説明

スピーカ

【課題】フレームの下部に磁気回路を結合する構成のスピーカにおいて、ボイスコイルの発熱によるフレームの変形や磁気回路のずれを防止する。
【解決手段】フレーム26の内部に磁気回路24を包み込んで格納するとともに、フレーム26の磁気回路24の格納部の内壁に窪み26aを形成し、この窪み26aに接着剤26bを塗布または充填して構成することで、磁気回路24の下部をフレームの磁気回路格納部の下部で受けるとともに、フレーム26と磁気回路24を結合している接着剤26bの量を増加させて磁気回路24からフレーム26への熱伝導を減少させ、接着剤26bの固化した時の形状でくさび状の形状を形成させて磁気回路24の上方へのずれを防止できる構成としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用や各種音響機器用等に用いられるスピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では、燃費向上や省資源の観点から、自動車に搭載される車載用スピーカに関しても、軽・薄・短・小の市場要求が避けられないのが現状である。
【0003】
一方、自動車に搭載される車載用スピーカに関しての性能的要求は、入力ソースのデジタル化等の音響信号の高性能化に伴い、これらの音響信号を余すことなく再生できるように、さらなる高性能化に加え、高耐入力化や高品質、高信頼性が要求されてきている。
【0004】
以上のような背景から、軽・薄・短・小という市場要求と、スピーカの高性能化や高耐入力化、高品質、高信頼性を両立させる必要がある。
【0005】
よって、これらの車載用を中心とするスピーカは、軽量化を目的としてフレームの材質に樹脂を使用し、さらに磁気回路は小型で軽量のネオジウム磁石を使用して小型化しやすい内磁型の磁気回路として構成していた。
【0006】
以下、従来のスピーカについて図面を用いて説明する。
【0007】
図3は従来のスピーカの断面図である。
【0008】
図3に示すように、着磁されたマグネット1を上部プレート2およびヨーク3により挟み込んで構成された内磁型の磁気回路4を樹脂からなるフレーム6の下部と結合し、このフレーム6の周縁部に、振動板7を接着し、この振動板7にこれを駆動させるためのボイスコイル8を結合し、ボイスコイル8をダンパー9にて中心保持し磁気回路4の磁気ギャップ5にはまり込むように結合し、振動板7の前面にダストキャップ10を接着して完成していた。
【0009】
ここで、このスピーカは、磁気回路4をフレーム6の下部に結合するときに、フレーム6の下部に設けられた突起に磁気回路4のヨーク3の上部に設けられた鍔部をねじ込んで結合し、さらに外部に接着剤がかかるように塗布して補強していた。
【0010】
この構成とすることにより、樹脂からなるフレーム6と内磁型の磁気回路4を使用した効果により軽量化と小型化を実現することができる構成となっている。
【0011】
尚、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1および特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−186517号公報
【特許文献2】特開2008−85727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来のスピーカでは、市場要求の軽量化と小型化や高品質、高信頼性を実現させることができる構成となっているが、さらなるスピーカの高性能化のための市場要求である高耐入力化に対して不利になる傾向にある。
【0014】
この原因としては、スピーカの高耐入力化により、ボイスコイルの発熱が多くなるが、磁気回路を内磁型にして小型化したために、この磁気回路自体の熱容量が小さくなり、加えてこの磁気回路を熱源となるボイスコイルの近傍である磁気ギャップの外周部でフレームの下部と結合しているため、フレームの下部に直接ボイスコイルの熱を伝導してしまう構成となっているためである。
【0015】
このようなスピーカでは、大きな入力を印加し続けた場合に、フレームの下部に熱が蓄積され、フレームが熱溶解して変形し、磁気回路のずれが発生するという課題を有するものであった。
【0016】
この磁気回路のずれが発生するという現象に至るメカニズムを以下に説明する。
【0017】
フレームは樹脂により構成されているが、ある程度の耐熱性を有した樹脂を選択している。
【0018】
磁気回路のフレームとの接触面になるヨークは金属材料で構成されているため耐熱性には特に問題はない。
【0019】
フレームと磁気回路を結合するための接着剤についても金属材料で構成されているヨークと直接接触する必要があることから、特に耐熱性を考慮して選択している。
【0020】
前述のように、構成部品や接着剤を耐熱性を考慮して選択しているが、ボイスコイルに大きな入力を印加し続けた場合には、磁気回路をフレームの下部に結合している構成上、ボイスコイルの発熱により蓄熱された磁気回路の熱がフレームに直接伝達され、フレームは熱溶解に近い状態まで温度上昇する。
【0021】
特にこの構成は、磁気回路を熱源となるボイスコイルの近傍である磁気ギャップの外周部でフレームの下部と結合しているため、すなわち、磁気回路の中でも特に温度の高くなるヨークの上方部でフレームの下部と結合しているため、直接ボイスコイルの熱を短時間で伝導してしまう構成となっている。
【0022】
一方、磁気回路はフレームの下部に設けられた突起に磁気回路のヨークの上部に設けられた鍔部をねじ込んで結合し、さらに接着剤によりフレームに強固に補強されてはいるものの、ボイスコイル振動時の反作用で、フレームからずれる方向に常時大きな力を受ける。
【0023】
この結果、熱溶解に近い状態になっているフレームの接合面に大きな力が繰り返し加わり、フレームの接合面が徐徐に変形し、遂には磁気回路がずれてしまうことになる。
【0024】
さらに、この状態が続くと、磁気回路がずれてしまうことにより、ボイスコイルが磁気ギャップに衝突して上下振幅できなくなり、ひどい場合にはボイスコイルが固着されてしまい蓄熱のみ継続されることになり、フレームの接合面が完全に熱溶解して磁気回路が脱落してしまうという危険性を有するものであった。
【0025】
本発明は上記課題を解決するもので、小型化や軽量化および高品質や高信頼性を実現したスピーカでありながら、高耐入力化も実現できるスピーカを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために本発明のスピーカは、フレームと、このフレームに設けられた磁気回路と、この磁気回路の磁気ギャップに挿入されるボイスコイルと、フレームとボイスコイルに固定される振動板から構成され、フレームを樹脂により構成し、フレームの内部に磁気回路を包み込んで格納するとともに、フレームの磁気回路の格納部の内壁に窪みを形成し、この窪みに接着剤を塗布または充填してスピーカを構成したものである。
【0027】
このような構成とすることで、磁気回路の下部をフレームの磁気回路格納部の下部で受けるとともに、フレームと磁気回路を結合している接着剤の量を増加させて磁気回路からフレームへの熱伝導を減少させ、接着剤の固化した時の形状でくさび状の形状を形成させて磁気回路の上方へのずれを防止したものである。
【発明の効果】
【0028】
以上の構成とすることで本発明のスピーカは、フレームを樹脂により構成し、フレームの内部に磁気回路を包み込んで格納するとともに、フレームの磁気回路の格納部の内壁に窪みを形成し、この窪みに接着剤を塗布または充填してスピーカを構成することで、磁気回路の下部をフレームの磁気回路格納部の下部で受けるとともに、フレームと磁気回路を結合している接着剤の量を増加させて磁気回路からフレームへの熱伝導を減少させ、接着剤の固化した時の形状でくさび状の形状を形成させて磁気回路の上方へのずれを防止できる構成として、市場要求の軽量化と小型化や高品質、高信頼性を実現させることができる構成としたスピーカでありながら、スピーカの高性能化のための市場要求である高耐入力化を実現できるという大きな効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のスピーカの断面図
【図2】本発明のスピーカの要部拡大半断面図
【図3】従来のスピーカの断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0031】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を用いて、本発明について説明する。
【0032】
図1は本発明のスピーカの断面図であり、図2は本発明のスピーカの要部拡大半断面図である。
【0033】
図1および図2に示すように、着磁されたマグネット21を上部プレート22およびヨーク23により挟み込んで構成された磁気回路24を樹脂からなるフレーム26の内部に格納して結合し、このフレーム26の周縁部に、振動板27を接着し、この振動板27にこれを駆動させるためのボイスコイル28を結合し、ボイスコイル28をダンパー29にて中心保持し磁気回路24の磁気ギャップ25にはまり込むように結合し、振動板27の前面にダストキャップ30を接着して完成している。
【0034】
ここで、このフレーム26の磁気回路24の格納部の内壁には、窪み26aを形成し、この窪み26aに接着剤26bを塗布または充填して構成している。
【0035】
接着剤26bは、磁気回路24のヨーク23の外周部全体に塗布され、よってフレーム26の磁気回路24の格納部の内壁の窪み26aにも塗布または充填されることになり、耐熱性に優れた接着剤層が体積的に大きくなることから、磁気回路24の熱がフレーム26の格納部の内壁に伝達しにくくなる。
【0036】
このような構成とすることで、磁気回路24のヨーク23の下部をフレーム26の磁気回路格納部の下部で受けるとともに、フレーム26と磁気回路24を結合している接着剤の量を増加させて磁気回路24からフレーム26への熱伝導を減少させることで、フレーム26の磁気回路24の格納部の内壁の熱溶解を防止することができる。
【0037】
すなわち、熱源となるボイスコイル28から寸法的に離間させることでボイスコイル28の熱が伝導しにくいために温度が低くなる磁気回路24のヨーク23の下部を、フレーム26の磁気回路格納部の下部で受けることにより、フレーム26の磁気回路24の格納部の内壁の熱溶解を防止することができる。
【0038】
そして、この接着剤26bが硬化すれば、磁気回路24のヨーク23の外周部と格納部の内壁の窪み26aに塗布または充填された接着剤26bが一体化されることで、アンカー効果を発揮して、磁気回路24のフレーム26からの上方へのずれも防止することができる。
【0039】
この構成とすることにより、樹脂からなるフレーム26と内磁型の磁気回路24を使用した効果により軽量化と小型化を実現することができ、加えて磁気回路24をフレーム26の内部に格納部の内壁に窪み26aを形成し、接着剤26bを塗布して結合しているため、フレームと磁気回路の結合については、高品質、高信頼性を実現させることができ、さらにスピーカの高性能化のための市場要求である高耐入力化を実現することができる。
【0040】
そして、窪み26aは、少なくとも1箇所形成されれば、その効果を発揮させることが可能であるが、全周にわたり均等に3箇所形成することで、全周にわたり均一にアンカー効果を発揮させ、磁気回路24とフレーム26の結合を一層強化することができ、磁気回路24の上方へのずれをさらに防止することができる。
【0041】
また、フレーム26の格納部の底面に小さな空気孔を形成しても良く、この構成とすることで、フレーム26の格納部内の蓄熱を素早く外部に放熱させることができるとともに、蓄熱により膨張された空気による磁気回路24の上方への押上げによるずれを防止することができる。
【0042】
さらに、磁気回路24の磁気ギャップ25の近傍であるヨーク23の上部は、フレームに接触させない構成とすることで、熱源となるボイスコイル28の近傍である温度が非常に高くなるヨーク23の上部をフレーム26に接触させないことで、フレーム26の熱的変形を防止することができる。
【0043】
すなわち、フレーム26の磁気回路格納部の磁気回路24のヨーク23との接触面を温度の低いヨーク23の下部近傍のみとし、温度の高いヨーク23の上部近傍はフレーム26の磁気回路格納部から突出させることで、フレーム26に接触させない構成とし、ヨーク23の上部近傍から効率良く放熱させ、フレーム26の熱的変形を防止することができる。
【0044】
そして、フレーム26を樹脂により射出成形することで、窪み26aの形状が複雑な形状であっても金型をスライドコア方式とすることで容易に形成することができ、生産性を向上させるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0045】
さらに、フレーム26の材料としては、ポリプロピレンを使用することにより、安価で生産性を向上させることができる。
【0046】
そして、フレーム26の樹脂材料に、マイカを含んで形成させても良く、この場合、耐熱性の向上を図ることができる。
【0047】
また、フレーム26の樹脂材料に、ガラス繊維を含んで形成させても良く、この場合、寸法の安定性と耐熱性の向上を図ることができる。
【0048】
さらに、フレーム26の樹脂材料に、マイカとガラス繊維を含んで形成させても良く、この場合、寸法の安定性と耐熱性の向上をより一層図ることができる。
【0049】
そして、接着剤は、アクリル系材料により形成することで、さらに耐熱性の向上を図ることができる。
【0050】
また接着剤は、シリコン系材料により形成することで、耐熱性に絶大なる強度を有
し、温度特性も安定していることから熱軟化も防止することができ、より一層のスピーカの高耐入力化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明にかかるスピーカは、高耐入力化が必要とされるスピーカに適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 マグネット
2 プレート
3 ヨーク
4 磁気回路
5 磁気ギャップ
6 フレーム
7 振動板
8 ボイスコイル
9 ダンパー
10 ダストキャップ
21 マグネット
22 プレート
23 ヨーク
24 磁気回路
25 磁気ギャップ
26 フレーム
26a 窪み
26b 接着剤
27 振動板
28 ボイスコイル
29 ダンパー
30 ダストキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、このフレームに設けられた磁気回路と、この磁気回路の磁気ギャップに挿入されるボイスコイルと、前記フレームと前記ボイスコイルに固定される振動板から構成されたスピーカであって、前記スピーカは、前記フレームを樹脂により構成し、前記フレームの内部に前記磁気回路を包み込んで格納するとともに、前記フレームの前記磁気回路の格納部の内壁に窪みを形成し、この窪みに接着剤を塗布または充填してなるスピーカ。
【請求項2】
窪みは、少なくとも3箇所形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
フレームの格納部に空気孔を形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項4】
磁気回路の磁気ギャップ近傍は、フレームに接触させない構成としてなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項5】
フレームは、射出成形により形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項6】
フレームは、ポリプロピレンにより形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項7】
フレームは、マイカを含んで形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項8】
フレームは、ガラス繊維を含んで形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項9】
フレームは、マイカとガラス繊維を含んで形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項10】
接着剤は、アクリル系材料により形成してなる請求項1記載のスピーカ。
【請求項11】
接着剤は、シリコン系材料により形成してなる請求項1記載のスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−23590(P2012−23590A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160372(P2010−160372)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】