄することにより、不純物除去効果を劇的に高めることができる。この理由として、塩基性水溶液17を用いた洗浄によりシリコン回収用固形分15の分散が進んだため、酸性水溶液20と金属不純物との接触確率が大きくなり不純物の低減につながると推測される。
酸性水溶液20のpHは、7未満であればよいが、0〜2が好ましい。この酸性水溶液20のpHは、例えば、0、0.5、1、1.5、2である。この酸性水溶液20のpHは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
また、酸性水溶液20による洗浄時間は、特に限定されないが、1時間以上が好ましい。
本工程において用いられる洗浄装置は酸性水溶液の供給と固液分離が行える装置であればいかなるものであっても良いが、一例では、洗浄漕と、洗浄漕内に設けられた攪拌機、超音波発信装置とで構成されることが好ましい。
【0037】
7.固液分離およびシリコン回収用固形分の乾燥
次に、シリコン回収用固形分15を分散させた酸性水溶液20について固液分離を行い、シリコン屑2を含むシリコン回収用固形分22と液分に分離する。また、このシリコン回収用固形分22を乾燥させることができる。このことにより、不純物が十分に除去されたシリコン回収用固形分22を得ることができる。また、この分離に伴い、洗浄液または水をシリコン回収用固形分に供給しながら固液分離を行ってもよい。また、洗浄液または水の供給と固液分離を交互に複数回繰り返してもよい。また、得られたシリコン回収用固形分22を水により洗浄することにより酸性水溶液20の成分を除去してもよい。
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、遠心分離、ろ過などである。また、乾燥機を用いて酸性水溶液20を蒸発させてもよい。
【0038】
本工程において用いられる装置は水の供給と固液分離が行える装置であればいかなるものであっても良いが、例えば、遠心分離機、濾過装置又は蒸留装置などの固液分離装置と、純水供給装置を2つ以上直列に組み合わせて構成される。
【0039】
8.溶融工程およびシリコン塊の形成工程
次にシリコン回収用固形分22を坩堝に入れ加熱することにより、シリコン回収用固形分22を溶融させることができる。また、この溶融シリコンの入った坩堝を傾け、冷却容器に溶融シリコンを出湯させ冷却することにより、シリコン塊を得ることができる。このことにより、砥粒などの不純物を坩堝内に残し、溶融したシリコンだけを出湯することができるため、不純物が除去されたシリコン塊を得ることができる。
シリコン回収用固形分22を入れる坩堝は特に限定されないが、例えば、カーボン坩堝である。また、シリコン回収用固形分22を溶融させる温度は、シリコンの融点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば、1800℃まで加熱することができる。また、シリコン回収用固形分22を溶融させるための炉は、特に限定されないが、例えば、誘導加熱装置を用いることができる。
【0040】
9.溶融後洗浄工程
次に、得られたシリコン塊を酸性水溶液および塩基性水溶液でそれぞれ洗浄することができる。このことにより、再付着不純物の除去およびシリコン塊中の金属(鉄、アルミなど)および金属化合物(鉄シリサイドなど)を除去することができる。また、溶融後洗浄工程の前にシリコン塊を適宜(例えば1cm以上10cm以下の径)に粉砕しておくことができる。このことにより不純物除去効果が大きくなるからである。
酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、フッ化水素水溶液を用いることができる。また、塩基性水溶液は、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0041】
10.真空溶融工程
次に、シリコン塊を坩堝内に投入し加熱することにより、シリコン塊を溶融させ、溶融シリコンとすることができる。この溶融シリコンを攪拌しながら雰囲気を減圧または真空にすることができる。このことにより、溶融シリコンに含まれるリンなどを除去することができる。また、この溶融シリコンを冷却することにより不純物が除去されたシリコン塊を得ることができる。
溶融シリコンの雰囲気は、リンなどの不純物が除去できる圧力ならば特に限定されないが、例えば、1×10-2Pa程度とすることができる。
【0042】
11.リーチング工程
次に、シリコン塊を微粒子状に粉砕し、酸性水溶液中で洗浄することができる。このことにより、粒界に析出した重金属成分を除去することができる。
【0043】
12.偏析工程
次に、シリコン微粒子を坩堝に入れ加熱することにより溶融シリコンを得ることができる。この溶融シリコンを一方向凝固させ、シリコン塊を得ることができる。このことにより、不純物がシリコン塊の一部に集まるため、不純物が多く含まれる部分を除去して残りの部分を太陽電池用シリコン原料とすることができる。
なお、真空溶融工程、リーチング工程、偏析工程を行う順番は、任意に変えることができる。
【0044】
実験
1.遊離砥粒を用いたシリコンインゴットの機械加工により生じた廃液を用いたシリコン屑の回収実験およびシリコン精製実験(実施例1)
<廃液の遠心分離、蒸留>
まず、マルチワイヤソーおよび加工用スラリを用いてシリコンインゴットの切断加工を行ない、シリコンインゴットの切断加工の際に発生した廃液を回収した。ここで、加工用スラリのクーラントとしては水溶性オイル(大智化学産業(株)製、ルナクーラント)が用いられ、加工用スラリに含まれる遊離砥粒としてはシナノ製のシリコンカーバイドGC#1000(平均粒子径約11μm)が用いられた。
【0045】
次に、上記のシリコンインゴットの切断加工の際に発生した廃液3を遠心分離機に投入した後に遠心力が500Gとなるように遠心分離を行なうことによって、砥粒(遊離砥粒)が主成分のシリコン回収用固形分と、クーラントおよびシリコン屑が主成分の液分とに分離した。
次に、上記で得られたクーラントおよびシリコン屑が主成分の液分を遠心分離機に投入した後に遠心力が3500Gとなるように遠心分離を行なうことによって、クーラントが主成分の液分と、シリコン屑および砥粒が主成分のシリコン回収用固形分とに分離した。
次に、上記で得られたシリコン回収用固形分を温度が200℃で圧力が76Torrの雰囲気内に設置して蒸留を行い、再生クーラント5とシリコン回収用固形分7とに分離した。そして、乾燥後のシリコン回収用固形分7(第1固形分)中の不純物の含有量(重量)を調査した結果を表1に示す。なお、表1においてppmとは質量ppmであり、%とは質量%である。以後の表についても同様である。
【0046】
【表1】

【0047】
ここで、乾燥後のシリコン回収用固形分7中のボロン、リンおよび鉄の含有量は、ボロンはICP質量分析計、リンおよび鉄はICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Spectrometry)により測定して得られた値である。
また、乾燥後のシリコン回収用固形分7中の炭素の含有量は、シリコン回収用固形分7をフッ酸(フッ化水素水溶液)と硝酸との混合液を用いた処理および水酸化ナトリウム水溶液を用いた処理を行った後の残留物の重量を測定することにより炭化ケイ素(砥粒)の重量を測定し、この重量から計算した値である。
また、シリコン回収用固形分7中のオイルの含有量は、示唆熱天秤装置を用いてシリコン回収用固形分7の重量変化を測定することにより得られた値である。
また、シリコン回収用固形分7中の酸素の含有量は、EDAX製のエネルギー分散型X線分析装置を用いて測定することにより得られた値である。なお、以後の実験における不純物の含有量の測定も同様の方法で行った。
【0048】
また、シリコン回収用固形分7の外観は数mmの凝集体となっていることが観察された。この凝集の原因を解明するため、シリコン回収用固形分7をメタノールに溶解した溶液をガスクロマトグラフィーで分析を行った。その結果、オイルの主成分であるグリコール以外にグリコールが分解または重合されたものと考えられる有機化合物(以下、グリコール変性物と称す。)が存在することが確認された。
この結果から、これらの有機化合物が接着剤の働きをして、シリコン屑、金属屑、砥粒などを凝集させていると推測された。
したがって、凝集体は、有機化合物を介して、シリコン、ワイヤ切屑、砥粒を含む凝集体となっており、グリコール変性物を除去しない限り、凝集体の内部のワイヤ切屑を除去することは困難であることがわかった。
【0049】
<洗浄液による洗浄>
上記の乾燥後のシリコン回収用固形分7を洗浄液である純水(25℃)中に分散させて純水を攪拌しながら1時間保持した。
その後、シリコン回収用固形分7が分散した純水を濾過することにより、固液分離し、液分とシリコン回収用固形分15(第2固形分)とに分離した。
次にシリコン回収用固形分15について粒度分布測定を行った。
図3は、シリコン回収用固形分15(第2固形分)とシリコン回収用固形分22(第3固形分)について行った粒度分布測定の結果を示す粒度分布図である。図3からシリコン回収用固形分15は1mmから10mmの粒径を有していることがわかる。
また、シリコン回収用固形分15を水に分散させた場合、この水は、pHが5〜6.5の弱酸性を示した。このことから、シリコン屑などを凝集させていると考えられる高分子有機化合物は、塩基性水溶液に溶解性があると考えられる。
【0050】
<塩基性水溶液による洗浄>
シリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17である1〜10質量%程度のアンモニア水溶液(シリコン回収用固形分15とアンモニア水溶液の質量比1:5)中に分散させて、アンモニア水溶液を攪拌しながら30分保持した。
<酸性水溶液による洗浄>
その後、アンモニア水溶液中に酸性水溶液19である25〜50質量%のフッ化水素酸を添加し、pHが1以上2以下の酸性水溶液20とし、シリコン回収用固形分15が分散された酸性水溶液20を攪拌しながら1時間保持した。
その後、シリコン回収用固形分15が分散された酸性水溶液20をろ過することにより、液分と、シリコン回収用固形分22とに分離した。このシリコン回収用固形分22に付着したフッ酸を水で洗い流した後に、上記と同様にして、シリコン回収用固形分22(第3固形分)中のボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0051】
表1に示すように、純水、アンモニア水溶液およびフッ酸を用いた洗浄工程によって、シリコン回収用固形分からボロン、リン、鉄および酸素が除去されるとともに、オイルが除去されたことが確認された。
次に、シリコン回収用固形分22(第3固形分)について粒度分布測定を行った。この測定結果を図3に示す。図3からシリコン回収用固形分22は1mm前後の粒径を有していることがわかった。シリコン回収用固形分15(第2固形分)の粒度分布と比較すると、シリコン回収用固形分22は粒径が小さくなっていることがわかった。このことから、塩基性水溶液17および酸性水溶液20でそれぞれ洗浄したシリコン回収用固形分22は、シリコン屑などを凝集させると考えられる有機化合物が除去されており、凝集体を形成していたシリコン屑などが分散されていることが推測された。
【0052】
<溶融工程およびシリコン塊の形成工程>
シリコン回収用固形分22をカーボン坩堝中に投入した後に誘導加熱装置によってカーボン坩堝を1800℃まで加熱することによってシリコン回収用固形分22を溶融して溶融シリコンを作製した。
そして、カーボン坩堝を傾けることによって、カーボン坩堝中の溶融シリコンをカーボン鋳型の冷却容器に出湯した。この冷却容器内の溶融シリコンを冷却することにより溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を得た。
このようにして得られたシリコン塊について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量を測定した。この測定結果を表1に示す。表1に示すように、上記の溶融工程およびシリコン塊の形成工程によって、主に砥粒(炭化ケイ素)に含まれる炭素および酸素が除去されたことが確認された。
【0053】
<フッ化水素酸および水酸化ナトリウム水溶液による溶融後洗浄工程>
上記のようにして形成されたシリコン塊を1cm以上10cm以下の径)に破砕し、フッ化水素酸で洗浄し、その後、水酸化ナトリウム溶液により洗浄を行った。このことにより、再付着不純物の除去と同時にシリコン塊中の金属(鉄、アルミなど)および金属化合物(鉄シリサイドなど)を除去することが可能である。
フッ化水素酸による洗浄では、フッ化水素濃度が1質量%程度のフッ化水素水溶液(25℃)中にシリコン塊を浸漬させて攪拌しながら1時間保持した。そして、シリコン塊に付着したフッ化水素水溶液を水で洗い流した。
水酸化ナトリウム水溶液による洗浄では、上記のようにしてフッ化水素水溶液を水で洗い流した後のシリコン塊を水酸化ナトリウム濃度が3質量%〜5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に浸漬させて攪拌しながら1時間保持した。その後、シリコン塊に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水で洗い流した。
【0054】
そして、これらの洗浄を行ったシリコン塊について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素、オイルの含有量を測定した。この測定結果を表1に示す。
表1に示すように、上記のフッ化水素水溶液による洗浄工程および水酸化ナトリウム水溶液による洗浄工程によって、シリコン塊から砥粒(炭化ケイ素)に含まれる炭素および酸素が大量に除去されるとともに、ボロンと鉄もわずかに除去されることが確認された。
【0055】
<真空溶融工程>
次に、上記のように水酸化ナトリウム水溶液で洗浄されたシリコン塊をカーボン坩堝内に投入した後に誘導加熱装置によってカーボン坩堝を1600℃まで加熱してシリコン塊を溶融して溶融シリコンを作製した。
そして、溶融シリコンが収容されたカーボン坩堝を1600℃に保持したままでカーボン坩堝が設置された容器内の圧力を10-2Pa程度にして溶融シリコンを攪拌しながら3時間保持した。
【0056】
<リーチング工程>
上記の真空溶融工程後のシリコン塊を粒子径1mm以下のシリコン粉末が98%以上となる粒子径分布となるように粉砕した後に、粒界析出した重金属分を除去するために、5質量%のフッ化水素酸(25℃)中に浸漬させて攪拌しながら4時間保持した。そして、シリコン粉末に付着したフッ化水素酸を水で洗い流した。
なお、粒子径分布の測定はJIS R1629に準拠した方法で測定したものを意味する。
【0057】
<偏析工程>
上記のリーチング工程後のシリコン粉末を溶融させて溶融シリコンとした後に一方向凝固を行なった。具体的には、250kgのシリコンを溶融し、一方向凝固により、680mm角×高さ235mmのシリコン塊を得、前記のシリコンの上部30mm、側面各10mm、下部10mmをバンドソーにて切断、除去し、内部の660mm角×195mm(200kg)を太陽電池用シリコン原料とした。
その後、上記と同様にして、上記の太陽電池用シリコン原料のボロン、リン、鉄、炭素、酸素、およびオイルの含有量を測定した。その測定結果を表1に示す。
表1に示すように、上記の偏析工程によって、鉄、砥粒(炭化ケイ素)に含まれる炭素および酸素が大量に除去されることが確認された。
【0058】
2.固定砥粒を用いたシリコン塊の機械加工により生じた廃液を用いたシリコン屑の回収実験およびシリコン精製実験(実施例2)
<廃液の回収および蒸留>
ワイヤにダイヤモンドを付着させ、ダイヤモンドの剥離を抑制するためにめっきを施したワイヤ(固定砥粒ワイヤ)を装着させたマルチワイヤソー装置を用いてプロピレングリコールを主成分としたクーラントをかけながらシリコンウェハの切断を行った。このマルチワイヤソー装置から回収された廃液から実施例1同様に蒸留装置を用いて固液分離を行い、シリコン回収用固形分7を得た。このシリコン回収用固形分7(第1固形分)について、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素、およびオイルの含有量を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
本実験により得られたシリコン回収用固形分7は表2の通り、オイル成分が非常に多いことがわかった。また、固定砥粒ワイヤを用いているため、砥粒成分である炭素の含有率が実施例1により回収したシリコン回収用固形分7と比較すると非常にすくないことがわかった。
【0061】
<洗浄液による洗浄>
上記の乾燥後のシリコン回収用固形分7を洗浄液9である純水(25℃)中に浸漬させて、純水を攪拌しながら1時間保持した。その後、濾過で固液分離し、シリコン回収用固形分15を得た。
【0062】
<塩基性水溶液洗浄工程>
上記洗浄後のシリコン回収用固形分15を塩基性水溶液17である1〜10質量%程度のアンモニア水溶液に浸漬(固液質量比1:5)させて、アンモニア水溶液を攪拌しながら30分保持した。
<酸性水溶液洗浄工程>
その後、アンモニア水溶液中に酸性水溶液19である25〜50質量%のフッ化水素酸を添加し、pHを1以上2以下の酸性水溶液20とした。シリコン回収用固形分15を酸性水溶液20に分散させた状態で攪拌しながら1時間保持した。この酸性水溶液20について固液分離および水による洗浄を行い、シリコン回収用固形分22(第3固形分)を得た。
【0063】
シリコン回収用固形分22に付着したフッ酸を水で洗い流した後に、上記と同様にして、シリコン回収用固形分22(第3固形分)中のボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量を測定した。この測定結果を表2に示す。表2に示すように、純水とアンモニア水溶液およびフッ酸を用いた洗浄工程によって、シリコン回収用固形分からボロン、リン、鉄および酸素が除去されるとともに、オイルが除去されたことが確認された。
また、C濃度は0.1質量%程度であり、これはスライスワイヤからのダイヤモンドの剥離、磨耗に起因しているものと考えられる。
【0064】
固定砥粒を用いたシリコン塊の機械加工より得られた廃液から得られたシリコン回収用固形分7はオイルの割合が50質量%と非常に多いが、洗浄液9での洗浄、塩基性水溶液17での洗浄および酸性水溶液20での洗浄を行うことにより、オイル成分をほとんど除去することができることがわかった。また、オイル成分をほとんど除去できることにより、グリコール変性物による溶融工程のSiC化を抑えることができることがわかった。
【0065】
<溶融工程およびシリコン塊の形成工程>
上記のようにフッ酸を水で洗い流した後に乾燥させたシリコン回収用固形分22をカーボン坩堝中に投入した後に誘導加熱装置によってカーボン坩堝を1800℃まで加熱することによってシリコン回収用固形分22を溶融して溶融シリコンを作製した。
そして、カーボン坩堝を傾けることによって、カーボン坩堝中の溶融シリコンをカーボン鋳型の冷却容器に出湯した。この冷却容器内の溶融シリコンを冷却することにより溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を得た。
このようにして得られたシリコン塊について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量を測定した。この測定結果を表2に示す。
表2に示すように、上記の溶融工程およびシリコン塊の形成工程によって、炭素(砥粒である炭化ケイ素)および酸素が除去されたことが確認された。
【0066】
固定砥粒を用いてシリコン塊の切断を行った際に排出される廃液から得られるシリコン回収用固形分7には、前記の通り炭素成分(砥粒成分)が0.1%と遊離砥粒の場合と比較すると非常に少ないため、砥粒成分の影響が小さく、Siとその他成分との分離性も良好であることがわかった。また、シリコンの回収率も高くなることがわかった。
【0067】
<フッ化水素酸および水酸化ナトリウム水溶液による溶融後洗浄工程>
上記のようにして形成されたシリコン塊をフッ化水素濃度が1質量%程度のフッ化水素水溶液(25℃)中に浸漬させて攪拌しながら1時間保持した。そして、シリコン塊に付着したフッ化水素水溶液を水で洗い流した。
そして、上記のようにしてフッ化水素水溶液を水で洗い流した後のシリコン塊を水酸化ナトリウム濃度が3質量%〜5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に浸漬させて攪拌しながら1時間保持した。その後、シリコン塊に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水で洗い流した後に、上記と同様にして、シリコン塊中のボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量を測定した。この測定結果を表2に示す。
【0068】
表2に示すように、上記のフッ化水素水溶液による洗浄工程および水酸化ナトリウム水溶液による洗浄工程によって、シリコン塊から炭素(砥粒である炭化ケイ素)および酸素が除去されるとともに、ボロン、および鉄もわずかに除去されることが確認された。
また、固定砥粒ワイヤを用いるシリコン塊の切断により生じる廃液3に含まれるシリコン回収用固形分を洗浄液9、塩基性水溶液17、酸性水溶液20でそれぞれ洗浄したものはC、O濃度が低いため、溶融後洗浄工程を省略してもよい。
【0069】
<真空溶融工程・偏析精製・リーチング>
溶融後洗浄工程を行った後のシリコン塊を再溶融し、1Torr以下の圧力で1650℃以上の温度で10時間保持することにより、シリコン中のリンの低減を行った。
更に、金属不純物を除去するために、偏析を利用した一方向凝固を行った。
一方向凝固を行う際、C(SiC)、O濃度が高いと、特に融点の高いC(SiC)を起点とした凝固が発生してしまうことがあるため、偏析による金属不純物除去が不十分になることがある。
シリコン回収用固形分22から得たシリコン塊では、C濃度が低いため、偏析による金属不純物除去が容易である。
更に、金属不純物を除去するために、シリコン塊を0.1〜2mm程度の粒径に細かく粉砕し、粒界析出した金属不純物をフッ化水素酸またはフッ化水素酸と硝酸の混合溶液で洗浄する、リーチング工程を行った。
その後、リーチング工程後のシリコン微粒子について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素、およびオイルの含有量を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0070】
3.第1比較実験
第1比較実験として、上記の「1.遊離砥粒を用いたシリコンインゴットの機械加工により生じた廃液を用いたシリコン屑の回収実験およびシリコン精製実験」の工程と同様にして、シリコン精製実験を行った。ただし、シリコン回収用固形分15の塩基性水溶液17であるアンモニア水溶液を用いた洗浄は行わず、シリコン回収用固形分15を酸性水溶液19、20であるフッ化水素酸を用いた洗浄を行った。
この実験において行った、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量の測定の結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表1のシリコン回収用固形分22(第3固形分)の各不純物の含有量と表3のシリコン回収用固形分22(第3固形分)の各不純物の含有量とを比較すると、表1に結果を示した塩基性水溶液17で洗浄を行った本発明の実施例1の方が、Fe、P、オイル成分の除去が効果的に行われることがわかった。
【0073】
4.第2比較実験
第2比較実験として、上記の「2.固定砥粒を用いたシリコン塊の機械加工により生じた廃液を用いたシリコン屑の回収実験およびシリコン精製実験」の工程と同様にして、シリコン精製実験を行った。ただし、シリコン回収用固形分15の塩基性水溶液17であるアンモニア水溶液を用いた洗浄は行わず、シリコン回収用固形分15を酸性水溶液19、20であるフッ化水素酸を用いた洗浄を行った。
この実験において行った、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイルの含有量の測定の結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表2のシリコン回収用固形分22(第3固形分)の各不純物の含有量と表4のシリコン回収用固形分22(第3固形分)の各不純物の含有量とを比較すると、表2に結果を示した塩基性水溶液17で洗浄を行った本発明の実施例の方が、Fe、P、オイル成分の除去が効果的に行われることがわかった。
【0076】
これらの結果から、本発明のシリコン含有廃液処理方法によると、Fe、P、オイル成分を効果的に除去することができることがわかった。また、本発明のシリコン含有廃液処理方法により得られたシリコン回収用固形分22を用いるシリコン精製において、偏析精製処理を行うと、偏析精製のるつぼ寿命を増加させることができる。さらに、本発明のシリコン含有廃液処理方法により得られたシリコン回収用固形分22を用いるシリコン精製において、真空溶融処理を行う場合、真空溶融処理時間を低減させることができる。すなわち、本発明のシリコン含有廃液処理方法を用いると、シリコン屑を精製し再利用するコストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、シリコン加工によって排出される廃液から再生クーラントと再生シリコンを得ることにより、例えば太陽電池用シリコンウェハ製造に用いるクーラントのリサイクルを可能とし、また、従来は捨てられていた廃液から太陽電池用多結晶シリコン原料をリサイクルすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1: シリコン塊 2:シリコン屑 3:廃液 4:水溶性クーラント 5:再生クーラント 7:シリコン回収用固形分(第1固形分) 9:洗浄液 10:攪拌子 12:液分 15:シリコン回収用固形分(第2固形分) 17:塩基性水溶液 19:酸性水溶液 20:酸性水溶液 22:シリコン回収用固形分(第3固形分) 23:液分 25:再生シリコン塊 27:凝集体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールを主成分とする水溶性クーラントまたは前記水溶性クーラントを含む水溶性スラリを供給しながら金属製の加工部材を用いてシリコン塊を機械加工することにより排出される廃液または前記廃液の濃縮分から再生クーラントと再生シリコン塊を得るためのシリコン含有廃液処理方法であって、
前記廃液または前記廃液の濃縮分を蒸留することによって前記再生クーラントとシリコン回収用固形分とに分離する工程と、
前記シリコン回収用固形分を洗浄液中に分散させ洗浄した後、前記シリコン回収用固形分と液分とに固液分離する工程と、
前記シリコン回収用固形分を塩基性水溶液中に分散させ洗浄する工程と、
前記塩基性水溶液と前記シリコン回収用固形分とを固液分離することなく、前記塩基性水溶液に酸性水溶液を添加することにより、酸性水溶液中で前記シリコン回収用固形分を洗浄する工程とを順次含むことを特徴とするシリコン含有廃液処理方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液中で洗浄した前記シリコン回収用固形分は、5重量ppm以上20重量ppm以下の鉄濃度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリコン回収用固形分を洗浄する前記塩基性水溶液は、9以上11以下のpH値を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シリコン回収用固形分を洗浄する前記塩基性水溶液は、アンモニア水溶液である請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記アンモニア水溶液は、0.001質量%以上1質量%以下のアンモニア濃度を有する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記シリコン回収用固形分は、2倍以上20倍以下の重量の前記塩基性水溶液中に分散され洗浄される請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記シリコン回収用固形分を洗浄する酸性水溶液は、0以上2以下のpH値を有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性水溶液に添加する酸性水溶液は、フッ化水素酸である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記シリコン回収用固形分を洗浄する前記洗浄液は、水、酸性水溶液、塩基性水溶液または有機溶剤である請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−218503(P2011−218503A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91356(P2010−91356)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】