説明

シールリング

【課題】外周面側の摺動摩耗の抑制を図ることのできるシールリングを提供する。
【解決手段】相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止するシールリング100であって、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、環状溝210の側壁面211とハウジング300における軸孔310の内周面に対して摺動可能にシールするシールリング100において、環状溝210の側壁面に対して摺動自在に設けられる内周リング10と、内周リング10よりも摩擦係数が高い材料により構成され、かつ内周リング10の外周に装着されて、環状溝210の側壁面211には接触することなく軸孔310の内周面に密着する外周リング20と、から構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のAT・CVTなど各種油圧機器においては、軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングが用いられている。図4は一般的なシールリングが使用されている状態を示す断面図である。また、図5は一般的なシールリングの側面図であり、同図(a)は初期状態、同図(b)は長期使用後の使用時の状態を示したものである。
【0003】
図4に示すように、樹脂製のシールリング500は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、環状溝210の側壁面211とハウジング300における軸孔310の内周面に対して摺動可能にシールする。これにより、シールリング500は、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止する。なお、図中左側が高圧側(H)であり、図中右側が低圧側(L)である。
【0004】
ここで、シールリング500は、一般的に、軸200の環状溝210への取り付けを容易にするために、周方向の一か所に合口(カット部)510が設けられている(図5参照)。そのため、シールリング500と軸孔310との摺動によって、シールリング500の外周面や軸孔310の内周面の摺動摩耗が進んでいくと、内周面側からの圧力によってシールリング500は拡径するように変形していく。そのため、経時的に合口510が拡がっていき(図5(b)参照)、シール性が低下していく。そこで、シールリング500の幅Wを肉厚Tよりも大きくして、外周側の摺動面積を側面側よりも大きくして摺動抵抗を高めることで、シールリング500の側面側で極力摺動させる対策などが取られている。
【0005】
しかしながら、使用条件によっては、上記のような寸法設定のみでは、シールリング500の外周側での摺動を抑制するのが難しい場合があり、未だ改善の余地がある。
【0006】
なお、関連する技術として、特許文献1に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−68074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、外周面側の摺動摩耗の抑制を図ることのできるシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明のシールリングは、
相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングであって、
前記軸の外周に設けられた環状溝に装着され、該環状溝の側壁面と前記ハウジングにおける軸孔の内周面に対して摺動可能にシールするシールリングにおいて、
前記環状溝の側壁面に対して摺動自在に設けられる内周リングと、
該内周リングよりも摩擦係数が高い材料により構成され、かつ該内周リングの外周に装着されて、前記環状溝の側壁面には接触することなく前記軸孔の内周面に密着する外周リングと、
から構成されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、シールリングにおける側面側は内周リングによってシールし、外周面側は内周リングよりも摩擦係数が高い材料により構成された外周リングによってシールする。そのため、シールリングの外周面側の方が、側面側よりも摺動抵抗が高くなるため、シールリングの外周面とハウジングの軸孔内周面との間での摺動を抑制することができる。従って、シールリングの外周面側での摺動摩耗を抑制することができる。
【0012】
また、前記内周リングの外周には環状の凹部又は凸部が設けられており、前記外周リングの内周には前記凸部又は凹部に嵌合する環状の凸部または凹部が設けられているとよい。
【0013】
これにより、内周リングと外周リングとの嵌合力を高め、両者が相対的に回転してしまうことを抑制でき、両者間での摺動摩耗の発生を抑制できる。
【0014】
前記内周リングは樹脂材料により構成され、前記外周リングはゴム材料により構成されるとよい。
【0015】
これにより、内周リングと環状溝の側壁面との間の摺動特性を高め(摺動し易くし、かつ摺動摩耗を抑制でき)、外周リングとハウジングの軸孔内周面との間での密着力を高めて、外周リングとハウジングとの間での摺動を抑制することができる。
【0016】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、シールリングの外周面側での摺動摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施例に係るシールリングの側面図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るシールリングの断面図(図1中のAA断面図)である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るシールリングの使用状態を示す断面図である。
【図4】図4は一般的なシールリングが使用されている状態を示す断面図である。
【図5】図5は一般的なシールリングの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例)
図1〜図3を参照して、本発明の実施例に係るシールリングについて説明する。
【0021】
<シールリングの構成>
特に、図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係るシールリングの構成について説明する。本実施例に係るシールリング100は、摩擦係数の低い樹脂材料により構成される内周リング10と、内周リング10よりも摩擦係数の高いゴム材料により構成される外周リング20とから構成される。
【0022】
内周リング10は、周方向の一か所に合口(カット部)11が設けられている。また、内周リング10における外周には環状の凹部12が設けられている。そして、外周リング20における内周には環状の凸部21が設けられている。これにより、外周リング20を内周リング10の外周側に装着させると、内周リング10における凹部12と外周リング20における凸部21が嵌合する。このような凹凸嵌合によって、両者の軸方向へのずれが抑制されると共に、両者の密着面積が広くなるように構成されている。なお、外周リング20には合口(カット部)は設けられておらず、外周リング20はエンドレスリングとなっている。
【0023】
<シールリングの使用状態>
特に、図3を参照して、シールリング100の使用状態について説明する。シールリング100を装着する際には、まず、内周リング10を軸200の外周に設けられた環状溝210に装着する。上記の通り、内周リング10には、合口11が設けられているので、合口11の部分を拡げることで、軸200の外周側から内周リング10を簡単に装着することができる。次に、外周リング20を拡径させながら、内周リング10の外周に装着する。その後、シールリング100が装着された軸200をハウジング300の軸孔310内に挿入させる。
【0024】
図3において、図中左側が高圧側(H)であり、図中右側が低圧側(L)である。高圧側(H)は例えば油などの密封対象流体が密封された領域であり、低圧側(L)は例えば大気に繋がる領域である。上記のように環状溝210に装着されたシールリング100は、環状溝210の側壁面211(低圧側(L)の側壁面)とハウジング300における軸孔310の内周面に対して摺動可能にシールする。これにより、シールリング100は、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止する。
【0025】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、環状溝210の側壁面211に対しては、内周リング10のみが摺動自在に接触し、ハウジング300の軸孔310に対しては、外周リング20のみが密着するように各種部材の寸法が設定されている。つまり、外周リング20は、環状溝210の側壁面211には接触することなく軸孔310の内周面にのみ密着する。
【0026】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
以上説明したように、本実施例に係るシールリング100によれば、シールリング100における側面側は摺動特性に優れた樹脂製の内周リング10によってシールし、外周面側は内周リング10よりも摩擦係数が高い材料(ゴム)により構成された外周リング20によってシールする。これにより、シールリング100の外周面側の方が、側面側よりも摺動抵抗が高くなるため、シールリング100の外周面(つまり外周リング20の外周面)とハウジング300の軸孔310の内周面との間での摺動を抑制することができる。例えば、静止したハウジング300に対して軸200が回転する機器の場合には、軸200のみが回転し、シールリング100が軸200と共に回転してしまうことを抑制でき、静止した状態とすることが可能となる。従って、シールリング100の外周面側での摺動摩耗を抑制することができる。
【0027】
また、本実施例においては、内周リング10の外周に設けた環状の凹部12と、外周リング20の内周に設けた環状の凸部21との凹凸嵌合によって、両者を装着するように構
成している。従って、内周リング10と外周リング20との嵌合力を高め、両者が相対的に回転してしまうことを抑制でき、両者間での摺動摩耗の発生を抑制できる。
【0028】
(その他)
上記実施例においては、内周リング10の外周に環状の凹部12を設け、外周リング20の内周に環状の凸部21を設けることで、両者を凹凸嵌合させる場合を示した。しかしながら、これに限らず、内周リングの外周に環状の凸部を設け、外周リングの内周に環状の凹部を設けることで、両者を凹凸嵌合させてもよい。また、凹凸嵌合をさせなくても、両者の密着力が十分であれば、凹凸を設けなくてもよい。
【0029】
また、上記実施例においては、内周リング10が樹脂材料で構成され、外周リング20がゴム材料で構成される場合を示した。しかしながら、材料はこれらに限定されるものではない。要は、内周リング10の材料として摩擦係数が低く摺動性に優れた材料を用い、外周リング20の材料として内周リング10よりも摩擦係数が高くハウジング300の軸孔310との間で摺動し難い材料を用いればよい。
【符号の説明】
【0030】
10 内周リング
11 合口
12 凹部
20 外周リング
21 凸部
100 シールリング
200 軸
210 環状溝
211 側壁面
300 ハウジング
310 軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングであって、
前記軸の外周に設けられた環状溝に装着され、該環状溝の側壁面と前記ハウジングにおける軸孔の内周面に対して摺動可能にシールするシールリングにおいて、
前記環状溝の側壁面に対して摺動自在に設けられる内周リングと、
該内周リングよりも摩擦係数が高い材料により構成され、かつ該内周リングの外周に装着されて、前記環状溝の側壁面には接触することなく前記軸孔の内周面に密着する外周リングと、
から構成されることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
前記内周リングの外周には環状の凹部又は凸部が設けられており、前記外周リングの内周には前記凸部又は凹部に嵌合する環状の凸部または凹部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
前記内周リングは樹脂材料により構成され、前記外周リングはゴム材料により構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のシールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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