シート面加工方法
【課題】穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工して、穴内径とシート面の同軸度精度を確保可能な、シート面加工方法を提供する。
【解決手段】穴あけ加工が施された被加工物Wの加工穴Hに装入して、被加工物Wの加工穴Hにシート面の加工を施すためのシート面加工工具1である。
シート面加工工具1は、加工穴Hに装入可能な外径の長尺部材で構成し、旋盤装置2における工具駆動部3にチャックする基端部1aと、中間部位にテーパ状のシャンク部1bと、被加工物(W)の加工穴Hに案内するガイド部1cと、先端側に、加工穴H底部にシート面加工を施すための切削刃部1dを備えた。
【解決手段】穴あけ加工が施された被加工物Wの加工穴Hに装入して、被加工物Wの加工穴Hにシート面の加工を施すためのシート面加工工具1である。
シート面加工工具1は、加工穴Hに装入可能な外径の長尺部材で構成し、旋盤装置2における工具駆動部3にチャックする基端部1aと、中間部位にテーパ状のシャンク部1bと、被加工物(W)の加工穴Hに案内するガイド部1cと、先端側に、加工穴H底部にシート面加工を施すための切削刃部1dを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工して、穴内径とシート面の同軸度精度を確保可能な、シート面加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加工物を固定、ツイストドリルで穴加工し、その後、別の工作機器類で被加工物を回転し、工具を換えてシート面(テーパ面)を加工していた。
【0003】
例えば、特許文献1では、ワークの加工面に深穴を加工する際の加工時間を短縮すると共に、深穴の精度向上を図ることを目的として、ワークの深穴加工を行う加工面にガイド部材のブッシュを当接させた後、超硬材等からなるブッシュの内部にドリルを挿通させることにより、ドリルがドリルの外周面に形成された一組のガイド部と、ブッシュによって軸線方向に沿って保持され、回転駆動源の駆動作用下に回転するドリルをワークに向かって変位させることにより、ワークに当接しているガイド部材を介してワークに所定深さの深穴を形成するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−342829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被加工物を固定した状態で、ツイストドリルで穴加工するため、加工基準(被加工物チャック面)に対する穴内径の同軸精度が悪く、穴加工後、同一加工基準面をチャックし、被加工物回転で、シート面を加工しても、穴内径とシート面の同軸精度が悪いという課題があった。
本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工して、穴内径とシート面の同軸度精度が確保可能な、シート面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、被加工物(W)を固定して軸芯に沿って穴あけ加工を施し、加工穴(H)を形成する第1の工程と、加工穴(H)の底部に、テーパ面であるシート面(Hs)の粗加工を施す第2の工程と、先端側に切削刃部(1d)を設けたシート面加工工具(1)を所定角度(Θ)傾斜させた状態で加工穴(H)を装入し、被加工物(W)を回転させる一方、シート面加工工具を逆回転させつつ軸方向に沿って移動させて、切削刃部(1d)によりシート面(Hs)の仕上げ加工を施す第3の工程とを含むことを特徴とするシート面加工方法にある。
【0007】
これにより、被加工物(W)を固定して軸芯に沿って形成された加工穴(H)に対し、所定角度(Θ)傾斜した状態で装入され、この状態で被加工物(W)を回転させ、シート面加工工具(1)を軸方向に移動させることで、加工穴(H)底部にシート面の仕上げ加工を施し、被加工物(W)の加工が完了する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、シート面加工工具(1)は加工穴(H)に装入可能な外径の長尺部材で構成されると共に、先端側に向けて拡がるテーパ状に形成された、弾性変形可能なシャンク部(1b)と、被加工物(W)の加工穴(H)に沿ってガイド部(1c)と、このガイド部の先端に設けられた切削刃部(1d)と、を備えるものであり、第3の工程は、シート面加工工具(1)のシャンク部(1b)が弾性変形することでガイド部(1c)および切削刃部(1d)を所定角度(Θ)に傾斜させて、切削刃部(1d)によりシート面(Hs)の仕上げ加工を施すことにある。
【0009】
このように被加工物(W)の加工穴(H)にシート面加工工具(1)を装入する際、テーパ状のシャンク部(1b)が弾性変形することにより、加工穴(H)表面に干渉することなく、被加工物(W)の加工穴(H)に沿って、ガイド部(1c)により案内され、加工穴(H)の奥まで、シート面加工工具(1)を装入することができ、シート面加工工具(1)先端の切削刃部(1d)によって、加工穴(H)底部に仕上げ加工を施すことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、被加工物(W)は噴料噴射弁であり、加工穴(H)は燃料噴射弁のノズル部であることを規定したものである。
【0011】
このように、本発明では、噴料噴射弁(インジェクタ)を効率的に高精度に製造することができる。
【0012】
なお、上記各構成要素に記載する各構成要素に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるシート面加工工具を、加工装置にセットしたところを示す、模式的説明図である。
【図2】本発明にかかるシート面加工工具の一例を示す側面図である。
【図3】被加工物を固定して軸心に沿って穴あけ加工を施す第1工程にかかる工程説明図である。
【図4】被加工物を回転して加工穴先端にシート面の粗加工を施す第2工程にかかる工程説明図である。
【図5】被加工物を回転して加工穴先端のシート面の仕上げ加工を施す第3工程にかかる工程説明図である。
【図6】図3に示す第1工程により、穴あけ加工が施された被加工物の断面図である。
【図7】図5に示す第3工程において、治具に保持した被加工物と、被加工物の回転駆動中心線に対して、所定角度傾斜させた状態で配置したシート面加工工具とを示す要部側面図である。
【図8】図5に示す第3工程において、シート面加工工具を、被加工物の加工穴内に装入してシート面の仕上げ加工を施すところを示す、断面説明図である。
【図9】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な説明図である。
【図10】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図11】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図12】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図13】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図14】図5に示す第3工程により、仕上げ加工が施された被加工物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、被加工物Wを切削加工するために、本発明にかかるシート面加工工具1を用いて、加工装置2(以下、旋盤装置2)にセットしたところを示している。なお、被加工物Wは、例えば燃料噴射弁であるインジェクタにおけるノズル部を構成するものである。
【0015】
旋盤装置2には、周知の構成のものを用いることができ、その細部構成、および説明は省略して、本発明を実施するに当たって直接的に関係する構成要素を概略的に説明する。
すなわち旋盤装置2は、被加工物Wに対し、シート面(テーパ面)加工を施すもので、シート面加工工具1を把持して回転駆動する工具駆動部3と、被加工物Wを把持して回転駆動する被加工物駆動部4とを互いに対向させ、且つ被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、工具駆動部3により把持されるシート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で配置している。なお、工具駆動部3は、直動駆動機構5によって、直線状に進退駆動するテーブル6上に装着されている。また、シート面加工工具1は、工具駆動部3にチャック部7によりチャックされ、被加工物Wは、治具8により位置決め把持されている。さらに、シート面加工工具1をチャックする工具駆動部3は、テーブル6上に、図示は省略するが所定の調節機構により、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対してシート面加工工具1が所定角度Θ傾斜するように支持することができる。
【0016】
そこで、本発明にかかるシート面加工工具1について説明する。
シート面加工工具1は、図2に示すように、穴あけ加工が施された被加工物W(図6参照)の加工穴Hに装入可能な外径の長尺部材で構成している。
すなわちシート面加工工具1は、旋盤装置2における工具駆動部3のチャック部7によりチャックする基端部1aと、中間部位において、基端部1a側に向かって外径が徐々に縮まるテーパ状のシャンク部1bと、被加工物Wの加工穴Hに沿ってシート面加工工具1を前進させるためのガイド部1cと、先端側に、加工穴H底部にシート面加工を施すための切削刃部1dとを備えている。
基端部1aは、所定の外径を有する円筒形状のものである。
シャンク部1bは、基端部1aに向かって外径が例えば0.3〜0.4/100の割合で小さくなるように形成されている。
ガイド部1cは、基端部1aと反対側のシャンク部1bの端部における外径と等しい外径の円筒形状のものである。
そして先端側の切削刃部1dは、先端中心に向かって円錐形状に形成すると共に、所定範囲(例えば円錐形状先端部のうち、1/4の範囲)で、ガイド部1c先端側から、切削刃部1dの先端にかけて、肉が削ぎ落とされた形状の欠部9を有している。この欠部9と、ガイド部1c先端側外周面と、切削刃部1dの円錐外周部とを分ける稜線により、切削刃としての刃先であるエッジを構成している。勿論、切削刃部1dは、1/4の範囲で一つに限られず、加工対象である被加工物Wの加工箇所に対応して、適宜な数の欠部9とすることができる。
【0017】
なお、このシート面加工工具1には、被加工物Wの加工穴Hに装入する際、シャンク部1bが弾性変形することができるような靭性に富む素材が望ましい(実施例では超硬(K10))。
【0018】
次に、以上のようなシート面加工工具1を用いて、インジェクタを製造するための被加工物Wに施される工程について説明する。
インジェクタを製造するための被加工物Wには、予め、第1の工程として、専用の加工装置(図示省略)におけるドリルDにより穴あけ加工を行う(図3参照)。この場合、専用の加工装置では、被加工物Wは、固定状態で穴あけ加工が施され、形成される加工穴Hの中心線は、被加工物Wの中心軸線に一致させている。
【0019】
次に、第1工程で用いられた加工装置から取外された被加工物Wを、旋盤装置2における被加工物駆動部4の治具8に位置決め把持する一方、シート面加工工具10を工具駆動部のチャック部(図示省略)にセットし、第2工程として、加工穴H底部にシート面の粗加工を施す(図4参照)。そのとき、被加工物駆動部4を駆動して被加工物Wを回転させると友にシート面加工工具10を逆回転させつつ軸方向に移動させることで、被加工物Wの加工穴Hの底部にシート面の粗加工を施す。
【0020】
次に、第2工程で用いられた加工装置に取付けられた被加工物Wは、そのままに、シート面加工工具1を工具駆動部3のチャック部7にセットし、第3工程として、加工穴H底部のシート面の仕上げ加工を施す。この場合、シート面加工工具1は、工具駆動部3を、テーブル6上に、所定の調節機構により調節支持することで、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、シート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で、工具駆動部3のチャック部7にセットすることができる。
そして、被加工物Wを把持する被加工物駆動部4を駆動して被加工物Wを回転させる一方、シート面加工工具1を把持する工具駆動部3は停止した状態で、直動駆動機構5を作動させる。これによってテーブル6上を工具駆動部3が直進して、被加工物Wに向かって移動し、被加工物Wの加工穴Hにシート面加工工具1がもたらされ、被加工物Wの加工穴Hにシート面加工工具1を装入することができる。
【0021】
ところで、シート面加工工具1は、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、シート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で、工具駆動部3のチャック部7にセットされているが(図7参照)、シート面加工工具1中間のシャンク部1bが、基端部1a側に向かって外径が0.3〜0.4/100の割合で徐々に縮まるようにテーパ状に形成されているので、シート面加工工具1は、加工穴H入口とシャンク部1bとが干渉して、シート面加工工具1が加工穴H内に装入不能となるということはない。
【0022】
この状態でシート面加工工具1を、直動駆動機構5により工具駆動部3をさらに前進させることで、シート面加工工具1が加工穴H内に深く装入され、傾斜角Θの存在により、シート面加工工具1は、加工穴H内面から側方の力を受ける。
ここで、シート面加工工具1を把持する工具駆動部3を作動し、被加工物Wの回転方向とは逆にシート面加工工具1を回転させると(図4参照)、シャンク部1b前方のガイド部1cが加工穴H内面に案内されて回転する(図8参照)。
【0023】
すると、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形した状態で、加工穴H内面の一部と押圧状態で接触しながら、加工穴H内面を転動回転するので(図9〜図13参照)、加工穴H底側において、先端側の切削刃部1dは、ガイド部1c先端側から、切削刃部1dの先端にかけての欠部9が、欠部9と、ガイド部1c先端側外周面と、切削刃部1dの円錐外周部とを分ける稜線が切削刃としての刃先であるエッジとして、加工穴H底側と回転しながら接触して、加工穴H底を周回しながら切削していくので、加工穴H底は、ロート状、すなわちテーパ状にシート面Hsを加工することができるのである。
その場合、ガイド部1cが、加工穴H内面に案内されてシート面加工工具1が回転することにより、加工穴H内面とシート面Hsとの同軸度の精度を確保することができる。
また、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形することで、ガイド部1cおよび切削刃部1dを加工穴H中心軸と平行にすることができる。
なお、図10〜図13では、被加工物Wの加工穴Hが中心からずれた状態を誇張して記載しているが、被加工物Wが回転することによって、微妙にずれることがあっても、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形した状態で、加工穴H内面の一部と押圧状態で接触しながら、追従して加工穴H内面を転動回転することで、加工穴H底を周回しながら切削してテーパ状にシート面Hsを仕上げ加工することができる。
この結果、図14に示すように加工穴H底部にシート面を加工した被加工物Wとして、インジェクタ製造の次のラインに、もたらされるのである。
【0024】
本発明によれば、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工するようにしたので、これまでのように、被加工物を固定した状態で、ツイストドリルで穴加工することにより、加工基準(被加工物チャック面)に対する穴内径の同軸精度確保が困難であることから、シート面を加工しても、穴内径とシート面の同軸精度の確保が望めないという課題を克服することができる。
【0025】
以上のように、シート面加工工具1を用いて、インジェクタを製造するための被加工物Wに施される工程について説明したが、勿論、本発明におけるシート面加工工具1は、インジェクタを製造する工程にのみ用いられるものではない。
また、被加工物Wは製造される完成品に対応して穴あけ加工、追加工であるシート面加工が可能である。それに応じて、シート面加工工具の規格寸法、シート面加工工具の傾斜角度を適宜、設定することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 シート面加工工具
1a 基端部
1b シャンク部
1c ガイド部
1d 切削刃部
2 旋盤装置
3 工具駆動部
4 被加工物駆動部
5 直動駆動機構
6 テーブル
7 チャック部
8 治具
9 欠部
10 粗加工工具
W 被加工物
H 加工穴
Hs シート面
D ドリル
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工して、穴内径とシート面の同軸度精度を確保可能な、シート面加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加工物を固定、ツイストドリルで穴加工し、その後、別の工作機器類で被加工物を回転し、工具を換えてシート面(テーパ面)を加工していた。
【0003】
例えば、特許文献1では、ワークの加工面に深穴を加工する際の加工時間を短縮すると共に、深穴の精度向上を図ることを目的として、ワークの深穴加工を行う加工面にガイド部材のブッシュを当接させた後、超硬材等からなるブッシュの内部にドリルを挿通させることにより、ドリルがドリルの外周面に形成された一組のガイド部と、ブッシュによって軸線方向に沿って保持され、回転駆動源の駆動作用下に回転するドリルをワークに向かって変位させることにより、ワークに当接しているガイド部材を介してワークに所定深さの深穴を形成するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−342829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被加工物を固定した状態で、ツイストドリルで穴加工するため、加工基準(被加工物チャック面)に対する穴内径の同軸精度が悪く、穴加工後、同一加工基準面をチャックし、被加工物回転で、シート面を加工しても、穴内径とシート面の同軸精度が悪いという課題があった。
本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工して、穴内径とシート面の同軸度精度が確保可能な、シート面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、被加工物(W)を固定して軸芯に沿って穴あけ加工を施し、加工穴(H)を形成する第1の工程と、加工穴(H)の底部に、テーパ面であるシート面(Hs)の粗加工を施す第2の工程と、先端側に切削刃部(1d)を設けたシート面加工工具(1)を所定角度(Θ)傾斜させた状態で加工穴(H)を装入し、被加工物(W)を回転させる一方、シート面加工工具を逆回転させつつ軸方向に沿って移動させて、切削刃部(1d)によりシート面(Hs)の仕上げ加工を施す第3の工程とを含むことを特徴とするシート面加工方法にある。
【0007】
これにより、被加工物(W)を固定して軸芯に沿って形成された加工穴(H)に対し、所定角度(Θ)傾斜した状態で装入され、この状態で被加工物(W)を回転させ、シート面加工工具(1)を軸方向に移動させることで、加工穴(H)底部にシート面の仕上げ加工を施し、被加工物(W)の加工が完了する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、シート面加工工具(1)は加工穴(H)に装入可能な外径の長尺部材で構成されると共に、先端側に向けて拡がるテーパ状に形成された、弾性変形可能なシャンク部(1b)と、被加工物(W)の加工穴(H)に沿ってガイド部(1c)と、このガイド部の先端に設けられた切削刃部(1d)と、を備えるものであり、第3の工程は、シート面加工工具(1)のシャンク部(1b)が弾性変形することでガイド部(1c)および切削刃部(1d)を所定角度(Θ)に傾斜させて、切削刃部(1d)によりシート面(Hs)の仕上げ加工を施すことにある。
【0009】
このように被加工物(W)の加工穴(H)にシート面加工工具(1)を装入する際、テーパ状のシャンク部(1b)が弾性変形することにより、加工穴(H)表面に干渉することなく、被加工物(W)の加工穴(H)に沿って、ガイド部(1c)により案内され、加工穴(H)の奥まで、シート面加工工具(1)を装入することができ、シート面加工工具(1)先端の切削刃部(1d)によって、加工穴(H)底部に仕上げ加工を施すことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、被加工物(W)は噴料噴射弁であり、加工穴(H)は燃料噴射弁のノズル部であることを規定したものである。
【0011】
このように、本発明では、噴料噴射弁(インジェクタ)を効率的に高精度に製造することができる。
【0012】
なお、上記各構成要素に記載する各構成要素に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるシート面加工工具を、加工装置にセットしたところを示す、模式的説明図である。
【図2】本発明にかかるシート面加工工具の一例を示す側面図である。
【図3】被加工物を固定して軸心に沿って穴あけ加工を施す第1工程にかかる工程説明図である。
【図4】被加工物を回転して加工穴先端にシート面の粗加工を施す第2工程にかかる工程説明図である。
【図5】被加工物を回転して加工穴先端のシート面の仕上げ加工を施す第3工程にかかる工程説明図である。
【図6】図3に示す第1工程により、穴あけ加工が施された被加工物の断面図である。
【図7】図5に示す第3工程において、治具に保持した被加工物と、被加工物の回転駆動中心線に対して、所定角度傾斜させた状態で配置したシート面加工工具とを示す要部側面図である。
【図8】図5に示す第3工程において、シート面加工工具を、被加工物の加工穴内に装入してシート面の仕上げ加工を施すところを示す、断面説明図である。
【図9】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な説明図である。
【図10】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図11】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図12】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図13】図5に示す第3工程において、被加工物に対するシート面加工工具の挙動を説明する模式的な断面図である。
【図14】図5に示す第3工程により、仕上げ加工が施された被加工物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、被加工物Wを切削加工するために、本発明にかかるシート面加工工具1を用いて、加工装置2(以下、旋盤装置2)にセットしたところを示している。なお、被加工物Wは、例えば燃料噴射弁であるインジェクタにおけるノズル部を構成するものである。
【0015】
旋盤装置2には、周知の構成のものを用いることができ、その細部構成、および説明は省略して、本発明を実施するに当たって直接的に関係する構成要素を概略的に説明する。
すなわち旋盤装置2は、被加工物Wに対し、シート面(テーパ面)加工を施すもので、シート面加工工具1を把持して回転駆動する工具駆動部3と、被加工物Wを把持して回転駆動する被加工物駆動部4とを互いに対向させ、且つ被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、工具駆動部3により把持されるシート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で配置している。なお、工具駆動部3は、直動駆動機構5によって、直線状に進退駆動するテーブル6上に装着されている。また、シート面加工工具1は、工具駆動部3にチャック部7によりチャックされ、被加工物Wは、治具8により位置決め把持されている。さらに、シート面加工工具1をチャックする工具駆動部3は、テーブル6上に、図示は省略するが所定の調節機構により、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対してシート面加工工具1が所定角度Θ傾斜するように支持することができる。
【0016】
そこで、本発明にかかるシート面加工工具1について説明する。
シート面加工工具1は、図2に示すように、穴あけ加工が施された被加工物W(図6参照)の加工穴Hに装入可能な外径の長尺部材で構成している。
すなわちシート面加工工具1は、旋盤装置2における工具駆動部3のチャック部7によりチャックする基端部1aと、中間部位において、基端部1a側に向かって外径が徐々に縮まるテーパ状のシャンク部1bと、被加工物Wの加工穴Hに沿ってシート面加工工具1を前進させるためのガイド部1cと、先端側に、加工穴H底部にシート面加工を施すための切削刃部1dとを備えている。
基端部1aは、所定の外径を有する円筒形状のものである。
シャンク部1bは、基端部1aに向かって外径が例えば0.3〜0.4/100の割合で小さくなるように形成されている。
ガイド部1cは、基端部1aと反対側のシャンク部1bの端部における外径と等しい外径の円筒形状のものである。
そして先端側の切削刃部1dは、先端中心に向かって円錐形状に形成すると共に、所定範囲(例えば円錐形状先端部のうち、1/4の範囲)で、ガイド部1c先端側から、切削刃部1dの先端にかけて、肉が削ぎ落とされた形状の欠部9を有している。この欠部9と、ガイド部1c先端側外周面と、切削刃部1dの円錐外周部とを分ける稜線により、切削刃としての刃先であるエッジを構成している。勿論、切削刃部1dは、1/4の範囲で一つに限られず、加工対象である被加工物Wの加工箇所に対応して、適宜な数の欠部9とすることができる。
【0017】
なお、このシート面加工工具1には、被加工物Wの加工穴Hに装入する際、シャンク部1bが弾性変形することができるような靭性に富む素材が望ましい(実施例では超硬(K10))。
【0018】
次に、以上のようなシート面加工工具1を用いて、インジェクタを製造するための被加工物Wに施される工程について説明する。
インジェクタを製造するための被加工物Wには、予め、第1の工程として、専用の加工装置(図示省略)におけるドリルDにより穴あけ加工を行う(図3参照)。この場合、専用の加工装置では、被加工物Wは、固定状態で穴あけ加工が施され、形成される加工穴Hの中心線は、被加工物Wの中心軸線に一致させている。
【0019】
次に、第1工程で用いられた加工装置から取外された被加工物Wを、旋盤装置2における被加工物駆動部4の治具8に位置決め把持する一方、シート面加工工具10を工具駆動部のチャック部(図示省略)にセットし、第2工程として、加工穴H底部にシート面の粗加工を施す(図4参照)。そのとき、被加工物駆動部4を駆動して被加工物Wを回転させると友にシート面加工工具10を逆回転させつつ軸方向に移動させることで、被加工物Wの加工穴Hの底部にシート面の粗加工を施す。
【0020】
次に、第2工程で用いられた加工装置に取付けられた被加工物Wは、そのままに、シート面加工工具1を工具駆動部3のチャック部7にセットし、第3工程として、加工穴H底部のシート面の仕上げ加工を施す。この場合、シート面加工工具1は、工具駆動部3を、テーブル6上に、所定の調節機構により調節支持することで、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、シート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で、工具駆動部3のチャック部7にセットすることができる。
そして、被加工物Wを把持する被加工物駆動部4を駆動して被加工物Wを回転させる一方、シート面加工工具1を把持する工具駆動部3は停止した状態で、直動駆動機構5を作動させる。これによってテーブル6上を工具駆動部3が直進して、被加工物Wに向かって移動し、被加工物Wの加工穴Hにシート面加工工具1がもたらされ、被加工物Wの加工穴Hにシート面加工工具1を装入することができる。
【0021】
ところで、シート面加工工具1は、被加工物駆動部4により把持される被加工物Wの回転駆動中心線に対して、シート面加工工具1の中心軸線を所定角度Θ傾斜させた状態で、工具駆動部3のチャック部7にセットされているが(図7参照)、シート面加工工具1中間のシャンク部1bが、基端部1a側に向かって外径が0.3〜0.4/100の割合で徐々に縮まるようにテーパ状に形成されているので、シート面加工工具1は、加工穴H入口とシャンク部1bとが干渉して、シート面加工工具1が加工穴H内に装入不能となるということはない。
【0022】
この状態でシート面加工工具1を、直動駆動機構5により工具駆動部3をさらに前進させることで、シート面加工工具1が加工穴H内に深く装入され、傾斜角Θの存在により、シート面加工工具1は、加工穴H内面から側方の力を受ける。
ここで、シート面加工工具1を把持する工具駆動部3を作動し、被加工物Wの回転方向とは逆にシート面加工工具1を回転させると(図4参照)、シャンク部1b前方のガイド部1cが加工穴H内面に案内されて回転する(図8参照)。
【0023】
すると、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形した状態で、加工穴H内面の一部と押圧状態で接触しながら、加工穴H内面を転動回転するので(図9〜図13参照)、加工穴H底側において、先端側の切削刃部1dは、ガイド部1c先端側から、切削刃部1dの先端にかけての欠部9が、欠部9と、ガイド部1c先端側外周面と、切削刃部1dの円錐外周部とを分ける稜線が切削刃としての刃先であるエッジとして、加工穴H底側と回転しながら接触して、加工穴H底を周回しながら切削していくので、加工穴H底は、ロート状、すなわちテーパ状にシート面Hsを加工することができるのである。
その場合、ガイド部1cが、加工穴H内面に案内されてシート面加工工具1が回転することにより、加工穴H内面とシート面Hsとの同軸度の精度を確保することができる。
また、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形することで、ガイド部1cおよび切削刃部1dを加工穴H中心軸と平行にすることができる。
なお、図10〜図13では、被加工物Wの加工穴Hが中心からずれた状態を誇張して記載しているが、被加工物Wが回転することによって、微妙にずれることがあっても、シート面加工工具1は、シャンク部1bが弾性変形した状態で、加工穴H内面の一部と押圧状態で接触しながら、追従して加工穴H内面を転動回転することで、加工穴H底を周回しながら切削してテーパ状にシート面Hsを仕上げ加工することができる。
この結果、図14に示すように加工穴H底部にシート面を加工した被加工物Wとして、インジェクタ製造の次のラインに、もたらされるのである。
【0024】
本発明によれば、穴加工と別の工作機器類で、被加工物回転、工具回転で、シート面を加工するようにしたので、これまでのように、被加工物を固定した状態で、ツイストドリルで穴加工することにより、加工基準(被加工物チャック面)に対する穴内径の同軸精度確保が困難であることから、シート面を加工しても、穴内径とシート面の同軸精度の確保が望めないという課題を克服することができる。
【0025】
以上のように、シート面加工工具1を用いて、インジェクタを製造するための被加工物Wに施される工程について説明したが、勿論、本発明におけるシート面加工工具1は、インジェクタを製造する工程にのみ用いられるものではない。
また、被加工物Wは製造される完成品に対応して穴あけ加工、追加工であるシート面加工が可能である。それに応じて、シート面加工工具の規格寸法、シート面加工工具の傾斜角度を適宜、設定することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 シート面加工工具
1a 基端部
1b シャンク部
1c ガイド部
1d 切削刃部
2 旋盤装置
3 工具駆動部
4 被加工物駆動部
5 直動駆動機構
6 テーブル
7 チャック部
8 治具
9 欠部
10 粗加工工具
W 被加工物
H 加工穴
Hs シート面
D ドリル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物(W)を固定して軸芯に沿って穴あけ加工を施し、加工穴(H)を形成する第1の工程と、
前記加工穴(H)の底部に、テーパ面であるシート面(Hs)の粗加工を施す第2の工程と、
先端側に切削刃部(1d)を設けたシートに面加工工具(1)を、所定角度(Θ)傾斜させた状態で前記加工穴(H)に装入し、前記被加工物(W)を回転させる一方、前記シート面加工工具(1)を逆回転させつつ軸方向に沿って移動させて、前記切削刃部(1d)により前記シート面(Hs)の仕上げ加工を施す第3の工程と、
を含むことを特徴とするシート面加工方法。
【請求項2】
前記シート面加工工具(1)は前記加工穴(H)に装入可能な外径の長尺部材で構成されると共に、
先端側に向けて拡がるテーパ状に形成された、弾性変形可能なシャンク部(1b)と、
前記被加工物(W)の前記加工穴(H)に沿って案内するガイド部(1c)と、
前記ガイド部(1c)の先端に設けられた前記切削刃部(1d)と、を備えるものであり、
前記第3の工程は、前記シート面加工工具(1)の前記シャンク部(1b)が弾性変形することで前記ガイド部(1c)および前記切削刃部(1d)を前記所定角度(Θ)に傾斜させて、前記切削刃部(1d)により前記シート面(Hs)の仕上げ加工を施すことを特徴とする請求項1記載のシート面加工方法。
【請求項3】
前記被加工物(W)は燃料噴射弁であり、前記加工穴(H)は前記燃料噴射弁のノズル部であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシート面加工方法。
【請求項1】
被加工物(W)を固定して軸芯に沿って穴あけ加工を施し、加工穴(H)を形成する第1の工程と、
前記加工穴(H)の底部に、テーパ面であるシート面(Hs)の粗加工を施す第2の工程と、
先端側に切削刃部(1d)を設けたシートに面加工工具(1)を、所定角度(Θ)傾斜させた状態で前記加工穴(H)に装入し、前記被加工物(W)を回転させる一方、前記シート面加工工具(1)を逆回転させつつ軸方向に沿って移動させて、前記切削刃部(1d)により前記シート面(Hs)の仕上げ加工を施す第3の工程と、
を含むことを特徴とするシート面加工方法。
【請求項2】
前記シート面加工工具(1)は前記加工穴(H)に装入可能な外径の長尺部材で構成されると共に、
先端側に向けて拡がるテーパ状に形成された、弾性変形可能なシャンク部(1b)と、
前記被加工物(W)の前記加工穴(H)に沿って案内するガイド部(1c)と、
前記ガイド部(1c)の先端に設けられた前記切削刃部(1d)と、を備えるものであり、
前記第3の工程は、前記シート面加工工具(1)の前記シャンク部(1b)が弾性変形することで前記ガイド部(1c)および前記切削刃部(1d)を前記所定角度(Θ)に傾斜させて、前記切削刃部(1d)により前記シート面(Hs)の仕上げ加工を施すことを特徴とする請求項1記載のシート面加工方法。
【請求項3】
前記被加工物(W)は燃料噴射弁であり、前記加工穴(H)は前記燃料噴射弁のノズル部であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシート面加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−96354(P2012−96354A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27955(P2012−27955)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2007−258706(P2007−258706)の分割
【原出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2007−258706(P2007−258706)の分割
【原出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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