説明

タイミング調整回路

【課題】本発明は、モジュール、パッケージ、回路の何れかの間で引き渡される複数の信号に、これらの信号の引き渡しに供される伝搬路の遅延時間の差やその遅延時間の偏差に適した形態でタイミングの調整を施すタイミング調整回路に関し、伝搬路の配置、経路および特性と、環境条件および経年とに対して柔軟に適応可能とすることを目的とする。
【解決手段】第一の伝搬路を介して与えられるパルス信号に順次遅延を与え、複数Nの遅延信号を生成する遅延手段と、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を識別する変化点識別手段と、前記複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点に前記時系列上で対応する遅延信号を選択する選択手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に配置されたモジュール、パッケージ、回路の何れかの間、あるいは半導体チップ上に配置された回路の間で引き渡される複数の信号に、これらの信号の引き渡しに供される伝搬路の遅延時間の差やその遅延時間の偏差に適した形態でタイミングの調整を施すタイミング調整回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に備えられたモジュール、パッケージ、回路の何れかの間と、半導体チップ上に配置された回路間とでは、以下に列記する何れかの技術が適用されることにより、引き渡されるべき信号のタイミングの適切な設定が図られる。
【0003】
(1) 引き渡されるべき信号がクロック信号と、そのクロック信号に同期したデータとである場合に、これらのクロック信号とデータとのそれぞれの引き渡しに供される線路(配線)の長さが予め同じ値に設定される技術
【0004】
(2) 信号を取り込む回路(以下、「受信回路」という。)において、PLL(Phase Locked Loop)等を介して上記データのクロック信号に対する再同期が図られる技術
【0005】
(3) データがFIFO(First-In First-Out)等のバッファメモリに一旦蓄積され、位相が異なる複数のクロック信号の内、上記バッファメモリから同期して読み出されたデータが最も確からしいクロック信号が特定される技術
【0006】
なお、本発明に関連性がある先行技術としては、以下に列記する特許文献1ないし特許文献6がある。
(1) 「論理的機能、物理的構成要素及び物理的配置が実質的に同一にされた2個のプロセッサモジュールと、上記2個のプロセッサモジュールにおける対応する信号の一致/不一致を検出して外部に出力させる比較回路とが同一の半導体チップ上に形成されてなり、上記2個のプロセッサモジュールのうち、比較回路に対して近接されて設けられた一方のプロセッサモジュール側の信号経路に、他方のプロセッサモジュールと比較回路との信号伝搬遅延時間差を補償する遅延手段が設けられる」ことにより、「マシンサイクルでの自己診断機能を備えた情報処理装置と簡単な構成により高信頼化を実現する」点に特徴がある情報処理装置…特許文献1
【0007】
(2) 「ゲートディレイDrを有する同一構成のn個のORゲートOR0ないしOR(n−1)を具備し、伝搬遅延時間Dnが互に同一のn個のANDゲートAND0ないしAND(n−1)を具備し、n個のORゲートは一方の入力に隣接するORゲートの出力が接続すると共に最終段のORゲートは一方の入力にL−レベルの電圧が供給されており、n個のORゲートそれぞれの他方の入力には対応するANDゲートの出力が接続しており、入力端子INに入力されるパルスをトリガとして歩進して遅延量を発生する経路を選択する経路選択信号SEL0ないしSEL(n−1)を出力する制御回路を具備し、n個のANDゲートそれぞれの一方の入力および制御回路のCLK端子は共通して入力端子INに接続しており、n個のANDゲートそれぞれの他方の入力には制御回路の対応する経路選択信号出力端に接続する」ことにより、「OFFSET TPDを発生する回路素子の段数を選択経路数に無関係に一定にする」点に特徴がある可変遅延回路…特許文献2
【0008】
(3) 「直列に接続されるとともに、入出力間に所定の伝搬遅延時間を有する複数の遅延素子と、入力信号に対する該遅延素子のうちの任意の遅延素子からの出力を選択する選択手段とを有する遅延回路において、前記入力信号と前記選択手段で選択された出力との関係に基づいて、前記遅延回路の遅延量を制御して温度補償を行う温度補償手段を備える」ことにより、「温度変動による遅延素子の信号通過時間の変化を観測することで、信号の伝搬遅延時間を正確に認識し、遅延回路における遅延量の温度補償を行う」点に特徴がある遅延回路の温度補償回路…特許文献3
【0009】
(4) 「クロック入力端子Aiに入力されたクロックを遅延させてクロック出力端子Ciに与える第1可変遅延回路と、前記クロック出力端子Ciのクロックが直接または外部配線を経由してクロック入力端子Diに入力され、そのクロック入力端子Diのクロックに前記第1可変遅延回路の遅延時間に等しい遅延を与える第2可変遅延回路と、前記クロック入力端子Aiに入力されたクロックより位相の遅れたクロックがクロック入力端子Biに入力され、そのクロック入力端子Biのクロックと、前記第2可変遅延回路出力のクロックの位相を比較し、両者が等しくなるように第1、第2可変遅延回路の遅延時間を制御する位相比較回路とより成る」ことにより、「各IC回路の内部または外部のクロックの位相のばらつきを低減する」点に特徴がある位相補償回路…特許文献4
【0010】
(5) 「基準クロック信号を受け、前記基準クロック信号に同期した内部クロック信号を生成するためのクロック発生回路、前記クロック発生回路に結合され、前記クロック発生回路へ動作電源電圧を供給するためのクロック電源回路、前記クロック電源回路と別に設けられ、電源電圧を生成する内部電源回路、および所定の機能を行なうための内部回路を備え、前記内部回路は、前記内部電源回路からの電源電圧を動作電源電圧として受けて、前記内部クロック信号に同期して動作する周辺回路を含む」ことにより、「動作環境変動時においても安定に外部クロック信号または参照クロック信号に位相同期した内部クロック信号を生成する」点に特徴がある同期型半導体集積回路装置…特許文献5
【0011】
(6) 「多数のテストチャンネルを有し、そのテストチャンネルを経由して被試験デバイス(DUT)のデバイスピンにテストパターンを印加して、そのDUTの応答出力を検証するための半導体テストシステムにおいて、それぞれが上記テストチャンネルの一部を形成する複数のピンユニットを有する複数のピンカードと、その各ピンカードに搭載され、そのピンカードに設けられた上記ピンユニットにおける誤差要因を補償するための校正データを格納するための不揮発性メモリと、その対応するピンカードの全てのピンユニットについて校正データの管理と校正プロセスを実行をするために各ピンカードに設けられたマイクロプロセッサとを有し、上記各ピンユニットはイベントテスタとして構成され、直前のイベントを基準とした時間差によりそのイベントの変化点を定義するイベントデータをイベントメモリに格納し、そのイベントデータによりテストパターンやストローブ信号を直接的に発生する」ことにより、「動作環境変動時においても安定に外部クロック信号または参照クロック信号に位相同期した内部クロック信号を生成する」点に特徴がある半導体テストシステム…特許文献6
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−161798号公報
【特許文献2】特開平10−19990号公報
【特許文献3】特開平10−145198号公報
【特許文献4】特開2000−56854号公報
【特許文献5】特開2000−163961号公報
【特許文献6】特開2001−311765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した従来の技術が適用された電子機器や半導体装置では、以下の条件(1)〜(3)が確度高く成立しなければ、性能や信頼性が損なわれる可能性が高かった。
(1) データとクロック信号との引き渡しに供される配線等の伝搬遅延時間の差や偏差が十分な精度で圧縮される。
【0014】
(2) これらのデータおよびクロックの生成や出力源の特性が高い精度で既定の値に設定される。
(3) 上記データおよびクロックの生成や出力源の特性が、経年と、温度等の環境条件の変動との双方に対して揃っている。
【0015】
また、これらの条件(1)〜(3)は、特に、高速に作動すべきD/Aコンバータの実現を阻む要因であるために、回路やパターンの伝搬所要時間に応じたクロック信号の位相のシフトと、半導体チップ上のレイアウトや配線の制約との何れをも併せて確度高く解消しあるいは大幅に緩和できる技術が強く要望されていた。
【0016】
しかし、上記条件(1)〜(3)は、実際には、コスト、実装性、消費電力、熱設計、小型化、軽量化等の制約に阻まれ、容易には実現され難かった。
【0017】
本発明は、伝搬路の配置、経路および特性と、環境条件および経年とに対して安価にかつ柔軟に適応可能なタイミング調整回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明では、遅延手段は、第一の伝搬路を介して与えられるパルス信号に順次遅延を与え、複数Nの遅延信号を生成する。変化点識別手段は、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を識別する。選択手段は、前記複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点に前記時系列上で対応する遅延信号を選択する。
【0019】
すなわち、第一の伝搬路と第二の伝搬路との伝搬遅延時間に差や偏差があり、かつ上記遅延手段、変化点識別手段および選択手段の特性が環境条件、電源電圧、経年等に応じて変化し得る場合であっても、これらの第一の伝搬路と第二の伝搬路とをそれぞれ介して引き渡されるパルス信号と信号との間における時間軸上のズレは、構成が大幅に複雑化することなく安定に低く維持される。
【0020】
請求項2に記載の発明では、遅延手段は、第一の伝搬路を介して与えられるパルス信号に順次遅延を与え、複数Nの遅延信号を生成する。変化点識別手段は、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における変化点を識別する。選択手段は、前記複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点と、前記パルス信号と前記信号との間に確保されるべき遅延量の差との和に、前記時系列上で対応する遅延信号を選択する。
【0021】
すなわち、第一の伝搬路と第二の伝搬路との伝搬遅延時間に差や偏差があり、かつ上記遅延手段、変化点識別手段および選択手段の特性が環境条件、電源電圧、経年等に応じて変化し得る場合であっても、これらの第一の伝搬路と第二の伝搬路とをそれぞれ介して引き渡されるパルス信号と信号との間における時間軸上のズレは、構成が大幅に複雑化することなく安定に低く維持される。
【0022】
請求項3に記載の発明では、遅延手段は、第一の伝搬路を介して並列に与えられる複数pのパルス信号に並行して順次遅延を与え、複数p組の複数Nの遅延信号を生成する。変化点識別手段は、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を並行して識別する。選択手段は、前記複数p組の複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点に前記時系列上で対応する1つの遅延信号を選択する。
【0023】
すなわち、第一の伝搬路を介して引き渡されるパルス信号が複数p本あり、しかも、その第一の伝搬路と第二の伝搬路との伝搬遅延時間に差や偏差があり、かつ上記遅延手段、変化点識別手段および選択手段の特性が環境条件、電源電圧、経年等に応じて変化し得る場合であっても、これらの第一の伝搬路と第二の伝搬路とをそれぞれ介して引き渡されるパルス信号と信号との間における時間軸上のズレは、構成が大幅に複雑化することなく安定に低く維持される。
【0024】
請求項4に記載の発明では、遅延手段は、第一の伝搬路を介して並列に与えられる複数pのパルス信号に並行して順次遅延を与え、複数p組の複数Nの遅延信号を生成する。変化点識別手段は、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における変化点を並行して識別する。選択手段は、前記複数p組の複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点と、前記パルス信号と前記信号との間に確保されるべき遅延量の差との和に、前記時系列上で対応する1つの遅延信号を選択する。
【0025】
すなわち、第一の伝搬路を介して引き渡されるパルス信号が複数p本あり、しかも、その第一の伝搬路と第二の伝搬路との伝搬遅延時間に差や偏差があり、かつ上記遅延手段、変化点識別手段および選択手段の特性が環境条件、電源電圧、経年等に応じて変化し得る場合であっても、これらの第一の伝搬路と第二の伝搬路とをそれぞれ介して引き渡されるパルス信号と信号との間における時間軸上のズレは、構成が大幅に複雑化することなく安定に低く維持される。
【0026】
請求項5に記載の発明では、請求項3または請求項4に記載のタイミング調整回路において、前記信号は、前記第二の伝搬路を介して並列に与えられる複数qの信号である。前記変化点識別手段は、前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数pq組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数pq組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を並行して識別する。前記選択手段は、前記複数pq組の複数Nの遅延信号から、前記1つの遅延信号を選択する。
【0027】
すなわち、第一の伝搬路と第二の伝搬路とを介してそれぞれ引き渡されるパルス信号と信号との何れもが複数本あり、しかも、その第一の伝搬路と第二の伝搬路との伝搬遅延時間に差や偏差があり、かつ上記遅延手段、変化点識別手段および選択手段の特性が環境条件、電源電圧、経年等に応じて変化し得る場合であっても、これらの第一の伝搬路と第二の伝搬路とをそれぞれ介して引き渡されるパルス信号と信号との間における時間軸上のズレは、構成が大幅に複雑化することなく安定に低く維持される。
【発明の効果】
【0028】
本発明が適用されたシステム、装置、回路および半導体装置では、所望の性能、特性および機能が安価にかつ好適に維持される。
したがって、本発明が適用されたシステム、装置、回路および半導体装置では、実装、レイアウトおよびコストにかかわる制約に阻まれることなく、高い性能および信頼性が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態の動作タイミングチャートである。
【図3】本実施形態の構成の他の態様を示すである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、第一のブロック10と第二のブロック20とは、共通の半導体チップ上に配置される。
【0031】
第一のブロック10には、第一の回路(以下、「送信側回路」という。)11が配置され、その送信側回路11のクロック端子には、クロック信号が入力される。また、送信側回路11の出力には、上記クロック信号に同期した直列のビット列を示すデータ信号が出力される。このようなデータ信号は、第一のブロック10および第二のブロック20と共に共通の半導体チップ上に形成された第一の伝搬路(以下、「データ伝搬路」という。)31を介して第二のブロック20に引き渡される。
【0032】
さらに、上記クロック信号は、第一の伝搬路31と同様に、第一のブロック10および第二のブロック20と共に共通の半導体チップ上に形成された第二の伝搬路32(以下、「クロック伝搬路」という。)32を介して、その第二のブロック20に引き渡される。
【0033】
一方、第二のブロック20には、以下の要素が配置される。
(1) データ伝搬路31を介して引き渡されたデータ信号に所定の処理を施す第二の回路(以下、「受信側回路」という。)21
(2) 所定の段数N(≧2)に亘って縦続接続され、かつクロック伝搬路32を介して引き渡されたクロック信号が初段に入力された非反転ゲート22-1〜22-N
【0034】
(3) 非反転ゲート22-1〜22-Nの格段の出力にそれぞれD端子が接続され、かつデータ伝搬路31を介して引き渡されたデータ信号がクロック端子に共通に接続されたD形フリップフロップ23-1〜23-N
(4) これらのD型フリップフロップ23-1〜23-Nの非反転出力Qにそれぞれ接続された個別の入力端子を有するデコーダ24
【0035】
(5) デコーダ24の出力に接続された制御端子と、非反転ゲート22-1〜22-Nの出力に個別に接続された第1ないし第Nの端子と、これらの第1ないし第Nの端子の何れにも接続可能であって受信側回路21のクロック端子に接続された共通接点とを有するセレクタ25
【0036】
図2は、本実施形態の動作タイミングチャートである。
以下、図1および図2を参照して本実施形態の動作を説明する。
送信側回路11は、クロック信号に同期したデータ信号を生成し、データ伝搬路31を介して第二のブロック20にそのデータ信号を引き渡す。なお、データ信号については、以下では、RZ信号として生成されると仮定する。
【0037】
また、クロック信号は、送信側回路11に入力されつつ、クロック伝搬路32を介して第二のブロック20にも引き渡される。
【0038】
第二のブロック20では、非反転ゲート22-1〜22-Nは、上記クロック信号にN段に亘って順次遅延を与えることにより、時間軸上における立ち上がり(または立ち下がり)の時点が異なるN個のクロック信号(以下、「第1ないし第Nのクロック信号」という。)を生成する。
【0039】
D型フリップフロップ23-1〜23-Nは、受信回路21に入力されるデータ信号の立ち上がりの時点における上記第1ないし第Nのクロック信号の論理値V〜Vをラッチする。
【0040】
デコーダ24は、これらの論理値V〜Vの組み合わせをデコードする(クロック信号のデューティー比および周期との相関判定を行う)ことにより、以下の要件の全てを満たす時点で立ち上がる(立ち下がる)特定のクロック信号(非反転ゲート22-1〜22-Nの何れかによって出力される)を識別する。
【0041】
(1) 時系列(クロック信号の立ち上がりの時点の列)上で、上記データ信号の論理値dが「0」から「1」に変化した時点(図2(1))に後続して立ち上がる(図2(2))。
(2) 受信側回路21がデータ信号を確度高く取り込むために確保されるべきセットアップタイムtsupが確保される(図2(3))。
【0042】
セレクタ25は、非反転ゲート22-1〜22-Nの内、このようにして識別された時点に対応する何れか1つの非反転ゲート(以下、「特定の非反転ゲート」という。)によって出力されるクロック信号(以下、「特定のクロック信号」という。)を選択して受信側回路21に与える。
【0043】
すなわち、受信側回路21は、データ伝搬路31とクロック伝搬路32との伝搬遅延時間に相違や偏差があり、あるいはこれらの伝搬遅延時間に温度、電源電圧、経年等とに応じた変動が生じた場合であっても、データ信号に精度よく同期したクロック信号が第一のブロック10から安定に供給される。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、以下の項目の如何にかかわらず、受信側回路21は、データ信号に所望の処理を確度高く安定に施すことができる。
(1) 半導体チップ上における第一のブロック10(送信側回路11)と第二のブロック20(受信側回路21)との配置
(2) データ伝搬路31とクロック伝搬路31との配置、特性の相違および偏差
(3) 第一のブロック10と第二のブロック20とにそれぞれ配置された回路および素子の特性とこれらの特性の偏差
【0045】
また、本実施形態によれば、従来例に比べて上記(1)〜(3)にかかわる制約が大幅に緩和され、しかも、回路規模が比較的大きいPLL回路やFIFOが備えられることなく構成されるため、従来例に比べて、コスト、実装性、消費電力、熱設計、小型化、軽量化等の制約に阻まれることなく、多様な装置やシステムに柔軟に適用可能となる。
【0046】
なお、本発明では、既述のデータ信号が複数p本のデータ伝搬路を介して引き渡される場合であっても、同様に適用可能である。
【0047】
また、このような場合には、本実施形態は、図1に示す構成に限定されず、例えば、図3に示すように、以下の通りに構成されてもよい。
(1) 図1に二点鎖線枠で示すタイミングデコーダに代えて、上記複数pのデータ伝搬路に個別に対応した複数のタイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pが備えられる。
【0048】
(2) これらのタイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pによってそれぞれ出力される「第1ないし第Nのクロック信号」に個別に対応したNp個の接点を有するセレクタ25Aが、図1に示すセレクタ25に代えて備えられる。
【0049】
(3) 上記タイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pによって個別に識別されたクロック信号を総合的に勘案することにより、上記Np個のクロック信号(タイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pによってそれぞれ出力される「第1ないし第Nのクロック信号」)の内、第二の回路21に引き渡されるべき特定のクロック信号を特定すると共に、セレクタ25Aに指示する総合判定部20TJが備えられる。
【0050】
さらに、本実施形態は、既述のクロック信号は、複数p本のデータ伝搬路を介して引き渡されるべきワード、バイト、キャラクタ等の単位に同期したp本の同期信号であってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、データ信号に同期し、かつ立ち上がりが適切なクロック信号が受信側回路21に与えられている。
【0052】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、クロック信号に同期し、かつ前縁(後縁)の時点が適切であるデータ信号を受信側回路21に与えるためにも、同様に適用可能である。
【0053】
さらに、本発明は、半導体チップ上に配置された異なる回路(ブロック)の間におけるディジタル信号の引き渡しに限定されず、例えば、以下の何れの間における多様なディジタル信号の引き渡しにも同様に適用可能である。
【0054】
(1) モジュールやパッケージの構成要素として共通のプリント基板上に配置された異なる回路の間
(2) シェルフ(棚)やラック(架)の構成要素として共通のシェルフや装置に配置された異なるモジュールやパッケージの間
【0055】
また、本実施形態では、データ信号は、クロック信号に同期したRZ信号として送信側回路11から受信側回路21に引き渡されている。
【0056】
しかし、本発明は、このようなデータ信号が既述のRZ信号に代わるNRZ信号やスプリットフェーズ信号(マンチェスターコード)である場合であっても、同様に適用可能である。
【0057】
さらに、本実施形態は、図1または図3に示す構成に限定されず、例えば、以下に列記する事項の全てまたは任意の一部が当てはまるように構成されてもよい。
(1) セレクタ25(25A)の接点に与えられる1(p)組の「第1ないし第Nのクロック信号」が、図1または図3に示すタイミングデコーダに個別に備えられ、かつ縦続接続されたN段の非反転ゲートとは別に備えられたN段の非反転ゲートによって与えられる。
【0058】
(2) 「図3に示すタイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pに個別に備えられ、かつ縦続接続されたN段の非反転ゲート」の各段の遅延量が共通に設定され、さらに、セレクタ25Aが図1に示すセレクタ25で代替されると共に、そのセレクタ25に与えられる第1ないし第Nのクロック信号は、タイミングデコーダ20TD-1〜20TD-pの何れか1つに備えられたN段の非反転ゲートによって与えられる。
【0059】
(3) 上記(1)、(2)に記載のN段の非反転ゲートの何れも、縦続接続された順序に共通の遅延量(必ずしも一定でなくてもよい。)を有する。
【0060】
また、本実施形態では、第1のブロック10から第2のブロック20に対する引き渡しの対象は、既述のデータ信号と、そのデータ信号とのビット同期の基準となるクロック信号となっている。
【0061】
しかし、本発明は、このようなデータ信号とクロック信号との対に限定されず、互いの同期関係が所望の精度で担保され、かつ引き渡されるべき多様な複数の信号(一部がアナログ信号であったり、アナログ信号がディジタル信号に重畳された信号を含む。)の引き渡しにも、同様に適用可能である。
【0062】
さらに、本実施形態では、クロック信号のデューティ比は、図2に示すように50パーセントでなくてもよく、各タイミングデコーダに備えられたデコーダによって行われるデコード処理と、そのデコード処理に基づくクロック信号の識別とが可能であるならば、如何なるものであってもよい。
【0063】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 第一のブロック
11 第一の回路(送信側回路)
20 第二のブロック
20TD タイミングデコーダ
20TJ 総合判定部
21 第二の回路(受信側回路)
22 非反転ゲート
23 D型フリップフロップ
24 デコーダ
25,25A セレクタ
31 データ伝搬路
32 クロック伝搬路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の伝搬路を介して与えられるパルス信号に順次遅延を与え、複数Nの遅延信号を生成する遅延手段と、
前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を識別する変化点識別手段と、
前記複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点に前記時系列上で対応する遅延信号を選択する選択手段と
を備えたことを特徴とするタイミング調整回路。
【請求項2】
第一の伝搬路を介して与えられるパルス信号に順次遅延を与え、複数Nの遅延信号を生成する遅延手段と、
前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における変化点を識別する変化点識別手段と、
前記複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点と、前記パルス信号と前記信号との間に確保されるべき遅延量の差との和に、前記時系列上で対応する遅延信号を選択する選択手段と
を備えたことを特徴とするタイミング調整回路。
【請求項3】
第一の伝搬路を介して並列に与えられる複数pのパルス信号に並行して順次遅延を与え、複数p組の複数Nの遅延信号を生成する遅延手段と、
前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を並行して識別する変化点識別手段と、
前記複数p組の複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点に前記時系列上で対応する1つの遅延信号を選択する選択手段と
を備えたことを特徴とするタイミング調整回路。
【請求項4】
第一の伝搬路を介して並列に与えられる複数pのパルス信号に並行して順次遅延を与え、複数p組の複数Nの遅延信号を生成する遅延手段と、
前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数p組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における変化点を並行して識別する変化点識別手段と、
前記複数p組の複数Nの遅延信号の内、前記前縁もしくは後縁または前記前縁もしくは後縁に最も近い時点と、前記パルス信号と前記信号との間に確保されるべき遅延量の差との和に、前記時系列上で対応する1つの遅延信号を選択する選択手段と
を備えたことを特徴とするタイミング調整回路。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のタイミング調整回路において、
前記信号は、
前記第二の伝搬路を介して並列に与えられる複数qの信号であり、
前記変化点識別手段は、
前記第一の伝搬路と異なる第二の伝搬路を介して与えられる信号に同期して前記複数pq組の複数Nの遅延信号の瞬時値をラッチングし、前記複数pq組の複数Nの遅延信号の瞬時値の時系列上における前縁または後縁を並行して識別し、
前記選択手段は、
前記複数pq組の複数Nの遅延信号から、前記1つの遅延信号を選択する
ことを特徴とするタイミング調整回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90313(P2013−90313A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232489(P2011−232489)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】