説明

スクリーン印刷装置

【課題】 スクリーン版の破断を検知する機能を付加し、装置各部や対象物の汚損防止、ペーストの無駄防止、装置の生産性低下防止等の効果を有するスクリーン印刷装置を提供する。
【解決手段】 対象物3に重ね合わせたスクリーン版1にペーストをコートし、ペーストをスクリーン版1を通して対象物3に押し付けるスキージングを行って印刷する。印刷の際のスクリーン版1の歪みを検出した歪みセンサ8からの出力信号を信号処理系9が処理する。信号処理系9が、スクリーン版1が破断した又は破断しそうであると判断した際、制御手段7は装置の稼働を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、スクリーン印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷装置は、高精細の印刷を高速で行えるため、産業の各分野において盛んに使用されている。最近では、特開2007−185934号公報で紹介されているように、プラズマディスプレイのようなディスプレイ装置の製造においても、スクリーン印刷装置が使用されている。
【特許文献1】特開2001−212929号公報
【特許文献2】特開2007−185934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スクリーン印刷装置では、通常、版(以下、スクリーン版)を対象物に重ね合わせ、スクリーン版の上にペースト状のインキ(以下、単にペースト)を盛った後、スクレッパーと呼ばれる部材でペーストを薄く伸ばす。この薄く伸ばすことを、本明細書ではコートと呼ぶ。コートの後、スキージと呼ばれる部材でペーストをスクリーン版を通して対象物に押し付け、これにより印刷が行われる。本明細書は、このスキージによるペーストの押し付けをスキージングと呼ぶ。スキージングは、スキージがスクリーン版を対象物に向けて押しながらスクリーン版に沿って移動していくことで行われる。
【0004】
このようなスクリーン印刷装置では、スクリーン版が破れる事故(破断事故)が発生することがある。スクリーン版の破断事故は、スクリーン印刷装置では避けられない面がある。即ち、スキージングの際にスキージがスクリーン版上を擦るようにして移動していくので、印刷を繰り返すうちにスクリーン版が摩耗したり、少しずつ損傷したりすることがある。このような摩耗や損傷が重なり、ある時点で破断することになる。特に、最近のスクリーン印刷では高精細の印刷を行うために編み線の細いスクリーン版を使用することが多く、このような場合、特に破断が生じやすい。
【0005】
しかしながら、従来の装置では、スクリーン版の破断を検出していないので、スクリーン版の破断後も装置は稼働を続ける。この場合、特に問題なのは、ペーストによる装置各部の汚損である。スクリーン版の破断後も装置が稼働して新たにペーストが盛られると、ペーストは破断箇所から漏出し、下方に位置する装置の各部に付着する。付着したペーストは、ペーストの材料によっては腐食や絶縁箇所の短絡、駆動箇所の潤滑不良等の重大な障害を発生させる可能性がある。また、ペーストの漏出の際に対象物がセットされていると、対象物にも汚損が発生する可能性が高い。
【0006】
従来、スクリーン版が破断すると大きな音が発生するので、その音により作業員が破断に気がつき、装置の稼働を停止している。しかし、スクリーン印刷は高速印刷であり、作業者が破断に気がついて装置を緊急停止した際には、既に何回か印刷を繰り返してしまっている場合が多い。このため、装置を緊急停止させても、既に装置がペーストで汚損されてしまっている場合がある。また、近くに作業員がいなかった場合、長い時間装置は稼働を続けることになり、装置各部の汚損や対象物の汚損の他、ペーストを無駄に多く使用するという問題も発生する。
【0007】
さらに、スクリーン版の破断後、多くの回数印刷を繰り返してしまうと、ペーストが大量に漏出し、装置各部をかなり汚してしまう。このため、ペーストのふき取りなどの復旧作業に長い時間がかかり、装置の生産性が大幅に低下してしまう。
本願の発明は、このような課題を解決するために為されたものであり、スクリーン版の破断を検知する機能を付加し、装置各部や対象物の汚損防止、ペーストの無駄防止、装置の生産性低下防止等の効果を有するスクリーン印刷装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、スクリーン版を対象物に重ね合わせ、スクリーン版に設定された印刷領域にペーストをコートし、コートされたペーストをスクリーン版を通して対象物に押し付けるスキージングを行うことで印刷領域のパターンを印刷するスクリーン印刷装置であって、
スクリーン版の歪みを検出する歪みセンサーと、
歪みセンサーからの出力信号を処理することで、スクリーン版が破断したこと又は破断しそうなことを検知する信号処理系と、
スクリーン版が破断したこと又は破断しそうなことを信号処理系が検知した際、装置の稼働を停止する制御を行う制御手段と
備えている
という構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記歪みセンサーは二つ設けられており、各々の歪みセンサーは、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、一方の歪みセンサーが検出するスクリーン印刷の歪みの方向と、他方の歪みセンサーが検出するスクリーン印刷の歪みの方向とは直交しているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記スキージングを行う部材としてスキージを備えており、スキージは、スクリーン版を押して撓ませながらスクリーン版に沿って移動するものであり、
前記歪みセンサーは、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、この特定の方向がスキージの移動方向に一致するよう配置されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項3の構成において、前記歪みセンサーに加え別の歪みセンサーが設けられており、この別の歪みセンサーも、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、この特定の方向は、前記スキージが移動する方向に対して直角な方向であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記歪みセンサーは、スクリーン版において転写するパターンが描かれた領域であるパターン領域の外に配置されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記歪みセンサーは、スクリーン版においてペーストのコートとスキージングが行われる領域である印刷領域の外に配置されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記請求項1乃至6いずれかの構成において、前記歪みセンサーはパッチ状のものであり、スクリーン版に貼り付けられることで設けられているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項8記載の発明は、前記請求項1乃至6いずれかの構成において、前記歪みセンサーは、スクリーン版に編み込まれた素線によって形成されているという構成を有する。
【発明の効果】
【0009】
以下に説明する通り、本願の各請求項の発明によれば、実施形態の装置によれば、スクリーン版の破断後に装置が稼働を続けてしまうのを防止することができる。このため、ペーストにより装置各部が汚損されたり、ペーストの大量の無駄が生じたり、装置の復旧までの手間のために生産性が大きく低下したりする問題が避けられる。
また、請求項2の発明によれば、上記効果に加え、二つの歪みセンサーにより、直交すする二つの方向においてスクリーン版の歪みが監視されるので、スクリーン版の破断をより確実に検知することができる。
また、請求項3の発明によれば、上記効果に加え、スキージングの方向においてスクリーン版の歪みを監視するので、スクリーン版の破断をより確実に検知することができる。
また、請求項4の発明によれば、上記効果に加え、スキージングの方向とこれに直交する方向とにおいてスクリーン版の歪みを監視するので、スクリーン版の破断をより確実に検知することができる。
また、請求項5の発明によれば、上記効果に加え、歪みセンサーは、スクリーン版において転写するパターンが描かれた領域であるパターン領域の外に配置されているので、歪みセンサーがあるためにパターン転写に支障を来すという問題はない。
また、請求項6の発明によれば、上記効果に加え、歪みセンサーがあるためにペーストのコートやスキージングに支障を来すという問題はない。
また、請求項7の発明によれば、上記効果に加え、パッチ状の歪みセンサーを貼り付けるだけの構成なので、簡便で構造がシンプルとなる。
また、請求項8の発明によれば、上記効果に加え、歪みセンサーがスクリーン版の一部となっているので、より精度の高い歪みの監視が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本願発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、第一の実施形態について説明する。図1は、本願発明の第一の実施形態に係るスクリーン印刷装置の正面概略図である。
図1に示す装置は、スクレッパー4とスキージ5とを備えており、スクリーン版1を対象物3に重ね合わせてペースト2をコートし、スキージングを行うことでスクリーン版1のパターンを印刷する装置である。
【0011】
スクリーン版1は、方形な枠(以下、スクリーン枠)11に固定されている。スクリーン版1には、方形の印刷領域12が設定されている。印刷領域12は、少なくともこの領域においてペースト2のコートとスキージングが行われる領域として設定されるものである。印刷領域12は、転写するパターンが描かれた領域(以下、パターン領域)13を含んでいる。印刷領域12とパターン領域13が同じであっても良いが、通常は印刷領域12はパターン領域13よりも大きくパターン領域13の外側のマージンを含んだ形状となっている。
【0012】
スクレッパー4もスキージ5も、長尺な帯板状の部材であって、一種のヘラとして機能する部材である。スクレッパー4もスキージ5も、スクリーン枠11の方形の一辺の方向に沿って配置されている。スクレッパー4とスキージ5は、狭い間隔で並んで平行に配置されている。
【0013】
そして、この装置は、スクレッパー4をスクリーン版1に沿って移動させることでスクレッパー4にペースト2のコートを行わせるスクレッパー移動機構と、ペースト2がコートされたコートスクリーン版1に沿ってスキージを移動させることでスキージ5にスキージングを行わせるスキージ移動機構と、スクリーン版1に対するスクレッパー4の距離を調節するスクレッパー昇降機構41と、スクリーン版1に対するスキージ5の距離を調節するスキージ昇降機構51とを備えている。
【0014】
スクレッパー昇降機構41は、スクレッパー4を昇降させてスクリーン版1に対する距離を調節する機構である。スキージ昇降機構51は、スキージ5を昇降させてスクリーン版1に対する距離を調節する機構である。スクレッパー昇降機構41やスキージ昇降機構51としては、サーボモータと精密ネジを使用した機構が採用できる。精密ネジを垂直な姿勢で配置し、これに噛み合う被駆動体に回転止めを設け、精密ネジの回転を被駆動体の昇降に変換する構成が採用できる。被駆動体に、スクレッパー4やスキージ5が固定され、サーボモータにより精密ネジを回転させてその回転角度を制御することで、スクレッパー4やスキージ5の上下方向の位置が制御される。
【0015】
本実施形態では、スクレッパー移動機構とスキージ移動機構とが一つの機構6で兼用されている。この機構を単に移動機構と呼ぶ。移動機構6も、サーボモータと精密ネジを使用した機構が採用できる。精密ネジが水平に延びるように配置し、これと同じ高さで平行に延びるようにしてリニアガイドを配置する。被駆動体が精密ネジに噛み合うとともにリニアガイドにガイドされる構成が採用される。そして、スクレッパー昇降機構41及びスキージ昇降機構51が被駆動体に固定されており、これらの機構ごとスクレッパー4やスキージ5が一体に水平方向に移動するようになっている。
移動機構6による移動方向は、スクレッパー4やスキージ5の長さ方向に対して垂直な水平方向(スクリーン枠11の方形の他の一辺の方向)である。本実施形態では、移動方向は、図1の紙面上左右方向となっている。
【0016】
また、装置は、各機構を制御する制御手段7を備えている。制御手段7は、演算処理部(プロセッサ)、記憶部(メモリ)、入力部、インターフェース等を備えたコンピュータである。制御手段7の記憶部には、制御プログラムがインストールされている。この制御プログラムは、一種のシーケンス制御プログラムであり、各機構が所定のシーケンスで動作するよう制御するプログラムである。
【0017】
尚、装置は、不図示のペーストディスペンサーを備えている。ペーストディスペンサーは、スクリーン版1の印刷領域12の上にペースト2を所定量ずつ供給する機構である。その他、対象物3をスクリーン版1の真下に供給する機構を備えている。この機構は、対象物3によって異なるが、例えば対象物3が紙であれば、ロールツーロール(roll-to-roll)で紙を供給する機構が備えられる。また、装置は、対象物3がスクリーン版1に対して所定の位置に配置されたことを確認する不図示のセンサを備えている。尚、対象物3は、スキージングの際にスキージ5に押されるので、通常、不図示の印刷台が設けられており、対象物3は印刷台に載せられた状態で印刷が行われるようになっている。
【0018】
次に、このような装置を使用した印刷について、図2を使用して説明する。図2は、図1に示す装置における印刷動作について示した正面概略図である。
対象物3は、不図示の機構によりスクリーン版1の下方の所定位置にセットされる。対象物3は、スクリーン版1に対して所定の接近した位置に位置される。対象物3のセットが不図示のセンサにより確認されると、不図示のペーストディスペンサーによりペースト2がスクリーン版1の上に盛られる(図2(1))。
【0019】
そして、スクレッパー昇降機構41によってスクレッパー4がスクリーン版1に接近した高さに位置し(図2(2))、その後、移動機構6によってスクリーン版1に沿って移動する。これにより、ペースト2のコートが行われる(図2(3))。スクレッパー4が方形の印刷領域12の一端から反対側の他端まで移動してコートが行われた後、スクレッパー昇降機構41によりスクレッパー4が上方の退避位置に上昇する。
【0020】
次に、スキージ昇降機構51によりスキージ5が下降してスクリーン版1に当接し、少し押圧した状態とされる(図2(4))。この状態を保ちながら、移動機構6はスキージ5をスクリーン版1に沿って他端から一端まで移動させる。これによりスキージングが行われ、ペースト2がスクリーン版1を通して対象物3に押し付けられ、スクリーン版1のパターンが対象物3に転写される(図2(5))。
【0021】
このような本実施形態の装置は、スクリーン版1の歪みを検出する歪みセンサーとその信号処理によって特徴づけられている。即ち、装置は、スクリーン版1の歪みを検出する歪みセンサー8とその信号処理系9を備えている。
歪みセンサー8としては、金属等の抵抗素子の抵抗値変化から対象物3の歪みを測定するものが使用できる。このような歪みセンサー8は、樹脂製のベースの上にCu−Ni系合金箔を格子状に形成して抵抗素子とした構造が一般的で、対象物3に対して接着されて対象物3の歪みを測定する。即ち、対象物3に歪みが生じると、接着されている歪みセンサー8の抵抗素子に形状変化(伸び又は縮み等)が生じ、この形状変化が抵抗値の変化となり、抵抗値の変化量を検出することで歪み量が測定される。このような歪みセンサー8としては、パッチ状のものを用いることが簡便であり、例えば株式会社共和電業(東京都調布市)から販売されているひずみゲージシリーズの中から適宜選択して使用することができる。
【0022】
尚、本実施形態では、後述するように、歪みセンサー8からの信号の大きさを相対的に監視し、スクリーン版1の破断を検知する。したがって、スクリーン版1の歪み量の絶対的な値を知る必要はない。とはいえ、上記センサーを用いると絶対値を求めることも可能であり、そのようにしてもよい。
【0023】
本実施形態では、歪みセンサー8が1個だけ設けられている。歪みセンサー8は、印刷領域12の外側に設けられている。歪みセンサー8は、図1に示すように、スクリーン版1の裏側(ペースト22が盛られる側とは反対側、対象物3の側)に貼り付けされている。
貼り付けは、接着により行われている。接着材としては、いわゆる瞬間接着剤として市販されれているものが使用されている。歪みセンサー8のベースの材料と、スクリーン版1の編み線の材料とにより、適宜接着材が選定される。
【0024】
図3は、図1の装置における歪みセンサー8の配置位置について示した平面概略図である。
図3において、印刷領域12は方形のスクリーン枠11と相似形で同心に設定されている。パターン領域13は印刷領域12の内側に設定され、やはりスクリーン枠11と相似形で同心である。そして、図3に示すように、印刷領域12の外側において歪みセンサー8がスクリーン版1に貼り付けられている。
図3に示すように、本実施形態では、歪みセンサー8は、方形であるスクリーン枠11の短辺部分の内側に配置されているが、長辺部分の内側に配置されていてもよく、角部の内側に配置されていてもよい。
【0025】
図4は、歪みセンサー8からの信号を処理する信号処理系9のブロック図である。図4に示すように、実施形態の装置は、歪みセンサー8に接続された検出回路91と、検出回路91の出力を増幅する増幅器92と、増幅器92から出力された信号を処理して歪みを検知する演算処理部93とを備えている。図3に示す検出回路91と増幅器92は、図1に示す検出ユニット901を構成しており、演算処理部93は、図1に示す信号処理ユニット902の構成要素である。
【0026】
検出回路91は、ホイートストンブリッジであり、その出力電圧eが歪みセンサー8の形状変化に応じて変化するようになっている。Eはブリッジ電圧である。演算処理部93は、OPアンプIC又はプロセッサなどを含んでおり、増幅器92からの出力を所定の基準値と比較し、その比較結果に従って所定の出力を発するようになっている。演算処理部93がデジタル信号を処理するものである場合、信号処理ユニット902は、増幅器92からの出力をデジタル信号に変換するAD変換器を備える。
【0027】
図5は、演算処理部93における演算処理について示した図であり、検出回路91での検出信号の変化について示した図である。図5において、実線で示すAは、スクリーン版1が正常な状態の検出信号、破線で示すBは、スクリーン版1が破断する際の検出信号である。
【0028】
前述したように、印刷におけるスキージングの際にはスキージ5がスクリーン版1を押しながら擦るように移動するから、この際には、スクリーン版1は若干伸びる。スキージングが終了し、スキージ5がスクリーン版1を離れると、スクリーン版1は復元力により元の状態に戻ろうとする。つまり、伸びた状態から縮むような形状変化が生じる。そして、次の対象物3がセットされてペースト22がコートされて再びスキージングが行われる際、再びスクリーン版1は伸びた状態になる。即ち、スクリーン版1は伸長と収縮を周期的に繰り返す。
【0029】
スクリーン版1に貼り付けされた歪みセンサー8も、このスクリーン版1の形状変化(歪み)に追従し、同様に伸長と収縮を繰り返す。したがって、検出回路91の出力は、図5に示すように、正弦波状に変化したものとなる。波の一周期が、一回の印刷の際に生ずる伸長と収縮である。尚、厳密な意味で正弦波となる訳ではなく、大まかには波線状に変化するというべきである。
【0030】
このような検出回路91の出力(以下、単に出力波形)の周期的な変化において、スクリーン版1が正常な状態である場合、波形Aで示すように、出力波形の平均値ないしピーク値は殆ど一定である。これは、スクリーン版1には摩耗や損傷等が無く、スクリーン版1は復元力により常に元の状態に戻るからである。波形Aは、装置が稼働を開始し、m回目の印刷を繰り返す過程で、スクリーン版1が正常な状態を保持する様子を示している。
【0031】
一方、スクリーン版1に破断が生じる場合、図5に波形Bで示すように、出力波形は周期的に変化するものの、徐々に平均値(又はピーク値)が上昇していく。そして、ある時点で出力は急激に上昇する。この急激な上昇の時点が破断した時点である。波形Bは、印刷がm回を越え、n回に達したあたりから元の状態に戻らなくなり、k+1回の印刷の際に破断する様子を示している。
【0032】
演算処理部93において設定される閾値は、スクリーン版1が破断したのを検知するか、破断しそうなのを検知するかによって異なる。スクリーン版1が破断したのを検知する場合、図5に示す出力波形の急激な変化点(以下、破断点)を検出するか、閾値を周期的な変化では達しない程度大きな値(以下、破断時到達点)V1に設定し、それを越えた場合には破断と判断するようにする。破断点を検知する場合、演算処理部93が微分回路ないし微分プログラムを含むようにし、演算処理部93は、急激な出力波形の変化を破断と判断して出力するよう構成される。
【0033】
また、破断しそうなのを検出する(破断する直前を検出する)場合、通常の周期的な変化の際には到達しないが、破断点に至る際の出力が全体として上昇している際に到達する値(以下、破断前到達点)V2に閾値を設定する。閾値V2(破断前到達点)としては、例えば通常のピーク値の1.5倍又はそれ以上の値を設定する。この値は、要求される印刷精度等により適宜決定する。
【0034】
以上の説明から解るように、演算処理部93は、出力波形の急激な変化点(破断点)を検知する演算処理を行うか、ある閾値(V1又はV2)を出力値が越えたかどうかを判断する演算処理を行うよう構成されている。
演算処理部93での演算結果は、制御用の入力信号として制御手段7に送られるようになっている。この入力信号は、装置の緊急停止用の信号(以下、緊急停止信号)である。制御手段7にインストールされている制御プログラムには、演算処理部93から緊急停止信号が送られると、装置の運転を緊急停止するシーケンスが含まれている。
【0035】
装置は、前述した動作を繰り返し、各対象物3に順次印刷を行う。印刷が繰り返される際、歪みセンサー8はスクリーン版1の形状変化に伴う出力を常に発生させている。歪みセンサー8の出力は、検出回路91、増幅器92を経て演算処理部93に入力される。演算処理部93では、入力された信号を処理し、ある条件が満たされる場合、緊急停止信号を発生させる。緊急停止信号は制御手段7に入力され、制御手段7は、緊急停止用のシーケンスを実行する。これにより、装置の各部が緊急停止する。例えば、印刷が終わった時点で緊急停止信号が発せられた場合、次の対象物3をセットしないようにし、ペースト2ディスペンサーもペースト2を供給しないようにする。ペースト2のコート後、スキージングの直前で緊急停止信号が発せられた場合、スキージ5がスキージングをしないようにする。スキージ5がスキージング中に緊急停止信号が発せられた場合、スキージ5を停止させ、上方の退避位置まで上昇させる。
【0036】
上記動作において、破断点を検知するか、閾値を破断時到達点V1に設定しておくと、スクリーン版1が破断した際に装置は緊急停止することになる。また、閾値を破断前到達点V2に設定しておくと、スクリーン版1が破断する直前に(破断しそうになると)装置は緊急停止することになる。
いずれにしても、実施形態の装置によれば、スクリーン版1の破断後に装置が稼働を続けてしまうのを防止することができる。このため、ペースト2により装置各部が汚損されたり、ペースト2の大量の無駄が生じたり、装置の復旧までの手間のために生産性が大きく低下したりする問題が避けられる。
【0037】
次に、スキージ5の移動方向と歪みセンサー8の姿勢との関係について、図6を使用して説明する。図6は、スキージ5の移動方向と歪みセンサー8の姿勢との関係について示した平面概略図である。
歪みセンサー8は、検出する対象物3の形状変化について、一定の指向性(方向性)を持っていることが多い。即ち、ある一定の方向(以下、検出方向)に形状変化(伸び又は縮み)が生じた場合のみ抵抗値の変化が生ずる特性が有する場合が多い。
【0038】
一方、スクリーン版1に形状変化(歪み)が生じるのは特にスキージングの際である。スキージングの際は、スクリーン版1は、スキージ5により押されて撓み対象物3に向けて膨らんだ状態となり、この状態を維持しながら、スキージ5がスクリーン版1の表面を擦るように移動している。
【0039】
この説明から解るように、スキージングの際のスクリーン版1の歪みは、特にスキージ5の移動方向において生じる。スキージ5が移動する際、スキージ5は移動方向後方においてスクリーン版1を引っ張る状態となり、移動方向前方においてスクリーン版1を縮める状態となる。
したがって、指向性のある歪みセンサー8を使用する場合には、図6に示すように、検出方向をスキージ5の移動方向に一致させることが望ましい。破断につながるのはより大きな歪みが生じる際であり、歪みがより大きな方向で監視を行う方がより確実に破断を監視でき、望ましい。
【0040】
但し、スキージングの際、スキージ5により撓ませられたスクリーン版1は、スキージ5の移動方向に対して直交する方向においても引っ張られた状態となる。したがって、この方向においてもスキージ5の歪みは生じており、歪みセンサー8の検出方向をスキージ5の移動方向に直交する方向(図6に点線で示す)でもよい。さらにいえば、この二つ以外の方向においても、スキージングの際にスクリーン版1は引っ張られていることには変わりはない。したがって、スクリーン版1の表面に沿った方向である限り、検出方向がいずれの方向になっていても破断の監視は可能である。
【0041】
尚、スキージングの他、ペースト2のコート際にもスクレッパー4がスクリーン版1を押圧しながら移動する場合がある。この場合は、スクレッパー4の移動方向を検出方向としても良い。但し、本実施形態では、スキージ5の移動方向とスクレッパー4の移動方向は同じであり、スキージ5によるスクリーン版1の歪みの他、スクレッパー4によるスクリーン版1の歪みも監視する構成となっている。
【0042】
次に、本願発明の第二の実施形態について説明する。
図7は、第二の実施形態の装置の主要部について示した概略図であり、第三の実施形態における歪みセンサー8の配置位置について示した平面概略図である。
図7に示すように、第二の実施形態は、歪みセンサー81,82を二つ用いている。これらの歪みセンサー81,82は、前述したように特定の方向でのみ歪みを検出できるものである。第一の歪みセンサー81は、第一の実施形態と同じ位置であり、方形のスクリーン枠11の一つの辺の内側に配置されており、スキージ5やスクレッパー4の移動方向(以下、第一の方向)におけるスクリーン版1の歪みを監視するものである。
【0043】
第二の歪みセンサー82は、第一の歪みセンサー81が配置された辺と直交する別の辺の内側に配置されている。第二の歪みセンサー82は、スキージ5やスクレッパー4の移動方向と直角な方向(以下、第二の方向)でのスクリーン版1の歪みを監視するものである。尚、二つの歪みセンサー81,82とも、印刷領域12の外側に配置されている。
【0044】
図8は、第二の実施形態の装置における信号処理系9の概略図である。
図8に示すように、第二の実施形態における検出回路91は、ホイートストンブリッジ内に二つの歪みセンサー81,82を配置した構成となっている。検出回路91の出力は、同様に増幅器92によって増幅され、演算処理部93に入力されるようになっている。
【0045】
図8から解るように、この第二の実施形態では、いずれの歪みセンサー81,82においてスクリーン版1の歪みが検出された場合でも検出回路91の出力になって現れるようになっている。即ち、第一の方向に加え、それに直交する第二の方向においてもスクリーン版1の歪みが監視されている。したがって、万が一、第二の方向での歪みが原因で破断が生じた(又は生じる)場合であっても検知することができる。
尚、二つの歪みセンサー81,82は、検出方向が互いに直交していることが望ましいが、方形のスクリーン枠11の辺の方向に沿っていなくともよく、斜めに配置されていてもよい。この場合も、二つの方向でスクリーン版1の歪みを監視しているから、より確実に破断を監視することができる。
【0046】
上記第一第二の実施形態において、歪みセンサー8は、印刷領域12の外に配置する限り、スクリーン版1の表側(ペースト2のコートが行われる側)の面に貼り付けしてもよい。また、裏側の面に貼り付けする場合、印刷領域12内に配置しても問題がない場合もある。さらに、パターン領域13内に配置してもよい場合もある。即ち、パターン領域13内でも、転写されるパターンに重ならないようにすれば、歪みセンサー8を配置できる場合もある。
また、歪みセンサー8を三つ以上用いてもよく、例えば四つの歪みセンサーをスクリーン枠11の各角部の内側に配置する構成が考えられる。この場合、うち二つはスキージ5の移動方向を検出方向とし、他の二つはこれに直交する方向を検出方向とすると好適である。
【0047】
次に、本願発明の第三の実施形態について説明する。
図9は、第三の実施形態の装置の主要部について示した平面概略図である。
第三の実施形態の装置は、歪みセンサー8の構成自体が第一第二の実施形態と異なっている。この第三の実施形態では、歪みセンサー8は、図9に示すように、スクリーン版1に編み込まれた状態で設けられている。スクリーン版1は、絹又はナイロン、テトロン等の化学繊維で編み込まれていることが多いが、この際、歪みセンサー8を構成する素線83を一緒に編み込むようにする。
【0048】
素線83は、図9に示すように、スクリーン枠11と同心、相似のほぼ方形とされる。素線83は、開放端を有し、この開放端と検出回路91とをつなぐ結線84が設けられている。即ち、歪みセンサー8は、素線83と結線84で構成されている。スクリーン枠11が金属製である場合、絶縁物で形成された部位を設け、結線84をそこに貫通させるようにする。尚、素線83は、Cu−Ni系合金のように、形状変化に応じて十分に抵抗値が変化する材料で形成されたものとされる。尚、本実施形態における信号処理系9は、図4に示す第一の実施形態のものと同様でよい。
【0049】
また、素線83の編み込み位置は、図9に示すように、パターン領域13の外であるものの印刷領域12の内部となっている。印刷領域12では、ペースト22のコートやスキージングが行われるが、素線83はスクリーン版1の一部となっているため、特に問題はない。尚、素線83を印刷領域12の外で編み込んでもよいことは勿論である。また、パターン転写に支障が無いようであれば、パターン領域13内に素線83を編み込んでもよい。
【0050】
第三の実施形態においても、素線83で構成される歪みセンサー8がスクリーン版1の歪みを監視するので、スクリーン版1が破断したこと又は破断しそうであることを検知できる。このため、ペースト2の漏出による装置各部の汚損、ペースト2の無駄、装置の復旧作業による生産性の低下などの諸問題が回避される。
また、素線83が開放端を有するほぼ方形となっている構成は、第二の実施形態と同様に、直交する二つの方向においてスクリーン版1の歪みを監視できることを意味する。したがって、より確実に破断を監視できる。
【0051】
上記第三の実施形態では素線即ち線状の部材により歪みセンサー8を構成したが、それ以外の構成もあり得る。例えば、フォトリソグラフィによりスクリーン版1上に導電パターンを形成し、その導電パターンによりスクリーン版1の歪みを検出する構成が考えられる。この場合、製版用の露光と導電パターン形成用の露光とを同時に行うようにしてもよい。但し、現像については、材料が異なるので、別々に行うことになる場合が多い。尚、この場合の導電パターンも、図9に示す素線83と同様に開放端を有するほぼ方形とされる。結線についても同様に導電パターンで形成しても良い。
第三の実施形態において、素線83や導電パターンの形状は、開放端の有するほぼ方形の他、コ状であってもよく、この場合も直交する二つの方向でのスクリーン版1の歪みを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本願発明の第一の実施形態に係るスクリーン印刷装置の正面概略図である。
【図2】図1の装置における印刷動作について示した正面概略図である。
【図3】図1の装置における歪みセンサー8の配置位置について示した平面概略図である。
【図4】図3は、歪みセンサー8からの信号を処理する信号処理系9のブロック図である。
【図5】演算処理部93における演算処理について示した図であり、検出回路91での検出信号の変化について示した図である。
【図6】スキージ5の移動方向と歪みセンサー8の姿勢との関係について示した平面概略図である。
【図7】第二の実施形態の装置の主要部について示した概略図であり、第三の実施形態における歪みセンサー8の配置位置について示した平面概略図である。
【図8】第二の実施形態の装置における信号処理系9の概略図である。
【図9】第三の実施形態の装置の主要部について示した平面概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 スクリーン版
2 ペースト
3 対象物
4 スクレッパー
5 スキージ
6 移動機構
7 制御手段
8 歪みセンサー
9 信号処理系
91 検出回路
92 増幅器
93 演算処理部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン版を対象物に重ね合わせ、スクリーン版に設定された印刷領域にペーストをコートし、コートされたペーストをスクリーン版を通して対象物に押し付けるスキージングを行うことで印刷領域のパターンを印刷するスクリーン印刷装置であって、
スクリーン版の歪みを検出する歪みセンサーと、
歪みセンサーからの出力信号を処理することで、スクリーン版が破断したこと又は破断しそうなことを検知する信号処理系と、
スクリーン版が破断したこと又は破断しそうなことを信号処理系が検知した際、装置の稼働を停止する制御を行う制御手段と
備えていることを特徴とするスクリーン印刷装置。
【請求項2】
前記歪みセンサーは二つ設けられており、各々の歪みセンサーは、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、一方の歪みセンサーが検出するスクリーン印刷の歪みの方向と、他方の歪みセンサーが検出するスクリーン印刷の歪みの方向とは直交していることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷装置。
【請求項3】
前記スキージングを行う部材としてスキージを備えており、スキージは、スクリーン版を押して撓ませながらスクリーン版に沿って移動するものであり、
前記歪みセンサーは、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、この特定の方向がスキージの移動方向に一致するよう配置されていることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷装置。
【請求項4】
前記歪みセンサーに加え別の歪みセンサーが設けられており、この別の歪みセンサーも、スクリーン版が特定の方向において歪むのを検出するものであり、この特定の方向は、前記スキージが移動する方向に対して直角な方向であることを特徴とする請求項3記載のスクリーン印刷装置。
【請求項5】
前記歪みセンサーは、スクリーン版において転写するパターンが描かれた領域であるパターン領域の外に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項6】
前記歪みセンサーは、スクリーン版においてペーストのコートとスキージングが行われる領域である印刷領域の外に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項7】
前記歪みセンサーはパッチ状のものであり、スクリーン版に貼り付けられることで設けられていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項8】
前記歪みセンサーは、スクリーン版に編み込まれた素線によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のスクリーン印刷装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−148939(P2009−148939A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327509(P2007−327509)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000111270)ニューロング精密工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】