説明

セリウム系研摩材

【課題】研摩速度が大きく、研摩傷の発生を極力低減した研摩面を実現できるセリウム系研摩材を提供する。
【解決手段】本発明は、Fを含有し、希土類元素Ceと、Ce以外の希土類元素Y、La・・・の14種から選択される一種の希土類元素(RE)とを含有するセリウム系研摩材において、研摩材中のFの含有量は5.0〜15.0質量%であり、全希土類酸化物換算質量に占める酸化セリウムの質量の割合は48質量%〜90質量%で、全希土類酸化物換算質量に占める、REの酸化物の質量の割合は8質量%〜50質量%で、全希土類酸化物換算質量に占める、CeOとREの酸化物との合計の質量の割合は98質量%以上で、Y、La・・・の14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素は、全希土類酸化物換算質量に占める、前記13種のOREにおける各酸化物の質量の割合が0.5質量%以下の含有量であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウムを主成分とするセリウム系研摩材に関し、特にFを含有した希土類酸化物を主成分とするセリウム系研摩材に関する。
【背景技術】
【0002】
セリウム系研摩材は、例えば、セリウムをはじめとする希土類元素を豊富に含有するバストネサイト精鉱等の原料を、粉砕し、焙焼し、必要に応じて分級することによって製造される。製造されたセリウム系研摩材は、酸化セリウム(CeO等)を主成分とするものであり、これ以外に酸化ランタン(La等)など、セリウム以外の希土類元素の酸化物を含んでいる。また、より高い研摩速度が得られる研摩材としてフッ素(F)を含有するセリウム系研摩材がある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1におけるフッ素を含有するセリウム系研摩材は、フッ素(F)、ならびに希土類元素としてセリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)を含有し、Fが0.5〜10重量%、全希土類酸化物換算重量(以下、TREOと記載する)に占める酸化ネオジムの重量の割合(Nd/TREO)は0.001重量%〜5重量%、またTREOに占める酸化ランタンの重量の割合(La/TREO)は2重量%〜45重量%、或いはTREOに占める酸化プラセオジムの重量の割合(Pr11/TREO)は0.1重量%〜10重量%であり、そして、TREOに占める酸化セリウムの重量の割合(CeO/TREO)は50重量%〜90重量%であることが好ましいとされている。TREOに占める、セリウム、ランタン、プラセオジムおよびネオジムの希土類酸化物の総重量の割合が97重量%以上であるものが提案されている。
【0004】
また、研摩速度が大きく、研摩傷が少ないセリウム系研摩材として希土類酸化物の、Cu−Kα線又はCu−Kα1線を用いたX線回折により得られるピークに着目したセリウム系研摩材も知られている(特許文献2参照)。この特許文献2では、希土類元素Ceを主成分とする希土類酸化物の、Cu−Kα線又はCu−Kα1線を用いたX線回折により得られるピークのうち(111)面に基づくピークaの半値幅が、2θで0.10〜1.00°であるセリウム系研摩材が提案されている。
【0005】
これら先行技術におけるセリウム系研摩材は、研摩速度が比較的大きく、研摩傷の発生もある程度抑制されたものである。しかしながら、最近では、より精度の高い研摩面、すなわち、研摩傷の発生が極力低減された研摩面を仕上げることができるセリウム系研摩材が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2004−092297号公報
【特許文献2】特開2007−106890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、研摩速度が大きいだけでなく、研摩傷の発生を極力低減した研摩面を実現できるセリウム系研摩材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者等は、セリウム系研摩材の研摩速度や研摩傷の発生について、Ce(セリウム)以外の希土類元素の影響を検討したところ、Ce以外の希土類元素の酸化物割合を制御することで、研摩速度が大きくなるだけでなく、研摩傷の発生を極力抑制できることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0009】
本発明は、F(フッ素)を含有し、希土類元素としてのCe(セリウム)と、Ce以外の希土類元素であるY(イットリウム)、La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)の14種から選択される一種の希土類元素(REとする)を含有する、希土類酸化物を主成分とするセリウム系研摩材において、セリウム系研摩材中のFの含有量は5.0〜15.0質量%であり、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める酸化セリウム(CeO)の質量の割合(CeO/TREO)は48質量%〜90質量%で、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、セリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)の質量の割合(REO/TREO)は8質量%〜50質量%で、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、酸化セリウムとセリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)との合計の質量の割合((CeO+REO)/TREO)は98質量%以上であり、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素(OREとする)が、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、前記13種のOREにおける各酸化物(各OREO)の質量の割合((各OREO)/TREO)が、0.5質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るセリウム系研摩材は、実質的に、希土類元素としてCeとCe以外のREの2種類からなり、Fの含有量は5.0〜15.0質量%であり、このようなセリウム系研摩材であると、先行技術におけるセリウム系研摩材と同等な高い研摩速度を有し、研摩傷の発生が極めて抑制されたものとなる。
【0011】
本発明におけるREとは、Ce以外の希土類元素であるY、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から選択される一種の希土類元素をいう。これらの希土類元素は研摩材の原料に含まれることがある。但し、希土類元素のPm(プロメチウム)は天然には存在しない放射性元素であるため除外されている。通常、セリウム系研摩材は、Ce以外の希土類元素としてLaやPr、あるいはNdを含有する場合が多く、Smも含有されていることがある。本発明におけるREは、LaまたはNdのいずれか一種であることが好ましく、Fの保持能力が高いことから特にLaが好ましい。LaまたはNdであると、研摩傷の発生の抑制効果が大きいからである。REが、LaまたはPrのいずれか一種である場合、Ce−La或いはCe−Prの二成分系原料を溶媒抽出で容易に分離・精製することができる。REが、LaまたはPr以外の希土類酸化物である場合、REとCeとをそれぞれ溶媒抽出で分離・精製して、液体状のまま、あるいは沈殿処理した後に混合する必要がある。
【0012】
そして、本発明におけるREOとは、Ce以外の希土類元素であるY、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から選択される一種の希土類元素の酸化物であって、具体的には、Y、La、Pr11、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される一種をいう。
【0013】
また、本発明におけるOREとは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素をいう。
【0014】
そして、本発明におけるOREOとは、Y、La、Pr11、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種からREOを除いた希土類酸化物をいう。
【0015】
本発明において、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める酸化セリウム(CeO)の質量の割合(CeO/TREO)は48質量%〜90質量%である。CeO/TREOは、50質量%〜90質量%が好ましく、55質量%〜85質量%がより好ましく、60質量%〜80質量%がさらに好ましい。CeO/TREOが50質量%未満であると、研摩速度が小さくなる傾向となり、90質量%を超えると研摩傷の発生が多くなる傾向になる。
【0016】
そして、本発明において、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、セリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)の質量の割合(REO/TREO)は8質量%〜50質量%である。REO/TREOは、10質量%〜50質量%が好ましく、15質量%〜45質量%がより好ましく、20質量%〜40質量%がさらに好ましい。REO/TREOが、10質量%未満であると、研摩傷の発生が多くなる傾向になり、50質量%を超えると、研摩速度が小さくなる傾向になる。
【0017】
本発明において、酸化セリウムとセリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)との合計の質量の割合((CeO+REO)/TREO)は98質量%以上である。(CeO+REO)/TREOは、99質量%以上が好ましく、99.5質量%以上がより好ましい。(CeO+REO)/TREOが98質量%未満になると、研摩傷が多くなる傾向になる。この(CeO+REO)/TREOは100質量%であってもよい。
【0018】
さらに、本発明において、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素は、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、前記13種のOREにおける各酸化物(各OREO)の質量の割合((各OREO)/TREO)が、0.5質量%以下である。(各OREO)/TREOが0.5質量%以下であることは、各OREO、つまり、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種のすべての希土類元素において、その13種のすべての酸化物が対象となる。具体的には、REがLaである場合、Y、Pr11、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの各酸化物(各OREO)が対象となる。(各OREO)/TREOが0.5質量%を超えると、研摩傷が多くなる傾向になる。好ましくは、(各OREO)/TREO)が0.1質量%未満であり、0.05質量%以下がより好ましい。
【0019】
この(各OREO)/TREOは、0.01質量%以下、或いは0.001質量%以下であっても実質的に問題ない。なお、通常の混合希土系のセリウム系研摩材は、希土類元素としてはLa、Ce、Pr、Nd、Sm以外はほとんど含まず、Ceを最も多く含み、次にLaを多く含むため、REがLa(、REOがLa)である場合、Pr11、Nd、Smについて、それぞれの酸化物の質量割合が0.5質量%以下であることを確認すると、その他のOREOについてもそれぞれ0.5質量%以下であると推定できる。同様に、Pr11、Nd、Sm、について、それぞれの酸化物の質量割合が0.1質量%未満であることを確認すれば、その他のOREOについてもそれぞれ0.1質量%未満と推定でき、Pr11、Nd、Smのそれぞれの酸化物の質量割合が0.05質量%以下であることを確認すれば、その他のOREOについてもそれぞれ0.05質量%未満と推定できる。
【0020】
さらに加えて、本発明において、セリウム系研摩材中のFの含有量は5.0〜15.0質量%である。このFの含有量は、5.0質量%〜12.0質量%であることが好ましく、5.0質量%〜10.0質量%であることがより好ましい。Fの含有量が5.0質量%未満であると、研摩速度が小さくなる傾向となり、15質量%を超えると、研摩速度は大きくなるが研摩傷の発生がしやすくなる傾向となる。
【0021】
本発明に係るセリウム系研摩材は、X線源としてCu−Kα線またはCu−Kα1線を用いたX線回折法によってX線ピーク強度を測定したときに2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅が、2θで0.1〜1.0degであることが好ましい。このピークの半値幅は、0.15〜0.9degがより好ましく、0.2〜0.8degが特に好ましい。半値幅が0.1deg未満であると、研摩傷が発生しやすいセリウム系研摩材となる傾向があり、1.0degを超えると、研摩速度が小さいセリウム系研摩材となる傾向がある。
【0022】
また、本発明に係るセリウム系研摩材は、X線源としてCu−Kα線またはCu−Kα線を用いたX線回折法によってX線ピーク強度を測定したときに2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピーク強度(A)に対する、2θ(回折角)=26.5deg付近の希土類オキシフッ化物のピーク強度(B)の強度比(B/A)が、0.05〜1.0であることが好ましい。このピークの強度比B/Aは0.1〜0.8がより好ましく、0.15〜0.7がさらに好ましい。ピークの強度比B/Aが0.05未満であると、研摩速度が小さいセリウム系研摩材となる傾向となり、1.0を超えると、研摩傷が発生しやすいセリウム系研摩材となる傾向がある。
【0023】
そして、本発明に係るセリウム系研摩材は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定における小粒径側からの累積体積50%の平均粒径D50が0.2〜3.5μmであることが好ましい。この平均粒径D50は0.3〜3.0μmであることがより好ましく、0.4〜2.5μmがさらに好ましい。平均粒径D50が0.2μm未満になると、研摩速度が小さくなり、3.5μmを超えると、研摩傷が多くなる傾向になる。
【0024】
本発明に係るセリウム系研摩材は、水性液を用いてセリウム系研摩材スラリーとして用いることが好ましい。この場合の水性液としては、水、又は水と水に対する溶解度がある少なくとも1種以上の有機溶媒とを溶解度の範囲内で混合したものをいい、水を少なくとも1%含むものをいう。そして、有機溶媒としては、アルコールやケトン等が挙げられる。
【0025】
本発明に使用可能なアルコールとしては、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、1−プロパノール(n−プロピルアルコール)、2−プロパノール(iso−プロピルアルコール、IPA)、2−メチル−1−プロパノール(iso−ブチルアルコール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)、1−ブタノール(n−ブチルアルコール)、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,2,3−プロパントリオール(グリセリン)が挙げられる。
【0026】
また、本発明に使用可能なケトンとしては、プロパノン(アセトン)、2−ブタノン(メチルエチルケトン、MEK)等が挙げられる。その他、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,4−ジオキサン等も使用できる。
【0027】
本発明に係るセリウム系研摩材と水性液と用いてセリウム系研摩材スラリーとして用いる場合、セリウム系研摩材含有量は0.1質量%〜50質量%とすることが好ましく、0.5質量%〜40質量%とすることがより好ましく、1質量%〜30質量%とすることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係るセリウム系研摩材は、概略的には、次のようにして製造することができる。図1にその製造工程の概略フローを示す。尚、図1において、カッコで囲まれた工程は、任意工程である。
【0029】
まず、原料について説明する。研摩材の原料は、その形態として、炭酸塩、モノオキシ炭酸塩、水酸化炭酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、酸化物(強熱減量1.0%未満)のいずれか一種または2種以上の混合物を用いることができる。そして、炭酸塩、モノオキシ炭酸塩、水酸化炭酸塩、シュウ酸塩の一種以上を焼成して、強熱減量(1000℃、1hr)を1.0〜20%に調整したものを用いることができる。形態が酸化物の原料では、強熱減量(1000℃、1hr)が1.0%未満のものを用いることができる。また、原料の組成は、目的のセリウム系研摩材の組成と同様な希土類元素の組成であって、その組成量も酸化物換算量としてセリウム系研摩材と同じものを用いる。原料のF含有量は、特に制限はないが、原料に水分や炭酸根などを含む場合があるので、全希土類酸化物換算質量(TREO)に対するFの質量の割合(F/TREO)として見ると、0.5質量%以下であり、通常は、0.1質量%であることが多い。
【0030】
上記した原料について製造方法としては、例えば、バストネサイト精鉱、モナザイト精鉱、中国複雑鉱精鉱などのCe含有希土類精鉱を、硫酸分解法やアルカリ分解法などで処理し、分別沈澱、分別溶解などを行い、F、U、Th及びその他の希土類元素を低減した後、溶媒抽出によって分離精製を行う。
【0031】
原料の製造方法において、一般的には、溶媒抽出による分離・精製によって得られるCe液(純度CeO/TREOが99.9質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上)及び、RE液(純度REO/TREOが99.9質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上)を得た後、そのCe液とRE液とを、目的のセリウム系研摩材の組成となるように混合して沈殿生成するか、或いは、Ce液とRE液とを別々に沈殿剤を混合して沈殿物を得て、それぞれの沈殿物を目的のセリウム系研摩材の組成となるように混合する。
【0032】
REがLaの場合、溶媒抽出により、Y、Pr及びPrより原子番号が大きな希土類元素をほぼ完全に除去することにより、CeとLaとからなるCe−La液を得ることができる。但し、CeとLaとの割合を調整する場合は、Ceの一部またはLaの一部を除去することもできる。
【0033】
沈殿剤としては、炭酸塩の原料を製造する場合は、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、尿素、炭酸グアニジンなどを用いることができ、シュウ酸塩を製造する場合は、シュウ酸塩、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウムなどがあり、水酸化物を製造する場合はアンモニアなどを用いることができる。
【0034】
炭酸塩の原料を製造する場合は、製造条件によって、一部または全部がモノオキシ炭酸塩及び/又は水酸化炭酸塩として得られる場合がある。例えば、炭酸塩を生成して過剰な沈殿剤が存在する場合や、ろ過した炭酸塩を水でリパルプしてから、60〜100℃に加熱(浸漬加熱処理)をした場合は、モノオキシ炭酸塩及び/又は水酸化炭酸塩の原料になりやすい傾向がある。また、強熱減量を1〜20%に調整した原料の場合、炭酸塩、モノオキシ炭酸塩、水酸化炭酸塩、シュウ酸塩の一種以上を300℃〜700℃で焼成して強熱減量を調整した原料を製造することができる。さらに、酸化物の原料の場合、炭酸塩、モノオキシ炭酸塩、水酸化炭酸塩、シュウ酸塩の一種以上を750℃〜1100℃で焼成して酸化物の原料を製造することができる。
【0035】
図1の概略フローにおける粉砕は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定における小粒径側からの累積体積50%の平均粒径D50が0.2〜3.0μmにすることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。この粉砕処理には公知の手法を用いることができる。
【0036】
図1の概略フローにおけるフッ化処理は、フッ化アンモニウム、フッ化水素、フッ化水素アンモニウム、フッ化希土のいずれか一種または2種以上を組み合わせて用いることができる。フッ化処理後のフッ素含有量としては、F/TREOで5.5質量%〜16質量%が好ましく、5.5質量%〜13質量%がより好ましく、5.5質量%〜11質量%が特に好ましい。このフッ化処理では、上記した好適範囲含有量をはずれると、得られるセリウム系研摩材のフッ素含有量が本発明の範囲をはずれる恐れがある。尚、このフッ化処理後は、洗浄処理、固液分離処理を行うことが好ましい。ただし、フッ化希土は水に溶けない固体なので、使用前に粉砕された原料と同程度の平均粒径D50になるまで粉砕してから使用することが好ましい。また、前記粉砕処理時にフッ化希土を原料に混ぜて粉砕することにより、粉砕処理とフッ化処理とを同時に行うこともできる。
【0037】
図1の概略フローにおける焼成は、焼成前に乾燥処理を行うことが好ましい。この乾燥方法に特に制限はないが、例えば、ロータリーキルンで焼成を行う場合、乾燥処理は、ロータリーキルンの廃熱を利用したロータリードライヤーを使用することで省エネルギーが図れる。乾燥処理後に塊状物が含まれる場合には解砕することが好ましく、塊状物を解砕しておくと、熱を均一にかけることができるからである。焼成温度としては、750〜1150℃が好ましく、800〜1100℃がより好ましく、850〜1050℃が特に好ましい。また、焼成時間は、0.5〜48時間が好ましく、1〜36時間がより好ましく、2〜24時間が特に好ましい。
【0038】
図1の概略フローにおける解砕は、任意工程ではあるが、後工程の分級の効率を向上させるために行うことが好ましい。後工程の分級が乾式である場合には乾式解砕を行い、湿式分級の場合は湿式解砕を行うことが好ましい。
【0039】
図1の概略フローにおける分級は、粗大粒子を除去するために行う。場合によっては粗大粒子のみならず、微細粒子も除去することもできる。この分級処理は乾式または湿式にて行うことが可能である。湿式分級を行う場合には、粉末状のセリウム系研摩材を得るためには乾燥処理が必要となる。
【0040】
上記のような製造方法により得られた本発明のセリウム系研摩材をセリウム系研摩材スラリーとして用いる場合、本発明に係るセリウム系研摩材と水性液とを混合、或いは湿式粉砕することでスラリーとなる。または、上記した本発明のセリウム系研摩材の製造方法において、分級前の焼成品または焼成品を解砕したものを湿式粉砕したものをそのままスラリーとして用いることもできる。そして、上記した本発明のセリウム系研摩材の製造方法において、湿式分級を行ったものをそのままスラリーとして用いることもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、研摩速度が大きいだけでなく、研摩傷の発生を極力低減した研摩面を実現できるセリウム系研摩材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】セリウム系研摩材製造の概略フロー図。
【図2】実施形態における研摩材製造工程の概略フロー図。
【図3】溶媒抽出の工程概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、実施例及び比較例を参照しながら本発明の実施形態について詳説する。
【0044】
まず、本発明の実施形態に関するセリウム系研摩材の製造方法について説明する。図2に、本実施形態における製造工程の概略フローを示す。
【0045】
図2に示す製造工程に従って、炭酸塩の原料を使用してセリウム系研摩材を製造した。実施例1の原料は、表1に示すように、炭酸セリウム(TREO45.2質量%、CeO/TREO99.99質量%)、炭酸ランタン(TREO43.0質量%、La/TREO99.99質量%)、炭酸プラセオジム(TREO44.6質量%、Pr11/TREO99.99質量%)、炭酸ネオジム(TREO43.3質量%、Nd/TREO99.99質量%)、炭酸サマリウム(TREO44.2質量%、Sm/TREO99.99質量%)を用いた。表1では、各実施例及び各比較例(実施例36と、比較例1は除く)に使用した原料を示しているが、◎はセリウムの供給としての原料、●はREで、Ce以外の一種の希土類元素の供給としての原料、○はOREで、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素の供給のための原料であり、−は使用していない炭酸塩希土を示している。
【0046】
そして、この実施例1の原料を、表3に示す実施例1のセリウム系研摩材の組成になるように秤量して混合した炭酸希土を原料として用いた。このような混合によって調整した原料により製造されるセリウム系研摩材は、原料組成と同じとなる。
【0047】
そして、この炭酸希土の原料を、最初に450℃、12時間の仮焼処理を行った。そして、アトライタ(日本コークス工業(株)製)により、湿式粉砕処理を行った。粉砕媒体としては、直径5mmのステンレスボールを用い、粉砕した。この湿式粉砕処理後の原料の平均粒径D50を測定したところ、1.22μmであった。
【0048】
湿式粉砕処理後、55%のフッ化水素溶液を用い、フッ化処理を行った。このフッ化処理により原料のフッ素濃度が、F/TREOで7.0質量%となるようにした。フッ化処理後、フィルタープレスを用いてろ過処理を行った。ろ過処理後、大気雰囲気中、150℃、24時間の乾燥処理をして、ロールミルにより、解砕処理を行った。
【0049】
解砕処理後、950℃、10時間の焼成処理を行い、その後、サンプルミル(不二パウダル(株)製)を用いて、解砕処理を行った。最後に、精密空気分級機(ターボクラシファイアーTC−25N:日清エンジニアリング(株)製)を用いて、乾式分級処理をして、篩の下に落下したものを、実施例1のセリウム系研摩材として得た。
【0050】
この実施例1のセリウム系研摩材について、組成、X線回折、平均粒径D50を調査し、研摩速度及び研摩傷に関する研摩評価を行った(表2)。測定条件等を以下に説明する。
【0051】
組成:得られたセリウム系研摩材について、全酸化希土(TREO)、フッ素含有量、希土類酸化物含有量を測定した。セリウム系研摩材の全酸化希土(TREO)は、シュウ酸塩沈殿・焼成・重量法により測定した(単位 固形物:質量%、液:g/L)。前処理として、固形物(研摩材原料或いは研摩材)は過塩素酸及び過酸化水素により溶解し、煮沸して行った。測定対象が液である場合は、そのまま煮沸して行った。また、CeO/TREOについては、上記した全酸化希土(TREO)測定を行って得られたTREO試料を、過塩素酸及び過酸化水素により溶解し、ICP−AES法により測定した(Y/TREO、La/TREO、Pr11/TREO、Nd/TREO、Sm/TREO、Eu/TREO、Gd/TREO、Tb/TREO、Dy/TREO、Ho/TREO、Er/TREO、Tm/TREO、Yb/TREO、Lu/TREOについても同様)。また、フッ素(F)含有量は、測定対象となる固形物(研摩材)を、アルカリ溶融・温湯抽出により溶液化してフッ化物イオン電極法により溶液のF濃度を測定し、固形物中のF含有量(質量%)を算出した。この組成調査では、REO、OREOを得られた分析結果により算出した。尚、CeO/TREOおよびREO/TREO(実施例34はNd/TREO、実施例35はY/TREO、その他はLa/TREO)についての測定は、すべての実施例および比較例について実施した。しかし、以下で説明する実施例36と比較例1とを除き、表3〜表6の各実施例、各比較例のCeO/TREOおよびREO/TREOの数値は、原料混合時の指示値(各実施例、各比較例の研摩材目標組成値)を記載した。
【0052】
X線回折測定:X線回折装置(マックサイエンス(株)製、MXP18)を用いて、セリウム系研摩材についてX線回折分析を行い、回折X線強度を測定した。本測定では、銅(Cu)ターゲットを使用しており、Cu−Kα線を照射して得られたCu−Kα線による回折X線パターンに出現したピークについて解析した。なお、その他の測定条件は、管電圧40kV、管電流150mA、測定範囲2θ=5〜80deg、サンプリング幅0.02deg、走査速度4deg/minであった。また、セリウム系研摩材のX線回折測定結果から読み取った、2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅、2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピーク強度(A)に対する、2θ(回折角)=26.5deg付近の希土類オキシフッ化物のピーク強度(B)の強度比(B/A)を測定した。
【0053】
平均粒径D50の測定:レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置((株)堀場製作所製:LA−920)を使用してセリウム系研摩材の粒度分布を測定し、平均粒径D50(小粒径側からの累積体積50%における粒径)を求めた。
【0054】
研摩評価:得られたセリウム系研摩材を用いて研摩試験を行い、研摩速度、得られる研摩面の研摩傷を調査した。研摩試験は、まず、粉末状のセリウム系研摩材粉末と純水を混合して、固形分濃度が15重量%である研摩材スラリーを調製した。この研摩材スラリーを用い、研摩試験機(HSP−2I型、台東精機(株)製)によって65mmφの平面パネル用ガラスの表面を研摩した。そして、研摩終了後、平面パネル用ガラスを純水で洗浄し無塵状態で乾燥させた。なお、この研摩試験機は、研摩対象面に研摩材スラリーを供給しながら研摩パッドで研摩対象面を研摩するものであり、研摩パッドとしてポリウレタン製のものを用いた。研摩面に対する研摩パッドの圧力は、5.9kPa(60g/cm)とした。そして、研摩試験機の回転速度を100rpmに設定した。また、研摩材スラリーの供給量は5リットル/分の割合であった。
【0055】
研摩速度:研摩前後のガラス重量を測定して研摩によるガラス重量の減少量を求め、この値に基づき研摩値を求めた。本研摩試験では、この研摩値を用いて研摩速度を評価した。なお、本実施形態では、後述する比較例1によって得られたセリウム系研摩材を用いて研摩した場合の研摩値を基準(100)とした。
【0056】
研摩傷:研摩終了後、純水で洗浄し、無塵状態で乾燥させた研摩面について傷評価を行った。傷評価は、30万ルクスのハロゲンランプを光源として用いる反射法でガラス表面を目視により観察し、2mm以上の傷をカウントすることにより行った。この研摩傷は、50本を超える傷が確認された場合は、セリウム系研摩材としては実用的でないことの指標となる。また、精密研摩用には20本以下が好ましく、10本以下が特に好ましい。
【0057】
上記した実施例1の製造工程と同じ手順で、種々の条件を変更して実施例2〜36のセリウム系研摩材を製造した。
【0058】
この実施例2〜35の原料については、表1に示すように、炭酸セリウム(TREO45.2質量%、CeO/TREO99.99質量%)、炭酸ランタン(TREO43.0質量%、La/TREO99.99質量%)、炭酸プラセオジム(TREO44.6質量%、Pr11/TREO99.99質量%)、炭酸ネオジム(TREO43.3質量%、Nd/TREO99.99質量%)、炭酸イットリウム(TREO36.0質量%、La/TREO99.99質量%)を用い、表3〜6に示す各セリウム系研摩材の組成になるように秤量して混合した炭酸希土を原料として用いた。このような混合によって調整した原料により製造されるセリウム系研摩材は、原料組成と同じとなる。
【0059】
各原料は、混合したものを最初に450℃、12時間の仮焼処理を行った。そして、アトライタ(日本コークス工業(株)製)により、湿式粉砕処理を行った。粉砕媒体としては、直径5mmのステンレスボールを用い、粉砕した。尚、この湿式粉砕処理は、表2に示す平均粒径D50の値を目標に行った。
【0060】
そして、各組成の炭酸希土原料を用い、図2で示す工程フローに従い、各セリウム系研摩材を製造した。また、各実施例のセリウム系研摩材の製造条件を表2に示す。
【0061】
各実施例の製造条件の違いを説明する。実施例1〜6は、OREO/TREOの含有量を変化させたものである。そして、CeOとREO(La)との比率をCeO:REO=7:3にしたものである。実施例7〜11は、希土類酸化物の含有量を一定にして、フッ素含有量を変化させたため、ほぼ同じ平均粒径となるように焼成温度を調整したものである。実施例12〜17は、希土類酸化物の含有量(REO)を変化させ、ほぼ同じフッ素含有量にするため、フッ化水素の添加量を一定にするとともに、ほぼ同じ平均粒径となるように焼成温度を調整したものである。実施例18〜25は、得られるセリウム系研摩材のCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅を変化させるため焼成温度を変化したもので、焼成温度が高い場合にはフッ素が揮発しやすいため、フッ化水素の使用量も調整したものである。実施例26〜33は、仮焼処理後の湿式粉砕時間を変化させ、平均粒径を調整したものである。実施例34、35は、RE(REO)としてLa(La)ではないものを採用したもので、実施例34がNd(Nd)、実施例35がY(Y)としたものである。
【0062】
実施例36は、以下に示す比較例1の原料(一般的な研摩材原料である中国酸炭酸希土(TREO45質量%、CeO/TREO62.5質量%、La/TREO31.6質量%、Pr11/TREO5.3質量%、Nd/TREO0.6質量%、F/TREO<0.1質量%))を次のような手順を行って炭酸希土の原料とした。
【0063】
上記した中国産炭酸希土を、塩酸により溶解して、真空ろ過処理して得られた溶解ろ液を用いて、図3に示す溶媒抽出分離精製を行った。図3には、溶媒抽出の工程概略図を示している。この溶媒抽出では50段のミキサーセトラーを使用した。1段目に、2.0L/minで溶媒を供用した。抽出剤は、市販品のPC−88A(大八化学工業(株)製)を用い、希釈剤は、市販品のIPソルベント2028(出光興産(株)製)を用いた。この抽出剤と希釈剤との混合比率は、抽出剤が30vol%となるようにした。また、20段目には、溶解ろ液(TREO100g/L)を1.0L/minで供用した。40段目には1mol/L塩酸を0.2L/minで供用し、50段目には4mol/L塩酸を0.5L/minで供用し、また、5段目と10段目には、1mol/Lアンモニア水を0.2L/minで供用した。1段目からはCe−La液が産出され、41段目からはPr−Nd液が産出される。50段目から産出される溶媒はサービスタンクに戻り、1段目に供用するようにした。
【0064】
そして、得られた精製液(Ce−La液)を、TREOが50g/Lになるように水で希釈し、液温50℃になるまで加熱し、50g/L濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液をpH7.0になるまで約1時間かけて添加して、添加終了後10分間撹拌を継続し、その後真空ろ過処理をして、水洗することで、実施例36の炭酸希土原料(TREO45質量%、CeO/TREO66.1質量%、La/TREO33.9質量%)とした。この炭酸希土の原料を400℃、12時間の仮焼処理した後、表2に示す条件で、実施例36のセリウム系研摩材を製造した。
【0065】
比較のために、比較例1〜13のセリウム系研摩材を製造した。比較例1は、一般的な研摩材原料である中国酸炭酸希土(TREO45質量%、CeO/TREO62.5質量%、La/TREO31.6質量%、Pr11/TREO5.3質量%、Nd/TREO0.6質量%、F/TREO<0.1質量%))を炭酸希土の原料を400℃、12時間の仮焼処理を行い使用した。この比較例1の製造条件は表2に示す。
【0066】
また、比較例2〜13は、表1に示す原料を用い、上記実施例2〜35で説明した同じ要領で表3〜表5に示す各比較例のセリウム系研摩材と同じ組成の炭酸希土の原料を用いた。各組成の炭酸希土原料を400℃、12時間の仮焼処理した後、図2で示す工程フローに従い、比較例2〜13のセリウム系研摩材を製造した(各比較例のセリウム系研摩材の製造条件を表2に示す)。
【0067】
比較例1〜13の製造条件の相違について説明する。比較例1〜5は、実施例1〜6と同様にOREO/TREOの含有量を変化させたものである。比較例6、7は、実施例7〜11と同様で、希土類酸化物の含有量を一定にして、フッ素含有量を変化させたため、ほぼ同じ平均粒径となるように焼成温度を調整したものである。比較例8、9は、実施例12〜17と同様で、希土類酸化物の含有量(REO)を変化させ、ほぼ同じフッ素含有量にするため、フッ化水素の添加量を一定にするとともに、ほぼ同じ平均粒径となるように焼成温度を調整したものである。比較例10、11は、実施例18〜25と同様で、得られるセリウム系研摩材のCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅を変化させるため焼成温度を変化したもので、焼成温度が高い場合にはフッ素が揮発しやすいため、フッ化水素の使用量も調整したものである。比較例12、13は、実施例26〜33と同様で、仮焼処理後の湿式粉砕時間を変化させ、平均粒径を調整したものである。
【0068】
実施例1〜36、比較例1〜13のセリウム系研摩材について、組成、X線回折、平均粒径D50を調査した結果、研摩速度及び研摩傷に関する研摩評価結果を表3〜表6に示す。尚、実施例6については、データの比較基準として、表中の数カ所に記載した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
表3〜表6の結果より次のことが判明した。各OREO/TREOが0.5質量%以下、但し合計が2質量%以下((CeO+RE)/TREOが98%以上)であれば、研摩傷の発生が少ない。各OREO/TREOは小さいと研摩傷の発生が少ない(実施例1〜6、比較例1〜5)。
比較例5については、各OREO/TREOが0.5質量%以下であるが、(CeO+RE)/TREOが98%未満であり、実施例1と比較すると研摩傷の発生が多い結果となった。
【0076】
F含有量については、5〜15質量%が研摩傷の発生が少なく、特に5〜10質量%が好ましいことが判明した。
【0077】
CeO/TREOについては、研摩傷の発生を抑制できるという点からすると、50〜90質量%が好ましく、55〜85質量%がさらに好ましく、60〜80質量%が特に好ましいことが判明した(実施例12〜17、比較例8、9)。REO/TREOについては、研摩傷の発生を抑制できるという点からすると、10〜50質量%が好ましく、15〜45質量%がさらに好ましく、20〜40質量%が特に好ましいことが判明した(実施例12〜17、比較例8、9)。
【0078】
次に、X線回折測定におけるCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅については、研摩傷の発生を抑制できるという観点からすると、0.10deg以上が好ましく、0.15deg以上がさらに好ましく、0.20deg以上が特に好ましいことが判明した。また、研摩速度が大きいという観点からすると、1.0deg以下が好ましくは0.90deg以下がさらに好ましく、0.80deg以下が特に好ましいことが判明した(実施例18〜25、比較例10、11)。
【0079】
平均粒径D50については、研摩速度が大きいという観点からすると、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がさらに好ましく、0.4μm以上が特に好ましいことが判明した(実施例26〜33、比較例12、13)。そして、研摩傷の発生の観点からすると、3.5μm以下が、3.0μm以下がさらに好ましく、2.5μm以下が特に好ましいことが判明した。
【0080】
REOについては、実施例34、35、実施例6の結果より、La以外も使用可能であることが判明した。但し、研摩傷の発生を抑制する観点からすると、Laが最も好ましいものであった。
【0081】
実施例36の結果より、高純度希土類炭酸塩を複数種類混合しなくても、溶媒抽出により分離・精製を行えば同様な原料を製造できることが確認された。Ce−La系の場合は、特に溶媒抽出による製造が容易であり、低コストが実現できる。そして、比較例1の原料についても、原料提供地において溶媒抽出により分離・精製して製造されているものであるので、炭酸塩にすることなく、精製液を実施例36と同様な溶媒抽出にて分離・精製することができる。尚、通常入手可能な原料である中国産炭酸希土を用いた比較例1のセリウム系研摩材は、各実施例のセリウム系研摩材に比べると、研摩傷の発生が多い結果となっているが、特に精度を要求されない場合では実用可能な研摩速度、研摩傷レベルである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、研摩速度が大きいだけでなく、研摩傷の発生を極力低減した研摩面を実現できるセリウム系研摩材を提供することができる。そのため、より精度の高い研摩面、すなわち、研摩傷の発生が極力低減された研摩面を高速に仕上げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fを含有し、
希土類元素としてのCeと、
Ce以外の希土類元素であるY、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から選択される一種の希土類元素(REとする)を含有する、希土類酸化物を主成分とするセリウム系研摩材において、
セリウム系研摩材中のFの含有量は5.0〜15.0質量%であり、
全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める酸化セリウム(CeO)の質量の割合(CeO/TREO)は48質量%〜90質量%で、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、セリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)の質量の割合(REO/TREO)は8質量%〜50質量%で、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、酸化セリウムとセリウム以外の一種の希土類元素の酸化物(REO)との合計の質量の割合((CeO+REO)/TREO)は98質量%以上であり、
Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの14種から希土類元素REを除いた13種から選択される希土類元素(OREとする)は、全希土類酸化物換算質量(TREO)に占める、前記13種のOREにおける各酸化物(各OREO)の質量の割合((各OREO)/TREO)が0.5質量%以下の含有量であることを特徴とするセリウム系研摩材。
【請求項2】
X線源としてCu−Kα線またはCu−Kα1線を用いたX線回折法によってX線ピーク強度を測定したときに2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピークの半値幅が、2θで0.1〜1.0degである請求項1に記載のセリウム系研摩材。
【請求項3】
レーザ回折・散乱法粒度分布測定における小粒径側からの累積体積50%の平均粒径D50が0.2〜3.5μmである請求項1または請求項2に記載のセリウム系研摩材。
【請求項4】
REがLaである請求項1〜請求項3いずれか一項に記載のセリウム系研摩材。
【請求項5】
(各OREO)/TREOが、0.1質量%未満である請求項1〜請求項4いずれか一項に記載のセリウム系研摩材。
【請求項6】
X線源としてCu−Kα線またはCu−Kα1線を用いたX線回折法によってX線ピーク強度を測定したときに2θ(回折角)=28deg付近のCeOを主成分とする希土類酸化物のピーク強度(A)に対する、2θ(回折角)=26.5deg付近の希土類オキシフッ化物のピーク強度(B)の強度比(B/A)が、0.05〜1.0である請求項1〜請求項5いずれか一項に記載のセリウム系研摩材。
【請求項7】
請求項1〜請求項6いずれか一項に記載のセリウム系研摩材と水性液とを含むセリウム系研摩材スラリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−66370(P2012−66370A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215153(P2010−215153)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【特許番号】特許第4876183号(P4876183)
【特許公報発行日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】