説明

セラック樹脂含有加熱食品およびその製造方法

【課題】サク感を有し長期保存可能な加熱食品をセラック樹脂を用いて作成する。
【解決手段】セラック樹脂を、5.5メッシュパス〜635メッシュオンに粉砕し、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に0.001g/cm以上、0.2g/cm未満塗布後、加熱調理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
加熱後、サクサクした食感を発現し、それを長期間保持できるセラック(シェラックとも言う)樹脂含有加熱食品に関する。さらに詳しくは、セラック樹脂を粉砕し、粒状にして食品の焼面または焼面に相当する箇所に散布または塗布で付着させ、更に加熱により付着したセラックを熱硬化させる事によりサク感を発現、保持させたセラック樹脂含有加熱食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の吸湿防止すなわち、サク感などの食感保護を目的とした技術は種々存在するが、油脂・澱粉などの皮膜性のある物質を使用し、食品内・外に保護皮膜を形成する技術が一般的に広く知られている。セラック樹脂についてもその皮膜を作りやすいという性状から同様な先行技術が存在し、例えばパン粉加工品及びそれを使用した調理食品(特許文献1)、防湿乾燥海苔及びその製造方法(特許文献2)、澱粉質薄皮を有する食品(特許文献3)などが存在するが、これらの技術はエタノールに溶解させたセラック樹脂を乾燥させて皮膜として利用している為、セラック樹脂自体を加熱して添加している訳では無く、対象食品への添加量も少ない為、これ自体がサク感を有している訳では無い。
【0003】
また、これら皮膜を作成する技術は、実際には水蒸気を完全にバリアする事は大変困難であり、食感は次第に劣化する問題があった。そこで、更なる改善の為、食品の水分調整を行ったり、吸湿し難い食材を利用するなどの技術も多数知られているが、何れの方法でも吸湿劣化の速度をさらに遅くする事は出来るものの食感の劣化を止める事は出来なかった。したがって、セラック樹脂を利用した技術を含め、これら皮膜形成技術は、保存に伴う吸湿防止、食感劣化防止には現状では限界があった。
【0004】
一方、皮膜技術以外にも極端に食感の強い小片(例えばコーングリッツやエクストルーダー加工品)など食感を保持しておきたい部分に添加する技術も知られているが(特許文献4)、この技術に関しても小片自体が吸湿劣化をする為に一時的な改善にすぎず、更なる改善が望まれていた。
【特許文献1】特開平2−245156
【特許文献2】特開平6−245739
【特許文献3】特開昭60−172273
【特許文献4】特開2002−51718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、防湿効果の高いセラック樹脂を、パン粉等へのコーティングによる吸湿劣化を抑える方法で使用するのでは無く、セラック樹脂を特定の形状に加工し、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に付着させた後、これ自体がサク感を発現するように熱硬化させる事で、サク感が長期間保持できるセラック樹脂含有加熱食品を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究した結果、セラック樹脂を特定粒度に粉砕し、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に直接付着させて焼成することにより、サク感が一段と向上し、それがチルドまたは冷凍保存されても長期間にわたり安定に保持されうることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明の第一は、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に、5.5メッシュパス〜635メッシュオンに粉砕したセラック樹脂を散布・付着させ、その後加熱処理することを特徴とするサク感を有するセラック樹脂含加熱食品であり、第二の発明は、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に対するセラック樹脂の添加量が、0.001g/cm以上、0.2g/cm未満であることを特徴とする第一発明記載のセラック樹脂含有加熱食品であり、第三の発明は、加熱食品が、パイ、タルト、クッキー、ビスケット、クラッカー、パン、焼き餃子、春巻き、焼売、衣付き油調食品の群から選ばれる1種であることを特徴とするものであり、第四の発明は、第一から第三の発明が、チルド流通食品又は冷凍食品であることを特徴とするセラック樹脂含有加熱食品であり、また、第五の発明は、以上のセラック樹脂含有加熱食品の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単な加工方法により、従来品より著しく長期にサク感を有する加熱食品の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いるセラック樹脂とは、ラックカイガラムシから得られる粒状又は燐片状の天然の熱硬化樹脂を指し、含ロウ品、脱ロウ品共に使用できる。セラック樹脂を粉砕する条件には特別の制限はなく、工業的に通常使用されている機器、例えばパルペライザー、
ディスパーミル等が利用できる。粉砕したセラック樹脂は篩分されるが、篩分の方法も特に限定されるものではない。使用できる粒径は5.5メッシュパス〜635メッシュオンまでのものが利用でき、目的とする加熱食品により適宜最適の粒度を選定すれば良い。但し、5.5メッシュオンでは、食感が強く不自然となり、635メッシュパスでは食感が弱くなり、本発明を実施できない。添加量は食品により異なるが、通常、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に対し、0.001g/cm以上、0.2g/cm未満、より好ましくは0.01〜0.1g/cmが適当である。本発明のポイントは加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に散布し、更に焼成することが必須であり、この場合、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に直接添加し焼成しても、あるいは一旦半焼きしておいた加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に添加しても良い。本発明において焼面とは、食品の加熱時に生じる焼成面の事であり、焼面に相当する個所とは、本発明における加熱食品の表面部分に相当する箇所である。
【0009】
第一発明に使用されるセラック樹脂は、篩分された特定の粒度範囲の樹脂を、そのまま加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に均一に振りかける。セラック樹脂は、食品の表面全体に振りかけても良いが、特にサク感を強調したい部分にのみ使用すると、その効果が一段と際立って発現する。セラック樹脂を付着した食品は、その後通常の工程により加熱処理する事ができ、その際セラックは熱重合し、サクを有する様になる。熱重合を起こすには100℃であれば10分の加熱、150℃以上であれば1分間の加熱で十分である。加熱処理された食品はそのまま、あるいはチルド流通におかれたり、通常の方法により冷凍処理され、冷凍食品として流通できる。
【0010】
本発明における「メッシュ」とは、1インチ(2.54cm)の間に目の数が幾つあるかを示す数字で、針金の太さと目の間隔はJIS規格に規定されているものに従うものである。「メッシュパス」とはその数値のメッシュを通過するものであり、「メッシュオン」とはその数値のメッシュを通過しない物である。
【0011】
本発明により得られる加熱食品としては、パイ(ミルフィーユ、アップルパイ、リーフパイ等)、タルト(キッシュ、フルーツタルト等)、クッキー、ビスケット、クラッカー、パン、焼き餃子、春巻き、焼売、衣付き油調食品(コロッケ、唐揚げ等)が挙げられ、特に二層以上に積層され、間に水分を含むクリーム・餡・中具を挟むまたは包むような加熱食品には有効である。
以下、実施例で更に説明する。
【実施例1】
【0012】
ミルフィーユ:
(セラック樹脂粉砕条件);日本シェラック社製セラック樹脂、商品名、精製白ラックをSIBATA社製粉砕機、機種名SCM-40で粉砕し、篩を用いて200メッシュパス〜635メッシュオン、60メッシュパス〜200メッシュオン、30メッシュパス〜60メッシュオン、14メッシュパス〜30メッシュオン、10メッシュパス〜14メッシュオン、5.5メッシュパス〜10メッシュオン、5.5メッシュオンの7区分の粉砕品を得た。
(ミルフィーユの基本調整条件);パイ生地(5×10cm両面で100cm、湿重量20g)の両面に上記粉砕セラック樹脂を0.0005〜0.2g/cmを均一に振りかけ、180℃のオーブンで5分間焼成した。焼成後のパイ2枚の間、にクリームを20g挟み、完成品とした。
【0013】
(ミルフィーユにおける粒度の影響);上記4種の粉砕セラック樹脂を、上記ミルフィーユの基本調整条件下で、パイ生地の両面に1.0g/枚(0.01g/cm)均一に振りかけ、焼成後のミルフィーユについて表1に示す項目について官能評価を行った。評価は食品評価に精通した5名のパネルで、先ず各自が各評価項目に対し、対照とした無添加区を3点、「好ましい」とし、「大変好ましい」場合を5点、「好ましくない」場合を1点とした5点評価で評価後、フリーディスカッションにより最終評点を整数で表した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、5.5メッシュパス〜635メッシュオンの区分が無添加品に比べ優れていた。
【0016】
(ミルフィーユにおけるセラック樹脂の添加量);60メッシュパス〜200メッシュオンの粒度の粉砕セラック樹脂を用いてミルフィーユ1枚あたりの添加量を見た所、下表2に示すように0.001〜0.1g/cm、パイ生地あたり0.1〜10g/枚)までの添加区が、無添加より優れた効果を示した。
【0017】
【表2】

【0018】
(ミルフィーユの保存性);上記検討で効果を示した60メッシュパス〜200メッシュオン、0.01g/cm添加区(1.0g/枚)について、0℃、−10℃、−20℃における保存性を比較した。評価基準は表1と同様であり、保存品を5℃の冷蔵庫で2時間解凍後評価を行った。結果を表3に示したように、セラック樹脂添加品(本発明品)では、無添加に比べ、著しく保存性が向上し、食感を保持していた。
【0019】
【表3】

【実施例2】
【0020】
焼き餃子:
(焼き餃子の調製)常法により調製した餃子(湿重量25g)に対し蒸調理を10分行い、焼面(フライパンに接する部分)にバッター(小麦粉の水溶液)を1g付着させた後、この部分の表面(10cm2)に下記粉砕セラック樹脂を0.001〜0.5g/cm均一に振りかけ、180℃のフライパンで2分間焼成し完成品とした。
【0021】
(セラック粉砕条件)セラックを実施例1と同様の方法で粉砕し、200メッシュパス〜635メッシュオン、60メッシュパス〜200メッシュオン、30メッシュパス〜60メッシュオン、14メッシュパス〜30メッシュオン、10メッシュパス〜14メッシュオン、5.5メッシュパス〜10メッシュオン、5.5メッシュオンの7区分の粉砕品を得た。上記焼き餃子の調製条件で、各区分を0.1g/cm(焼き餃子1個あたり1.0g)振り掛けて調整したところ、30メッシュパス〜60メッシュオンの区分が最も自然な焼面、食感を呈し、粒度が大きくなるにつれ、自然感がなくなったので、焼き餃子用にはこの30メッシュパス〜60メッシュオン区分を用い、添加量の検討を行った。
【0022】
(粉砕セラック樹脂の最適添加量)30メッシュパス〜60メッシュオンの粉砕セラック樹脂を用いて焼き餃子1個あたりの添加量を見た所、下表4に示すように0.005〜0.2g/cm、(焼き餃子1個あたり0.05〜2.0g)までの添加区が、無添加より優れた効果を示した。尚、評価は食品評価に精通した5名のパネルで、先ず各自が各評価項目に対し、対照とした無添加区を3点、「好ましい」とし、「大変好ましい」場合を5点、「好ましくない」場合を1点とした5点評価で評価後、フリーディスカッションにより最終評点を整数で表した。
【0023】
【表4】

【0024】
(焼き餃子の保存性)最も好ましいサク感および焼色を示した、30メッシュパス〜60メッシュオン0.1g/cm添加区(1.0g/個)について、0℃、−10℃、−20℃における保存性を比較した。評価基準は表1と同様であり、保存品5個を電子レンジ600Wで2分間解凍後、評価した。結果を表5に示したように、セラック樹脂添加品(本発明品)では、無添加に比べ、著しく保存性が向上し、サク感を保持していた。
【0025】
【表5】

【実施例3】
【0026】
ポテトコロッケ:
(ポテトコロッケの調製)常法により調製したポテトコロッケ(湿重量40g)に対し、フライ調理を5分行い、このポテトコロッケの表面(60cm)に下記粉砕セラック樹脂を0.001〜0.5g/cm均一に振りかけ、180℃のオーブンで2分間焼成し完成品とした。
【0027】
(セラック粉砕条件)セラックを実施例1と同様の方法で粉砕し、200メッシュパス〜635メッシュオン、60メッシュパス〜200メッシュオン、30メッシュパス〜60メッシュオン、14メッシュパス〜30メッシュオン、10メッシュパス〜14メッシュオン、5.5メッシュパス〜10メッシュオン、5.5メッシュオンの7区分の粉砕品を得た。上記ポテトコロッケの調製条件で、各区分を0.1g/cm(ポテトコロッケ1個あたり6.0g)振り掛けて調整したところ、14メッシュパス〜30メッシュオンの区分が最も自然な焼面、食感を呈し、粒度が大きくなるにつれ、自然感がなくなったので、ポテトコロッケ用にはこの14メッシュパス〜30メッシュオン区分を用い、添加量の検討を行った。
【0028】
(粉砕セラック樹脂の最適添加量)14メッシュパス〜30メッシュオンの粒度の粉砕セラック樹脂を用いてポテトコロッケ1個あたりの添加量を見た所、下表6に示すように0.005〜0.2g/cm、(コロッケ1個あたり0.3〜12.0g)までの添加区が、無添加以上の優れた効果を示した。尚、評価は実施例2に準じた。
【0029】
【表6】

【0030】
(ポテトコロッケの保存性)最も好ましいサク感および焼色を示した、14メッシュパス〜30メッシュオン 0.02g/cm添加区(1.2g/個)について、0℃、−10℃、−20℃における保存性を比較した。評価基準は表1と同様であり、保存品6個を電子レンジ600Wで2分30秒間解凍後、評価した。結果を表7に示したように、セラック樹脂添加品(本発明品)では、無添加に比べ、著しく保存性が向上し、サク感を保持していた。
【0031】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0032】
従来は皮膜として用いられていたセラック樹脂を、特定の形状に加工し、加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に付着させた後、これ自体がサク感を発現するように熱硬化させる事で、長期保存可能な食品の幅を拡大することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に、5.5メッシュパス〜635メッシュオンに粉砕したセラック樹脂を散布・付着させ、その後加熱処理することを特徴とするサク感を有するセラック樹脂含有加熱食品。
【請求項2】
加熱食品の焼面または焼面に相当する箇所に対するセラック樹脂の添加量が、0.001g/cm以上、0.2g/cm未満であることを特徴とする請求項1記載のセラック樹脂含有加熱食品。
【請求項3】
加熱食品が、パイ、タルト、クッキー、ビスケット、クラッカー、パン、焼き餃子、春巻き、焼売、衣付き油調食品の群から選ばれる1種であることを特徴とする請求項1記載のセラック樹脂含有加熱食品。
【請求項4】
請求項1〜3記載のセラック樹脂含有加熱食品が、チルド流通食品又は冷凍食品であることを特徴とするセラック樹脂含有加熱食品。
【請求項5】
請求項1〜4記載のセラック樹脂含有加熱食品の製造方法。

【公開番号】特開2006−262764(P2006−262764A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84831(P2005−84831)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】