説明

スピーカー

【課題】従来と同様の外形のスピーカーに適用できる、高音域の音圧向上のための内部構造を提供すること。
【解決手段】磁気回路体70、80、90と、磁気回路体に嵌めこまれたボイスコイル50と、磁気回路体に結合されたフレーム40と、コーン形振動板10と、を有し、コーン形振動板10の内周部分がボイスコイル50と結合し、コーン形振動板10の外周部分がフレーム40にエッジ20を介して結合され、コーン形振動板10の外周部分が長円又は楕円形を呈しており、コーン形振動板にはその内周近傍に前記長円又は楕円の長軸方向に伸びる平坦部11があり、平坦部11は前記長円又は楕円を含む平面と平行である、スピーカー1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気音響変換器としてのスピーカー、特に、オーディオ機器、テレビジョン受像機、自動車内等に好適に用いられるコーン形スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ機器、テレビジョン受像機、あるいは、自動車などの輸送機内に設置されるスピーカーとして、コーン形スピーカーが多く用いられている。
図4に従来のコーン形スピーカーの断面図を示す。ヨーク80、リング状のマグネット70、リング状のプレート90を積層結合した界磁部にフレーム40を結合し、このフレーム40の周縁部にコーン形振動板10の外周の周縁部(エッジ20)を結合し、このコーン形振動板10の内周部分にボイスコイル50を結合し、このボイスコイル50の中間部をダンパー30で保持してボイスコイル50の下部をヨーク80の中央部にはまりこむように構成し、コーン形振動板10の中央上面にダストキャップ60を貼り付けて構成している。このとき、コーン形振動板10はボイスコイル50の中心軸に対して特定の頂角をもって斜めに結合されている。このスピーカー2には、エッジ20をフレームに挟み込むようにガスケット100が設けられていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−11349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の通信技術、音響技術の発達により、高品質の音響を再生するための電気データを得ることができている。一方、利用者にとって高音質のコンテンツを享受するためには、電気信号を音に変換するスピーカーの性能向上が決定的に重要である。近年のテレビやオーディオ機器においては長円や楕円形の小型のスピーカーが好ましく用いられており、この種のスピーカーにおけるさらなる性能向上が求められる。このことに鑑みて、本発明は、従来と同様の外形をもつスピーカー、例えば小型のスピーカーにおいて、高音域の音圧を向上し得るようなスピーカーの構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)磁気回路体と、磁気回路体のギャップに嵌め込まれたボイスコイルと、磁気回路体に結合されたフレームと、コーン形振動板と、を有し、コーン形振動板の内周部分がボイスコイルと結合し、コーン形振動板の外周部分がフレームにエッジを介して結合され、コーン形振動板の外周部分が長円又は楕円形を呈しており、コーン形振動板にはその内周近傍に前記長円又は楕円の長軸方向に伸びる平坦部があり、平坦部は前記長円又は楕円を含む平面と平行である、スピーカー。
(2)上記長円又は楕円の短軸方向にはコーン形振動板の平坦部が伸びていない(1)のスピーカー。
(3)ボイスコイルを保持するダンパーをさらに有し、ダンパーの一部が平坦部になっていて、ダンパーの平坦部と上記コーン形振動板の平坦部とが接着固定されている(1)又は(2)のスピーカー。
(4)ボイスコイルが直径aの円筒状であり、上記長円又は楕円の長軸方向におけるコーン形振動板の平坦部の長さをbとするとき、b/aが1.2〜3.5である、(1)〜(3)のいずれかのスピーカー。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来のものと同様の外形をもつ長円形や楕円形のスピーカーにおいて、コーン形振動板の短径部による支えによって長径部に設けた平坦部の剛性が増し、高音域の音圧を上げることができる。好ましい形態においては、コーン形振動板の平坦部に相当する位置にあるダンパーにも平坦部を設けてコーン形振動板の平坦部と接着していることにより、コーン形振動板の剛性をさらに増すことができ、高音域のさらなる音圧向上効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態におけるスピーカーの模式断面図である。
【図2】図2(A)は本発明のスピーカーのコーン形振動板、フレームおよびボイスコイルの配置をあらわす平面図である。図2(B)はコーン形振動板の図2(A)のX−X’断面図であり、図2(C)はコーン形振動板の図2(A)のY−Y’断面図である。
【図3】本発明の好適な形態における、コーン形振動板とダンパーとの配置を示すスピーカーの部分断面図である。
【図4】従来のスピーカーの模式断面図である。
【図5】実施例1のスピーカーによる測定結果のグラフである。
【図6】比較例1のスピーカーによる測定結果のグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。但し、図面は参照のためのものであって、本発明の範囲は図示された態様に限定されるものでは無い。
図1は、本発明に係るスピーカーの模式断面図である。スピーカー1は磁気回路体を有する。図1の態様では、ヨーク80、リング状のマグネット70、リング状のプレート90によって磁気回路体が構成されている。磁気回路体のギャップ(磁気ギャップ)にボイスコイル50が嵌め込まれている。磁気回路体とボイスコイル50との配置の態様は特に限定無く、従来公知のスピーカーの構造などを適宜参照することができる。スピーカーの磁気回路体は従来公知の形態のものを適宜援用することができる。
【0009】
スピーカー1はフレーム40を有する。フレーム40は一般的には筒状であるがそれに限定されず、スピーカーの各パーツを固定する骨組みの役割を担う。図1の態様では、フレーム40はプレート90の上に固定される。さらに、フレーム40の磁気回路体からもっとも離れた部分にはエッジ20を介してコーン形振動板10が固定されており、フレーム40によってコーン形振動板10が張られている。図2はフレームとコーン形振動板の平面図である。図2に示されるように、本発明では、上面からみたときフレーム40の外周部、すなわち、コーン形振動板10の外周部分が長円又は楕円形を呈している。
【0010】
ヨーク80の中央付近にはボイスコイル50が嵌め込んである。このボイスコイル50の中間部はダンパー30で保持される。ボイスコイル50は通常は円筒状であり、図2においてはその円筒の直径がaとして表現されている。ボイスコイル50が円筒状である場合の中心軸は、フレーム40の外周がかたちづくる長円又は楕円の中心軸と通常は共通する。言い換えると、ボイスコイル50が円筒状である場合の中心軸は、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の中心軸と通常は共通する。コーン形振動板10の中央上面にダストキャップ60を有していてもよい。
【0011】
コーン形振動板10は音の発生のために振動するものである。コーン形振動板10は上からみると(図2)、長円又は楕円状を呈するように張られていて、その中心に円形状の空間があいている。この空間にはボイスコイル50が位置する。コーン形振動板10の内周部分は上記磁気回路体の(磁気)ギャップに嵌めこまれたボイスコイル50に結合され、外周部分はエッジ20を介してフレーム40に結合されている。
【0012】
本発明によれば、コーン形振動板10には平坦部11と傾斜部12がある。コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円を含む平面と、平坦部11の平面とが平行である。言い換えると、平坦部11がかたちづくる平面は、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の中心軸と垂直の関係にある。ボイスコイル50が円筒状であって、その中心軸と、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の中心軸とが共通している場合においては、平坦部11の平面は、ボイスコイル50の中心軸と垂直である。
【0013】
コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸方向に、平坦部11が伸びている。図2においてハッチングで表現された領域が平坦部11である。図2(A)におけるX−X’は、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸である。図2(B)は図2(A)のX−X’断面図である。このように、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸方向においては、コーン形振動板10は、内周近傍において平坦部11があり、外側に傾斜部12がある。内周近傍とは、ボイスコイル50に結合している部分とその近傍を意味する。このような平坦部11は、その剛性が増すことによって、高音域の音圧を上げることに寄与する。
【0014】
平坦部11は上記長円又は楕円の長軸方向だけではなく、その周辺に及んでいてもよい。ただし、好ましくは、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の短軸方向には平坦部11が存在しない。図2(A)におけるY−Y’は、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の短軸である。図2(C)は図2(A)のY−Y’断面図である。このように、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の短軸方向においては、コーン形振動板10は好ましくは傾斜部12のみで形成される。言い換えると、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の短軸方向では、ボイスコイル50に傾斜部12が直結することが好ましい。このような好ましい形態により、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の短軸方向に直結した傾斜部12が上述の平坦部11を支えることになり、平坦部11の剛性がより増して、高音域のさらなる音圧向上が図られる。
【0015】
平坦部11の形状は特に限定されず、好ましくは、図2(A)に示すように、平坦部11が長円を呈していて、平坦部11がかたちづくる長円の長軸と短軸は、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸および短軸とそれぞれ一致する。好ましくは、平坦部11がかたちづくる長円の短軸は、ボイスコイル50の直径と一致する。
【0016】
コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸方向に伸びる平坦部11の長さは特に限定されない。図2(A)における長さbは、コーン形振動板10の平坦部11における、コーン形振動板10がかたちづくる長円又は楕円の長軸方向における長さである。図2(A)に明示されているように、本明細書において、当該長さbは、ボイスコイル50を配置するためのコーン形振動板10における空間部分を含むものとして定義する。図2(A)における長さaは、ボイスコイル50が円筒状である場合のその円筒の直径である。ボイスコイル50が円筒状ではない場合は、長さaはボイスコイル50の上記長軸方向に占める長さである。平坦部11の剛性を上げて高音域のさらなる音圧向上を図ること、製造のし易さ、機械的強度などを考慮すると、b/aは好ましくは1.2〜3.5であり、より好ましくは1.5〜2.0である。
【0017】
コーン形振動板10に平坦部11を付与するための製造方法は特に限定されず、例えば、平坦部11に相当する平らな部分を有する型を用いてコーン形振動板を製造するなどの方法を採ることができる。
【0018】
好適態様によれば、ボイスコイル50を支えるダンパー30は平坦部31と屈曲部32とを有し、ダンパーの平坦部31とコーン形振動板10の平坦部11とが接着固定されている。図3は、コーン形振動板およびダンパーの、コーン形振動板10の外周がかたちづくる長円又は楕円の長軸方向の部分断面図である。図示されるように、ダンパー10の平坦部31とコーン形振動板の平坦部11とが接着固定されることによって、コーン形振動板の平坦部11の剛性がさらに増し、高音域のさらなる音圧向上が図られる。
【0019】
ダンパーの平坦部31とコーン形振動板の平坦部11との接着については、接着の方法や接着のための材料などは特に限定はなく、従来公知の方法を適宜援用することができる。
【0020】
スピーカー1における、その他の構成については、その製造方法、材質、形状など従来公知のものを適宜援用することができる。例えば、図1の態様では、フレーム40の外周付近の内側にガスケット100が備えられる様子が図示されている。本発明のスピーカーにおいては、このようなガスケット100を有していてもよいし、ガスケットを有する場合に、その材質や形態などについては従来公知の技術を適宜採り入れることができる。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
図1および図2に示されるようなスピーカーを試作して、高音域の音圧を測定した。
具体的には、フレーム40の外周がかたちづくる長円の長軸が115mm、短軸が22mmであり、円筒状のボイスコイル50の直径が9.3mmであり、コーン形振動板10の平坦部11は長軸16.5mm、短軸9.3mmの長円であった。
【0022】
(比較例1)
実施例1と同様であるが、但し、コーン形振動板10に平坦部を設けずに、スピーカーを製造した。言い換えると、直径9.3mmのボイスコイル50からフレーム40に向けて、コーン形振動板10が全て傾斜部になるように、該コーン形振動板10を設けた。
【0023】
(高音域の音圧評価)
実施例1および比較例1において得られた各スピーカーについて、音の振動数に対する音圧およびインピーダンスを測定した。図5は実施例1のスピーカーによる測定結果のグラフであり、図6は比較例1のスピーカーによる測定結果のグラフである。図5および図6において、(a)の曲線は振動数に対する音圧の測定結果を示し、(b)の曲線は振動数に対するインピーダンスの測定結果を示す。
高音域(例えば、5k〜8kHz程度の周波数領域)において、従来のスピーカーのモデルである比較例1については、周波数が高くなるにつれて音圧が下がり、80dBSPLを割り込む程度にまで至った。一方、このような高音域において、実施例1のスピーカーでは80dBSPL程度の高い音圧を維持するとともに、周波数の向上に伴う音圧の低下が緩やかであった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、従来と同じような外形のスピーカーにおいて高音域の音圧を上げることができるので、小型のスピーカーにおいてより迫力ある音を再現する音響機器への適用が期待される。
【符号の説明】
【0025】
1、2 スピーカー
10 コーン形振動板
11 平坦部
12 傾斜部
20 エッジ
30 ダンパー
31 平坦部
32 屈曲部
40 フレーム
50 ボイスコイル
60 ダストキャップ
70 マグネット
80 ヨーク
90 プレート
100 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路体と、磁気回路体のギャップに嵌め込まれたボイスコイルと、磁気回路体に結合されたフレームと、コーン形振動板と、を有し、コーン形振動板の内周部分がボイスコイルと結合し、コーン形振動板の外周部分がフレームにエッジを介して結合され、コーン形振動板の外周部分が長円又は楕円形を呈しており、コーン形振動板にはその内周近傍に前記長円又は楕円の長軸方向に伸びる平坦部があり、平坦部は前記長円又は楕円を含む平面と平行である、スピーカー。
【請求項2】
上記長円又は楕円の短軸方向にはコーン形振動板の平坦部が伸びていない請求項1記載のスピーカー。
【請求項3】
ボイスコイルを保持するダンパーをさらに有し、ダンパーの一部が平坦部になっていて、ダンパーの平坦部と上記コーン形振動板の平坦部とが接着固定されている請求項1又は2記載のスピーカー。
【請求項4】
ボイスコイルが直径aの円筒状であり、上記長円又は楕円の長軸方向におけるコーン形振動板の平坦部の長さをbとするとき、b/aが1.2〜3.5である、請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate