説明

スパークプラグの製造方法

【課題】スパークプラグを製造する際に、主体金具の工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制することのできる技術を提供する。
【解決手段】スパークプラグの製造方法は、(a)主体金具に絶縁体が挿入された状態の部材を準備する工程と、(b)治具によって、主体金具と絶縁体とを固定する工程とを備える。工程(b)は、中心線方向における治具のテーパ面の先端の位置を、工具係合部の後端と同一の位置、または工具係合部の後端より先端側に配置するとともに、治具のテーパ面を、工具係合部より後端側であって加締め部より先端側に位置する傾斜面の少なくとも一部に接触させる工程を含む。中心線と治具のテーパ面の延長線との間に形成される鋭角の角度をAとし、中心線と主体金具の傾斜面の延長線との間に形成される鋭角の角度をBとした場合に、−3°≦B−A≦10°の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグの製造工程では、中心電極と主体金具との間の絶縁を確保するための絶縁体を筒状の主体金具の内部に挿入し、主体金具を加締めて絶縁体を固定することにより、スパークプラグの気密を確保している。従来、主体金具を加締めて絶縁体を固定する際に、主体金具のうちスパークプラグレンチが嵌合する部分(以下、工具係合部ともいう)が外側に膨らんでしまい、スパークプラグレンチが嵌らない場合があるといった問題があった。
【0003】
この問題を解決するための技術としては、例えば下記の特許文献1に開示されたものが知られている。この技術では、主体金具を加締めるための治具の表面に、非晶質炭素相を主体とする硬質炭素皮膜(DLC:Diamond Like Carbon)を形成することにより、工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制していた。
【0004】
ところで、近年では、小排気量のエンジンと過給器を組み合わせて、高出力と低燃費を実現する技術が注目を集めている。過給器を用いると、エンジンの燃焼室の圧力が大きくなるため、スパークプラグに対しては、さらに高い気密性が求められるようになった。高い気密性を確保するために、主体金具の加締め時の荷重を大きくすると、上記の方法を用いても、主体金具の工具係合部が外側に膨らんでしまうことを十分に抑制することができないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4167816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、スパークプラグを製造する際に、主体金具の工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0008】
[適用例1]
先端側に発火部を備え、後端側に端子を備えるスパークプラグの製造方法であって、
(a)工具係合部と前記工具係合部より後端側に位置する加締め部とを有する筒状の主体金具の内部に絶縁体が挿入された状態の部材を準備する工程と、
(b)治具によって、前記加締め部を変形させることにより、前記主体金具と前記絶縁体とを固定する工程と
を備え、
前記工程(b)は、
前記主体金具の中心線と、前記主体金具の工具係合部の外周のうち前記中心線に最も遠い点とを通る断面において、
前記中心線方向における前記治具のテーパ面の先端の位置を、前記工具係合部の後端と同一の位置、または前記工具係合部の後端より先端側に配置するとともに、前記治具の前記テーパ面を、前記工具係合部より後端側であって前記加締め部より先端側に位置する傾斜面の少なくとも一部に接触させる工程を含み、
前記中心線と前記治具の前記テーパ面の延長線との間に形成される鋭角の角度をAとし、
前記中心線と前記主体金具の前記傾斜面の延長線との間に形成される鋭角の角度をBとした場合に、
−3°≦B−A≦10°
の関係を満たすことを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この方法によれば、傾斜面を適切な角度で押さえるため、工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグの製造方法であって、
−1°≦B−A≦7°
の関係を満たすことを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この方法によれば、傾斜面をさらに適切な角度で押さえるため、工具係合部が外側に膨らんでしまうことをさらに抑制することができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(b)において、前記治具は、前記工具係合部から離間していることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この方法によれば、治具が工具係合部から離間しているので、工具係合部が外側に膨らんだ場合であっても、治具が工具係合部から外れにくくなってしまうことを抑制することができる。
【0011】
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(b)は、
(b1)前記治具の湾曲部を、前記主体金具の前記加締め部に接触させる工程と、
(b2)前記治具の前記テーパ面を、前記主体金具の前記傾斜面に接触させる工程と、
(b3)前記工具係合部より先端側に位置する薄肉部を座屈させる工程と
をこの順で備えることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
治具の湾曲部が主体金具の加締め部に接触する前に、治具のテーパ面が主体金具の傾斜面に接触すると、主体金具の傾斜面が望まざる変形をする場合がある。また、治具のテーパ面が主体金具の傾斜面に接触する前に、薄肉部を座屈させると、主体金具の工具係合部が外側に膨らんでしまう場合がある。しかし、この方法によれば、主体金具の傾斜面における変形を抑制することができるとともに、工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(a)で準備される前記部材において、前記工具係合部の内側と前記絶縁体との間には、充填材が配置されていることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この方法によれば、工具係合部が外側に膨らむのを抑制することができるので、充填材の密度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例1から適用例5のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(a)で準備される前記部材において、前記主体金具に形成された取付ネジ部のネジ径は、M12以下であることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
工具係合部は、取付ネジ部のネジ径がM12以下の場合に特に、外側に膨らみやすい。この方法によれば、M12以下のネジ径のスパークプラグを製造する場合においても、工具係合部が外側に膨らんでしまうことを抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグ、スパークプラグの製造装置、製造システム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100の全体構成を示す説明図である。
【図2】主体金具50と絶縁碍子10とを固定する工程を示す工程図である。
【図3】主体金具50と絶縁碍子10とを固定する工程の様子を示す説明図である。
【図4】治具300と主体金具50とを拡大して示す説明図である。
【図5】本実施形態の効果を比較例とともに示す説明図である。
【図6】第2実施形態における治具300bと主体金具50とを拡大して示す説明図である。
【図7】第3実施形態における治具300cと主体金具50とを拡大して示す説明図である。
【図8】2つのタイプの治具を示す説明図である。
【図9】実験結果を表形式で示す説明図である。
【図10】実験結果をグラフ形式で示す説明図である。
【図11】工具係合部51bが12角形の形状であるスパークプラグを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.スパークプラグの構成:
A2.スパークプラグの製造方法:
A3.治具の詳細:
A4.効果:
B.第2実施形態:
C.第3実施形態:
D.実験例:
E.変形例:
【0017】
A.第1実施形態:
A1.スパークプラグの構成:
図1は、本発明の一実施形態によって製造されるスパークプラグ100の全体構成を示す説明図である。図1(A)では、軸線Oの右側にスパークプラグ100の外観を示し、軸線Oの左側にスパークプラグ100を軸線O(以下では、中心線Oともいう。)を通る面で切断した断面を示している。以下では、図1(A)においてスパークプラグ100の軸線方向ODを図面における上下方向とし、下側(発火部側)をスパークプラグの先端側、上側(端子側)を後端側として説明する。図1(B)は、スパークプラグ100を上側から示した説明図である。図1(A)で示された断面は、図1(B)における中心線Oと点Wとを通るA−A断面(左半分)を示している。この点Wは、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位である工具係合部51の外周のうち中心線Oから最も遠い点である。以下で説明する他の図面における断面図についても同様に、中心線Oと点Wとを通る断面を示す。
【0018】
スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、主体金具50と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40とを備えている。中心電極20は、絶縁碍子10に設けられた軸孔12内に、軸線方向ODに延びた状態で保持されている。絶縁碍子10は、絶縁体として機能しており、主体金具50は、この絶縁碍子10を取り囲んだ状態で内挿している。端子金具40は、電力の供給を受けるための端子であり、絶縁碍子10の後端部に設けられている。
【0019】
絶縁碍子10は、中心線Oに沿って延びる軸孔12が形成された筒状の絶縁体であり、アルミナ等を焼成することにより形成されている。絶縁碍子10には、軸線方向ODの略中央に外径が最も大きな鍔部19が形成されており、それより後端側には後端側胴部18が形成されている。後端側胴部18には、表面長さを長くして絶縁性を高めるための襞部11が形成されている。鍔部19より先端側には、後端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成されている。先端側胴部17よりもさらに先端側には、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13は、先端側ほど外径が小さくなっている。この脚長部13は、スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた際には、内燃機関の燃焼室内に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には段部15が形成されている。
【0020】
中心電極20は、絶縁碍子10の先端側から後端側に向かって中心線Oに沿って延びており、絶縁碍子10の先端側において露出している。中心電極20は、電極母材21の内部に芯材25を埋設した構造を有する棒状の電極である。電極母材21は、クロム、シリコン、マンガン等を含有したニッケルを主成分とした合金や、インコネル600またはインコネル601等(「インコネル」は商標名)のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から形成されている。芯材25は、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主体とする合金から形成されている。本明細書では、「銅を主体とする合金」とは、銅を95%以上含むものをいう。通常、中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に芯材25を詰め、底側から押出成形を行って引き延ばすことで作製される。軸孔12内において、中心電極20は、シール体4およびセラミック抵抗3を介して、絶縁碍子10の後端側に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。
【0021】
主体金具50は、低炭素鋼材より形成された筒状の金具であり、絶縁碍子10を内部に保持している。絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13にかけての部位は、主体金具50によって取り囲まれている。
【0022】
主体金具50は、工具係合部51と、取付ネジ部52とを備えている。工具係合部51は、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位であり、本実施形態では、軸線方向ODから見た場合に、六角形の形状を有している。主体金具50の取付ネジ部52は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けるためにネジ山が形成された部位であり、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合する。このように、主体金具50の取付ネジ部52をエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合させて締め付けることより、スパークプラグ100は、内燃機関のエンジンヘッド200に固定される。
【0023】
主体金具50の工具係合部51と取付ネジ部52との間には、径方向外側に膨出するフランジ状の鍔部54が形成されている。取付ネジ部52と鍔部54との間のネジ首59には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けた際に、鍔部54の座面55と取付ネジ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形により、スパークプラグ100とエンジンヘッド200間が封止され、取付ネジ孔201を介した燃焼ガスの漏出が抑制される。
【0024】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、薄肉の加締め部53が設けられている。また、工具係合部51より後端側であって加締め部53より先端側には、傾斜面51fが形成されている。鍔部54と工具係合部51との間には、加締め部53と同様に、薄肉の座屈部58が設けられている。主体金具50の工具係合部51から加締め部53にかけての内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が挿入されている。さらに両リング部材6,7間には、気密を保持するための充填材として、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締め部53を内側に折り曲げるようにして加締めることにより、主体金具50と絶縁碍子10とが固定される。この加締め工程は、冷間でも熱間でも行なうことができる。主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性は、主体金具50の内周面に形成された段部56と、絶縁碍子10の段部15との間に介在する環状の板パッキン8によって保持され、燃焼ガスの漏出が防止される。座屈部58は、加締めの際に、圧縮力の付加に伴い外向きに撓み変形するように構成されており、タルク9の圧縮長さを確保して主体金具50内の気密性を高めている。
【0025】
主体金具50の先端部には、主体金具50の先端部から中心線Oに向かって屈曲した接地電極30が接合されている。接地電極30は、クロム、シリコン、マンガン等を含有したニッケルを主成分とした合金や、インコネル600等(「インコネル」は商標名)のように、耐腐食性が高いニッケル合金で形成することが可能である。この接地電極30と主体金具50との接合は、溶接により行うことができる。接地電極30の先端部33は、中心電極20と対向している。
【0026】
スパークプラグ100の使用時には、端子金具40に、プラグキャップ(図示せず)を介して高圧ケーブル(図示せず)が接続される。そして、この端子金具40とエンジンヘッド200との間に高電圧を印加することにより、接地電極30と中心電極20との間に火花放電が生じる。
【0027】
なお、中心電極20と接地電極30とのそれぞれには、高融点の貴金属を主成分として形成された円柱状の電極チップ90,95が取り付けられている。具体的には、中心電極20の先端側の面には、例えば、イリジウム(Ir)や、イリジウムを主成分として、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)のうち、1種類あるいは2種類以上を添加したIr合金によって形成された電極チップ90が取り付けられる。また、接地電極30の先端部33の中心電極20と対向する面には、白金または白金を主成分とした電極チップ95が取り付けられる。
【0028】
A2.スパークプラグの製造方法:
図2は、スパークプラグの製造工程のうち、主体金具50と絶縁碍子10とを固定する工程を示す工程図である。図3は、主体金具50と絶縁碍子10とを固定する工程の様子を示す説明図である。この図3は、図1(A)と同様に、中心線Oと、主体金具50の工具係合部51の外周のうち中心線Oに最も遠い点W(図1(A))とを通る断面を示している。
【0029】
工程S100(図2)では、主体金具50と絶縁碍子10とを固定する工程に先立って、主体金具50の内部に絶縁碍子10が挿入された状態の部材と、治具300とを準備する(図3(A))。治具300は、筒状であり、テーパ状に形成されたテーパ面304と、テーパ面304の後端側に形成された湾曲部302とを有している。
【0030】
工程S200では、治具300の湾曲部302を、主体金具50の加締め部53に接触させる(図3(B))。このとき、主体金具50の傾斜面51fには、治具300のテーパ面304は接触しておらず、主体金具50の加締め部53が、先端側からに変形する。
【0031】
工程S300では、治具300のテーパ面304を、主体金具50の傾斜面51fに接触させる(図3(C))。具体的には、中心線O方向における治具300のテーパ面304の先端の位置304aを、工具係合部51の後端51aより先端側に配置した状態で、治具300のテーパ面304を、傾斜面51fの少なくとも一部に接触させる。なお、テーパ面304の角度と、傾斜面51fの角度との関係については、後述する。
【0032】
工程S400では、工具係合部51より先端側に位置する薄肉部58bを座屈させる(図3(D))。座屈した薄肉部58bは、座屈部58(図1)となる。工程S400の工程を終えると、接地電極30を中心電極20に対向させるように湾曲させるなどの、次の製造工程に移行する。
【0033】
この図2に示した工程によって主体金具50と絶縁碍子10とを固定する理由について説明する。図2に示した工程によって主体金具50と絶縁碍子10とを固定すれば、主体金具50の傾斜面51fの変形を抑制することができるとともに、工具係合部51が外側に膨らんでしまうことを抑制することができる。しかし、仮に、治具300の湾曲部302が主体金具50の加締め部53に接触する前に、治具300のテーパ面304が主体金具50の傾斜面51fに接触すると、主体金具50の傾斜面51fが望まざる変形をする場合がある。また、仮に、治具300のテーパ面304が主体金具50の傾斜面51fに接触する前に、薄肉部58bを座屈させると、主体金具50の工具係合部51が外側に膨らんでしまう場合がある。
【0034】
なお、本実施形態では、工具係合部51の内側と絶縁碍子10との間には、充填材として、タルク9が配置されている。本実施形態では、後述するように、工具係合部51が外側に膨らんでしまうことを抑制することができるので、充填材としてのタルク9の密度が低下してしまうことを抑制することができる。また、本実施形態では、ステップS100において準備される部材において、主体金具50に形成された取付ネジ部52のネジ径は、M12である。
【0035】
A3.治具の詳細:
図4は、治具300と主体金具50とを拡大して示す説明図である。この図4において、中心線Oと治具300のテーパ面304の延長線との間に形成される鋭角の角度をAとする。そして、中心線Oと主体金具50の傾斜面51fの延長線との間に形成される鋭角の角度をBとする。この場合に、スパークプラグの製造方法は、下記の式(1)を満たすことが好ましく、下記の式(2)を満たすことがさらに好ましい。
−3°≦B−A≦10° …(1)
−1°≦B−A≦7° …(2)
【0036】
すなわち、角度Aと角度Bとの差が小さいほど、主体金具50の傾斜面51fが、治具300のテーパ面304によって適切に押さえつけられるので、工具係合部51が外側へ変形して膨らんでしまうことを抑制することができる。上記式(1)および式(2)の数値範囲とする根拠については、後述する。なお、図4に示す本実施形態では、B−A=0°となっている。すなわち、治具300のテーパ面304の角度Aは、主体金具50の傾斜面51fの角度Bと同じである。
【0037】
さらに、本実施形態では、治具300は、工具係合部51から離間している。換言すれば、治具300は、傾斜面51fには接するが、スパークプラグレンチが嵌合する側面部分である工具係合部51には接しない。したがって、工具係合部51が外側に膨らんだ場合であっても、治具300が工具係合部51から外れにくくなってしまうことを抑制することができる。
【0038】
A4.効果:
図5は、本実施形態の効果を、比較例とともに示す説明図である。図5(A)は、本実施形態の製造方法によって、主体金具50と絶縁碍子10とを固定した場合を示しており、図5(B)は、比較例の製造方法によって、主体金具50と絶縁碍子10とを固定した場合を示している。
【0039】
比較例では、薄肉部58bを座屈させて座屈部58を形成する際に、治具300xのテーパ面304xが、主体金具50の傾斜面51fに接していないため、工具係合部51が外側へ変形して膨らんでしまう。これに対して、本実施形態では、薄肉部58bを座屈させて座屈部58を形成する際に、治具300のテーパ面304が、主体金具50の傾斜面51fに接しているため、傾斜面51fの内側方向へ力Fが加わり、工具係合部51が外側へ変形して膨らんでしまうことを抑制することができる。
【0040】
このように、本実施形態では、主体金具50の傾斜面51fを適切な角度で押さえるため、工具係合部51が外側に膨らんでしまうことを抑制することができる。
【0041】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態における治具300bと主体金具50とを拡大して示す説明図である。図4に示した第1実施形態との違いは、角度Aが角度Bよりも小さい点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。ただし、この実施形態においても、上記の式(1)または式(2)を満たしている。
【0042】
このように、角度Aが角度Bよりも小さい場合であっても、上記の式(1)または式(2)を満たしていれば、第1実施形態と同様に、工具係合部51が外側に変形して膨らんでしまうことを抑制することができる。この根拠については後述する。
【0043】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態における治具300cと主体金具50とを拡大して示す説明図である。図4に示した第1実施形態との違いは、角度Aが角度Bよりも大きい点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。ただし、この実施形態においても、上記の式(1)または式(2)を満たしている。
【0044】
このように、角度Aが角度Bよりも大きい場合であっても、上記の式(1)または式(2)を満たしていれば、第1実施形態と同様に、工具係合部51が外側に変形して膨らんでしまうことを抑制することができる。この根拠については後述する。
【0045】
D.実験例:
本実験例では、治具300の形状と、工具係合部51の膨らみとの関係を調べるため、角度Aの異なる複数の治具のサンプルを用いて主体金具50と絶縁碍子10とを固定し、工具係合部51の膨らみを調べた。また、本実験例では、主体金具50の傾斜面51fを押さえる面積の異なる2つのタイプの治具を用意した。
【0046】
図8は、2つのタイプの治具を示す説明図である。図8(A)に示されたタイプ1の治具300は、主体金具50の傾斜面51fの全面をテーパ面304によって押さえる形状を有している。一方、図8(B)に示されたタイプ2の治具300zは、主体金具50の傾斜面51fのうち、端子側の50%の面をテーパ面304zによって押さえる形状を有している。
【0047】
換言すると、タイプ1では、治具300のテーパ面304を、主体金具50の傾斜面51fに接触させた際に、中心線O方向における治具300のテーパ面304の先端の位置304aが、工具係合部51の後端51aより先端側に配置された状態となる。一方、タイプ2では、治具300zのテーパ面304zを、主体金具50の傾斜面51fに接触させた際に、治具300zのテーパ面304zの先端の位置304zaが、工具係合部51の後端51aより後端側に配置された状態となる。
【0048】
図9は、実験結果を表形式で示す説明図である。図10は、実験結果をグラフ形式で示す説明図である。図9では、工具係合部51の膨らみが0.05mm以下の場合を、最も評価の高い「A」と評価し、工具係合部51の膨らみが0.10mm以下の場合を、2番目に評価の高い「B」と評価し、工具係合部51の膨らみが0.10mmより大きい場合を、最も評価の低い「C」と評価した。
【0049】
なお、工具係合部51の膨らみは、工具係合部51の対辺間の距離の増加量として測定した。また、エンジンヘッド200にスパークプラグ100を取り付ける際に、工具係合部51の膨らみが0.10mm以下であれば、スパークプラグレンチを工具係合部51に嵌合させても、工具係合部51の膨らみの影響はない。
【0050】
図9から理解できるように、図5(B)に示した比較例の場合には、工具係合部51の膨らみが0.60mmとなる。また、図9、図10から理解できるように、治具300zのテーパ面304zによって主体金具50の傾斜面51fの50%を押さえるタイプ2の場合には、工具係合部51の膨らみを0.10mm以下には抑制できないことが理解できる。
【0051】
これに対して、治具300のテーパ面304によって主体金具50の傾斜面51fの全面を押さえるタイプ1の場合であって、B−Aの値を、−3°以上10°以下とすれば、工具係合部51の膨らみを0.10mm以下に抑えることが可能となる。さらに、B−Aの値を、−1°以上7°以下とすれば、工具係合部51の膨らみを0.05mmに抑えることが可能となる。
【0052】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
E1.変形例1:
上記実施形態では、図3(C)に示すように、中心線O方向における治具300のテーパ面304の先端の位置304aを、工具係合部51の後端51aより先端側に配置していたが、中心線O方向における治具300のテーパ面304の先端の位置304aを、工具係合部51の後端51aと同一の位置に配置した状態で、治具300のテーパ面304を、傾斜面51fの少なくとも一部に接触させることとしてもよい。
【0054】
E2.変形例2:
上記実施形態では、工具係合部51が六角形の形状であるスパークプラグ100(HEXタイプ)を製造する場合について説明したが、本発明は、図11に示すように、工具係合部51bが12角形の形状であるスパークプラグ100b(BiHEXタイプ)を製造する場合にも適用することができる。
【0055】
E3.変形例3:
上記実施形態では、加締め部53の内側にタルク9が充填されていたが、タルク9は省略することとしてもよい。
【0056】
E4.変形例4:
上記実施形態では、取付ネジ部52のネジ径がM12であるスパークプラグを製造する場合について説明したが、本発明は、他の大きさのネジ径を有するスパークプラグを製造する場合にも適用することができる。例えば、本発明は、M12以下のネジ径のスパークプラグを製造する場合にも適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
3…セラミック抵抗
4…シール体
5…ガスケット
6…リング部材
8…板パッキン
9…タルク
10…絶縁碍子
11…襞部
12…軸孔
13…脚長部
15…段部
17…先端側胴部
18…後端側胴部
19…鍔部
20…中心電極
21…電極母材
25…芯材
30…接地電極
33…先端部
40…端子金具
50…主体金具
51…工具係合部
51a…後端
51b…工具係合部
51f…傾斜面
52…取付ネジ部
53…加締め部
54…鍔部
55…座面
56…段部
58…座屈部
58b…薄肉部
59…ネジ首
90…電極チップ
95…電極チップ
100…スパークプラグ
100b…スパークプラグ
200…エンジンヘッド
201…取付ネジ孔
205…開口周縁部
300…治具
300b…治具
300c…治具
300x…治具
300z…治具
302…湾曲部
304…テーパ面
304a…位置
304x…テーパ面
304z…テーパ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に発火部を備え、後端側に端子を備えるスパークプラグの製造方法であって、
(a)工具係合部と前記工具係合部より後端側に位置する加締め部とを有する筒状の主体金具の内部に絶縁体が挿入された状態の部材を準備する工程と、
(b)治具によって、前記加締め部を変形させることにより、前記主体金具と前記絶縁体とを固定する工程と
を備え、
前記工程(b)は、
前記主体金具の中心線と、前記主体金具の工具係合部の外周のうち前記中心線に最も遠い点とを通る断面において、
前記中心線方向における前記治具のテーパ面の先端の位置を、前記工具係合部の後端と同一の位置、または前記工具係合部の後端より先端側に配置するとともに、前記治具の前記テーパ面を、前記工具係合部より後端側であって前記加締め部より先端側に位置する傾斜面の少なくとも一部に接触させる工程を含み、
前記中心線と前記治具の前記テーパ面の延長線との間に形成される鋭角の角度をAとし、
前記中心線と前記主体金具の前記傾斜面の延長線との間に形成される鋭角の角度をBとした場合に、
−3°≦B−A≦10°
の関係を満たすことを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグの製造方法であって、
−1°≦B−A≦7°
の関係を満たすことを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(b)において、前記治具は、前記工具係合部から離間していることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(b)は、
(b1)前記治具の湾曲部を、前記主体金具の前記加締め部に接触させる工程と、
(b2)前記治具の前記テーパ面を、前記主体金具の前記傾斜面に接触させる工程と、
(b3)前記工具係合部より先端側に位置する薄肉部を座屈させる工程と
をこの順で備えることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(a)で準備される前記部材において、前記工具係合部の内側と前記絶縁体との間には、充填材が配置されていることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記工程(a)で準備される前記部材において、前記主体金具に形成された取付ネジ部のネジ径は、M12以下であることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−101805(P2013−101805A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244264(P2011−244264)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】