説明

セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び低減装置

【課題】
セメント製造設備装置の排ガス中のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物、特にガス状のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物を効率的に低減させることができる、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及びその低減装置を提供する。
【解決手段】
セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法置は、図1に示すように、セメント原料焼成用のロータリーキルンで発生する排ガスを、集塵機またはバグフィルタを通過させる前に、該排ガスを60℃以下に冷却して、該集塵機またはバグフィルタで有機塩素化合物を有効に捕捉する、有機塩素化合物低減方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び低減装置に関し、詳細にはセメント製造設備から排出される排ガス中のダイオキシン類やポリ塩化ビフェニル(以下、PCBという)等の有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を低減する方法及び該有機塩素化合物を低減する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント製造設備においては、産業廃棄物の処理量の増加に伴って産業廃棄物に含まれる塩素等の揮発性成分がキルン内で増加しており、セメントの品質やセメントキルン系の操業に悪影響を及ぼすおそれがあり、問題となっている。
【0003】
一般に、例えば、残留性有機汚染物質(POPs)であるダイオキシン、ジベンゾフラン、PCB、ヘキサクロロベンゼン等の有機塩素化合物は、これらの物質の燃焼過程で非意図的に生成する場合があることが知られている。
その生成過程は非常に複雑であり、その詳細は十分に解明されていないが、POPsの中でもダイオキシン、PCBの生成過程については比較的研究が進んでおり、次のように考えられている。
すなわち、塩素を含む物質が加熱されたときに、塩素分が主に塩化水素として排ガス中に放出され、これが排ガス中に含まれる炭化水素及び酸素と反応して、フェノール、クロロフェノール、クロロベンゼンなどの前駆体が生成し、この前駆体が更に反応することにおり、ダイオキシン類が生成すると考えられている。
【0004】
セメント製造工程においても、セメント原料及び焼成燃料を加熱して、セメントクリンカを焼成する際に、原料や燃料中に含まれる有機化合物や塩素化合物に由来するダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(以下、PCBという)等のPOPsが非意図的に生成する場合がある。
セメント製造工程においてダイオキシンやPCBの生成を抑制するためには、より塩素含有量の少ない原料や燃料を使用して、セメント製造工程への塩素の持込を抑制することが有効であると考えられる。
【0005】
また、セメント製造設備における排ガスからのダイオキシン、PCB排出量を低減させる方法としては、例えば、特開2004−244308号公報(特許文献1)、特開2002−147722号公報(特許文献2)や特開2007−45648号公報(特許文献3)に提案されている方法がある。
【0006】
特開2004−244308号公報(特許文献1)では、(A)セメント製造装置の排ガスを、集塵手段を用いて処理し、有機塩素化合物を含むダストを捕集する一方、前記集塵手段による処理後の排ガスを排出する工程と、(B)前記捕集されたダストの少なくとも一部を、前記セメント製造装置内の800℃以上の場所に投入する工程とを含む、セメント製造装置の排ガスの処理方法が提案されている。
かかる方法は、ダイオキシン類は800℃前後で熱分解されるため、有機塩素化合物を含むダストの一部をセメント製造装置内の800℃以上の場所に投入してダイオキシン類を効率的に分解して無害化するというものである。
【0007】
特開2002−147722号公報(特許文献2)では、外部からセメント工場に持ち込まれたPCB含有物を、ロータリーキルン内に投入し、これをセメントクリンカを焼成するときの熱(1000℃以上)で熱分解し、この熱分解時に発生した排ガスをロータリーキルン外に導出した後、20℃/秒以上の冷却速度で急冷する方法が提案されている。
かかる方法は、排ガスを急冷することにより、ダイオキシン類が合成する温度領域を短時間で通過させて、ダイオキシンの生成を防ぎながらPCBを分解するというものである。
【0008】
また、特開2007−45648号公報(特許文献3)では、セメント原料からセメントクリンカを焼成する際に発生した排ガス中に吸着粉を供給することで、該焼成時に発生した排ガス中の有機塩素化合物を、前記吸着粉に吸着させる有機物吸着工程と、前記有機塩素化合物を含む吸着粉を集塵機により捕集する集塵工程と、該捕集された吸着粉を、前記セメントクリンカの焼成時の燃料に使用することで、前記吸着粉に吸着された有機塩素化合物を分解する分解工程とを備えたことを特徴とするセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法が提案されている。
かかる方法は、焼成時に発生した排ガス中に燃料を兼ねた吸着粉を供給することで、排ガス中に含まれるダイオキシン類、PCBなどの有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、この吸着粉をバグフィルタで捕集して燃料をして使用するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−244308号公報
【特許文献2】特開2002−147722号公報
【特許文献3】特開2007−45648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、セメント製造工程への塩素の持込量の制限は、塩素含有量の少ない代替原料がないため、事実上困難である。
また、前記特開2004−244308号公報(特許文献1)に示す方法では、大量の集塵ダストをセメント製造設備の800℃以上の高温部へ投入しなければならず、既存設備を使用する場合には設備の大規模な改造が必要なこと、多量のダストを投入するために、温度管理その他の操業の安定化に支障きたすという問題がある。
【0011】
特開2002−147722号公報(特許文献2)に記載された方法では、セメント製造設備の系外から搬入されたPCB含有物を分解するが、セメント製造設備内でのPCBの発生を抑制したり、発生したPCBを除去することはできない。
また、特開2007−45648号公報(特許文献3)では、排ガス中に吸着粉を供給するために、排ガス中の煤塵濃度が上昇し、除塵にかかるコストが上昇する。また、この方法では吸着粉をバグフィルタで捕集するため、バグフィルタの設置のないプラントにおいては、設備の新設が必要である。また仮に、バグフィルタの一部が破損した場合、多量の煤塵を含んだ排ガスが系外へ排出される懸念があるという問題がある。
【0012】
さらに通常、セメント工場では、排ガスを煙突から排出する前に、除塵のために、排ガスを電気集塵機(EP)もしくはバグフィルタ(BF)に通過させている。この際、電気集塵機(EP)もしくはバグフィルタ(BF)が正常に作動していれば、粒子状のダイオキシン、PCB類のほとんどを捕捉することが可能である。
しかしながら、ガス状のダイオキシンやPCB類等のガス状の有機塩素化合物をこれらの装置で捕捉することは困難であり、ガス状で存在する低濃度の有機塩素化合物が外部へ排出される懸念が生じ、これらの低濃度の有機塩素化合物の存在が問題となっている。
【0013】
従って、本発明の目的は、セメント製造設備装置の排ガス中のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物を効率的に低減させることができる、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及びその低減装置を提供することである。
具体的には、セメント製造設備から排出される排ガス中のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を低減する、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及びその低減装置を提供することである。
特に排ガス中のガス状のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を低減する、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及びその低減装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するため、ダイオキシンやPCB類等の有機塩素化合物は、揮発性の有機化合物であり、一定温度以上でガス状の形態をとるが、一定温度以下になれば液化、固化し、また、これらの有機塩素化合物がガス状の形態であっても、より低温であるほうが、ダストなどに吸着しやすいことを見出し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法は、セメント原料焼成用のロータリーキルンで発生する排ガスを、集塵機またはバグフィルタを通過させる前に、該排ガスを60℃以下に冷却して、該排ガス中に含まれる有機塩素化合物を該集塵機またはバグフィルタで捕捉することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0016】
好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、セメント原料焼成用のロータリーキルンで発生する排ガスを、プレヒータに通過させ、原料粉砕装置が稼動している時にはプレヒータを通過した排ガスを原料粉砕装置に通過させた後、又は原料粉砕装置が可動していない時にはプレヒータを通過させた排ガスを、集塵機またはバグフィルタを通過させる前に、60℃以下に冷却することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0017】
さらに好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、該排ガスを60℃以下に冷却する前及び/又は後に該排ガスを除湿することを特徴とする。
またさらに好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、外気導入及び/又は熱交換器による空冷や熱交換機による水冷をすることにより、該排ガスを60℃以下に冷却することを特徴とする。
【0018】
本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置は、セメント原料焼成用ロータリーキルン、集塵機またはバグフィルタ前に設けられ排ガスを60℃以下に冷却するための冷却手段、及び、該冷却手段から排出された60℃以下の排ガスから有機塩素化合物を捕捉する集塵機及びバグフィルタを備えることを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置である。
【0019】
好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該ロータリーキルンから排出された排ガスを通過させるプレヒータ、該プレヒータを通過した排ガスを直接冷却手段に導く排ガス用配管と、該プレヒータを通過した排ガスをセメント原料と接触させる原料粉砕装置、及び該原料粉砕装置からの排ガスを冷却手段に導く配管とを備えることを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置である。
【0020】
さらに好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該冷却手段の前及び/又は後に、除湿装置を設けることを特徴とする。
またさらに好適には、上記本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該冷却手段は、外気導入手段及び/又は熱交換器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び低減装置により、セメント製造設備装置の排ガス中のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物を、即ちセメント製造設備から排出される排ガス中のダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を効率的に低減させることが可能となる。
特に従来、排ガス中にガス状で含まれていたダイオキシン類やPCB等の有機塩素化合物をダスト等として捕捉することが可能となり、排ガス中の有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を極めて低減することができるようになる。
【0022】
また、原料粉砕装置がオンのときもオフのときでも、セメント製造設備内で排ガス中に含まれる有機塩素化合物の排出濃度及び排出量を効率的に低減させることが可能となる。
さらに除湿手段を設けて、排ガス中に含まれる水分を除去することで、集塵機やバグフィルタの操業上の不具合を解消することができ、従って、長期に渡って効率よくセメント製造設備の排ガス中に含まれる上記有機塩素化合物を低減することができ、また低減装置の寿命を保持することができる。
また、集塵機やバグフィルタにより排ガス中の有機塩素化合物を効率よく捕捉して、セメント原料化して再利用する処理に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法を実施するための低減装置を模式的に示す一例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を、図1を参照しながら、以下の例によって説明するが、これらの記載に限定するものではない。
本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法は、セメント原料焼成用のロータリーキルン1で発生する排ガスを、集塵機8またはバグフィルタ9を通過させる前に、該排ガスの温度を60℃以下に冷却して、該排ガス中に含まれる有機塩素化合物を該集塵機8またはバグフィルタ9で捕捉する、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0025】
特に、本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法においては、セメント原料焼成用のロータリーキルン1で発生する排ガスを、プレヒータ2に通過させ、原料粉砕装置6が稼動している時にはプレヒータ2を通過した排ガスを原料粉砕装置4に通過させた後、又は原料粉砕装置6が可動していない時にはプレヒータ2を通過させた排ガスを、集塵機8またはバグフィルタ9を通過させる前に、60℃以下に冷却する、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0026】
また、本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置は、セメント原料焼成用ロータリーキルン1、集塵機8またはバグフィルタ9の前に設けられ且つ排ガスを60℃以下に冷却するための冷却手段7、及び、該冷却手段7から排出された60℃以下の排ガスから有機塩素化合物を捕捉する集塵機8及びバグフィルタ9を備える、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置である。
【0027】
特に、本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置においては、該ロータリーキルン1から排出された排ガスを通過させるプレヒータ2、該プレヒータ2を通過した排ガスを直接冷却手段7に導く排ガス用配管Aと、該プレヒータ2を通過した排ガスをセメント原料と接触させる原料粉砕装置6及び該原料粉砕装置6からの排ガスを冷却手段7に導く配管Bとを備える、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置である。
【0028】
本発明によらない通常の場合には、集塵機やバグフィルタで集塵された集塵ダストは、セメント原料と共に、プレヒータ及び仮焼炉を通過して、ロータリーキルン内で焼成されることになるが、この場合、集塵ダストに含まれる有機塩素化合物の一部は、プレヒータの下方へ移動する前にセメント原料から離脱して上方へと飛散し、排ガスと共に排ガス配管中に流入し、ダストに再び吸着される。
ダストに吸着された有機塩素化合物は、再度、集塵機やバグフィルタにおける捕捉、及びセメント製造装置内への再度の投入という経過をたどり、かかる経過を繰り返すことになる。
このように、ダイオキシン類等の有機塩素化合物は繰り返し循環するため、セメント原料の一部として廃棄物を供給した場合には、集塵ダストに含まれる有機塩素化合物の濃度が次第に増大し、その結果、集塵機8やバグフィルタ9による処理後の排ガスに含まれる有機塩素化合物の濃度も増大していくことになる。
【0029】
本発明は、このような排ガス中の有機塩素化合物の濃度及び量を有効に低減するものである。
図1は、本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法を実施するための低減装置を模式的に示す一例の図であり、図1を参照して詳細に説明する。
なお、図1中、実線はガスの流れ、点線は原料等の材料の流れを表す。
セメント製造原料は、原料粉砕装置6で粉砕混合されて、原料混合・供給系装置10を経由してプレヒータの上部、プレヒータ2dに供給される。
ここでセメント原料としては、例えば石灰石、粘土、珪石、鉄滓、スラッジ・都市ごみの焼却で発生する主灰等の廃棄物を使用することができ、これらの原料中、特に廃棄物中に、塩素が多く含まれる。
【0030】
プレヒータ2は、複数のサイクロン2a、2b、2c、2dから構成されており、その数は限定されない。
前記セメント原料は、プレヒータ2内を、上部のサイクロン2dから下部方向へサイクロン2c、サイクロン2b、サイクロン2aへと順次移動しながら予熱されて、最下部のサイクロン2aに導入された後、ロータリーキルン1へと供給される。
【0031】
さらに、プレヒータ2とロータリーキルン1の間に仮焼炉3を設けてもよく、セメント原料の仮焼を効率的に促進させるために設けられるものである。
該仮焼炉3としては、任意の公知の仮焼炉を用いることができ、例えば、SF仮焼炉、MFC仮焼炉、RSP仮焼炉、KSV仮焼炉、DD仮焼炉、SLC仮焼炉等が例示できる。
仮焼炉3が設けられている場合には、仮焼成されたセメント原料はロータリーキルン1へ供給される。
【0032】
ロータリーキルン1内に供給されたセメント原料は、焼成されてクリンカを製造するが、その際に該ロータリーキルン1で上記セメント原料が加熱される際に発生する排ガスは、ロータリーキルン1から排出されてプレヒータ2aに流入する。
また図1に示すように、仮焼炉3が設けられている場合には、該ロータリーキルン1から排出された高温の排ガスは、仮焼炉3中でのセメント原料の仮焼成に利用され、仮焼炉3に流入する。該仮焼炉3で発生した排ガスもプレヒータ2aに流入する。
またロータリーキルン1からの排出される排ガスは、一部抽気されて脱塩バイパス処理される。
【0033】
該サイクロン2aに流入した排ガスは、サイクロン2b、サイクロン2c、サイクロン2dに順次流入して、プレヒータ2内を上方へと移動し、最上部のサイクロン2dから排出される。その際の排ガスの温度は通常、400℃前後である。
【0034】
プレヒータ2(最上部のサイクロン2d)から排出した排ガスは、沈降室4に導入されるが、かかる沈降室4は必須の装置ではなく、任意に設けることができるものである。
沈降室4に排ガスが導入されることでプレヒータから排出される排ガス中に含まれるダストを沈降させて集塵することができる。
集塵されたダスト等は、原料混合・供給系装置10に導入され、原料粉砕装置6から導入される原料と混合されて、セメント製造原料としてプレヒータの上部のサイクロン2dに循環供給される。
【0035】
次いで、原料粉砕装置6がオンの場合とオフの場合には、前記プレヒータ2から流出した排ガスの流れは異なる。
ここで原料粉砕装置6には、原料ミル及び/又は原料乾燥機及び/又はインパクトドライヤーが含まれる。
まず、原料粉砕装置6がオンの場合について説明する。図1中、白抜きの矢印で示す流れが、原料粉砕装置6がオンの場合の排ガスの流れである。
沈降室4から排出された排ガスは、原料粉砕装置6に導入されて、原料粉砕装置6中での原料の乾燥に利用される。
次いで、原料粉砕装置6から排出された排ガスは、配管Bを通過する。
【0036】
また原料粉砕装置6がオフの場合には、図1の黒塗り矢印で示す流れが、排ガスの流れである。
即ち、沈降室4から排出された排ガスは、配管Aを通過する。この場合、配管Aの途中に必要に応じて、スタビライザー5を設けてもよい。該スタビライザー5で回収されたダスト等は、原料混合・供給系装置10に導入され、原料粉砕装置6から導入される原料と混合されて、セメント製造原料としてプレヒータの上部のサイクロン2dに循環供給される。
【0037】
従って、本発明においては、配管Aまたは配管Bを通過した排ガスは、集塵機6またはバグフィルタ9に導入する前に、冷却手段7により排ガスの温度を60℃以下、好ましくは60℃未満、より好ましくは40℃以下に冷却する。
通常は、集塵機やバグフィルタの稼動により、粒子状のダイオキシンやPCB類等の有機塩素化合物のほとんどを捕捉することが可能である。しかし、ガス状のダイオキシン、PCB類はこれらの装置で捕捉することは困難である。
このため、集塵機又はバグフィルタに排ガスを導入する前に排ガスの温度を60℃以下とすることで、排ガス中に存在するガス状のダイオキシン、PCB類のほとんどを液化、固化、あるいはダストに吸着させ、集塵機もしくはバグフィルタで捕捉するものである。
これは、ダイオキシン、PCB類ともに、揮発性の有機化合物であり、ある温度以上でガス状の形態をとるが、一定温度以下になれば液化、固化し、また、ガス状の形態であっても、より低温であるほうが、ダストなどに吸着しやすいからである。
【0038】
冷却手段7としては、排ガスの温度を60℃以下に低下させることができれば特に限定されず、その冷却方法も限定されないが、例えば、煙道への外気導入及び/又は熱交換器による空冷、熱交換機による水冷等の手法が例示できる。
また冷却手段7は、集塵機8の前に設けても、或いはバグフィルタ9の前に設けても、又は両方設けても、排ガスの温度が、集塵機8又はバグフィルタ9に導入される際に、60℃以下になっていればよい。
【0039】
該冷却手段7を集塵機8の前に設けた場合には、該冷却手段7から排出された排ガスは集塵機8に導入される。排ガス中に含まれる有機塩素化合物は60℃以下に温度が下がっているため、固化したり、ダストに吸着されており、集塵機8で効率よく捕捉することが可能となる。
集塵機8は、セメント製造装置の排ガス中の有機塩素化合物(例えば、ダイオキシン類)を含むダストを捕集するためのものであり、集塵機8としては、通常、電気集塵機が用いられるが、それ以外の集塵機(例えば、重力集塵装置、慣性力集塵装置、遠心力集塵装置、濾過集塵装置等)を用いてもよい。
捕捉されたダスト等は、原料混合・供給系装置10に導入され、原料粉砕装置6から導入される原料と混合されて、セメント製造原料としてプレヒータの上部のサイクロン2dに循環供給される。
【0040】
前記集塵機8から排出された排ガスはバグフィルタ9に導入されて、より微細なダスト等を捕捉する。ここで捕捉されたダスト等は、原料混合・供給系装置10に導入され、原料粉砕装置6から導入される原料と混合されて、セメント製造原料としてプレヒータの上部のサイクロン2dに循環供給される。
【0041】
該冷却手段7を集塵機8の前に設けてない場合、集塵機8とバグフィルタ9との間に冷却手段7を設けて、集塵機8から排出された排ガスを温度60℃以下に低減する。
これにより、排ガス中に含まれる有機塩素化合物は60℃以下に温度が下がっているため、固化したり、ダストに吸着されており、バグフィルタ9で効率よく捕捉することが可能となる。
捕捉されたダスト等は、原料混合・供給系装置10に導入され、原料粉砕装置6から導入される原料と混合されて、セメント製造原料としてプレヒータの上部のサイクロン2dに循環供給される。
【0042】
また、冷却手段7を集塵機8の前に設けた場合であっても、集塵機8とバグフィルタ9との間に冷却手段7を設けることもできる。これにより、排ガス中に含まれる有機塩素化合物の温度を低下させてバグフィルタ9で、より効率よく捕捉することが可能となる。
【0043】
さらに、必要に応じて、該冷却手段7の前及び/又は後に、除湿装置12を設けて、除湿することもできる。
排ガス中には水分が含まれており、該水分は集塵機やバグフィルタの操業に悪影響を及ぼすことがあり、排ガスが集塵機やバグフィルタに導入される前に除湿することで、これらの装置の操業上の不具合を解消することができ、従って、長期に渡って効率よくセメント製造設備の排ガス中に含まれる上記有機塩素化合物を低減することができ、また低減装置の寿命を保持することができることとなる。
がかるバグフィルタ9を通過した排ガスは、煙突11より大気中に排出される。
【0044】
本発明は、上記したように、排ガス中に含まれる有機塩素化合物を効率よくセメント製造設備中で捕捉することができ、有機塩素化合物を排出濃度及び排出量を効率的に低減させることができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
基本的に図1に示すセメント製造装置の排ガス中の有機塩素化合物低減装置を用いて、排ガス中の有機塩素化合物の低減方法を実施した。
但し、冷却手段7及び除湿装置12の設置位置については、それぞれ下記表1に示すように、変化させた。但し、除湿装置は冷却手段に続いて設置した。
それ以外の条件はすべての実施例及び比較例で同様にして行なった。
【0046】
【表1】

【0047】
上記実施例1〜3、比較例1〜2における、集塵機(電気集塵機:EP)で集塵されたダスト中のPCB濃度及び水分及びハンドリング性(実施例1〜2は集塵機(電気集塵機:EP)で集塵されたダスト、実施例3はバグフィルタ(BF)で集塵されたダスト)、煙突から排出される煙突排ガス中のPCB濃度の評価結果を下記表2に示す。但し、ダストのハンドリング性は良好なものを○、ダスト中の水分が高くハンドリング性が悪いものを△で表した。
【0048】
【表2】

【0049】
上記表2より、実施例の本発明の有機塩素化合物低減方法を用いると、排ガス中のPCB濃度を有効に低減させることが可能となることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法及び装置は、廃棄物を原料として利用するセメント製造設備に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・ロータリーキルン
2・・・プレヒータ
3・・・仮焼炉
4・・・沈降室
5・・・原料粉砕装置
6・・・スタビライザー
7・・・冷却手段
8・・・集塵機
9・・・バグフィルタ
10・・・原料混合・供給系装置
11・・・煙突
12・・・除湿装置
A・B・・・配管
X・・・セメント製造設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料焼成用のロータリーキルンで発生する排ガスを、集塵機またはバグフィルタを通過させる前に、該排ガスを60℃以下に冷却して、該排ガス中に含まれる有機塩素化合物を該集塵機またはバグフィルタで捕捉することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項2】
請求項1記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、セメント原料焼成用のロータリーキルンで発生する排ガスを、プレヒータに通過させ、原料粉砕装置が稼動している時にはプレヒータを通過した排ガスを原料粉砕装置に通過させた後、又は原料粉砕装置が可動していない時にはプレヒータを通過させた排ガスを、集塵機またはバグフィルタを通過させる前に、60℃以下に冷却することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、該排ガスを60℃以下に冷却する前及び/又は後に該排ガスを除湿することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法において、外気導入及び/又は熱交換器による空冷をすることにより、該排ガスを60℃以下に冷却することを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項5】
セメント原料焼成用ロータリーキルン、集塵機またはバグフィルタ前に設けられ排ガスを60℃以下に冷却するための冷却手段、及び、該冷却手段から排出された60℃以下の排ガスから有機塩素化合物を捕捉する集塵機及びバグフィルタを備えることを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置。
【請求項6】
請求項5記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該ロータリーキルンから排出された排ガスを通過させるプレヒータ、該プレヒータを通過した排ガスを直接冷却手段に導く排ガス用配管と、該プレヒータを通過した排ガスをセメント原料と接触させる原料粉砕装置及び該原料粉砕装置からの排ガスを冷却手段に導く配管とを備える、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置。
【請求項7】
請求項5又は6記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該冷却手段の前及び/又は後に、除湿装置を設けることを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置。
【請求項8】
請求項5〜7いずれかの項記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置において、該冷却手段は、外気導入手段及び/又は熱交換器であることを特徴とする、セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72017(P2012−72017A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218009(P2010−218009)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】