説明

センサクリアランスの電子的自己校正

【課題】多チャネルクリアランスセンサシステムの自己校正システムを提供する。
【解決手段】自己校正システム110は、固定物体と回転物体との間の少なくとも1つのクリアランスパラメータ信号を測定する少なくとも1つのセンサを有する。このセンサからの出力は、クリアランスパラメータ信号のオフセット誤差を求めるよう構成されたオフセット補正部137により、クリアランスパラメータとして処理され、このパラメータは、レベルシフタ120において用いられる。このレベルシフタは、クリアランスパラメータ信号と切替可能に結合されている。レベルシフタからの出力は、増幅及びデジタル変換可能であり、信号レベル解析器154により処理されて、チャネル利得信号が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、センサシステムの校正のための方法及びシステムに関し、特に、差動検知システムの校正に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの物体間の距離を測定するために、様々な種類のセンサシステムが用いられてきた。そのようなセンサシステムの1つが、2チャネル差動検知システムである。2チャネル差動検知システムでは、2つのチャネルに均等に影響を及ぼす様々な誤差原因を排除又は低減することが可能である。差動測定ならではの利点を実現可能にするためには、2つのチャネルの応答を一致させることが最も重要である。2つのチャネルの応答の間に少しでも不一致があると、著しい測定誤差が発生する。例えば、クリアランス測定に誤差があると、タービンのシュラウドとタービンブレードとの間の相対変位が不正確になる。従って、システムの2つのチャネルの応答の一致を動的かつ定期的にチェックして修正することが必要である。チャネルの応答が変化する原因として、温度効果及び長期ドリフトに起因する電子部品のばらつきがある。
【0003】
回路の温度係数の低減、並びにドリフトの影響の低減のために、様々な回路設計手法が用いられてきた。しかし、これらの手法は、測定精度を長期間にわたって保証するものではない。一般的な手法として、センサシステムに温度補償部品を使用する手法がある。また、ドリフトが非常に小さい部品を使用する手法も一般的である。いずれの方法もばらつきを低減するが、ある期間及び温度にわたるドリフト及びばらつきを検出して修正することの備えにはならない。現行のクリアランス検知システムは、この問題に対処するために試験室での校正を頻繁に行うことに大きく依存している。例えば、人間が介入しない多年にわたる保守を必要とする飛行システムの場合、校正は、透過的に行われる必要があり、システムを取り外すこと、又は人間の介入が不要でなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7180305号明細書
【特許文献2】米国特許第7215129号明細書
【特許文献3】米国特許第7332915号明細書
【特許文献4】米国特許第7333913号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0132147号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0239813号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0128016号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/0222459号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2008/0072681号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の例示的実施形態では、多チャネルクリアランスセンサシステムの自己校正システムを開示する。本システムは、固定物体と回転物体との間のクリアランスパラメータを測定するセンサを含む。本システムは更に、クリアランスパラメータのオフセット誤差を求めるオフセット補正部と、クリアランスパラメータをオフセット誤差分だけシフトするレベルシフタとを含む。レベルシフタ出力を増幅する増幅器が設けられ、アナログデジタル変換器が、増幅器出力に結合されて、デジタル出力を与える。本システムは更に、不一致電圧に基づいてチャネル利得信号を求める信号レベル解析器を含む。本システム内のレベルシフタは、クリアランスパラメータ信号及び参照信号と切替可能に結合されて、不一致電圧を処理する。
【0006】
本発明の別の例示的実施形態では、クリアランスセンサシステムの自己校正システムを開示する。本システムは、前述の実施形態と同様に、センサ、オフセット補正部、レベルシフタ、増幅器、及び信号レベル解析器を含む。しかし、本実施形態では、不一致電圧を処理するためにクリアランスパラメータ信号及び参照信号がまとめてレベルシフタに結合される。
【0007】
本発明の一実施形態では、多チャネルセンサシステムの校正方法を開示する。本方法は、固定物体と回転物体との間のクリアランスパラメータを測定することと、クリアランスパラメータのオフセット誤差を測定することと、オフセット誤差を補償するためにクリアランスパラメータをシフトすることとを含む。本方法は更に、クリアランスパラメータの不一致を測定することと、測定された不一致に基づいてチャネルの利得値を制御することを含む。
【0008】
本発明の更に別の実施形態では、センサシステムの自己校正システムを開示する。本システムは、センサと、センサに結合された校正部とを含む。校正部は、校正曲線を処理する、レベルシフタ、利得段、及び信号レベル解析器からなる。校正部は更に、コモンモード参照を与える参照部を含む。
【0009】
本発明の以上に記載及びその他の特徴、態様、及び利点は、次のような添付図面を参照しながら以下の詳細な説明からより明らかとなる。なお、全図面を通して同様の構成要素には同様の参照符号が付与されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るセンサシステムを有する回転機械の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る図1のセンサシステムの概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るクリアランス測定システムの一例の概略図である。
【図4a】本発明の一実施形態に係る絶対校正部の一例の概略図である。
【図4b】本発明の一実施形態に係る別の絶対校正部の一例の概略図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る相対校正部の一例の概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るオフセット校正部の概略図である。
【図7】センサシステムの校正手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において詳細に説明するように、本発明の実施形態は、クリアランス測定の自己校正のシステム及び方法を含む。
【0012】
図1は、本発明の手法の態様を組み込むことが可能な回転機械(例として、航空機用エンジンタービン10)のの一例の斜視図である。しかし、本発明の手法は、他の任意の回転機械(例えば、蒸気タービンやガスタービンなどがあり、これらに限定されない)にも用いることが可能であることに留意されたい。本タービンは、シャフト14に取り付けられたロータ12を含んでいる。ロータ12には、多数のタービンブレード16が取り付けられている。運転時には、ブレード16は、高温高圧の流体(蒸気)18にさらされ、流体(蒸気)18は、ブレード16に作用して、軸20のまわりを回転させる。ブレード16は、ブレードの周囲に、ほぼ放射状および円周状に位置する固定ハウジング(シュラウド)22の中で回転する。ブレード16とシュラウド22との間で作動流体が過剰に漏れるのを防ぐために、ブレード16とシュラウド22との間のクリアランスは比較的小さい。理想的な無損失システムであれば、クリアランスはないはずなので、すべての流体がブレード16に対してのみ作用する。しかし、そうした構成では、ブレード16とシュラウド22との間の抵抗により、或いは、ロータブレード16とシュラウド22との間に摩擦が生じることを防ぐために、ブレードを動かすことができない。振動の点からも、クリアランスがないシステムは現実的ではない。
【0013】
一実施形態によれば、固定シュラウド22の内部及び周囲に円周状に、1つ以上のクリアランスセンサ24が配置されている。図示した実施形態では、クリアランスセンサ24は、容量性プローブを含んでいる。容量性プローブセンサは、可変静電容量でクリアランスを表す。実施形態に応じて、クリアランスセンサ24は、マイクロ波センサ、光学式センサ、渦電流センサなどであってよい。当業者には明らかなように、マイクロ波センサや光学式センサは、それぞれ、無線信号や光信号を対象に向けて発して、クリアランスに基づく反射の特性を測定する。これらの特性は、反射信号の振幅、励起信号と反射信号との間の時間遅延又は位相差などであってよい。同様に、渦電流センサは、対象内に渦電流を誘起する。渦電流によって生成される磁界とセンサ電流によって生成される磁界との相互作用が、クリアランスに依存する。従って、渦電流センサは、クリアランスを表す電圧を出力する。一実施形態では、対象はタービンブレードである。
【0014】
容量性センサを用いることの一利点は、サブミリ分解能が得られることである。センサ24のそれぞれは、シュラウド22の円周上のそれぞれの位置を基準にブレード16の半径方向及び/又は軸方向の位置を表す信号を生成するように構成されている。センサ信号26は、クリアランスの測定のために、クリアランス測定システム28へ送信される。更に、クリアランス測定システム28から出力されるクリアランス測定値は、クリアランス制御システム30による、シュラウド22とタービンブレード16との間のクリアランスの制御に用いられる。センサ信号26を、信号線を介して、或いは、無線送信機又は送受信機(図示せず)を用いて無線で、クリアランス測定システム28へ伝達することが可能である。これは、センサからクリアランス測定システムへの一方向の伝達であっても、センサとクリアランス測定システムとの間の双方向の伝達であってもよい。
【0015】
図2は、図1のクリアランス測定システム28の構成の一例を示す。本実施形態のシステム28は、第1及び第2のセンサ40,42を備えており、第1及び第2のセンサ40,42は、図1の蒸気タービンのシュラウド22とロータブレード16との間に存在する第1及び第2の静電容量を表す第1及び第2の測定信号を生成するように構成されている。
【0016】
この例では、タービンのシュラウドとロータブレードとの間のクリアランス32を、レシオメトリック手法により、第1及び第2のセンサ40,42の第1及び第2の信号から計算する。第1のセンサ40には、第1のセンサ40で検知された静電容量を測定するための双方向カプラ44及び位相検出器46が結合されている。同様に、第2のセンサ42には、第2のセンサ42で検知された静電容量を測定するための双方向カプラ48及び位相検出器50が結合されている。第1及び第2のセンサ40及び42には、第1及び第2のセンサを励起するための信号発生器52が結合されている。更に、第1及び第2の増幅器54,56が、信号発生器52で生成された入力信号を増幅するために、信号発生器52と結合されている。信号発生能力に応じて任意で、増幅器54,56を用いても、フィルタリングにより信号発生器出力を調整してもよい。一実施形態では、各センサ40,42及び信号発生器52と直列にキャパシタ(図示せず)を配置することが可能であり、位相検出器46,50は、キャパシタのいずれの側に結合されてもよい。
【0017】
一実施形態によれば、信号発生器52は、第1及び第2の励起信号62,64により、第1及び第2のセンサ40,42を、ある励起周波数で励起する。第1及び第2のセンサ40,42からは、第1及び第2の励起信号62,64に対応する第1及び第2の反射信号58,60が発生する。第1のセンサ40で検知された静電容量の測定は、励起信号62と、対応する反射信号58との間の位相差を双方向カプラ44及び位相検出器46で測定することにより行われる。位相検出器46は、励起周波数に基づいて第1の反射信号58を検出して、第1の測定信号66を生成するように構成されている。同様に、励起信号64と、対応する反射信号60との間の位相差を双方向カプラ48及び位相検出器50で測定することにより、第2のセンサ42で検知された静電容量を表す第2の測定信号68が生成される。第1及び第2の測定信号66及び68は、校正部70へ送信され、校正部70は、第1及び第2の測定信号66及び68の、ある関数に基づいてクリアランスを計算する。一実施形態では、この関数は、第1及び第2の測定信号の比である。本明細書で説明しているように、この例のセンサシステム28は、ロータブレード16とシュラウド22との間の容量を測定するために、2つのセンサ40,42を用いている。しかし、より多くのセンサを有する他の構成のセンサシステムも、本システムの範囲内である。
【0018】
ほぼ平行平板を構成している2つの物体の間の静電容量は、次式で表される。
【0019】
C=εrε0A/d (1)
ただし、Cは静電容量、Aは物体の重なり合う部分の表面積、dは2つの物体間の距離、ε0は自由空間の誘電率、εrは2つの物体間の媒質の誘電率である。式(1)から、2つの物体間の静電容量が、2つの物体間の距離に依存することがわかる。従って、シュラウドとロータブレードとの間の静電容量を計算することによって、シュラウドとロータブレードとの間の距離が計算される。
【0020】
一実施形態では、処理回路70は、フィルタ(図示せず)及び結合器(図示せず)を含んでいる。位相検出器46,50の出力信号66,68は、第1のセンサ40と第2のセンサ42との間のクロストークに起因するノイズ成分を含んでいる場合がある。そこで、それらのセンサ間のクロストークによって発生した信号ノイズを、フィルタを用いて取り除くことが可能である。結合器は、各位相検出器の出力信号を結合して、シュラウドとロータブレードとの間のレシオメトリック静電容量を計算する。このレシオメトリック静電容量により、シュラウドとロータブレードとの間の、ほぼ正確な、最小誤差の容量測定値が求められる。
【0021】
図3は、回転機械のクリアランス測定のためのシステム80の一例の概略図である。図示した実施形態では、センサ82が、測定を行い、クリアランスパラメータを表す信号を発生させる。既に説明したように、センサは、容量性プローブセンサ、マイクロ波センサ、光学式センサ、渦電流センサなどであってよい。一実施形態では、オフセット補正部84を用いて、クリアランスパラメータ信号内のオフセット誤差を求める。一例では、DCレベルファインダがクリアランス測定信号のオフセット誤差を求め、この、クリアランス測定信号のオフセット誤差を補正するために、レベルシフタ86が本システム内で用いられる。本システムはさらに、チャネルセンサ出力間の差を求めるために信号レベル解析器88を備える。一実施形態では、参照スキーム90を用いてチャネル利得を一致させる。参照スキーム90は、自動利得制御器を含んでよく、絶対スキームであることも相対スキームであることも可能である。なお、オフセット補正部及び信号レベル解析器は、アナログ領域で実装することや、デジタルプロセッサの適切なプログラミングによって実装することや、アナログ回路及びデジタル回路(増幅器、マイクロプロセッサ、アナログデジタル変換器、デジタルアナログ変換器など)を組み合わせて実装することが可能である。一実施形態として2チャネルセンサシステムがあるが、多チャネル処理もまた、本発明の範囲内である。多チャネルの実施形態には、各チャネルが互いを参照することが可能であるものもあれば、1つのチャネルが参照チャネルとして選択されるものもある。例えば、半径方向及び軸方向のクリアランスのように、用途によっては、多数のセンサを処理に用いる。
【0022】
図4aは、図2の例示的校正回路の一形態110を示す。この図は、2チャネルシステムにおいて絶対利得相関を用いて利得を調整する信号を示している。本明細書で説明しているように、2チャネル差動感知システムは、2つのチャネルの応答が緊密に一致しているほど、性能が高い。本明細書における「チャネル」とは、図1に示したようなクリアランスを求めるために使用する、1つ以上のセンサ及びそれぞれに対応する要素を意味する。2つのチャネルの応答に少しでも不一致があると、システムのコモンモード誤差排除能力が低下する。校正部は、第1のクリアランス測定信号66と第2のクリアランス測定信号68との間の誤差がコモンモードであることを保証し、且つ、両チャネルに対して共通(コモン)である誤差信号があれば、これらが信号調整を経た両チャネル出力に対して同一の影響を有することを保証する。図示した例では、第1のスイッチ112が第1の位相検出器46と結合され、第2のスイッチ114が第2の位相検出器50と結合されている。第1及び第2の位相検出器46,50からの第1及び第2のクリアランス測定信号66,68は、第1及び第2のスイッチ112及び114の第1の入力になる。この例では、第1及び第2のスイッチ112,114は、単極双投(SPDT)スイッチである。当業者には明らかなように、処理部が位相検出器信号66,68又は参照信号116のいずれかに繋がるように、SPDTスイッチに2つのポジションを用意してもよい。別の実施形態では、スイッチ112,114は、所望レンジの複数の無線周波数信号で動作する、無線周波数で制御されるスイッチである。別の実施形態では、スイッチは、MEMSスイッチであってよい。当業者には知られている他の切替機構を用いることも可能である。
【0023】
共通参照信号116が、第1及び第2のスイッチの切替入力になる。第1及び第2のスイッチ112,114を介して校正部110に共通参照信号116を印加することにより、チャネル間差動誤差を確実に最小化する共通参照点を確立することができる。第1のスイッチ112の出力信号118が、第1のレベルシフタ120の入力になる。同様に、第2のスイッチ114の出力信号122が、第2のレベルシフタ124の入力になる。自己テストイネーブル126が、第1及び第2のスイッチ112,114に対してイネーブル信号128を発生させて、参照信号116への切り替えを制御する。一実施形態では、イネーブル信号128が「high」の場合に、参照信号116が、レベルシフタ120,124の第1の入力118,122になる。イネーブル信号128が「low」の場合には、位相検出器46,50の出力信号が、それぞれ、レベルシフタ120,124の第1の入力118,122になる。一実施形態では、自己テストイネーブル回路126は、所定の切替間隔で、又は校正要求信号に応答して、イネーブル信号128を発生させる。
【0024】
レベルシフタ120,124は、入力信号118,122を、シフトレベル入力信号130,132で提示されたレベルだけシフトする。シフトレベル入力信号130及び132は、それぞれ、オフセット補正回路137及び143から供給される。レベルシフタ120,124の出力信号134,136は、利得段(増幅器)138,140へ送信される。増幅器138,140は、レベルシフタ120,124の出力信号134,136を増幅する。参照増幅を維持するために、利得段138,140のそれぞれに、対応する自動利得制御器(AGC)139,141を結合してもよい。
【0025】
一実施形態では、使用される参照信号ソース116は、温度補償がなされた、ドリフトが非常に小さい部品によるソースである。従って、高精度の参照信号により、増幅器の利得もまた、確実に良好に制御される。増幅器の出力信号142及び144は、アナログデジタル変換器146,148の入力になり、アナログデジタル変換器146,148は、信号142,144をデジタル校正済み信号150,152に変換する。アナログデジタル変換器146,148は、信号レベル解析器154,156の入力となる校正済み電圧を出力する。信号レベル解析器154,156からの電圧信号出力(チャネル利得信号)158,160は、実時間で実施可能な処理又は後処理のための校正曲線の生成に用いられる。信号レベル解析器154,156からのチャネル利得信号158,160は、自己テストイネーブル126にも結合されている。そして、自己テストイネーブル126は、参照信号116と位相検出器出力信号66,68との間の信号切替を制御する。レベルシフタ120,124の入力が参照信号116である場合には、第1及び第2の信号レベル解析器154,156からそれぞれ得られる電圧信号158及び160における不一致が測定される。それに応じて、電圧信号158及び160のそれぞれの不一致が一致するように、利得段138,140の一方又は両方の利得が調節される。この調節は、一実施形態では、アナログ領域で、制御可能な部品(可変利得増幅器など)を用いて行われる。別の実施形態では、不一致信号がデジタイズされ、デジタル利得補正値が計算される。この利得補正信号を用いて、2つのチャネルの利得の補正がデジタル領域で行われる。
【0026】
ここでの説明は2チャネルシステムに関するものであるが、本システムは2チャネルに限定されず、多チャネルの処理能力を有する他の実施形態もあることを理解されたい。例えば、3チャネルの実施形態であれば、本明細書で詳述しているようなセンサ及び付随する処理要素を3組有し、3つのチャネルとの間で参照信号が切り替えられるであろう。別の一実施形態では、特定の要素を共用して、各種センサを適宜切り替えることが可能である。
【0027】
本発明の一実施形態では、位相検出器信号のDCレベル成分と増幅器の利得値とを、定期的に検出及び追跡し、これらの値の追跡には、オンボードの参照及びアルゴリズムを用いる。これらの情報は、処理装置へ送信される。処理装置は、各チャネルの補正率を計算し、更に、補正の履歴を追跡する。処理装置は、これらの補正をデータに適用する。即ち、増幅器の利得又はレベルシフタのシフトレベル信号を補正する。これらの補正は、2つのチャネルの特性が高度に一致するように行われる。補正後に利得又はオフセットが高い率でドリフトする傾向が処理装置によって検出された場合は、センサ及び電子回路の動作状態の評価が行われる。この評価に基づいて、処理装置は、予想以上の誤差又は劣化が検出されたことと、クリアランスセンサシステムの保守要求が出されたこととを通知するアラートをトリガしてよい。特定の実施形態では、利得の調節をデジタル乗算器で行う。
【0028】
図4bは、図2の例示的校正回路の別の形態170を示す。この実施形態では、位相検出器出力信号66,68及び参照信号117の両方が、レベルシフタ120,124の入力になる。つまり、先の実施形態の第1及び第2のスイッチ112及び114並びに自己テストイネーブル回路126は、この実施形態では省略されている。加算器172が、位相検出器出力信号66と参照信号117とを適宜結合させて関連付ける。同様に、加算器174が、位相検出器出力信号68と参照信号117とを加算する。この実施形態では、参照信号117の周波数と、位相検出器46,50の出力信号66,68の周波数とが、異なっており、参照信号117と位相検出器出力信号66,68とを結合しても影響が出ないように適切にオフセットされている。一実施形態では、参照信号117の周波数は約500kHzであり、位相検出器46,50の出力信号66,68の周波数は、約100kHzである。しかしながら、これらの信号には他の周波数値も使用可能であることに留意されたい。この構成では、位相検出器信号及び参照信号の同時接続が可能であり、従って、位相検出器46,50の連続入力がレベルシフタ120,124へ出力されるようになる。参照信号処理は、様々な時間間隔で、又は、特に設計条件によって定められているように、実施可能である。
【0029】
図5は、図2の校正回路の別の例示的構成180を示す。この例は、相対参照信号処理が行われるように、チャネル間の相対利得相関を用いて利得を調整する信号を示している。この実施形態では、第1の位相検出器46の出力66が、第2のスイッチ114の一入力になる。同様に、第2の位相検出器50の出力68が、第1のスイッチ112の一入力になる。一実施形態では、自己テストイネーブル信号128が切り替えられたときに、第1及び第2のレベルシフタ120,124の入力信号118,122は、第1の位相検出器46の出力信号66になる。別の実施形態では、自己テストイネーブル信号128が切り替えられたときに、第1及び第2のレベルシフタ120,124の入力信号118,122は、第2の位相検出器50の出力信号68になる。この構成では、図4a又は図4bの独立した参照信号116,117を校正に用いていない。本明細書で述べているように、説明は2チャネルの実装に関して行っているが、別の実施形態として多チャネルもあり、それらのチャネルの間に参照処理を実装することが可能である。
【0030】
図6は、図4a、図4b、及び図5のオフセット補正回路190の概略図である。この図では、1チャネル分の要素だけを示している。他のチャネルについても同様の機能が用いられ、DCレベルファインダ204への入力を結合するなどの共通参照リンクを設けることが可能である。参照信号は、信号の実際のDCレベルと所望のDCレベルとの間の誤差信号の計算に用いる。DCレベルファインダにおいて共通参照リンクを用いることにより、参照の誤差が両チャネルに均等に作用するようになり、これによって、2つのチャネル間で高度の一致が維持される。一実施形態によれば、この実施形態は、電子オフセット処理を実施し、レベルシフタ192を備え、レベルシフタ192は、第1の入力信号194のレベルを、レベルシフタ192の第2の入力信号196に基づいてシフトするように構成されている。一実施形態では、第1の入力信号194は、図2の第1のセンサ40からの第1の測定信号66(図2)である。別の実施形態では、レベルシフタ192の第2の入力信号196は、シフトレベル信号又はオフセット信号である。オフセット補正回路190は更に、レベルシフタ192の出力信号200を増幅する利得段(増幅器)198を備える。利得段出力202は、クリアランスの計算のための測定信号として使用される。利得段出力信号202はまた、DCレベルファインダ204へフィードバックされる。DCレベルファインダ204は、利得段出力信号内のDC成分を求める。DCレベルファインダ204の誤差信号出力は、レベルシフタ補正回路206へ送信される。レベルシフタ補正回路206は、レベルシフタ192の第1の入力信号194に必要なシフト量であるオフセットを求める。レベルシフタ192を動的に調節することにより、大きなオフセットで増幅器段198が飽和することがなくなる。一実施形態では、同様のオフセット補正回路を、図4a、図4b、及び図5の第2のチャネルに用いる。ここでは、オフセット補正回路190を構造的に説明したが、特定の機能性をオフセット補正回路190にソフトウェア処理で実装してもよい。
【0031】
図7は、一実施形態に係る多チャネルセンサシステムの校正手順を示すフローチャート220である。ステップ221で、固定物体と回転物体との間のクリアランスパラメータを、センサチャネルを用いて測定する。ステップ222で、クリアランスパラメータのオフセット誤差を、オフセット補正回路で測定する。ステップ224で、両方のセンサチャネルに参照信号を与える。これは、図4a、図4bに示したような共通参照信号であっても、図5の相対処理によるものであってもよい。前述のように、共通参照信号ソースは、利得を適正に制御するために、温度補償がなされた、ドリフトが非常に小さい部品を有する。一実施形態では、ステップ224で、各チャネルの出力応答を測定し、互いに比較する。つまり、チャネル出力信号間の不一致を測定する。ステップ226で、各チャネルの増幅器の利得値を、2つの出力信号の間で測定された不一致に基づいて制御し、ステップ228で、この不一致又は誤差を定期的に追跡する。一実施形態では、誤差の閾値を、処理装置のメモリに設定する。この誤差が閾値又は予想された誤差傾向より大きい場合、処理装置は、ステップ230で、クリアランスセンサシステムの保守要求を示すアラートをトリガする。本明細書で説明しているように、絶対校正の例の1つでは、自己テストイネーブル回路が、各チャネルの入力を、参照信号と実際のセンサ出力信号との間で制御する。このアラートは、システムの動作状態を調べるメカニズムを提供し、アラートメカニズムとしては、音声方式、視覚方式、音声及び視覚方式、並びに、電子メール、テキストメッセージ、又はダイヤル式電話番号を送り出すことが可能な通知方式など、様々なものがある。
【0032】
当業者には明らかなように、先述の方法又は方法の一部、並びに処理手順は、プロセッサベースのシステム(汎用又は専用コンピュータなど)で実行される適宜のコンピュータプログラムコードによる実装が可能である。当業者には明らかなように、このコンピュータプログラムコードを、1つまたは複数の種類の有形の機械可読媒体に格納しても、有形の機械可読媒体への格納に適合させてもよく、そのような媒体として、メモリチップ、ローカル又はリモートのハードディスク、光ディスク(すなわち、CDやDVD)、又はその他、格納されたコードの実行のためにプロセッサベースのシステムによってアクセス可能な媒体が挙げられる。なお、有形媒体には、紙、又はその他、命令の印刷に好適な媒体も含まれている。例えば、紙又は他の媒体に対して光学式走査を行うことにより、命令を電子的に取り込み、コンパイルし、解釈するか、必要に応じてその他適宜の方法で処理して、コンピュータメモリに格納することができる。
【0033】
本明細書では、本発明の一部の特徴についてのみ図解してきたが、当業者には、これらの様々な修正及び改変形態が想起可能であろう。添付の特許請求は、これらの修正及び改変形態も本質的に、本発明の実施形態として包含するものとする。
【符号の説明】
【0034】
10 航空機用エンジンタービン
12 タービンロータ
14 ロータシャフト
16 ロータブレード
18 流体
20 ロータ軸
22 シュラウド
24 クリアランスセンサ
26 センサ信号明細書
28 クリアランス測定システム
30 クリアランス制御システム
32 クリアランス
40 第1のセンサ
42 第2のセンサ
44,48 双方向カプラ
46,50 位相検出器
52 信号発生器
54,56 増幅器
58,60 反射信号明細書
62,64 励起信号明細書
66,68 測定信号明細書
70 校正部
80 クリアランス測定システムの一例
82 センサ
84 クリアランスパラメータ信号明細書
86 レベルシフタ
88 信号レベル解析器
90 チャネル利得を一致させる参照スキーム
110 校正回路の一例
112,114 スイッチ
116,117 参照信号明細書
118,122 レベルシフタの第1の入力信号明細書
120,124 レベルシフタ
126 自己テストイネーブル回路
128 イネーブル信号明細書
130,132 シフトレベル入力信号明細書
134,136 レベルシフタの出力信号明細書
137 オフセット補正回路
138,140 利得段
139,141 自動利得制御器
142,144 増幅器の出力信号明細書
146,148 アナログデジタル変換器
150,152 デジタル校正済み信号明細書
154,156 信号レベル解析器
158,160 信号レベル解析器の出力
170 校正回路の一例
172,174 加算器
180 校正回路の一例
190 オフセット補正回路
192 レベルシフタ
194 レベルシフタの第1の入力信号明細書
196 レベルシフタの第2の入力信号明細書
198 利得段
200 レベルシフタの出力信号明細書
202 利得段の出力信号明細書
204 DCレベルファインダ
206 レベルシフタ補正
220 校正手順を示すフローチャート
221〜230 フローチャートの各ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定物体と回転物体との間の少なくとも1つのクリアランスパラメータ信号を測定する、少なくとも1つのセンサ(40)と、
前記クリアランスパラメータ信号のオフセット誤差を求めるように構成された、少なくとも1つのオフセット補正部(137)と、
前記オフセット誤差と結合され、前記クリアランスパラメータ信号と切替可能に結合された、少なくとも1つのレベルシフタ(120)と、
前記レベルシフタの出力を増幅させる、少なくとも1つの増幅器(138)と、
前記増幅器の出力と結合されて該出力をデジタル出力する、少なくとも1つのアナログデジタル変換器(ADC)(146)と、
前記デジタル出力と結合されて、不一致電圧に基づいて少なくとも1つのチャネル利得信号を求めるように構成された、少なくとも1つの信号レベル解析器(154)と、
前記レベルシフタと切替可能に結合されて、前記不一致電圧の処理に用いられる参照信号となる参照信号(116)とを備える、多チャネルクリアランスセンサシステムの自己校正システム(110)。
【請求項2】
前記センサは、キャパシタセンサ、マイクロ波センサ、光学式センサ、又は渦電流センサを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記クリアランスパラメータは、前記固定物体(22)と前記回転物体(16)との間の静電容量を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
固定物体と回転物体との間の少なくとも1つのクリアランスパラメータ信号を測定する、少なくとも1つのセンサ(42)と、
前記クリアランスパラメータ信号のオフセット誤差を求めるように構成された、少なくとも1つのオフセット補正部(143)と、
参照信号(117)、前記クリアランスパラメータ信号、及び前記オフセット誤差と結合され、不一致電圧の処理に使用される前記クリアランスパラメータ信号及び前記参照信号を結合するように構成された、少なくとも1つのレベルシフタ(124)と、
前記レベルシフタの出力を増幅させる、少なくとも1つの増幅器(140)と、
前記レベルシフタ出力と結合されて、前記不一致電圧に基づいて少なくとも1つのチャネル利得信号を求めるように構成された、少なくとも1つの信号レベル解析器(156)とを備える、クリアランスセンサシステムの自己校正システム(170)。
【請求項5】
固定物体と回転物体との間のクリアランスパラメータを、センサを用いて測定すること(221)と、
前記クリアランスパラメータのオフセット誤差を測定することと、
前記オフセット誤差を補償するために、前記クリアランスパラメータをシフトすること(222)と、
前記クリアランスパラメータの不一致を測定すること(224)と、
前記不一致に基づいて前記チャネルの利得値を制御すること(226)とを含む、多チャネルセンサシステムの校正方法(220)。
【請求項6】
前記固定物体と前記回転物体との間の前記クリアランスパラメータは、レシオメトリック手法により測定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記不一致を測定することは、前記チャネルにコモンモード参照信号を与えることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記不一致を測定することは、前記チャネルに共通の位相検出器出力信号を与えることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
不一致閾値又は不一致傾向に関して、保守要求アラートをトリガすることを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
センサ(40,42)と、
前記センサと結合された校正部(70)とを備え、
前記校正部は、校正曲線を処理する、レベルシフタ、利得段、及び信号レベル解析器を備え、前記校正部は更に、コモンモード参照を与える参照部を備える、センサシステムの自己校正システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−80954(P2011−80954A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−235260(P2009−235260)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】