説明

セルロースエステルフィルム、積層体、偏光板及び液晶表示装置

【課題】ある環境下において生じる支持体の寸法変化を抑止して環境変化による影響が低減されたパターン位相差フィルムの支持体として適したセルロースエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比が0.9以上1.1以下、60℃90%RHの環境下で24時間放置後幅手方向の湿熱寸法変化が−0.2%以上0.2%以下、幅手方向の湿度寸法変化率が0.38%以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、積層体、偏光板及び液晶表示装置に関する。より詳しくは、立体映像(3D映像)を表示でき、かつ二次元映像(2D映像)も表示できる2D−3D併用映像表示パネル及び映像表示システムと、該映像表示パネルに用いるパターン位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
映し出された映像が浮き出るように立体視でき、迫力ある映像を楽しむことができる3D映像表示分野において、近年、3D映画が急速に一般に受け入れられたことに伴い、より身近な場面であるフラットパネルディスプレイにおける3D映像表示が大きな注目を浴び始めている。従来、立体表示(3D表示)には裸眼で立体視する種々の方式や専用眼鏡を用いる種々の方式が知られているが、3D映画を映画館で座って鑑賞する場合とは異なり、日常生活において動きのある中で映像を見ることができる観点から、専用眼鏡を用いる方式が注目されている。
【0003】
一方、フラットパネルディスプレイ用の3D映像のコンテンツはいまだ十分とは言えないのが現状である。そのため、2D表示(二次元表示)と3D表示間の切り替えが容易に可能であり、かつ、2D映像及び3D映像がともに高画質で表示できるような映像表示方式が求められている。これらの要望を満たす方式として、眼鏡シャッター方式(アクティブ眼鏡方式)と偏光眼鏡方式(パッシブ眼鏡方式)の2つの方式が特に注目されている。また、近年高画質化が進んだフラットパネルディスプレイ分野においては、これら2つの方式しか従来のフラットパネルディスプレイにおける高画質を維持し、高品位な3D映像を提供することができないと考えられているのが実情であり、その中でも比較的低コストであって広く普及し得る観点から、偏光眼鏡方式のさらなる改良が求められている。
【0004】
偏光眼鏡方式は、ディスプレイ上に左眼用画像と右眼用画像を表示し、ディスプレイから出射された左眼用画像光と右眼用画像光をそれぞれ異なる2種の偏光状態(例えば、右円偏光と左円偏光)とし、右円偏光透過偏光板と左円偏光透過偏光板から構成される偏光眼鏡を通して、ディスプレイを観察することで立体感を得るものである(特許文献1参照)。また、偏光眼鏡方式におけるディスプレイへの左眼用の画像と右眼用の画像の表示方法として、左眼用の画像と右眼用の画像について、それぞれ元画像の半分ずつをディスプレイの半分に表示する画面分割方式が採用されている。画面分割方式としては、ラインバイライン方式が広く採用されており、ディスプレイの走査線(以下、ラインとも言う)の奇数ラインと偶数ラインに、それぞれ左眼用の元画像の1ラインおきとなるように画素数を半分にした左眼用画像の半分と、右眼用の元画像の1ラインおきとなるように画素数を半分にした右眼用画像の半分を表示する方式である。また、ディスプレイから出射された左眼用の画像光と右眼用の画像光をそれぞれ異なる2種の偏光状態にする方法としては、ライン幅に合わせて異なる位相差が繰り返し帯状にパターニング配置されているパターン位相差フィルムをディスプレイ上に貼る方法が広く採用されている。
【0005】
近年、このような映像表示装置のライン幅に合わせて異なる位相差が繰り返し帯状にパターニング配置されているパターン位相差フィルムについて、さらなる改良と製造コストの低下が3D映像表示装置の普及のために求められてきている。
ここで、このようなパターン位相差フィルムの製造方法として様々な方法が知られている(特許文献1〜5参照)。
【0006】
特許文献1〜5等に記載されたポリマーフィルム上に作製されたパターン位相差フィル
ムを用いた3D表示装置では、パネルを点灯させた後にパターニング間隔と画素に経時的に生じるズレによって発生するクロストークが視認されることが判明し、その要因としてポリマーフィルムの膨張を抑制することで寸法変化を抑えることが特許文献6に記載されている。
特許文献6の記載では、セルロースエステルフィルムを1方向に延伸し、1方向の熱膨張係数及び湿度膨張係数を小さくすることにより、特定方向の寸法変化を抑えられるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,327,285号
【特許文献2】特開2001−59949号公報
【特許文献3】特開平10−161108号公報
【特許文献4】特開平10−160933号公報
【特許文献5】特開平10−153707号公報
【特許文献6】国際公開第2011/102492号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献6に記載の技術により一定の効果は得られるものの、近年、3D−TVにはさらに厳しい品質要求がなされており、高温高湿環境下でも表示品質が低下しないことが求められるようになってきている。そのため、温度以外の環境変化についても考慮する必要に迫られている。
以上のような状況を鑑み、本発明の目的は、位相差フィルムの支持体として用いることができ、ある環境下において生じる寸法変化を抑止して環境変化による影響が低減されたセルロースエステルフィルムを提供することである。また本発明の他の目的は、該セルロースエステルフィルム上に光学異方性層を有し、位相差フィルムとして用いることのできる積層体を提供することである。更に本発明の他の目的は、該セルロースエステルフィルムや積層体を用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の様に特許文献6では、セルロースエステルフィルムを延伸処理することにより特定方向の寸法変化を抑える技術が提案されている。このように、これまでは、延伸処理によりポリマーを配向させることで、ポリマーフィルムの特定方向(例えば、配向方向と直交する方向)の寸法変化を抑制できると考えられていた。
しかし、本発明者らが検討した結果、吸湿による可逆的な寸法変化以外に、高温高湿環境下におかれると不可逆的な寸法変化が発生して表示品質を低下させてしまう現象が確認され、可逆的な寸法変化と不可逆的な寸法変化の2種類が存在することが分かった。以降、前者を「湿度寸法変化」、後者を「湿熱寸法変化」と称する。
延伸処理はフィルムの湿度寸法変化を低減するが、過剰な延伸処理は湿度寸法変化をさらに低減させる一方、湿熱寸法変化を悪化させるためにトータルとしての寸法変化を悪化させてしまう。
【0010】
発明者らは以下の推論のもと、上述の湿度寸法変化と湿熱寸法変化の抑止を両立させる方法として、ある条件の延伸処理を施してセルロースエステルフィルムの音速比を特定の範囲にすることで、湿度寸法変化率を低減するだけでなく、湿熱寸法変化を低減し、湿熱環境下における品質要求に応えることが出来ることを見出した。
まず、湿度寸法変化はフィルム中への水分の出入りによって発生する。これは、水分子がポリマー(セルロースエステル)の隙間に入り込んだときに水分子がポリマー鎖間を押し広げるためと考えた。湿度寸法変化は可逆な寸法変化であり、湿度を戻せば水分子が抜
けるため、寸法も元に戻る。
一方、湿熱寸法変化は延伸処理によって生じたフィルム内部の残留応力によって発生すると考えた。常温常湿では残留応力によってフィルムの変形は発生しないが、高温高湿環境になるとフィルムが軟化するため、残留応力が解放されることによってフィルムが変形する。湿熱寸法変化は残留応力が解放されることにより生じる不可逆な寸法変化であり、温湿度を戻しても寸法は元に戻らない。
よって、湿度寸法変化と湿熱寸法変化は異なる因子によって引き起こされるため、それぞれを独立に制御することができれば、湿度寸法変化と湿熱寸法変化の抑止の両立は可能となる。
【0011】
本発明者らは、検討の結果、セルロースエステルのポリマー分子鎖を延伸処理で配向させることで水分子の進入できる領域を低減させつつ膨張の方向を定めることにより可逆的寸法変化を抑制し、一方で延伸条件を定めることにより延伸処理によって生じる残留内部応力を低減させて不可逆的寸法変化を抑制できることを見出した。
【0012】
つまり、セルロースエステルフィルムを1方向にある条件下で延伸し、特定方向のセルロース分子鎖の状態を安定化させることにより、特定方向の寸法変化を抑えることができることを見出した。
【0013】
即ち、上記課題は、以下の手段により解決される。
(1)
幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比が0.9以上1.1以下、60℃90%RHの環境下で24時間放置後の幅手方向の湿熱寸法変化が−0.2%以上0.2%以下、幅手方向の湿度寸法変化率が0.38%以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
(2)
幅手方向の湿度寸法変化のばらつきが10%以下であることを特徴とする(1)に記載のセルロースエステルフィルム。
(3)
面内位相差Reが0nm以上5nm以下であり、かつ、厚み方向位相差Rthが0nm以上50nm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のセルロースエステルフィルム。
(4)
フィルムの幅が1.8m以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(5)
前記セルロースエステルの総アシル置換度が2.7〜3.0であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(6)
前記セルロースエステルフィルムは添加剤を含んでなり、前記添加剤がセルロースエステルに対して10質量%以上添加されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(7)
(1)〜(6)のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム上の少なくとも一方に光学異方性層を有することを特徴とする積層体。
(8)
前記光学異方性層は屈折率が異なる複数の領域からなり、長手方向にパターン状に配置されてなることを特徴とする(7)に記載の積層体。
(9)
光学異方性層は第一位相差領域と第二位相差領域が、幅手方向に交互に配置されてなる
ことを特徴とする(8)に記載の積層体。
(10)
(1)〜(6)のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム、又は、(7)〜(9)のいずれか一項に記載の積層体を保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
(11)
(10)の偏光板を、前記セルロースエステルフィルム又は前記積層体である保護フィルムが最も視認側に近い保護フィルムとなる様に配置したことを特徴とする液晶表示装置。
(12)
有機溶剤にセルロースエステルが溶解した溶液を用いて支持体上にウェブを形成し、該ウェブを支持体から剥離する成膜工程と、
幅手方向に10%以上40%以下延伸する延伸工程を有し、延伸工程を経てフィルムとした後、幅手方向に異なる位相差領域を配置した光学異方性層を積層することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
(13)
前記光学異方性層は塗布によって形成されることを特徴とする(12)に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位相差フィルムの支持体の環境による寸法変化の小さいセルロースエステルフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該セルロースエステルフィルム上に光学異方性層を有し、位相差フィルムとして用いることのできる積層体を提供でき、更に、該セルロースエステルや積層体を用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することである。特に3D併用映像表示パネルにおいては、ポリマーフィルム上に、互いに複屈折率が異なる第一位相差領域と第二位相差領域を有し、前記第一位相差領域と前記第二位相差領域が1ラインごとに交互にパターン化された光学異方性層を設けたパターン位相差フィルムを適用する場合、パターンと直交する方向でポリマーフィルムの収縮が起こると、位相差領域とパネルの画素との間にずれが生じてクロストークの原因となるが、本発明では効果的に防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
本明細書において、「平行」、「直交」とは、厳密な角度±10゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は厳密な角度との誤差は、±5゜未満であることが好ましく、±2゜未満であることがより好ましい。また、「実質的に垂直」とは、厳密な垂直の角度よりも±20゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は厳密な角度との誤差は、±15゜未満であることが好ましく、±10゜未満であることがより好ましい。また、「遅相軸」は、屈折率が最大となる方向を意味する。更に屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域のλ=550nmでの値である。
【0017】
本明細書において、「偏光板」とは、特に断らない限り、長尺の偏光板及び液晶表示装置に組み込まれる大きさに裁断された(本明細書において、「裁断」には「打ち抜き」及び「切り出し」等も含むものとする)偏光板の両者を含む意味で用いられる。また、本明細書では、「偏光膜」及び「偏光板」を区別して用いるが、「偏光板」は「偏光膜」の少なくとも片面に該偏光膜を保護する透明保護膜を有する積層体を意味するものとする。
【0018】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【0019】
【数1】

【0020】
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
式(A)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚である。
【0021】
式(B)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0022】
式(B)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚である。
【0023】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は
算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0024】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:
セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出する。
なお、本明細書において、特に断らない限り、測定波長は550nmとする。
【0025】
(セルロースエステルフィルム)
一般に、ポリマーフィルム上に光学異方性層を設けた位相差フィルムは、特に円偏光若しくは直線偏光メガネ方式の3Dディスプレイ用途として用いる時は、画素単位のパターニング周期を持たせる。この場合、例えばディスプレイ点灯時、バックライトの放熱によりディスプレイの表面温度は上昇し、その影響でポリマーフィルムの寸法は変化することがある。その寸法変化に伴って画素ずれがおこり、右目用画像が左目に認識される、若しくは、左目用画像が右目に認識されるという、いわゆるクロストークが発生する。したがって、ポリマーフィルムとしては、その寸法変化を抑制することが望ましい。
本発明のセルロースエステルフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)では、幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比が0.9以上1.1以下、60℃90%RHの環境下で24時間放置後の幅手方向の湿熱寸法変化が−0.2%以上0.2%以下、幅手方向の湿度寸法変化率が0.38%以下である。
以下、本発明のフィルムについて、説明する。
【0026】
<セルロースエステル>
前記セルロースエステルとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、1種類のセルロースエステルから構成してもよいし、2種類以上のセルロースエステルから構成してもよい。
セルロースエステルとしては、セルロースアシレートが好ましい。
【0027】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、特に定めるものではない。アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0028】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて簡単に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を炭
素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位に位置するセルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は1.5〜3.0であることが、好ましく、2.0〜3.0であることがより好ましく、2.5〜3.0であることが更にまた好ましく、2.7〜3.0であることが更に好ましく、2.70〜2.98であることが特に好ましい。また、製膜性の観点からは場合により、2.80〜2.95であることが好ましく、2.85〜2.90であることが特にまた好ましい。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0029】
これらセルロースに関しては、国際公開第2011/102492パンフレットの段落番号0034から0039の記載を参考にすることができる。
【0030】
本発明に係るセルロースエステルは、吸湿率が0.5%以上であることが好ましい。ポリマーの吸湿率は後述するポリマーの化学構造を調整することで制御することができ、吸湿率を適切に設定することによってフィルムの吸湿膨張係数を制御することが可能となる。吸湿率と吸湿膨張係数との関係は、例えば、結晶化度や分子量、絡み合いの度合いのような、フィルム中におけるポリマーの相互作用の大きさによって変化するため、一義的に対応させることはできないが、概して言えば、後述のようにポリマーの親水性を上げ、吸湿率を上げることによって、吸湿膨張係数を増大させることができる。
ポリマーの吸湿率は0.5%以上とする。好ましくは0.7%以上であり、より好ましくは1.0%以上である。また、上限については特にないが、実用上の観点から、10%以下であることが好ましく、7.0%以下であることがより好ましい。
吸湿率の測定法は、フィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0031】
<添加剤>
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、添加剤を添加することができ、これによって湿度寸法変化率の制御の一助とすることができる。添加剤の分子量は特に制限されないが、後述の添加剤を好ましく用いることができる。
添加剤を加えることによって、湿度寸法変化率の制御に加えて、フィルムの熱的性質、光学的性質、機械的性質の改善、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
添加剤の添加量としては、上記種々の効果を発現させる観点から、セルロースエステルに対して10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。上限としては、80質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることが好ましい。添加剤を2種類以上用いた場合には、その合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0032】
例えば機械的な性質の制御としては、フィルムへの可塑剤添加が挙げられ、参考となる可塑剤の事例としては、リン酸エステル、クエン酸エステル、トリメリット酸エステル、糖エステルなどの既知の各種エステル系可塑剤や国際公開第2011/102492パンフレットの段落番号0042から0068のポリエステル系ポリマーの記載を参考にすることができる。
【0033】
また、光学的な性質の制御として、紫外線や赤外線の吸収能の付与には、国際公開第2011/102492パンフレットの段落番号0069から0072の記載を参考にすることができ、フィルムの位相差の調整や発現性制御のためには既知のレターデーション調整剤を用いることができる。
【0034】
[セルロースエステルフィルムの製造方法]
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。以下、セルロースアシレートを例に説明するが、他のセルロースエステルの場合も同様に製膜することができる。
セルロースアシレートを含むフィルムは溶液流延製膜法又は溶融製膜法を利用して製膜することができる。
【0035】
(ポリマー溶液)
溶液流延製膜方法では、前記セルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(セルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができる本発明におけるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液と称する場合もある)について説明する。
【0036】
本発明におけるポリマー溶液の主溶媒としては、セルロースアシレートの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることが更に好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。本発明においては、後述の溶媒群のうち、特にハロゲン化炭化水素を主溶媒として好ましく用いることができ、ハロゲン化炭化水素の中では塩素化炭化水素が好ましく、ジクロロメタン及びクロロホルムが更に好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。また、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上の溶媒を全溶媒に対し1〜15質量%含有する溶媒を用いることができ、1〜10質量%含有する溶媒を用いることが好ましく、1.5〜8質量%含有する溶媒を用いることがより好ましい。そして、沸点が95℃以上の溶媒は、セルロースアシレートの貧溶媒であることが好ましい。沸点が95℃以上の溶媒の具体例としては、後述する「主溶媒と併用される有機溶媒」の具体例のうち沸点が95℃以上の溶媒を挙げることができるが、中でもブタノール、ペンタノール、1,4−ジオキサンを用いることが好ましい。更に、本発明に用いられる本発明におけるポリマー溶液の溶媒はアルコールを5〜40質量%含有し、10〜30質量%含有することが好ましく、12〜25質量%含有することがより好ましく、15〜25質量含有することが更に好ましい。ここで用いるアルコールの具体例としては、後述する「主溶媒と併用される有機溶媒」のアルコールとして例示されている溶媒を挙げることができるが、中でもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールを用いることが好ましい。なお、前記の「沸点が95℃以上の溶媒」がブタノールなどのアルコールである場合は、その含有量もここでいうアルコール含有量にカウントする。このような溶媒を用いることにより、作製したセルロースアシレートフィルムの熱処理温度における力学強度を上昇させることができるため、熱処理中に必要以上に延伸されて、得られたフィルムが割れやすくなることを防ぐことができる。
【0037】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を特に好ましく挙げることができ、場合により、エステル、ケトン、エーテル、アルコール及び炭化水素などが挙げることもでき、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。更に、前記エステル、ケトン、エー
テル及びアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる本発明におけるポリマー溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
【0038】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタン及びクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンが更に好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0039】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコール及び炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。更に、前記エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0040】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタン及びクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンが更に好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール又はブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0041】
本発明において、セルロースエステルフィルムを構成するポリマーは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、更に好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0042】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0043】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0044】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。更に、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0045】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0046】
本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。これらの添加剤の添加量増大に伴い、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなるため、分子量3000以下の添加剤の添加量は、前記セルロースアシレートに対し0.01〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましい。
【0047】
(ポリマー溶液の調製)
本発明におけるポリマー溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後
、これをろ過して本発明におけるポリマー溶液を得る。
【0048】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒との混合物を冷却及び/又は加熱する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0049】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(a)又は(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
更に、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程よりも前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却よりも後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0050】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(c)又は(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0051】
(ウェブの製膜)
本発明におけるウェブは、本発明におけるポリマー溶液を用いて溶液流延製膜方法により形成することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従って、公知の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(本発明におけるポリマー溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製する。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(ドープ流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0052】
本発明においては、ウェブの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンド又は金属ドラムを使用することができる。
【0053】
(延伸工程)
本発明に係るセルロースエステルフィルムの製造方法は、セルロースエステルを含むフィルム全体を特定の方向に延伸する工程を含む。本発明に係るセルロースエステルフィルムは、延伸することによって、延伸方向の熱膨張係数と湿度寸法変化率を低減させることができる。延伸は、長手方向(フィルムを搬送する搬送方向に対応)と直交する幅手方向に10%以上40%以下延伸する。更に、幅手方向と一致しない方向(例えば、長手方向
)への延伸と組み合わせた二軸延伸でもよい。
幅手方向への延伸倍率は、10〜40%であり、15〜40%であることが好ましい。また、長手方向への延伸倍率は、0〜20%が好ましく、0〜10%がより好ましく、0〜5%が更に好ましい。
フィルムのヘイズを上昇させずに延伸して弾性率の異方性を制御する方法については、特定の条件で延伸する特開2007−176164等に記載の延伸方法や、一旦ヘイズを上昇させてからヘイズを低下させる特開2009−137289等の記載の延伸方法を好ましく用いることができる。また、フィルム中に溶媒を残した状態で延伸して弾性率の異方性を制御する方法については、特開2007−119717等に記載の延伸方法を好ましく用いることができる。
なお、本明細書でいう「延伸倍率(%)」とは、延伸方向でのフィルムの長さに関する以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0054】
また、延伸工程におけるウェブの延伸速度は、特に限定されるものではないが、延伸適正(シワ、ハンドリングなど)の観点から、1〜1000%/minが好ましく、1〜100%/minが更に好ましい。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。また、更に、搬送方向に対して直行する方向(横方向)に延伸を加えてもよい。
【0055】
延伸工程を経たウェブは、続いて乾燥ゾーンへ搬送して延伸工程後に乾燥工程を実施してもよい。前記乾燥工程においてウェブは、テンターで両端をクリップされたり、ロール群で搬送したりしながら乾燥される。
【0056】
[湿度寸法変化率]
本発明におけるセルロースアシレートフィルムの湿度寸法変化率を測定する際には、フィルムの幅手方向を測定方向として、該測定方向に12cmの長さで、幅3cmのフィルム試料を切り出す。該試料に測定方向に沿って10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL0とする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度寸法変化率を算出することができる。
湿度寸法変化率[%]=(L1−L0)*100/L0
本発明のセルロースエステルフィルムの幅手方向の湿度寸法変率化は、0.38%以下であり、0〜0.35%が更に好ましく、0〜0.30%が最も好ましい。
【0057】
湿度寸法変化率の幅手方向ばらつきは、10%以下であることが好ましく、0〜7%がより好ましく、0〜5%が最も好ましい。
ここで、湿度寸法変化のばらつきは、幅手方向に等間隔になるように選んだ5箇所の湿度寸法変化を測定し、そのときの最大値と最小値の差を5箇所の平均値で割って算出する。
湿度寸法変化率のばらつきが大きいと湿度寸法変化の局所的な差が大きくなるため、積層する光学異方性層がその変形に追従してしまい、光学異方性層をパターン状に形成した場合にパターンの変形が起こりやすくなり表示性能の低下がより強調される。湿度寸法変化率のばらつきは、幅手方向延伸実施領域でのフィルム温度やフィルム中溶媒量にばらつきが原因となってフィルム内の分子鎖の状態が一様でない状態に起因すると推定している。本発明においては残留応力の抑制を目的として延伸条件を一様となる様にしているため(例えば、乾燥風量、乾燥風温度が幅手方向に均一にすることが好ましい)、フィルム中の分子鎖の状態に均一性が向上するために水分や溶媒等がとりこまれる自由体積のばらつきが低減され、湿度寸法変化率の幅手方向ばらつきが低減された結果、改善されると考え
た。
【0058】
[音速]
本発明においてセルロースエステルフィルムの幅手方向及び長手方向の音速は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて測定できる。測定結果より、幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比を算出することができる。
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比を0.9以上1.1以下とする。好ましくは0.95以上1.10以下である。音速比がこの範囲にあるフィルムは、残留応力が抑制されており、湿熱寸法変化を抑制することができる。
【0059】
[湿熱寸法変化率]
本発明においてセルロースアシレートフィルムの湿熱寸法変化率を測定する際には、フィルムのいずれか一方の方向を測定方向として、該測定方向に12cmの長さで、幅3cmのフィルム試料を切り出す。該試料に測定方向に沿って10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL10とする)。次いで、試料を60℃、相対湿度90%にて24時間放置後、25℃、相対湿度60%で2時間放置した後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL11とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿熱寸法変化率を算出することができる。
湿度寸法変化率[%]=(L11−L10)*100/L10
本発明のセルロースエステルフィルムの幅手方向の湿熱寸法変率化は、−0.2%以上0.2%以下であり、−0.15%以上0.15%以下が好ましい。
【0060】
[セルロースエステルフィルムのレターデーション]
本発明のセルロースエステルフィルムは、面内位相差(面内のレターデーション)Reが0nm以上5nm以下であり、かつ、厚み方向位相差(厚さ方向のレターデーション)Rthが0nm以上50nm以下であることが、フィルム上にパターン位相差層を設けた場合に該パターン位相差層への光学的な影響を少なくできるので好ましい。
【0061】
[セルロースエステルフィルムの幅]
本発明のセルロースエステルフィルムは、フィルムの幅が1.8m以上であることが好ましく、1.9〜4mであることがより好ましく、2.2〜3mであることが更に好ましい。
【0062】
(積層体)
本発明の積層体は、前記セルロースエステルフィルム上の少なくとも一方に光学異方性層を有する。該積層体は、位相差を有する光学フィルム(例えば、位相差フィルム)として用いることができる。
前記光学異方性層は、パターン位相差層の形成方法として後述するように様々な形成方法があるが、塗布によって形成することが好ましい。
【0063】
(パターン位相差層)
前記光学異方性層の好ましい態様としては、屈折率が異なる複数の領域からなり、長手方向にパターン状に配置されてなる態様(この態様の光学異方性層をパターン位相差層とも言う)が挙げられる。
また、パターニングのパターンの長手方向(パターンの長辺の方向)は、セルロースエステルフィルムの音速最大方向に対して略直交でも略平行でも良いが、寸法変化抑制の観点からは、略直交であることが好ましい。
また、ロールトゥーロールが容易に可能であり、寸法変化が起きてもしわになりにくいという観点からは、略平行であることが好ましい。
【0064】
前記パターン位相差層は、第一位相差領域(単に第一領域とも言う)と第二位相差領域(単に第二領域とも言う)とが、幅手方向に交互に配置されてなることが好ましい。第一位相差領域と第二位相差領域としては、互いに屈折率が異なる態様や遅相軸の方向が異なる態様が挙げられる。
【0065】
(第一領域と第二領域の形状)
前記第一位相差領域と前記第二位相差領域が1ラインごとに交互にパターン化されていることが好ましい。前記第一領域と前記第二領域が、互いの短辺の長さがほぼ等しい帯状であり、かつ交互に繰り返しパターニングされていることが、3D映像表示システム用に用いる観点から好ましい。
【0066】
本発明の積層体では、前記第一領域の遅相軸と前記第二領域の遅相軸が略直交することが、3D映像表示をするときに前記第一領域と前記第二領域を通過した光の偏光状態を直線偏光から円偏光、又は円偏光から直線偏光に変えることができる観点から好ましい。
また、本発明の積層体では、前記第一領域の遅相軸と前記第二領域の遅相軸が直交することが、3D映像表示をするときに前記第一領域と前記第二領域を通過した光の偏光状態を、楕円偏光させずに、直線偏光から円偏光、又は円偏光から直線偏光に変えることができる観点から、より好ましい。
【0067】
本発明の積層体では、パターンの長辺の方向と、支持体の音速が最大となる方向とが略直交であることが、パターン領域と画素のずれを低減し、クロストークを抑制できる観点から好ましい。
【0068】
(レターデーション)
前記のように直線偏光から円偏光、又は円偏光から直線偏光に変換する機能を有するパターン位相差層は波長の1/4のレターデーションを持つことが好ましい。一般に4分の1波長板と呼ばれ、可視光の波長550nmにおいてはRe=137.5nmが理想値となる。
また、直線偏光から円偏光、又は円偏光から直線偏光に変換するパターン位相差層は波長の1/4のレターデーションを有するものだけではない。例えば、波長の−1/4や3/4のレターデーションでもよく、一般式で表すと波長の1/4±n/2(nは整数)のレターデーションを有すればよい。
前記第一領域の遅相軸と前記第二領域の遅相軸が直交するパターニングは、波長の−1/4や1/4のレターデーションを有する領域を交互に形成すればよい。この時、互いの領域の遅相軸はほぼ直交する。また、波長の1/4と3/4のレターデーションをパターニングしてもよく、この時の互いの領域の遅相軸はほぼ平行になる。ただし、互いの領域の円偏光の回転方向は逆になる。
更に、波長の1/4と3/4のレターデーションのパターニングは、波長の1/4を全面に形成後、波長の1/2又は−1/2のレターデーションを形成してもよい。
本発明の積層体は、波長の1/4のレターデーションを持たせる場合、積層体中に含まれる前記第一領域のRe(550)値と、積層体中に含まれる前記第二領域のRe(550)値が30〜250nmであることが好ましく、50〜230nmであることがより好ましく、100〜200nmであることが特に好ましく、105〜180nmであることがより特に好ましく、115〜160nmであることが更に好ましく、130〜150nmであることがより特に好ましい。
【0069】
また、3D映像表示をするときに前記第一領域と前記第二領域を通過した光の偏光状態を直線偏光から円偏光、又は円偏光から直線偏光に変えることができる観点からの観点か
ら、パターン位相差層とセルロースエステルフィルムとの全体のRe(550)が110〜165nmであることが好ましく、110〜155nmであることがより好ましく、120〜145nmであることが更に好ましい。特に、パターン位相差層とセルロースエステルフィルムとの全体のRe(550)が上記範囲であり、かつ第一領域と第二領域の遅相軸が略直交していることが精度良く右目用画像と左目用画像の偏光状態を変えることができる観点から好ましい。
【0070】
(パターン形成方法)
前記第一領域と第二領域は様々な方法で形成が可能である。以下にその方法の例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
[パターン露光]
位相差層のパターニングのために、パターン露光を行うことができる。
パターン露光とは、複屈折パターン作製材料の2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を行うことを意味する。このときの「2つ以上の領域」は互いに重なる部位を有していても有していなくてもよいが、互いに重なる部位を有していないことが好ましい。パターン露光は単に未露光部及び露光部のみを生じるパターン露光であってもよい。この場合、通常位相差を残したい領域を露光する。また、パターン露光は未露光部及び露光部の中間調となる1個以上の露光条件による露光部を含むパターン露光であってもよい。パターン露光は1回の露光によって行われても複数回の露光によって行われてもよい。例えば、領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスク等を用いて1回の露光によって行われていてもよく、又は両者が組み合わされていてもよい。
【0072】
露光条件としては、特に限定はされないが、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、露光量、露光時の温度、露光時の雰囲気等が挙げられる。この中で、条件調整の容易性の観点から、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、及び露光量が好ましく、露光照度、露光時間及び露光量が更に好ましい。パターン露光時に相異なる露光条件で露光された領域はその後、焼成を経て相異なる、かつ露光条件によって制御された複屈折性を示す。特に異なる位相差量を与える。なお、異なる露光条件で露光された2つ以上の露光領域間の露光条件は不連続に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0073】
[マスク露光]
露光条件の異なる露光領域を生じる手段として、露光マスクを用いた露光は有用である。例えば1つの領域のみを露光するような露光マスクを用いて露光を行った後に、温度、雰囲気、露光照度、露光時間、露光波長を変えて別のマスクを用いた露光や全面露光を行うことで、先に露光された領域と後に露光された領域の露光条件は容易に変更することができる。また、露光照度、あるいは露光波長を変えるためのマスクとして領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスクは特に有用である。この場合、ただ一度の露光を行うだけで複数の領域に対して異なる露光照度、あるいは露光波長での露光を行うことができる。異なる露光照度の元で同一時間の露光を行う事で異なる露光量を与えることができることは言うまでもない。
また、レーザーなどを用いた走査露光を用いる場合には、露光領域によって光源強度を変える、走査速度を変えるなどの手法で領域ごとに露光条件を変えることが可能である。
【0074】
パターン露光の手法としてはマスクを用いたコンタクト露光、プロキシ露光、投影露光などでもよいし、レーザーや電子線などを用いてマスクなしに決められた位置にフォーカスして直接描画してもよい。前記露光の光源の照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することが更に好ましい。感光性樹脂層により同時に段差を形成する場合には樹脂層を硬化しうる波長域の光(例えば、365nm、405nmなど)を照射することも好ましい。具体的には、超高圧水
銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、青色レーザー等が挙げられる。好ましい露光量としては通常3〜2000mJ/cm程度であり、より好ましくは5〜1000mJ/cm程度、更に好ましくは10〜500mJ/cm程度、最も好ましくは10〜100mJ/cm程度である。
【0075】
[加熱(ベーク)]
パターン露光された位相差層に対して50℃以上400℃以下でベークを行うことにより、上記パターン露光時の露光条件に応じたパターンで位相差量のパターニングが行われる。用いられた位相差層の露光前のレターデーション消失温度をT1[℃]、露光後のレターデーション消失温度をT2[℃]とした場合(レターデーション消失温度が250℃以下の温度域にない場合はT2=250℃とする)、ベーク時の温度はT1℃以上T2℃以下が好ましく、(T1+10)℃以上(T2−5)℃以下がより好ましく、(T1+20)℃以上(T2−10)℃以下が最も好ましい。
レターデーション消失温度が上昇する位相差層を用いている場合、露光を行う事によりベークによって層中の未露光部のレターデーションが低下し、一方で露光部はレターデーションの低下が小さく、若しくは全く低下しないかあるいは上昇し、結果として未露光部のレターデーションが露光部のレターデーションに比較して小さくなり、軸の有無又は位相差量のパターンが作製される。
【0076】
[軸方向のパターニング]
軸方向のパターニングの方法については、特に限定されないが、好ましくは配向層を利用して、位相差層の光軸(遅相軸)の方向のパターニングを行うことができる。
光配向層上に設けられた液晶性化合物を含む層、好ましくは光配向層上に直接設けられた液晶性化合物を含む層は、紫外光が照射されると、光配向層が作製された偏光紫外光の偏光方向に、液晶分子が配向する。同様に、ラビング配向層上に設けられた液晶性化合物を含む層、好ましくはラビング配向層上に直接設けられた液晶性化合物を含む層は、紫外光が照射されるとラビングされた方向に液晶分子が配向する。
【0077】
従って、光配向層上にパターン位相差層を設ける際には、配向材料を含む光配向層形成用組成物から形成された層に上記のパターン位相差層の作製時に用いられるパターン露光の手法と同様の手法により、偏光紫外光をパターン照射し、この層の光配向性をパターニングする。得られた光配向層の上に液晶性化合物を含む組成物を塗布、乾燥等させた後、紫外光を照射することにより軸方向がパターニングされた位相差層を得ることができる。同様に、ラビング配向層上にパターン位相差層を設ける際には、ラビング配向層形成用組成物から形成されたラビング前の層にマスク等を介して、ラビングを行い、この層のラビング方向をパターニングする。得られたラビング配向層の上に液晶性化合物を含む組成物を塗布、乾燥等させた後、紫外光を照射することにより軸方向がパターニングされた位相差層を得ることができる。
【0078】
(転写材料を用いた作製方法)
本発明のパターン位相差層の形成は転写材料を用いて行ってもよい。転写材料を用いることにより、有機溶剤を利用する塗布を、パターニング材料を作製する場所と別の場所で行うことができ、パターニング材料を使用する際の作業及び設備負担が軽減する。転写材料としては各種公知のものを使用でき、例えば特開2009−223001号公報中、[0090]〜[0097]記載のもの等を使用できる。
【0079】
[インクジェット法による光学異方性層の形成]
次に、上記光学異方性層を任意形状にインクジェットを用いて形成する実施の形態について説明する。
本実施の形態では、所定の光学異方性を発現する溶液等の流体を、インクジェット装置
を用いて吐出して、微細領域内(例えば、表示画素の横ラインを1ライン毎の帯状)に前記流体からなる層を形成する。前記流体は、液晶性化合物の少なくとも一種を含有するのが好ましく、中でも特開2007−270686号公報記載の一般式(I)又は一般式(II)で表される化合物を少なくとも一種含有していることが好ましい。乾燥後に液晶相を形成するように調製されたものが好ましい。インクジェットにより吐出可能であればよく、液晶性化合物等の材料の一部又は全部が分散した分散液を用いてもよいが、溶液であるのが好ましい。
【0080】
本態様においても、前記光学異方性層を配向膜上に形成してもよい。即ち、あらかじめ配向膜を形成し、該配向膜の微細領域に、前記流体を吐出させてもよい。本実施の形態に利用可能な配向膜は、前記転写法の実施の形態に利用可能な配向膜の例と同様である。前記配向膜の形成方法については特に制限されないが、本実施の形態では、光学異方性層の形成と同様、インクジェット法により形成するのが好ましい。前記流体の吐出が完了した後、所望により該流体の層の乾燥を行い、液晶相を形成し、露光することによって硬化させて、光学異方性層を形成する。液晶相を形成するために、所望により加熱してもよく、その場合は、加熱装置を使用してもよい。
【0081】
前記流体は、硬化可能であるのが好ましく、即ち、硬化性組成物を溶液等の流体として調製したものであるのが好ましい。硬化性組成物中に含有させる重合開始剤等については、転写方法の実施の形態にて説明した種々の重合開始剤を用いることができる。また、前記流体中には、配向制御剤等の添加剤を含有させてもよく、これらの例についても転写方法の実施の形態にて説明した種々の添加剤の例と同様である。また、前記流体の調製に使用する溶媒の例についても、転写法の実施の形態にて塗布液の調製に使用可能な溶媒の例と同様である。
【0082】
前記光学異方性層を形成する際のインク等の射出条件については特に制限されないが、光学異方性層形成用の流体の粘度が高い場合は、室温あるいは加熱下(例えば、20〜70℃)において、インク粘度を下げて射出することが射出安定性の点で好ましい。インク等の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に大きく影響を与え、画質劣化を起こすため、インク等の温度をできるだけ一定に保つのが好ましい。
【0083】
前記方法に用いられるインクジェットヘッド(以下、単にヘッドともいう)は、特に制限されず、公知の種々のものを使用することができる。コンティニアスタイプ、及びドットオンデマンドタイプが使用可能である。ドットオンデマンドタイプのうち、サーマルヘッドでは、吐出のため、特開平9−323420号公報に記載されているような稼動弁を持つタイプが好ましい。ピエゾヘッドでは、例えば、欧州特許A277,703号、欧州特許A278,590号などに記載されているヘッドを使うことができる。ヘッドは組成物の温度が管理できるよう、温調機能を持つものが好ましい。前記流体の射出時の粘度は5〜25mPa・sとなるよう射出温度を設定し、粘度の変動幅が±5%以内になるよう流体温度を制御することが好ましい。また、駆動周波数としては、1〜500kHzで稼動することが好ましい。
【0084】
本発明の積層体は、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の積層体には、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様のフィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光膜等と、長尺状のまま貼り
合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられたフィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0085】
[偏光板]
本発明の偏光板は、少なくとも1枚の本発明のセルロースエステルフィルム又は積層体を保護フィルムとして用いたことを特徴とする。
前記偏光板は、従来公知の一般的な構成の偏光板を挙げることができ、前記偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。本発明の積層体は、一般的な偏光板の一方の面上に積層させ、偏光眼鏡方式の3D映像表示システムに用いることができるパターン位相差フィルムとすることができる。前記偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、帯状、すなわち、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
【0086】
[粘着層]
本発明の偏光板においては、セルロースエステルフィルム又は積層体と偏光膜とを粘着層を介して積層してもよい。
本発明において、セルロースエステルフィルム又は積層体と偏光膜との積層のために用いられる粘着層とは、例えば、動的粘弾性測定装置で測定したG’とG”との比(tanδ=G”/G’)が0.001〜1.5である物質のことを表し、いわゆる、粘着剤やクリープしやすい物質等が含まれる。
【0087】
[映像表示パネル]
映像表示パネルは、少なくとも1枚の本発明のセルロースエステルフィルム、積層体、又は偏光板を含むことで構成できる。好ましく態様は、本発明のセルロースエステルフィルム又は積層体が視認側に近い保護フィルムとして用いるである。これにより、例えば前記パターン位相差層を設けた場合、映像表示パネルからの光のうち、前記第一領域を通過した光と、前記第二領域を通過した光の偏光状態を変えることができ、3D立体映像表示を表示することができる映像表示パネルとなる。
本発明の映像表示装置に用いられる映像表示パネルは特に制限はなく、CRTであってもフラットパネルディスプレイであってもよいが、フラットパネルディスプレイであることが好ましい。フラットパネルディスプレイとしては、PDP、LCD、有機ELDなどを用いることができるが、本発明は前記映像表示パネルが液晶表示パネルである場合に特に好ましく適用することができる。前記映像表示パネルを液晶表示パネルとすることで、フラットパネルディスプレイの中でも高画質かつ安価な映像表示システムとすることができる。
前記液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であり、該偏光板の前記セルロースエステルフィルム又は前記積層体である保護フィルムが最も視認側に近い保護フィルムとなる様に配置することが好ましい。特に、IPS、OCB又はVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
前記液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【0088】
[映像表示システム]
本発明のセルロースエステルフィルム、積層体、偏光板、又は液晶表示装置は、映像表示システムに用いることもできる。これにより、例えば前記パターン位相差層を設けた場合、左眼用画像と右眼用画像を映像表示パネルに入力し、映像表示パネルから左眼用画像と右眼用画像を本発明の光学フィルムに向けて出射し、本発明に係る前記パターン位相差層の前記第一領域を通過した該左眼用画像(又は右眼用画像)と、前記第二領域を通過した該右眼用画像(又は左眼用画像)の偏光状態を変えさせることができる。更に前記第一領域を通過した該左眼用画像のみを透過する偏光板付き左眼用レンズと、前記第二領域を通過した該右眼用画像のみを透過する偏光板付き右眼用レンズを備えた偏光眼鏡を併用することで、左右の眼にそれぞれ左眼用画像と右眼用画像のみを入射させ、3D映像表示を観察することができる映像表示システムを得ることができる。
このような映像表示システムについては、米国特許5,327,285号公報に記載がある。また、偏光眼鏡については、特開平10−232365に例が記載されている。
また、市販の映像表示システムの内、パターン位相差フィルムを剥がして、本発明の光学フィルムと差し替えてもよい。
【0089】
本発明において、好ましい映像表示システムとしては、下記の液晶表示装置が挙げられる。即ち、該液晶表示装置は、少なくとも一方に電極を有し対向配置された一対の基板と、該一対の基板間の液晶層と、該液晶層を挟んで配置され、偏光膜と該偏光膜の少なくとも外側の面に設けられた保護膜とを有し、光源側に配置される第一偏光板と、視認側に配置される第二偏光板とを有し、更に、第二偏光板の視認側に、偏光膜と少なくとも一枚の保護膜とを有する第三偏光板を通じて画像を視認する液晶表示装置であって、第二偏光板として、本発明の積層体を有する偏光板を用いた液晶表示装置である。本発明の積層体は温度変化に伴う寸法変化の小さい支持体を用いているので、経時後もクロストークのない良好な3D表示性能を得ることができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
(アセチル置換度)
セルロースアシレートのアセチル置換度については以下の方法で測定した。
アセチル置換度は、ASTM D−817−91に準じて測定した。粘度平均重合度は宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定した。
【0092】
(湿熱寸法変化率)
セルロースアシレートフィルムの湿熱寸法変化率は以下の方法で測定した。
フィルムロールの巻き方向を長手方向(MD方向)として、長手方向と直交する幅手方向(TD方向)を測定方向とし、該測定方向に12cmの長さで、幅3cmのフィルム試料を切り出した。該試料に10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長した(測定値をL10とする)。次いで、試料を60℃、相対湿度90%環境下に24時間放置後、25℃、相対湿度60%で2時間放置した後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長した(測定値をL11とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿熱寸法変化率を算出した。
湿熱寸法変化率=(L11−L10)*100/L10
【0093】
(湿度寸法変化率)
セルロースアシレートフィルムの湿度寸法変化率は以下の方法で測定した。
フィルムロールの巻き方向を長手方向(MD方向)、長手方向と直交する幅手方向(T
D方向)とする。該長手方向又は幅手方向を測定方向として、該測定方向に12cmの長さで、幅3cmのフィルム試料を切り出した。該試料に測定方向に沿って10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長した(測定値をL0とする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長した(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度寸法変化率を算出した。
湿度寸法変化率[%]=(L1−L0)*100/L0
【0094】
(音速)
セルロースアシレートフィルムの音速(音波伝播速度)は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて測定した。測定器をフィルムのロールの巻き方向と平行に設置したときの値を長手方向音速(MD音速)、巻き方向と直交する方向に設置したときの値を幅手方向音速(TD音速)とした。
【0095】
(レターデーション)
セルロースアシレートフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、KOBRA WR(王子計測機器(株)製)を用いて測定した。
【0096】
1.位相差フィルムの作製
(フィルム1の準備)
(1)中間層用ドープの調製
下記組成の中間層用ドープ1を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ドープ1の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・セルロースアセテート(アセチル化度2.86) 100質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 320質量部
・メタノール(第2溶媒) 83質量部
・1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
・トリフェニルフォスフェート 7.6質量部
・ビフェニルジフェニルフォスフェート 3.8質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0097】
具体的には、以下の方法で調製した。
攪拌羽根を有する4000Lのステンレス性溶解タンクに、上記混合溶媒をよく攪拌・分散しつつ、セルロースアセテート粉体(フレーク)、トリフェニルフォスフェート及びビフェニルジフェニルフォスフェートを徐々に添加し、全体が2000kgになるように調製した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。まず、セルロースアセテートの粉末は、分散タンクに粉体を投入して、攪拌剪断速度を最初は5m/sec(剪断応力5×10kgf/m/sec)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および、中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×10kgf/m/sec)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルロースアセテートフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.5質量%以下であることを確認し、具体的には0.3質量%であった。
【0098】
膨潤した溶液をタンクからジャケット付配管で50℃まで加熱し、更に2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。
次に36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。高温にさらされるフィルター、ハウジング、及び配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
【0099】
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧のタンク内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、21.8質量%となった。なお、凝縮された溶剤は調製工程の溶剤として再利用すべく回収工程に回された(回収は蒸留工程と脱水工程などにより実施されるものである)。フラッシュタンクには中心軸にアンカー翼を有するものを用いて、周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。タンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採集して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(sec−1)で450(Pa・s)であった。
【0100】
次に、このドープに弱い超音波照射することで泡抜きを行った。その後、1.5MPaに加圧した状態で、最初に公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。それぞれの一次圧は、1.5、1.2MPaであり、二次圧は1.0、0.8MPaであった。濾過後のドープ温度は、36℃に調整して2000Lのステンレス製のストックタンク内に貯蔵した。ストックタンクは中心軸にアンカー翼を有するものを用いて、周速0.3m/secで常時攪拌することで、中間層用ドープ1を得た。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0101】
続いてストックタンク内のドープ1を1次増圧用のギアポンプで高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。
【0102】
(2)支持体層用ドープ2の調製
マット剤(二酸化ケイ素(粒径20nm))と剥離促進剤(クエン酸エチルエステル(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物))と前記中間層用ドープ1を、静止型混合器を介して混合させて支持体層用ドープ2を調製した。添加量は、全固形分濃度が20.5質量%,マット剤濃度が0.05質量%,剥離促進剤濃度が0.03質量%となるように行った。
【0103】
(3)エアー層用ドープ3の調製
マット剤(二酸化ケイ素(粒径20nm))を静止型混合器を介して前記中間層用ドープ1に混合させて、エアー層用ドープ3を調製した。添加量は、全固形分濃度が20.5質量%,マット剤濃度が0.1質量%となるように行った。
【0104】
(4)共流延による製膜
流延ダイとして、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロックを装備して、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体層と称し、反対側の面をエアー層と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用、支持体層用、エアー層用の3流路を用いた。
【0105】
上記中間層用ドープ、支持体層用ドープ2、及びエアー層用ドープ3を流延口から0℃
に冷却したドラム上に共流延した。このとき、厚みの比がエアー層/中間層/支持体層=4/73/3となるように各ドープの流量を調整した。流延したドープ膜をドラム上で30℃の乾燥風により乾燥させ、残留溶剤が150%の状態でドラムより剥離した。剥離の際、搬送方向(長手方向)に17%の延伸を行なった。その後、フィルムの幅方向(流延方向に対して直交する方向)の両端をピンテンター(特開平4−1009号公報の図3に記載のピンテンター)で把持しながら、幅手方向に20%の延伸処理を行った。さらに、熱処理装置のロール間を搬送することによりさらに乾燥し、フィルム1を製造した。作製したセルロースアシレートフィルムの残留溶剤量は0.2%であり、厚みは80μmであった。
【0106】
(フィルム2の準備)
上記フィルム1の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向延伸倍率が30%であること以外は条件を変えず、厚みが80μmのフィルム2を作製した。
【0107】
(フィルム3の準備)
フィルム1の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向延伸倍率を0%とした以外はフィルム1と条件は変えず、厚みが104μmの未延伸フィルムを作製した。前記未延伸フィルムの幅手方向をテンタークリップで把持し、175℃に加熱した上で幅手方向に30%の延伸を実施して、厚みが80μmのフィルム3を作製した。
【0108】
(フィルム4の準備)
フィルム2の製膜時において、剥離時の搬送方向(長手方向)の延伸倍率を6%にした以外はフィルム2と同様に製膜を行い、厚みが80μmのフィルム4を作製した。
【0109】
(フィルム5の準備)
フィルム2の製膜時において、製膜後のフィルムの厚みが60μmとなるように調整した以外はフィルム2と同様に製膜を行ってフィルム5を作製した。
【0110】
(フィルム6の準備)
フィルム5の製膜時において、剥離時の搬送方向(長手方向)の延伸倍率を6%にした以外はフィルム5と同様に製膜を行い、厚みが60μmのフィルム6を作製した。
【0111】
(フィルム7の準備)
製膜後のフィルム中のトリフェニルフォスフェートとビフェニルジフェニルフォスフェートの含有量が半分になるように調整した以外はフィルム5と同様に製膜を行い、厚みが60μmのフィルム7を作製した。
【0112】
(フィルム8の準備)
フィルム7の製膜時において、剥離時の搬送方向(長手方向)の延伸倍率を6%にした以外はフィルム7と同様に製膜を行い、厚みが60μmのフィルム8を作製した
【0113】
(フィルム9の準備)
セルロースアセテートのアセチル置換度を2.6にした以外はフィルム2と同様に製膜を行い、厚みが80μmのフィルム9を作製した。
【0114】
(フィルム10の準備)
上記フィルム1の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率が10%であること以外はフィルム1と同様に製膜を行い、厚みが80μmのフィルム10を作製した。
【0115】
(フィルム11の準備)
下記の組成の内層用及び外層用ドープをそれぞれ調製した。
内層用ドープの組成:
セルロースアセテート (アセチル置換度2.86、数平均分子量88000) 100質量部
トリフェニルホスフェート 6.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.9質量部
下記構造のブルーイング染料 0.000078質量部
ジクロロメタン 439.1質量部
メタノール 65.6質量部
【0116】
外層用ドープの組成:
セルロースアセテート (アセチル置換度2.86、数平均分子量88000) 100質量部
トリフェニルホスフェート 6.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.9質量部
下記構造のブルーイング染料 0.000078質量部
平均粒径16nmのシリカ粒子(「aerosol R972」日本アエロジル(株)製)
0.14質量部
ジクロロメタン 424.5質量部
メタノール 63.4質量部
【0117】
【化1】

【0118】
上記組成の外層及び内層ドープ液をバンド流延装置を用い、支持体面側外層、内層、空気界面側外層の3層構造となるように、ステンレスバンド支持体上に均一に同時積層共流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶媒量が40質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したのち、テンターで両端部を把持し、幅手方向の延伸倍率が1.15倍(15%)となるように、45%/分の速度で幅手方向に延伸した。
延伸開始時の残留溶剤量は30質量%であった。延伸後に搬送しながら115℃の乾燥ゾーンで35分間乾燥させた。乾燥後に1980mm幅にスリットし、膜厚80μmで、各層の膜厚比が支持体面側外層:内層:空気界面側外層=3:94:3のセルロースアシレートフィルムを得た。これをセルロースアシレートフィルム11として用いた。
【0119】
(フィルム12の準備)
フィルム11の製膜時において、テンター把持時の幅手方向の延伸倍率を30%とした以外はフィルム11と条件は変えず、厚みが80μmのフィルム12を作製した。
【0120】
(フィルム13の準備)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
組成物の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・セルロースアセテート(置換度2.86) 100質量部
・ポリエステルジオール*2 10質量部
・溶媒(組成は以下に記載) 462質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*2:アジピン酸とエチレングリコールとからなり、水酸基価が113のポリエステルジオールである。
【0121】
溶媒の組成は、以下の通りであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
溶媒の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・メチレンクロライド(第1溶媒) 100質量部
・メタノール(第2溶媒) 19質量部
・1−ブタノール 1質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0122】
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。セルロースアセテート溶液に、このマット剤分散液を1.3質量部加え、ドープを調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 10.0質量部
(“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製)
・メチレンクロライド 72.8質量部
・メタノール 3.9質量部
・ブタノール 0.5質量部
・セルロースアシレート溶液*1 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*1:上記セルロースアシレート溶液の調製において、アジピン酸とエチレングリコールとからなり、水酸基価が156のポリエステルジオールを、セルロースアセテート(置換度2.86)100質量部に対して20質量部添加した以外は、同様にして調製されたセルロースアシレート溶液である。
【0123】
調製したドープを流延口から−5℃に冷却したドラム上に流延した。溶媒含有率略70質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの幅方向の両端をピンテンター(特開平4−1009号公報の図3に記載のピンテンター)で固定し、溶媒含有率が3〜5質量%の状態で、幅手方向(搬送方向に垂直な方向)の延伸率が約20%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、幅1.95m、厚み約60μmのセルロースアシレートフィルムを製造した。これをフィルム13として用いた。
【0124】
(フィルム14の準備)
フィルム13の製膜時において、ピンテンター把持時の幅方向延伸倍率を30%とした以外はフィルム13と条件は変えず、厚みが60μmのフィルム14を作製した。
【0125】
(フィルム15の準備)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、
セルロースアシレート溶液を調製した。
【0126】
セルロースアシレート溶液の組成
・セルロースアシレート(アセチル置換度2.86、粘度平均重合度310)
100質量部
・重縮合エステル 12質量部
・メチレンクロライド 384質量部
・メタノール 69質量部
・ブタノール 9質量部
なお、重縮合エステルは、混合ジカルボン酸(テレフタル酸/アジピン酸の混合モル比が50/50である混合ジカルボン酸)と混合ジオール(エチレングリコール/1,2−プロパンジオールの混合モル比が50/50)との重縮合エステルであって、両末端がアセチルエステル残基で封止されている分子量1000の重縮合エステル系可塑剤である。
【0127】
(マット剤分散液の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤分散Bを調製した。
【0128】
マット剤分散Bの組成
・シリカ粒子分散液(平均粒径16nm)
“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製 10.0質量部
・メチレンクロライド 72.8質量部
・メタノール 3.9質量部
・ブタノール 0.5質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
【0129】
(紫外線吸収剤溶液の調製)
下記の組成物を別のミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。
【0130】
紫外線吸収剤溶液の組成
・紫外線吸収剤(下記UV−1) 4.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−2) 8.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−3) 8.0質量部
・メチレンクロライド 55.7質量部
・メタノール 10質量部
・ブタノール 1.3質量部
・セルロースアシレート溶液 12.9質量部
【0131】
【化2】

【0132】
(フィルム製膜)
セルロースアシレート溶液を94.6質量部、マット剤分散液を1.3質量部とした混合物に、セルロースアシレート100質量部当たり、紫外線吸収剤(UV−2)及び紫外線吸収剤(UV−3)がそれぞれ0.4質量部、紫外線吸収剤(UV−1)が0.2質量部、重縮合エステルが12質量部となるように、紫外線吸収剤溶液を加え、加熱しながら充分に攪拌して各成分を溶解し、ドープを調製した。得られたドープを30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は1470mmとした。流延部全体の空間温度は15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取った後、両端をピンテンターでクリップし、搬送しながら幅手方向に15%の延伸処理を施した。剥ぎ取り直後のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は70%およびセルロースアシレートウェブの膜面温度は5℃であった。
【0133】
ピンテンターで保持されたセルロースアシレートウェブは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥し、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)を耳切りした後、両端に幅10mm、高さ
50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、3000mのロール状に巻き取った。このようにして得たセルロースアシレートフィルムの幅は1.45mであった。これを、セルロースアシレートフィルム15として用いた。
【0134】
(フィルム16の準備)
フィルムの製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を30%とした以外はフィルム15と条件は変えず、厚みが60μmのフィルム16を作製した。
【0135】
(フィルム17の準備)
1〕ポリマー溶液の素材
・セルロースアシレート:
置換度が2.86のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートC1の粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.89、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量/数平均分子量比は2.3、含水率は0.2質量%、6質量%ジクロロメタン溶液中の粘度は305mPa・s、残存酢酸量は0.1質量%以下、Ca含有量は65ppm、Mg含有量は26ppm、鉄含有量は0.8ppm、硫酸イオン含有量は18ppm、イエローインデックスは1.9、遊離酢酸量は47ppmであった。粉体の平均粒子サイズは1.5mm、標準偏差は0.5mmであった。
・溶媒 ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=81/18/1(質量比)
・添加剤A: エタンジオール/1,2−プロパンジオール/アジピン酸(7/3/10モル比)の縮合物で両末端が酢酸により封止されたエステル体、数平均分子量1000、水酸基価0
(多価アルコールの平均炭素数:2.3、多塩基酸の平均炭素数:6)
・添加剤N:下記構造の化合物
【0136】
【化3】

【0137】
・添加剤M:二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.02質量部)
【0138】
2〕ポリマー溶液の作製
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒及び添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
(各成分の添加量)
セルロースアシレート 20質量部
溶媒 100質量部
添加剤A 9重量部
添加剤N 0.16重量部
添加剤M 0.02質量部
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9
×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸及び中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、更に2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。この際、高温にさらされるフィルター、ハウジング、及び配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
次に36℃まで温度を下げ、セルロースアシレート溶液を得た。
【0139】
3〕ろ過
得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度10μmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、更に絶対濾過精度2.5μmの金属焼結フィルター(FH025、ポール社製)にて濾過してポリマー溶液を得た。
【0140】
4〕製膜
前記ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の温度は−7℃に設定し、流延スピードは50m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターでクリップした。なお、下記式に基づいて算出した、剥ぎ取った直後のウェブの残留溶媒量は280質量%であった。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
続けて、ピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムを幅手方向に30%延伸し、100℃で5分間乾燥した。ピンテンターから外して両耳をフィルムの左右両端部に固定したNT型カッターで切り落とし、更に70℃で15分ロール搬送しながら乾燥して、フィルム17を得た。フィルム17の幅は2.0m、厚みは60μmであった。
【0141】
(フィルム18の準備)
以下の組成の主ドープ液を調製した。加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0142】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 440質量部
エタノール 40質量部
セルロースアセテート(アセチル基置換度2.9) 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 9.5質量部
エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤) 2.2質量部
チヌビン326(紫外線吸収剤;スペシャルティケミカルズ(株)製) 0.4質量部
チヌビン109(紫外線吸収剤;スペシャルティケミカルズ(株)製) 0.7質量部
チヌビン171(紫外線吸収剤;スペシャルティケミカルズ(株)製) 0.6質量部
【0143】
下記の成分をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行って、以下の組成の微粒子分散液を調製した。
【0144】
〈微粒子分散液の組成〉
微粒子(アエロジルR972V(日本アエロジル株式会社製)) 11質量部
エタノール 89質量部
【0145】
次に、メチレンクロライドを入れた溶解タンクに、セルロースアセテート(アセチル基置換度2.9)を添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後の溶液を充分に攪拌しながら、ここに上記で調製した微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0146】
メチレンクロライド 99質量部
セルローストリアセテート(アセチル基置換度2.9) 4質量部
微粒子分散液 11質量部
【0147】
主ドープ液の100質量部と、微粒子添加液2質量部とを加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で溶媒を蒸発させ、のちにステンレスバンド支持体から剥離した。剥離後のフィルムの両端部をテンタークリップで把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.25倍(25%)となるように延伸した。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅方向の張力を緩和させた後幅保持を解放し、更に125℃に設定された第3乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行い、かつ端部に幅1cm、高さ8μmのナーリングを有するフィルムを作製した。これを、セルロースアシレートフィルム18として用いた。フィルム18の幅は2.0m、厚みは60μmであった。
【0148】
(フィルム19の準備)
フィルム1の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム1と条件は変えず、厚みが80μmのフィルム19を作製した。
【0149】
(フィルム20の準備)
フィルム1の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム1と条件は変えず、厚みが135μmの未延伸フィルムを作製した。前記未延伸フィルムの幅手方向をテンタークリップで把持し、185℃に加熱した上で幅手方向に70%の延伸を実施して、厚みが80μmのフィルム20を作製した。
【0150】
(フィルム21の準備)
フィルム11の製膜時において、テンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム11と条件は変えず、厚みが80μmのフィルム21を作製した。
【0151】
(フィルム22の準備)
フィルム11の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム11と条件は変えず、厚みが138μmの未延伸フィルムを作製した。前記未延伸フィルムの幅手方向をテンタークリップで把持し、185℃に加熱した上で幅手方向に73%の延伸を実施して、厚みが80μmのフィルム22を作製した。
【0152】
(フィルム23の準備)
フィルム11の製膜時において、テンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とし、セルロースアセテート100重量部に対し4重量部の添加剤Nを内層用ドープ、外層用ドー
プともに加えたこと以外はフィルム11と条件は変えず、厚みが80μmのフィルム23を作製した。
【0153】
(フィルム24の準備)
フィルム13の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム13と条件は変えず、厚みが60μmのフィルム24を作製した。
【0154】
(フィルム25の準備)
フィルム15の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を0%とした以外はフィルム15と条件は変えず、厚みが60μmのフィルム25を作製した。
【0155】
(フィルム26の準備)
フィルム17の製膜時において、ピンテンター把持時の幅手方向の延伸倍率を55%とした以外はフィルム17と条件は変えずフィルム26を作製した。
【0156】
上記のように作製したフィルム1〜26について、フィルムの性能を下記表1に示す。
なお、実施例として挙げているフィルム1〜18についてTD方向湿度寸法変化率の幅方向ばらつきを測定したところいずれのフィルムも10%以下を満たしていた。
【0157】
【表1】

【0158】
表1に示す音速、湿熱寸法変化、Re、Rth、湿度寸法変化については、前述した方法により測定した。ここで、Re、Rthは波長550nmにおける値である。
【0159】
[位相差フィルムの作製]
特開2009−223001号公報の実施例1の「部位2」及び「部位5」を参考に、Re=137.5nmで、遅相軸の向きがパターンの長辺の方向に対して45度の部位(第1領域)と135度の部位(第2領域)とが300μm周期で繰り返しとなるようにパ
ターニングされたパターン位相差層Aを塗布によりガラス基板上に作製した。これを上記で作製したセルロースアシレートフィルムに転写して、パターン位相差層Aを有する位相差フィルム1〜26を作成した。フィルムと位相差フィルムの対応を表2にまとめた。
【0160】
位相差フィルム1〜26について以下の評価を行った。
【0161】
(3Dモニターの作製)
HPL02065 (HP製)のフロント偏光板をはがし、替わりに位相差フィルム1〜26を保護フィルムとして用いた偏光板を貼合した。
【0162】
(クロストークの評価)
上記で作製した3Dモニターを48hr連続点灯後、右目用画素は白、左目用画素は黒のパターンを表示させ、目の位置に分光放射輝度計(SR−3 トプコン製)をおき、右目用/左目用の円偏光メガネをそれぞれ通して、輝度を測定した。
右目用円偏光メガネを通した時の輝度をY_RR、左目用円偏光メガネを通した時の輝度をY_RLとする。
右目用画像が左目に、左目用画像が右目に入ると3D感が失われるため、クロストーク度合いをCRO=(YRR−YRL)/(YRR+YRL)と定義し、評価した。点灯直後のCROをCRO_0、48hr点灯後のCROをCRO_48とし、連続点灯時の表示性能について100*CRO_48/CRO_0の値に基づき以下の基準で評価した。
◎:95%以上
○:95%未満から92.5%
△:92.5%未満から90%以上
×:90%未満
許容される評価値としては 「◎」が最も好ましく、「○」が次に好ましく、「△」がその次に好ましい。「×」は改善が必要であり、許容されない評価値である。
湿熱環境下の経時測定(湿熱耐久測定)においても同様に、60℃90%RH環境下で1日放置した後のCROをCRO_60とし、湿熱耐久後の表示性能について100*CRO_60/CRO_0の値に基づき評価した。
【0163】
結果を下記表2に示す。表2の結果から本発明のセルロースエステルフィルムを用いた位相差フィルムが3Dディスプレイの連続点灯におけるクロストーク、湿熱経時によるクロストーク軽減に効果があることが明確になった。これは、セルロースエステルフィルムの経時での寸法変化が抑制されたためと考えられる。
【0164】
【表2】

【0165】
なお、フィルム1〜26について、幅手方向の湿度寸法変化率のばらつきはいずれも10%以下であった。
ここで、フィルム11を製膜する工程において、テンター部分における幅手方向の半分の乾燥風量を半分にしたところ、通常部分の幅手方向の湿度寸法変化率が0.32%であったのに対し、風量半減領域では0.39%となり、幅手方向の湿度寸法変化率のばらつき[(風量半減領域での湿度寸法変化率−通常部分での湿度寸法変化率)/(通常部分での湿度寸法変化率)×100]]]が22%となった。両方の領域を含むようにモニターに貼合して連続点灯クロストーク評価を行ったところ、両方の領域とも「◎」ではあったが、通常領域と風量半減領域の3D感に差があり、モニター前面で均一なフィルムに比べて劣っていた。
また、フィルム23を使用するとパネルを法線方向から観察した時に比べて斜め方向からパネルを見るとクロストークが急激に悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅手方向の音速の長手方向の音速に対する比が0.9以上1.1以下、60℃90%RHの環境下で24時間放置後の幅手方向の湿熱寸法変化が−0.2%以上0.2%以下、幅手方向の湿度寸法変化率が0.38%以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
幅手方向の湿度寸法変化のばらつきが10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
面内位相差Reが0nm以上5nm以下であり、かつ、厚み方向位相差Rthが0nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムの幅が1.8m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
前記セルロースエステルの総アシル置換度が2.7〜3.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
前記セルロースエステルフィルムは添加剤を含んでなり、前記添加剤がセルロースエステルに対して10質量%以上添加されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム上の少なくとも一方に光学異方性層を有することを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記光学異方性層は屈折率が異なる複数の領域からなり、長手方向にパターン状に配置されてなることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
光学異方性層は第一位相差領域と第二位相差領域が、幅手方向に交互に配置されてなることを特徴とする請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム、又は、請求項7〜9のいずれか一項に記載の積層体を保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光板を、前記セルロースエステルフィルム又は前記積層体である保護フィルムが最も視認側に近い保護フィルムとなる様に配置したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項12】
有機溶剤にセルロースエステルが溶解した溶液を用いて支持体上にウェブを形成し、該ウェブを支持体から剥離する成膜工程と、
幅手方向に10%以上40%以下延伸する延伸工程を有し、延伸工程を経てフィルムとした後、幅手方向に異なる位相差領域を配置した光学異方性層を積層することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記光学異方性層は塗布によって形成されることを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−76046(P2013−76046A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3480(P2012−3480)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】