説明

シール溝形成方法およびその方法を使用して形成したシール溝を有するディスクブレーキ

【課題】本発明は、シール溝を形成する際に特殊刃形状をした総形バイトを使用することにより、シール溝の寸法管理を容易に行なうことができるシール溝形成方法およびそれを使用してシール溝を形成したディスクブレーキを提供することを目的とする。
【解決手段】シリンダ内面にピストンシール溝を加工する方法であって、前記シール溝4は、少なくとも溝部の軸方向の前後の何れか一方に段差6を形成する刃5を有するシール溝部加工用の総型バイトで加工することを特徴とするシール溝部加工方法である。 また前記段差は略深さ0.2mm、長さ2mm程度であり、段差は平面、曲面のいずれかで形成されていることを特徴とするシール溝加工方法である。さらに、ディスクブレーキ用のシリンダ内に加工されるピストンシール溝を、前記に記載したシール溝加工方法により加工したことを特徴とするディスクブレーキである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダとピストンとの間をシール部材で密封する構造において、シリンダ側に形成するシール溝の形成方法およびその方法を使用してシリンダ内面にシール溝を形成したディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8において、従来から知られているディスクブレーキ等においては、ディスク21を介して両側に配置される一対のブレーキパッド22を押圧するためのピストン23が、キャリパの有底筒状のシリンダ25に摺動自在に挿通されており、シリンダに形成されたシリンダボアとピストン23とにより形成される液圧室26に液圧が導入されることで、ピストン23が移動してブレーキパッド22を押圧するようになっている。
ピストン23とシリンダ25との間には、両者間を密封するためのゴム材料等からなる断面方形の角リングで構成されるシール部材(リトラクトシール)27が設けられている。シール部材27は、シリンダボアに周設されるシール溝28内の底面部へ当接して組み付けられており、このシール溝28は、シリンダ25の軸方向における断面が略台形形状となるように形成されている。このシール溝28に組み付けられるシール部材27は、ピストン23とシリンダ25との間を密封するほかに、制動時にディスク方向に推進したピストンを制動解除時に液圧室方向に所定量戻す機能(ロールバック機能)、パッド摩耗に対応するオートアジャスタ機能、振動によってピストンが移動することを防止するシェイクバック防止機能等を備えている(特許文献1)。即ち、非制動時にパッドをディスクロータから引き離さないとパッドに引きずり現象が発生するからである。
また、シール溝、シール部材は上記のような機能が要求されることから、シール溝側の加工精度も極めて高い精度が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−117462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来型のディスクブレーキにおいて、通常シリンダボアに周設されるシール溝は以下のようにして形成される。
図5において、シール溝を形成するには通常、図5に示すような総型刃具(以下、総形バイトという)1を使用し、総形バイト1をシリンダボアの内周面にそって回転させながら、総形バイト1を少しずつ、矢印で示すようにシリンダ壁内に送り込みながらシール溝を形成してゆき、最終的には、図中実線で示すように総形バイト1の断面と同じ形状を有するシール溝をシリンダ内壁面に形成する。
ところで、総形バイト1により形成されたシール溝は加工精度は高いものの、実際に加工を行なった後の、シール溝の寸法測定には種々の問題点が指摘されている。
即ち、シール溝底部は、図6に示すように角シールに対して、ロールバック量の制御、及び油圧側と反油圧側のシールしめしろを変えて気密性を上げるために傾斜面となっている。そのため、シール底部寸法測定は、図6中、A面、B面の2面にキャリパゲージ等の端子を当てることがむずかしく、測定誤差も発生しやすかった。しかも、この方法をC面、D面にも採用しなければならず、時間もかかるなど問題点があった。
また、これとは別に図7に示すように樹脂を使用してシール溝の型取りをし、その樹脂を顕微鏡で測定してシール溝の寸法測定(X、Y、Z)を行なうこともおこなわれていたが、測定に数時間がかかり実用的でない等の問題点もある。
【0005】
そこで本発明は、シール溝を形成する際に特殊刃形状をした総形バイトを使用することにより、シール溝の寸法管理を容易に行なうことができるシール溝形成方法およびそれを使用してシール溝を形成したディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明が採用した課題を解決するための手段は、
シリンダ内面にピストンシール溝を加工する方法であって、前記シール溝は、少なくとも溝部の軸方向の前後の何れか一方に段差を形成する刃を有するシール溝部加工用の総型バイトで加工することを特徴とするシール溝部加工方法である。
また、前記段差は略深さ0.2mm、長さ2mm程度であり、段差は平面、曲面のいずれかで形成されていることを特徴とするシール溝加工方法である。
また、ディスクブレーキ用のシリンダ内に加工されるピストンシール溝を、前記シール溝加工方法により加工したことを特徴とするディスクブレーキである。
また、ディスクブレーキ用のシリンダ内に加工されるピストンシール溝の、少なくともシール溝の軸方向の前後の何れか一方に段差を形成したことを特徴とするディスクブレーキである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特殊刃形形状をした総形バイトで形成したシール溝の一部分の寸法を測定するだけで、シール溝全体の寸法測定をしたものと同等の寸法精度を得ることができる。特に総形バイトは、±0.01ミリ以内の相対精度を持たせることができるため、シール溝の一部の寸法を測定するだけで、シール溝全体の寸法を測定したものと同等の効果を得ることができ、シール溝の測定を簡略化できる等々の特有の優れた作用効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る第1実施例としての総形バイトを使用してシール溝の後に段差を設けたシール溝を形成する方法を説明する図である。
【図2】形成したシール溝の寸法測定をする説明図である。
【図3】本発明に係る第2実施例としての総形バイトを使用してシール溝の前に段差を設けたシール溝を形成する方法を説明する図である。
【図4】形成したシール溝の寸法測定をする説明図である。
【図5】従来の総形バイトによるシール溝の形成方法の説明図である。
【図6】従来の総形バイトによって形成したシール溝の寸法測定の説明図である。
【図7】樹脂を使用してシール溝を型取りしたものの寸法測定の説明図である。
【図8】従来公知のディスクブレーキの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、シリンダ内面にピストンシール溝を加工する方法であって、前記シール溝は、少なくとも溝部のロータ軸方向の前後の何れか一方に段差を形成する刃を有する総型バイトでシール溝を加工したことに特徴がある。ここで前とはシール溝のロータ側、後とはシール溝のシリンダ底側を指す。
またその加工方法を使用してシール溝を加工したディスクブレーキに特徴がある。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明に係るシール溝形成方法およびそれを使用して形成したシール溝を有するディスクブレーキの実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施例に係るシール溝の形成方法説明図である。
図において、2はシール溝を形成するためのシリンダ部材であり、符号3がシリンダ内周面を示している。
シリンダ内周面3にシール溝4を形成するには従来と同様に総形バイト1により形成するが、この時使用する総形バイト1は、図1に示すように、シール溝4の一側(図では右側)をシリンダ内周面よりも僅かに切り取るための刃5を有したものを用いる。なお、この刃5はシール溝のいずれか一方側に段差を形成できるものであればよく、また、この段差は平面でも曲面でもよい。
具体的には、シール溝4の油圧側又は反油圧側のシリンダ内周面に長さ約2mm、深さ約0.2mm程の段差を形成できる刃部を総形バイトに形成しておく。
【0011】
上記のように段差を形成する刃5を有する総形バイトでシール溝4を加工すると、完成したシール溝の少なくとも一方側には刃5による段差が形成される(図2参照)。こうして形成された段差の寸法をキャリパ7で図ることで、シール溝4の(X、Y)寸法を知ることができる。なぜなら総形バイトは±0.01mm以内の精度がでるため、段差の寸法を図ることでシール溝4の(X、Y)寸法を推定することについて特に問題は生じない。しかも段差の寸法測定は容易であり、測定は1回でよく、時間の短縮を図ることができる。
上記したシール溝形成方法により従来のディスクブレーキのシリンダ内面にシール溝を形成することで、ディスクブレーキのシリンダ内面にも精度のよいシール溝を容易に形成することができる。
【0012】
図3は本発明の第2実施例に係るシール溝の形成方法の説明図である。
第2実施例はシール溝のロータ側に刃5を有する総形バイトでシール溝を形成する例である。シール溝のロータ側に段差6を形成する場合にはロールバック量が変わらぬようにするために図3中のA部を削ることはできない。そのため、図示のように段差部6はシール溝4と少し離れた位置に形成することになる。
図中で示す総形バイトで段差を形成した場合には、第1実施例と同様に段差部の寸法をキャリパで図ることで第1実施例と同様にシール溝の寸法を推定することができる。
なお、この刃5はシール溝のロータ側に段差を形成できるものであればよく、また、この段差は平面でも曲面でもよい。
【0013】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、段差部の形状(平面、曲面等)を適宜変更することができる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、車両用ディスクブレーキのシール溝加工に利用することができる。
【符号の説明】
【0015】
1 総形バイト
2 シリンダ
3 シリンダ内面
4 シール溝
5 刃
6 段差
7 キャリパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内面にピストンシール溝を加工する方法であって、前記シール溝は、少なくとも溝部の軸方向の前後の何れか一方に段差を形成する刃を有するシール溝部加工用の総型バイトで加工することを特徴とするシール溝部加工方法。
【請求項2】
前記段差は略深さ0.2mm、長さ2mm程度であり、段差は平面、曲面のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシール溝加工方法。
【請求項3】
ディスクブレーキ用のシリンダ内に加工されるピストンシール溝を、請求項1または請求項2に記載したシール溝加工方法により加工したことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
ディスクブレーキ用のシリンダ内に加工されるピストンシール溝の、少なくともシール溝の軸方向の前後の何れか一方に段差を形成したことを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266037(P2010−266037A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119608(P2009−119608)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】